本記事は、2018年4月27日に開催された「UI Crunch #13 娯楽のUI – by Nintendo –」のイベントレポートです。
前編では、任天堂株式会社さまのUI/UXデザイナー3名が登壇し、担当プロダクトの事例を元にデザイン思想やプロセスについて話しました。
後編は、イベントにお申込みいただいた皆さんから寄せられた質問と、その回答をご紹介します。モデレーターにDeNA 増田 真也さん、Goodpatch 土屋を迎え、娯楽のUIをデザインするために大切なことを聞きました!
ハッシュタグ「#uicrunch」のつぶやきのまとめは、こちらからご覧いただけます。
登壇者プロフィール
正木 義文 (MASAKI yoshifumi) |UI/UX デザイン チーフ
多摩美術大学でグラフィックデザインを学んだ後、2005年に任天堂入社。 UI/UXデザイナーとして多数のゲームソフトを開発しつつ、現在はUIデザイン開発チーフとしてゲームソフトのUIクオリティを統括している。 UIデザインのなかに、機能や実用性だけでなく楽しさやユーモアを盛り込むことを得意とする。
担当プロダクト:Nintendo Labo (Nintendo Switch, 2018)、どうぶつの森 ハッピーホームデザイナー(ニンテンドー3DS, 2015)、とびだせ どうぶつの森(ニンテンドー3DS, 2012)、nintendogs +cats(ニンテンドー3DS, 2011)、New スーパーマリオブラザーズ Wii(Wii, 2009)、ニンテンドーDSi OSデザイン(ニンテンドーDSi, 2008)
藤野 洋右 (FUJINO yosuke) |UI/UX デザイナー
京都市立芸術大学で彫刻を学んだ後、2008年任天堂入社。 『ニンテンドーeショップ』のUI/UX設計、Switch をより便利に使うためのスマートデバイスアプリ『Nintendo みまもり Switch』『Nintendo Switch Online』など、オンラインサービス分野でもUI/UX設計を手がけている。 多くの関係者の意見や複雑な導線を、丹念なヒアリングで整理しUIとして構築することを得意とする。
担当プロダクト:Nintendo みまもり Switch(iOS/Android, 2017)、Nintendo Switch Online(iOS/Android, 2017)、ニンテンドーeショップ (Nintendo Switch/ニンテンドー3DS/Wii U)
松崎 康彦(YASUHIKO matsuzaki)|UI/UX デザイナー
フリーランス活動・ゲーム会社数社を経て、2004年に任天堂入社。東京の開発チームにて、3Dの『スーパーマリオ』シリーズや『うごくメモ帳』のUIデザインを担当。最近は、京都の開発チームにも在籍し『ARMS』のUIデザインなどを手がけた。長年の経験を活かし、ゲーム専用機のゲームUIからサービス分野のUIまで広範囲に対応することを得意とする。
担当プロダクト:スーパーマリオ オデッセイ (Nintendo Switch, 2017)、ARMS (Nintendo Switch, 2017)、スーパーマリオ3Dワールド (Wii U, 2013)、うごくメモ帳 3D(ニンテンドー3DS, 2013)、スーパーマリオ3Dランド(ニンテンドー3DS, 2011)、うごくメモ帳 (ニンテンドーDSi, 2009)、スーパーマリオギャラクシー (Wii, 2007)
Q1.UI/UXデザインを考える際、インスピレーションにしているものは?
藤野さん:僕は、喫茶店で人間観察をよくします。いろんな人のリアルな人物像を知れるので、井戸端会議が聞こえやすい席に座ったりしますね(笑)。
正木さん:免許更新センターですね。免許の更新ってただ、たまたま僕と同じ誕生月の人が必要にせまられて集まっただけなので、集まった人の年齢や性別、職種や服装や髪形の趣味とか、本当バラバラでビックリするんですよね。僕が世の中の人を想像する時の「思考の隔たり」をリセットできますね。
松崎さん:「娯楽」にかかわる仕事をしていることもあり、積極的にゲーム以外の娯楽をたくさん経験するようにしています。最近では、海外ドラマに非常に刺激を受けました。たとえば、映画では「起承転結」でおわる構成をドラマでは「起承転→結起承転→結起承転」のような終わり方にしている点などおもしろいです。こんな感じで、ゲーム以外のジャンルで気付いた要素をUIに取り入れられないかな?と考えながら経験するようにしています。
Q2.大人から子供まで、幅広い層に受け入れられるために意識していることは?
