2022年7月20日 09:00
インターネットは、2008年にブロックチェーンが誕生したことで次のフェーズへと進化しました。インターネットでやり取りされるデータの信ぴょう性を、第三者に依存することなく証明できるようになったのです。それが「Web3」です。インターネットの概念を覆すともいわれている「Web3」ですが、何がそんなに画期的なのでしょうか。私達の暮らしやビジネスがどう変わるのかを踏まえ、概要を紹介します。
Web3を構成する要素であるトークンエコノミー、NFT、メタバース、DeFi、DAOは、現在の当たり前を大きく変えていきます。ブロックチェーンやメタバースによって到来した新たなインターネットの世界であるWeb3とは何か、どのような仕組みなのか、私たちの生活はどう変わるのか、理解を深めていきましょう。
この記事はインプレス刊・田上智裕氏著『いちばんやさしいWeb3の教本 人気講師が教えるNFT、DAO、DeFiが織りなす新世界』の一部を編集・転載しています(編集部)。
デジタル化の加速とWeb3の台頭
Web3とは簡単にいうと、ブロックチェーンなどの最先端テクノロジーによって実現した「新たなインターネット時代」の総称です。とりわけ、ブロックチェーンを使って開発されたWebサービスを指して使用されることが多く、特定の管理者・権力者にコントロールされない状態で運営される点が特徴です。
なお、Web1.0、Web2.0、Web3.0と呼称される場合もありますが、ここではWeb1、Web2、Web3と表記します。
Web3を理解するには、誕生過程にあるWeb1(ウェブワン)とWeb2(ウェブツー)、特にWeb2の課題を知る必要があります。Web1の時代は、1970年代から1980年代にかけて整備され、TCP/IP、SMTP、HTTPなどインターネットを使用するためのさまざまな基盤システム、プロトコルが誕生しました。その後Web2の時代になると、プロトコルをビジネスに活用しようとする動きが盛んになります。
Web2が抱える課題
私たちが生きる21世紀初頭はWeb2の時代に相当し、プロトコルを基盤としたSNSやWebメディア、プラットフォームという形で提供される、各種サービスの恩恵を受けています。一見、便利で快適な社会が実現されたように思えますが、課題もあります。それは、プロトコルを活用した一部のプラットフォーマーが独占的にデータや利益を得るようになった、ということです。
私たちは、SNSやWebメディアを無料で利用できる代わりに、個人情報や行動データを大量に提供しています。Web1で誕生したTCP/IP、SMTP、HTTPなどのプロトコルは、本来、誰のものでもなくオープンな仕組みです。これらのプロトコルは、Web2の時代にGoogleやAmazonなどの一部のプラットフォーマーに独占されてしまっています。その結果、プラットフォーマーだけが莫大な利益を生み出す中央集権的な構造ができ上がり、プロトコルが本来持っているはずのオープンな性質が失われてしまったのです。
こうした課題への反省から、近年大きな注目を集めるようになったのが、非中央集権的なインターネットのあるべき姿、すなわちWeb3なのです。
Web3が重要視する、3つの考え方
Web3では、「オープンであること」「プライバシーが保護されていること」「誰にもコントロールされないこと」が何よりも重視されます。これは、Web2によって歪んでしまったインターネット本来の姿を思い出させ、Web1が目指していた原点へと再び戻ろうとする動きです。
「オープンであること」とは、インターネット通信の情報が誰でも自由に確認できることを意味します。情報が不正に操作されていないことが保証され、安心してやり取りを行なうことができる状態を目指します。
「プライバシーが保護されていること」は、必要以上に個人情報などを公開しなくても良いことを意味します。「オープンであること」=「全ての情報が公開されること」ではありません。情報の公開範囲は自身で決めることができ、匿名性も尊重される世界でなければなりません。
「誰にもコントロールされないこと」とは、Web2によって一部のプラットフォーマーに集中してしまった権力を再び分散させようとする動きです。一部のプラットフォーマーに権力が集中してしまうことで、私たちはその経済圏で生活することを余儀なくされ、また必要以上のデータを収集されています。
