第八浮遊大陸基地奪還作戦・改   作:龍@西条ちゃん推し

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第3話 光芒の喪失

壮絶な戦闘を繰り広げた連合宇宙艦隊総旗艦──アンドロメダは前線を離脱し、第八浮遊大陸基地を擁する自由浮遊惑星プロキウルスの非重力干渉域にてラクタ級病院船を両舷に従えながら、腰を下ろしていた。前期ゴストーク級撃沈後、後背にて控えていたガトランティス艦隊は紡錘陣形を執り、最後の中央突破を図ろうと火焔直撃砲を乱れ打ちしながら接近した。

 連合宇宙艦隊は、前期ゴストーク級との戦闘で艦隊総数の約2割が中破以上の被害を蒙り、アンドロメダも右舷大破の被害を受けたため、ワープ阻害装置を搭載し火焔直撃砲を防ぐことの出来る物理防護壁"臣民の壁"を擁する装甲突入型ゼルグート級2隻とソヴィエト・ロシア社会主義帝国宇宙海軍で構成される第三艦隊を艦隊正面に展開させたことで敵艦隊の侵攻を躊躇わせることに成功した。

 山南はこれを好機と見て、各艦隊の提督にアンドロメダへの召還命令を発令。艦体の修復作業と平行してアンドロメダの中央作戦室にて山南が構想した作戦を伝令しようと画策していたのだ。

 

「提督、右舷の修理は80%を消化。現段階を以て、戦闘の再開が可能です」

 

「分かった。提督達はまだか」

 

 通信長──菅原 義秀が各艦隊旗艦の内火艇出艇記録を確認する。第5艦隊の"内火艇/未出艇"という表記が"内火艇/出艇"と切り替わる。

 

「──第5艦隊旗艦"ヴァイナモイネン"より内火艇の発進を確認。アンドロメダ到着まで3分」

 

「分かった。メインクルーも中央作戦室に集めておいてくれ」

 

「了解」

 

 山南は艦長帽を手に取り、艦橋を離れた。

 

 ──アンドロメダ/中央作戦室──

 

 

 中央作戦室には尚早気鋭の艦隊提督とアンドロメダのメインクルーが中央に聳える作戦投影機を囲み、立ち並んでいた。順に第2艦隊提督──ロバート・アームストロング大将、第3艦隊提督代行──コンスタンティン・ビリリョフ中将、第4艦隊提督──チャールズ・モズレー大将、第5艦隊提督──エヴァリーナ・ランタライネン大将、第6艦隊提督代行──アントワーヌ・セセ・カビラ少将、特務艦隊(ドレッドノート級による別働火力支援艦隊)提督──尾上 徳道准将。第623空間機甲旅団旅団長──キュベッド・ヘルダー大佐、第624空間機甲旅団旅団長代行──ガルム・ウォーズベッド少佐。ガミラスの軍人を除き、何れも30代という若さで提督に任命された人材である。

 陰陽独立戦争(所謂、内惑星戦争)や冥王星動乱にて活躍した古参士官や提督の殆どがガミラス戦争にて戦死したため、嘗て中尉以上の階級を有していた人物が二階級特進の特待を受け、新設された地球連邦宇宙海軍の提督の位に台頭した。しかし、人材資質の劣化は明確なものでもあった。

 同時期、通称:時間断層と呼ばれる時空特異点が発見される。1日で10日、1年で10年分の時間が流れるこの空間は人材資質の低下と短期的戦力増強路線に舵を切った地球連邦政府にとって絶好のチャンスであった。断層内には年間7000隻を超える宇宙艦艇の建造が可能な工廠と、大規模な隔壁で仕切られた1期5000人の兵員育成が可能な宇宙戦士訓練学校が三棟建設された。これにより20代前半は勿論、20代後半から30代の若い兵士や士官が短期間で育成され、実能力は戦死した古参兵レベルにまで上がった。

 ここにいる地球人提督たちも、嘗て時間断層にて訓練されてきた"古参"兵である。

 

