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fu1267621.txt


画像ファイル名:1658238232128.jpg-(222827 B)
222827 B22/07/19(火)22:43:52 長文注意No.950920022+ 23:53頃消えます
遠い遠いレースの夢。
自分に似た子達と、綺麗なレース場 。
遠くまで響く歓声と、見たことも無い服を着た子達。


テレビに映る綺麗なあの子たちのように
強くて、諦めなくて、誰よりも強く走る───
そんな夢の中に、立っていた。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
削除された記事が1件あります.見る
122/07/19(火)22:44:19No.950920273+
「………うわぁっ~~!…あれっ…」
綺麗な月の光が、窓に差し込んだ少女に夢だったと教えてくる。


そう、きっと、これは運命だった。
「……綺麗だったなぁ…」
テレビでしか見た事ないレースに、憧れに。
222/07/19(火)22:44:37No.950920456+
「おかあちゃーん!!」
鼓動は熱く、心臓は揺れる。
高鳴る足を踏み込めば、声も気持ちも届くから。
外の庭に、畑に、草原に向かって叫ぶのだ。
「あたしね!!トレセンに行きたーーい!!」
全ての始まりは、小柄な少女の無謀な叫び。
私の物語は、ここから始まった。
322/07/19(火)22:45:04No.950920652+
~~~~~~~
「…へ?……えぇーーー!!!??」
───スペシャルウィーク。トレーナーと無事結ばれた彼女は今、故郷の北海道に根を下ろし、競走とは無縁の日々を過ごす…………はずだった。
「だーからー!トレセンに行きた~い!!!」
そんな突飛な発言に、……母は真っ白な頭になるだけであった。
「ブエナ、ウマ娘って言ってもね、みんながみんなトレセンに行けるわけじゃ…」
「……………」
「…ブエナ?」
「お母ちゃんの嘘つきー!!!」
ブエナが指を差したとこにあるのは、鍵をかけてたはずの倉庫の空いた扉だった。ブエナにこっそり隠していた秘密…であった倉庫…なのだが……
「………あれ、閉め忘れちゃったんだっけ」
希望的観測でそう思うと、ブエナはばっちりカードキーを見せる。
「あの扉はオートロックだべ、おっかあ」
「…あっ、…あー……えーっと…ちょっブエナ~!!」
無理くり彼女に引っ張られ、部屋の中に連れ込まれた。
422/07/19(火)22:45:14No.950920733+
~~⏰~~
「お母ちゃん、何が"普通のウマ娘"だべ!!なんさこれ!!?あとお父も!」
…その倉庫はトロフィールームだった。
かつて『スペシャルドリーマー』として呼ばれた記録。
強化ガラスに守られたそこにあるのは大量のトロフィー、記念杯、賞状、それと…。
(あぁーーーバレたぁ~~~)
「おっとぉもトレーナーだったの!?なんで言わんかったの!?」
…かつてトレーナーだった人との抱き合ったツーショットの写真群。
娘に答えないと逃がさないぞ、と言われるような目で睨まれ、彼女は観念した。


…それにしても、用意周到だったと思う。
ブエナは前からこのことを言うために準備してたのかもしれない。
522/07/19(火)22:45:32No.950920873+
「……はい、お母ちゃんレースに出てました…」
「………」
「そりゃまあ、日本一のウマ娘なんて呼ばれてたけど……」
「………」
「話そらすなって顔ですねブエナ」
「……………べ」
「もー!わかった、わかったからー!!」
622/07/19(火)22:45:44No.950920936+
彼女はレースを"見ること"が好きだった
そうさせていた、…私が。


『トレセンは大変なとこだから』
『人生の大半を使って、上手くいくか分からない世界に行かないとならないから。』
『北海道はレースを見るくらいしか出来ないのよ、ブエナ』
『北海道のこの僻地からトレセンには現実的に向かうのは不可能な距離だから』
のどかで、適当に走るには丁度いい場所、余生を過ごすにはちょうど良くて、ウマ娘としての暮らしにこれ以上ないほど不自由の無い場所…だった。
『えぇ~~』
時々並走に付き合って、そうやってれば満足したから、だから……
722/07/19(火)22:45:56No.950921025+
「…この写真のお母ちゃんみたいなウマ娘になるの!」
「ブエナ~~!」

止めたかった。
経験もない、知識もない。
才能は…確かにあるかもだけど、開花するとは思えない。
少なくともあの場所は"天国"じゃない、それを知ってるから、行かせたくなかった。
母親としては、多分間違いだと思ってる。
だけど、だけどね、ブエナ…
822/07/19(火)22:46:08No.950921114+
「あのね、ブエナ、ここじゃあ対戦する子もいないし…」
「おっかぁが並走してた!」
「もー…!ブエナはレースを全然知らないでしょ!」
「勉強したもん!」
ああいえばこういう。いつもの負けん気の強さが出るとブエナはなかなか引かない。
「ブエナ、あのねぇ、トレセンに行くのはね、とっても大変な…」
「でーきーるー!!!」
「ブエ!!!!!!」
「生意気なおっかぁ!!!!」
「それはこっちのセリフ!!ブーエーナー!!!!」
「ダーメーーーぇ!!!」
922/07/19(火)22:46:22No.950921217+
…ブエナが勉強する意志を見せたのは驚いた。
ちゃんとやりたいなんて言うのも初めてだった。
彼女は甘えん坊な子だから。レースにはそもそも向いてないから。
「できるー!!!」
「……ブエナ…」
私は、そうやって娘を防ぎこんで終わらせようとしてる、ダメなお母さんだから。


「でーきーるーのー!!」
「……」
黙ってると、ブエナは少しずつ震え始める。
「できるの……」
話さなければ、すぐ泣く、…そういう子なのだ、中央で活躍できるような子じゃ…
「………」
違う、本当は違うのよ、ブエナ。
1022/07/19(火)22:46:51No.950921428+
…あなたの人生を茨の道にしたくない。
勝ち組だからこそ、多分同じ道には進ませたくないんだと思う。
華やかなトレセン学園の生活で何度も見てきた、『頑張っても大敗した子達』。
自分が平均的な努力しかしなかったのに
その数十倍の努力をしたのに負けていた子を知っていた。
頑張りますで終わる世界じゃないから。
だから、ブエナには、その事を知って欲しくないから。

「うう~っ…」
1122/07/19(火)22:47:05No.950921546+
そんな風に半ばもう終わりかけた我慢比べに救いの手は思わぬとこからやってきた。
「……大丈夫、2人とも?」
「おっとぉ!?…聞いてよぉー!お母ちゃんがーー!お母ちゃんがトレセンに行かせてくれないー!」
「…スペ………えっとこれは……?」
「違いますー!!ブエナがー!!」
……あまり救えてはいなかったかもしれない。
1222/07/19(火)22:47:16No.950921641+
~~⏰~~
2人がギャーギャーと叫ぶ中
俺は静かにその言葉をメモでまとめる。
要するにブエナは妻の記念杯などをみて競走の道を志した。
対する妻はそれを止めようとしてる…と。
で、スペはトレセンに行った経験からして行かせたくないと。
「なるほどね、それでこうして言い合いを…」
「でも、ブエナがなることは私は断固として認めません!!」
「何とかしてよーーっ!おっとぉー!!!!!」
「………うーん………よし」
「……へっ?」
「じゃあ、こうしよう」
1322/07/19(火)22:47:33No.950921755+
……別に、ブエナの意思を尊重してもいいんじゃない、と俺は言いたかったが。それではスペが多分納得しないだろう。
かと言って、確かにブエナがもう少し考える機会だって必要だ。しっかり考えてトレセンには行って欲しい。
故に、俺がだす答えは──
「勝負すればいい」
「えっ!?」
「べっ!?」
1422/07/19(火)22:47:44No.950921829+
ヶ月に1度しかもう走ってないが、彼女を黙らせるくらいにはスペは強い。
…そもそも本格化が来てない彼女と対戦するのは勝負にすらならないと思うが。


「ブエナが勝ったら、少なくとももうトレセンに行ってもいい実力なんじゃないかな?ね?」
「……なら…私……全力でブエナを倒しますっ!」
「わかった!!!」
「……それにしても、……」
「なんですか?」
「いや、なんでもないよ」
「はーやーく!いこー!」
「ブエナー!!!もーー!」
「ちょっと2人とも…」
「お父ちゃんは黙ってて!!」「お父は静かにして!!」
「はいはい………」
1522/07/19(火)22:48:01No.950921978+
一瞬でいなくなる2人を他所に、俺はトロフィールームを見渡す。
やっぱり、ブエナは走ることが好きなんだろうな。
「…ふーむ、しかしあのブエナがこんなにやる気とはねぇ…」
どうしたものかと、ふと顎をなぞる。
「…たぶん、元からやりたかったんだろうな」
生まれた時から走ることが好きな子だ。
生憎ここでは一緒に走れるのはスペしか居なかったが。それでも毎日走って、走って、走っていた。
1622/07/19(火)22:48:26No.950922160+
計画性がある子でもあったけど、こうも実行力があるとは…
「もう10年以上彼女を見ているのに知らないことばかりだ」

…トレーナーとしては彼女の才能、というより素質の面では十二分にあると思う。
が、伸び代があるかというとブエナだ。
あの甘えん坊で泣き虫な子が?すぐに諦めてしまうのがオチでは無いのか?
…それも含めて、己が単純に親バカなだけか。

「…大人気ないなぁ…我ながら……」
1722/07/19(火)22:48:36No.950922250+
~~⏰~~
畑の直線1.5キロメートル。直線しかないここをレース場と呼ぶのは違うかもしれない。
しかもダート、…というより平地である。
確認して石ころなどが落ちてないかはチェックを済ませた、走る分には何も問題は無い。
自信満々に準備体操をするブエナと、最低限のストレッチを得て立ちあがるスペ。
今日はいいレース日和だ。冷たい春風に、土もぬかるみがない。
「……よいしょっ…と…」
「2人とも、怪我はしないように」
「分かってますよ、見守る余裕くらいはありますから」
「むーっ!」
「まあまあ、こればかりは経験が多いスペに任せた方が良いって、じゃ…」
「行くよ…ブエナ」
「……」
1822/07/19(火)22:48:50No.950922340+
…諦めて欲しいという彼女の願いを今回はとる形になった。
だけど…本音はブエナの素質がみたいという俺の意見も若干あると思う。
「よーい、スタート!」
ゲートもない中、お互いに同時に息を合わせてスタートした。

風が吹く度、雲は少しずつ増えて、大地は暗色に近くなる。
今日は絶好のレース日和だろう、晴れてる時よりも体力を摩耗しないから、本気の2人が見れるはずだ。
1922/07/19(火)22:49:01No.950922430+
~~~
普段は差しや先行で走ってるけど、前を塞ぐ者がいないし、ブエナとは能力差がかなりある。
それなら、本格化すらしてない彼女を打ち倒すのは容易だ、全力で逃げ切れば良い。
「はっ、ほっ」
そう、いつもの感じで、ダッシュしてーー
「……待ってーー!!!!」
────っ!
2022/07/19(火)22:49:19No.950922551+
彼女は必死に、必死に食らいつく、息も絶え絶えに。
「やーーだーー!絶対諦めないー!! 」
そんなふうに声を出したら直ぐにスタミナが切れるよ、ブエナ。
そんなアドバイスをふとしたくなった。
きっと今スイッチ入り始めてるんだなって。
…すごい形相、ああ、本気で──本気のレースを───
「……すぅ」
息を吸い、血液を暖め、一気に足を踏む。
思わず、その走りはあの時の私に戻していた。
「はやっ……」
ドンッと音が鳴ったように、凄まじい足音で抜けていく。
結局、大差が着いた辺りで先にゴールし、20秒が経つ当たりでブエナが辿り着いた。
「……わかった、ブエナ?」
「……ううっ、うううっ…嫌あ…いやー…!」
また泣き出しそうなブエナに、改めて、かなり大人気ない事をしたと気づく。
2122/07/19(火)22:49:32No.950922640+
彼女は急に飛び上がり、襲歩で一気に彼に飛びかかる。
「ちょっブエナ!?うわぁっ」
彼に抱きつきそのまま押し潰して、彼女は泣きわめいた。
「まげだぁ!強くないよぉ!弱いよぉ!悔しいよぉ!」
「…うん、今のブエナは弱い、…まだ。ね?」
思わず、私は目を逸らした。
「………」
「…やっぱり…この方法は普通に大人気ないと思う」
「へ、へへぇ…」
2222/07/19(火)22:49:44No.950922738+
~~⏰~~

