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大学共同利用機関法人 自然科学研究機構

基礎生物学研究所

研究所概要

所長挨拶

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広報室で作った<プラナリアぬいぐるみ>と教え子たちから還暦の時にプレゼントされた<DNAネオン>(安彦哲男氏作)

いよいよ第4期が始動!!


大学や研究所では、6年単位で計画が立案され、それを遂行して評価を受ける形になっていいます。この3月まで(2022年の3月)に第3期の6ヵ年計画が終了し、この4月から第4期の6年間がスタートします。基礎生物学研究所は、第3期は『環境適応戦略』『新規モデル生物』という2つをキーワードにして所内の研究および共同利用研究を展開し、手前味噌となるが期待以上の成果を挙げることができました。そして、昨年の3月から第4期のビジョンについて議論を重ね、第3期で突破口が開かれた<階層を超えた研究>を第4期で展開し、生物の教科書を変えるような研究をしよう!! となり『超階層生物学(Trans-Scale Biology)』をキーワードに第4期にチャレンジすることを決定しました。
 ちょっと聞きなれない言葉ですが、『超階層生物学(Trans-Scale Biology)』という言葉が、第4期が終了する6年後には、生物学・生命科学分野でのトレンディ・ワードとして定着していることを目指します。多様な生命現象を分子・細胞レベルから、組織・器官、個体・個体間相互作用に至るいろいろな階層を跨いだ研究を展開することで新たな発見をしようというものです。そんなことは、昔からやっているわい、という方もおられることと思いますが、何が特徴かと言うと、ビッグデータにAI解析を加えることで、人ではなかなか発見できなかったことを人機協働で発見していくことを目指しています。基礎生物学研究所と言えば、どちらかというとdeepな職人風の研究者が多いイメージですが、そこに今までになかったAI解析を加えたら何が出てくるのだろうか、という世界的にもユニークなチャレンジだと思います。
 
 生物学は、生化学・分子生物学を取り込んで還元的(要素分解的)なアプローチを先鋭化させ、生命現象を分子レベルで解き明かすことを本流として発展してきました。転写因子をコアとする遺伝子ネットワークが解き明かされ、シグナル伝達で細胞外のシグナルを細胞内、ひいては核まで伝達して遺伝子発現を駆動させることのメカニズムが明らかにされてきました。そして、それでわかったというなら、分解したものを組み立てたら生物現象が再現できるようになるのか、という構成的なアプローチが今の生物学のトレンドになりました。そこに、われわれはAI解析を加えることで、生物界の藤井聡太を生むことを目指すわけです。幸い、われわれは第3期にゲノムの最先端解析システムを構築し、シングルセル・トランスクリプトームによる網羅的な解析、バイオイメージングによる定量生物学を全国に定着させてきた実績があります。イメージングデータの標準化、そしてイメージングデータのAI解析による突然変異体の同定、さらにはAI解析の積極的な勉強会を通して第4期に向けてready to goです。さらには、既存の3センターを統合し、それに新規のAI解析室を加えて『超階層生物学センター』を創設し、この4月から『超階層生物学』研究をスタートダッシュできる態勢で臨んでいます。第4期の基礎生物学研究所が展開する新しい生物学に乞うご期待です。


2022年4月5日 
基礎生物学研究所長 阿形 清和

所長雑感(その1) : 生物学者の挑戦


コロナ禍によって、人類はあらためて<生物の世界>の奥深さを知ることになりました。すべての地球上の生命は核酸を遺伝子としてもった子孫であり、ウィルスを含め生命みな兄弟であることを思い知らされ、ついにはRNAワクチンなるものまでが登場しました。感染の拡大の予測は生態系のシミュレーションそのものであり、ペットを介した感染が係数に組み込まれるようになると、より複雑なシミュレーションが負荷されることになります。

隕石落下による大規模な地球環境の変動・感染症の拡大など、ありとあらゆる困難に遭遇しても、核酸をベースとした生命はそれらの困難をかいくぐって現在に至っています。どのようにしてかいくぐってきたのか? そこには、多様な遺伝子変異の蓄積があり、変動する環境に耐えられる遺伝子をもった生命だけが生き残り(自然選択され)、やがてそれが<進化>という生命現象として語られるようになったのです。

われわれ生物学者は核酸を定量するのに紫外線の吸光度で測ります。なんで紫外線に最大吸収波長をもつものが遺伝物質なの? それってヤバクない? いや、紫外線で変異して多様性を作れたから、核酸を遺伝子とした生命体が進化できたのでないのでしょうか。

また、核酸は変異するだけではなく動くことができます(一部のウィルスは感染しては宿主のゲノムに潜り込む)。ヒトのゲノムの中にも膨大な量のウィルス由来の遺伝子が組み込まれており、それらのウィルス由来の遺伝子が悪さもする一方で脳や胎盤の進化をもたらしたこともわかってきました。

そういった意味で、生物学者は<多様性の重要性>を一番理解している地球上の生命体なのです。<多様性の形成と自然による選択>によって進化が行われてきたことを生物学者はもっと語らなくてはいけません。<多様性>はきれい事として語るものではなく、進化する生物にとって<不可欠なもの>として語らなくてはいけません。生物学者の挑戦は続きます。


2021年1月26日
基礎生物学研究所長 阿形 清和

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2019年4月 岡崎3研究所の正面ゲートにて撮影

わくわく感のある生物学の醸成


博物学から生じた『生物学』は近年のゲノム科学と融合することで、サイエンスの醍醐味を身近に味わえる学問へと大きく変貌を遂げました。すなわち、地球上の生物は、全てがDNAという分子を遺伝物質として進化したことで、地球環境のダイナミックな変化に応じてその姿を変えてきたことがわかり、進化を再現することも、進化の時計を巻き戻すこともできる『生物学』が可能になったのです。さらに、宇宙に人類が進出するようになると、宇宙環境に適した生物をデザインして宇宙に送り込むことすら可能な時代へとなったのです。

基礎生物学研究所は「生き物研究の世界拠点」として、動物や植物などのモデル生物や新規モデル生物、ひいては非モデル生物を用いて、すべての生物に共通で基本的な仕組み、生物が多様性をもつに至った仕組み、及び生物が環境に適応する仕組みを解き明かす研究を、国内外の研究者と連携して行っています。質の高い実験生物を生育し、高度で精密な解析を可能にするために、「モデル生物研究センター」と「生物機能解析センター」と「新規モデル生物開発センター」を整備し、全国の生物研究者が共同利用・共同研究でフロントのサイエンスを展開できる支援体制を作っています。また、災害などにより研究上貴重な生物遺伝資源が失われることを防ぐ「大学連携バイオバックアッププロジェクト」の中核拠点(IBBPセンター)としての活動もしています。このように基礎生物学研究所は、大学共同利用機関として国内外の大学や研究機関の研究者とともに、わくわく感のある生物学の醸成を行っています。


2019年4月 
基礎生物学研究所長 阿形 清和