「お久しぶりです、アドミラルヤマナミ。貴方の采配はやはり見事だ」

 

「あぁ、ロバート。お前もなかなか腕が上がったんじゃないか?──よし。無駄話はそろそろやめて、俺が考えた作戦を説明しようか」

 

 山南はパネルを操作しながら作戦の概要を説明し始めた。

 

「今の我々は戦術的に優位な立場を有している。しかし、今回の戦いの目標は敵艦隊攻略では無く浮遊大陸基地の解放である。だが、基地の解放にはどうしてもあの敵艦隊と交戦し出来ることなら壊滅させなければならない。そこでだ、俺の考えた作戦は大きく五段階に分かれる」

 

「ほう、五段階ですか」

 

「そうだ、ミス・エヴァリーナ。この作戦は各艦隊の連携が必須になる。その為に君たちを招集したんだ」

 

「なるほど。では早速、作戦の沿革を」

 

 山南は、30分をかけて作戦の説明を行った。彼の考案した作戦は論理の上でもシミュレーションの上でも負け難い作戦であった。緻密な計算の上に練られた作戦であったため、提督たちも意見ひとつなくすんなりと受け入れた。それ程、この作戦の完成度は高かったのだ。

 

「──"例の爆破"で作戦は開始だ。爆破のタイミングはヘルダー大佐に一任しようと思っているが、大丈夫か?」

 

「えぇ勿論。爆破の"10発前"に全艦隊に通告致します」

 

「分かった。それでは各員の努力に期待している、解散」

 

 地球人の面々は海軍式敬礼を、ガミラス人の面々はガミラス式敬礼を行い、中央作戦室を後にした。

 

─ガトランティス宇宙軍天の川銀河系遠征軍

   第八浮遊大陸基地駐留第299艦隊旗艦"メルーザ"─

 

 

 メルーザの艦橋には異質な空気が流れていた。最後の突撃すら敢行出来ず、かと言い犬死する訳にもいかず。現段階を以て浮遊大陸基地に撤収した所で、連合宇宙艦隊に追撃され電撃的に基地に上陸され解放される運命がグライス・ダガームには見えていた。

 その為、ダガームは焼け石に水の如く火焔直撃砲を絶え間なく臣民の壁に向けて放っていた

 

「大都督、既に3万ミブ(地球標準時換算:3時間)が経過しています。火焔直撃砲に回せるエネルギーも残り僅かです、どうか御決断を」

 

「くっ…」

 

 ダガームは歯を食いしばった。

 遡ること1か月前、天の川銀河系遠征軍第299艦隊は総艦艇数815隻の物量で第8浮遊大陸基地を包囲、及び制圧した。この第8浮遊大陸基地は、天の川銀河系外縁部に位置する戦略要衝の1つで、天の川銀河系に蔓延るガミラス共和政勢力排除の橋頭堡にしようと帝政ガトランティスは画策していた。

 

 

─2ヶ月前:帝政ガトランティス人工主星

            "滅びの方舟"帝政司令部─

 

 

 絢爛豪華なガトランティス式の装飾が施された帝政司令部にその男──グライス・ダガームは居た。M6221辺境銀河系の自治司令官兼進駐軍提督だった彼の元に突然、帝政司令部からの召還命令が下ったのである。

 

「ダガーム、壮健だったか」

 

「はっ、大帝」

 

 中央の浮遊玉座に腰下ろす大男は帝政ガトランティスの大帝──ズォーダー。左座側に添えられている大剣も目に引く。

 

「お前にわざわざ辺境からここまで来てもらったのは他でもない。貴殿の資質に見合う獲物を用意したのだ」

 

「獲物、ですと。それは一体…?」

 

「ガミラスの青虫共は知っているな」

 

「──大ストッズ銀河(大マゼラン銀河のこと)と小ストッズ銀河を併合し、覇権を拡大している劣等人種だと」

 

