2022.7.26
感染症対策を行い、十分な距離を保ってインタビューをしています。
本記事では、レーティングがCERO C(15歳以上推奨)のタイトルを紹介しています。
任天堂のモノづくりに対する考えやこだわりを、開発者みずからの言葉でお伝えする
「開発者に訊きました」の第6回として、7月29日(金)に発売となる『ゼノブレイド3』の開発者の皆さんに話を訊いてみました。
まず、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
モノリスソフト※1 取締役、高橋哲哉です。
「ゼノブレイド」シリーズの「総監督」ということで、今作も最初の企画立案、脚本、その他もろもろの監修、監督、
すべてに関わらせていただいております。
※1株式会社モノリスソフト。「ゼノブレイド」シリーズを手がける任天堂グループのゲーム開発会社。2002~2006年に株式会社ナムコ(現 株式会社バンダイナムコエンターテインメント)より発売された「ゼノサーガ」シリーズも開発。
モノリスソフトの小島と申します。
今作ではプロデューサーとディレクターを担当しました。
肩書でいうとそうなるのですが・・・主な仕事は、任天堂とモノリスソフトの間のすり合わせ、高橋さんとモノリスソフト開発現場のすり合わせです。
任天堂の横田です。
同じくプロデューサーとディレクターという肩書で企画立案から完成まで、任天堂の担当者として関わりました。
簡単に言うと、モノリスソフトさんとゲームの内容について相談する任天堂側の窓口です。
よろしくお願いします。
ありがとうございます。今回は「ゼノブレイド」シリーズの開発をされているモノリスソフトさんにもリモートで参加いただき、任天堂とモノリスソフトの今作への想い、開発エピソード、試行錯誤を伺っていければと思います。
それでは、横田さんから、「ゼノブレイド」シリーズの簡単なご紹介をお願いできますか。
はい。モノリスソフトさんの開発される「ゼノブレイド」は、高橋さんの生み出すキャラクターやストーリーを果てしなく続く広大なフィールド上で楽しめるロールプレイングゲーム(RPG)です。
バトルがターン制ではなく、フィールドからシームレスにつながってリアルタイムで動かせるようになっていて、タイミングやキャラクターの位置取りを駆使しながら気持ちよくあそんでいただけるゲームになっています。
ありがとうございます。今作はシリーズ三作目、ということですが、シリーズ内での位置づけはどんなところなのでしょうか。
※22010年6月にWii用ソフトとして発売。2020年5月にNintendo Switch用ソフトとしてリマスター版の『ディフィニティブ・エディション』が発売された。「ゼノブレイド」シリーズの1作目に当たる。
今作の舞台が1作目や2作目とつながっているということは、3作通してストーリーが続いているということでしょうか。
いえ、1も2も3も、すべてストーリーは独立しています。
1と2で登場した要素やデザインが3作目の今作にも随所に見られたりはしますが、1作目と2作目をあそばれていなくても、ストーリーやあそび方が理解できなくて困るということはありません。
ただ、シリーズ作ですので、根底に流れるテーマは共通していて、いずれも「異質なもの同士の関わり合い」をベースに物語が展開していきます。
それと、先ほど「集大成」という言葉を使ったのですが「ゼノブレイド」シリーズの1作目の開発が始まった2007年から15年かけてつくり上げてきたテーマ、それからシリーズを通して開発してきたあそびのシステムを今作ではすべて集結させました。
「集大成」というのはシリーズの完結ではなく、
三部作としての「一区切り」ですね。
そうですね。
今後さらに次のステップに進むための総括、といったところでしょうか。
なるほど。では、その「集大成」となる今作のストーリーをもう少しくわしく伺っていきたいと思います。『ゼノブレイド3』のお話はどのような場面からスタートするのでしょうか。
今回のストーリーの起点は「理不尽な力」です。
お話自体は戦場からスタートします。
敵対する2つの国家があり、そこに住む若者たちにとっては、「戦うことが日常」という世界。
そこで日常的に戦いを強いる「理不尽な力」に対して、2つの国家の若者たちが、共闘していく。
本来は異なる考え、文化、歴史を持つ彼らが、この大きな力にどのように抗っていくのか、という物語です。
相反する2つの勢力が、「理不尽な力」に対抗するために一つになって戦うということですね。
そうですね。
力を持つ敵であっても理念や正義、大義があり、そこに一部共感できるように描くことを、私は自分の物語づくりのなかでいつも大切にしています。
だから、これまでは敵を良いか悪いかというようなハッキリした形でなく、あえて曖昧に表現するようにしてきました。
そうすることで、敵への理解や没入感が生まれますし、そこが物語の面白さだったりするとも思っています。
でも今回は違った切り口で描いてみたかった。
というのも、実は「力」にもいろいろな形があって、理念や正義や大義ではなく、面子(メンツ)とか欲とか、実はシンプルなもののほうが多いんじゃないか、と思ったんです。
なるほど。理屈や道理ではどうにもならないような理不尽さとの戦い、なんですね。このストーリー設定を最初に聞いて、横田さんはいかがでしたか。
これは物語の続きを早く知りたい、ぜひ開発に進めたい、と思いました。
企画書の段階で、すでに?
