幽香9
風見鶏が見ている先(Megalith 2011/06/22)
「ふぅ……」
煙管を吹かしながら縁側から青空を見る。
世は全て事も無し、幻想郷においてそれは異変が起こらなければよくある日常。
尤も、俺が、巫女のお嬢ちゃんが、大勢の人妖が気付いてないだけで、小さな、それこそ小さな何かは起きているのかもしれないが。
ひょっとすればこの場で妖怪に襲われればその何かに俺がなってしまうかもしれない。
人里から離れ、妖怪の山の近くの草原の傍に家を建てて住んでいる物好きなんぞの所で起こりうる惨劇に他の人間が気付くはずがない。
気付くとすればたまーにやってくる霧雨のお嬢ちゃんか心配症な人里の守護者がその結末を見つけた場合くらいだろう。
まぁそれはそれで、と室内に置いてある風見鶏を見る。
本来の用途をまるで満たしていない配置に置いてあるが実際には意味がある。
と、いうのもこの風見鶏、風で回るのではない。妖怪の妖気が近づくとその強さ、質によって回る代物だからだ。まぁ妖見鶏(あやかしみどり)とでも名づけるべきか。
尤も、俺がこれを持っている理由は我が家に近づく妖怪から逃げるとかいう理由ではない。
刹那、風見鶏がまるで至近距離で風を受けているかのようにぐるぐると凄い勢いで回り始めた。
あぁ、来るのか、と俺は煙管の灰を落とし、支度を整えておく。
この家に近づく妖怪なんぞほとんどいない。
というのもこのどんどんぐるぐると回り始める風見鶏が示す妖怪のせいである。
それに動じない妖怪は精々知り合いとなった八雲家の連中か烏天狗くらいだろうか。
鬼とか死神とか魔法使いとかもまぁ入るか。
バンッ!と勢いよく俺の家の玄関のドアが開けられた、もっと静かに開けろといつも言っている。
ずんずん、と大きな足音でこっちに近づいてくる、もっとお淑やかに歩けといつも言っている。
気配で俺の後ろに立ったのがわかった瞬間に俺を掴んで背負う様にして拉致しようとする、もっと女としての落ち着きを持てといつも言っている。
「やめんか幽香、首が締まるだろうが」
「私が来たのに全く何も言わないし振り向かない人間なんてこんな扱いで十分よ」
そう、大妖怪と名高い風見幽香こそ今まで回っていた風見鶏が示す妖怪。
幻想郷に迷い込んだ際、俺は重傷を負っており、妖怪に襲われたわけでもなく息絶える寸前だった。
しかしたまたま花畑なんていう男が死ぬにはちと恰好がつかない場所だったおかげで風見幽香のきまぐれで助かり、
こうして風見幽香の女王様の如き振る舞いになんとか耐えている現状である。
まぁ命の恩人だから強く言えないのはしょうがない事だ。
「今日は何の用だ」
とにかく服が伸びるし首が痛くなるので何とか床に俺を下ろさせて用件を聞く。
結構な頻度で来るこの困った命の恩人に振りまわされるのは毎度の事。
たぶん今日もそうなんだろうな、とか思うのは仕方の無い事。
「買い物に付き合いなさい、それと霊夢をからかいにでも行くわ」
「俺に拒否権は?」
「あら、私の所有物にあるとでも?」
「何時から所有物になったんだ」
「私があんたを助けた時から」
仁王立ちで意地の悪い笑みを浮かべながら俺を見つめる幽香。
まったく、本当に困った大妖怪様だ。
「だまってりゃ綺麗なままだってのにねぇ……」
「あら意外、見た目は綺麗だって思ってくれてるのね」
なんでそこで嬉しそうに言うんだ。
「幻想郷の大体の人妖にそう思ってる」
「……」
何故か無言で右ストレートをされた。
顔が少し赤くなっていたような気がしたが気のせいだろう、つかだから黙ったままって言ったんだろうが。
ふんっ!と機嫌を損ねた幽香は表に出て「早く行くわよ、この鈍感!」とプリプリと怒りながら俺を急かすのであった。
うーむ……他の奴と一緒にしたのがまずかったのか。
でも男としてはこの地の連中は美人揃いだと思うんだがなぁ……喋んなきゃ、が大半な気がするけど。
綺麗なバラには棘がある、目の前のどでかい綺麗なバラは棘もどでかいって事か。
「……」
「……」
人里で物を物色する幽香の後ろで俺はその光景を眺める。
店主は冷や汗を掻き、道行く人は幽香と俺を一瞥して早足でどこかへ行く。
まぁそれが普通だろう、と俺は心の中で苦笑する。
片や友好度最低ラインと言われる大妖怪、片やそんな大妖怪に助けられ、妖怪が跳梁跋扈するこの幻想郷で人里から離れて暮らす外来人。
普通の人間なら必要以上に関わり合いたくは無いだろう。
「さ、次に行くわよ」
「はいはい、と」
傘を広げ、悠々と歩いて行く幽香の横に並び俺も歩みを進める。
そうじゃないと何故かあいつは機嫌が悪くなる、何故かは知らん。
買い物って言ってたけど今の所何も買ってないな……冷やかしの為だけに来たのか?
いや、幽香がそんな事をしにわざわざ人里へ来るとは思えないが……
そんな時肩を並べて歩くカップルと擦れ違った。
向こうは俺達を見てギョッとした顔で離れていく。
「まるでこうして歩いていると俺達はデートしてるカップルみたいだな」
と不図思った事を冗談のように口にした。
「っ!?そ、そうね……傍から見るとそう、見えなくも、ない、かもね」
いきなりどもりはじめたのでなんだと隣を見たが傘に遮られた。
これはあれか、大妖怪のプライドがどうとか俺じゃ釣り合わないとかそういう事か。
「うーむ……迷惑なら付き人のように後ろに「そのまま私の隣で歩きなさい、そんな事したら真っ二つにしてやるわ」……天下の往来で物騒な」
傘下からこちらを見る目は間違いなく本気だった、顔は赤かったが。
頬を掻きながら肩を並べて人里の往来を歩く。
誰とも交差しない往来を。
ある意味モーゼのようなものだな、と再び心の中で苦笑する。
「お前ら人里でなーに目立つ事やってんだ、慧音が説教に来るぞ」
頭上を見ると丁度降りてくる声の主の姿が見えた、あぁ、藤原のお嬢さんか。
「私は弱い者虐めはしない主義よ」
「俺は拉致されただけだ、むしろ被害者、どう見ても被害者」
着地したお嬢さんに一応無実を主張しておく。
実際俺は何もしてないしな。
「その割には見ようによっちゃデートなわけだけど?」
ニヤニヤと俺と幽香を交互に見る藤原のお嬢さん。
あん?デート?俺と幽香がか?
