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しまねの人
平和願うアート 亡き夫と
◆染色作家 細田 和子さん(82)◆
展覧会「愛(いと)しき島根」。安来市の市加納美術館で、島根出身の細田育宏(やすひろ)さん(1931~2009)、和子さん夫妻の作品展が開催中だ。現在は東京に住む和子さんの染色作品と育宏さんの木彫アートが仲良くハーモニーを奏でている。作品テーマは多岐にわたるが、いずれも幼い頃のふるさとの思い出が背景にあるという。
戦争や紛争をテーマにしたものが並ぶ。
わき上がる白い煙の中に、穏やかな表情でたたずむお地蔵様。和子さんの作品「悲しき煙の中からNo.4」は、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件がモチーフだ。鎮魂の意を込めて作り上げた。「事件は衝撃でしたね。夢や希望を持っていた善良な人たちが一瞬で命を絶たれる。やめて欲しい、と強く思いました」。平和への願いを込めたこの作品は、母校の出雲高校に寄贈された。
東京都東久留米市立神宝(しんほう)小学校の教員の時に取り組んだ「キッズ・ゲルニカ」運動の版画も。スペイン内戦の爆撃で多数の市民が犠牲になった悲劇を描いたピカソの代表作と同じサイズで、当時小学5年生の23人の教え子たちと作った。1997~99年にかけて完成させた。遊ぶ子どもたちや鳥、お地蔵様の姿などが並ぶ。「何げない日常に平和の大切さが込められている、そんな思いをみんなで版画に託した」と話す。
幼い頃の戦争体験が、一連の作品の底流にある。
戦争と聞くと、父や祖母の姿が脳裏に浮かぶ。父は戦地から無事に戻ってきた。和子さんが駅まで迎えに行くと「1人でしょんぼり、疲れ果てた姿でした。出かける時には大勢が手旗を振って送り出してくれたのに」。父の弟は戦死し、号泣していた祖母の姿も忘れられないという。「平和が尊い、戦争はいや。その思いを強く抱き続けた」と話す。
島根大を経て小学校の教員になった。1959年、大学で知り合った旧布部村(現安来市広瀬町布部)出身の育宏さんと結婚した。東京学芸大・大学院で教授を務めた育宏さんとともに東京に移り、東京の小学校に勤務しながら染色の制作を続けた。育宏さんは建築・家具のデザインからやがて木彫や金属のアートに転じた。
2人の作品を集めた展覧会は2回目。和子さんの染色には、独自の技法が採り入れられており、そこも注目だ。布の白くしたいところに蝋(ろう)を塗り、染める箇所は、蝋の上から針で引っかき、墨を染みこませる。銅版画の「エッチング」という技法の応用だという。
「展覧会の機会を作っていただいたことに感謝しています。私のよりも、育宏の作品は本当に素晴らしいのでぜひ足を運んで欲しい」と、笑顔を見せる。
4月8日まで。育宏さんの子どものころの思い出が込められた作品、和子さんの島根を追慕する作品が並ぶ。入館料一般1千円、高校生以上の学生500円。火曜休館(4月2日は開館)。3月10日午後1時半から、和子さんによる「作家と作品を語る会」がある。問い合わせは同美術館(0854・36・0880)へ。 (奥平真也)
■ほそだ・かずこ
1936年出雲市馬木町生まれ。東京都東久留米市在住。日本子どもの版画研究会会長、現代工芸美術家協会本会員、日展会友。
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