政府が実施を表明した安倍晋三元首相の「国葬」について、全国で賛否の意見が渦巻いている。国葬とする人の基準がない中で、憲政史上最長となる8年8カ月の首相としての実績や、国会でも取り沙汰されてきた疑惑への評価などで意見は割れ、政治的な駆け引きを憂う声もある。


 「外交で活躍したと思うが、森友・加計学園や桜を見る会の問題など説明が不十分で疑念が残る。旧統一教会との関係もまだ明らかになっていない」

 神戸市東灘区の自営業の男性(61)はそう指摘し、「一部でも反対があればやめた方がよい。新型コロナウイルス禍やウクライナ情勢で困っている人がいる中、税金を使うのはどうか」と国葬に反対する。

 一方、「物心ついたときには首相だった」という西宮市の女性会社員(24)は「ご本人もこのような人生の終わり方をするとは思っていなかっただろう。国民で弔う機会があってよい」と国葬に賛成する。

 かつて神戸製鋼所に勤めた安倍氏と入社式や新入社員研修で一緒だった兵庫工業会の宮脇新也会長(66)=神戸製鋼所顧問=は「個人的な意見」と前置きした上で賛成。「凶弾に倒れた元首相を国を挙げて弔い、暴力反対の姿勢を世界に発信するべきだ」と訴える。

 また、「国葬を要人外交の場とすれば国益にもかなう」とも主張した。国葬を巡る議論に「政治的な駆け引きに使われ、内向きな議論になっていないか」と疑問を投げかける。

 神戸学院大の中野雅至教授は「税負担や弔問外交の有無ではなく、政治家としての業績で判断するべきだ」と話す。

 「安保法制は進め方に問題があったかもしれないが、その後のウクライナ情勢などを見たときに先見の明があったと言える。アベノミクスは数年後にどのような評価になっているか分からない」と指摘。

 「亡くなって1週間で決めるのではなく、時間をかけて議論すればよい」と性急な判断を疑問視し、「そもそも国葬の意味や実施する理由などを、政府はもっと説明するべき」と話す。

 尼崎市の津久井進弁護士は「国会で要件や基準を作り、法律にのっとって実施するべき」と求める。1926年制定の「国葬令」は戦後の47年に失効。政府は「閣議決定によって国葬の実施は可能」としているが、津久井弁護士は「今の日本には厳格な意味の『国葬』はない」と指摘する。

 安倍氏の通夜・葬儀は11、12日に執り行われた。自治体によっては庁内に記帳所を設けていたが、兵庫県は半旗の掲揚のみだった。県秘書課は「国葬が実施されるなら、記帳所や献花台の設置、黙とうなどの対応も検討する」としている。