第百二十二話「トントン拍子」
ロキシーを加え、迷宮の攻略が再開された。
予定通り、一気に第三階層まで降りてしまう。
第三階層の敵は
マッドスカルはA級の魔物だ。
外見は首のない泥の巨人である。
大きさは2メートル半といった所か。
横幅が大きく、ガッチリとして見える。
胸のあたりにドクロが埋め込まれており、そこが弱点となる。
そうだな、ジャ○ラとかサ○エルが近いかもしれない。
動きは鈍重だが、泥の部分をいくら攻撃しても意味は無く、危険な状態になると胸のドクロを体内に隠す。
攻撃方法としては泥の体で殴りつけるものの他、岩砲弾のような魔術を使ってくる。
だが、奴がA級と目されるのは、それが理由ではない。
こいつは知能の低い魔物を従える事が出来るのだ。
マッドスカルは
ゴーレムのような外見とは裏腹に知能は高く、アイアンクロウラーを前衛、朱凶蜘蛛を中衛、自分を後衛にしたフォーメーションを組んで襲ってくる。
マッドスカルとは指揮官タイプの魔物なのだ。
アイアンクロウラーが突進し、朱凶蜘蛛が粘糸で絡めとるという第二階層の戦術。
そこにマッドスカルの指揮と岩砲弾が加わる。
第二階層で苦戦していたパウロたちにとって、この戦術は厳しいものがあっただろう。
戦うのに精一杯で、ロキシーの探索どころではなかったはずだ。
しかしながら、俺とロキシーが加われば何も問題ない。
結局の所、中衛にいる朱凶蜘蛛は大したことはないので、
俺が後衛にいるマッドスカルを、ロキシーが前衛にいるアイアンクロウラーを率先して攻撃すればいいのだ。
朱凶蜘蛛はパウロたち三人で十分に対応出来る。
俺が後ろから、ロキシーが前から。
そこで減った敵をパウロたちが、という形だな。
マッドスカルは水に弱い。
泥だからな。
水分量が多くなってしまえば流れてしまう。
もしくは火だ。
泥を乾燥させてしまえば、奴は動かなくなる。
だが、俺は岩砲弾で十分だ。
魔眼を使って狙撃すれば、弱点であるドクロを一発で撃ち抜ける。
ワンショットワンキルだな。
俺は凄腕スナイパー。ただし
「ふぅ」
敵を殲滅した後、ロキシーがため息をついた。
俺は彼女の帽子のつばから覗く顔を見る。
魔力が減っているのだろう、やや疲れ気味の顔だ。
ふと、ロキシーが俺の方を向いた。
見上げるような、やや斜め上目遣い。
目が合うと、さっと眼をそらされた。
「そろそろ魔力切れです。休憩をお願いします」
その言葉で、通路まで戻ってから休憩に入る。
俺の方はまだまだ魔力総量には余裕がある。
というか、多分半分も減っていない。
基本的に岩砲弾しか使ってないし。
『フロストノヴァ』で敵を凍らせるロキシーの方が、消耗が速いのは仕方がない。
「すいません、魔力総量が少ないもので」
ロキシーは座り込みつつ、ぽつりと言った。
「いえ、十分あると思いますけど」
ロキシーの魔術の精度は極めて高い。
詠唱短縮でバンバン範囲魔術を使っているのに誤射が無い。
たまに『
その後の『
精密という事は、それだけ魔力を使っているはずだ。
だというのに、彼女はかなりの長時間戦い続けられる。
決して魔力総量が少ないわけではない。
おそらく、シルフィと同等かそれ以上はあるだろう。
「さて、そろそろ第四階層への魔法陣が見つかってほしいもんだな」
ギースが顎をぽりぽりと掻きつつ、本とマップを見比べている。
第三階層に潜って、そろそろ2日が経過しようとしている。
本の著者が第三階層を突破するのに掛かった日数は5日。
俺たちは彼らよりもペースが早いし、第三階層自体は何度か行き来して、マップもできている。
そろそろ次への魔法陣が見つかるだろうか。
「ルディ、ちょっと背中貸してもらっていいですか?」
「どうぞ」
答えると、ロキシーが俺の背中にもたれかかってきた。
