ドイツの首都ベルリンに韓国人団体「韓国協会」が旧日本軍の慰安婦を象徴する「少女像」を設置したことを受けて、日韓両国間で激しいつばぜり合いが展開されてきた。ところが6月下旬、韓国の別の市民団体が、少女像の撤去を求める集会を実施。韓国でも大きく報道され、波紋を呼んだ。今後の両国間の外交戦にも大きな影響を及ぼしそうだ。(ウィーン・小川敏)
少女像は2020年9月28日、ベルリンの公道に設置された。韓国側は旧日本軍の「蛮行」を批判、戦時の女性の権利擁護の一環でもあると主張した。それに対し日本側は、②韓国側の主張するような強制的な慰安婦はいなかった①日韓両外相(岸田文雄外相と尹炳世韓国外相=いずれも当時)が15年12月28日、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したことを受けて、この問題は外交上解決済み―と説明してきた。
像があるベルリンのミッテ区当局は20年10月7日、在独日本大使館から要請を受け、韓国側に同年10月14日までの撤去を指示する公文書を送った。
これに対し韓国側は、行政裁判所に少女像撤去差し止めを申請。ミッテ区側は同年10月13日、同裁判所の決定まで撤去を延長すると伝達したものの、同年12月1日、1年間設置し、その間に恒常的な解決策を模索するとする決議を可決した。その後、少女像は撤去されることなく、韓国側の願い通り、永続設置の方向に向かっている。
ところが、今年に入り、韓国の市民団体関係者から少女像に新たに異議を唱える動きが出てきた。「慰安婦詐欺清算連帯」(今年1月結成)のメンバー4人が6月26日、少女像の前で、「慰安婦詐欺はもうやめろ」と書かれたプラカードを掲げて少女像の撤去を求める集会を行ったのだ。彼らは、「歴史的事実に基づかない少女像の設置は韓国の恥を世界に広げることになる」と主張した。
韓国中央日報(日本語版、6月28日)によると、撤去を要求したのは、「大韓民国お母さん部隊」の朱玉順(チュ・オクスン)代表、「反日種族主義」の共同著者で落星台(ナクソンデ)経済研究所研究委員の李宇衍(イ・ウヨン)氏、国史教科書研究所の金柄憲(キム・ビョンホン)所長らだ。
韓国人による少女像設置反対運動がベルリンで表面化するのは初めて。李氏らは、「日本軍が韓国の若い女性を強制的に拉致し、日本軍兵士の慰安婦としたり、慰安婦は日本軍の性奴隷だったといった報道は本来あり得ない」と主張、「興味深い点は、韓国軍慰安婦や米軍慰安婦問題は韓国民の関心を呼び起こさないが、1936年から45年までの日本軍慰安婦には大きな関心と国民の怒りが湧き起こってくる。ぎこちない不均衡は『反日種族主義』という集団情緒が働くからだ」と喝破している。
ドイツには東西分断の歴史を体験してきたこともあって、分断国家の一つ、韓国へのシンパシーが強い。韓国でも「戦争後の処理問題でドイツは模範的な国だ」とたたえ、日本側に対して常に「ドイツに見習え」と主張してきた。また、韓国の軍事政権下で反体制派活動家がドイツに亡命したケースが多く、ドイツには親北派の韓国反体制派の拠点が構築されている。
ベルリンの少女像設置でもドイツ内の親韓派の政治家、知識人が動員された。ドイツでは韓国女性と結婚したシュレーダー元首相はその筆頭だろう。韓国側のロビー活動に日本側はこれまで苦戦を余儀なくされてきた。
ただ、ここにきて日本側に力強い支援者が出てきた。ショルツ連立政権のベーアボック外相(41、緑の党)だ。ベーアボック外相は台湾海峡の危機を明確に認識し、日韓両国の関係改善の必要性を理解している。
ロシアのプーチン大統領との癒着問題が暴露され、批判にさらされているシュレーダー元首相に頼る韓国側のロビー活動に対し、日本が国内で支持が急上昇中のベーアボック外相を後ろ盾にすればロビー戦で有利となる。日本側はこの好機を逃さず若いベーアボック外相の支持を獲得し、日独両国の外交力を結集して「ベルリンの少女像」の撤去を実現すべきだ。
韓国の聯合ニュースによると、ドイツ中部ヘッセン州のカッセル大学構内に7月8日、韓国協会が同大学の学生会と連携して新たな少女像を設置した。少女像をあっさりとは撤去しないという意思表示だ。