自分で先程言ったが……一度隣を見る。
「ありえんありえん、幽香が俺とそんな関係になりたいなんざ思うわけないだろ」
……………………あれ?なんだろう、隣から凄い殺気を感じるんだが?
何でこんなに寒いんだ?今は春だぞ、冬の妖怪もその旦那もいないぞ?
「苦労してんな、花の妖怪。というか、こんな変人じゃそういう事を意識したことも受けた事も無いんだろ。
落ちつけって、人里の連中が本気でビビってる、この手の奴は直接本気で言わなきゃ気付けないんだよ」
「それができれば、こんな……」
何だ?何か二人で勝手に話が進んでないか?俺を置いていくな。
とはいえ女の会話に首を突っ込むのはよくないと幻想郷でばっちり教えられたので何も言えない言わない言うと死ぬ。
「片や超鈍感で片やここぞって時は奥手か……春は遠いかね」
「余計なお世話よ蓬莱人、余計ないざこざは起こさないから帰りなさい」
おぉ怖い、と言いながら藤原のお嬢さんは去って行った。
残されたのは何故か赤い顔をして俺を睨む風見幽香と話の流れが全く読めずちんぷんかんぷんな俺。
ただでさえ目立つ俺達は輪をかけて人里内で目立っていた。
気のせいか人里の人々の目が少しだけ、暖かくなっていたような気がした。
「帰れ」
俺と幽香の顔見たら開口一番それかよ。
幽香は全く意に介さず縁側に座り込んだ。
それに倣って俺も奴さんの隣に座る。
「参拝客にいきなり帰れとはなんだ帰れとは。
そんな巫女じゃ博麗神社を建てた先祖が泣くぞ」
とりあえず不機嫌そうな彼女に一応返しておく。
正義は我にあり、だ。
「うるさいわね……んで用件は?」
「からかいに来た」
「拉致られた」
「やっぱり帰れあんたら」
俺は何も悪いことしてないのにひでぇ巫女だな、いつもの事だが。
結局しばらく居座る気でいる幽香に博麗のお嬢ちゃんは諦めたのか台所へ向かった。
私は紅茶ねーと言う幽香にんなのあるか出涸らしでも飲めとお嬢ちゃんの返し。
相変わらず幽香は博麗のお嬢ちゃんをからかうのが好きなようで、強い者虐めって当人は言ってるが。
「全くあんたら二人はいつも一緒ね……はいお茶」
「あげないわよ」
「いらないわ」
「つうか物品扱いすんな」
必然俺がツッコミを入れなきゃならんのが面倒な事だ。
「ていうかあんたら付き合ってるんでしょ?こんな所に来ないでどっちかの家でイチャついてなさいよ」
その言葉に俺は飲んでたお茶を噴き出しそうになり、幽香は急に真っ赤になった。
なんだ、お前までそんな事言うのか博麗のお嬢ちゃん。
「あーあぶねぇ……変な事言うな巫女ちゃん。俺と幽香が彼氏彼女の関係なわけないだろ。
むしろ主人と奴隷だろ、状況的に」
「……ふーん、そういう事言うんだ、ってか巫女ちゃん言うな」
「……」
おい、何で睨むんだよそこの花妖怪。間違いを訂正したんだから問題ないだろうに。
もしかして奴隷以下なのか俺は、てか奴隷にすらなった覚えは無いぞ。
「ねぇ○○、あなた付き合った事がある女性っている?」
何だ藪から棒に。
「いるかそんなもん」
年齢=彼女いない歴更新中だ。
まぁ俺みたいな変わり者に女が寄るはずもなく、色恋沙汰に興味なんてなかった青春時代だったしな……
三十路にも入れば一生独身でいいだろうと覚悟すらするわ。
「好きだった女性は?」
だから何なんだその質問は、女はやはり色恋沙汰は好きだって事か?
「いた記憶なんざないな」
まぁ今の状況見ると美人さんばっかりの世界に放り込まれたわけだからその内できるかもしれんが。
とはいえ変わり者がたくさんいるこの世界でも俺を好む奴なんざいないとわかってはいるが。
「じゃあ今は?」
今、ねぇ。
「お近づきにならどいつもこいつも美人だから考えたくもなるがまぁまだおらんな。
ていうかこの一連の質問は何かの占いか?それとも誘導尋問の類か?」
巫女のお嬢ちゃんは何かわかったかのような顔した後ニヤリと笑いながら幽香を見た。
当の幽香は何か安心したような溜息をした後霊夢が見ている事に気がついて苦虫を噛み潰したような顔をした。
「おめでとう幽香、敵は強大ね」
「うるさいわね、好きでそうなったわけじゃないわよ」
「あら、嫌々なんだ?」
「っ……!か、帰る!」
幽香が顔を真っ赤にして立ち上がり傘を持って走りだした。
今日は私の大勝ね、と呟いてお茶を飲みだす博麗のお嬢ちゃん。
そして何が起きたのかさっぱりわからない俺。
しかしとりあえず幽香の後を追うかと俺も立ち上がる。
「ごちそうさん、気が向いて運があったら茶菓子でも持ってきてやるよ巫女ちゃん」
「期待しないでおくし巫女ちゃん言うな……○○」
「なんだ?」
「あんた馬鹿でしょ」
「正面切って言う事じゃねぇよ!?」
年下の女の子に馬鹿って言われるなんて夢にも思わんかった。
しかも蔑むような目で見られた、何かに絶望した瞬間だった。
絶望しながら賽銭箱に100円入れてジャラジャラと鈴を鳴らし、少しは頭がよくなるように、と願かけ。
でもきっとここでやっても妖怪の山の神社でやっても無理だろうなぁとか思った俺がいたのは内緒だ。
ちなみに幽香は階段を下がり切った場所で待っていたがなぜかご機嫌だった、女ってのはよくわからん……
「あのねお嬢さん、いくらなんでもね、人の家の酒全部飲むもんじゃないと思うんだが?」
「ぬぁにぃ~?わらしにしゃけをぬませないきぃ~?」
結局博麗神社から帰った後も幽香は俺の家に居座り、こうして夜の飲み会に発展したわけだが……
あろうことかこの花妖怪、人の家の酒全部飲みやがった、お前は鬼か。
そして現在大虎となって酒が無くなったもんで俺に絡んでくる。
二人で飲むのは初めてじゃないが今日は何時にもましてペースがかなり速かったな……何かあったのか?