「そうだ。その劣等人種共が最近、クルップラ銀河系(天の川銀河系のこと)に進出し、原住民族と軍事同盟を締結したそうだ。このクルップラには我々が制圧目標の1つとして掲げた惑星テレザートがある。お前には何としても劣等人種共のクルップラ進出を阻止し、テレザートの位置を索敵して欲しいのだ」

 

「──承知致しました」

 

「お前は亡きダガームより名を引き継ぎし者だ。お前の働きを期待している。もしこれで見事、大義を為せれたらお前の家系を1等ガトランティスへ引き上げてやろう」

 

「はっ──」

 

 この専制社会において、ガトランティスの人種は2つの階層で別れていた。タイプ:ガトランティスの初期ロットである2等ガトランティスと最終ロットの1等ガトランティスである。

 ガトランティスとは、約2000年前に興亡した文明──ゼムリア文明が作り出した人造兵士の末裔である。ゼムリアは長年、近隣文明と戦争状態を継続しており、人的資源の減少は著しい社会問題であった。そこで、ゼムリアの科学力を結集させて自立戦闘人造人間(ガトランティス)の製造を開始した。

 初期ロットのガトランティスは人間性を重視せず戦闘力を特化させた為、戦闘には比類ないほどの力を発揮するものの、形成されたその人格は直視できないほど酷いものであった。ゼムリア人からは"蛮族"、"野蛮人"などと称された。

 初期ロットの危機性を鑑みたゼムリア人は、これ以上の野蛮人の増殖を防ぐために全初期ロットを主星ゼムリアの第三衛星"ヴェルレグディア"へと幽閉し、初期ロットに変わる新たなガトランティスの製造を開始した。その結果出来上がったのが最終ロットである。

 最終ロットとは、戦闘力に能力を全振りしていた初期ロットとは異なり、人間性をより懐柔させることによって適度なバランスを取ろうと画策したタイプである。また、初期ロットとは異なり、個の尊重より形質の存続を優先させるため性行為などによる子孫繁栄ではなく、クローニングによって代を重ねる体構造に作りかえられた。

 やがて最終ロットが戦線に投入されるようになるとゼムリアは勝利を重ね、その戦争に勝利した。が、戦争終結とともに完全体"ズォーダー"が最終ロットを率いて反乱を起こしたのであった。それは妻子を殺されたズォーダーの怒りの咆哮だった。古代アケーリアス文明が、全宇宙に蔓延る生命体を刈り取る為だけに残した要塞型殲滅方舟──滅びの方舟を持ってしてゼムリアを滅ぼしたガトランティスは、初期ロットを解放し滅びの方舟へと収容した。最終ロットも初期ロットの戦闘能力の高さについては看過できないものであったのだ。

 しかし、初期ロットの野蛮ぶりには彼らの後継者たる最終ロットも手を焼き、結果的に階級を用いた統治方法を以て初期ロットの制御に成功したのだった。こうして初期ロットは最終ロットに対して戦力を、最終ロットは初期ロットに衣食住の提供を行う相互関係が樹立されたのだった。しかし、最終ロットは初期ロットを"毛嫌い"しており、潜在的な差別行為は続いてしまっていた。初期ロットは反乱を起こしたとて、衣食住の提供がストップしてしまい継続的な戦争は不可能になるため、初期ロットは苦渋を飲むしかなかったのだった。

 今回の遠征にて初期ロットの末裔であるダガーム家第121代"ゴルド・ダガーム"が栄光ある成果を持ち帰ることが出来れば、ダガーム家は晴れて一等ガトランティスに格上げの手筈だったのだが、ここで失敗してしまえばお先には暗い未来しか待っていないのだ。

 

 ──メルーザ/艦橋──

 

 

「大都督、ご指示を!」

 

「──火焔直撃砲へ全てのエネルギーを回せ。何としてもあの盾を破壊する。重火力戦隊へ通達、残る火力を全て敵の盾へ振り向けよ、と」

 

 副官は険しい表情を浮かべた。一か八かの作戦であると悟っての表情だったのだろう。

 

「どうした、命令を待ってたのだろう?これは命令だ!」

 

