2020/12/08
20:18:06
モンジさんから固めSSを頂きました。
月夜をメインにくのこの姉妹も固まってる素敵なSSです、どうぞ
--------------------------
「と、いうわけで実験に協力して?」
フィレスタ一族の城内、豪奢な応接室で少女がにこりと微笑んで言った。
肩口で揃えた金髪に白衣姿の少女、科学者の葉月 灯だ。
くりくりとした青い瞳に可愛らしい鼻筋。活発、利発という言葉がピタリと当てはまるそんな少女だった。
「貴女の言う実験って人体実験でしょ? 最近は助手二人やあの盗賊の子達もいるんだからそっちでやってよ」
と、答えるのは長い黒髪にピンクの大きなリボンが特徴の少女。
小柄ながらも凛々しさを感じさせる顔立ちと、鍛えられた四肢が見て取れる。
フィレスタ一族の現女王の護衛。月夜だ。
月夜にとって目の前の少女はどうにも苦手意識があった。
この葉月 灯と言う科学者、どうにも人を実験材料にするのに躊躇が無い。
主である女王アタナシアの友人ではあるのだが、その繋がりのせいで色々と実験に巻き込まれたことがある。
双子の姉である静夜と一緒に固められ、恥ずかしい目にあったのも一度や二度ではないのだ。
「今回の実験はちょっとした戦闘訓練でね?一般人の千紗やロナでは無理だし、くのこ達は別の実験で今凍ってるの」
「戻してあげなよ……」
「姉妹で体温交換してお互いを仲良く冷やし続けてるんだよ? 邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「その妙な気遣いを私にもしてほしいんだけど……」
「科学の発展のためにお願い!」
ぱん、と手を合わせて拝んでくる灯。
「えぇ……いやだなぁ……」
そう溜息を吐く月夜だが、実際のところ彼女に拒否権はない。
こんなのでも一応は主の友人なのだ。無下に扱えない。
それに下手に断ってもどうせ不意打ちで実験にぶち込まれるか、主が面白がって協力しなさいと言ってくるに違いないのだ。
ならば、ここで少しでも良い条件を引き出して了承する方がまだマシだ。
「謝礼くらいは欲しいんだけど」
「それは勿論」
「後、実験終わっても変なことしないようにして」
「しないしない」
「実験終わったらすぐに帰して」
「約束する」
「ん~……じゃあ、引き受けるよ」
「ありがとう! 月夜!」
ぱっと笑顔を浮かべ、手をぎゅっと握ってくる灯。
その可愛らしい笑顔が、月夜には堕天使の笑顔に見えた。
そして二人は灯のラボへと向かう。
城とラボはだいぶ距離が離れているが、今は移動ゲートがあるためそこまで時間はかからない。
ラボに到着すると、助手の二人が出迎えてくれた。
赤髪におさげの素朴で可愛らしい千紗と、緑髪の笑顔がまぶしいロナだ。
助手といいながらも、その実態は灯に固められるのが好きな実験体だが……
そして廊下の途中、月夜が実験室に目をやると、青白い影が見えた。
くのこ、このかの姉妹だ。
お互いに抱き合って口づけを交わしたまま凍り付いている。
「お互いに体温を奪い合ってどれだけ冷たくなるかの実験中だよ」
口付けを交わした二人の口の端からは氷柱が出来ており、その股は愛液が凍って厚く覆われていた。
足元も愛液で凍り付いており、二人の足が覆われて一つにまとまっているようだ。
「新しく温度を下げる塗布薬を作ってね? 寒くなればなるほど感度が上昇する上に、周囲の温度を吸収し続けるの」
「それを二人に塗ったと……」
「目指せ絶対零度超え!」
この女を始末した方が世界は平和になるのでは、と月夜は思ったがとりあえず無視することにする。
そして扉をくぐると少し広めの部屋に出た。
部屋の中央には妙なキャタピラ付の機械が一体立っている。
「あれと戦えばいいわけ?」
道中でも説明を受けたが、もう一度確認をする月夜。