「……ねむくなっれきたわね」
ようやく幽香虎様はおねむになってくれるようだ。
瞼を擦り、ふわぁーと大きな欠伸をした。
「はいはいベッドに案内してやるからそこで寝……何この手」
立ち上がった俺の手をぎっちりと掴む幽香の表情は真っ赤な顔だが真剣だった。
「絶対逃がさないわ……絶対誰にもやらないわ……絶対私のものにしてやるわ」
何の事だと説明を求めても大虎になったこいつから情報は仕入れる事は不可能だとは思う。
しかし今まで見た事のない真剣な眼差しは俺を驚かせて立ち竦ませるのには十分だった。
そしてやおら立ち上がったかと思うと凄い勢いで寝室に入り、ベッドに俺毎入り、俺を抱き締めて寝息を立て始めた。
「……何なんだこれは」
ぎゅっと強く抱きしめられており、脱出は不可能。
寝顔を見れば普段とは違った穏やかな表情をしてやがる。
こういうのが女らしい、という事なのかは今の俺にはよくわからない、見た事無いからな女の寝顔。
ポンポンと頭を軽く撫でてみるとん…とさらに深く抱きついて俺の胸に顔を埋めてきた。
こりゃ明日の朝は大変そうだなぁと思いながら幽香を抱き締めるように腕を回し、瞼を閉じる事にした。
案の定朝起きた幽香から顔を真っ赤にした見事なボディーブローがとんできたが俺は本当に悪くないと思う。
あづい・・・・・・でももうすこしで幽香とひまわり畑でイチャイチャできる・・・・・・でもあつい・・・・・・
風見鶏が見ている先 2(Megalith 2011/07/21)
「ねぇ?暑くないかしら?」
「そりゃ夏だからな」
幻想郷はまさに夏真っ盛り、あの光り輝く太陽に文句も言いたいが生憎そんな元気すら奪われている。
縁側で外を見るのはさすがに辛いので部屋の中で窓を全部全開に開けてなんとか凌いでいる。
そんな中でもこいつはやってきた、妖見鶏が忙しく来るのを教えてくれた。
いらっしゃった(もちろん呼んでなどいない)お方は今日は珍しく黄色いサマードレスなんて着てきた。
そういう服も持ってるのかと感心したが相手はこれでも女だ、服はいっぱいあるんだろうと自己解決。
しかし、何か言う事はないかしら?という問いは何だったのだろうか?わからん、と言うと何故か殴られた、なんでだ?
そして絶賛人の作った麦茶を勝手に飲んでいながら暑さなんざほとんど感じてないような涼しい顔で風見幽香は当然のことを聞いてきた。
「こういう時は冷たい物を食べに行くのがいいと思うわ」
「あぁまぁそうだな、甘味物がいいかもな」
あんみつとかかき氷なんてところがお勧めだろう。
「じゃあ行くわよ」
「あ?」
机に顔を置いていたが顔を上げて目の前に座っている幽香を見る。
暑さにKO寸前の俺は一瞬目の前でニコニコしている緑髪の妖怪が何を言っているかわからなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
「………………何か喋りなさいよ」
何か?何かと言ったかこ奴は。
「何で、こんな、暑い、日に、わざわざ、人里へ、行くん、だ?」
「そりゃあ冷たい甘味物を食べに、よ」
ちくしょう。お前はいいよな!日傘あるからよ!
炎天下の中、人里を目指して歩いている俺は汗だくになっていた、当然である。
隣の幽香も汗は掻いているが平然としている、くそっ暑さに強いのか、羨ましい。
「そんなに暑いなら入る?」
「ん?」
入る?何にだ?……あぁ、日傘にか?
こちらのスペースを少し開けるかのように少し日傘を上げる幽香。
「……どこで誰が見てるかわからん。下手に何か言われないようにしておいた方がお前の為だろ」
そう幽香に返すと…………げっ、なんで眉が危険なカーブ描くんだよ、お前の為を考えたんだろうが。
この前の藤原のお嬢ちゃんときみたいに冷やかされないようにだな!
「入れ」
「……わかったよ、邪魔するぞ、てかよこせ」
「ちょっ、あっ!?」
幽香の手から日傘を奪い、二人が入れるようにして持つ。
どうしてもスペースの都合俺が入りきれんがまぁ仕方あるまい。
陰が差すと少しだけ暑さが和らいだ気がした。
「……今回限りよ」
「何がだ?」
「私の日傘を持つのがよ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向いて何を怒っているのか、俺にはわからなかった。
だがなんというかこの光景はエスコートしているというよりは交際しているようなそんな感じに見られるのではないだろうか?
しかしまぁ割と限界だったし、幽香がそれを察したのか気まぐれだったのかわからんがありがたく入らせてもらおう。
道中幽香は何故か顔を真っ赤にして俺の腕をみたり顔をみたりしていたが暑さの限界だったのだろうか?
