中野ZERO講演メモ全文

どうもです。今日の集会では時間がなかったので、用意していたメモの8割も紹介できませんでした。本当はライブで英語とか交えてお話したかったのですが、結構カッチしたメモを用意してあったので、全文を公開します。基本的に転載OKですので、どうかよろしくおねがいします。

2010年12月6日 18:30(開場) 19:00(開演) 21:15(終了)
「『非実在青少年規制』改メ『非実在犯罪規制』へ、都条例改正案の問題点は払拭されたのか?」
主催:「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」
<共同代表:藤本由香里(明治大学准教授)・山口貴士(弁護士・リンク総合法律事務所)>
会場:中野ZERO小ホール

兼光パネル用メモ:

■兼光ダニエル真です。
マンガ・アニメ・小説・ゲーム・その他の翻訳の他にも作品作り自体にお手伝いしています。
見てくれはこんな[兼光は一見外人の様相の持ち主でございます]ですが、最初の宇宙戦艦ヤマトの劇場版を映画館で見たのが私の最も古い映画を見た記憶だったり、最初のガンプラブームで足首の曲がらないザクとかガンダムとか作っていました。

私は大学の為に渡米した1990年末、この前後に「有害コミック問題」が日本で吹き荒れ、親しい友人らがこれに巻き込まれて酷い目にあったのを憶えています。その後、1990年から2002年までの約12年間、時たま日本に戻っては規制の影響が様々な作品に及ぼしているのを見てきました。

という訳で筋金入りのオタクでございます。

さて、最初に東京都青少年健全育成条例改正案に廻って真摯な議論を交わして頂けている都議の皆さんに最大級の感謝と御礼を述べたいと思います。感情論が吹き荒れ、きちんとした議論をする余裕もありません。通常ですと子供を守るためということで簡単に看過されかねないような条例案を大変こんな状況の中で取り上げてくださって本当にありがとうございます。

■話は変わりまして、長い間日米間の猥褻や規制を廻る姿勢の違いについて直接見てきました。なぜ東京の条例に際してこんな話をしているかと申しますと、ことさら規制推進派の方々がやれ「先進国でエロがこれだけ溢れているのは日本だけだ」とか「キリスト教権だったら東京の状況は考えられない」と申されています。

他にも都条例の策定根拠となった第28期東京都青少年問題協議会議事録でも「外国では違法であったり批難されている作品が東京でのさばっているのはおかしい」というような言及が確認できます。

さて、欧米の血を引いている人間がこのようなことを言うのもなんですが、

「欧米かッ!」

古臭い表現で恐縮です。

■しかし欧米からも参考するべきことがあるかもしれません。

例えばこれは私のブログに掲載しておりますが:

オレゴン州では今年7月に刑法が改められ、13歳未満に露骨な性描写を含む作品を提供が違法となりましたが、地元の書店や「ベルゼルク」と言った日本のマンガを販売するダークホース社などを含む複数の会社・団体が表現の自由への重大な侵害であると提訴。一方オレゴン州は「児童にハードコアポルノを提供する行為や児童にとって猥褻に値する作品を提供するのを処罰する為だけの法律である」として合憲性を主張するも、連邦裁判所は実際の法文のままでは憲法で守られるべきと認定できる作品の多くの提供を違法化としていると原告の訴えを認め、9月に同法律を違憲としました。

一方、マセチューセッツ州では囮捜査において捜査官がオンライン上13歳の児童に扮したところ、とある成人男性から露骨な性的メッセージを受け取ったとして立件しようとしたところ、マセチューセッツ州の法律では性的露骨な電子メッセージを未成年者に提供するのが法文上違法化されてないと判明。一刻も早くこの問題を解決する為に州議会が大急ぎで新しい法律を成立したところ、ネット経由で児童に有害なコンテンツを提供する行為が総て違法化となり、即座にアメリカ自由人権協会やISP会社などが提訴。地元の書店やホームページ運営者などが「一般公開されているホームページの提供する情報と意図的に児童に対して猥褻な情報を提供するのを差別化していない為、裸体や性的作品を掲載したホームページのみならず、芸術や妊娠を廻る情報などを提供した人間も法的処罰対象になりえる」と指摘。連邦地方裁判所もこれに同意し、10月28日をもってこの法律は違憲であると判断しています。

他にもカルフォルニア州暴力ゲーム未成年販売規制について現在、連邦最高裁判所が審議中です。

結論から言うと繰り返し地域自治体(主に州レベル)で法律が可決しては連邦裁判所から違憲の判決が繰り返されているのが相次いでいます。つまり既存の都条例の法文程度でも合衆国では違憲であると判断されかねません。しかし米国でも限定された有害情報規制は合憲とされており、自由奔放ではありません。またここは日本ですし、個人的には違憲判決を仰ぐような状況に発展して欲しくないです。税金の無駄遣いですし。

しかしながら善意で構築された法律も、とんでもない弊害を孕んでいるということを再確認出来る例が米国からも確認できるのは注目に値すると思います。

都合良く「先進国では先進国では」と並べ立てているが、それを鵜呑みにするのは色んな次元でおかしいですということです。アメリカのガソリンスタンドや空港のキオスクにエロ雑誌があるの光景は珍しくありません。もちろん包装されていますが。

ならば半裸状態の女性の絵が掲載されている表紙が見えているのは日本だけとか言い出しそうですが、そういった方々には欧米のファッション雑誌の表紙を始めとした様々な一般誌の表紙を見て頂きたい。エロは売れます。だからどこの国でも法律で許されているギリギリまで色気を取り入れていると言っても過言ではないでしょう。

■しかしマンガとアニメは児童向けだからもっと慎み深くなくてはいけないと言い出す方々もいますが、この方々に質問します――そちら様はタイムマシンに乗ってきたのでしょうか?

