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この作品「なんでも卵焼きにしちゃうヅホチャン」は「艦これ」「瑞鳳/瑞鶴/祥鳳/青葉」等のタグがつけられた作品です。
なんでも卵焼きにしちゃうヅホチャン/水毒@ヒキコモリカッコカリの小説

なんでも卵焼きにしちゃうヅホチャン

2,924文字6分

卵焼き食べりゅ

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2018年8月4日 15:40
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「相談があるの。」
「どーしたの、何時になく凛々しい顔して。いや凛々しいのは作戦中はいつもだけど。」
 机を間に対面する、何時になく真面目な表情の瑞鳳と、唐突な話に少し間の抜けたような表情の瑞鶴。
「瑞鳳、もっと色んな料理を作れるようになりたいの。」
 今は鎮守府が丸ごと休み同然である。深海棲艦の出現に波があるのかどうなのか分かっていないが、”ここ最近”と言えるくらいの期間は付近を警備しても駆逐艦が片手で数える程、希に軽巡洋艦クラスが現れる程度である。二週間に一回程回ってくる警備当番、あるいは万が一のための控えの当番に当たっていなければ、それこそ余暇である。本を読み、ゲームで遊び、写真を撮り、そして料理を作り……。
「んー、でもまだ良いんじゃない?瑞鳳の卵焼き絶品だし。一点特化みたいで。」
「でも、でも他の料理も作れるようになりたいの!カレーとか……」
「カレー?簡単な料理トップ5には入るくらいの物じゃないの?」
「そういう事じゃなくて!持ってくるから見て!!」
 そう言うと瑞鳳は走り去った。暫くして怪訝そうな顔をした瑞鶴の前に戻ってきた瑞鳳から差し出されたのは、湯気の上がる完璧な焼き加減で出汁の滴る卵焼きだった。
「卵焼きじゃない。それも見るからに完璧な出来の。」
「カレーの作り方」
「これ卵焼きだよね」
「玉ねぎ等を刻んで油で炒めます」
「そうだけどこれ卵焼きだよね」
「スパイスや調味料を入れて更に炒めます」
「合ってるけどこれ卵焼きだよね」
「水を入れて人参等具材を煮込みます」
「でもこれ卵焼きだよね」
「完成品がこちらになります」
「嘘でしょ」
「これで10回目」
「どうしてこうなった」
「泣いていい?」
「良いと思う」
 夜の海より厳しい戦いの火蓋が切られた。

「本当にどうしてこうなるの」
「不思議……で済むような事じゃないわね」
 三角コーナーの中にはジャガイモと人参の皮、調理台の端には白滝の袋と牛肉のトレイ、そしてコンロに乗せてある鍋の中には見るからにジューシーな卵焼き。
「泣いていい……?」
「聞く前から泣いてるじゃない……」
 瑞鳳が作るとカレーが卵焼きになるという異常現象の話を聞いた瑞鶴は、祥鳳を連れ、実際の現場を見ることにした。祥鳳も数日前にその話を聞いていたらしく、カレーに原因があるのではないかと考え、同じく比較的調理の簡単な肉じゃがでもその異常現象が起こるのかを検証することにした。結果、ご覧の有様であった。
「瑞鳳、ちゃんと作ってたのに……」
「見る限り変なところはなかったわよね?」
「うん、それどころか煮詰まる前に味見して、正直料理で勝てないと思ったし……この卵焼き砂糖巻きなんだ、美味しい、これは勝てない」
「肉じゃが、で、できてたら……ぁ……」
 祥鳳に抱きついて啜り泣く瑞鳳。瑞鶴は暫くこの姿を見守っておこうと決めた。

