シェリー・ポッターと神に愛された少年   作:悠魔

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投稿遅れた理由の5割はルーナのせいです。この子の喋り方すごく難しい。
残りの5割はバイハ6のせいです。今ジェイク&シェリー編やってますが、シェリーお前、薄い本に出てきそうな手術服着てんな。


2.血統

「さあさ!パーシー、お父さんと先に行きなさい!フレッドとジョージは自分のトランクは持ったわね!?なあに!?こんな時までふざけないで時間がないんだから!ロナルドはハーマイオニーとシェリーをしっかり駅までエスコートすること!ジニーちゃんは私と行きましょうね」

 

ウィーズリー家の朝は早い。

今日はホグワーツへと行く日である。各々が朝食をかっ込み、トランクに荷物が詰まっているのを確認すると、ばたばたと九と四分の三番線まで向かう。

昨日の夜には準備をしていたのだが、なぜか用意したはずのトランクの中身がぶち撒けられていたり、ハーマイオニーの時計が一時間遅れていたり、様々なアクシデントが積み重なり、気付けば時刻は三〇分前。

例の空飛ぶ車をロンドンまでかっ飛ばしつつ、夫妻が若干の魔法を使う事で何とか到着する事ができた。

 

「さあ、シェリー、ロン!私達も早く九と四分の三番線まで走らなきゃ!」

「ッ、あ、あれ!?」

「どうしたのさ、シェリー?」

「その、ごめんなさい、急に靴紐がほどけてしまって!すぐ追い付くから、二人とも先に行ってて!」

「………ッ、分かったわ!すぐに追いついてね、ぜったいよ!」

 

バーノンに買ってもらったスニーカーが安物だったのがいけなかったのだろうか。シェリーは大急ぎで靴紐を結ぶと、九と四分の三番線へと続く壁へと飛び込みーー

 

「きゃっ!?」

 

そして、弾かれた。すり抜けられる筈の壁は物言わぬ石壁となり、シェリーを拒絶する。ヘドウィグが抗議の声を上げた。それに驚いたのか、周囲の人間が不思議そうにこちらを見た。

「っ、時間ーーーぁ」

十二時きっかり。

絶望感に押し潰れそうだった。

シェリー・ポッターはホグワーツ特急に乗り遅れたのだ。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

シェリー・ポッターが物言わぬ壁の前で立ち往生しているその頃。

月光のような長い髪の少年、ベガ・レストレンジと、ぽっちゃりした黒髪のネビル・ロングボトム。

数ヶ月ぶりに再会した二人は、コンパートメントの中で荷物を広げていた。

 

「ベガ、休暇は何してたの?」

「ハワイ旅行。土産買ってきたが、ネビル、いるか?」

「わぁ、ありがとう!はぇー、マカダミアナッツだぁ!」

「塩味と、オニオンガーリックと、ハニーローストの三種類だ。後で女どもにも配ってやんねえとな」

「旅行、楽しかった?」

「……まーな」

 

楽しくなかったわけではない。

しかしベガと、ベガが預けられているマグルの一家、ガンメタル家とは微妙な関係にある。

別段仲が悪い訳ではないが、過去に闇の魔法使いの一派の手によってシグルドが死亡してしまったために、魔法使いであるベガとシグルドの父親のシルヴェスターはぎこちない関係にならざるを得なかったのだ。

今回の旅行も、ベガは単独行動をとり、ナンパした女と遊んでいたのだった。

 

(まあ、こいつにそういう家庭内の複雑な事情を話してもな)

「ねえ、ここ空いてる?」

「あん?」

「他はどこも埋まってるンだ」

そう言ってコンパートメントの扉からこちらを覗くのは、燃えるような赤髪の少女に、カブのイヤリングをつけたどこか浮世離れした少女。見覚えがないが、一年生だろうか?

 

「いいよね、ベガ?」

「ああ、構わねえよ」

「ありがとう!」

女子二人はにぱー、と笑った。

「良かったー、座れる所が見つかって。私、ジネブラ・ウィーズリー!ジニーって呼んでね」

「私は、ルーナ・ラブグッドだよ」

「僕はネビルだよ……ウィーズリー?」

「兄の知り合い?どのお兄ちゃんかしら?ホグワーツに通ってるのが四人もいるからどれだか分からないの」

どうやらジニーはぱっと見は大人しく見えるが、意外とユーモアのある性格らしい。

 

「ロンだ。あいつとは同学年だよ」

「あら?……あなた、もしかして『グリフィンドールの悪魔』、ベガ・レストレンジ!?」

「ほう?俺も有名になったもんだな」

「有名も有名よ!一年生にして落とした女の子は数知れず、そのせいで多方面から恨みを買っているんですって?ついたあだ名は『グリフィンドールの悪魔』、悪い方のあだ名が『女誑しクソ野郎』だって聞いたわよ」

「誰だそのあだ名広めた奴」

「うん、まあ、概ねその通りだけどね」

ジニーはくすくすと面白がっている。ベガの噂を聞いて尚、話を続けるとは。怖いもの知らずなのだろうか。

 

「悪魔かぁ。アンタはむしろブリバリング・ハムディンガー似に見えるけどね」

「ブリバ……何?そんな魔法生物がいるのか?」

「ウン。私と、私のお父さんが好きな生き物なんだ。ホグワーツにもいたらいいな」

「アー、彼女、ほんのちょっぴり人より変わってるみたいで。彼女が言った、ブリバリ……なんとかっていうのは魔法界で確認されてないし、どの本にも載ってないの」

「ああ、そうなんだ。また僕が勉強不足で分かってないだけかと思ったよ」

「……空想上の生き物ってことか?こいつの頭の中だけの」

その生物が分からなかったのは、何もベガだけではなかった。彼女の言う『ブリバリング何とか』……とは、マグル界でいうネッシーとか、UMAみたいなものなのだろうか?