何故日本のマンガ・アニメが現在世界でトップクラスであるかについてはここで敢えて言うまでもありませんが、一重に戦後60年上に渡る日本の作家・クリエーター・業界の不断の努力と児童向けという垣根を壊すことで成熟したメディアへと発展してきました。

つまり時間を逆行しろと言いたいのでしょうか?

大事なことなので繰り返します:
Japanese animation and manga has attained its star status as a vibrant medium of self-expression on the world stage not because it limited itself to polite themes and childish genres, but because it was willing to challenge assumptions and aim for a mature audience, on par with novels and movies.

日本のマンガ・アニメは欧米圏で準えれば小説のようなもので、欧米と程度の規制をするというのであれば、諸外交における小説の取扱も念頭に置かないといけないのでしょうか?日本のマンガはのように多様且つ広く市民権を得たメディアであり、それを狙い撃ちするのは正気の沙汰ではありません。石原都知事の小説も守られるべきですが、小説・実写を除くという今回の条文は言語道断。海外のどこの国で「実在人物が登場する作品より、想像上のマンガキャラしか登場しない作品の方が有害だ」という論理が成り立つのか教えていただきたい。

■東京の自治体レベルでの規制について言及する時に諸外国からの圧力を持ち出すこと自体おかしな話で、「表現の自由をゆがめるつもりはない」と言いつつ「海外の上品な方々に顔向けできないからこう言った表現に封じ込めたい」という理念は赤裸々です。

鎖国が解かれた以降、日本の作品は稀有且つ洗練された存在であるが故に多くの欧米人を魅了し同時に物議をかもしてきました。その最中、実際の日本のクリエーターの理念や意図は捨て置かれ、時の権力者や海外との橋渡し役を担う人間らによって都合よくその存在は操作されてきたように思えて仕方ありません。2010年となった現代日本、そろそろ不平等条約の呪縛から解き放たれてもよいのではないでしょうか?

■もちろんアニメ・マンガも社会的責任を意識する必要があります。公的な存在である出版物の取扱については柔軟な多角的な取り組みを行い、作家は公人として自らの表現に対して責任を持たないといけません。批難されたら引っ込めるような姿勢ではいつまでたっても蜥蜴の尻尾切り的な議論となり、きちんとした対話が成り立たないというのを念頭に置いていただきたいと思います。

■同時に現在の有害指定のシステム自体に弊害が多すぎと思います。冒険的な表現を行うのに妨げになっており、有害指定された作品が事実上の発禁ではなく、許容された存在を保ちつづけるのが望ましいのではないでしょうか。例えば米国では未成年への販売については出版社ではなく、小売店が責任取ることになっています。地域主権が顕著なアメリカにおいては自治体によって規定や基準が大きく異なるのに出版社がそれら総てを把握できないと言うこと現実、それと同時に表現の自由と販売する責任についてはある程度の距離を置く考え方と言えるでしょう。勿論日本でそれをそのまま取り入れるのは難しい話ですので、一つの参考として考えるべきだと言いたいのです。

しかしよりよいシステムを作ろうにも今回の都条例改正案のようなだまし討ちでは何も出来ませんん。私が言及するでもなくとにかく立法過程がメチャクチャで、このまま可決すれば大きな遺恨を残すでしょう。米国では行政と出版社が対話する機会は大変少なく、法定での係争を通して決着することが多く、私はこれが望ましいとは思えません。日本では今まで出版社と行政の間でやり取りすること多かったのに今回の条例改正案については都はあまりにも性急に押しし進めており、条文をギリギリまで提示しないなど誠意が余にも足りない。これでは信頼関係を壊すことになりかねないと言えるのではないでしょうか。

最後に 11月29日にニコニコ動画で放映された『マンガ・アニメの危機!? 徹底検証「都青少年育成条例」』で東浩紀さんが言及した「どうやって海外からの声に対応するか」という命題に対して自分なりの答えを私は色々考えていますが、この問い掛けに業界全体で考えて行く必要があると思います。欧米流と日本流と検証してそれぞれの違いや良いところを踏まえて考えていくのが望ましいと思います。長らく失礼しました。

Good night, and good luck.

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1 Response to 中野ZERO講演メモ全文

  1. 生放送見ました says:

    先日のニコニコ生放送を視聴させていただきました。
    米国の創作物事情に明るいダニエルさんの意見はとても参考になりました。
    規制を叫ぶ人達は殊更に「青少年の育成過程に悪影響を及ぼす恐れがある」と主張しますが、それを証明する証拠を一切提示しません。
    また、ダニエルさんの書かれた文章にあるように「欧米諸国では規制が進んでおり日本だけが遅れている」とも主張します。
    規制の必要性が無い物を問題視する意図が不明であり、その主張が何の裏付けも無い偏見と自己満足によるものだとはっきり分かります。

While I may not be able to respond to all comments, I always welcome feedback. Thank you.