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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第13章 青少年期 迷宮編

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第百二十二話「トントン拍子」

 ロキシーを加え、迷宮の攻略が再開された。


 予定通り、一気に第三階層まで降りてしまう。

 第三階層の敵は朱凶蜘蛛タランチュラ・デスロード、アイアンクロウラーに加え、マッドスカルが加わる。


 マッドスカルはA級の魔物だ。

 外見は首のない泥の巨人である。

 大きさは2メートル半といった所か。

 横幅が大きく、ガッチリとして見える。

 胸のあたりにドクロが埋め込まれており、そこが弱点となる。

 そうだな、ジャ○ラとかサ○エルが近いかもしれない。


 動きは鈍重だが、泥の部分をいくら攻撃しても意味は無く、危険な状態になると胸のドクロを体内に隠す。

 攻撃方法としては泥の体で殴りつけるものの他、岩砲弾のような魔術を使ってくる。

 だが、奴がA級と目されるのは、それが理由ではない。

 こいつは知能の低い魔物を従える事が出来るのだ。


 マッドスカルは朱凶蜘蛛タランチュラ・デスロード、アイアンクロウラーを下僕とする。

 ゴーレムのような外見とは裏腹に知能は高く、アイアンクロウラーを前衛、朱凶蜘蛛を中衛、自分を後衛にしたフォーメーションを組んで襲ってくる。

 マッドスカルとは指揮官タイプの魔物なのだ。


 アイアンクロウラーが突進し、朱凶蜘蛛が粘糸で絡めとるという第二階層の戦術。

 そこにマッドスカルの指揮と岩砲弾が加わる。

 第二階層で苦戦していたパウロたちにとって、この戦術は厳しいものがあっただろう。

 戦うのに精一杯で、ロキシーの探索どころではなかったはずだ。


 しかしながら、俺とロキシーが加われば何も問題ない。

 結局の所、中衛にいる朱凶蜘蛛は大したことはないので、

 俺が後衛にいるマッドスカルを、ロキシーが前衛にいるアイアンクロウラーを率先して攻撃すればいいのだ。

 朱凶蜘蛛はパウロたち三人で十分に対応出来る。


 俺が後ろから、ロキシーが前から。

 そこで減った敵をパウロたちが、という形だな。



 マッドスカルは水に弱い。

 泥だからな。

 水分量が多くなってしまえば流れてしまう。

 もしくは火だ。

 泥を乾燥させてしまえば、奴は動かなくなる。


 だが、俺は岩砲弾で十分だ。

 魔眼を使って狙撃すれば、弱点であるドクロを一発で撃ち抜ける。

 ワンショットワンキルだな。

 俺は凄腕スナイパー。ただし開始地点(リスポーン)から動かない芋虫だ。


「ふぅ」


 敵を殲滅した後、ロキシーがため息をついた。

 俺は彼女の帽子のつばから覗く顔を見る。

 魔力が減っているのだろう、やや疲れ気味の顔だ。


 ふと、ロキシーが俺の方を向いた。

 見上げるような、やや斜め上目遣い。

 目が合うと、さっと眼をそらされた。


「そろそろ魔力切れです。休憩をお願いします」


 その言葉で、通路まで戻ってから休憩に入る。

 俺の方はまだまだ魔力総量には余裕がある。

 というか、多分半分も減っていない。

 基本的に岩砲弾しか使ってないし。

 『フロストノヴァ』で敵を凍らせるロキシーの方が、消耗が速いのは仕方がない。


「すいません、魔力総量が少ないもので」


 ロキシーは座り込みつつ、ぽつりと言った。


「いえ、十分あると思いますけど」


 ロキシーの魔術の精度は極めて高い。

 詠唱短縮でバンバン範囲魔術を使っているのに誤射が無い。

 たまに『水蒸ウォータースプラッシュ』の飛沫がパウロたちに掛かるが、

 その後の『氷結領域(アイシクルフィールド)』は驚くほど精密に敵だけを凍りつかせている。


 精密という事は、それだけ魔力を使っているはずだ。

 だというのに、彼女はかなりの長時間戦い続けられる。

 決して魔力総量が少ないわけではない。


 おそらく、シルフィと同等かそれ以上はあるだろう。