「うん。遠慮なく戦っていいよ。壊しても大丈夫」
新しく警備用の機械を作ったので、それの戦闘能力を見たい。というのが今回の実験の目的らしい。
「じゃあ準備するからちょっと待ってて」
そう言って灯は部屋から出ていった。
部屋の広さはそれなりで、普通に戦う分には問題なさそうだ。
そして月夜は目の前の機械に目をやる。
全身が鈍色の鉄装甲に覆われており、円筒形の胴体と頭に下半身はキャタピラ、両手にはノズルが取り付けられていた。
その頭には申し訳程度に顔が書かれているが、その顔がどこかファンシーなのは気のせいだろうか。
「灯の趣味じゃないから、千紗かロナが書いたのかな?」
しばらく機械を観察してると部屋に灯の声が響いてくる。
『見たいのは接近戦での能力だから、遠くから魔法でって言うのは無しね』
スピーカー越しの声。どうやら別の部屋でこちらを観察しているようだ。
「煌刃は使ってもいいの?」
『近接武器ならいいよ』
煌刃。
月夜の愛刀であり、彼女の魔法基礎である「断」を最大限に生かす魔法武器である。
柄の内部にマナを溜め込む機構が備わっており、そのマナを使用することで魔法光の刃を形成する。
『ああ、でもあんまり早くに倒されるとデータが取れないから、そういうのは無しでお願い』
「注文多いなぁ……瞬殺せず、なるべく近接で戦うかぁ」
『武器用意しようか?』
「いや、これでいいよ」
そう言って月夜が掲げたのは白鞘の小刀。
鞘に入ったままの煌刃だ。鞘と柄に間には布が巻かれており、抜けないようになっている。
この状態では多少頑丈な木の棒でしかない。
月夜はそんなもので戦うというのだ。
『月夜がそれでいいなら、いいけど……まあいいか。じゃあ、始めるよ』
そう灯が言うと、部屋に警報が鳴り響く。
数度の警告音と共に赤いライトが点滅し、周囲の壁に隔壁が降りていく。
隔壁が降りきると同時に警報も鳴り止み、そして月夜の目の前の機械がゆっくりと上体を起こした。
「先ずは見に回りますか」
数メートル離れた状態で、月夜は軽くステップを踏む。
何かあれば即座に懐に踏み込める距離だ。
と、不意に機械の左手が上がる。
ノズルの先端が月夜を捉えた瞬間、轟音が破裂した。
「うひゃい!!?」
咄嗟に首を横に振った月夜。
チッと掠る音がして、月夜の顔面があった場所拳ほどの鉄球が通った。
鉄球はそのまま壁に突き刺さり、隔壁の一部に巨大なひびを作る。
当たれば死ぬような勢いと質量だ。
「こ、殺す気かぁ!」
「大丈夫。人体に無害な成分の安全な球だよ」
「安全の定義おかしいでしょ!! ていうか、遠くから攻撃ダメって言ったじゃない!!」
「月夜は遠くからやったらダメだけど、そのガーディアンはやっちゃダメって言ってないよ?」
「なんだそれ!」
「近付かれた時の動きをもっと見たいんだよ。ほら頑張って」
無責任な灯の言葉と共に、機械―――ガーディアンの両手が月夜に向けられる。
途端に轟音が連発し、幾十もの鉄球が月夜に襲い掛かった。
「こんのっ!」
裂帛の気合と共に月夜が身を躍らせた。
半身になって球の間をすり抜け、身を回して回避する。
床スレスレを縫うように渡り、かと思えば一足で後方へ回りながら跳ぶ。
ガーディアンの砲撃のことごとくを、月夜の華奢な体は踊るように避けていった。
ガチンと音がして、砲撃音が一瞬鳴り止む。
どうやら球切れの様だ。
「チャンス!」
ここぞとばかりに月夜が踏み込む。
一足跳びで数メートルの距離が縮み、まるで瞬間移動であるかのように月夜の姿がガーディアンの前に現れた。
だが、その動きを読んでいたかのように、ガーディアンの左手が月夜の顔面を捉えた。
再装填だ。
轟音。
月夜の目前で鉄球が砲撃された。
だが、月夜は瞬き一つせず、黒い球を見つめる。
いつ振られたのか、その右手の短刀が鉄球を下から叩いていた。
