さらに近年、別の目的でこの樹海に棲みつく者たちがいるという。人を殺すことに快楽を感じる異常人物「殺人マニア」である。そこにいるだけでも怖いはずの樹海のど真ん中で、彼らは身を潜めてひたすら獲物が現れるのを待っているという。獲物とは自殺志願者のこと。そもそも死ぬつもりでやって来たのだから、自ら命を絶つ前に襲いかかってなぶり殺してしまおう、というわけだ。
その際に彼らが注意を払うのが、死体を早い段階で発見されぬよう、森の奥深くに隠すことだ。白骨化まで至れば、警察も他殺であることを見極めることは難しく、わりと簡単に自殺の死体として処理してくれる。こうして樹海の殺人マニアは容疑をかけられることもなく、その存在すら今日まで一切語られていない。
こうしたマニアが人を殺すことだけを目的としている一方、一部のヤクザはシノギのため、自殺志願者を待ち伏せているとの話もある。彼らが求めているのは、死んで間もない人間の皮膚や血液、そして新鮮な臓器。これらを臓器移植の闇ルートに流せば、かなりいい収入が手に入る。脳みそに至っては、とある化粧品工場で言い値で買い取ってくれるとの話もあるぐらいだ。
全身を白い服に包んだ正体不明の何者かが、樹海の中を夜な夜な徘徊しているという噂が、地元ではもともとあった。この白い影は複数見られ、まずもって人が立ち入らない樹海の深部でたびたび目撃されていた。どうやら白い服は特殊清掃用の防護服らしく、菌や有害物質による感染症から身を守る目的でこのような姿になっていたものと想像できる。いわゆる一般的なヤクザの風貌とはかけ離れた姿ではあるが、傘下に知識を備えた実働部隊が存在するとも考えられる。
とは言え、臓器まで抜き取られた死体が発見された場合、さすがに警察も簡単には自殺として処理しないのではとの疑問も浮かぶ。だが野犬を筆頭に、キツネ、タヌキ、イタチ、ネズミ、さらにはカラスと、樹海には腹を空かした様々な動物が徘徊しており、いの一番に死者の内臓を喰い尽くしてくれる。
つまり、たとえ本当に自殺した死体であっても、ここではキレイな状態で発見される例が極めて少ない。地元の警察も樹海から年中死体を引き上げているため、いちいち調べてはいられないというのが実情のようだ。