休憩時間中、ロキシーは俺の背中にもたれて休む。
岩の壁を背にするより、人の背中を背にしたほうが休まるのだろう。
役得というやつだな。
「それにしても、ルディと迷宮に潜る事になるとは思っても見ませんでした」
「そうですね。俺の動きで何か注意する所とか、ありますか?」
「え? ……ルディはパーティとしての動きの基礎はできているので、何も言うことはありませんよ」
「ありがとうございます」
「無詠唱魔術で極めて高い精度で。凄いものですね」
「いえ、まだまだですよ」
まだまだ。
そう、まだまだだ。
ロキシーを見ていると、本当にそう思えてくる。
彼女は手持ちのカードを増やすことなく、できることを増やしている。
カードの組み合わせで相手を圧倒しているのだ。
俺も昔はそうしていたはずなのだが、いつしか岩砲弾と泥沼ばかり使うようになってしまった。
これではいけないのだが、ある程度の相手にはそれで勝ててしまう。
かと言って、想定している相手は小手先の技は通用しない。
丁度いい相手もいない。
目標は高く、目先の目標がない。
これでは上達もできまい。
「ルディ」
「なんですか?」
「もし、ゼニスさんを助けだして、余裕ができたら、二人で迷宮に潜りませんか?」
「二人で、ですか?」
「はい。今は切羽詰まってますけど、迷宮探索は面白いものです。
もっと簡単な迷宮に、二人でパーティを組んで潜ってみませんか?」
迷宮か。
正直、俺はギースがいなければ、あっさり罠とか踏抜きそうなんだが。
しかし、ロキシーは一人でも迷宮を探索できる人だ。
まあ、ちょっとドジだが実績もある。
彼女に付いて行けば、あるいは踏破もできるだろう。
「いいですね。帰ったら、二人で迷宮に潜りましょうか」
「約束ですよ」
「ええ、約束です」
視界の隅で、ロキシーの手がグッと握られていた。
「……あ、眠気がきました、ちょっと寝ます」
「はい、おやすみなさい」
少しすると、背中のロキシーからくたりと力が抜けた。
勢いで返事をしてしまったが、迷宮探索って結構な日数が掛かるよな。
子育てとかもしないといけない俺に、そんな時間はあるのだろうか。
……まぁ、今すぐの話ではない。
暇ができたらでいいのだ。
子供が出来て、ある程度大きくなって、俺もシルフィも余裕が出来て。
その頃には俺も20歳を超えてるだろうが、まぁ問題はあるまい。
それにしても嬉しいな。
ロキシーにパーティに誘ってもらえるとは。
実力を認めてもらえた気分だ。
彼女の前で悪い部分を見せないように気をつけないとな。
なんて思いつつ、俺も少し眠った。
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第四階層への魔法陣を発見した後、第三階層を満遍なく捜索した。
しかし、ゼニスの姿は影も形もない。
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第四階層に到達した。
転移魔法陣を抜けた瞬間、周辺が様変わりしたので、一目で分かった。
見覚えのある石造りの壁。
やはり、転移魔法陣のあった遺跡に似ている。
同系統の遺跡が迷宮化したのか。
「ギース、どうする?」
「ん? まだ少し余裕があるな」
「よし、じゃあ第四階層の雰囲気を確かめてから、一旦もどるぞ」
キョロキョロと周囲を見回す俺に、パウロがキリッとした顔で言った。
凹んでいる時のパウロはどこからどう見てもダメ人間だが、
しかしやはり、仕事をしている時のパウロはかっこいいな。
ゼニスがあの姿を見て惚れたのだとしても、おかしい事だとは思わない。
俺にもあの血が流れているのなら、シルフィがよく俺に言ってくれるお世辞も本心なのかもしれない。
