「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」発売記念インタビュー 第５回「メトロイド篇」

はい（笑）。ファミコンが出るというのを知ったのは、それからしばらくたってからでしたので、認識するのはちょっと遅かったんです。

そうです。そのころ、私が所属した開発一部では、ゲーム＆ウオッチ^（※1）の開発がある意味、主流だったんですが、ちょうどファミコンを販売するタイミングで入社したので、クリスマスシーズンに百貨店に行って・・・。

応援を（笑）。

そうです、売り場の応援に（笑）。そこで百貨店に行くと、ファミコンが好調でしたので、売り切れることもあったんですね。そんなときは他社の製品をお客様にすすめていました（笑）。

はい（笑）。

僕も行きましたよ、応援に。

「行ったほうがいい」「勉強になるぞ」と背中を押されて、関西のとある百貨店に応援に行ったんですけど、「マケて」と言われた思い出しか残ってないんです。「わざわざ遠くから電車に乗ってきたんやから、これ買うたら、ソフト２本、おまけにつけてや」とか言われたりして（笑）。

だから、売り場の応援でホンマに自分が勉強できたのか、よくわからないんですけどね（笑）。

ありがとうございます・・・って、もうそんなになるんですね。

３０年もたったんですね・・・。

もともとは、清武ともうひとりの新人の２人だけでつくりはじめたんです。前回の「バルーンファイト篇」でもお話ししましたけど、上司だった横井（軍平）さん^（※3）は「絵が描けるヤツは、ゲームもつくれるはずや」という考えをお持ちで・・・。

そうなんです。しかも、２人ともゲーム＆ウオッチをつくったことはあっても、テレビゲームの開発の経験はまったくなかったんです。

当時はそこまでは考えませんでした・・・というのも、自分たちが、テレビゲームの開発がどういうものか、まったく知らなかったせいもあるんですけど・・・。それに、「適当にやっておけ」と放っておいてもらえたので、すごく気が楽だったんです（笑）。

ええ。しかも「最後の面倒は見るから」と言われていましたので、つくりはじめたものが、ボツにさえならなければいいなという気持ちでした。

開発中に、『スーパーマリオブラザーズ』^（※4）がブームになっていったんです。そこで『スーパーマリオ』にはないものを、なんとかつくりたいと思っていました。

簡単な例を言うと、走っているマリオが止まろうとすると、少し滑るじゃないですか。

だから、滑らない動きをつくろうとしたり・・・。

そうです。マリオにはないアクションをつくりたいと思ったんです。あとは・・・。

（清武さんに）大事な話を忘れてない？

はい？

そもそも『スーパーマリオ』って、敵をよけるゲームですよね。

それを見た清武は「なんでよけなあかんねん」と、文句を垂れていたんです（笑）。

そこで、回転ジャンプをすると敵を倒すことができる「スクリューアタック」というワザをやりたいということで、『メトロイド』をつくりはじめたと・・・そうだったよね？

はい、そうでした（笑）。

１０か月もなかったと思います。

出口を考えるというより、それ以前に、私たちはテレビゲームを最後までつくったことがありませんでしたので、完成形がまったくイメージできていませんでした。

まったくありませんでした。とにかく当時は、どうしたらおもしろくなるのか、どうしたらゲームになるのか、ということだけを考えていました。

じつは『メトロイド』に僕が加わったのは、最後の３か月くらいのことだったんです（笑）。

合流したのは僕だけでなく、最後は開発一部のスタッフの全員が仕上げに加わりました。

そうです。当時の開発一部のみんなが、なんらかのかたちで、『メトロイド』に関わりました。

正直に言うと、何もできていなかったんです（笑）。

どこに行っても同じ柄の背景が続いていて、どこに行っても同じことしかできないような状態だったんです。キャラクターが動くだけで、ゲームデザインがまったくできていなかったんですね。

それはできていました。ダークな世界観で、肉体派のキャラクターが活躍する、いわゆる体当たりゲームみたいな感じは、当時もちゃんとできていたんです。

いちばん最初に手をつけたのは、主人公のサムスの動きです。

私はキャラクターデザインが専門だったいうこともあって、サムスをいろんなパターンで、すごく細かく動かしていたんです。すると、すごく容量を食ってしまったんですね。

とても収まらないんです。なので、サムスの動きはかなり端折（はしょ）られました（笑）。

もちろん涙、涙だったんですけど、みんなに手伝ってもらっているわけですし、その結果として、『メトロイド』が完成するのであれば、それでいいとは思っていました。

そのほかにも、背景の色を変えることで、次に進んだということがわかるようにしたりとか、ものすごくたくさん手を加えることになりました。

そうでしたね・・・。

でも、清武たちを責めることはできないんです。彼らはゲーム＆ウオッチから、いきなりディスクシステムのソフト開発の世界に飛び込まされたわけですから。

まさにそんな感じでしたね。ゲームづくりの経験のない新人に対して、横井さんが「絵が描けるヤツは、ゲームもつくれるはずや」と言ったから、清武たちはそのとおりにやっていただけなんですね。

はい。

そうです（笑）。ペレの本名が合っていない気もするんですけど・・・。

やっぱり（笑）。

そうそう、そういうイメージでした。

ああ・・・ぜんぜん違いますね（笑）。

けど、「アラントス」は合ってますね（笑）。

なんとなくそういうイメージでいいかな、というので付けた名前だったんです。

開発の終盤に入ってから、クリアする時間によって、エンディングのパターンを変えようという話になったんです。そこで速くクリアできた人には、ご褒美のようなものを用意しよう、ということになりまして・・・。