「えーっ!?本格化がしないと走れないの!?」
疲れたブエナを彼は荷車して、夕日の空の農道を歩く。
あんなに暗雲になった雲は風が強かったのかすぐに晴れていた。
「というより、…まあ、勝負にならないね、身体能力が大幅に伸びる時期がある、そこまではブエナは…走っても、上手くいかない」
「じゃあおっかあはそれを知ってやったの!?」
「……」
「何してんの!?!?」
「へ、へへっ、へへぇ………」
ずるいずるーい!と叫ぶと
元トレーナーさん…は静かに、独り言を呟いた。
2322/07/19(火)22:49:57No.950922850+
「…うん、いい走りだった、素質は十分にあるんじゃないかな」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ最強になれる!?」
「……うーん…?」
「あはは、ブエナったら、直ぐになろうとしちゃって」
苦笑するスペをみて、さて、何を言えばいいかと少し考える。
2422/07/19(火)22:50:09No.950922931+
から資格を取るとして、何年かかるだろう?
中央認定試験は実の所は簡単なのだ。
…酷い言い方だが、勝てるウマ娘で無いのなら、入試の合格率は5割程度、受かるだけなら努力をした子なら大抵入ることができる。
過去には学力も身体能力も最低でもトレセンに入れた子もいるくらいだ。
問題はそうじゃない、ブエナは特にメンタルが弱く、ドジをふむ。…中央の子達をみて、すぐに泣いて帰ってきてしまうのではないだろうか。