さすがにこの暑さは妖怪にも堪えるって事だろう、とかく暑いからな今日は……
「うん、夏はこれだ」
「……まぁまぁね」
件の甘味屋に到着し、メニューを見て思い思いの物を頼んだ。
店主は俺達を見ても何も言わず平然と料理を作っていた。
……どうやら俺と同じように妖怪に関しての溝が浅い人のようだ。
そして俺が頼んだ宇治金時と幽香の頼んだ白玉あんみつが置かれ、今まさに堪能中である。
まぁまぁとかどんだけお前の舌は肥えてるんだとか言いたかったのは内緒だ。
さらに割と付き合いが長いせいで奴の顔を見て割と気にいった事がわかったのも内緒だ。
そしてそんな彼女の食べているあんみつがどのような味か気になった。
「何?味見でもしたいのかしら?」
幽香が視線に気づいて俺を見る。
「あぁ、まぁ気になるなこうして見ると」
「そう、そんなに言うんじゃ「すいません、白玉あんみつ追加で」……っ!」
ボキン、と何かが折れたような気がした。
音は正面から、注文の為に顔をカウンターに向けたのだが先程まで見ていた方向である。
見たくないが首をなんとか少しずつ向きなおすと見事にスプーンを笑顔で幽香が折っていた。
いや、笑顔じゃねぇ……ありゃ本気で怒ってやがる。それがわかる程に奴から圧力を感じる。
なんだ、いったいなんでこうなったんだ?俺か?俺が何かしたのか?
「おいそこ、営業妨害はやめろ。ついでにさっきので本日のあんみつは終了だ。
くいたきゃ目の前の奴から貰いな」
スプーンを置いた店主の言葉で何故か幽香の俺に対する殺気が和らいだ、気がした。
あれか、公共の面前でガチギレはまずいと判断してくれたか?そりゃありがたいがやっぱり怒る原因はわからない。
私と同じ物を食べようとするなんざ10年早いとかそんな理由か?
「…………」
「そんなに睨むなよ……気になっただけだろ」
仕方ない、今度来た時にでもとあんみつを諦めて自分の宇治金時に取り掛かる。
意識的に幽香の方を見ないようにしていたがあまりに視線を感じる為まだ何かあるのか、と顔を再び向ける。
「そんなに食べたいわけ?これ」
器を軽くスプーンで叩く幽香。マナーよくないぞ。
「まぁ、一口くらい味見してみたいが」
とはいえ隣の芝生はなんとやらのようなものでそんなに食べてみたいってわけじゃないんだが。
幽香がスプーンで寒天を一つ掬った。
それを俺に向けて、少しだけ顔を赤くした。
「一口だけ、食べさせてあげるわ」
「………………………………………………………………………え?」
俺は予想だにしなかった状況に呆けた声を出すことしかできなかった。
あの、人の家に我が物顔で入って人の家の飲食物を勝手に全滅させるわ、
色んな場所に連れ回した挙句勘定は全部俺に持たせるわの暴君が俺に物をくれるだと!?
これは夢か?幻想か?ここは幻想郷だ、だからありえるのか!?
「何よその顔は……私が誰かに食べさせたら悪いわけ?」
「いや、あまりに予想外過ぎて……いや悪かった、悪かったから睨むな」
どんどんと眉と顔色が下がったり真っ赤になったりで第三者から見れば面白いかもしれんが残念ながら俺はその相手である。
しかしこれ以上呆けていても事態は全く好転しないだろうというのはわかる。
せっかくの彼女の気まぐれだ、ここは大人しく貰っておくのがいいだろう、と判断。
「んじゃありがたく」
「そうよ、素直に貰いなさい」
スプーンを俺の顔に近づけてくれる幽香のスプーンを傾けさせて俺の手のひらに寒天を落とし、直ぐに口に入れる。
「うーん………………うん、美味いな」
黒蜜も濃過ぎず薄過ぎず、甘さは割とひかえめ。
俺としてはもう少し甘くてもいいがそうすると濃くなってしまうかもなぁと思いながら喉元を過ぎた寒天の感想を考えてると……
「あ、あんたって男は……」
「えっ」
何故か目の前の幽香の臨界点が一瞬にして突破していた。
顔を伏しているが体全体が震えているのがよくわかる、つまり本気で怒る1秒前とか噴火寸前とかあーあBADENDになっちゃったーみたいな。
つまるところ俺はまたしても彼女のよくわからない特大地雷を踏んでしまったようだ。
「こんの…………………………………………馬鹿ぁ!!!!!!」
今日は見事な左アッパーを炸裂された。
店主には悪い事しちゃったかなーと思いながら俺は宙を浮いて気絶した。
「まったく、レティ達のアドバイスもこいつには全然効果ないじゃない……」
「ぶつぶつと何を……謝るから睨むな、何で機嫌が悪いのかわからんが」
気絶から帰還すると店主に目いっぱい怒られた。
曰く痴話げんかはよそでやれ曰くもう少し考えて行動しろ曰くこのままいくとお前は後ろ指しか刺されんぞ等などを説教された。
ほとんど意味がわからなかったがどうやら俺の行動がやはり問題だったようだ。
今度こういう時があった時は皿を貰おうと心に誓っておく。
「んで、この後はどうするんだ」
気絶した時間が長かったおかげで辺りは既に夕方、夜の訪れすら見える。
相変わらずモーゼの海割りの如く人が避けていく人里を幽香の横を歩く。
あーまだ顎に違和感があるな。
「そうね……あの夜雀のところでも行こうかしら」
「成程、じゃあ俺はかえ…………人の肩を力強く掴まないでくれるかなぁ?」
いい笑顔である、俺もいい笑顔をしているという自負がある。
意味合いが全く違うのが本当に残念だ。
「あら、これでもちゃんと手加減しているわよ?」
「ははは、そうだよな。でも人の自由を縛る為に掴むのはよくないぞ?」
「掴まないと逃げるじゃない」
「いやいや幽香、逃げるじゃない、帰るんだ」
周囲の人間が一層離れている気がするが気のせいだろう。
しかし、ここでなんとかしないと全額俺が払う事になる。
さっきの甘味屋で迷惑料も払っている、ここでさらに出費はなんとしても防がなくてはならない。
「見た目は美人と思ってくれてるんでしょ?一緒にいられるだけで役得と思いなさいよ」
「だから大概の連中が黙ってればって……いでででででででで!や、やめろこら!外れるだろうが!」
手加減しているはずじゃねぇのかよ!?
