そろそろアベノミクス幻想から目覚めよ
―― 参議院選挙は終わりましたが、新型コロナウイルス感染症やロシアによるウクライナ侵攻、食料・エネルギー価格の高騰と、日本の様々な対応が問われています。寺島さんは岸田政権の課題をどのように認識していますか。
寺島 岸田政権が打ち出している「新しい資本主義」というのは、公益資本主義が大切だというところまでは結構だとしても、国民全員が「貯蓄から投資へ」などという話は理解できません。これは証券会社の社長が話しているなら別ですが、国のリーダーが、貯蓄をやめて投資しようと呼びかけるのは違うような気がします。
かつて、わたしが商社マンとして働き出した頃、日本人のセールスマンは皆トランジスタのセールスマンかと言われたものですが、国の指導者までもがマネーゲームのセールスマンみたいになるというのは何なのでしょうか。
当然ですが、国家の指導者が語るべきことは、産業の基盤をどう創生するのか。産業基盤をどのように付加価値の高いものにしていくか。技術を磨いて、国際競争力をどのように高めていくのか。そういう話をしなければいけない時に、マネーゲームの旗を振るような話しかしていないことの問題を、もっと真剣に考えるべきです。
―― 問題意識の低さというか。
寺島 そうです。日本の問題意識のある産業人が気づくべきことは、そろそろアベノミクス幻想から目覚めなければいけない、ということです。
アベノミクス幻想とは何かというと、要するに、政治がリーダーシップをとって中央銀行を押さえて、金融をじゃぶじゃぶにし、金融政策で景気を浮上させられるという幻想です。これは誰が悪いという次元の低い批判をしているわけではない。なぜなら、産業界もマスコミも一体となって、金融をじゃぶじゃぶにして、株高と円安にもっていこうとしたわけですから。