「先生、真面目な顔してる時の俺ってカッコイイですか?」
ふと、ロキシーにそんな事を聞いてしまった。
ちょっとナルシストっぽかったかもしれない。
ロキシーは帽子のつばからチラリと俺の方を見て、言葉を濁した。
「え? あー、うー、えーと。ま、まあカッコイイですよ?」
そして、サッと顔を逸らした。
オーケー。
その反応だけで十分さ。
気持ちは伝わった。
答えにくい事を聞いてしまいましたね。
失敬。ちょっと調子に乗っていたようだ。
でも俺はロキシーがキャピっと「あたしってカワイイ?」と聞いてきたら、サイリウムを両手に歓声上げて肯定するよ。最前列で。
男は顔じゃない。
ハートだよ。
真っ赤に熱された鋼のハートが必要なんだ。
そんなハートでぶん殴ればどいつもこいつも一撃でノックアウトだ。
「ルディ、敵だ」
前を見ると、鎧を着た四本腕の鎧が二体、歩いてくる所だった。
アーマードウォリアーだ。
一応、この手の鎧はアンデッドに属するらしい。
そして、アンデッドに効くのは神撃と岩だ。
質量のある大きめの岩砲弾をぶちかましてやれば、だいたい一撃で粉々になる。
「岩砲弾で先制します」
「あ、ルディ。いけません」
杖を構えた所で、ロキシーに止められた。
「アーマードウォリアーは水神流の技を使うと聞いています。
うかつに魔術を放てばカウンターが飛んできます」
水神流。
あまり出会った事は無いが、受け流しとカウンターを主体とした剣術だ。
この受け流しやカウンターは、なぜか魔術に対しても有効だ。
何をどうすればそうなるのかわからないが、
攻撃魔術に対するカウンターとして剣閃を飛ばす技があるという。
普通なら大丈夫だと思う所だが、相手は四本も剣を持っている。
人間ではないのだから、四人同時に相手して、全てにカウンターをあわせるとかもやってくるかもしれない。
「なるほど、ではどうすれば?」
「足を止めて、援護に徹しましょう。初めての魔物ですから、まずは慎重に」
「了解。父さん、泥沼を使います、足元に気をつけてください!」
「おう!」
鎧系の魔物はパワーがあり剣の腕も凄まじいが、足は遅い。
また、鎧は重く、泥に沈みやすい。
とは言え、あまり深い泥を発生させると、底が抜ける可能性もある。
そうそう崩落にはつながらないとは思うが、しかし地形変化の魔術はほどほどにした方がいいな。
膝ぐらいか。
「『泥沼』!」
アーマードウォリアーが足を踏み出そうとした所に、泥沼を発生させる。
奴らは両方、ズブンと太もものあたりまで泥に沈んだ。
そこに、前衛二人が躍りかかる。
「パウロ。わたくしが左のをやりますわ」
「わかった……お前はいつも左だよな」
「壁側に剣があるとやりにくいんですのよ」
「わがままかよ……っとアブねえ」
パウロは余裕そうだ。
右手の剣でアーマードウォリアーの斬撃を受け流し、
左手の短剣であっというまに腕の一本を切り落とした。
硬そうな鎧だが、関係ないらしい。
剣神流の剣士は化物だな。
それとも、あの短剣の切れ味がいいのだろうか。
エリナリーゼは少々押され気味だ。
決して大きな攻撃をもらうわけではないが、彼女の攻撃力では、有効打を与えられない。
「援護しましょう。ルディ、同時に魔術を放ちます。エリナリーゼさんの方です」
「了解」
杖を構える。
使うのは岩砲弾だ。
足を止めている今なら、回避されることもない。
ただ、どれだけの速度を受け流されるかはやってみないとわからない。
「タルハンドさん!」
「おう!」
タルハンドが盾を構えて俺たちの前に立つ。
もし斬撃が飛んできたら、自分が壁になるというのか。
即死でなければ、俺は上級治癒魔術を使える。
急所だけは避けて欲しい所だ。
「『
「勇壮なる氷剣にて彼の者に断罪を!