「考えてみたんだけど」
 肉じゃがが砂糖巻き卵になった数日後、真剣そうな顔で指を組む瑞鶴、半分不貞腐れている瑞鳳、その姿を心配そうに見つめる祥鳳が机を囲んでいた。
「何?……瑞鳳、拗ねないで。」
「瑞鳳が作った料理が卵焼きになる瞬間、見た?私は見てないけど、どう?」
「そんなの覚えてないよぉ……」
「うーん、あんまり考えてなかったけど、そんな瞬間見てたら覚えてる筈……」
「これが上手くいくかは分からないけど」
 瑞鳳が顔を上げる。
「作った料理が卵焼きになる瞬間は、見えない。もし、誰も見ていない瞬間にしか料理が卵焼きにならないんだったら……」
 料理を監視し続ければ良い。それが瑞鶴の出した案だった。
「常に一人以上が完成した料理を見ていれば、料理を食べるまでできるか、そうでなくても料理が卵焼きになる瞬間を見て、次の手を考えられるんじゃない?」
「試してみる価値はありそうね。変わった方法だけど、どうやって思いついたの?」
「えーと、確か都市伝説の話で……S、P、――」

「うううぅ…………」
「よしよし、お姉ちゃんは瑞鳳の味方だからね。」
「こんなところにまで罠が仕掛けられているなんて……」
 作戦一回目、玉ねぎの余波で出た涙を拭う瞬間が被る。二回目、完成直前の激しい吹きこぼれで全員驚いて目を逸らす。三回目、欠伸と瞬きとくしゃみの瞬間が被る。四回目、序盤で瑞鶴が、終盤で祥鳳が用事で抜ける。誰か一人だけでも料理を見ていれば良い。それだけだった。それだけである筈なのに、それすらも困難だった。
「……その、ちょっと思いついたんだけど、良い?監視するのって、もしかして機械でも大丈夫じゃない?」
「…………なるほど」
 四回も失敗する前にそれに気づけば、と瑞鶴は暫く自己嫌悪に陥っていた。

 三人はビデオカメラと三脚を探した。そして探している途中にまた考えた。並大抵の手法、ただビデオカメラで定点撮影をする程度ではまた妨害が入りかねない。三人共、もうこれ以上無駄に試行回数を重ねたいとは思わなかった。ビデオカメラのセッティング中の雑談の中で、ふと別の案が飛び出した。
「どうも、恐縮です!よろしくお願いします!」
「ごめんね、こんな事で呼んじゃって。」
「いえ、珍しく活躍できそうで青葉は嬉しいです!」
 青葉の写真は凄い。並大抵の方法では撮れないような写真を撮る。その話は周りに広まっていて、そして一方で撮られたがらない者も多かった。
「その……青葉の写真、正直あんまり良く思われてないじゃないですか。こうやってお呼び頂けて……」
「写真はそうだけど……青葉そのものを嫌ってる子は居ないんじゃないの?」
「そう、ですよね」
「自信持って、私達が証明するから。」
 いつの間にか青葉の目に涙が浮かんでいた。
「……青葉がんばります!今回は酷いものが写らないと信じて!」
「この運命を、乗り越えてみせる!」
「では、用意、アクション!」
 ビデオカメラの録画ボタンを押す。
 青葉の写真は凄い。並大抵の方法では撮れないような写真を撮る。十中八九、丁度見られたくないような、撮った側も後悔の念を抱くような、そんな写真を撮る。押入れに片付けた二台目のカメラで最後に撮ったのは第六戦隊集合写真、自動タイマーの瞬間風が吹き古鷹の下着が写ったものだった。

「やった……!」
「できた……!」
「本当に上手くいくなんて!」
「よく分かりませんが青葉も貰い泣きしそうです!」
 四人を写すビデオカメラ。四人が囲む卓上にはカレーライスの皿とスプーン。とうとう、料理を完成させ盛り付けるに至ったのだった。
「それでは……」
 皆涙を浮かべながらスプーンを手に取る。
「いただきます!」
 少し躊躇しながら、楽しみな料理を食べるように、最高のご馳走にありつくかのように、これまでの道のりを噛みしめるかの用に、カレーを口に頬張った。
 しかし祥鳳は気づかなかった。瑞鶴も気づかなかった。瑞鳳でさえ気づかなかった。殊更青葉は気づく筈もなかった。


 基本的に食事中の口の中は撮影するものではない。
「うん、美味しい!でも卵焼き!!」
 浮かべた涙が零れ落ちた。

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