軌道を変えられ、球は上に跳ね上がる。
月夜の大きなリボンをかすめながら、球は狙いを外れた。
だが、ガーディアンは更に右手のノズルで砲撃をしようとする。
球をかち上げるために月夜の振り上げた短刀の柄が、そのまま振り下ろされる。
右手砲を上から打ち付けられ、ガーディアンの砲撃が床を抉った。
そのまま逆手に握られた鞘付きの短刀が、ガーディアンの下顎部分を強打する。
常人ならそれだけで昏倒するだろう。
だが、キャタピラに支えられたガーディアンは倒れることもなく、そのまま両ノズルから剣を吹き出した。
刃が空気を切り裂き、両側から挟み切るかの如く月夜に迫る。
「あー!しつこい!」
ガーディアンの腕を両手で弾き、月夜が地面を蹴った。
突き出された膝は、そのままガーディアンの頭に突き刺さり、そのファンシーな顔を歪ませる。
上体が仰け反り、ガーディアンが後ろにぐらりと傾く。
ギャリギャリとキャタピラが回転するが、傾いたバランスを修正することは出来ない。
ガシャンと派手な音を立てて、ガーディアンが仰向けに倒れた。
「ふう……」
やれやれと言うかのように息を吐き出す月夜。
倒れたガーディアンはどうにか立ち上がろうと藻掻いている。
「もう、終わりでいい?」
「うーん、流石は女王の護衛。まるで相手にならないか」
「それはどーも」
「もうちょっとデータ欲しいから、壊れるまでやっちゃっていいよ」
「はぁ、まったく」
がくりと肩を落とす月夜。
そこに上段から剣が振り落とされた。
立ち上がったガーディアンが背後から剣を振り下ろしたのだ
「うわっと!」
すんでのところで前に跳び、剣を避ける月夜。
だがガーディアンもキャタピラを鳴らして即座に間合いを詰める。
二本の剣が四方八方から襲い掛かり、月夜を切り刻まんとしていた。
剣先が月夜の鼻先を掠める。
二本の剣が暴風のように振るわれ、叩き付けられる。
だが、その全てを月夜は寸前のところで躱していた。
身を屈め、剣の間に滑り込み、かと思えば軽く一歩引く。
一歩間違えば白刃がその身を刻みかねないというのに、月夜は平然とその雪崩の如き剣の群れを避け続けていた。
踊るようなその身のこなしは、どこか神秘的でさえもある。
何十秒か、何分か、ガーディアンの剣をひたすら躱し続ける月夜。
「こんなものかな?」
ぽつりと、月夜が言葉を零した瞬間、ガーディアンが上から剣を振り下ろした。
がきんと剣と床がぶつかる音が鳴る。
とん、と何かが乗る音が聞こえた。
床に叩きつけられた剣。その上に、月夜が立っているのだ。
如何に床に突き刺さっているとはいえ、刃の上にこともなげに立つ月夜。
その動きはまるで見えない羽が生えているかのようだ。
「動きが単調だよ。剣筋が読めちゃえばこんなもん」
月夜が、短刀の鞘を切る。
一瞬、光が迸った。
緑光の筋が流れるかのように煌めき、ガーディアンを通り過ぎる。
と、同時にいつの間にか、月夜がガーディアンの背後に立っていた。
その手には光り輝く刀身。
ガーディアンが背後の月夜に剣を振ろうとする。
だが、その腕が空を切った。
いや、寧ろ振られたはずの腕がなかった。
肩口から先の腕が、ガーディアンの足元に転がっている。
尚も残った腕を振るわんとするガーディアン。
だが、もう片方の腕もガシャンと地面に音を立てて転がる。
機械ですら感知出来ない斬撃。
魔光刀・煌刃。
魔法を刀身として形成する魔道具。
つまり、「断」の魔術基礎を持つ月夜が振るえば、全てを断ち切る無双の剣と化す。
石だろうが鉄だろうが、その緑光の前では等しく斬られるだけ。
その分断の緑光が、ガーディアンに振るわれた。
一閃の光。
刀を振るった体勢から、残心の構えを取る月夜。
手を失ったガーディアンがなおも月夜に迫ろうとする。
だが、その首がそして胴体が、ギシリと傾いだ。