ええ。
1と2を背景にしつつ、企画書には、敵対する2つの国家に主人公たちがそれぞれ分かれていて、最初はお互いに争いつつも、融合していく・・・ということが書かれていて「もう、テーマの軸は決まったな」という感じでした。
もちろん、課題も同時にあったんですけど(笑)。
そうですね。
最初は全然ゼノブレイドらしさが感じられないように思ったもので・・・高橋さんはわざと、「らしさ」を外そうとしていたように思います。
1作目も2作目も話の中身は全然違うんですけど、両方に共通する「ゼノブレイドらしさ」があったんです。
それが最初の企画書の段階では全然感じられなくて。
・・・というのも、とてもシリアスな世界なんです、今回は。
それが今作で高橋さんの描きたかった世界なんですけど、これまでの作品をあそんでくださったお客さまにそのまま渡して大丈夫なのかな、という不安がありました。
今回はデザイン面でも過去シリーズとは変わりましたし・・・。
でも、いろんな試行錯誤の末に良い落としどころを見つけて最終的に「ゼノブレイドらしさ」が出せたと思います。
確かに、ストーリーの紹介では、人々は戦うために生まれてきて、しかも寿命がたった10年で・・・というシビアなテーマであることが感じられました。この「10年の寿命」という設定にされたのは、どのような理由からなんですか。
僕ら人間は70~80年、人によっては90年以上も時間がある。
でも、もし一生がもっと短かったら、人生に対する認識はどう変わるのかな、と考えたことがありまして。
それで、分かりやすく寿命を10年にした場合、人生のどの10年を切り取ればいいのかを考えたんです。
自分自身の経験を振り返ると、人格形成に最も影響があるのは0歳から10歳くらいだと思うのですが、人生観みたいなものに最も影響があるのが10歳から20歳という、一番多感な時期だったのでは、と。
同じ10年でも、いろんなことに触れて、挑戦して、創造して、価値観や考え方が大きく変わる、センシティブな時期だったように思います。
だから、そこに主人公たちを設定しました。
なるほど。それで2つの国の兵士たちはみんな若いんですね。
それから、「いくらでも自分で道筋を作れるんだ」、「夢や目標を諦めないで」ということを今の若い人たちへ物語を通して伝えられればなあ、という思いもありました。
「なぜ10年の寿命なのか」というのは当初、大分話し合いましたよね。
最初からシリアスさ全開ではあるのですが、今、おっしゃったような想いを聞いて、僕も納得した覚えがあります。
それならば、きっとゼノブレイドらしさも出るし、このストーリーで走り切ってみたい、と思いました。
1作目って、僕にとっては優等生のような作品なんですよね。
2作目は優等生とまでは言わないけど、かなり明るい、ライトな始まり方ですし・・・
3作目では優等生な自分から外れたかったんです。
1、2作目をあそんでくれた方からどんな反応がくるかな、というのはチャレンジングだったのですが、「未来に向けて新しい自分、新しい道を見つけていく」というのが今作のテーマでもあったので、自分としても過去に戻ってはいけない、同じことをしてはいけない、というのがありました。
具体的にこういうことを伝えたいんだ、というのを聞いてじゃあそれを頑張って表現していこうと決めました。
戦いのシーンから始まる今作ですが、主人公のノアが「おくりびと」という設定になっていますよね。これもバトル系のゲームでは珍しい設定のように感じました。この「おくりびと」というのは、具体的にどのような役割なのでしょうか。
プレイヤーが最初に操作する主人公のノアは、動画戦場で亡くなった兵士たちを弔う「おくりびと」という役割を担っています。
ノアは弔いを通じてさまざまなことを考えていく・・・キャラクターとしては、「哲学者」のような位置づけにしています。
哲学者、ですか。
世の中とか、いのちとか、そういうものにある程度達観した、自分の考えをもっている人間が、物語の中で、いろんな変化や事柄に出合い、頭の中の理屈だけではどうしても解決できない問題に直面した時にどういった「答え」をみつけていくのか・・・キャラクターをそんな哲学者とか詩人のような人物として描いてみたいと思ったんです。
さきほど「プレイヤーが最初に操作する主人公」とおっしゃっていましたが、それ以外の主人公もいるのでしょうか。
今作は、最初に操作するノアを含むケヴェスという国の3人、それからヒロインのミオを含むアグヌスという国の3人、計6人全員を主人公として物語が進んでいきます。
ノアはケヴェス軍の「おくりびと」、ミオはアグヌス軍の「おくりびと」。
この2人が6人の中でも中心にはなりますが、あくまで主人公は6人全員です。