「さて、そろそろ第四階層への魔法陣が見つかってほしいもんだな」


 ギースが顎をぽりぽりと掻きつつ、本とマップを見比べている。


 第三階層に潜って、そろそろ2日が経過しようとしている。

 本の著者が第三階層を突破するのに掛かった日数は5日。

 俺たちは彼らよりもペースが早いし、第三階層自体は何度か行き来して、マップもできている。

 そろそろ次への魔法陣が見つかるだろうか。


「ルディ、ちょっと背中貸してもらっていいですか?」

「どうぞ」


 答えると、ロキシーが俺の背中にもたれかかってきた。

 休憩時間中、ロキシーは俺の背中にもたれて休む。

 岩の壁を背にするより、人の背中を背にしたほうが休まるのだろう。

 役得というやつだな。


「それにしても、ルディと迷宮に潜る事になるとは思っても見ませんでした」

「そうですね。俺の動きで何か注意する所とか、ありますか?」

「え? ……ルディはパーティとしての動きの基礎はできているので、何も言うことはありませんよ」

「ありがとうございます」

「無詠唱魔術で極めて高い精度で。凄いものですね」

「いえ、まだまだですよ」


 まだまだ。

 そう、まだまだだ。

 ロキシーを見ていると、本当にそう思えてくる。

 彼女は手持ちのカードを増やすことなく、できることを増やしている。

 カードの組み合わせで相手を圧倒しているのだ。

 俺も昔はそうしていたはずなのだが、いつしか岩砲弾と泥沼ばかり使うようになってしまった。


 これではいけないのだが、ある程度の相手にはそれで勝ててしまう。

 かと言って、想定している相手は小手先の技は通用しない。

 丁度いい相手もいない。

 目標は高く、目先の目標がない。

 これでは上達もできまい。


「ルディ」

「なんですか?」

「もし、ゼニスさんを助けだして、余裕ができたら、二人で迷宮に潜りませんか?」

「二人で、ですか?」

「はい。今は切羽詰まってますけど、迷宮探索は面白いものです。

 もっと簡単な迷宮に、二人でパーティを組んで潜ってみませんか?」


 迷宮か。

 正直、俺はギースがいなければ、あっさり罠とか踏抜きそうなんだが。

 しかし、ロキシーは一人でも迷宮を探索できる人だ。

 まあ、ちょっとドジだが実績もある。

 彼女に付いて行けば、あるいは踏破もできるだろう。


「いいですね。帰ったら、二人で迷宮に潜りましょうか」

「約束ですよ」

「ええ、約束です」


 視界の隅で、ロキシーの手がグッと握られていた。


「……あ、眠気がきました、ちょっと寝ます」

「はい、おやすみなさい」


 少しすると、背中のロキシーからくたりと力が抜けた。

 勢いで返事をしてしまったが、迷宮探索って結構な日数が掛かるよな。

 子育てとかもしないといけない俺に、そんな時間はあるのだろうか。


 ……まぁ、今すぐの話ではない。

 暇ができたらでいいのだ。

 子供が出来て、ある程度大きくなって、俺もシルフィも余裕が出来て。

 その頃には俺も20歳を超えてるだろうが、まぁ問題はあるまい。


 それにしても嬉しいな。

 ロキシーにパーティに誘ってもらえるとは。

 実力を認めてもらえた気分だ。

 彼女の前で悪い部分を見せないように気をつけないとな。


 なんて思いつつ、俺も少し眠った。



---



 第四階層への魔法陣を発見した後、第三階層を満遍なく捜索した。

 しかし、ゼニスの姿は影も形もない。



---



 第四階層に到達した。

 転移魔法陣を抜けた瞬間、周辺が様変わりしたので、一目で分かった。

 見覚えのある石造りの壁。

 やはり、転移魔法陣のあった遺跡に似ている。

 同系統の遺跡が迷宮化したのか。


「ギース、どうする?」

「ん? まだ少し余裕があるな」

「よし、じゃあ第四階層の雰囲気を確かめてから、一旦もどるぞ」


 キョロキョロと周囲を見回す俺に、パウロがキリッとした顔で言った。

 凹んでいる時のパウロはどこからどう見てもダメ人間だが、

 しかしやはり、仕事をしている時のパウロはかっこいいな。