そのまま斜めに上半身と首がずれていく。
ガーディアンのセンサーからも、モニタリングしていた灯からも、斬撃の光は一本しか見えなかった。
だが、現実には首と胴体が両断されている。
月夜以外、誰にも感知出来ない神速の二連撃。
それを物語るかのように両手を失ったガーディアンが三つに分かれていく。
ガシャンと派手な音を立てて、ガーディアンがその場に崩れ落ちた。
辛うじて、キャタピラの足と胴体の斜め半分だけがその場に立ち尽くしている。
「終わったよー」
何ともなしに月夜が声をかける。
と、スピーカーから灯の声が響いてきた。
『はい、ご苦労様。どうだった?』
「動きが単調で、読みやすいかな。まあ、普通の人なら倒せるだろうけど、私や姉さんみたいに戦える人だと力不足じゃない?」
『まあ、そこらへんは大丈夫』
「なんで?」
『今からその子自爆するから』
「へ?」
瞬間、ガーディアンが炸裂した。
青白い白煙が一瞬で室内を満たす。
パキパキパキと空気が凍りつく音が響いた。
室内が極低温まで冷やされ、同時にガーディアンから噴き出した風雪が部屋を駆け巡る。
一瞬で壁や天井に氷が張り、氷柱が垂れ始めた。
床は凍り付き、そこら中に氷の塊が生まれる。
そうしてから、しばらくして、灯が部屋に入ってきた。
部屋の中は見事に青白い氷の世界になっていた。
防寒着なしでは直ぐに凍り付いてしまうだろう。
千紗やロナなら喜んで裸のまま入るんだろうなぁ。と、防寒着を着込んだ灯はぼんやり考える。
部屋の中央には、凍り付いて白くなったガーディアンの残骸が転がっていた。
ふとすればただの青白い氷の塊にしか見えないだろう。
そしてその傍らには、巨大な氷傀が生えていた、
まるで青い宝石のようにきらきらと輝くそれは、青白い光沢と共に白い冷気を纏っている。
青白の世界の中であっても一層目立つそれは、よく見れば中に何かが見える。
それは月夜だった。
ぽかんと口を開けたまま、驚いた表情で月夜が氷の中に閉じ込められているのだ。
両手を降ろし、僅かに足を開いき、僅かに仰け反った姿勢で凍り付いている。
片手に煌刃、片手にその鞘をもってはいるが、その緑光は既に消えていた。
突然のことに流石の月夜も反応できず、そのまま氷漬けになってしまったようだ。
琥珀に閉じ込められたかのように氷に封じられた月夜。
氷の透明度が高いため、その肌や黒髪、揺れるピンクのリボンまでもがその色を見て取れる。
その様子はまるで時間が止まったかのようだ。
驚きに見開かれた赤い瞳も氷の中では動くこともなく、先ほどまでボヤいていたその口も今はぽっかりと開かれたまま。
月夜の凛とした美しさがそのまま保存され、まさに宝石のような美しさを醸し出している。
「ふむふむ、月夜が反応出来ないなら防犯用には十分かな? これなら不埒な侵入者も凍らせて捕獲できる」
コンコンと、月夜の氷を叩きながら灯が言う。
しげしげとその氷の中の肢体や顔を眺める灯。
普段の月夜なら嫌がるだろうが、今は氷漬けの状態では、なんの反応も言葉も返さない。
「さて、データも取れたし、約束通り変なこともせず、すぐに城に帰してあげるか」
そう言って灯は月夜を城へと送り返した。
文字通り何もせず、凍り付いたままの氷塊の状態で。
城の中庭に置かれた氷塊の月夜は、月の光を浴びてきらきらと輝いていたという。
まさに月夜の氷中花、ということで、主のアナタシアが気に入ったらしく、月夜が元に戻るのはしばらく経ってからだったという。
後日、謝礼を受け取った月夜だが、灯の実験には絶対に協力しないと心に強く誓ったらしい。
月夜をメインにくのこの姉妹も固まってる素敵なSSです、どうぞ
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「と、いうわけで実験に協力して?」