「──総員、聞いたな。全艦戦闘配置、目標敵防護盾!」

 

 ──アンドロメダ/艦長室──

 

 

 ブリーフィング後、山南は艦長室へと戻り、しばしの休息を取っていた。ダージリンティーを1口啜り、机に置いていた読みかけの小説を手に取った。その小説とは、今は亡き宇宙戦艦ヤマト初代艦長──沖田十三より譲り受けた"罪と罰"である。沖田は家族をみな失っていたため、ヤマトへ持ち込んだ私物は彼の親友──土方竜と山南で引き取ることになったが、両名の希望の元、全ての私物がヤマト艦長室へと安置された。しかし、ベッドの横に1冊だけ置かれていた罪と罰を見つけた山南は、沖田が愛用書としていたこの本だけを持ち帰り、彼の生き様を見通そうと思ったのだ。

 しばらく経ち、山南の読解が乗ってきた時、備え付けられている受話器型の通信装置のアラームが鳴った。

 

「艦長、ケルベロスIIより打電です。"臣民は火焔の竜と運命を共にする準備が出来た"」

 

「分かった。すぐに向かう」

 

 山南は艦長帽を手に、艦長室を後にした。

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

 山南は艦長席に腰掛け、斜上の大モニターに視線を移した。"臣民の壁:爆薬設置済"、"全艦回頭準備:未"などとの表記が成されている。

 

「爆破まであと5発です」

 

「よし、これより作戦行動を開始する。作戦第一段階、臣民の壁の爆砕準備」

 

 ──1時間前:アンドロメダ/中央作戦室──

 

 

「まず作戦の第一段階だ。敵は侵攻しようにもガミラスの壁の影響で攻めあぐねている状況だ。それに漬け込む。まず敵の攻勢を誘うために壁を自爆させる」

 

 山南の発言はその場にいた提督たちを凍らせた。対火焔直撃砲対策の一環として建造された壁を、敵の攻勢を誘うためだけに自沈させようと提案してきたからだ。

 

「アドミラルヤマナミ、貴方の裁量は俺の目で見てきたから信頼を置いているのは事実です。しかし、これはあまりにも危険なことなのでは?」

 

「ガミラス艦隊は勿論、我が第三艦隊の被害も…」

 

「まぁ最後まで聞け。艦隊配置を一新し単縦陣に再編する。殿にゼルグート級を配置し第三艦隊は撤収しろ。ゼルグート級はタイミングを見計らって火焔直撃砲が壁に命中した瞬間に壁を爆砕すればいい。装甲突入型のゼルグート級の正面装甲なら火焔直撃砲の攻撃に複数回なら耐えられる。その隙に本体の待つ非重力圏まで後退するのだ。最悪の場合、艦体を放棄して独立艦橋のみで撤収するのもやむを得んだろうがな──」

 

 ──ゼルグート級ケルベロスII/艦橋──

 

 

「全く、ヤマナミ提督は無茶を押し付けよって…」

 

 キュベッド・ヘルダーはそう言いため息をついた。

 

「あと1発だ。アンドロメダへ打電しろ」

 

「打電完了。"健闘ヲ祈ル"と返信」

 

「あぁ、精々努力するよ」

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

 やがてその時がやってくる。火焔直撃砲が臣民の壁に直撃すると同時に山南が号令をかけた、

 

「作戦第一段階開始。壁の爆砕を開始せよ」と。

 

 山南の指令とともにヘルダーが爆破スイッチを押した。臣民の壁はまっぷたつに割れ、破片を巻き散らかしながら散開した。

 

 ──メルーザ/艦橋──

 

 

 メルーザからも火焔直撃砲が当たった瞬間に臣民の壁が爆発する様が見えていた。まるで火焔直撃砲が命中した瞬間にその耐圧に絶えられずに爆発したようであった。

 

「だ、大都督!敵のシールドを破りました!」

 

「よ、よし。あの重戦艦を集中的に狙う。全艦全速前進、一気に屠り去る!」

 

