2022.07.17
# 進化 # 海 # 鉱物

化石発見から1世紀! 長い研究の末に復元された「ハルキゲニア」

最終的に上下・前後が逆さになった!?
ブルーバックス編集部 プロフィール

ハルキゲニア、その紆余曲折の復元史

ハルキゲニアは、その復元史に紆余曲折があったことでも知られる。

先に発見・報告されたのは、ハルキゲニア・スパルサのほうだ。1911年にチャールズ・ウォルコットというアメリカ人古生物学者によって、他の多くのバージェス頁岩の動物たちとともに記載された。ただし、この段階ではあまり大きな注目を集めなかった。

【写真】チャールズ・ドゥーリトル・ウォルコットハルキゲニア・スパルサを発見したチャールズ・D・ウォルコット photo by gettyimages

その後、1977年にケンブリッジ大学(イギリス)のサイモン・コンウェイ・モリスによって詳細な研究がなされ、最初の復元画が発表された。このとき、コンウェイ・モリスが分析した標本には、あしが1列しかなく、トゲは2列確認されていた。また、チューブ状のからだの一端が膨らんでみえた。

1列しかなかったため、コンウェイ・モリスは、あしを「あし」とはみなさなかった。むしろ2列あるトゲこそが「あし」のようにみえた。「トゲのようなあし」と判断されたのだ。そして、本来のあしは背中に並ぶ「煙突のような構造」と解釈された。

つまり1977年の時点では、上下逆転で復元されていたのである。そして、チューブ状のからだの一端にみえた膨らんだ構造は、頭部であると考えられた。

100年を経て正しい姿へ

1990年代になって、ハルキゲニア・フォルティスの研究が進むと、フォルティスには、2列のトゲと2列のあしがあることが明らかになった。そこで、ハルキゲニア・スパルサの標本も再び分析され、フォルティスと同じように2列のあしが確認された。つまり、「トゲのようなあし」はやはり「トゲ」で、「煙突のような構造」こそが「あし」だったことも確認された。

また、フォルティスとはちがって、スパルサの"頭部のようにみえた膨らみ"は、化石化の直前に「からだから滲み出た体液」ということも明らかにされた。口ではなく、肛門から出たものだった可能性があるのだ。その場合、前後が逆である。

その後、2015年になって、ケンブリッジ大学のマーティン・R・スミスと、トロント大学(カナダ)のジーン・バーナード・カロンによって、ハルキゲニア・スパルサの標本が再び分析され、チューブ状のからだの一端に、2つの眼と1つの口、口の中に多数の歯があることが確認された。

【写真】ハルキゲニア・スパルサの復元史ハルキゲニア・スパルサの復元史。1977年に発表されたとき(上)は、上下と前後が逆だった。その後、1990年代に上下が確定し(中)、2015年に前後もわかった(下) illustrations by satoshi kawasaki

ウォルコットの発見から100年以上の歳月が経過して、ようやくこの動物の前後が確定するに至った。上下が逆転し、前後も修正されて、正しい姿となったのだ。

続いては、時代が降った「石炭期」の"モンスター"こと「ツリモンストルム」の復元についてお話ししたい。

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