『
ロキシーと時間差で同時に魔術を放つ。
弾丸型の砲弾と、八つ○き光輪のような氷刃が飛ぶ。
鎧は咄嗟にそれらを受け流そうとした。
二つの剣が動き、迎撃の動きを見せた所で、タイミングよくエリナリーゼがシールドで殴りつけたため、姿勢が崩れる。
岩砲弾は鎧の腕を引きちぎり、氷刃が鎧の胸に深々と突き刺さった。
鎧が動きを止め、すぐにバラバラになって崩れ落ちた。
それと同時に、パウロの戦闘も終わっていた。
「さすがにA級ともなると、すぐには倒せねえな」
などと言っているが、戦闘時間は一分程度だ。
一撃で倒せないというだけで、苦戦すらしていない。
さすが、三大剣術を三つとも上級で取っているだけある。
才能的には、聖級まで行けたレベルではあるのだろう。
いや、実際の所、パウロは聖級並に強いのかもしれない。
人の強さなんて、ランクではなかなか測れないしな。
「父さん、もしかして、前よりちょっと強くなりました?」
ああ、いかん。
調子に乗らせるような事を言ってしまった。
盛大な自慢話が始まってしまうかもしれない。
「ん? いや、そんな事はない。昔より弱いぐらいだ」
しかし、パウロはニコリともせず、こちらを一瞥しただけで前を向く。
「さぁ、油断しないで行くぞ」
パウロの言葉に、俺も気を引き締めた。
そうだ。
今は迷宮の中、気を引き締めて行かなければならない。
それにしても今日のパウロはかっこいいな。
このかっこいい所を、ノルンにでも教えてやれば喜ぶだろうか。
「あら?」
と、そこでエリナリーゼがひょいとパウロの顔を覗きこんだ。
そして、口元に手をあててニタリと笑う。
「パウロったら、何をにやけてますの、気持ち悪い」
「いいんだよそういう事は口に出さなくて」
「ルーデウスに褒められたのがよっぽど嬉しかったんですのね。わかりますわよ。くすくす」
「うるせぇな、黙れよ」
前言撤回。
やはりパウロはパウロなようだ。
その後、何体かアーマードウォリアーとマッドスカルを倒した所で、帰還した。
徒歩で約15時間。
さすがに時間が掛かるな。
こんなのんびりしていてゼニスは大丈夫なのだろうか。
いや、焦ってロキシーのように二次遭難に遭うのは避けなければいけない。
慎重にだ。
今のところはうまく行っている。
緊張しつつも緊張しすぎず、心にも多少の余裕を持てている。
コンディションは最高だ。
このまま行くのがベストだろう。
---
一度戻り、装備などを点検して戻ってくる。
その後、すぐに会議だ。
そこでいくつか必要なものが出てきたため買い出しに赴く。
光の精霊のスクロールもやや足りなくなっていたので、書き足しておく。
さすが迷宮都市ラパンというべきか、魔法陣用の染料や羊皮紙もあるらしく、問題無く作れた。
一枚作ったら、あとはシェラさんが全てやってくれた。
ミリス教団のバイトにスクロールを書くというものがあるらしく、得意なのだそうだ。
今日中に50枚は作ると言い切った。
頼もしい。
ギースは鎧系の魔物に通用するような薬品を購入していた。
命中すると、関節部にまとわりついて動きを鈍くするのだそうだ。
重いんだから地面に油でも巻けばいいんじゃないかと提案すると、それじゃパウロがコケるだろと笑われた。
それもそうかと返すと、ゲラゲラと笑われた。
パウロとエリナリーゼは剣を見ていた。
エリナリーゼ用に掘り出し物の剣がないか探しているらしい。
彼女のエストックは
振れば剣先から真空の刃が飛び出す能力を持っている。
が、アーマードウォリアーを相手にするにはやや不便だ。
そうでなくとも、アイアンクロウラーといい、硬い相手にやや苦戦している。
分からないでもない。
パウロが左手に持っている短剣はラパンで購入した
相手が硬ければ硬いほど切れ味を増すという『
かなりレアな能力だ。
レアすぎて市場では能力が判別できず、干し肉すら切れないナマクラ扱いされ、投げ売りされていたそうだ。
パウロは「オレの慧眼がこの剣の能力を見ぬいたのだ」とか言っていた。
けれど、俺は知っている。
この能力はブエナ村で読んだ『ペルギウスの伝説』に出てくる戦士が持っていた武器にもついていた。
干し肉すら切れないが、鋼の塊を真っ二つにする魔剣があると。