 ダガームの号令と共に全てのガトランティス艦が発進。ゼルグート級と第三艦隊に接近した。

 

「火焔直撃砲、引き続き撃ち続けるのだ」

 

「お待ちください。火焔直撃砲は長きに渡る砲撃で砲口内の加熱が著しいです。放熱のためにもしばしお待ちを」

 

「わかった。通常砲撃及び航空攻撃で敵艦隊を追い詰める!」

 

 艦首に堂々と鎮座する5連装大砲塔から衝撃砲が放たれ、艦尾甲板より主力攻殻戦闘機"デスバデーター"が出撃した。後続のナスカ級からもデスバデーターが出撃する

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「敵艦隊増速、第三艦隊とゼルグート級に接近します」

 

「敵艦隊より艦載機出撃、トラックナンバー22616から22855までに設定」

 

「よし、作戦第二段階。第三艦隊とゼルグート級に打電。直ちに撤収、後続の空母に命令。全艦載機を上げろ、接近する敵戦闘機を撃ち落とすのだ」

 

「観測より報告。火焔直撃砲が格納、発射隊形を解除」

 

 山南は深く頷いた。彼はこれも予測していたのだ。

 

 ──1時間前:アンドロメダ/中央作戦室──

 

 

「恐らく敵は壁の爆破後は火焔直撃砲を撃ってこないだろう。2、3時間も撃ってるんだ、砲口の加熱や砲身命数の関係もあり暫くインターバルを置くはずだ。来るべき決戦に備えてな」

 

 ──ゼルグート級ケルベロスII/艦橋──

 

 

「本当に撃ってきませんね」

 

「あぁ、恐らくヤマナミ提督の予想通りだろう。無茶を押し付けるが、やはりすごい人だ」

 

 山南の裁量は嘗ての敵将であるガミラス軍人の舌を唸らせるほどであった。

 

「アンドロメダより通信、"作戦第二段階ヘト移行セヨ"」

 

「よし、作戦第二段階へ移行。逆進速度180、全艦後退!」

 

 単縦陣に陣形を再編していた第三艦隊は次々と回頭し撤収。ゼルグートは回頭せず、ガミラス艦艇1の強度と装甲圧を誇る正面装甲をガトランティス艦隊に向け、逆進しながら撤収を始めた。ガトランティス中小艦の砲撃は勿論、メダルーサ級の艦首5連装大砲塔ですら太刀打ちできないほどの装甲だ。

 しかし、ガトランティス艦隊の一部が散開、ゼルグートの脇腹へ一太刀攻撃を加えた。

 

「右舷仰角23°より敵駆逐艦接近!」

 

「近寄らせるな!第1番から第3番砲塔開けっ、応戦開始!」

 

 はたまた、ガミラス艦艇最大の口径を誇る490粍4連装砲塔が光を放った。斬撃のごとくガトランティス艦隊を襲い、まるで日本刀に切られた巻藁の如く艦体がバラバラになった。

 

「上空に地球軍艦載機接近、敵機の迎撃を開始した模様」

 

「ありがたい、この船には対空兵器が殆どないからな。よし、逆進速度を調整、210へ増速」

 

「敵艦隊よりミサイル接近」

 

「右、対空戦闘。全ミサイル発射管、艦対空ミサイルを装填。目標、接近中の艦対艦ミサイル。撃てっ」

 

 艦体随所に設置されているミサイル発射管より艦対空ミサイルが放たれる。美しい軌道を描きながら艦対艦ミサイルに接近、迎撃に成功する。

 

「敵ミサイル排除を確認。本隊合流まで残り10タム」

 

「よし、アンドロメダへ打電」

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「ケルベロスIIより打電、作戦第三段階ヘノ移行ヲ認ム」

 

「第三艦隊撤収完了、ゼルグート級到着まで30秒」

 

「よし、ここまでだな。全艦回頭準備。航海長、面舵いっぱい、右転進、左全速!」

 

「了解、面舵いっぱい、右転進ヨーソロー!」

 