正木さん:よく「子供でもできそう」「子供が喜びそう」と言われることがあるんですが、大人と子供を分けて考えるという視点がありません。子どもは子ども扱いされることに敏感で、すぐにばれます。また、子供の好奇心ってすごくて、大人より柔軟だったりするので、大人から子供まで線引きをしていません。
Goodpatch土屋:子供扱いしない考え方は、皆さんに共通しているんですか。
正木さん:子供・大人というよりは、広く、なるべく多くの人に届けるというイメージを持っている気がしています。
藤野さん:そうですね。海外と日本という視点だと、文化や法律が違うので、意識はしています。例えば、北米の家庭だと「スクリーンタイム」という親子の約束事のようなものが設けられています。1日のうち、お子さんがスクリーンを見る時間が決められていて、1時間なら、スマホやテレビなどのすべてが1時間にカウントされるんです。どんなものでも「スクリーン」としてまとめられている違いがありますし、子どもが一人で遊ぶこと自体が北米ではよくないとされているんです。そんな違いは意識しますね。
Goodpatch土屋:実用品のUI/UXデザインをする僕たちの間では「ターゲット」という言葉がよく出るんです。皆さんは、ターゲットという言葉は使いますか?
藤野さん:僕は、課題があってのターゲットだと考えています。誰かの課題を解決するとターゲットが喜んでくれる、などですね。ゲーム開発の場合は、課題ありきの開発ではないと思います。新規性や驚きが要素を占めているので、課題がない分、ターゲットを定めるより、おもしろさに全力投球していく流れだと思っています。
正木さん:僕は「世界中の人を笑顔に」といつも考えていて、ターゲットについては考えたことがありませんでした。
藤野さん:補足させてもらいますと、サービスはゲーム開発の場合とまた違って、ターゲットをしっかり設計しています。
Goodpatch土屋:その対比も、おもしろいですね。
Q3.デザイナーの立ち位置と、プロジェクトに参画するタイミングとは?
Goodpatch土屋:組織の中でのUIデザイナーの立ち位置や、どうやってプロジェクトに入っていくのか気になる人は多いと思いますね。
正木さん:「プロジェクトによる」じゃダメですか(笑)?
DeNA増田さん:僕らの業界だと、土屋さんはどんなイメージを持たれていますか?
Goodpatch土屋:最近は変わってきていますが、僕らが仕事をはじめた頃は、UIデザイナーは最終工程のビジュアルデザインしか関われなくて、企画は決まった後に入るイメージでしたよね。最近では、企画からUIデザイナーが入ることも当たり前になってきています。
松崎さん:サービス系のUIデザイナーは初期から入りますが、ゲーム系のUIデザイナーは初期から関わるとは言い切れません。ゲーム系の体制として、セクションがたくさんあるんですね。プログラマー、3Dモデラー、モーション、エフェクト、サウンド、企画やディレクターなどがいる中に、UIデザイナーがいるので、優先順位的に中心にはなりません。ただ、UIはすべてが集約する場所なので、ディレクターと常に連携している感じです。とてもやりがいがあるポジションだなと思います。また、UIありきのゲームもあります。その場合は、初期からUIデザイナーがプロジェクトに入っています。
Goodpatch土屋:皆さんが企画するときには「世界観」から入らない、というお話を聞いたのですが、それについてお話しいただけますか。
藤野さん:あまり他社さんの事情はわからないのですが、世界観、いわゆるグラフィックの見た目から入るプロジェクトってあると思います。でも、弊社に関しては、あそびのコア、楽しみの種を見つけるというスタートが多いです。「新しくて、おもしろいものを作ってほしい」という依頼から、3,4名のチームでコアとなるところを考えます。例えば、Splatoonでいう「インクを撃ち合う合戦をする」という部分が、あそびのコアに当たります。コアや機能が先で、世界観はあとに考えています。
Goodpatch土屋:スマホアプリだと「ここのおもしろい動き」などから始まるってことですよね。僕らは世界観やストーリーありきで考えることも多いので、そうした作り方もアリなんだなと思わせられました。
Q4.気持ちいい、面白いという感覚をどう扱い、UIデザインに活かすのか?
