化石・イコール・姿形とは限らない!? 古生物復元の難しさ

悩ましいけれど、面白い!

私たちに、当時の世界を彷彿させ、生き生きと想像させてくれる古生物の復元。そうした古生物の復元された姿を、リアルなイラストと貴重な写真で詳説する『カラー図説 生命の大進化40億年史 古生代編』。その中から、選りすぐりのトピックをご紹介しています。前半の〈化石発見から1世紀! 長い研究の末に復元された「ハルキゲニア」〉につづいて、後半のトピックをお送りします。

▶︎▶︎はじめから読む・前半はこちら

石炭紀の謎の動物「モンスター」

約3億5900万年前、古生代第5の「紀」である「石炭紀」が始まった。

【図】石炭紀からデボン紀石炭紀からデボン紀

基本的に、過去であれば過去であるほど、私たちにとっては、そこに生きる生物は"不思議な生物"である。なにしろ、現生生物から"縁遠く"なり、そのぶん、理解が難しくなってくる。石炭紀よりデボン紀の方が謎は多いし、カンブリア紀にいたっては謎だらけだ。

そうした大昔の動物ほど、私たちにとってはモンスター感が強くなるが、石炭紀にあっても、「モンスター」と呼ばれる謎の動物がいた。その名を、「ツリモンストルム(Tullimonstrum)」という。

ツリモンストルムの化石は、アメリカのイリノイ州に分布する約3億1000万年前(石炭紀後期)の地層から発見されている。それなりの個体数がみつかっているので、「多産する」と書いても良いかもしれない。

ツリモンストルムの化石を産するその地層からは、さまざまな動植物の化石が発見されている。周囲の地層とあわせて、この化石産出地は、「メゾンクリーク」と呼ばれる。

メゾンクリークの化石は、赤茶色の岩塊の中にある。岩塊を割ると、その内部にさまざまな化石が良質な状態で残っている。通常であれば、分解されてなくなってしまう軟組織であっても、メゾンクリークの岩塊の中に確認できる。

ツリモンストルムの化石が発見された地層は、浅海域から河川でつくられたものだ。従って、ツリモンストルムに限らず、この地層から発見される動物のほとんどは、水棲だったと考えられている。

所属分類が定まらない不思議動物

ツリモンストルムは、大きなもので全長40センチメートルほど、"水平方向に"平たく細長い胴体で、その一端からは細長いチューブのような構造が伸びている。その先端にはハサミのような"切れ込み"があり、そこには細かな突起が並んでいる。もう一端は、尾びれのように広がっていた。特筆すべきは、眼だ。チューブ状構造の根元に近い場所から、左右に向かって細い軸が伸びていた。そして、その軸の先に眼がついている。

なんとも不思議な動物だけれども、こうした特徴から、平たい面を"上下に"くねらせて水中を泳いでいたと考えられていた。

【イラスト】ツリモンストルムの旧復元ツリモンストルムの旧復元 illustration by yoshihiro hashizume

ツリモンストルムが報告されたのは、1966年のことだ。それから50年以上もこの不思議な動物の所属分類などは、謎とされてきた。また、一方で、「ターリーモンスター」の愛称が定着し、不思議動物の1つとして親しまれてきた。ちなみに、「ターリー」とは、発見者の名前である。

この不思議動物をめぐる事態が動いたのは、2016年である。

関連記事