だが───現実を突きつけた所でブエナは諦めなかった。本気なのだろう
だから、こうすればいい。これなら───
2522/07/19(火)22:50:20No.950923031+
「…ブエナはレースの知識をちゃんと知ってる?」
「見て学んだ!」
「じゃあ、レースによって加速するべき場所としてはならない場所があることは知ってる?」
「………そんなのあるの??」
「…走り方に種類があることは?」
「………??」
「うん、…レースを見ただけで学んだなんて言っちゃダメだぞ、勉強出来ないのに最強なんて事は無い」
「そうよブエナ!なんせレースは難しいんだから!」
「…うん……君も、ね?いつも下から数えた方が早いくらい酷かったんだから」
「「………」」
「…まあ確かに素質はあるな…うん…」
「…ちょっと!ブエナは…できればその…」
2622/07/19(火)22:50:37No.950923166+
「いや。分かってるよ」
「お父ちゃん…やっぱり無理?無理かなあ…」
随分と親に負けた事が効いてるようだ、この程度で心が折れる子では…正直、トレセンで1回負けたらもう負け続けるようになってしまう。
「そういう訳じゃない」
「じゃあいいの!?」
「そういう訳でも無いな」
えーっ!どっちなのー!?とブエナは叫び、2人とも困惑していた。
「どういうことなの!?」
「数年後、本格化はやってくる。」
「…うん!」
そしたら、行っていい、それでも良いだろう。
だけど、だからこそ、俺はトレーナーとしての回答をしてしまった。
2722/07/19(火)22:50:51No.950923271+
「その時、スペを倒したらいいよ」
「えぇっーー!」
あんなに負けたのに、あんなに悔しい思いをさせたのに、酷く残酷な話だっただろう。
「…一応、スペはそれまでに全盛を戻したりするようなことはしないように、いつも通り1ヶ月に1回フリーで走るくらいに留めておいて」
「…う」
「さっきので走りたくなったからってそういうのはなしだぞ、本当に…」
「勝てないよー!」
「最強になるんだろ?なら育て親くらいは倒せないと」
「無理無理無理ぃー!」
2822/07/19(火)22:51:06No.950923386+
「そうだなぁ、無理…か、うん、確かに今は無理だね」
「……今?」
途中、ブエナを静かに降ろして、そしてゆっくりと見つめた。
「勝ちたい?最強になるんだろ?」
「……うん」
「ならブエナ、俺のトレーナーノートを上げよう、これを全部覚えて、全部出来たら…強くなれるよ。約束する」
「ちょっ!?ええっ!?」
「スペ、いいから、ちょっとだけ、ね?」
唇に人差し指を立てて。そしてまたブエナを見る。
「…おっとぉ!!本当にいいの!??」
「でも、ひとつ聞こうかな」
「…なに?」
2922/07/19(火)22:51:23No.950923518+
「本当はね…親の意見なんて無視してトレセンに行っても良いと俺は思う」
「…えっ!?ちょっ!?」
「もう少しだけ、……もう少しだけ、話させて、スペ」
「…なんで?」
「なんでって、君の夢だろう、邪魔をしていい訳が無い」
「でも。おっかあは、ダメって」
「俺はいいよ、ブエナがどういう風に歩んでも、歩まなくても」
「なら…えっと…でもね…」
泣き出しそうなブエナに、俺は優しく返した。
「…やっぱり。そうだったのか、あそこでスペを呼んだの」
きっとブエナは、認めてもらいたかったのだ。
日本一のウマ娘と呼ばれた。お母さんに
だけど。今こうしてブエナは負けた、そう、負けたのだ。
3022/07/19(火)22:51:34No.950923589+
「…あたし……あのね…自信無い…」
「知ってる」
「勝てるかわかんない…走ったのに、勝ったことも無いよ…」
「うん」
「…どうしていいか分からない…」
泣きじゃくるブエナに、俺はゆっくりと頭を撫でた。
3122/07/19(火)22:51:45No.950923678+
「───じゃあ、勝とう」
「えっ」
「スペに勝とう。」
「無理…なのぉ…」
しっかりと首を振る。
「ううん、無理じゃない、努力すれば勝てる」
「……ほんと…っ?」
「約束する、これでも元トレセンのトレーナーだぞ?日本一のウマ娘のな」
一瞬、彼女は泣きそうになる、しかし、目をこすって───
「うん!!!頑張る!!!!!!」
「ちょまってその腕力で髪を引っ張るないだだだ!!」
「もぉーーー!何勝手に決めてるんですかーー!!」
「スペ待って君まで髪を引っ張るないだぁぁあ!!」
3222/07/19(火)22:51:59No.950923782+
~~⏰~~


