◇ののちゃん 電車(でんしゃ)って、パンタグラフで電線(でんせん)をこすりながら走るでしょう。電線はすり減(へ)らないの?
◆藤原先生 あの電線は「トロリー線」っていうの。そのトロリー線もパンタグラフも、実はそれぞれすり減っているのよ。
◇ののちゃん やっぱりそうか。
◆先生 しかも、高速(こうそく)で走ってもトロリー線とパンタグラフが弾(はず)んで離(はな)れることがないように、パンタグラフは下からトロリー線をかなり強い力で押(お)してるの。だから、何の工夫(くふう)もしなかったら相当(そうとう)の摩擦(まさつ)になるはず。トロリー線もパンタグラフもどんどんすり減るでしょうね。
◇ののちゃん なんだか、隠(かく)れた工夫がありそう。
◆先生 トロリー線はスズという金属(きんぞく)が入った銅(どう)の合金(ごうきん)よ。スズが入ると少し電気(でんき)を通しにくくなるけど、すり減りには強くなるわ。
◇ののちゃん パンタグラフは、どんな材料(ざいりょう)を使っているの。
◆先生 パンタグラフの上面(じょうめん)には「すり板」という部品が付いているの。これは銅などの金属を含(ふく)んだ炭素材(たんそざい)というものでできているわ。すり板はトロリー線とすれ合うと削(けず)れて、炭素(たんそ)の粉(こな)が出てくるの。この粉が油のような働きをして、トロリー線との摩擦(まさつ)を小さくしているのよ。
◇ののちゃん すり板の方が、たくさんすり減るようにしてあるんだね。
◆先生 線路の上をなが~く張(は)り巡(めぐ)らされたトロリー線と、パンタグラフのすり板では、すり板を交換(こうかん)する方がずっと簡単(かんたん)でしょう。だからよ。
◇ののちゃん なるほどね。
◆先生 たとえば東京の山手線では、トロリー線は1年に約35万回もパンタグラフにこすられているの。最初は直径(ちょっけい)15.49ミリの線なんだけど、これが5.99ミリ分すり減ると交換されるのよ。でも交換までだいたい13年もつわ。
◇ののちゃん へえー、そうなんだ。
◆先生 すり板も、いつも同じ場所だけがトロリー線にこすられていたんでは、そこだけがすぐに深くすり減ってしまうでしょ。そこで、板全体が均等(きんとう)にこすれるように、トロリー線は50メートルごとに50センチ幅(はば)でジグザグに張(は)ってあるわ。それでも、すり板は短ければ半年で交換よ。
◇ののちゃん だったら、パンタグラフを滑車(かっしゃ)みたいにして、トロリー線を転(ころ)がっていくようにしたら、どちらもすり減らないんじゃないの?
◆先生 昔(むかし)の路面(ろめん)電車にはそういう方式があったそうよ。だけど、速度が上がると滑車からトロリー線がはずれてしまうんだって。
(取材協力=JR東日本設備部・白石秀男課長、同運輸車両部・杉浦芳光課長、構成=武居克明)
(朝日新聞社発行 5月7日付be)
◇調べてみよう
(1)地下鉄(ちかてつ)や路面(ろめん)電車のトロリー線やパンタグラフって、どんなものなんだろう。
(2)地下鉄と、JRや私鉄(してつ)の乗り入れが行われている路線(ろせん)で、切り替わりの場所ではトロリー線はどうなっているか鉄道会社に聞いてみよう。