京都・ウトロ放火事件の被告と山上容疑者の共通点
事件直後、警察から山上容疑者の「政治信条からの犯行ではない」という供述がリークされた。そのため、日本のマスコミはヘイトクライムということをあまり声高に叫ばないが、凶行に及んだ背景と、山上容疑者の飛躍した思考回路を考えれば、これほど典型的なヘイトクライムはない。
実はこの手の事件を起こす人たちには、以下のような思考パターンが共通していることが多い。
(1)自分は虐げられた「被害者」だと思っている
(2)自分を直接的に虐げた相手には何もアクションは起こさない
(3)そのかわり、ネットやSNSで「特権」を持つとされる人・組織を憎悪する
実際、今回の事件の少し前に「ヘイトクライム」として報道された、京都・ウトロ放火事件の被告(22)を例に見てみよう。
被告の男性は21年8月、在日コリアンが多く生活をする京都・ウトロ地区で放火事件を起こしたほか、奈良や愛知の在日大韓民国民団施設で不審火を起こしたこともわかっている。
「Buzz Feed News」はこの男性と面会や文通を重ね、「ヤフコメ民をヒートアップさせたかった」在日コリアンを狙った22歳。ウトロ放火事件“ヘイトクライム”の動機とは」で事件の背景をまとめている。
それによれば、この男性は、京都府内の福祉専門学校に進学したものの、コロナ禍で就職はなかなか決まらず、ようやく働くことができた病院の事務職もワクチン接種業務などが重なるなかで退職を余儀なくされ、貧困状態に陥ってしまったという。
明らかに、この理不尽な社会に虐げられた「被害者」という側面がある。本人の発言からもその自覚があるように感じられる。
だが、男性の怒りが向けられた先は、若者の就職難を放置する政府の無策や、一部の医療現場をブラック化させているコロナ対策ではなかった。
「コロナ禍で自分を含めて経済的に貧困状態にいる、保護を受けたくても受けられない人が多数いるような状況のなかでも、彼らは特別待遇を受けている」
「京都(のウトロ地区)では、公営住宅や祈念館を設立しようとしている。その費用を市民に充てたら何人救えるのか」(被告)
この「彼ら」とは在日コリアン。経済的貧困に苦しむこの男性の怒りの矛先は、なぜか貧困対策をする政府や自治体でもなく、退職に追い込まれた勤務先でもなく、そこをすっ飛ばして、一部の人々が主張している「在日特権」へと向けられているのだ。
山上徹也容疑者の自分の家庭を破産させた宗教への怒りの矛先が、教団をすっ飛ばして、一部の人々が親密な関係を主張している安倍氏へ向けられているのと瓜二つだ。
これが「ヘイトクライム」の基本的な構造だ。