必要なのはオープンなプロトコルであり、それを管理する一部の権力者ではありません。Web3は、Web1が本来実現したかった思想からWeb2で逸れてしまった部分の軌道を戻し、再びオープンにすることを根底に据えています。
Web3の構成要素をレイヤー構造で見てみよう
Web3の構成要素は、レイヤーという考え方で全体を見渡すと理解しやすいです。Web2では、プラットフォーマーが独占していたレイヤーが、Web3ではそれぞれ独立していて、互換性があるのが特徴です。
Web3は、Web2までに使用されてきたテクノロジーに加えて、いくつかの新しい仕組みを活用します。その代表が暗号資産(仮想通貨)であり、ブロックチェーンです。暗号資産というと、投資・投機的なイメージがあるかと思いますが、Web3の時代における重要なデジタル資産としての役割を果たします。Web3の構成を表すには、レイヤー(階層)構造を使用するとわかりやすいでしょう。
異なるレイヤーに表示されている要素は、レイヤーを跨いで互換性を持ち、相互に通信することが可能です。レイヤーごとに要素を分けることで、下位のレイヤーで発生した問題や修正が上位のレイヤーに影響を与えることがなくなります。これにより、Web3全体としての進化が速くなる点も特徴的です。各レイヤーの各要素ごとにそれぞれ開発者が存在することで、それぞれが独立して開発を進めることができます。近年、Web3が急速に成長しているのはこういった全体構成が大きく影響しています。
Web3を支える「ブロックチェーン」
Web3のレイヤー構造のうち、最も根幹に位置する「State Layer(ステートレイヤー)」にだけ触れておきます。State Layerとは、すなわちブロックチェーンのことを意味します。Web3で発生する全ての活動は、オープンなデータベースであるブロックチェーンに保存されます。ブロックチェーンに求められることは、Web3における重要な要素である「オープンであること」「プライバシーが保護されていること」「誰にもコントロールされないこと」の3つです。
それに対してWeb2では、ブロックチェーンに該当するこのState Layerを、プラットフォームを管理する一部の大企業が担っています。そのため、「オープンではなく」「プライバシーは保護されず」「一部の大企業にコントロール」されているのです。2つの図を比べると、その違いは一目瞭然ではないでしょうか。
Web3と、Web1・Web2の違い
Web3が誕生するまでの過程には、当然ながらWeb1とWeb2が存在します。前身となるWeb1とWeb2との違いを、ユーザーとデータの関係性や通信方法などから比較することで、Web3の特徴もより明確になります。
Web2は「管理者の存在するプラットフォーマーが管理」、Web3は「管理者の存在しないブロックチェーンが管理」するということはすでに説明しました。ここでいう「管理」とは何を対象にしているのでしょうか。それは「データ(個人の行動履歴や金銭の取引記録など)」です。ここではWeb3と、Web1およびWeb2との違いについて理解するために、いくつかの切り口で比較していきます。
プロトコルとデータの関係性による比較
まずWeb1とは、1970年代から1980年代にかけて定着した、オープンなインターネットプロトコルを指します。具体的には、TCP/IP、SMTP、HTTPなどが挙げられるでしょう。これらのプロトコルは、誰の許可もなく自由に使用することができ、オープンで包括的な精神のもとに設計されました。
次にWeb2とは、Web1の仕組みを使ってビジネスを行なう時代のことを指します。Google、Twitter、Instagramといったフリーミアム型のサービスが独占的に権力を握り、Web1で構築されたオープンなプロトコルの上に、独自のクローズドな世界を築き上げていきました。私たちは、これらのサービスを無料で使用できる代わりにデータを収集され、その経済圏からなかなか抜け出せないようコントロールされています。
最後にWeb3とは、Web1のオープンなプロトコルを誰もが自由に使用できるようにすることで、ユーザーの手にデータを取り戻そうとする動きを指します。Web3では、Web2で生み出された利便性はそのままに、データをプラットフォーマーに収集されない状態で私たちはサービスを利用することができます。
データの通信方法による比較