 航海長──大石 成太が舵を切る。444mの巨体が艦体を軋ませつつ回頭、敵前逃亡を図った。

 

 ──1時間前:アンドロメダ/中央作戦室──

 

 

「続いては作戦第三段階だ。敵艦の提督には"我々が壁を失い火焔直撃砲に対する防衛手段を持たなくなった雛鳥"と思ってもらいたい。その為に、全速で外縁環まで撤退する」

 

「外縁環といいますと…?」

 

 外縁環とはプロキウルスが持っている特殊な惑星構造の事である。氷塊や岩石の塵で出来た"環"を持っている惑星は太陽系にもある通り全宇宙にごまんと存在するが、プロキウルスのように主星より離れた位置に環を持っている構造のことを外縁環というのだ。主に主星から25万から40万キロ、長いものでは0.1光年も距離がある事例もある。

 

「その外縁環に全艦が突撃。一気にアスタローリアの隙間まで進撃する。恐らく敵艦隊も外縁環に突撃してくるだろう。突撃した瞬間に前以て仕掛けておいた炸裂爆弾を起爆。気流を乱して敵艦隊の隊列を崩す」

 

「なるほど、その隙に我々はアスタローリアの隙間から艦砲射撃、敵艦隊を撃破するということですか」

 

「そうだ、それが作戦第四段階に当たる。この流れを覚えておいてくれ。艦砲射撃時の陣形だが、中央にアンドロメダ、右翼に第1、第3、第6艦隊。左翼に第2、第4、第5艦隊を配置。弓形陣を形成し敵艦隊を攻撃する」

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「全艦回頭完了、外縁環へと進撃開始」

 

 アンドロメダを始め、中小艦も同行して撤退。外縁環へ最大戦速で向かった。

 

 ──メルーザ/艦橋──

 

 

「敵艦隊、撤収を開始した模様。如何なさいますか?」

 

「決まっておろう、追撃だ。なんとしても敵艦隊を殲滅するのだ!」

 

 ダガームはまんまと山南の策に嵌ってしまっていた。ガトランティス艦隊は再集結し、再度追撃を開始した。衝撃砲と水雷兵器を放ちながら連合艦隊へと接近する。

 

「火焔直撃砲、砲口の放熱処理を完了。発射しますか?」

 

「当たり前だ。目標敵艦隊、火焔直撃砲発射!」

 

 獲物に食いつく猛虎の如く、メルーザが火焔直撃砲を放つ。それは今までの業を返済しているような、怒りに満ちた攻撃だった。

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「ジョン・ポール・ジョーンズ、金剛、被弾につき戦線を離脱」

 

「アーカンソー轟沈、ヴァイナモイネン被弾、損害は小破」

 

「提督、間もなく外縁環へと突入します」

 

 予期せぬ火焔直撃砲の応酬に、1隻また1隻と落伍していった連合艦隊だが、何とか7割の戦力を有したまま次の戦場である外縁環へと突入した。

 外縁環A環には混合流体物質を満載した爆弾300弱、前以て仕掛けられていた。所謂、天候兵器である。起爆した際、周囲を流れる星間物質と混ざり合うことで特殊な乱気流を発生させる性質を持っている。

 

「外縁環に突入します!」

 

 ここからは全艦艇の航海士の腕にかかっていた。四方八方に散財している流星を避けながら航行するのだ。

 

「右転進15°。前進速度を調節、25まで低下」

 

「アスタローリアの隙間まで2000、敵艦隊突っ込んできます!」

 

 ガトランティス艦隊も連合艦隊に追従して外縁環へ突入した。流星による艦体損傷など顧みず、只管に全速前進していた。また、火焔直撃砲の統制射撃が連合艦隊を追い詰める。

 

「アスタローリアの隙間に出ます」

 

 連合艦隊は外縁環のA環とB環の狭間にある小空間──アスタローリアの隙間へと出た。長さ4000マイルほどしかないが、連合艦隊が再攻勢に出るにはもってこいの空間であった。

 