何かやばい音してるから!すっごく痛いから!
「………ふんっ、今日は財布の中の有り金全部空にさせてやるわ」
「こ、こら離せ!何物騒な事を言ってんだ!?いや、おいぃ!?」
引き摺られないように何とか抵抗するも掴まれている時点で俺の敗北は決定していた。
結局俺は諦めて夜雀の屋台にまで連れて行かれ、奢らされることになる。
途中酔った幽香に抱きつかれて「この鈍感、馬鹿、朴念仁、少しは気付きなさいよ」と言われたのだが何の事なんだかさっぱりわからない。
夜雀ちゃんに聞いてみたら「自分で考えてください、同じ事言われたいですか?」と言われた、本当に何の事なんだかさっぱりわからない。
ちなみに沈んでしまった幽香を仕方なく俺の家まで運び、ベッドに寝かせてやったら捕獲されて抱き枕にされるなどと俺はこの時全く思ってなどいなかった。
無論朝起きた幽香が顔を真っ赤にして俺をぶん殴る事も予想すらしていない。
誰かどうしてこうなるんだか説明してくれよ……
皆乙女なんだよ幻想郷の女の子は皆乙女なんだ
つまり幽香も乙女、異論は聞かない
Megalith 2011/08/12
里から少し離れた山裾……の、開けた丘。
魑魅魍魎が跋扈する夜更けであるにも関わらず、
俺はズタ袋を一つ抱えてそんな所にいた。
目的のモノは目の前にある小さな花。
忘れ去られたモノが行き着く幻想郷にあって尚、希少であるその花は、
人の記憶に留まる事を拒むかのように夜間ひっそりと咲き、
そして朝になると花を散らしてしまう。
以前散歩をしていた際に見つけてからは、こまめに世話をしにきていた。
金銭に変えよう等とは露程にも思わず、ただ咲く様子を眺めていたいが為の行動だった。
「こんなもんか」
袋から取り出した道具で花の周囲を整えてやったりした後、一息付く。
里を出る時は背中に受けていた月光も、今は頭上から降り注いでいた。
そろそろ咲き出す頃合いだろうと見当をつけ、万が一にも花を傷つけない距離に座り込む。
そのまま四半刻程惚けていると、不意に人の気配がした。
気配がした方へ顔を向けると、目の醒める様な美人がいた。
凄くその風貌には見覚えがある。主に悪い噂と共に。
(なんで人間嫌いの妖怪様がこんなとこに来るかねぇ……)
どうやって切り抜けたものかと思案していると、そいつはこちらへかつかつと歩み寄ってきた。
「御機嫌よう」
「……今晩和」
刺激をしないよう、無難な言葉をチョイスしながら会話を始める。
「私を見ても物怖じしないのね?」
「殺気でもバリバリ放ってりゃ話は別だが、今のあんたはそうは見えないし」
「そ」
興味なさそうに俺の返答を受け流すと、彼女の目に先程まで世話をしていた花がとまったらしい。
「……あの花、貴方が?」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「私に下さらない?」
にこにことしてはいるが、その顔の裏からは有無を言わせぬ何かを感じる。
いつもなら譲り渡す所だったが、これはちょっと譲れない。
「寝言は寝て言え。あれは俺んだ」
「いい度胸してるわね。殺されたいの?」
相変わらずの氷の微笑を浮かべてはいるが、肌に感じる空気はもはや痛い。
切り返した手前止めるわけにもいかず、ままよ、と会話の応酬を続ける事にした。
「殺したければ殺せばいい。俺が死んだ所で、お前には
"殺して奪い取った花"しか残らんのだろう?花の妖怪」
「……随分言うじゃないの」
「事実だろ?花を愛する者ならそれくらいどうにかしろ」
会話は終わりだ、とばかりに彼女から花の方へ視線を戻す。
――まだ咲く様子はない。
「……仕方ないわね」
ぽふ、と隣に腰を下ろす花の妖怪。
にわかに心拍が跳ね上がるが、気合で抑えつける。
「何のつもりだ」
「別に。奪い取るのがダメなら静かに愛でるくらいはいいでしょう?」
当人からは不満だという空気が滲みでている。
人間への友好度は最低とか書かれていたが、もしかしたら違うのかもしれない。
「其れ位なら別に構いや――おい近い」
先ほど彼女が腰を下ろした際、敷いていたシートの端へと退避したのだが、
いつの間にかまた俺のすぐ隣までやってきていた。
「こうしないと花がよく見えないのだもの。
私みたいな美人にくっついて貰えるんだから、光栄に思いなさい?」
「……」
「言葉もないの?」
美人と言われて改めて彼女を見なおしてみる。
月の光を受けて尚薄く色づく緑髪、綺麗に整った――可愛いというよりは凛々しい顔立ち、
派手さはなく、寧ろ大人しい村娘のような服装、その割にはしっかりと女性を主張する体つき。
「ちょっと、何か一言くらい言いなさ「言われて見ればお前も綺麗だな。とても」――ッ」
「妖怪にしておくのが勿体無い位だ。……しかし、今はあの花だ。見てみろ」
彼女にも見えるように、花を指差す。若干頬を朱に染めた彼女は、
俺の手の動きをなぞるように花へと視線を移した。
「そら、咲くぞ――長い一年で一夜限りの、こいつの見せ場だ」
青年&少女鑑賞中....
