ハルキゲニア、その紆余曲折の復元史
ハルキゲニアは、その復元史に紆余曲折があったことでも知られる。
先に発見・報告されたのは、ハルキゲニア・スパルサのほうだ。1911年にチャールズ・ウォルコットというアメリカ人古生物学者によって、他の多くのバージェス頁岩の動物たちとともに記載された。ただし、この段階ではあまり大きな注目を集めなかった。
その後、1977年にケンブリッジ大学(イギリス)のサイモン・コンウェイ・モリスによって詳細な研究がなされ、最初の復元画が発表された。このとき、コンウェイ・モリスが分析した標本には、あしが1列しかなく、トゲは2列確認されていた。また、チューブ状のからだの一端が膨らんでみえた。
1列しかなかったため、コンウェイ・モリスは、あしを「あし」とはみなさなかった。むしろ2列あるトゲこそが「あし」のようにみえた。「トゲのようなあし」と判断されたのだ。そして、本来のあしは背中に並ぶ「煙突のような構造」と解釈された。
つまり1977年の時点では、上下逆転で復元されていたのである。そして、チューブ状のからだの一端にみえた膨らんだ構造は、頭部であると考えられた。
100年を経て正しい姿へ
1990年代になって、ハルキゲニア・フォルティスの研究が進むと、フォルティスには、2列のトゲと2列のあしがあることが明らかになった。そこで、ハルキゲニア・スパルサの標本も再び分析され、フォルティスと同じように2列のあしが確認された。つまり、「トゲのようなあし」はやはり「トゲ」で、「煙突のような構造」こそが「あし」だったことも確認された。
また、フォルティスとはちがって、スパルサの"頭部のようにみえた膨らみ"は、化石化の直前に「からだから滲み出た体液」ということも明らかにされた。口ではなく、肛門から出たものだった可能性があるのだ。その場合、前後が逆である。
その後、2015年になって、ケンブリッジ大学のマーティン・R・スミスと、トロント大学(カナダ)のジーン・バーナード・カロンによって、ハルキゲニア・スパルサの標本が再び分析され、チューブ状のからだの一端に、2つの眼と1つの口、口の中に多数の歯があることが確認された。
ウォルコットの発見から100年以上の歳月が経過して、ようやくこの動物の前後が確定するに至った。上下が逆転し、前後も修正されて、正しい姿となったのだ。
続いては、時代が降った「石炭期」の"モンスター"こと「ツリモンストルム」の復元についてお話ししたい。
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