夜、ブエナは先に寝てしまった。
ランプのようなあかりが揺れる部屋で、2人の夫婦は……
いや、正確には妻に呼び出され、俺はピンと座らされていた。
「なんであんなこと言うんですか!」
「…俺もわかってるよ、トレセンが大変なことくらい」
「じゃあ。なんで…」
「別に、無理だって思ってくれればいいんだろう?トレーナーノート、レースの知識、各レースコースの勉強…正直、普通の人が、あの歳で出来るわけがないだろ?諦めて心折れたらブエナはそこまでだよ。自分で道を閉ざすんじゃないかな」
「………それは」
静かに、彼は大量の本を捲る。
「覚えるのに数年がかかるものだ、本来はトレーナーが指導を経てやるものだから、全部覚える必要はないけど…」
そこから先はあえて言わなかった。出来るのならば普通の能力ではない。
3322/07/19(火)22:52:10No.950923869+
トレセンで、G1を勝てるようなウマ娘は皆、『普通の能力ではないウマ娘』だ。
もしこれができるのなら───ブエナは、そういうことになる。
「……」
「正直、彼女の本格化はきっと…ものすごく遅いと思う、15歳になったら来るんじゃないかな」
「やっぱり、そうですよね…」
小さく頷いて、静かに見る。
「走るのには向いてないと思うよ、正直」
3422/07/19(火)22:52:20No.950923939+
あの子は甘えん坊すぎるし、走ることが本質的に得意な性格じゃない。
泣いたり、情緒不安定で、メンタル面に問題だらけで、緊張したらすぐに失敗する。
「だけどね、何よりも…何よりも。彼女が諦めないなら。その時は大手を振って試験を受けさせてもいいと俺は思うんだ」
「本当、ふふっ、 ズルい……ズルいです」
彼は少しだけ笑って、本をめくる。
「そうかな?少なくとも俺は彼女がトレセンに居たら真っ先にスカウトしたかもしれない」
無理難題を押し付けてるのに、本当…
「あの子が泣いても知りませんよ」
「それより先に諦めるだろ」
3522/07/19(火)22:53:13No.950924342+
日はとうに落ちて、夜は更けていく。
明日、ブエナはどんな反応をするだろう。
絶対彼女なら諦めない、……そんな気がする。
それにどこか心が踊っていた、俺は引退したのに、トレーナーになれるような気がしたから───
3622/07/19(火)22:53:26 誰か書いてくんない?No.950924431そうだねx11
っていう怪文書が好きなんですけど
3722/07/19(火)22:54:00No.950924703+
解釈違いとか色々あるかもしれないけどそこらへんは許して
3822/07/19(火)22:55:02 お前が書けNo.950925160そうだねx8
来たなハーメルン「」…相変わらず物凄い分量と出力だ…
3922/07/19(火)22:58:48No.950926793+
良いものを読ませていただいた…ありがとう
4022/07/19(火)22:59:26 sNo.950927059+
これ一応ボツ作品なんで続き全部書いたら出して打ち切って寝ます
4122/07/19(火)23:01:49No.950928117そうだねx8
今から書くの!?
4222/07/19(火)23:02:27No.950928389そうだねx4
この量を没に!?
4322/07/19(火)23:02:27No.950928391+
すげえ…
4422/07/19(火)23:02:34No.950928454そうだねx1
ブエナ実際に史実だと甘えん坊の寂しがり屋なのか
バカやってるイメージしかないけど本来のブエナの幻覚はこんな感じなのかな…ちゃんと性格の部分史実通りなのね
4522/07/19(火)23:03:00No.950928658そうだねx1
おっそろしい物量だ
4622/07/19(火)23:06:53No.950930466+
次の日、私は起きてすぐお父ちゃんに呼ばれた。
「よっ……と!」
大量の本、大量のノート。
「ちゃんと全部できるか?」
「………………わぁ」
「いいの!?!?」
「うん、いいとも」
「これを読めば勝てるの!?」
「読んで覚えて、そしたら俺が指導しよう、…続けれる?」
「………うん!!!」
掴み取れるチャンスに、きっと欲しい全てに
「やったぁー!!」
沢山の本を!ノートを!眺めるだけじゃない
どうトレーニングするかも全部書いてある。
4722/07/19(火)23:07:26No.950930749+
「トレーニングのとこまで来たら。一緒にやろう」
「うん!!!」
努力があれば自分が頑張れば、きっと…なれる!!最強に!!
「じゃ…頑張ってね、ブエナ、それと、学校に支障がないようにな」
「……ありがとう、お父ちゃん!!!」
お父ちゃんはいつも優しいんだ。
ダメって言われて生きてきた人生で、いつもチャンスを、機会を与えてくれるの。
だから見ててね。お父ちゃん!
「……ブエナ、頑張れよ」
コソッと聞こえたお父ちゃんの声に、また泣きそうになっていた。
でも、泣かないって決めたんだ!
4822/07/19(火)23:07:37No.950930849+
サラサラとノートにまとめて、沢山の文字と絵を見てはまた問題を解いていく。
初めて読む本はとても重く、ページ1枚が鉄のように感じた。
文字は小さくて、見るだけで目に痛み入るようで。
…あ、この字はえっと…。
「ブエナ、電子辞書があるよ、それで調べて見なさい」
「おっっとお!?見てたの!?」
「最初くらいは必要だろ?」
「…うん!」
「えーと、えーっと……」
4922/07/19(火)23:07:47No.950930930+
~~⏰~~
「…ふわぁ…絶対…強くなるの…」
「最強になる…なるの…」
「……あらら」
5022/07/19(火)23:08:00No.950931023+
~~⏰~~
「すぅ…ふへぇ…にんじんBBQだあ…」
眠ってる彼女の前に、彼は立っていた。
そっとノートを開くと…
沢山の勉強の痕跡と、明日は学んだことをどう実践するのか、分からない文字の読み方がびっしりと書いてある。

…この歳で、特にそういった学問に才能があるわけでないのに想像を絶する文字の量がある。
…生憎少し読みづらいが。

ただ、それでも俺にとって、彼女がこんなに努力してるのなら、もういいんじゃないかと過保護な気持ちが湧いていた。
良くないな、そういうのは。トレーナーとして
そっと振り払い、…ゆっくりと愛しい娘のノートを見直す。
「最初くらいは、どうやればいいかくらいは書いてあげよう。それくらいはやっておいた方が効率が良くなるから」
そう、言い聞かせて見ていると…
5122/07/19(火)23:08:12No.950931110+
ノートの初めに、大きなひらがなで、汚い文字で書いてある言葉があった。
『ゆめ!!さいきょうのウマむすめになる!!』
ふふっ、と彼は笑い、静かに毛布を取り出してかけた。