「……終わってしまったか」
「みたいね。それじゃあ、私はこれで――」
「待て」
裾を払いながら立ち上がった彼女の腕を反射的に掴んで留める。
意外なものを見るような目で彼女がこちらを、厳密には俺の腕を見ていた。
「何かしら?夜のダンスはお付き合いできないわよ」
答える事もせず、ズタ袋から道具を取り出し、散ってしまった花のもとへ向かう。
「……あった。ほれ」
地面に落ちていた目的のものを小袋にしまい、彼女に投げて寄越す。
「これは?」
「こいつの種だ。持っていけ」
「……いいの?」
きょとんとした顔で俺を見つめる花の妖怪。
これを求めて当初は俺を殺そうとまでしていたのに、変な奴だ。
口には出さない思いを思考の外へ追いやり、疑問に答えてやる事にする。
「お前なら問題ないだろう」
「あら、随分と買ってくれているのね」
「花を見る目が優しかったからな。それが理由じゃダメか?」
「……そう」
ぽつりと呟いて、手元の袋へ視線を落とす。
「ねぇ」
「何だ?用は済んだんじゃないのか」
気づきなさいよこの馬鹿。
「あなた、名前は?」
「……そう言えば名乗っていなかったな。俺は○○という」
○○。○○、ね。
「そう。変な名前ね」
「喧嘩なら買うぞ?」
「ふふ、冗談よ。私は幽香。風見、幽香よ。
覚えておくといいわ、人間」
○○、○○、○○――よし、覚えた。
「……もう会うことも無いかと思うが、善処はしよう」
「ね」
「何だ」
今日のところは……うん。
「私、貴方のことが気に入ったから」
「は?」
「これからも遊びに行ったりしても、いいかしら?」
「……危害を加える気がないのなら、茶くらいは出す」
「貴方はそこらの愚昧な人間とは違うように見えるし……努力するわ」
「努力かよ……わかった。俺の家は里の外れの一軒家だ。目立つからすぐわかるだろう」
「そう。それじゃあ、また、ね。○○」
「……ああ。また、な。風見幽香」
イチャついてるかどうか怪しい……ぜ……
Megalith 2012/03/11
「どうだったかな、ちゃんと咲けてた?」
「そうね、他の人間から見たらただの雑草か、はたまた周囲に悪影響を与える害草か」
「はは、それもそうだね。幽香はどう思う?」
日陰の縁側に座る彼はそう言って、視線を目の前の小さな花園から私へと移した。
「私は…私は嫌いじゃなかったわ」
「そうかい?それならよかったよ」
彼は私の返答に満足したようでまた視線を花園へ戻した。
私も彼と同じように彼の作った小さな花園へと視線を向ける。
彼が手を加えた人工の花園。私は手を加えられた自然というものが好きではない。でも
「もうすぐ、かな」
「……そうね」
「なにか…どうにかしてもうちょっと延ばした方がよかったと思うかい?」
「私は人工の美しさは嫌いよ。自然のままが一番綺麗」
「ははは、そうだね。その花壇を作ったときなんて幽香にはずっと冷たい目で見られてたし」
「貴方は『種をちょっと拝借して蒔いただけであとは自然に任せるからほとんど手を加えてないよ』なんて屁理屈のたまっていたわね」
「そんなこともあったね。結局花壇も雑多な花や草が繁茂する、その辺の草原とかより種類が多いだけの混沌としたものになっちゃったしね」
「それでいいのよ、それがいいの。鳥や風が種を運ぶ代わりに貴方が運んだと考えれば許容できるわ」
彼はまたも私の返答に満足したように、今度は微笑を浮かべて花園を見続けている
「幽香が寂しがるんじゃないか、って思ってね」
「花が一輪枯れてしまったとしても、それは自然の摂理よ。寂しがったりしたらキリがないわ」
「確かにそうだね」
彼はそう言って体を柱に寄りかけて目を閉じた。
「さて、と」
目を閉じた彼を確認して私は立ち上がる。
長くなるのはわかりきっているけれど、目的を果たすためには彼女に会いに行かなければならないのだから
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「珍しいですね、貴女が私に会いに来るなんて」
「正直言えば貴女に会いたくなんてなかったわ、四季映姫・ヤマザナドゥ」
「あな」
「説教なら間に合ってるわ、それより一つだけ聞かせなさい」
私は長くなることが分かりきっている説教が始まる前に用件を切り出す。
「彼のことですね」
「なによ、わかってるんじゃない」
「伊達に閻魔をやっているわけじゃありません。それで、貴女は私に何を聞きたいのでしょう?」
「そんなこと、聞かなくてもわかっているんじゃなくて?」
遠まわしな言い草にイラつきが募る。
「もちろん、わかっています」
「ならさっさと」
「貴女は。貴女はそれを知ってどうするつもりなのですか?」
「そんなの貴女に関係あるのかしら」
「そうですね、直接は関係ないでしょう。けれど少しでもしなくてもいい仕事が増えてほしいとは思わないだけです
それで、貴女はそれを知ってどうするつもりなのです?答え如何ではお教えしましょう」
四季映姫はそう言いながらも霊たちに判決を下しながらそう言い放つ。
イラつく。全てを見通すかのような物言いが。
「理由を話すだけで教えて差し上げると言っているのです。躊躇う理由でも?」
「素直に従うのが嫌なだけよ。見下されるのがね」
「見下してるつもりはありませんが」
「ならその言い草が嫌いだから。ムカつくから。これで理由は十分かしら」
四季映姫は霊に下す判決の手を止めることなく応対する。その行動がまた見下ろしているようで私を苛つかせる
「………まぁいいでしょう、彼は」
四季映姫は面倒だという表情を隠すこともなく彼の居場所を言った。
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人里のとある夫婦の間に元気な男の子が産まれた。
里の人たちからも祝福されながら産まれたその子の顔を見る人たちの中に一人、里の人々とは違う装いの日傘を差した少女が混ざっていた。
「私にもその子を見せてくださらないかしら?」
数年ぶりのSS投稿。短めですが
書き終わってからイチャラブ…?って疑問に思ってしまうというオチに到達してしまいましたがご愛嬌、ということ、で…
なんでこんな展開の話が思いついたか…自分でもわかりませんがw
彼らの言っていることや時系列に関しては、自分の中では決まっていますが、読んでくださった方に考えていただければ、と
読んでくださった方に感謝
風見鶏が見ている先 3(Megalith 2012/04/15)
「あーもう、何であの馬鹿は全く気付かないのよ!」
「幽香、騒がしく飲まないで」
先日の人里での件をレティに愚痴りに来つつお酒を貰う。
もちろん愚痴の内容とは私の好意に全く気付かない超朴念仁の馬鹿の事だ。
何でこの私がこうも積極的にアプローチをかけてるのに全く気付かないのか。
この前の霊夢の所での話を考えるとあいつは恋愛経験なんてないみたいだけど(私も無い、つまり初恋になる)普通、なんていうか、それでも少しは気付くはずでしょう?