フィレスタ一族の城内、豪奢な応接室で少女がにこりと微笑んで言った。
肩口で揃えた金髪に白衣姿の少女、科学者の葉月 灯だ。
くりくりとした青い瞳に可愛らしい鼻筋。活発、利発という言葉がピタリと当てはまるそんな少女だった。
「貴女の言う実験って人体実験でしょ? 最近は助手二人やあの盗賊の子達もいるんだからそっちでやってよ」
と、答えるのは長い黒髪にピンクの大きなリボンが特徴の少女。
小柄ながらも凛々しさを感じさせる顔立ちと、鍛えられた四肢が見て取れる。
フィレスタ一族の現女王の護衛。月夜だ。
月夜にとって目の前の少女はどうにも苦手意識があった。
この葉月 灯と言う科学者、どうにも人を実験材料にするのに躊躇が無い。
主である女王アタナシアの友人ではあるのだが、その繋がりのせいで色々と実験に巻き込まれたことがある。
双子の姉である静夜と一緒に固められ、恥ずかしい目にあったのも一度や二度ではないのだ。
「今回の実験はちょっとした戦闘訓練でね?一般人の千紗やロナでは無理だし、くのこ達は別の実験で今凍ってるの」
「戻してあげなよ……」
「姉妹で体温交換してお互いを仲良く冷やし続けてるんだよ? 邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「その妙な気遣いを私にもしてほしいんだけど……」
「科学の発展のためにお願い!」
ぱん、と手を合わせて拝んでくる灯。
「えぇ……いやだなぁ……」
そう溜息を吐く月夜だが、実際のところ彼女に拒否権はない。
こんなのでも一応は主の友人なのだ。無下に扱えない。
それに下手に断ってもどうせ不意打ちで実験にぶち込まれるか、主が面白がって協力しなさいと言ってくるに違いないのだ。
ならば、ここで少しでも良い条件を引き出して了承する方がまだマシだ。
「謝礼くらいは欲しいんだけど」
「それは勿論」
「後、実験終わっても変なことしないようにして」
「しないしない」
「実験終わったらすぐに帰して」
「約束する」
「ん~……じゃあ、引き受けるよ」
「ありがとう! 月夜!」
ぱっと笑顔を浮かべ、手をぎゅっと握ってくる灯。
その可愛らしい笑顔が、月夜には堕天使の笑顔に見えた。
そして二人は灯のラボへと向かう。
城とラボはだいぶ距離が離れているが、今は移動ゲートがあるためそこまで時間はかからない。
ラボに到着すると、助手の二人が出迎えてくれた。
赤髪におさげの素朴で可愛らしい千紗と、緑髪の笑顔がまぶしいロナだ。
助手といいながらも、その実態は灯に固められるのが好きな実験体だが……
そして廊下の途中、月夜が実験室に目をやると、青白い影が見えた。
くのこ、このかの姉妹だ。
お互いに抱き合って口づけを交わしたまま凍り付いている。
「お互いに体温を奪い合ってどれだけ冷たくなるかの実験中だよ」
口付けを交わした二人の口の端からは氷柱が出来ており、その股は愛液が凍って厚く覆われていた。
足元も愛液で凍り付いており、二人の足が覆われて一つにまとまっているようだ。
「新しく温度を下げる塗布薬を作ってね? 寒くなればなるほど感度が上昇する上に、周囲の温度を吸収し続けるの」
「それを二人に塗ったと……」
「目指せ絶対零度超え!」
この女を始末した方が世界は平和になるのでは、と月夜は思ったがとりあえず無視することにする。
そして扉をくぐると少し広めの部屋に出た。
部屋の中央には妙なキャタピラ付の機械が一体立っている。
「あれと戦えばいいわけ?」
道中でも説明を受けたが、もう一度確認をする月夜。
「うん。遠慮なく戦っていいよ。壊しても大丈夫」
新しく警備用の機械を作ったので、それの戦闘能力を見たい。というのが今回の実験の目的らしい。
「じゃあ準備するからちょっと待ってて」