「……スペ…君が思うよりこの子はずっとずっと凄い子だよ」
こんなに努力をして、どうしてそれで走れないんだ。
スペも、俺も、随分と酷いことをしたなぁと思う。
だから、頑張って欲しい。いつまでも君ならできるから。
「…頑張れ、ブエナ」
5222/07/19(火)23:08:24No.950931224+
そうして数ヶ月が立った。
「えぇっ!?ブエナ、まだ続けてるんですか!?」
「テストもココ最近はずっと100点だし、彼女なりに凄く努力を続けてるよ」
ほら、今もと外を指さすと…
「892…893…894!」
筋トレを続け、今日も勉強と運動と…ひたむきに、真摯に努力する彼女が居た。
メニューの指導を最近は出来るくらいになっている、どうやらかなりの速さで進んでいるようだ。
…本格化よりも先に終わってしまうかもしれない、追加を検討した方がいいな。
5322/07/19(火)23:08:34No.950931313+
そう思い、コーヒーをすすり、静かにつぶやく。
「…正直、スペより凄いと思うけど?」
「……むぅ」
「ごめんごめん」
「そんなに贔屓にするなら、あなたがずっと指導すればいいじゃないですか」
むすっとした彼女を少しなだめて、俺は苦いコーヒーを啜った。
「本格化前のウマ娘の指導の仕方は専門外だからなぁ…」
5422/07/19(火)23:08:43No.950931381そうだねx1
>バカやってるイメージしかないけど本来のブエナの幻覚はこんな感じなのかな…ちゃんと性格の部分史実通りなのね
アンカツに曰く小賢しい……?だったかな
操縦性は凄くいいしスペックははっきり言って類を見ない怪物なんだが
ちょっと舐めたとこがあるというかそんなニュアンスなんだろうか
5522/07/19(火)23:08:51No.950931444+
ま、そんなことを言う本人が怪我するかもしれないトレーニングをやらせるのはおかしい話だが。
「認めたくないけど…ブエナはすごいと思いますよ」
「ん?じゃぁ、納得した?降参する?」
「…納得してませんし降参もしてません」
「だよねぇ~そうだよねぇ~」
「ブエナが、どうしてそんなに本気でやるのか分からないんです」
両手を握って俯き、そう呟いた。俺は立ち上がり、縁側から見える彼女を注視しながら…そっと話した。
「スペの話だと、トロフィールームを見たかららしいな」
「そうです」
「自分が叶えたい夢を叶えた人がいたら、きっとブエナもやりたくなったんじゃないの」
「……そう、かもしれません」
「いいんじゃない」
「……トレーナーさん?あ、いえ…」
未だに癖が抜けてないね──と軽く笑うと。
彼女はもう。とむくれる。
5622/07/19(火)23:09:16No.950931623+
「俺はむしろこんなに努力してるのに、未だに誰にも凄いと言われないことが残念だな」
「……そう、ですね…」
本格化まであと1年くらいか。それとももっと先か。
今は分からない。彼女がどんなに努力をして、もしかしたら目覚めないかもしれない。
「……どう思いますか」
「どうって」
「トレーナーとしてあの子を」
「そうだな、俺は」
「───って、思うんだ」
「……そうですね」
5722/07/19(火)23:09:34No.950931744+
「だけど─────────ないかな」
「……ズルい人ですね、ほんっと」
「ははは…さて、行くよ、ブエナのメンタル面が心配だから」
5822/07/19(火)23:09:44No.950931819+
~~~~

1000回のセットを終えて、ゆっくりと戻る。
「お疲れ様、まずはクールダウンをしなさい」
「はいっ!」
そしたら、クールダウンして。また勉強する。
そう言えば、これを初めてもう数ヶ月立ったんだ。
肉体は確かに強くなってる、硬く柔軟な筋肉と、確かに思考の速さは前よりも格段に良くなってる。
でも、1番大切なのが来てない。
「本格化、来ないな…、いつ、来るんだろ」
いつ来るのかは分からない、いつまで続くのだろう?この練習はいつ終わるのだろう?
5922/07/19(火)23:10:09No.950931981+
雨がぽつりと顔について、涙が小さくたれていく。
お母ちゃんなんて嫌い、お父ちゃんも大人気ない。…ずるいよ、嫌だよ。
子供にこんなことさせるなんて大嫌い。
だけど、そういうとお父ちゃんはいつも言う。

『やめてもいいんだ、本格化した時に動いたっていい、俺を無視してもいいんだ』
『少なくとも、人の意思は無視してやりたい事をやってもいいと思うよ、心配なんてそんなもんだから』
6022/07/19(火)23:10:26No.950932103+
「…ダメなの。それじゃ」
どうしてダメなの?楽して…強くなって…
違う、違う、強くなりたいんだ、誰よりも、誰よりも強くなりたいの。
あとこれが何ヶ月続くのかな?
…もしかしたら、何年経っても来ないのかな。
「…………」
今日も寒く、冷たい風が吹く中、ただそれでも大丈夫も胸に言い聞かせる。
「いつ、いつだろ。その日って」
「その日は、おそらく数年後になる」
「……おっとぉ」
雨がポツっと頭に乗った時、ハッと気持ちが切り替わった。
「ブエナ、気を詰めても始まらない、休むことも大切だよ」
「…ううん、頑張る!」
お父ちゃんはいつも見てる。お母ちゃんはいつも心配そうに見てるの。だから、大丈夫、…うん、弱いから、強くなる!
最強になるんだ。誰よりも努力して、誰よりも───!
6122/07/19(火)23:10:37No.950932220+
遠く離れるブエナを見て、さっきの言葉がまた過ぎる。
『どう思いますか』
『どうって』
『トレーナーとしてあの子を』
『そうだな、俺は』
6222/07/19(火)23:10:51No.950932325+
ブエナはね。いつもこう思うんだ。
『報われない子』だなって。


だけど───────
6322/07/19(火)23:11:04No.950932425+
~~~~
それから何年も経った。
彼女はまだ、諦めてなかった。
「終わったよ、お父ちゃん!」
「お疲れ様、ブエナ」
最近はちゃんとした練習メニューもこなせるようになってきた。ここでできる練習は…そこまで多くないが。
彼女は未だずっと、ずっと続けていたのだ。
「今日で……これも終わりだね、本当にできるとは思ってなかった」
ブエナは諦めなかった、…数ヶ月で泣いてた子が、数年間、ちゃんと続けたのだ。
彼女が見せた…トレーナーノートの山は遂に最後の1冊が載せられる。
そう。だから、今日はその日……
───彼女を認めさせる日。
6422/07/19(火)23:11:30No.950932637+
~~⏰~~
いつもの一本道で
前よりも綺麗な冬の空で。
私とブエナはまた戦う。あの日よりも、彼女の背は大きく伸びた、凛々しくなった。
泣き虫じゃなくなって。心も強くなった。
「…いくよ、お母ちゃん」
「…うん、負けないから」
踏み抜く、そして、ふたつは飛び出した。

この日のために彼は道を整備した。
ダート道ではあるが、ちゃんとコースになっている。1800mの、マイルレースに。
ブエナは確かに息が変わっていた。喋らず、無駄を出さず、執念深く走っている。
(……すごい…)
あの日よりも確かに彼女は強くなった。
負けないくらい、強くなった。
6522/07/19(火)23:12:09No.950932912+
だから。私が勝つのよ。ブエナ
後ろに陣取り、風を受けず、能力が落ちたならレースを読む力で、経験で勝つしかない。
…今だ。風が弱まった、今ならーー
大きく、規定(セオリー)よりも早く、彼女は飛び出した。わ
「…スペ、本気だな、容赦がない」
……だが、…ブエナは、きっともう。

「っ…はぁぁっーー!!」
ドウンと脚の音がした。
飛び立った彼女は、ゴムのタイヤのように大きく跳ね、そして飛びぬく。
早い、風を、流れを無理やり貫いて、誰よりも早く───

一気に差をつけて、追いつける瞬間すらなく、私は敗北した。
6622/07/19(火)23:12:24No.950933015+
「………っっっ!!!」
「……はぁっはあっ、…すごい、ブエナ…」
「………やっっっだぁぁぁぁ!!!」
大きく叫んで、そして私に抱きつく。
「お母ちゃん!勝ったよ!私!勝った!!」
思わず、その強さに…泣いてしまっていた。
「ブエナ~!!すごいよぉーおめでとうぅぅ!」
「…おがぁぢゃんながないでえぇえうわぁぁあん!!」
「………うん、おめでとう」
「おどぅちゃぁぁぁん!!」
「トレーナーざぁぁぁん!!」
「うわっくるなっ!やめろ!!2人は無理だ!!!やめ」
6722/07/19(火)23:12:45No.950933163そうだねx1
>ちょっと舐めたとこがあるというかそんなニュアンスなんだろうか
要領が良いから適度にサボるらしい
6822/07/19(火)23:12:46No.950933166+
「ギャァァァァァ!!!」
「あははっ!!やった…!!やったーー!!!」
その日は、きっと俺の中で1番幸せな日だった。
スペもブエナも、ずっと、ずっとーーー
どこか、夢を掴んで欲しかったから。できるという気持ちを得て欲しかったから。
6922/07/19(火)23:13:03No.950933295+
「…うん、頑張ったね、ブエナ、本当に…ここまで」
押しつぶされた中、細々と、だけどしっかり俺は言った。
「うん!!最後まで諦めなかったよ、お父ちゃん!!」
さわやかに笑うブエナにきっとこれが運命なのだと確信する。


