化石・イコール・姿形とは限らない!? 古生物復元の難しさ

悩ましいけれど、面白い!
ブルーバックス編集部 プロフィール

ターリーモンスターは脊椎動物!?

イェール大学(アメリカ)のヴィクトリア・E・マッコイたちによって、「The‘Tully monster’ is a vertebrate」("ターリーモンスター"は、脊椎動物だ)と題した論文が発表されたのだ。

このとき復元された姿は、少しぷっくりとしていて、眼の柄の後ろに鰓孔(えらあな)が並んでいた。尾びれは、"垂直方向に"やや平たい。からだを"左右に"くねらせながら、泳ぐという。

【イラスト】ツリモンストルムの新復元ツリモンストルムの新復元 illustration by yoshihiro hashizume

マッコイたちは1200個体以上の化石を丹念に調べ、そこに「脊索」「軟骨」「鰓」といった特徴を見出した。そして、こうした特徴をもとに、ツリモンストルムを「無顎類」に位置づけた。

謎は深まるばかり

同じ年、レスター大学(イギリス)のトーマス・クレメンツたちは、ツリモンストルムの眼の構造に着目し、それが脊椎動物的であることを指摘した。かくして、長年にわたって「不思議なモンスター」とされてきたツリモンストルムは、無顎類であるとされた。

……と思われたのだが、翌2017年に、この見方を否定する論文が発表された。その論文のタイトルは、「THE ‘TULLY MONSTER’ IS NOT A VERTEBRATE 」("ターリーモンスター"は、脊椎動物ではない)の一文から始まっており、マッコイたちの研究を真っ向から否定するものだった。発表者は、ペンシルヴァニア大学(アメリカ)のローレン・サランたちだ。

サランたちの論文では、マッコイたちが「脊椎動物の根拠」として挙げた証拠を1つずつ、否定していった。とくに化石の生成過程にも注目し、たとえば、脊索などは、メゾンクリークにおいては保存されるはずがない、としている。また、クレメンツたちが挙げた眼の構造に関しても、それだけでは脊椎動物と絞り込むことはできない、と指摘した。

こうして、謎は謎に、不思議動物は不思議動物に戻った、……はずだった。

2020年に発表された新たな証拠

ところが、2020年になって、マッコイたちは新たな証拠を発表した。なお、この間にマッコイの所属は、イェール大学からウィスコンシン大学へと移っている。

マッコイたちは、化石の化学成分に注目した。ツリモンストルムを形作る軟組織を化学的に分析したのである。そして、その結果は、脊椎動物の軟組織と親和的……つまり、脊椎動物の軟組織に近いとしている。

かくのごとく、ツリモンストルムをめぐる議論は、混迷の最中にある。マッコイたちの2020年の研究が終止符となるかもしれないし、サランたちが再否定の論文を発表するかもしれない。あるいは、他の研究者が、支持・不支持の論文を発表するかもしれない。

マッコイたちの説が正しければ、その姿はヤツメウナギ的に復元され、正しくなければ、従来の復元に戻る可能性も高い。

悩ましいが面白い。これも古生物学の醍醐味の1つといえるだろう。今後も目が離せない古生物の1つである。

なお、ツリモンストルムは、イリノイ州の「州の化石」に認定されている。

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