「私と彼で考えた事を実行しても駄目だった……中々に大変な恋ね。
もしかして女に見られてないんじゃないかしら?」
「そうだったらあいつただじゃおかないわ……」
もしもそうだったら……おそらく、私はその怒りと悲しみを余すことなく彼にぶつける事だろう。
しかし話し振りからして私を女として見てくれているのはわかっている。
黙っていれば綺麗だとか冗談みたいに言ってきたが綺麗の部分は本気であると信じている。
つまみを持ってきながらもしかしたら誰かに好意を持たれた事がないからわからないんじゃないか、とレティの旦那が声をかけてきた。
「成程ね……人里から離れてわざわざ妖怪のいる場所で暮らしているわ幽香に好かれるわで相当な変わり者みたいだし可能性は高いかしら」
「ちょっと待ちなさい、なんで私がそこで出てくる」
喧嘩売ってるのかしら、今なら買ってやるわよ?
とはいえ確かにあの馬鹿はかなりの変わり者だというのはよく思う。
助けられたとはいえ私に全く気後れしないしどんな奴だろうと平然と話している。
何だろう、それが私が惹かれた理由だけど何かが引っ掛かる。
もしかしたらあいつの過去が何か関係しているのかしら?
考えてみればあいつの事は馬鹿で朴念仁である以外何にもわからない……
「とはいえ幽香、ここまでやって何ら反応なしは普通の朴念仁の度を超えているわ。
きっとこの先まだ辛い思いをする、それでもいいの?」
「……」
……そうね、だから私はこんな事をこいつらに話しているのよね。
人間と妖怪の恋愛なんて悲劇ばかりだったと聞いている。伝聞なのは私は今までそういうのに関わった事が無いから。
でも私がそんな場所に立った、立ってしまった。
私の交友関係は幻想郷絵巻とやらに友好度が最低ラインに書かれているのが示すとおりほとんどない。
あったとしてもそいつらも恋愛の話なんてできないし相談できるような奴らでもない。
ただその狭い交友関係の中でこの二人だけは、そんな場所で唯一幸せを掴んだ奴らだからこそ、私は相談できるし向こうも聞いてくれる。
「私は……弱くなったわ。それでもいいって思うし怖いって思いもあるの。
今までこんな事思った事感じた事考えた事、無かったわ……誰かを好きになるのってこんなに弱くなるのね」
「違うわ幽香、恋は女を強くするの。たとえそれがどんな形でもね」
そういうものかしら、と返すと私はそうだったわ、とレティが返してきた。
その隣で苦笑している旦那を見ると成程そうなのだろうと思っておこうかしら。
「だから頑張りなさいな。たとえどんな恋になろうとも、後悔の無いようにね」
そう言って私のグラスに酒を注ぐレティ。
私は一度だけグラスの水面を見つめると一気にそれを呷った。
それからも色々とアドバイスを貰ったけどあんまり覚えていない。
ただ彼の顔が凄く見たくなったのだけは酔って意識を失う前に思ったような気がした。
「と、いうわけで出かけるわよ」
「人の家来ていきなりそれはどうなんですかね風見幽香さんよ」
突然の来訪でも彼はそんなに嫌がらずに付き合ってくれる事を私は知っている。
それは好意からかはたまた恩義からなのかはまだ私にはわからない。
少なくとも彼は嫌々でやっている事ではないと思っている、そうじゃなきゃここまで付き合ってくれないと思うしね。
「いいじゃない、暇なんでしょ?」
「そりゃまぁ否定はしないが・・・・・・彼氏の一人でも出来れば落ち着くのかねぇ」
「・・・・・・」
私は無言で彼の耳を抓った。
この朴念仁は本当にもう・・・・・・!
「いでで!悪かった!悪かったからやめろ!」
「少しはデリカシーのある事を言えないのかしらこの馬鹿は!」
この馬鹿は本当に何も気付いてくれない。
彼氏の一人でもですって?何を言ってくるのよこの馬鹿は!
私が好きなのは、あんただっていうのに!
「わかったわかった、レディの扱いには気を使えだろ?