「まげだぁーーおどぅちゃぁぁぁあん!!」
「スペはいい加減その甘え癖をな!?」
「情けないおっかあだべ!!」
「ブェ~行かないでぇ~~!!」
泣きじゃくる彼女とキレる娘に、ああ、これはしばらく抜け出せないなと俺は目を瞑った。
7022/07/19(火)23:13:16No.950933395+
ウマ娘、数奇な運命を辿る彼女達は───
どこかで運命のイタズラは必ずやってくる。
ブエナは俺たちがどれだけをそれを妨げても、スペがどれだけ否定しても──ねじ伏せる力が、運命があった。
7122/07/19(火)23:13:31No.950933487+
それから、1ヶ月が経つ。
今日はトレセンの試験日だ。本格化が遅かった彼女は、高等部からの試験になる。
本格化の前から入ることも出来ただろう。
…このチャンスを逃せば、次は…スペと同じ、編入の道になる。
きっとそれは、大変な道だけど
……でも、ブエナは落ちても諦めない、と思う。

だってーーー

「…ブエナ~!!行かないで~!!」
こんなに泣きついて応援してくれる母親が居るんだから。
この母親が、実は編入生でしたなんて話したらブエナは驚いたに違いない。
いや、……たぶん……
「おっかぁはいつまで泣いてるんだべ!」
…まあそうだよねって言うかも。
7222/07/19(火)23:13:42No.950933563+
「だってぇ~だってぇ~」
俺はちょっと苦笑し、ちゃんと言った。
「頑張ってな、夢を掴むんだ、ブエナ」
「…うんっ!」
今日が実技の日となる。今日がその日であり。たぶん、ブエナの最後の日になる。
本格化は遅く、ようやく中等部の終わりにやってきた。
ずっと小柄で、ずっと走れなかった子が、ようやく走れるようになる。
「行ってらっしゃい、ブエナ」
「うん、お父ちゃん!」
1度抱きしめられて、静かに飛び出す。
電車に嬉しそうに乗り込む彼女にゆっくりと手を振った。
7322/07/19(火)23:14:07No.950933726+
~~~~~~~
「それで、結局向かうんですね」
「……ま、視察ですよ、視察」
「もう、言えばよかったのに」
…彼女が言ったあと、俺たちは後を追うようにトラックで試験場へと向かった。
引退した身であるが、ライセンスがあったり、それなりのツテがあるから……
「素直にブエナの走りが見たいんでしょう?」
「そういうスペも、あんなに泣いたのに、見たくないのかよ。逆に」
むっ、と彼女が睨み、俺も悪い悪いと手を振る。
7422/07/19(火)23:14:24No.950933838+
「…寂しいけど、…不安だらけで」
「……わかるよ」
「あの子が本当にやれるかは分かりません、努力する子です、頭のいい子です、諦めない子です…ただ…」
「やっぱり、運には愛されてはないと思います」
ポツリと、彼女が呟く。
窓を見て、目を合わせず、それでも言ってしまった言葉。
現役の頃は絶対に言わなかっだろう
「……」
"運には愛されてない"、歴戦の身ほど、最後に至る部分に、どうしても言い訳したくない部分に、運はある。
「…運くらいなら、あの子は吹き飛ばせると思うけどね」
「人のせいにも、自分のせいにもできないものって、けっこう辛いので」
7522/07/19(火)23:14:47No.950934000+
門別競バ場、今日は貸切で行われた試験会場であり、実技試験が行われる。
事前の筆記試験を終えた彼女達はここに集い、レースを始めるのだ。
数名のウマ娘と走り、着順やタイム、経路やら、例えばレースで走る上での知識を問われる場所。

「……し、頑張るぞ…!」
本格化が終わった方の枠に入り。ブエナビスタはしっかり準備運動をしてレースに向けて体を整えていた。
胸は異様に張り詰めている。あんなに学び、あんなに動いたのに、どうしてここまで緊張するんだろう。
…凄く、すごく不安だった。
彼女達を倒せる自信よりも、自らが失敗するかもしれないという恐怖が──
7622/07/19(火)23:15:01No.950934109+
~~~~~
ガヤガヤと声が響く。
「1番、足がいいが少し怪我をしそうな走り方だな…将来性が微妙だ、36点か?」
「3番はどうだ?悪くないと思うが」
「……あれはダメだろ、走りきれてすらない」
沢山の若い声が響く、彼女達を番号で呼び、寸評をしたり、成績を確認し。そしてトレセンへの認可を決めているもの達。
そんな厳かな雰囲気に、俺は無言で窓の外を見ていた。
妻は残念ながら通れなかったので、こっそりバレないように見ているらしい。特等席で見れるのは俺だけだった。
(後で美味しいものを買ってあげないとだなぁ…)
そう、ぼんやりと今年のウマ娘を見ている。
が…
7722/07/19(火)23:15:12No.950934191+
「君」
「……」
老人の、懐かしい声。
「意図的に無視する男に育てた覚えは無かったが?」
「……師匠」
そう呼ぶと。周りの彼らもおおっと声を上げて見つめる。
灰色の髪、もうシワが多くも、ピシッと直立不動な立ち方と振る舞い。そんな彼は少し挨拶回りをした後、ゆっくりと俺の隣に立つ。
「どうも」
「君こそ、随分に久しいな」
彼は名トレーナーだ。ここにいるのがおかしいくらいには。
「引退したのではなかったのか」
「…特別に、来てます」
7822/07/19(火)23:15:40No.950934377+
「娘か」
「なんで分かるんですか」
「あんなにさっぱり辞めた君がここにいるのは…それくらいしかないのだろう?」
「そうです、娘ですよ、彼女が走るから見たくて」
完全に2人だけの空間になる時、少し睨まれる視線を感じる。
「…いいんですか、俺と話してて、指導されたいって目で見てる人多いですけど」
「気楽にさせてくれ、───実際の所、ここに私を呼び出したのは君だろう?今年辞める身に随分と酷い扱いをするのだな」
「ちょっと許可を通して貴方に欲しいって言っただけですって」
彼は俺のそんなボヤキを無視して、窓を見る。
「…目立つ子は少ない」
「…俺もそう思います」
7922/07/19(火)23:16:00No.950934506+
外を見ると、完走すら出来てないウマ娘が多い。
北海道は残念ながら、環境が悪いとも言われてる。走る場所より、指導する人が少ないから…
基礎が身につくことすら出来ないウマ娘が多い。
というよりは、偏りが酷いと言うべきか。僻地にはウマ娘を指導するものが居ないので、北海道生まれの大半は野原を走ってきた子がいきなり試験レースに出ることもある。
「久しく試験場には来なかった。老骨には応えるが、悪くない 」
彼がそうやって髭を撫でたあと──
「…あの子だね」
「…はい」
師匠はやはり見抜いていた。それも数秒で。
「いい足だ、鍛えられてる、基礎能力は高く、素質もあるな」
頭ごなしに彼は褒めるせいか、他の人達も彼女に注目が寄せられていた。
「………自慢の子って言ったら。怒ります?」
「贔屓はしない」
「分かってますよ」
8022/07/19(火)23:16:13No.950934590+
ブエナは酷く震えていて、走るのが怖がっていた。
いつもの調子じゃない、どこか失敗しそうだった。
「……あの、ブエナは…」
俺がそれを言おうとすると、彼は口を手で塞ぐ
「いいや、だからだ、だからどう走るのかを見るのだ」
そろそろ、ブエナの番だった。
「……分かってますよ…」
8122/07/19(火)23:16:27No.950934701+
頭いいからものをすぐ覚えて糧にできる
才能も十分で勝負根性もすごい
負けても切り替えが早いから次のレースに引きずらない 
ただ頭がいいから最後の方はサボろうとするし叱ると自分が可愛がられてる自覚があるから愛想で乗りきろうとする
今どきの女の子ってのがアンカツの印象
8222/07/19(火)23:16:41No.950934784+
ゲートから、彼女は綺麗に飛び出した。
数十秒もたたず完璧な位置に着いて、綺麗に収まる。
それだけで多くの歓声が上がった。
素晴らしい実力だ、素質がある、完璧だーーと
「…………」
「………」
見守る俺は、その不安が的中する瞬間が近づいていると分かっていた。
あのままでは抜け出せない。おそらくブエナは負ける。
ただ、だから……
彼女なら足掻くだろう、そうなると、──最悪のケースがある
8322/07/19(火)23:17:00No.950934910+
「………間違えた」
間違えた、間違えた!!なんで!!ここで!!
高なる胸は熱く、血はもうどこに流れてるかも分からない。
ただ苦しい、苦しくて、抜け出したくてーーー

