2000年生まれのZ世代のアーティストとして、同世代を中心に人気を集める吉田凜音さん。14歳でデビュー以来、歌とラップ、ダンスを武器に数々のステージを踏んできました。女優としての活動にも力を入れており、出演映画「猫と塩、または砂糖」が7月23日公開予定です。撮影の裏話や、21歳の現在地にたどり着くまでの道筋を聞きました。
役の気持ちに自分を重ねて
――映画「猫と塩、または砂糖」は、クセの強い登場人物たちが織りなすホームコメディーで、小松孝監督の商業映画デビュー作です。凜音さん演じる金城絵美はとても不思議な役柄ですね。
台本をいただいて初めて読んだ時、本当に何が何だかわからなくて(笑)。絵美は、本当は22歳なのに彼女の父親の希望で「17歳のアイドル」として生きているんです。父親の元恋人の家族と同居することになるんですけど、その家族たちも一人残らず変わった人物で、全然つかめない。わからないけど、とにかく飛び込んでみようという気持ちで撮影に臨みました。
主人公でニートの一郎役は田村健太郎さん。一郎の母親を宮崎美子さん、絵美の父親を池田成志さんが演じています。ベテランの俳優さんばかりで初めは緊張しました。でも、皆さんすごく優しくて。田村さんとは、撮影現場の家の外で待ち時間に追いかけっこしたりして。家族が崩壊していく物語の裏側で、本当の温かい家族のように接していただきました。撮影は2019年、コロナが広がる前だったので、狭い室内での撮影は今みたいにフェースシールドも必要なくて、和気あいあいと楽しかったです。
物語同様、小松監督も意味不明な人で(笑)、撮影が進んでいってもわからないことだらけでしたけど、絵美と私は似ているところもあると思いました。絵美は、自分の感情を表に出しません。私も、14歳でデビューしてから、仕事の現場で大人の方々におとなしいと言われることが多くて。父親に従ってばかりで自分の意思がない絵美が、一郎さんと過ごすうちに少しずつ感情を表していくストーリーに、自分の気持ちを重ねることができました。
小学2年生の時の運命的な出会い
――女優業も活発にされていますが、もともとは歌手としてデビューされています。音楽との出会いについて教えてください。
両親ともに音楽好きで、うちにはいつも音楽があふれていました。私がおなかの中にいる時から、ずっと音楽をかけていたと聞いています。学校から帰ると、お母さんが必ずCDプレーヤーで音楽をかけていました。サブスクとかない時代でしたからね。東京事変、ELLEGARDEN、ZAZEN BOYSをよく聴いていました。
北海道で開催されている夏の音楽フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL」も、幼稚園の頃から家族で毎年行ってましたね。オールナイトイベントなので、テントを張って、バーベキューしたりして。木村カエラさん、椎名林檎さんを最前列で見ました。
ある時、テレビの3分クッキングの曲に合わせて踊っている私を見て、「ダンスが好きなのかな」と思った母が、ダンス教室の体験レッスンに連れて行ってくれました。私は、「楽しい、楽しい! やる、やる!」って大はしゃぎ。その後、小学1年生の時から、アクターズスタジオ北海道に通い始めました。
2年生の時に、運命的な出来事があって。中川翔子さんが出演するポケモンのライブに連れて行ってもらったら、「しょこたんと一緒にステージで踊ろう」というコーナーがあって、子どもたち10人くらいで舞台に上がることになったんです。ステージに上がって目に入ってきたのは、見たことのない景色でした。ホールの1階から3階までお客さんでぱんぱん。しょこたんの歌声にみんなの歓声が注がれて……。たった一人でそんなことができるなんて、すごいと思いました。その時、私の夢が決まったんです。「絶対歌手になる!」って。
アクターズのレッスンは、私にとって習い事ではなくて、夢をつかむために必要なことでしたから、小6までは週6で通いました。友達と遊ぶ時間はありません。中学に入ると、東京のレッスンにも通うように。3年間ずっと、金曜の夜に飛行機で東京に向かい、月曜の朝に札幌に戻るという生活だったので、朝の授業にちょっと遅刻してしまう、という感じでした。
年に1回のアクターズのライブを見にきてくださったレコード会社の方に声をかけられ、デビューが決まったのは14歳の時。迷うことなく、高校入学と同時に東京に拠点を移すことを決めました。お母さんが一緒に来てくれたのが本当にありがたかったです。私、お母さん大好きっ子なんですよ。今、一人暮らしになって自分でご飯を用意しなくてはならなくなって、お母さんの偉大さをかみしめてます。
