メルヘン(英語表記)Märchen

翻訳|Marchen

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「メルヘン」の解説

メルヘン
Märchen

一般に昔話,童話おとぎ話と訳されるが,広義には,伝説,神話,寓話,滑稽譚などを含む。空想と現実が一体となった短い話のことで,主として伝承により流布した民衆文学。いくつかの定型 (「むかしむかし」で始るなど) をもち,主人公の誕生から遍歴,目的の達成まで異常な事件が続き,動機や心理の説明を排し,論理的な一貫性を求めずに語られる。美醜,善悪の対立が明確で,民衆の素朴な正義感が満たされる筋立てになっている。魔法,魔術師もメルヘンの世界に欠かせない要素で,空想をほしいままにするが,内容はあくまで人間の現実に裏打ちされ,たくまざる世間知が盛られている。神話や伝説と違う点は,それが歴史や儀礼にかかわりなく,単によくできたお話を目指すことにある。ドイツでは,18世紀啓蒙思想の時代には,人間の理性に反する非合理的なものとして低くみられたが,ヘルダーがメルヘンのなかにドイツ民族の素朴な情念と感覚が生きていると考え,『歌謡における諸民族の声』 (1778~79,1807) を著わして,歌謡やメルヘンを再評価し,1812~15年にはグリム兄弟の『子供と家庭の童話』が出て,メルヘンの本質を生かしながら,これを一般化するのに貢献した。グリムにおいても,伝承された話に作家の手が加えられているが,純粋に作家の創作になるメルヘンもある。ティーク,E.T.A.ホフマン,フケー,シャミッソーらのロマン派の作家たちは特に関心を示し,創作メルヘン Kunstmärchenに力を入れた。

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百科事典マイペディア「メルヘン」の解説

メルヘン

空想性に富む散文物語。原意は〈小さな物語〉。動物,小人,悪魔なども登場,非現実的事件が起こる。民間に口承されて成立したもので(口承文芸),グリム兄弟によって収集されたもの(グリム童話)が典型。自然発生的に民間に伝わったものを〈フォルクスメルヘン(民衆童話)〉,ある作者がその形式を借りて書いたものを〈クンストメルヘン(創作童話)〉と区別することもある。ドイツ・ロマン派の作家はメルヘンを高く評価し,創作も行った。→童話民話
→関連項目昔話

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精選版 日本国語大辞典「メルヘン」の解説

メルヘン

〘名〙 (Märchen)⸨メールヘン・メルヒェン⸩ 空想的神秘的なおとぎ話。童話。
※東京風俗志(1899‐1902)〈平出鏗二郎〉下「初年の児童には、メルヘンを多く用ひて教材とすれば」

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世界大百科事典 第2版「メルヘン」の解説

メルヘン【Märchen[ドイツ]】

原意は〈小さな物語〉〈短い報告〉。ドイツでは中世の終り頃より,非現実的なつくり話の意味で用いられるようになり,今日の文芸学上の概念では,自然法則因果律や時間・空間の規定にとらわれず,自由な想像力で創られた非日常的・不可思議な物語を意味する。童話・民話fairy tale,contes de féeの言葉がこれにあてられている。太古から自然発生的に民間に伝承されてきたメルヘンを〈フォルクスメルヘンVolksmärchen〉(民衆童話)と称し,ある作者が民衆童話の形式を借りながら自己の詩的意図を象徴的に表現する〈クンストメルヘンKunstmärchen〉(芸術童話)と区別される。

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世界大百科事典内のメルヘンの言及

【童話】より

…子どものための物語の呼称であるが,概念に広狭の差があり,時代の変遷によってもさまざまである。現在はメルヘンMärchenの意,または空想性を主とした創作の意に限ろうとしているが,かならずしも適切とはいえない。種類,様式別に,幼年童話,生活童話などと呼ぶこともある。…

【童話】より

…子どものための物語の呼称であるが,概念に広狭の差があり,時代の変遷によってもさまざまである。現在はメルヘンMärchenの意,または空想性を主とした創作の意に限ろうとしているが,かならずしも適切とはいえない。種類,様式別に,幼年童話,生活童話などと呼ぶこともある。…

【妖精物語】より

…狭義では妖精の登場する超自然的な物語を,広義では概して子ども向けの,空想と不可思議にみちた文学作品(ドイツ語の〈メルヘン〉や日本語の〈おとぎばなし〉に近い)を指す。古くはヨーロッパ諸民族の神話や伝説,また《千夜一夜物語》のような伝奇にもその先駆があるが,中世以来,独自の口承文学のジャンルとして発展し,しだいに文章化されるようになる。…

※「メルヘン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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