パウロは『干し肉すら切れない』という所でピンときたに違いない。
しかしまぁ、どうりでアーマードウォリアー相手に高い攻撃力を発揮するわけだ。
利き手ではない方でも有効打を与えられるなら、そりゃ強いわ。
エリナリーゼは一本のグラディウスを購入した。
刺突すると衝撃波が発生する能力が付与されているらしい。
ダメージは高くないが、咄嗟の時に相手を後ろにふっ飛ばして距離を取れる。
実用的な能力であるがゆえ、かなりお高いお値段だったが、エリナリーゼは懐から丸い魔力結晶を幾つか取り出し、それで購入した。
あの魔力結晶、いったいいくつ持ってるんだろうか。
夜には、タルハンド、ロキシーと共に酒を飲んだ。
成人なんだから酒くらい飲めるだろう、と。
とはいえ、ロキシーの前でベロンベロンに酔っ払うわけにもいかない。
付き合い程度だ。
議題は魔術師三人による打ち合わせだったはずだが、
いつしかタルハンド先生による『男とはなんぞや』という講義に変わっていた。
男とはすなわち筋肉であり、黄金の肉体を持つ者に黄金の精神が宿るというお話だ。
魔術師のする会話ではない。
しかし有意義な話ではあった。
そうだな、やはり男はたくましくあらねばならん。
まあ、ロキシーはそのへんどうでもいいらしく、眠そうにしていたが。
仕方あるまい。
そんな休日を過ごした後、リーリャに行ってらっしゃいませと言われ、迷宮に入り直す。
---
第四階層はあっさりと突破出来た。
装備の変更と入念な準備もあったが、運もよかった。
ほぼ一直線にゴールにたどり着く事ができたのだ。
時間にして三時間程度だろう。
魔物にもほとんど遭遇しなかった。
俺たちは一旦第四階層へと戻り、マップを埋めるように歩き回る。
ゼニスの姿は、やはり無い。
その後、一度帰還してから第五階層を攻略し始める。
第五階層からは、マッドスカル、アーマードウォリアーに加え、イートデビルが出現する。
イートデビルは、でかい口と鋭い牙を持った悪魔だ。
長い手足と、天井に張り付くような鋭い爪を持っている。
一言で言えば、某エイリアンみたいな感じだな。
あそこまで怖い外見はしていないが。
イートデビルは強敵だ。
なにせ、天井や壁を移動してくる。
天井や壁を移動してくるということは、つまりフォーメーションが役に立たないという事だ。
アーマードウォリアーと戦うパウロやエリナリーゼを素通りして、俺達の所までやってくる。
背筋の寒くなるような光景だ。
最初の襲撃は防げた。
イートデビル自体はそう強くは無い。
スピードがあり、攻撃力も高そうだが、防御力は低く、タフでもない。
天井からは叩けば落ちるので、エリナリーゼが率先して新武器を使う事で、事無きを得た。
イートデビルは倒せる。
A級と言っても、奇抜な動きにさえ慣れてしまえば、地力のあるアーマードウォリアーの方が難敵であると言える。
しかし、視線が上に行くのはまずい。
上に注意を引かれるということは、つまり地面の罠に気づかなくなる。
うっかり転移罠を踏んでしまい、変な所に転移する可能性もある。
「さて、あれを使うか」
本来なら、ここは一旦戻って悩む所だろうが、俺たちには攻略本がある。
『転移の迷宮探索記』には、イートデビルに対する画期的な対処法が書かれていた。
奴らはある種の匂いを非常に嫌がる。
食用として売られているタルフロの木の根を香として焚くと、天井から地面に降りてくるのだ。
しかも地面近くに伏せて、できる限り煙から逃れようという姿勢を取る。
そのため、非常に戦いやすい。
これならB級どころかC級でもいいぐらいだ。
この本の著者は本当によく研究しているな。
というわけで、第五階層もあっというまにクリアできた。
次の階層への魔法陣が見つからず少し歩きまわる事になったが、俺達の目的は迷宮の踏破ではなく、ゼニスの捜索だ。
何も問題はない。
むしろ好都合と言えよう。
---
そして、第六階層へと至った。
「ギース、どうだ?」
「いけるぜ」
主語の抜けたパウロの問に、ギースも短く答える。
消耗はほとんど無い。
準備は万端だ。
今は勢いもある。
「よし、じゃあ戻らず、このまま行くぞ」
「了解」
準備はできており、消耗もない。
なら、戻る必要もない。
攻略は続く。