中国での経験で強くなった
――16歳からはラップにも挑戦し、独自の世界観を築き上げ、現役女子高生アーティストとして注目されるようになりましたね。
いわゆるJKらしい学校生活は送れませんでしたけど、当時はまっすぐ前だけを向いて、やりたいことをやっていたので、なんとも思いませんでした。音楽と演技を並行してやってきてよかったと思っています。
私を生かしてくれるものは、音楽と女優業。ライブをしている時には、生きているという感じがすごくします。そして、撮影でクランクインしてからクランクアップするまで、共演者やスタッフと積み重ねていく日々が私の支えになっています。それに、演技の経験は音楽にすごくつながっていくんです。初めて触れる役柄を通して、こういう感情もあるんだと気づくことができるから。役をいただかないと開花しない気持ちがあるんです。それを自分のものにして、歌詞や音楽にすることができる。そういう楽しみがあるから、やめられません。
データが消えても消えないもの
――2021年から中国で放映された、女性ラッパーのコンペティション番組「黑怕女孩(GIRLS LIKE US)」に日本から参加されて。中国語でコミュニケーションされていました。
半年間の番組のために、今年の2月まで1年間中国で過ごしました。35人の参加者のうち、外国人は私ひとり。みんなで共同生活を送りながら、チームに分かれて楽曲制作やパフォーマンスを行って競い合います。中国語はしゃべれないけれど、「音楽に言葉の壁はないんだ!」という気持ちで乗り込んだものの、一緒に曲を作る時などにやっぱり言葉の壁はありました。
中国のみんなは本当に自分の意見がはっきりしてて、パワフルですごいんですよ! おかげで吉田凜音の殻が一枚剥がれて、人に対して積極的になれました。自分の中の大きな変化を感じています。17歳の時に、日本の恋愛リアリティー番組に出演した時も、感情を揺さぶられる大事件が次々に起きてつらかったんですけど、得るものも大きかった。中国での経験を通して、またたくましくなって、私、無敵な感じがします。
そういえば、先日スマホの不具合で、中に入っていた2年分くらいのデータが全部消えてしまったんです。本が一冊書けるんじゃないかというくらいたくさん書きためてあったんですけどね。中国での写真やメモも全部消えてしまった。
実は、高校2年生の時にも同じことがありました。高校入学時からずっと、その時々の感情や考えたことを携帯にメモしていて、私にとっては日記みたいなもので。作詞作曲を始めたてで、歌詞のアイデアも書きためていたから、しばらくの間はすごく落ち込みましたよ。でも、そんな時、幸運なことに、とても尊敬するアーティストであるSEKAI NO OWARIのFukaseさんが、「作詞作曲やってみなよ、俺も手伝うから」と言ってくださった。それでできたのが「#film」という曲でした。
だから、またデータは全部消えたけど、「ま、いっか」って思ってます。大事なことって体に入っていると思うから。今思い出すことが難しくても、ふとした時に、その感情を思い出すことがあるんじゃないでしょうか。
みんなの前でライブがしたい
――凜音さんのお話を聞いていると、私も頑張らなくちゃと思います。今後の夢や目標を聞かせてください。
コロナの影響で、東名阪ツアーが2回中止になってしまったんです。だから、近い目標としては、来年こそツアーをすること。お客さんの前でパフォーマンスしてコミュニケーションする時間が、私にとって宝物なんです。そして、地元の「RISING SUN ROCK FESTIVAL」にアーティストとして出演することも夢です。想像するだけで口角が上がりますね!
(聞き手・読売新聞メディア局 深井恵)
「猫と塩、または砂糖」
第25回PFFスカラシップ作品
監督・脚本・編集:小松 孝
出演:田村健太郎、吉田凜音、諏訪太朗、池田成志、宮崎美子
主題歌:NILKLY「Fact or Fable」
配給:一般社団法人PFF/マジックアワー
2020年/日本/カラー/1.85:1/5.1ch/DCP/119分/英題:Cat and Salt, or Sugar
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