本記事は、少し前、私の身近な人が他界する前後に書き溜めていたものです。
遺族の許可を得て投稿しておりますが、ここに書かれていることはすべて私の主観を元に書かれており、事実と異なる可能性もある点をご了承ください。
Co-PIが亡くなってから、ラボは悲しみに包まれ、皆は仕事をしながらも、彼との思い出を話したりして過ごしていました。
そんなある日、ラボのスタッフの一人からアナウンスメールが届きました。
今週は、皆にとってとてもつらい日々だった。
僕も、彼との思い出やあふれる感情をみんなと分かち合ってきた。
ここにいる多くの人達が同じ気持ちを持っていると思う。なので、次のセミナーの時間は、彼との思い出を共有する機会にしたいと思う。
シェアドライブにフォルダを作っておくから、彼との思い出の写真があればそこに入れて置いて。
皆で色々話そう。
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当日、皆は朝からカンファレンスルームに集まりました。
ある人はティッシュボックスをいくつか持ってきて、テーブルの上に置きました。
時間が来て、PIが始めの挨拶をしました。
今日は皆、彼の為に集まってくれてありがとう。
こんな機会を設けてくれて、彼もとても喜んでいると思う。
これから出てくる話は、彼のおとぼけ話とか、面白い話が多いんじゃないかと思うけど、私も色々思い出して、皆と笑いあいたいと思う。
そして、彼がラボを立ち上げてから30年以上を共にしてきたスタッフ達が、古い写真などをスクリーンに出しながら次々に思い出話を始めました。
- 彼のトレードマークだったネクタイの話
- 若い頃のちょび髭が、意図的なのか単に剃るのが面倒だったのか微妙なラインだった話
- 彼の背が高いので、混雑していた東京駅で、小さな人たちは彼の後ろにくっついて移動した話
- ある日ラボの皆が一斉に彼の格好のマネをしたとき、彼は会う人全てに "You are me!" と指差して喜んでいた話
- とにかく雑談が好きで、彼に捕まったら1時間くらいは話に付き合わないといけなかった話
- ものすごい電話魔で、彼から電話がきたと思ったら「今メールしたから読んでね」という内容だった話
- 「PCが壊れた」という電話を受けてオフィスに行ったらモニターの電源が付いていなかった話
- 翌日にまた「PCが壊れた」という電話がきて行ったら、今度はPC本体の電源が付いていなかった話
- etc...
皆、懐かしそうに、楽しそうに、時に寂しそうに話していきました。
私は皆の話を聞きながら、スティーブン・R・コヴィ氏の「7つの習慣」に書かれていた「終わりを思い描くことから始める」の章が浮かんできました。
自分の死後、周りの人たちが生前の自分をどのように回想し、どのように話しているか、それを思い描いてみる、という内容です。
彼の死後、彼の友人達の話は尽きず、彼がどんなに面白く、楽しく、優しく、思いやりのある人物だったか、本当にそんな話ばかりでした。
生前の彼がどんな人物だったか、彼との数年の付き合いしかなかった私にもとてもよくわかりました。
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「これは誰が入れた写真?」
フォルダの中に私が入れておいたPPTを、誰かが開きました。
私は最初、ただ皆の話を聞いているだけのつもりだったのですが、先日のPIとの会話で「もっとスピークアップする必要がある」と言われた事もあり、自分の持っていた数少ない彼との写真をフォルダに入れておいたのでした。
かなり躊躇しましたが、私は思い切って話始めました。
「私は皆みたいに彼との長い歴史があるわけじゃないので、ここで発言するのは烏滸がましいとも思ったんだけど、でも、私も彼の事が好きだから……」
そこまで言った時点で、私は言葉に詰まってしまいました。
―― やばい、もうこれ以上、話せない……。
そう思った時、近くにいた T が私の手を握りました。
Co-PIがこのラボを立ち上げた当初からここで働いている彼女は、私の手をしっかりと握ったまま、「大丈夫、大丈夫よ。」と声をかけてくれました。
彼女の手の温かさを感じながら、私は写真の説明を始めました。
その写真は、彼のIOAディレクターの離任式の時の写真で、彼はその前日まで長期間体調を崩していました。
私は
―― これが最後のチャンスになるかもしれない。
と思い、大勢の人々に囲まれている彼を部屋の隅で長いこと待って、一緒に写真を撮ってもらうようお願いしました。
また、私がビデオコールで一言話していたお茶の話もしました。
そのお茶は私が送ったんじゃないと答えても彼は特に気にする事なく、このお茶がどれだけ美味しかったか、彼がどれだけお茶が好きかを1時間程話し続けた、というくだりでは、みんな「あるある!」と言って笑ってくれました。
最後にPIが締めの挨拶をして、皆は立ち上がり、出口に向かって動き始めました。
私もその流れにのって部屋の出口に向かいましたが、彼と特に親交の深かった E と J とすれ違った時、彼らが私の背中に手を置き、「ありがとう。」と声を掛けてくれました。
私も「ありがとう。」と答え、皆と一緒に部屋を後にしました。