「……あれ?」
私はコースの外へと、一心不乱に走っていた。
そして、速度が落ちてフラフラと──倒れてしまう。
8422/07/19(火)23:17:13No.950935016+
「「……うわぁ~あれじゃ落選かなぁ……」」
「ブエナっ…!」
大きな斜行、妨害だけでなく、コースアウト、完全に彼女はアガってしまって間違えていた。
点数はゼロだろう。…おそらく、不合格かもしれない。
落胆の声が響いていた。俺も静かにそれを受け止めていたが…。
師匠はそれを見て、ただ呟いた。
「………関節に異常がある、軽度のものだ、病院に行かせなさい」
「…師匠?」
「それと少し休ませなさい、ひどく頑張りすぎだ、…何年も指導したのは君だな?」
「……っ、はい」
「この子はG1を取れる、…では、帰らせてもらおう」
「………!?」
それだけを言い残して、彼はその場から立ち去った。
8522/07/19(火)23:17:24No.950935109+
ブエナビスタの能力テストは───0点であった。
8722/07/19(火)23:17:41No.950935238+
「……おかえり、ブエナ」
「うっ、ううっ、えぐっ……」
「…ゆっくりとお風呂に入って、今日はおやすみ」
「───うわああああんっ!!!」
抱きつくブエナに、俺はゆっくりと背中を叩いて。言う。
「来年もあるさ、今年負けたからって、次がダメだとは限らないよ」
「でもぉっっでもぉっ!!頑張ったのにぃ!まけたぁぁ!!」
(──関節に異常がある、病院に行かせなさい)
「ブエナ、足…どこかおかしいのか」
「へっ、……わかんないよぉ…足は痛いよ、でも筋肉痛で…」
「実は君を見ていたトレーナーからね、病院に行かせなさいって言われて…」
「もう走れないよ、無理だよ…」
いつもの泣き虫に戻っていて、…だけど、その不運に目を瞑ることは出来なかった。
8822/07/19(火)23:17:51No.950935313+
「……ブエナ、…大丈夫、大丈夫よ」
「おっかぁ~~~~!!」
「走れなくても、ブエナはブエナだから……だから、大丈夫、走れなくても、走っても…ブエナはブエナだよ」
「ううええええーんっ!!!」
「とりあえず、…病院に行かないとですね」
「うん、…連れていくか」
8922/07/19(火)23:18:01No.950935405+
あの時の言葉は未だに引っかかった。
ブエナは落選したはずだ、しかし──G1を取れるウマ娘になる、と確かに話していた。
師匠は認めてくれたのだろうか…?だけど、あの人は……今年で辞めるって…
……引き継ぎでもあるのだろうか?
9022/07/19(火)23:18:32No.950935613+
──────中央、トレーニングセンター、理事長室前
「むっ!?久しいな!」
「こちらこそ、理事長」
静かに老人は座り、彼女と向き合う。
「話がありまして。…具体的にはもう3年勤務を延長させて頂きたい」
「…もちろん!許可っ!!であるが、随分と野望に満ちた目だなっ!」
「…ええ、やよい様、それは素晴らしい子を見つけました、スカウトの権利も…残して頂けますかな?」
ファイルを何枚か置いて、秋川理事長に見せる。彼女は静かに確認し──
「ぬうぅ…確かに素晴らしい基礎能力ではあるが…!」
9122/07/19(火)23:18:43No.950935698+
「…ま、半分は私のエゴですよ、…潜在的に運が悪い子は居ます、負け運、とでも言いましょうか」
「…確かに…そうであるな…」
だから、勝たせてやりたい、…トレーナーとしてのエゴであり、…少なくとも、先にやめたあの男なら同じように言うだろう。
「………承諾!!!いいだろう!!最後の3年、是非有意義なものにしてくれ!!」
ファイルを全てとり、大きく一礼をする。