10年という短い寿命に対して、六者六様の想いを抱えていて、それがひとつの大きな目的のために、合わさって冒険していく、という設定です。
確かに、プレイしてみると、6人全員で話が展開していくような印象をいだきました。
今回は主人公である6人の想いを均等に描きたかったので、セリフのワード数をできるだけ均等になるようにしています。
もちろん中心となるノアやミオのセリフが少し多めではあるんですけど、主人公とヒロインを中心とした1作目や2作目と比べると、ほかのキャラクターたちもしっかりと物語に関与することに気づいてもらえると思います。
極端な話ですが、ゲームの終盤で相づちしかうたないキャラクターとかにしたくなかったので・・・。
確かに一緒に進んできたキャラクターたちが、途中から素っ気なくなるのも気になりますよね。
主人公が複数いる、というのは以前からやりたかったことなんです。
大元は映画やドラマのつくり方の一種である視点主人公という群像劇に似た考え方になりますが、それを何とかしてゲームに落とし込んでみたいなと思っていました。
異なる人生、立ち位置、視点の持ち主が入れ替わりながらひとつの物語を紡いでいく・・・。
実はこれ、RPGとの相性が非常に悪いんです(笑)。
プレイヤーが主人公となるキャラクターに自分を投影して進めていくのがRPGですが、ゲームを進めていく中で視点をポンポン切り替えてしまうとお話についていくのが難しくなってしまいます。
それから、ゲームの場合は6人のキャラクターが同じ場所にいる必要があるので、そことも相性が悪い。
どういう筋立てや段取りで組み立てていけば異なる視点を入れ替えながら、ストーリーをスムーズに流し、かつゲームとして成り立たせられるか、という点を考えながら従来のゲームづくりの中に、それとなく入れ込んであります。
プレイされるお客さまには気づかれにくい点かもしれませんが、僕の中では、このつくり方にある程度自信はもてたと感じています。
それから、過去シリーズですと、ストーリーは6人のメインキャラクターで進めるけどバトルはそのうち4人が参加、というように表示人数を絞ったりするんですけど、バトルも6人全員で参加、というのが今回のこだわりです。
今回は6人全員が主役というストーリーなので、6人が全員表示されての総力戦、ということに決まりました。
6人という人数には、何かこだわりがあるんですか。
絶対に6人というこだわりはありません。
それこそ4人でも、8人でもいいんですけど・・・ですが、4人だと寂しい、8人では多すぎるといった感覚や、表示の限界や、つくれる物量の限界、プレイした時のわかりやすさなどを総合的に検討して、メインは6人に落ち着かせたという感じです。
実は2作目も2人ペア×3組で、6人表示ではあるんですけど今回は6人が独立して戦うようになっていて、さらに「ヒーロー」と呼ばれる7人目のキャラクターもいます。
そこへ、敵も複数で襲ってきます。
何人まで同時に表示できて、ちゃんとプレイが成り立つかという検証も、今回挑戦したかったことのひとつです。
2人ペアと言えば、動画今回のバトルシステムの特長のひとつに、2人のキャラクターが融合するというシステムがありますよね。
「異なるものがひとつになる」という形の表現の象徴として、「ウロボロス」というシステムがあります。
ふたりがペアでロボットや乗り物を操縦するといったものではなく、ひとつの体になってしまうんですね。
これ、企画の最初にはロボットのような見た目のウロボロスはいましたが、それに一緒に乗り込むという形ではありませんでしたよね。
一方の意識がもう一方の意識に入り込む、というのは最初から決まっていたと思います。
本来は言葉とか、何かを通してじゃないと理解できない者同士が、完全にひとつになった時に、やっと理解し合えるとか、逆に完全にひとつになった時に見えてくる共通の悩みとか、そういうものを高橋さんは描きたかったのだと理解しています。
この「異質なもの同士が一緒になる」というのは、さかのぼれば『ゼノギアス※3』の頃からずっと表現しようとしてきていることなんです。
人生って基本的には他人との関わり合いですよね。
異質なものとの関わり合い。
ものづくりをする時はいつもそこを意識しています。
※31998年に株式会社スクウェア(現 株式会社スクウェア・エニックス)より発売された、PlayStation用ソフト。高橋哲哉が監督および脚本を務めた。
タイトルにもある「ゼノ(Xeno)」って「異質な」的な意味がある英語の接頭語ですよね。
そうですね。
「ゼノ(異質)なもの」同士の関わり合い、というのが、この名前を冠するシリーズの根底に流れるものです。