 ゼニスがあの姿を見て惚れたのだとしても、おかしい事だとは思わない。

 俺にもあの血が流れているのなら、シルフィがよく俺に言ってくれるお世辞も本心なのかもしれない。


「先生、真面目な顔してる時の俺ってカッコイイですか?」


 ふと、ロキシーにそんな事を聞いてしまった。

 ちょっとナルシストっぽかったかもしれない。

 ロキシーは帽子のつばからチラリと俺の方を見て、言葉を濁した。


「え? あー、うー、えーと。ま、まあカッコイイですよ?」


 そして、サッと顔を逸らした。

 オーケー。

 その反応だけで十分さ。

 気持ちは伝わった。

 答えにくい事を聞いてしまいましたね。

 失敬。ちょっと調子に乗っていたようだ。

 でも俺はロキシーがキャピっと「あたしってカワイイ?」と聞いてきたら、サイリウムを両手に歓声上げて肯定するよ。最前列で。


 男は顔じゃない。

 ハートだよ。

 真っ赤に熱された鋼のハートが必要なんだ。

 そんなハートでぶん殴ればどいつもこいつも一撃でノックアウトだ。


「ルディ、敵だ」


 前を見ると、鎧を着た四本腕の鎧が二体、歩いてくる所だった。

 アーマードウォリアーだ。

 一応、この手の鎧はアンデッドに属するらしい。

 そして、アンデッドに効くのは神撃と岩だ。

 質量のある大きめの岩砲弾をぶちかましてやれば、だいたい一撃で粉々になる。


「岩砲弾で先制します」

「あ、ルディ。いけません」


 杖を構えた所で、ロキシーに止められた。


「アーマードウォリアーは水神流の技を使うと聞いています。

 うかつに魔術を放てばカウンターが飛んできます」


 水神流。

 あまり出会った事は無いが、受け流しとカウンターを主体とした剣術だ。

 この受け流しやカウンターは、なぜか魔術に対しても有効だ。

 何をどうすればそうなるのかわからないが、 

 攻撃魔術に対するカウンターとして剣閃を飛ばす技があるという。


 普通なら大丈夫だと思う所だが、相手は四本も剣を持っている。

 人間ではないのだから、四人同時に相手して、全てにカウンターをあわせるとかもやってくるかもしれない。


「なるほど、ではどうすれば?」

「足を止めて、援護に徹しましょう。初めての魔物ですから、まずは慎重に」

「了解。父さん、泥沼を使います、足元に気をつけてください!」

「おう!」


 鎧系の魔物はパワーがあり剣の腕も凄まじいが、足は遅い。

 また、鎧は重く、泥に沈みやすい。

 とは言え、あまり深い泥を発生させると、底が抜ける可能性もある。

 そうそう崩落にはつながらないとは思うが、しかし地形変化の魔術はほどほどにした方がいいな。

 膝ぐらいか。


「『泥沼』!」


 アーマードウォリアーが足を踏み出そうとした所に、泥沼を発生させる。

 奴らは両方、ズブンと太もものあたりまで泥に沈んだ。

 そこに、前衛二人が躍りかかる。


「パウロ。わたくしが左のをやりますわ」

「わかった……お前はいつも左だよな」

「壁側に剣があるとやりにくいんですのよ」

「わがままかよ……っとアブねえ」


 パウロは余裕そうだ。

 右手の剣でアーマードウォリアーの斬撃を受け流し、

 左手の短剣であっというまに腕の一本を切り落とした。

 硬そうな鎧だが、関係ないらしい。

 剣神流の剣士は化物だな。

 それとも、あの短剣の切れ味がいいのだろうか。


 エリナリーゼは少々押され気味だ。

 決して大きな攻撃をもらうわけではないが、彼女の攻撃力では、有効打を与えられない。


「援護しましょう。ルディ、同時に魔術を放ちます。エリナリーゼさんの方です」

「了解」


 杖を構える。

 使うのは岩砲弾だ。

 足を止めている今なら、回避されることもない。

 ただ、どれだけの速度を受け流されるかはやってみないとわからない。


「タルハンドさん!」

「おう!」


 タルハンドが盾を構えて俺たちの前に立つ。

 もし斬撃が飛んできたら、自分が壁になるというのか。

 即死でなければ、俺は上級治癒魔術を使える。

 急所だけは避けて欲しい所だ。


「『岩砲弾(ストーンキャノン)』!」

「勇壮なる氷剣にて彼の者に断罪を!