「作戦第四段階へ、炸裂爆弾爆破」

 

「全弾点火!」

 

 外縁環A環が一気に光の束に包まれた。随所で炸裂爆弾が起爆し、気流の流れが一気に変わったのだ。やがて乱気流はA環全体に及び、突入していたガトランティス艦隊を襲った。

 

 ──メルーザ/艦橋──

 

 

「だ、大都督!敵の天候攻撃です!全周囲の気流が変動、全艦が気流に流されています!」

 

「な、なんだと──火焔直撃砲!」

 

「ダメです!気流が激しく、射線制御不能!」

 

「なんだと!」

 

 ダガームは声を荒らげた。今までの所業が敵の司令官の思う壷だった、という事実が目の前に提示されているからだ。また、同時に目の前に死が迫っていることに表現出来ない危機感を募らせてしまったのだった。

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「提督、敵の隊列が乱れました!」

 

「よぉし、全艦回頭!砲雷撃戦よぉうい!」

 

 先程まで火焔直撃砲に太刀打ちできずに背中を向けていた連合艦隊が一斉に回頭、砲身とミサイル発射管、魚雷発射管をガトランティス艦隊へ向けた。

 

「目標方位修正、仰角2°。ショックカノン、主機よりのエネルギー伝導を確認。キルトラックナンバー2251、照準よろし。統制射撃及び水雷攻撃準備よろし」

 

「砲雷撃戦開始、撃ちー方はじめ」

 

「撃ちー方はじめっ!」

 

 連合艦隊が一斉に射撃を開始する。各艦から放たれたショックカノンはガトランティス艦隊を貫き、1隻また1隻と撃沈せしめた。うち、第5艦隊所属ヘルシンキの放ったショックカノンがメルーザの火焔直撃砲を貫き、使用不可能にさせる。

 

「敵火焔直撃砲の破壊を確認!」

 

「よし、一気に押すぞ!」

 

 ──メルーザ/艦橋──

 

 

「まさか、この私が誘い込まれたとは──」

 

「火焔直撃砲に直撃弾!エネルギー伝導管、随所にて破損」

 

 周囲に70弱いたガトランティス艦隊の艦影は13にまで減っていた。また、乱気流のせいで応戦が困難のため、現状は丸裸の我が身に右ストレートをノーガードで喰らい続けているようなものだった。

 

「残存艦艇は?」

 

「本艦を含め、巡洋艦3、駆逐艦4、空母5、計13隻です」

 

「こうなれば──全艦転進、なんとしてもこの気流を抜け出して敵の射程圏から逃れる。離脱後、全艦通常砲撃にて敵艦隊を攻撃するのだ」

 

 満身創痍の状態ながらも、辛うじて一部武装が使用可能な状態だったメルーザは、ほぼ無傷のナスカ級、ラスコー級、ククルカン級を従え外縁環A環を離脱。砲撃戦を展開しようと画策した。また、離脱中にナスカ級から最後のデスバデーター隊が出撃。連合艦隊の上空から急襲しようとしていた。

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「敵艦隊、A環を離脱。砲撃戦と航空戦の準備を進めているようです」

 

「最後の悪あがきか。仕方ない、作戦最終段階へ。特務艦隊へ通達。奇襲を開始せよ」

 

 ──1時間前:アンドロメダ/中央作戦室──

 

 

 作戦通達中、アントワーヌ少将よりこのような意見が入った。

 

「しかし、敵艦隊が転進し離脱したら如何なさいますか?」と。

 

 山南はパネルを切りかえて、この質問に対する回答を並べ始めた。

 

「いい質問だ。単刀直入に言うとそれが作戦第五段階に当たる。この第五段階では君たち特務艦隊に役立ってもらう」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「敵艦隊が転進しようがしまいが、君たち特務艦隊は敵艦隊の後背を突いてもらいたい。ギリギリまで熱源反応を消し、こちらの指示で突撃。一気に押し潰す」

 

「ようやく俺たちの出番というわけですか。腕が鳴りますよ」

 