「みんなが驚くものはなんや」と。すると、「サムスのヘルメットをとるのがいいんじゃない？」という話になったんです。

そしたらスタッフの１人が「女の人が出てきたら、みんなビックリするやろうな」と言ったんです。「あ、それおもしろいから、そうしよう！」ということで一瞬で決まったんですね。

本当に一瞬で決まりましたね。あの当時は、ひとつのゲームを何度も遊んでくれるようなところがありましたので、これだけ速くクリアすれば、こんなご褒美がありますよ、ということで、サムスがヘルメットやスーツを脱いだりするという４つのパターンを、エンディングに入れることにしたんです。

だからあの当時、遊んだ人にはすごく驚いてもらえましたよね。いまでもそのことは“伝説”のように言われることもありますし（笑）。

そりゃあ、すごくうれしかったです。とくに音が入ったときは、すごく感動しました。僕らが２人でつくってるときは、単純な音しか入れることができなかったんです。「ぴゅんぴゅん」みたいな（笑）。

しかも、世界観もそこそこのものしかつくっていなかったのに、ちゃんとしたサウンドを入れてもらったときには、やはり感動しましたね。

僕がこのプロジェクトに参加したときは、新しいものをつくって、それをゲームに組み込むような時間が、まったくなかったんです。

そうなんです。なので、そこにあるものを使って、「何ができるか」、「どういうおもしろいものになるか」、ということに必死だったんです。

そうです。そうして『メトロイド』が次第にゲームのかたちになっていって、完成間近になったとき、スタッフたちの名前が入ったエンディングロールができてきたんです。それを見たときは、本当に涙が出そうになりました。

達成感が半端じゃなくって・・・すごくジーンときましたね。

そうです。じつは最初に「手伝ってほしい」と声をかけられたとき、一度は断ったんです。

泥沼にはまるような気がしたんです。

『メトロイド』をやる前は、別の仕事もやっていたんです。で、終わりかけのタイミングを見計らったかのように、先輩デザイナーから「相談があんねんけど」と声をかけられたんです。「『メトロイド』、なんとかならへんかなあ」と。そこで、最初は断ったんですけど、結局、口説かれて、「じゃあ、やります」ということになって、「時間ないわ」「容量ないわ」という状況のなかで、３か月で仕上げたわけなんですね。そのようにして『メトロイド』との関係がはじまったんですけど、いつの間にか、自分のライフワークみたいなものになってしまいました（笑）。

まず、３０年前に遊んだ人には、あの当時、すごく苦労してクリアしたことを思い出してほしいなと思います。

昔のゲームって、こんなに歯ごたえがあるんだぞって（笑）。

あと、サムスって、もともとはたくさんの動きをしていましたので、そういうことを想像しながら遊んでいただけるとうれしいですね。

よく、「親子で遊んでほしい」とか言うじゃないですか。

でも、この『メトロイド』は３世代で遊んでほしいと思ってるんです。ファミコンというゲーム機は子どもだけのものじゃなくって、当時は大人の人も遊んでいたんですよね。

で、そのような人が、やがて父親になり、そのあとにお孫さんが生まれたりもしていると思うんです。

だから、３世代で遊んでほしいなあと、強く思ってるんです。で、おじいちゃんは昔、自分で取った杵柄（きねづか）で・・・。

いちばんうまかったりして（笑）。

そのように、世代を超えたところで、３０年前につくられた『メトロイド』を遊び、それぞれがどんなことを感じるか、ということに、僕はすごく興味があるんですよね。

ぜひ温泉で、３世代で楽しんでほしいと思いますね。

ああ（笑）。「ぜひ聞いておきたい」と言うから何かなあと思ったら、それですか（笑）。

「TOHRYU MAKO BENKEI」って出てくるやつですね。

本当に最後の３か月は、毎晩遅くまで仕事をしていましたので、会社の近くの食堂から店屋物を取っていたんです。なかでもすごくお世話になっていたのが、弁慶食堂（BENKEI）と東龍（TOHRYU）という中華料理屋さん、それにサムタイム マコ（MAKO）というお店で、その３つの店名をスタッフロールに載せることにしたんです。

で、ずいぶん前に東龍は閉店しまして・・・。

本当にそうですね。とても残念ですけど・・・。

でも、がんばってクリアすれば、そのようなスタッフロールが見られますし、サムスのエンディングもぜひ見てほしいですよね。

そう、挑戦状です。ちょっと手強いかもしれませんが（笑）。

さて、全５回にわたってお届けした、「クラシックミニ」発売記念インタビューはいかがだったでしょうか。それぞれのゲームがつくられる過程では、いろんな“ドラマ”が生まれます。それを知ることで、そのゲームのことをもっと好きになっていただければ、こんなにうれしいことはありません。

これからは、クリスマス、お正月と、友だちや家族、親戚たちが集まるイベントが目白押しです。そんなとき、「クラシックミニ」をササッとテレビにつないで、３０本のソフトのなかから、例えば『ゼルダの伝説』を選んで、「このオープニングに流れてる曲はね、サウンドクリエイターの近藤さんが一晩徹夜してつくったんだよ」なんて、解説する人がいたりすると、インタビューを担当した者としては、「いいね！ボタン」を３００回くらい押したくなっちゃいます。なので、今回のトピックスで知ったことは、周りの人にどんどん伝えてくださいね。

というわけで、「クラシックミニ」をたっぷりお楽しみください。それでは！