 『氷霜刃(アイシクルエッジ)』!」


 ロキシーと時間差で同時に魔術を放つ。

 弾丸型の砲弾と、八つ○き光輪のような氷刃が飛ぶ。


 鎧は咄嗟にそれらを受け流そうとした。

 二つの剣が動き、迎撃の動きを見せた所で、タイミングよくエリナリーゼがシールドで殴りつけたため、姿勢が崩れる。

 岩砲弾は鎧の腕を引きちぎり、氷刃が鎧の胸に深々と突き刺さった。

 鎧が動きを止め、すぐにバラバラになって崩れ落ちた。


 それと同時に、パウロの戦闘も終わっていた。


「さすがにA級ともなると、すぐには倒せねえな」


 などと言っているが、戦闘時間は一分程度だ。

 一撃で倒せないというだけで、苦戦すらしていない。

 さすが、三大剣術を三つとも上級で取っているだけある。


 才能的には、聖級まで行けたレベルではあるのだろう。

 いや、実際の所、パウロは聖級並に強いのかもしれない。

 人の強さなんて、ランクではなかなか測れないしな。


「父さん、もしかして、前よりちょっと強くなりました?」


 ああ、いかん。

 調子に乗らせるような事を言ってしまった。

 盛大な自慢話が始まってしまうかもしれない。


「ん? いや、そんな事はない。昔より弱いぐらいだ」


 しかし、パウロはニコリともせず、こちらを一瞥しただけで前を向く。


「さぁ、油断しないで行くぞ」


 パウロの言葉に、俺も気を引き締めた。

 そうだ。

 今は迷宮の中、気を引き締めて行かなければならない。

 それにしても今日のパウロはかっこいいな。

 このかっこいい所を、ノルンにでも教えてやれば喜ぶだろうか。


「あら?」


 と、そこでエリナリーゼがひょいとパウロの顔を覗きこんだ。

 そして、口元に手をあててニタリと笑う。


「パウロったら、何をにやけてますの、気持ち悪い」

「いいんだよそういう事は口に出さなくて」

「ルーデウスに褒められたのがよっぽど嬉しかったんですのね。わかりますわよ。くすくす」

「うるせぇな、黙れよ」


 前言撤回。

 やはりパウロはパウロなようだ。



 その後、何体かアーマードウォリアーとマッドスカルを倒した所で、帰還した。

 徒歩で約15時間。

 さすがに時間が掛かるな。


 こんなのんびりしていてゼニスは大丈夫なのだろうか。

 いや、焦ってロキシーのように二次遭難に遭うのは避けなければいけない。

 慎重にだ。

 今のところはうまく行っている。


 緊張しつつも緊張しすぎず、心にも多少の余裕を持てている。

 コンディションは最高だ。

 このまま行くのがベストだろう。



---



 一度戻り、装備などを点検して戻ってくる。


 その後、すぐに会議だ。

 そこでいくつか必要なものが出てきたため買い出しに赴く。


 光の精霊のスクロールもやや足りなくなっていたので、書き足しておく。

 さすが迷宮都市ラパンというべきか、魔法陣用の染料や羊皮紙もあるらしく、問題無く作れた。

 一枚作ったら、あとはシェラさんが全てやってくれた。

 ミリス教団のバイトにスクロールを書くというものがあるらしく、得意なのだそうだ。

 今日中に50枚は作ると言い切った。

 頼もしい。


 ギースは鎧系の魔物に通用するような薬品を購入していた。

 命中すると、関節部にまとわりついて動きを鈍くするのだそうだ。

 重いんだから地面に油でも巻けばいいんじゃないかと提案すると、それじゃパウロがコケるだろと笑われた。

 それもそうかと返すと、ゲラゲラと笑われた。


 パウロとエリナリーゼは剣を見ていた。

 エリナリーゼ用に掘り出し物の剣がないか探しているらしい。

 彼女のエストックは魔力付与品(マジックアイテム)だ。

 振れば剣先から真空の刃が飛び出す能力を持っている。

 が、アーマードウォリアーを相手にするにはやや不便だ。

 そうでなくとも、アイアンクロウラーといい、硬い相手にやや苦戦している。

 分からないでもない。


 パウロが左手に持っている短剣はラパンで購入した魔力付与品(マジックアイテム)だそうだ。

 相手が硬ければ硬いほど切れ味を増すという『鎧通し(アーマーブレイク)』の能力を持っているらしい。

 かなりレアな能力だ。

 レアすぎて市場では能力が判別できず、干し肉すら切れないナマクラ扱いされ、投げ売りされていたそうだ。


 パウロは「オレの慧眼がこの剣の能力を見ぬいたのだ」とか言っていた。

 けれど、俺は知っている。

 この能力はブエナ村で読んだ『ペルギウスの伝説』に出てくる戦士が持っていた武器にもついていた。

 干し肉すら切れないが、鋼の塊を真っ二つにする魔剣があると。

