今は幻、〈吉原遊郭〉のすべてを見せる。栄華を極めた女郎三千の世界を迫力のアクションと独特なエロティシズムで描破した大作に、観る者すべてが酔いしれた。
映画『吉原炎上』の裏話。仁支川さんのあの演技の舞台裏ではなにがあったのか......。前編記事『名取裕子主演の映画『吉原炎上』が35年経った今でも「傑作」と呼ばれるワケ』に引き続き紹介する。
「噛んで~!」の舞台裏
友近 話は変わりますが、小花が半狂乱になって「ここ噛んで~!」と叫ぶ秋の章のラストシーン。仁支川さんの迫真の演技に加えて、部屋に敷き詰められた真っ赤な布団が波打ち、鮮烈なビジュアルとなっています。一体どうやって撮ったのですか。
仁支川峰子 あれは、布団の下に人が入っていて、布団を動かしているの。
友近 なるほど。スローモーションなことも相まって、不思議な映像になっていますよね。
五社巴 無理がたたって病気になってしまった小花が、中梅楼に戻ってくると、一番花魁の座を若汐に奪われているんですよね。それで、血を吐きながら、男を求めて絶叫し最期を迎える。
仁支川 あの時は、どんな風に動いてほしいか、テスト前に監督自ら一回だけ見本を見せてくれました。それでテストを一回だけやって、それ見て監督はもう「OK。次、本番」って感じで、すぐに本番に入りました。
五社 あれは一発撮りだったんですよね。
仁支川 ええ。血糊が布団や着物に付いたら、色が変わっちゃいますから、絶対に失敗できないと思っていた。「もう私じゃない。小花という花魁として、とにかく戦うんだ」と意気込んで撮影に臨みました。