日に日に寒くなる一方だ。
特に朝は冷えて冷えてしょうがない。
こんな朝早くに外に出てるのは自分と…。
彼女ぐらいだろう。

「…小兎姫さん。」
「…何をしてるんですか?」

『あ~?』

小兎姫さんはしゃがみこんでいる。
こんな人里のはずれで何をしているのか…。
綺麗な服にも泥が付いてしまっている。

『水溜りの氷を割ってんの。』
『ほら○○もこれ、楽しいよ。』

「…、瓢箪の栓は集めないんですか?」
「あんなに探し回ってたのに。」
「…もしかして、」

『別に飽きたわけじゃないよ。』
『氷を割るのは今しかできないんだから。』

「そうですか…。」

『…手に持ってるのはいつもの?』

「あ、はい瓢箪の栓と煙草の吸殻です。」

『ありがと。』
『そういえばなんで○○は手伝ってくれるの?』
『みんなわたしのこと変わってるて言ってるのに。』

「それは…その……。」
「…そんなことより小兎姫さん!」
「こんな所で遊んでていいんですか?」
「こうしてる間に、」

『昼頃から妖怪はこないよ。』
『それに里をまもってるのはわたしだけじゃないし。』

「それって職務放棄じゃないんですか?」

『そうともいう。』


「あっ、鈴仙さん。」
「探してたんですよ。」

「○○さんでしたか。」
「何かお薬の御入用ですか?」

「はい、ちょっと傷薬と消毒液を。」
「あと包帯と…〝がーぜ〟でしたっけ?」

「全部で…20円ですね。」
「…度々利用してくれるのは嬉しいんですけど。」
「一体何に使うんですか?」

「それは…ちょっと。」

『○○ー!』
『かえる探しにいくよー!』
『先に田んぼに行ってるからねー!』

「……………。」

「……………。」
「…あの人ですか。」

「はい。」

「…こんなこと言うのも何ですけど。」
「あの人とは深く関わらないほうがいいですよ。」

「えっ…?」

「あの人の波長は普通の人とずれてるんです。」
「もちろん、あの閻魔様ほどではないですけど…。」

「…は、波長?」

「簡単に言うと普通の人とモノの捉え方が違うんです。」
「今まで、そう感じることはなかったですか?」

「……………。」

「…忠告はしましたからね。」

「……………。」

ポッポッポポポポ…ザアアアアアア…!

モノの捉え方が違う…。
…確かに思い当たる節はある。
その度に驚き呆れたのも事実だ。

「あっ!」
「小兎姫さん!傘持って来ましたよっ!」

『あ~ありがと。』

「…嫌な雨ですね。」
「さっきまで雲一つ無かったのに。」

『そうかな…?』
『にわか雨だし虹が見れるかもね♪』

…雨一つとってもこれだ。
でも彼女には色々と考えさせられる。

「そうですね。」
「見れるといいですね…虹。」


「小兎姫さん!小兎姫さん!」

『どうしたの慌てて。』

「幻想郷にも花火あったんですか!?」

『新年はめでたいらしいからね。』

「いやー、ここでも花火が見られるなんて…。」
「…その、よかったら…一緒に見に行きませんか…?」

『いいよ。』

ヒュルルルルルルゥ……パァンッ…!!