Web1はインターネットの黎明期にあたり、インターネットによる情報の送信が可能になった時代です。HTMLやCSSなどの言語を使って、ホームページのような静的なWebサイトを構築できるようになりました。つまりWeb1は、読み取り専用のWebということができるでしょう。
Web2になると、C++やJava、Rubyなどの言語を使ってSNSやソーシャルゲームなどの動的なWebサービスを構築できるようになりました。読み取り専用だったWeb1を双方向で通信可能なものに進化させたのです。なお、Web2までの通信方法はクライアント・サーバ型と呼ばれ、コンピュータ同士が通信する際に必ずサーバを介す仕組みになっています。
最後にWeb3は、Web2で実現された動的なWebサイトで通信されるデータの信頼性を証明する時代です。Solidity(ソリディティ)やRust(ラスト)などの言語を使って、DeFi(ディファイ:分散型金融)やNFT(エヌエフティー:代替不可能なトークン)などのDApps(ダップス:分散型アプリケーション)を構築できるようになりました。
Web3における通信方法はPeer to Peer(PtoP)型と呼ばれ、コンピュータ同士が直接通信する仕組みとなっています。そのため、インターネット通信をサーバに依存することがなくなり、分散型のネットワークを構築することに成功しました。
データを使ったログイン方法による比較
Web1は、読み取り専用のWebであったため、Webサイトごとに異なる方法でログインする必要がありました。この時代に定着したのが、メールアドレスとパスワードを組み合わせた方法です。これは、Web2の時代にも一部受け継がれる仕組みですが、メールアドレスの変更やパスワードの紛失などの問題が相次いでいることから、ログイン方法の最適解といえるものではなくなりました。
Web2の時代に登場したのがSNSログインです。TwitterやFacebookなどのプラットフォーマーは、外部のWebサイトにおけるデータまでも収集すべく、SNSアカウントを使ったログインサービスを提供するようになり、Webサイトへのアクセス時にメールアドレスとパスワードの組み合わせが不要になりました。私たちがWebサイトにアクセスする際の利便性は向上したものの、ますますプラットフォーマーから逃れることができなくなりました。
Web3では、プラットフォーマーの占有からの脱却のため、新たなアクセス手段が定着します。それが、ウォレットを使ったログイン方法です。Web3における分散型アプリケーションでは、暗号資産ウォレットを使ってサービスにアクセスします。ウォレットには管理者が存在せず、完全に自身で操作できるため、プラットフォーマーにデータを収集されることはありません。また、ウォレットにログインしておくことでWebサイトごとにメールアドレスやパスワードを入力する必要がなく、Web1時代の手間も同時に解消できるようになりました。
Web3の具体的なサービス
ここまで、主にWeb1とWeb2との比較から、Web3の特徴を紹介してきました。では、Web3にはどんなサービスがあるのでしょうか? ここでは現在、実用レベルに達しているWeb3の具体例を紹介します。どれも共通しているのは、これらの具体例がプラットフォーマーが介在する中央集権的なサービスとは異なり、ブロックチェーンを基盤とした分散型サービスとして実用化されている点です。
ブラウザの具体例
Web2では、Googleの提供するGoogleChromeや、Appleの提供するSafari、Microsoftの提供するEdgeといったブラウザが使用されています。文字通り、これらのブラウザには管理者が存在し、無料で使用できる代わりにインターネット上のあらゆる行動データが収集されています。
Web3では、Brave(ブレイブ)というブラウザが使用されます。Braveは、Web2世代のブラウザのような形で、ユーザーの行動データを収集しません。Webサイトに仕込まれているデータ収集のためのプログラムをブロックできるほか、行動データを個人と紐付けない匿名化された状態で収集するスタイルを取っています。
そのため、Braveを使ってWebサイトにアクセスすると、邪魔な広告などが表示されず、快適なインターネット通信を体験することができるのです。
ストレージの具体例
Web2では、GoogleドライブやDropboxといったストレージサービスが使用されます。ストレージとはデータを保管するための箱のようなものであり、データそのものが存在する場所といえます。そのため、ストレージが一部企業に独占されている状態は極めて危険であり、ストレージの分散化はWeb3における最も重要な要素なのです。