すいませんでしたお嬢様、何なりとお申し付けくださいませ」
「・・・・・・全然駄目ね、似合わないわ」
「俺にどうしろってんだお前さんは!」
「自分で考えろこの朴念仁!」
結局たまたま遊びに魔理沙が来るまで私はこの馬鹿に文句を言い続けた。
どうすればこの馬鹿に私の気持ちが伝わるのか、前途多難の私の恋はまだまだ気付いてもらえない・・・・・・
だから言ってるでしょ、幽香は乙女だって
うpろだ0046
日も暮れた太陽の畑にて
「今年はえらく梅雨の季節がずれたな」
「そうね、花達には嬉しい限りだわ」
「んまぁな、ずっと日光がギンギラギンも俺達にゃあきついわ」
「私は平気よ?傘があるもの」
くるくると可愛らしい日傘を回しつつ彼女は言う
「しかし流石に花壇を整えるのもしんどくなってきたな……」
「軟弱ねぇ」
「それで軟弱とおっしゃいますか……んまぁ麦わら帽子被ればいい話なんだが」
「どうして被らないのかしら?」
「うーん……なんとなく」
「それじゃ帽子に目でも付けましょうか?」
「……どこぞの神様のパクリになりそうだから止めとく」
「じゃあ暑いから作業が滞っていたのね」
くるりとこちらに顔を見せ言う
「そうなるかなぁ……あと少しはお前も手伝え」
「私だって仕事やってるじゃない」
「そうじゃなくてな……その……なんだ……」
「あぁ……たまには一緒に仕事したいんだ」
「最初の頃よりかは大分マシになったと思うぞ?」
「貴方スコップで苗植えてたものね」
「あれは……仕方なくないか?」
「……貴方の一般常識がどうなっているのやら」
「終わった事だしそれ以上弄らんでくれ……」
「ウフフ、照れちゃって、かーわい」
「照れてねェよ……ったく」
「じゃあ明日、いつもの道具を持って……私の家集合ね」
「そういや紹介してもらってから一回も行ってねェなぁ」
「私はいつ来てもらっても構わないのだけれど?」
「……いっつもお前に頼まれた仕事やってたら一日が終わるんですがそれは」
「良い事じゃない、充実しているわ」
「はぁ……んじゃ明日な」
「えぇ、楽しみにしてるわ」
内心は結構嬉しかったりした、家の中に入れるのだろうか
そんなことを考えつつ帰路に着いた
~翌日~
「雨……ですかい……」
盥をひっくり返したような大雨だった
雷まで鳴っている始末だ
「日頃の行いが悪かったですお母様どうかお許しを」
「……止むわけないか」
かなり拡張的だが滝と言っても過言ではない
「さて……傘なんて軟弱なものはない訳だが」
だったらやる事は一つ
「走ったら余計に濡れそうだがこの際関係ないよなぁ……うっし」
雨の中を走って幽香の家に行くことにした
~一時間後~
「……着いた……のはいいんだが」
全身くまなくびしゃびしゃだ、絞ったら雑巾にでもなるんじゃなかろうか
「さて、タオル貸してもらうか」
ピンポーン
「はーい、どちら様でしょう……って○○しか居ないわよね」
「宅配便でーす、水も滴るいい男を配達に来ましたー」
「来てくれたのね、ご苦労様」
「当たり前だ、可愛い彼女の誘いを断る彼氏がどこにいる」
「ありがと、さ、風邪ひく前にシャワー浴びてらっしゃい」
「お気遣い感謝です」
「でも……看病も悪くないかしら」
「ナース服でお願いします」
「……風邪ひいてても放置しようかしら」
「ひでぇ……じゃあシャワー借りるな、さんきゅ」
「行ってらっしゃーい」
「あ、着替えは……あるか?」
「ん~……頑張って乾かしてみるわ」
「頑張って乾くのかよ……」
「心配しなくていいわ、少し湿ってるかもしれないけれど」
「びしょ濡れよりはいいか……じゃあ頼むわ」
「はーい」
でも幽香は何着ても似合うはず……もっと自分に自信を持つべきだ
~青年シャワー&着替え中~
「ふぃ~……しっとりだわ」
「紅茶淹れたわ、よかったら」
蔓草の模様の入ったカップを持ち、幽香の横に座る
「この香り……ダージリンだな!」
「通ぶらなくていいわ、普通にローズティーよ」
「へぇ……香りがかなり良いな」
「私のお気に入りの一つよ」
「どれどれ……ん~味はよく分からないなぁ」
「味が全てじゃないわよ、嗅覚も大事なんだから」
「そんなもんかぁ……でも今日はこんな大雨になるなんてなぁ」
「そうね、貴方の日頃の行いが悪いんじゃないかしら?」
「……否定はしねぇ」
「あらあら、図星?」
「……しかし雨の日にここを見るのは初めてだな」
雨の音を聞きながらどんよりとした外を見る
「雨の日でも来て作業していいのよ?」
「過労死させる気か」
「ひ弱ねェ」
「まず風邪ひくだろう」
「……一たす一は?」
「二……お前俺を馬鹿にし……俺は馬鹿じゃねェぞ」
「んま、それはいいとして」
「よくねェよ!……で何だ?」
ふと、幽香がこちらを見る
「ん?どうした」
ソファーに倒れ込むように幽香が覆い被さってくる
「なっ!どうした?大丈夫か!?」
いきなり倒れてきたので心配する、が
「……甘えていい?」
とろんとした目でこちらを見てくる
「……は?」
「最近忙しかったでしょ?だから今日くらいはイチャイチャしたいなぁって」
「えらい今日は積極的だな」
「雨の日は……少し鬱になるの」
「理由……は聞くだけ野暮か」
「そうね、野暮ったい事はしないで」
胸に顔を埋めつつ服の裾がぎゅっと握られる
「たまには……いいかもな」
「貴方の胸……温かい」
いつもと違う彼女の一面、それが凄く愛しくて
「愛してるよ幽香」
彼女の魅力の一つである艶やかな髪を優しく撫でつつ囁く
「もっと愛して……もっと……もっと……」
彼女の方から唇を差し出してくる
「んぅ……」
目を開けたままキスをしてみる、初めての試みだ
「ん……ぷはっ」
「なんか目が合うと恥ずかしいな」
「私はこっちの方が好みだわ」
「んじゃもう一回するか?」
「今日は朝までコースね」
「お付き合い致しましょう」
「明日もよろしくね?」
「……出来るだけ体力は残すか」
その後ひたすら幽香とイチャイチャしていた
そんな雨の日の出来事
35スレ目 >>352
○○「布団が吹っ飛んだ」
幽香「……」
幽香「で?」
○○「いえ、言ってみたくなっただけです」
幽香「ふーん」
○○「……」
幽香「○○」
○○「なんでございましょう」
幽香「寒いわ」
○○「はい」
幽香「あっためてちょうだい、今すぐ」
○○「それじゃホットココアでも作ってきますね」
幽香「……」
幽香「人肌で、って言うの、言わないとわからないのかしら」
最終更新:2021年04月25日 14:39