『……………。』

「……………。」
「…あの……。」
「この間のことですけど…。」

『?』
『なんのこと?』

「…この前、男の人と居たって言う人がいるんですけど。」
「その人は…友達ですか?」

『んー。』
『あー、確か村長のせがれだったかな。』
『石っころ渡されたけど。』

「…石ですか?」

『そう、きらきら光るちっちやな石。』
『石なんかいらないよって言ったけど。』

「それでどうなったんですか?」

『なんか急に怒って帰っちゃった。』
『それ以来見かけないね。』

「そうですか…。」
「……………。」

『…ん?○○なんか持ってるの?』

「いいえっ!…何もっ!」

『うそ。』
『今うしろになにか隠したよね。』

「いえっ!本当に何も持ってません。」

『ふ~ん、ならいいんだけど…ねっ!』

「あ゛…!」
「小兎姫さん、返してくださいよ…。」

『なかを見たらね。』
『ん~、どれどれ。』
『……………!』
『○○も持ってたんだ、光る石。』

「は…はい。」

『う~ん…石が好きなんて○○変わってるね。』
『…指にはめればいいのかな?』

「あ…。」

『ふふ……………。』
『ねぇ○○。』

「…何ですか?」

『…○○は花火を綺麗だと思う?』

「……………?」
「はい、綺麗だと思いますけど…。」

『…そっか。』
『そうだよね…。』
『…そうだ!』
『○○、弾幕見てみない?!』
『あれよりずっと綺麗だよ!』

「え…弾幕って…?」

『いくよー!』

「ひゃっ!」

『どーん!ばーん!どか~~ん!』
『あははっ○○綺麗でしょ♪』
『……………?』
『○○ー?』


「……………ん?」

『起きた?』

「ここは…、」

『わたしの家。』
『○○、被弾りどころが悪かったみたいだけど。』
『大丈夫?』

「このぐらい平気ですよ。」

『よかった。』
『……………。』
『…わたしのこと嫌いになった?』

「いいえ。」
「嫌いになんかなりませんよ。」
「動いたのが悪いんですし…。」

『…どうして○○はわたしに構うの?』
『わたし普通の人とずれてるし。』
『いっしょで疲れない?』

「……………いえ。」

『うそでしょ。』
『花火だって火薬にしか見えないし。』
『他の女の子みたいに石っころで喜べない。』
『わたしと居て疲れないわけないよ。』

「そ…そんなことは…。」

『教えてよ。』
『なんで○○はわたしといっしょに居てくれるの?』
『わたしなんかより、もっといい子は居るのに。』

「……………。」
「さっき指輪…石っころを渡すときに言おうと思ってたんですけど。」
「その…何というか……小兎姫さんが…ってうわっ!」
「こ…小兎姫さん、何で抱きつくんですか…?」

『~♪』
『誰かと同じきもちを共有するのは久しぶり。』

「それじゃあ…。」

『うん、いいよ。』
『わたしたちこいびと同士だね。』

「これからもよろしくお願いしますね。」
「小兎姫さん。」

『ねぇ、○○。』
『こいびとのちゅーは?』
『しないの?』

「…いきなりですか?」

『うん。』

「そ…それじゃあ…。」
「いきますよ…?」

『うん…。』


『あ、○○。』
『ちょっと待って。』

「…何ですか。」

『口臭くないよね?』


「いやー慧音さん。」
「助かりましたよ。」
「わざわざ荷物の運び入れまで…。」

「いや、それ程のことじゃないさ。」
「お二人には幸せな門出に成って欲しいからな。」

「からかわないでくださいよ。」
「でも本当にありがとうございました。」

「気にすることは無い。」
「…後気になったんだが。」
「このベッドのベッドボードの形が変じゃないか?」
「妙に厚いし、この穴とか…。」

「あー…俺もよくわからないんですよ。」
「デザインはわたしがやるーって張り切ってたんですけど…。」
「小兎姫が帰ったら聞いてみます。」

「あぁ、気長に待ってるよ。」
「それじゃあ、また今度。」


『たらいまー。』

「あ、おかえりなさい小兎姫さん。」
「…結構大荷物ですね。」
「言ってくれれば荷物持ちましたのに。」

『いや、これはわたしじゃなきゃね。』

「一体何を買ったんですか?」

『見たいの?』

「えぇ、まぁ…って。」
「太い鎖の…手錠ですか?」
「手錠なんか何処で売ってたんですか?」

『わたしは刑事だからね。』
『その筋のとこに特注でたのんだの。』

「…高くなかったんですか?」

『ん~そうでもないよ。』
『よっぽど強い妖怪でもなきゃちぎれないお墨付き。』

「…そんなの何時使うんですか。」
「まぁ、いいですけどね。」
「……………。」

『どうかしたの?』
『あ~、このベッドのこと?』

「このベッドボードなんですけど…。」
「分厚いし、この穴も装飾には見えないし。」
「何か意味があるんですか。」

『知りたい?』
『それじゃあベッドに仰向けになって。』

「仰向け…こうですか?」
「うっ!ちょっと…。」

彼女は腹の上に乗っかってきた。
圧迫されて少し苦しい。

『で、手をばんざいして。』
『そうそう。』
『さてと…これをこうして…。』

ジャラッ…ジャラ……。

「あの…小兎姫さん?」

『なに?』

「その手錠もしかして…。」

『…○○。』
『わたし他の人となにかを共感しにくいの。』
『でもね、○○はわたしのこと好きって言ったでしょ?』
『…わたしも○○のこと好き。』
『それが嬉しいの。』
『これだけは○○といっしょの気持ちなんだって…。』

「……………。」

『でもね、わたし怖いの。』
『里の人たちが影でどうせ長続きしないって…。』
『…そんなのやだ。』
『せっかく○○と同じ気持ちを共有できたのに。』
『また別々になりたくない。』
『…○○が他の女といっしょなんてやだ。』
『○○のこと信じたいけど…ごめん。』
『わたしのこと嫌いになったのなら…あきらめるから。』

「…前も言いましたけど。」
「嫌いになんかなりませんよ。」
「小兎姫さんがそうしたいのなら…どうぞ。」

……………ガチャリ。

『…ねぇ、○○。』

「はい。」

『…こいびとのちゅー。』
『してもいい?』
『……………。』
『そう…ありがと…んっ。』
最終更新:2010年08月27日 13:07