Web3のストレージは、IPFS(InterPlanetary File System)というサービスが使用されます。IPFSは、特定の管理者が存在しない分散型のストレージサービスです。IPFSに保存されるデータは、暗号化および分散化された状態で管理されます。そのため、GoogleドライブやDropboxのように、データを集権的にコントロールされる心配がありません。多くのWeb3サービスでは、分散型のアプリケーションを構築する際にIPFSにデータを保存するのが一般的となっています。
オペレーティングシステム(OS)の具体例
OSは、アプリケーションを開発するための根幹にあたります。そのため、根幹部分を一部企業に独占されることは、インターネットプロトコルを独占されることに近い意味を持つのです。この分野では、GoogleのAndroidやAppleのiOS、MicrosoftのWindowsが使用される一方で、Web3ではビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーンが使用されます。
ブロックチェーンは、データを管理するための仕組みでありつつ、アプリケーションを開発するための基盤システムとしても成立します。ただし、ビットコインはアプリケーション開発の基盤としてはあまり使用されないため、OSとしてはイーサリアムのほうが適しているといえるでしょう。
ソーシャルメディア・メッセージングの具体例
Web2では、TwitterやFacebook、InstagramといったSNSが使用され、そのプラットフォーム上でメッセージ交換が可能です。これらのサービスは全て無料で使用できるのが特徴である一方、大量のデータがプラットフォーマーに収集されています。
Web3では、Statusのような分散型のソーシャルメディアサービスが使用されます。Statusは管理者の存在しないメッセージング機能を持ったソーシャルメディアであり、プラットフォーマーにデータを収集されることがありません。また、やり取りされるメッセージは暗号化された状態で保存されるため、プライバシー性能も高い仕組みを持つといえるでしょう。
「Web3」と「Web3.0」の違い
さて、「Web3」のほか、「Web3.0」という表現もありますが、これらはどのような違いがあるのでしょうか。
「Web3」の概念は、イーサリアムの共同創業者であるギャビン・ウッド博士によって提唱されたといわれています。一方で、1999年に「ウェブの父」として知られるティム・バーナーズ=リー博士が、セマンティック・ウェブの概念を「Web3.0」とすでに表現していました。
暗号資産やブロックチェーンの台頭により、Web3が注目を集め始めると、「Web3」と「Web3.0」が混同して使われるようになりました。しかし、両者は全く異なるものです。「Web3.0」はブロックチェーンの文脈とは全く無関係である一方で、「Web3」はブロックチェーンをベースにしたWebのことを指します。
この前提に立つと、「Web1、Web2」と「Web1.0、Web2.0」も使い分けたほうが良さそうです。ブロックチェーンをベースにした「Web3」の文脈では、従来のWebを「Web1、Web2」と表現します。一方で、セマンティック・ウェブの概念における「Web3.0」の文脈では、1999年以前のウェブを「Web1.0、Web2.0」と表現します。
国外では、DeFi、NFT、メタバース、DAOなどを総称して「Web3」と呼び、また同じ文脈にある場合の従来のWebについても「Web1」「Web2」と呼んでいます。
・価格:1,650円
・発売日:2022年7月20日
・ページ数:200ページ
・サイズ:A5判
・内容
Chapter 1:Web3がインターネットの世界を変える
Chapter 2:トークンエコノミーが新しい経済圏を作る
Chapter 3:NFT発行の仕組みとメタバースの分類
Chapter 4:DeFiが金融サービスを変革する
Chapter 5:DAOで実現する新しい自律分散型組織
Chapter 6:Web3を実現するブロックチェーンの仕組み
Chapter 7:日本のWeb3の未来
7月19日から31日までの期間限定で、Chapter 1~2を無償公開しています。