そう言って灯は部屋から出ていった。
部屋の広さはそれなりで、普通に戦う分には問題なさそうだ。
そして月夜は目の前の機械に目をやる。
全身が鈍色の鉄装甲に覆われており、円筒形の胴体と頭に下半身はキャタピラ、両手にはノズルが取り付けられていた。
その頭には申し訳程度に顔が書かれているが、その顔がどこかファンシーなのは気のせいだろうか。
「灯の趣味じゃないから、千紗かロナが書いたのかな?」
しばらく機械を観察してると部屋に灯の声が響いてくる。
『見たいのは接近戦での能力だから、遠くから魔法でって言うのは無しね』
スピーカー越しの声。どうやら別の部屋でこちらを観察しているようだ。
「煌刃は使ってもいいの?」
『近接武器ならいいよ』
煌刃。
月夜の愛刀であり、彼女の魔法基礎である「断」を最大限に生かす魔法武器である。
柄の内部にマナを溜め込む機構が備わっており、そのマナを使用することで魔法光の刃を形成する。
『ああ、でもあんまり早くに倒されるとデータが取れないから、そういうのは無しでお願い』
「注文多いなぁ……瞬殺せず、なるべく近接で戦うかぁ」
『武器用意しようか?』
「いや、これでいいよ」
そう言って月夜が掲げたのは白鞘の小刀。
鞘に入ったままの煌刃だ。鞘と柄に間には布が巻かれており、抜けないようになっている。
この状態では多少頑丈な木の棒でしかない。
月夜はそんなもので戦うというのだ。
『月夜がそれでいいなら、いいけど……まあいいか。じゃあ、始めるよ』
そう灯が言うと、部屋に警報が鳴り響く。
数度の警告音と共に赤いライトが点滅し、周囲の壁に隔壁が降りていく。
隔壁が降りきると同時に警報も鳴り止み、そして月夜の目の前の機械がゆっくりと上体を起こした。
「先ずは見に回りますか」
数メートル離れた状態で、月夜は軽くステップを踏む。
何かあれば即座に懐に踏み込める距離だ。
と、不意に機械の左手が上がる。
ノズルの先端が月夜を捉えた瞬間、轟音が破裂した。
「うひゃい!!?」
咄嗟に首を横に振った月夜。
チッと掠る音がして、月夜の顔面があった場所拳ほどの鉄球が通った。
鉄球はそのまま壁に突き刺さり、隔壁の一部に巨大なひびを作る。
当たれば死ぬような勢いと質量だ。
「こ、殺す気かぁ!」
「大丈夫。人体に無害な成分の安全な球だよ」
「安全の定義おかしいでしょ!! ていうか、遠くから攻撃ダメって言ったじゃない!!」
「月夜は遠くからやったらダメだけど、そのガーディアンはやっちゃダメって言ってないよ?」
「なんだそれ!」
「近付かれた時の動きをもっと見たいんだよ。ほら頑張って」
無責任な灯の言葉と共に、機械―――ガーディアンの両手が月夜に向けられる。
途端に轟音が連発し、幾十もの鉄球が月夜に襲い掛かった。
「こんのっ!」
裂帛の気合と共に月夜が身を躍らせた。
半身になって球の間をすり抜け、身を回して回避する。
床スレスレを縫うように渡り、かと思えば一足で後方へ回りながら跳ぶ。
ガーディアンの砲撃のことごとくを、月夜の華奢な体は踊るように避けていった。
ガチンと音がして、砲撃音が一瞬鳴り止む。
どうやら球切れの様だ。
「チャンス!」
ここぞとばかりに月夜が踏み込む。
一足跳びで数メートルの距離が縮み、まるで瞬間移動であるかのように月夜の姿がガーディアンの前に現れた。
だが、その動きを読んでいたかのように、ガーディアンの左手が月夜の顔面を捉えた。
再装填だ。
轟音。
月夜の目前で鉄球が砲撃された。
だが、月夜は瞬き一つせず、黒い球を見つめる。
いつ振られたのか、その右手の短刀が鉄球を下から叩いていた。
軌道を変えられ、球は上に跳ね上がる。
月夜の大きなリボンをかすめながら、球は狙いを外れた。
だが、ガーディアンは更に右手のノズルで砲撃をしようとする。
