金曜日の午後、例によって全力で実験中、彼がきて話しかけてきました。
「今日終わりそう?」
私は、
「頑張って終わらせる。けど、できれば明日もラボにきていいかな?」
と尋ねました。
彼は、ちょっと難色を示し、
「これって終わりがないから……」
「それは家族に我慢してもらうってことで……」
とゆー感じの反応。
私は、
「でも、この間までそっちが忙しかった時に土日とかラボに行ってたでしょう?」
などと反論し、2人の会話は、ちょっと険悪なムードになりました。
最後には彼が、
「今日はいつまでもやってたらいいよ。」
と言って退席しようとし、
それに対して私が
「今日は時間内に終われるって言ったでしょう。」
という言葉を彼の背中に投げかける感じで、この会話は終了しました。
その後私は、
「今日は絶対に時間内に終わらねば……」
と思いながら、同じく全力ペースで実験を続け、何とか集合時間の5分前に彼のオフィスに到着することができました。
ところが……
私「いない……」
オフィスに彼の姿はなく、携帯を見ると、
「今日は先に帰っていますので、帰ってくるのはいつでもいいです。」
というメッセージが……
私「信じられない!」
すぐに彼の携帯に電話をかけると、
彼「君と一緒に帰りたくなかったんだ。」
とのこと。
私は、
「一緒に帰りたくないなら自分が電車で帰ればいいのに……
今、外は-10℃なのに……
最近NYの地下鉄でアジア人がホームに突き落とされる事件が多発しているから、駅は怖いねって、この間話したばかりなのに……。」
などとグチグチ思いながら、電車で帰ってきました。
ただ、私的にはありえないシチュエーションでしたが、
彼には彼の言い分があるし、これまで一緒に過ごしてきた間の彼の言動を鑑みて、
「この行為に否があるとは、彼は考えないだろう」
というのはなんとなくわかっていました。
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翌朝、まだ子供達は寝ていて、私達夫婦にとってデスクワークに集中する時間。
私が書斎に入って「おはよう」と声をかけると、彼が話しかけてきました。
「昨日の事なんだけど……」
話を聞くと、彼は私が週末に仕事をしたいと言った事ではなく、
- 私の口調が感情的になってきた
- 以前彼の精神状態が悪かったときに私が仕事をセーブしていたことを持ち出してきた
の2点について怒っていた、という事でした。
特に後半の
「彼の調子が悪かった時の事」
を持ち出されるのが最も嫌で、今後もその話が出てくるようなら一緒には居られない、との事。
これには理由があり、彼は「以前自分の調子が悪かった時の事をほとんど覚えていない」そうなのです。
(とゆーか、そのような事実があったかどうかすら、未だ懐疑的……。)
なので、彼の立場からすると、
「ある程度は事実かもしれないけど、相手が都合のいいように事実と異なる内容を織り交ぜて話しても彼には判断ができない」
という事になります。
そしてこの話を持ち出されると、彼の方には記憶がないために反論ができず「一方的に責められている様に感じる」という事でした。
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私は考えました。
彼と同じ様に以前の出来事を忘れてしまえば、今後何かの折にこの手の話題が浮上することはなく、彼と穏やかに過ごしていけるかもしれません。
ただ私は、忘れたくない のです。
それは
「こんな事があったんだから、私には○○を主張する権利がある」
と言いたいわけではなく、
「色々な出来事が起こるたびに自身の言動を省みてきた事で今の自分がある」
と思っているからです。
「あの時はこの言動で状況が悪くなったから、ここはこーゆー風に考えてこーゆー風に発言しよう」
という感じで、
タンパクが転写・翻訳された後に色々と翻訳後修飾されて細胞外に出てきたりするように、
私の頭の中で思った内容は、私の過去の記憶や経験によって大きく修飾・修正され、最終的に私の口から発せられるようになっています。
これら、私の修飾因子達は、彼の調子が悪かった時の出来事だけではなく、
彼と出会う前、幼稚園や小学校の頃からの記憶に遡ります。
彼には子供の頃の記憶もそんなに残っていないそうですが、
