漫画の神様の創作現場をのぞいた気がする。三次市の奥田元宋・小由女美術館で「手塚治虫展」を見た。「鉄腕アトム」などの原画やアニメのセル画に胸躍るが、広島との縁で目を引くのが「おんぼろフィルム」の絵コンテ▲1985年の第1回広島国際アニメーションフェスティバルに多忙を極める巨匠が応募した。5分半の西部劇風アニメはフィルムにごみや傷をわざと合成し、動画の黎明(れいめい)期をしのぶ実験作。その熱意は今も色あせない▲自伝によると戦時下の少年時代に手塚さんは誓った。どんなに苦労しても漫画映画をつくる―。後に相当あった漫画の収入はアニメ制作に惜しげもなく投じた。89年に亡くなるまで広島のアニフェスにも意欲を燃やす▲きょう開幕のひろしま国際平和文化祭はそのアニフェスを刷新し、音楽とメディア芸術に幅を広げる。「愛と平和」をテーマに掲げて名を高めた伝統の祭典の終幕を惜しむ声もあった。ここは新たな発信に期待したい▲世界中からアニメが集まるコンペは健在だ。広島で制作を続けるウクライナ出身のアニメーターの作品も上映する。大阪空襲を生き延び、戦争はごめんと唱えた手塚さんも見守ってくれるだろう。