静かに戸を閉めて、廊下で小さく呟いた。
「…ブエナビスタ…か………実に、面白い子だ…」
9222/07/19(火)23:19:00No.950935831+
~~~~~~
「ブエナーーーっ!!」
「おっかぁ~?」
「これ!!これ!!!!!!!!」
「なんさ?そんな驚いた顔で…」
「セントラルのトレーナーから…推薦状が届いたよ!!!ブエナ!!」
「すいせん…状?……それって、えっ?……えーーーーーーー!!!!!!!」
「おめでとうブエナぁぁあ~」
「おっかぁ~!!!ちょ、お父ちゃん!!お父ちゃん呼んできて!!!」
「うわぁぁ~ん」
「お父ちゃーーーーん!!!おっかぁが重いーーーー!!!」
9322/07/19(火)23:19:35No.950936077+
「ブエナ~、大丈夫~?」
『贔屓だなんて思うなよ、私が勝てると思ったからスカウトしただけだ』
『……本当に、本当に──!』
その時、心の底で確信する。
ブエナは、やはり何か数奇な運命を持っていると。
9422/07/19(火)23:20:14No.950936361+
終わりです
続きません
続かない理由はブエナは書くにはあまりにも壮絶なくらい負けたり勝ったり運が悪かったりで名レースが多すぎて話数が足りないから
9522/07/19(火)23:20:49No.950936638そうだねx9
>終わりです
>続きません
そんなぁ~
>続かない理由はブエナは書くにはあまりにも壮絶なくらい負けたり勝ったり運が悪かったりで名レースが多すぎて話数が足りないから
そうだね!!!!!!!
9622/07/19(火)23:21:51No.950937064+
舎弟にも12世代にも絡んでくるからなブエナ
9722/07/19(火)23:22:13No.950937224+
fu1267621.txt
これが一応最後の話
なおたどり着けなかったら出して供養して寝るね……
9822/07/19(火)23:22:57No.950937510そうだねx4
読む速度より出力される方が速い…
9922/07/19(火)23:23:37No.950937779+
没予定だったとしても読ませてくれてありがとう…この作品が読めてよかった
10022/07/19(火)23:24:01No.950937939そうだねx1
もしかしたら
もしかしたら今書いてるメイセイオペラの方が完結したら書くかも…わからんね…
10122/07/19(火)23:25:15No.950938487そうだねx1
やっぱりブエナは実装してほしい
まだ見ぬ絶景を求めてっていうのがかっこよすぎる
10222/07/19(火)23:26:07No.950938876+
なるほど読み直すとブエナ大分小賢しいとこあるな
夢がきっかけかなって思ったら中央に行くにはお母さんは倒して認めさせたいって気持ちはあったし
泣きつく割には一日で元に戻ってるね…泣いてすぐ元通りになるタイプなのか…
10322/07/19(火)23:28:06No.950939701そうだねx1
最終話見て泣いたよ
なるほどね…自分がずっと探してた夢とその景色は最初の最初の曇り空だったのか………
ブエナ最後のジャパンカップが曇り空で最初に挑んだこのスペの時も曇り空だし練習に泣いた時も曇り空だったのか…
すげぇなこの完成度
10422/07/19(火)23:28:21No.950939811そうだねx1
>泣きつく割には一日で元に戻ってるね…泣いてすぐ元通りになるタイプなのか…
上がり下がりが激し過ぎるのは何というか原作ブエナとその陣営など背景落とし込むとマッチしてる気がする
基本的には超ポジティブだけど尾を引くと長いとこはウマ娘のスペちゃんそっくり
10522/07/19(火)23:28:39No.950939941そうだねx1
涙腺にきたな…
10622/07/19(火)23:29:34No.950940319そうだねx3
>まだ見ぬ絶景を求めてっていうのがかっこよすぎる
もう初めからグッドエンディングのタイトルが決まってるのは最強すぎるよ
10722/07/19(火)23:30:04No.950940518そうだねx2
お父ちゃんの線で隠されたセリフで泣いた
そうだよブエナそういう子だったんだよ
10822/07/19(火)23:32:28No.950941503そうだねx2
『誰かの夢になるウマ娘になる』
夢を叶えたのにずっと夢を追いかける所の共通点があるのに
スペシャルウィークの肩書きのスペシャルドリーマーとの見事な対比だと思う
10922/07/19(火)23:32:56No.950941689そうだねx1
ところで誰かの夢になるの文字を見た新人くんが連れてくるのが
ウマ娘史におそらく忘れられない記憶を残す衝撃の英雄さんなんですが
11022/07/19(火)23:35:08No.950942573そうだねx1
>ところで誰かの夢になるの文字を見た新人くんが連れてくるのが
>ウマ娘史におそらく忘れられない記憶を残す衝撃の英雄さんなんですが
ブエナの次の子の物語は曇り空じゃなくて誰よりも綺麗な青空
文字通り彼女の未来を示すに相応しい言葉だと思う
11122/07/19(火)23:39:20No.950944199そうだねx2
本当に良かったのだが続かないと言われて俺は耐えられない
理由を言われるとそうだね
11222/07/19(火)23:40:54No.950944878+
なんというか明日のメインストーリー更新がより楽しみになるような話だったよ
感想になってかもしれんけど率直な感想がそれ
11322/07/19(火)23:41:28No.950945071そうだねx1
>本当に良かったのだが続かないと言われて俺は耐えられない
>理由を言われるとそうだね
書いてもいいけど書くとなると今のオペラ書いてる奴が大体5話くらいで終わるけど
ブエナ書くなら10話は覚悟しないとかな……1レース1レースが濃い!!
11422/07/19(火)23:43:58No.950945987そうだねx2
>書いてもいいけど書くとなると今のオペラ書いてる奴が大体5話くらいで終わるけど
>ブエナ書くなら10話は覚悟しないとかな……1レース1レースが濃い!!
あれあんたかよ!
すごかったよ…
11522/07/19(火)23:46:12No.950946934+
急に鍵を探すスペちゃんに対して真顔でオートロックだと指摘する辺りがマジでブエナしてる
11622/07/19(火)23:48:30No.950947902+
スペちゃんとブエナ何が違うかと言えば……うーn
敢えて言うと黄金世代みたく同じ名前が勝って負けてで凌ぎ削り合う世代じゃ無かったというか
なまじブエナが抜きん出てるのは下手するとブエナ自身も含めて誰も疑ってないというか
そのぶん負けた時はマジで申し開きもない負け方か逆に運が向いてないとしか言いようがないって具合になるので
……背負っちゃうよねぇ重いものを
スペちゃんが世代全体でけっぱれしてたのを一人で担いだ気になったとしたらそりゃ待ってるのは孤独だよ
それが晴れる瞬間がジャパンカップに来るとしたらまあすごい事になる
11722/07/19(火)23:48:46No.950948001+
ブエナは本当に良く走った馬だからね…
GⅠ6勝しといてGⅠ2着7回とか笑っちゃうくらいに面白すぎる
11822/07/19(火)23:50:03No.950948487+
>ブエナは本当に良く走った馬だからね…
>G?6勝しといてG?2着7回とか笑っちゃうくらいに面白すぎる
一番人気記録持ちだからファンの期待もさぞ重かろう
いかん胃が痛くなってくる
11922/07/19(火)23:50:04No.950948495そうだねx1
文字通りの意味で『報われない子』の答えとスペちゃんが言ってたブエナは運がないが全てだよね
親はやっぱり最初からブエナを全部見抜いてたんだな…
12022/07/19(火)23:51:50No.950949175+
>「人のせいにも、自分のせいにもできないものって、けっこう辛いので」
この言葉が重すぎる
ブエナでありスペの全てだ…
12122/07/19(火)23:52:08No.950949278+
ブエナはオペラオー的な立ち位置に感じたな
98世代という良くも悪くも熱烈なファンの居たオペと
ウオダスっていう先駆者が居た点や前の世代や後の世代と戦い続けた点とかが被って見える

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