私は自分が子供の頃、思春期の頃、大学の頃、仕事を始めた頃……
ほとんどの期間の記憶がかなり鮮明に残っています。
中でも特に記憶に残っているのは、自分の言動でトラブルが生じた時の事や、友達や家族など周囲の人達の言動で嫌な思いをした時の事です。
私は幼稚園の年長くらいの頃から、
「自分はあまりいい人間ではない」
と思い始め、その気持ちは小学校に入ってから年を追うごとに大きくなりました。
子供の頃の私は、わがままで、ずる賢く、そして浅はかでした。
そしてそんな自分が嫌いでした。
なので、なにかトラブルが起こったら
「次からは同じことが起こらないようにこう行動しよう」
と自分を戒めたり、
お手本になりそうな人がいたらその人と自分の言動を比較して自身を省みたりしてきました。
それら過去の記憶がなくなってしまったら、私はまた元のダメな人間に戻ってしまうように感じ、恐ろしくなります。
彼が調子の悪かった時の記憶だけ消すのも嫌です。
それはその間、彼を支えよう、家族を守ろうと一心に努力してきた事が全てなかったことになってしまうと感じるし、
その間にとことん考えた内容が、今の私の言動を色々と良い方に修正してくれている、と思っているからです。
なので彼には、「私は今までの事をなかったことにはできない」と答え、
その理由を説明しました。
特に、
- 彼に対して過去の恨みつらみを言って責め立てる気持ちは、今、全く持っていない事
- ただその時の経験が元になって今の考えがあるので、今後もその時の話が出てくる可能性はある事
を強調して伝えました。
彼は、その内容に理解を示した上で、
- ただし、「責められている」という印象は受け手が感じるものなので、これからの私の言動の全てを「彼の過去を責めているわけではない」と捉える事は無理かもしれない
と予め断りを入れられ、この話はまとまりました。
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世の中の夫婦がどのように関係性を維持しているのか私にはわかりませんが、
「今までお互いが思ってきた全てを腹を割って話す」
というのは、私達二人の間では難しいんじゃないかと思っています。
理由の一つに、
「私が過去の出来事を全て大切にしながら生きていこうとする傾向があるのに対し、
彼は過去をあまり振り返らず、現在と前を見て生きていこうとする傾向があり、
二人の過去の記憶量に大きな差がある」
ということが挙げられます。
なので、
「本当に重要だと思うポイントに関してはしっかりと話し合うけれども、
詳細についてはあまり深堀りせず、今までの言動からお互いの考えを推測し合う」
という感じにやっていくのが、私達には合っているように思います。
あと、当たり前ですが、親も兄弟も夫も子供達も、私が産まれてこれまで生きて考えてきた事、全てを見てきた人はいません。
お世話になっている教会の人達なら「神様はなんでも知っている」と言うかもしれませんが、
神様がいたとして、私のような人間ひとりひとりに関わるほどの暇人のようにも思えません。
「自分の良いところも悪いところも過去や現在の考え方も、これまでの全てを見てきたのは自分だけ」
という事です。
賢い人達は、このような状況を理解した上でそれぞれ自分達の心の拠り所を見つけていくのかもしれませんが、
私は現時点において、そしてこれから先も、そのような拠り所を見つけられるような気がしません。
しかしながら、自分で自分を否定してしまうと後には何も残らないので、
とりあえず私は、これからも周囲の言動の助けを借りつつ、最期まで自分で自分を見つめながら生きていきたいと思います。
自分もそうなのですが、エピソード記憶が残らないんですよ。そういう仕組み(仕様)なんです脳が。男性の大多数はそうで、それがもとでいろいろ起きます。世界中どこでもですね・・・。
本当、その通りですね。
かなり強い性差があるように思いますし、episodic memory と sex で検索しただけでもたくさん出てくるので、昔から万国共通なんだろうなーって思います。
私は忘れた方が良いことも結構覚えちゃうんですよね……でも、年を追う毎に覚えられる量が減ってきているので、もう少ししたらちょうど良くなるかもしれませんw