DeNA増田さん:数値化しづらい感覚をUIデザインでどう扱うのか。正木さんは「嫉妬」とおっしゃっていましたが、皆さんはいかがでしょうか?
藤野さん:ゲーム系のUIなら「嫉妬」はいいと思います。しかし、サービス系のUIで「嫉妬」は難しいと思うんですよね。ちょっと脂っこい感じですし、毎日嫉妬させられてもな、と(笑)。
サービスを作っている上で意識しているのは「粋だな」という部分です。具体例でご紹介すると、最近Nintendo Laboがリリースされました。Nintendo Laboは、お子さんに遊んで作って学んでみてほしいという側面があると思うんですね。そこで、お子さんが初めて遊んだタイミングで、みまもり Switchから「お子さんが、Nintendo Laboで遊びはじめました。今日だけ、アラームをオフにしてみてはいかがでしょうか」って通知を来るようにしているんです。この「そっと置いてくる感じ」が、僕は粋だと思っています。
正木さん:笑顔にも色々ありますよね。「大笑い」とか「微笑む」とか。
藤野さん:そうですね。ちょっと感情が動いた瞬間を、微笑みに変えるくらいの温度感かもしれません。すみません、エモーショナルな話で。でも、全箇所で「粋」を押し付けると、それはそれでしつこくなるので、ユーザーの気持ちが揺れる箇所が開発側にとっては攻めどきですね。そこに、嫉妬するようなものを置いたり、粋なものを置く感じではないでしょうか。ゲームでもサービスでも、共通することだと思います。全体を俯瞰できるようなフロー図が大事なので、デザイナーによってはすべて描く人もいますね。
Goodpatch土屋:藤野さんが「粋」を思いついたとき、エンジニアはなんて言うんですか。
藤野さん:「おもろいやん」って(笑)。もちろん「工数が」って言われることもあります。そんなときは「粋が伝わっていないんだな」と思いますね。
Q5.ゲームのUIデザインをする上で大切なこととは?
松崎さん:自分が忙しくなったときに頭の中でつぶやくのが「99回真面目にやったら、1回遊べ」ということです。本当に99回数えているわけではありません。「最近、ずっと真面目にやってるな」と思うときって、デザインも段々堅くなってくるんです。そうなったら、お客様に近い気持ちになってみようと心がけます。逆に、遊びすぎてしまわないためにも、この言葉をいつも頭の中に浮かべています。
さいごに
前後編にわたって、「UI Crunch #13 娯楽のUI – by Nintendo -」のイベントレポートをお届けしました!
新鮮さやおもしろさを追求しながらも、UIとしての役割も果たすことの難しさ、奥深さを感じられる時間でした。特に印象的だったのは、任天堂の皆さんが、プロダクトに触れるユーザーの外の世界にも目を向けてデザインをしていたこと。前編で正木さんが「娯楽品を取り巻く体験すべてが娯楽」とおっしゃっていたように、この「娯楽のUI」というイベントも、全員で楽しんだ娯楽体験だったのではないでしょうか。
ご来場いただいた皆さんのツイートは、ハッシュタグ「#uicrunch」のまとめからご覧ください!UIデザインを追求するコミュニティ、UI CrunchのConnpassページもぜひ覗いてみてくださいね。
※本記事内1,2,4,5枚目の写真は、カメラスポンサーのラブグラフCEO 駒下さんに撮影いただいたものを、許諾を得たうえで掲載しています。お力添えいただき、ありがとうございました!