 パウロは『干し肉すら切れない』という所でピンときたに違いない。


 しかしまぁ、どうりでアーマードウォリアー相手に高い攻撃力を発揮するわけだ。

 利き手ではない方でも有効打を与えられるなら、そりゃ強いわ。


 エリナリーゼは一本のグラディウスを購入した。

 刺突すると衝撃波が発生する能力が付与されているらしい。

 ダメージは高くないが、咄嗟の時に相手を後ろにふっ飛ばして距離を取れる。


 実用的な能力であるがゆえ、かなりお高いお値段だったが、エリナリーゼは懐から丸い魔力結晶を幾つか取り出し、それで購入した。

 あの魔力結晶、いったいいくつ持ってるんだろうか。



 夜には、タルハンド、ロキシーと共に酒を飲んだ。

 成人なんだから酒くらい飲めるだろう、と。

 とはいえ、ロキシーの前でベロンベロンに酔っ払うわけにもいかない。

 付き合い程度だ。


 議題は魔術師三人による打ち合わせだったはずだが、

 いつしかタルハンド先生による『男とはなんぞや』という講義に変わっていた。

 男とはすなわち筋肉であり、黄金の肉体を持つ者に黄金の精神が宿るというお話だ。

 魔術師のする会話ではない。

 しかし有意義な話ではあった。

 そうだな、やはり男はたくましくあらねばならん。

 まあ、ロキシーはそのへんどうでもいいらしく、眠そうにしていたが。

 仕方あるまい。


 そんな休日を過ごした後、リーリャに行ってらっしゃいませと言われ、迷宮に入り直す。



---



 第四階層はあっさりと突破出来た。

 装備の変更と入念な準備もあったが、運もよかった。

 ほぼ一直線にゴールにたどり着く事ができたのだ。

 時間にして三時間程度だろう。

 魔物にもほとんど遭遇しなかった。


 俺たちは一旦第四階層へと戻り、マップを埋めるように歩き回る。

 ゼニスの姿は、やはり無い。



 その後、一度帰還してから第五階層を攻略し始める。


 第五階層からは、マッドスカル、アーマードウォリアーに加え、イートデビルが出現する。

 イートデビルは、でかい口と鋭い牙を持った悪魔だ。

 長い手足と、天井に張り付くような鋭い爪を持っている。

 一言で言えば、某エイリアンみたいな感じだな。

 あそこまで怖い外見はしていないが。


 イートデビルは強敵だ。

 なにせ、天井や壁を移動してくる。


 天井や壁を移動してくるということは、つまりフォーメーションが役に立たないという事だ。

 アーマードウォリアーと戦うパウロやエリナリーゼを素通りして、俺達の所までやってくる。

 背筋の寒くなるような光景だ。


 最初の襲撃は防げた。

 イートデビル自体はそう強くは無い。

 スピードがあり、攻撃力も高そうだが、防御力は低く、タフでもない。

 天井からは叩けば落ちるので、エリナリーゼが率先して新武器を使う事で、事無きを得た。


 イートデビルは倒せる。

 A級と言っても、奇抜な動きにさえ慣れてしまえば、地力のあるアーマードウォリアーの方が難敵であると言える。

 しかし、視線が上に行くのはまずい。

 上に注意を引かれるということは、つまり地面の罠に気づかなくなる。

 うっかり転移罠を踏んでしまい、変な所に転移する可能性もある。


「さて、あれを使うか」


 本来なら、ここは一旦戻って悩む所だろうが、俺たちには攻略本がある。

 『転移の迷宮探索記』には、イートデビルに対する画期的な対処法が書かれていた。


 奴らはある種の匂いを非常に嫌がる。

 食用として売られているタルフロの木の根を香として焚くと、天井から地面に降りてくるのだ。

 しかも地面近くに伏せて、できる限り煙から逃れようという姿勢を取る。

 そのため、非常に戦いやすい。

 これならB級どころかC級でもいいぐらいだ。


 この本の著者は本当によく研究しているな。



 というわけで、第五階層もあっというまにクリアできた。

 次の階層への魔法陣が見つからず少し歩きまわる事になったが、俺達の目的は迷宮の踏破ではなく、ゼニスの捜索だ。

 何も問題はない。

 むしろ好都合と言えよう。



---



 そして、第六階層へと至った。


「ギース、どうだ?」

「いけるぜ」


 主語の抜けたパウロの問に、ギースも短く答える。

 消耗はほとんど無い。

 準備は万端だ。

 今は勢いもある。


「よし、じゃあ戻らず、このまま行くぞ」

「了解」


 準備はできており、消耗もない。

 なら、戻る必要もない。

 攻略は続く。

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