「君たちの艦隊は新型主力戦艦の性能試験も兼ねられている。遺憾無くその船の力を発揮してくれ」

 

 ──特務艦隊旗艦ドレッドノート級

       壱番艦ドレッドノート/艦橋──

 

 

「アンドロメダより作戦第五段階の発令を確認」

 

「危うく出番が無いかと思ってたな。よし、機関始動。発進準備だ!」

 

 特務艦隊とは、地球連邦宇宙軍の新型主力戦艦──ドレッドノート級主力宇宙戦艦8隻による構成で出来た艦隊である。本艦隊は別働隊及び性能試験を兼ねて第八浮遊大陸基地奪還戦にアンドロメダと共に極秘投入。前期ゴストーク級が隠れ蓑にしていたデブリ群にて姿を隠していた。

 

「主機伝導管は全力運転を維持。出力限界まであと0.8」

 

「量子フライホイール、多元運動回転を開始。エネルギー伝導開始」

 

「機関始動完了。エンジン点火準備よし」

 

「いくぞ、ドレッドノート発進!」

 

 ドレッドノートのメインエンジンが点火、それに続き後続のドレッドノート7隻が発進。電撃的にデブリ群を突破しガトランティス艦隊の背後を突いた。

 

「統制射撃開始、主砲キルトラックナンバー2281へ照準。撃ちー方はじめ」

 

「撃ちー方ーはじめぇっ!」

 

 特務艦隊より砲撃戦が展開される。背後を急襲されたガトランティス艦隊には最早抗う手段は無かった。前後からの砲撃により次々と僚艦が撃沈。ついにメルーザを残して全滅した。

 

 ──メルーザ/艦橋──

 

 

「僚艦は全て撃沈。本艦もエネルギー残量僅かです、降伏か名誉の戦死を選びましょう」

 

「降伏など私の辞書には載っていない。こうなれば──敵の旗艦だけでも道連れにしてやる──全艦戦闘準備、目標敵旗艦!」

 

 メルーザの5連装大砲塔が稼働し、アンドロメダへ砲身を向ける。全面にある魚雷発射管に弾頭が装填され、発射隊形へと移行する。

 

「砲撃開始!」

 

 最後の悪あがきを始めた。もはや勝ち目などない。しかし、ここで降伏しては帝国軍人としての面子が立たない。対空射撃を縫って残存してきたデスバデーターも特別攻撃を敢行。連合艦隊を襲った。

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「全艦、砲撃開始。目標敵旗艦」

 

「射撃準備よろし、撃ちー方はじめ」

 

「撃ちー方ーはじめっ!」

 

 アンドロメダを筆頭に全艦がメルーザへ砲雷撃戦を敢行する。装甲全面に被弾し、随所で爆発。遂に主機と火焔直撃砲エネルギー伝導管に引火して大爆発を起こした。

 飛行甲板は爆煙に飲み込まれ、航空燃料にも引火し艦体を真っ二つに割らせた。

 

 ──メルーザ/艦橋──

 

 

「──死して──大帝にお詫び──を──」

 

 ダガームがそう言った瞬間、艦橋含め前後に割れた艦体が爆散。遂に跡形もなく吹き飛んだ。

 

 ──アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

 アンドロメダの目の前には見たことも無い黒煙が立ち上り、破片が辺りを汚した。先程まで戦っていたメダルーサ級はもう居ない。山南は敵の指揮官に対して、最大限の敬意と尊敬の眼差しを持って敬礼をした。

 

「敵艦隊の殲滅を確認。以降は浮遊大陸基地の奪還作戦へと移ります」

 

「分かった。撃沈艦をリストに纏めといてくれ、損傷艦は応急修理を今から始めさせるように伝達してくれ。もう敵の艦隊戦は無い。以降5時間は休息時間兼艦体補修時間とする。皆、お疲れ様だった 」

 

 山南に敬礼をする艦橋クルー。山南は敬礼を返して第一艦橋を後にしたのだった。

 

 

              第3話:光芒の喪失


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