先日、世界経済フォーラム(WEF)が毎年公開しているジェンダーギャップ指数(Global Gender Gap Report)の2022年度版が発表されたため、その内訳を見ていきましょう。
ジェンダーの差に関する国際指標
ジェンダーに関する主要な国際指標は3つあります。国連開発計画によるジェンダー開発指数とジェンダー不平等指数、そして世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数です。
これらはそれぞれ目的の異なる指標です。
ジェンダー開発指数は人間開発における男女格差
ジェンダー不平等指数は男女の格差がどれだけ人間開発を損なっているか
ジェンダーギャップ指数は女性のエンパワーメントがどれだけ損なわれているか
を算出しています。
例えば極論として『男性の給料は女性の半分以下とする』という法律を作った場合、ジェンダー開発指数とジェンダー不平等指数は低下し、ジェンダーギャップ指数は向上します。
これはジェンダー開発指数とジェンダー不平等指数が男女の絶対偏差を評価しているのに対して、ジェンダーギャップ指数は男性よりも女性のほうが高いかどうかを評価しているためです。よって男性をディスエンパワーメントすることによってもジェンダーギャップ指数は向上することに注意が必要です。
※ジェンダーギャップ指数の採点基準には「女性のエンパワーメントではなく男女平等を測定している」と記載されていますが、付録Bでは就学率を例として、男子>女子の場合は減点、男子<女子の場合は男子=女子と同じ点数を与える、としています。過去の計算では男子<女子の場合に加点していたためそれに比べれば平等性が高まってはいますが、やはり単純な男女平等の指標とは言えないと考えます。
反面、ジェンダー不平等指数では男女の就業比率が評価項目にありますが、賃金格差などが反映されていません。それに対してジェンダーギャップ指数は賃金格差や男女同一賃金であるかなど詳細まで評価項目に入っています。よって具体的に女性がどれだけ活躍できているかを見るにはジェンダーギャップ指数が適切でしょう。
つまるところ、どの指標が良い悪いという話ではなく評価の基準が異なるということです。これらの指標を理解するためにはそれぞれの指標がどのような項目と計算によって算出されているかを知る必要があります。
ジェンダーギャップ指数の詳細
2022年度のジェンダーギャップ指数において、日本の順位は146か国中116位でした。下から数えたほうが早いので、明らかに低い順位と言えます。なぜ順位が低いのか、何を改善すれば良いのかを見るため、スコアの内訳を見ていきましょう。
ジェンダーギャップ指数は以下の4つの項目によって女性のエンパワーメントを数値化しています。
- 経済参加と機会(Economic Participation and Oppotunity)
- 教育達成度(Educational Attainment)
- 健康と生存(Health and Survival)
- 政治的エンパワーメント(Political Empowerment)
スコアは国際機関の統計情報と各国のエグゼクティブへのアンケートによって算出されます。
それぞれのスコア内訳を見ていきます。スコアは加重平均を用いて正規化されて0-1のレンジで算出されています。N/Aは統計データが不足しているサブ項目です。
■経済参加と機会(Economic Participation and Oppotunity)
この項目の国際平均スコアは0.603です。しかし一部の国が大きく平均を下げているため、中央値はもっと高いスコアとなります。
日本のスコアを下げている大きなサブ項目は議員・上級職員・経営者・管理職の男女比、及び年収です。統計データの不足はありますが、専門職・技術職も決して高い数値ではありません。
■教育達成度
この項目の国際平均スコアは0.944です。
これは特に語る内容はありません。一部の国が平均値を下げてはいますが、ほとんどの国で1.000に近いスコアを取っており、ランキングの順位にはほとんど影響を与えていない項目です。
■健康と生存
この項目の国際平均スコアは0.958です。
これも同様に語る内容はありません。細かく言えば単純比率で計算されているため平均寿命が短いほど高スコアを出せる計算式になっていることを挙げられますが、ほとんどの国が平均に近いスコアを取っており、ランキングの順位にはまったく影響を与えていない項目です。
■政治的エンパワーメント
この項目の国際平均スコアは0.220です。
この項目が最もジェンダーギャップ指数の順位に影響を与えており、政治的エンパワーメントのトップ3国はそのまま総合順位のトップ3国です。それ以下の国も経済参加と機会によって順位が多少上下するものの、ほとんど政治的エンパワーメントによって順位が決まっています。
日本の総合スコアを最も下げているのはこの項目です。
日本の順位を改善するには
以上より、日本がジェンダーギャップ指数の順位を改善するためには、議員・大臣・経営者・管理職といった要職の女性比率を高めることが有効です。
ただ、この順位自体には様々な背景があることを留意する必要があります。例えば男女平等先進国として有名なアフリカのルワンダは今年も6位と高位です。これは政治的エンパワーメントのスコアが0.563と高いことが理由です。なぜルワンダの政治的エンパワーメントが高いかと言えば、過去の紛争やルワンダ虐殺によって大勢の男性が亡くなり、国民の女性比率が6~7割となったことが一因です。そのような背景事情も考慮して順位を見る必要があるでしょう。
とはいえ、上述したように経済と政治に不均衡があることは事実であり、これらの改善は必要です。議員や管理職になることを求める女性が性別を理由に阻害されることがないような仕組みや意識改革を進めて、「すべての女性が輝く社会づくり(女性活躍推進法)」を目的に邁進するのが望ましい姿勢かと愚考します。
余談
この手の問題は本当に難しいです。それぞれの様々な意見があり、そのうちどれかが絶対的に正しいかと言えばそうではないのですから。
例えば女性比率の改善方法として真っ先に考えられるのはクォータ制の導入です。しかしこれも賛否両論の意見があるでしょう。能力主義への逆差別と言われればそうですし、男性的な社会集団を解体するには法整備が不可欠と言われればそれもそうでしょう。これは正誤の問題では無く価値観の差異の問題であり、どれかの価値観で切断して社会構築をするのは無理というものです。そんなことをしていては社会が分断する一方になってしまいます。価値観の差異に関する問題は否応なしに時間を掛けて良い落としどころを擦り合わせていくしかありません。
ただ、順位だけを重視するのはあまり望ましくはないとは思います。
例えば衆議院議員や大臣の男女比を50%にすると、それだけで簡単にトップ30の仲間入りを果たすことができます。さらに総理大臣、この項目だけは現在値ではなく50年間での男女比のため改善に時間が掛かりますが、総理大臣を女性が務めれば25年後にはトップ3にだって入れます。日本が2015年から推進している「すべての女性が輝く社会づくり」とは少し沿わないでしょうが、単純にジェンダーギャップ指数の順位を改善するのであればこのようなハック方法があるということです。それが理想的かと言えば、まあ議論の余地が残るでしょう。
また、極端な話ではありますが、ジェンダーギャップ指数の高い国では高等教育進学率に大きな男女差があります。1位のアイスランドは女性103%、男性53%、2位のフィンランドは女性101%、男性84%、3位のノルウェーは女性100%、男性67%で、これは欧米で「男子問題」として課題になっている状況です。
女性の方が高いのでジェンダーギャップ指数としては高いスコアになるのですが、これを女性が活躍する社会と取るか、男女不平等と取るか、能力主義による格差と取るか・・・やはり価値観の違いであり、難しい問題です。ちなみに日本の高等教育進学率は女性57%、男性55%なので、まあ、平等と言えば平等です。
他にも、日本でクォータ制を導入するのであれば、以前に社会問題となった医大の女子減点問題をも許容する議論が必要になります。それはどうなのかと言えば・・・どう考えても賛否両論の嵐、議論の紛糾は避けられないでしょう。
なんとも、難しい問題です。