球をかち上げるために月夜の振り上げた短刀の柄が、そのまま振り下ろされる。
右手砲を上から打ち付けられ、ガーディアンの砲撃が床を抉った。
そのまま逆手に握られた鞘付きの短刀が、ガーディアンの下顎部分を強打する。
常人ならそれだけで昏倒するだろう。
だが、キャタピラに支えられたガーディアンは倒れることもなく、そのまま両ノズルから剣を吹き出した。
刃が空気を切り裂き、両側から挟み切るかの如く月夜に迫る。
「あー!しつこい!」
ガーディアンの腕を両手で弾き、月夜が地面を蹴った。
突き出された膝は、そのままガーディアンの頭に突き刺さり、そのファンシーな顔を歪ませる。
上体が仰け反り、ガーディアンが後ろにぐらりと傾く。
ギャリギャリとキャタピラが回転するが、傾いたバランスを修正することは出来ない。
ガシャンと派手な音を立てて、ガーディアンが仰向けに倒れた。
「ふう……」
やれやれと言うかのように息を吐き出す月夜。
倒れたガーディアンはどうにか立ち上がろうと藻掻いている。
「もう、終わりでいい?」
「うーん、流石は女王の護衛。まるで相手にならないか」
「それはどーも」
「もうちょっとデータ欲しいから、壊れるまでやっちゃっていいよ」
「はぁ、まったく」
がくりと肩を落とす月夜。
そこに上段から剣が振り落とされた。
立ち上がったガーディアンが背後から剣を振り下ろしたのだ
「うわっと!」
すんでのところで前に跳び、剣を避ける月夜。
だがガーディアンもキャタピラを鳴らして即座に間合いを詰める。
二本の剣が四方八方から襲い掛かり、月夜を切り刻まんとしていた。
剣先が月夜の鼻先を掠める。
二本の剣が暴風のように振るわれ、叩き付けられる。
だが、その全てを月夜は寸前のところで躱していた。
身を屈め、剣の間に滑り込み、かと思えば軽く一歩引く。
一歩間違えば白刃がその身を刻みかねないというのに、月夜は平然とその雪崩の如き剣の群れを避け続けていた。
踊るようなその身のこなしは、どこか神秘的でさえもある。
何十秒か、何分か、ガーディアンの剣をひたすら躱し続ける月夜。
「こんなものかな?」
ぽつりと、月夜が言葉を零した瞬間、ガーディアンが上から剣を振り下ろした。
がきんと剣と床がぶつかる音が鳴る。
とん、と何かが乗る音が聞こえた。
床に叩きつけられた剣。その上に、月夜が立っているのだ。
如何に床に突き刺さっているとはいえ、刃の上にこともなげに立つ月夜。
その動きはまるで見えない羽が生えているかのようだ。
「動きが単調だよ。剣筋が読めちゃえばこんなもん」
月夜が、短刀の鞘を切る。
一瞬、光が迸った。
緑光の筋が流れるかのように煌めき、ガーディアンを通り過ぎる。
と、同時にいつの間にか、月夜がガーディアンの背後に立っていた。
その手には光り輝く刀身。
ガーディアンが背後の月夜に剣を振ろうとする。
だが、その腕が空を切った。
いや、寧ろ振られたはずの腕がなかった。
肩口から先の腕が、ガーディアンの足元に転がっている。
尚も残った腕を振るわんとするガーディアン。
だが、もう片方の腕もガシャンと地面に音を立てて転がる。
機械ですら感知出来ない斬撃。
魔光刀・煌刃。
魔法を刀身として形成する魔道具。
つまり、「断」の魔術基礎を持つ月夜が振るえば、全てを断ち切る無双の剣と化す。
石だろうが鉄だろうが、その緑光の前では等しく斬られるだけ。
その分断の緑光が、ガーディアンに振るわれた。
一閃の光。
刀を振るった体勢から、残心の構えを取る月夜。
手を失ったガーディアンがなおも月夜に迫ろうとする。
だが、その首がそして胴体が、ギシリと傾いだ。
そのまま斜めに上半身と首がずれていく。
ガーディアンのセンサーからも、モニタリングしていた灯からも、斬撃の光は一本しか見えなかった。
だが、現実には首と胴体が両断されている。
月夜以外、誰にも感知出来ない神速の二連撃。
それを物語るかのように両手を失ったガーディアンが三つに分かれていく。
ガシャンと派手な音を立てて、ガーディアンがその場に崩れ落ちた。
辛うじて、キャタピラの足と胴体の斜め半分だけがその場に立ち尽くしている。
「終わったよー」
何ともなしに月夜が声をかける。
と、スピーカーから灯の声が響いてきた。
『はい、ご苦労様。どうだった?』
「動きが単調で、読みやすいかな。まあ、普通の人なら倒せるだろうけど、私や姉さんみたいに戦える人だと力不足じゃない?」
『まあ、そこらへんは大丈夫』
「なんで?」
『今からその子自爆するから』
「へ?」
瞬間、ガーディアンが炸裂した。
青白い白煙が一瞬で室内を満たす。
パキパキパキと空気が凍りつく音が響いた。
室内が極低温まで冷やされ、同時にガーディアンから噴き出した風雪が部屋を駆け巡る。
一瞬で壁や天井に氷が張り、氷柱が垂れ始めた。
床は凍り付き、そこら中に氷の塊が生まれる。
そうしてから、しばらくして、灯が部屋に入ってきた。
部屋の中は見事に青白い氷の世界になっていた。
防寒着なしでは直ぐに凍り付いてしまうだろう。
千紗やロナなら喜んで裸のまま入るんだろうなぁ。と、防寒着を着込んだ灯はぼんやり考える。
部屋の中央には、凍り付いて白くなったガーディアンの残骸が転がっていた。
ふとすればただの青白い氷の塊にしか見えないだろう。
そしてその傍らには、巨大な氷傀が生えていた、
まるで青い宝石のようにきらきらと輝くそれは、青白い光沢と共に白い冷気を纏っている。
青白の世界の中であっても一層目立つそれは、よく見れば中に何かが見える。
それは月夜だった。
ぽかんと口を開けたまま、驚いた表情で月夜が氷の中に閉じ込められているのだ。
両手を降ろし、僅かに足を開いき、僅かに仰け反った姿勢で凍り付いている。
片手に煌刃、片手にその鞘をもってはいるが、その緑光は既に消えていた。
突然のことに流石の月夜も反応できず、そのまま氷漬けになってしまったようだ。
琥珀に閉じ込められたかのように氷に封じられた月夜。
氷の透明度が高いため、その肌や黒髪、揺れるピンクのリボンまでもがその色を見て取れる。
その様子はまるで時間が止まったかのようだ。
驚きに見開かれた赤い瞳も氷の中では動くこともなく、先ほどまでボヤいていたその口も今はぽっかりと開かれたまま。
月夜の凛とした美しさがそのまま保存され、まさに宝石のような美しさを醸し出している。
「ふむふむ、月夜が反応出来ないなら防犯用には十分かな? これなら不埒な侵入者も凍らせて捕獲できる」
コンコンと、月夜の氷を叩きながら灯が言う。
しげしげとその氷の中の肢体や顔を眺める灯。
普段の月夜なら嫌がるだろうが、今は氷漬けの状態では、なんの反応も言葉も返さない。
「さて、データも取れたし、約束通り変なこともせず、すぐに城に帰してあげるか」
そう言って灯は月夜を城へと送り返した。
文字通り何もせず、凍り付いたままの氷塊の状態で。
城の中庭に置かれた氷塊の月夜は、月の光を浴びてきらきらと輝いていたという。
まさに月夜の氷中花、ということで、主のアナタシアが気に入ったらしく、月夜が元に戻るのはしばらく経ってからだったという。
後日、謝礼を受け取った月夜だが、灯の実験には絶対に協力しないと心に強く誓ったらしい。
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凍結した月夜…表情&ポーズとっても可愛いのです☆
【IFの世界】
首と胴体が両断されるガーディアン、自爆して月夜を凍結。
更に…ガーディアンの特殊能力によりガーディアンの同じ姿になるように月夜の身体を両断(凍結付き)される★
そして…アタナシアに頭部を抱き抱えられ愛でるのであった☆