 

「誤解しないでね?この子はとっても良い子なのよ?私がコンパートメント探してる時に声かけてくれたし。ちょっとその、人より少し変わってるだけで」

「んー…まあ、たしかに。よく見たらカブのイヤリングとかつけてるし」

「顔は良いんだがな」

「?三人でなにこそこそ話してるの?うーん、ブリバリング・ハムディンガーの話するといつもこうなるんだよね。皆んな信じないんだ。他の生き物の話する時もそうなんだけど。ナーグルとか」

「………」

ルーナという少女は、気にしない素振りをしているようだっだが、その表情はどこか寂しそうに見えた。

 

「まあ、俺も魔法界に入って、自分の中の常識がひっくり返ったんだ。そういう生き物がいても変じゃねえかもな」

「!そっか。アンタ、面白い奴だね。そんな風に言ってくれるひと、初めてだよ」

どうやらルーナに気に入られたらしい。

そうして談笑していると、コンパートメントの扉が勢いよく開いた。

プラチナブロンドの髪を一房だけ三つ編みにしている女子。その睨みつけるような眼を見るに、席が見つからなかったから入れてくれ、という類のお誘いではないだろう。

取り巻きらしき女子が、心配そうにその女子に声をかけた。

 

「ね、ねえコルダ。そいつはやめといた方がいいってば」

「あなたは黙ってなさい!………ベガ・レストレンジとは、貴方ですか?『グリフィンドールの悪魔』と呼ばれているようですが」

「…俺がどうかしたか?」

「私はコルダ・マルフォイ。今年からホグワーツに入学する、偉大なるマルフォイ家に生まれた、偉大なるドラコお兄様の妹です」

「そうかい」

ベガの冷めた視線にコルダは気付かない。

彼からしてみれば、彼女はいつも突っかかってくるスリザリンの一人にすぎないのである。へーこいつマルフォイの妹なんだ、くらいの認識だ。

 

「去年のテストじゃお兄様を差し置いて首席だったそうですね?ですが、今年はそうはいきません。お兄様の仇は私が討つわ。私があなたを倒して首席になる!今年からあなたは次席です!」

(何言ってんだコイツ?)

今年からホグワーツに入学すると言ったこの女子は当然一年生だ。ベガは二年生なので、テストの点で勝負なんて事は出来ないはずなのだが……。

 

(ひょっとして馬鹿なのか、こいつ)

(しっ、聞こえちゃうよベガ。こういうのは下手に刺激したら余計面倒臭くなるんだから)

(そうだな。やめとくか)

ベガ・レストレンジの相方として認識され、スリザリンから絡まれる事も少なくないネビル。そんな彼は面倒臭い人の躱し方も身につけていたのであった。

 

「おや?貴方は」

「………」

「ウィーズリー家の末妹ですか。漏れ鍋ではどうも。………念のため言っておきますが、あの喧嘩はどう考えてもお父様の勝ちでしたから!」

「……顔面に四発も貰っておいて、よく言うわ」

「でもお父様はアーサー・ウィーズリーに蹴りを五発は入れました!あの大男に止められなかったら、あんな髪の毛が薄い男なんて、絶対サラサラヘアーのお父様がボコボコにしてしました!」

「なによ!」

「何ですか!」

 

一触即発。杖を抜くのは時間の問題だ。それでなくても、素手でのキャットファイトが始まってしまうかもしれない。

ネビルはこれから起こるであろう騒動に身構えているし、ベガはいつでも二人を止められる準備をしている。

しかし。最初に動いたのは、ルーナ・ラブグッドだった。彼女は立ち上がると、ジニーを庇うようにしてコルダの前に立った。コルダは少し身じろぎする。

 

「んー、私の知り合いのお父さんをそんな風に言うの、あんまり好きじゃないな。それと、ベガは二年生だから、あなたの成績と比べる事はできないモン」

「あっ、そっか。確かに………な、何なんですか貴方は!」

「何って言われてもよく分からないよ。自分の事を正しく説明できる人なんていないモン。アンタもそうでしょ?」

「っ、もう良いです!とにかく!お兄様を傷つけたら許しませんからぁー!」

よく分からない捨て台詞と共にコルダは帰っていった。

それにしても、不思議ちゃんに見えて、ルーナは言う時は言うタイプらしい。

 

「やるじゃねえか。ルーナ、よく言った」

「暴力沙汰にならずに済んで良かったよ。それに、マルフォイの妹を追い返しちゃった!」

「?私は、あの子に思ったことを言っただけだモン」

きょとんと小首を傾げた。

「でも、酷いわルーナ。知り合いだなんて。私達、もう友達でしょう?」

「…………!!友達!私と、アンタが?」

「?他に誰がいるっていうの?」

「………そっか!友達!」

 

何やら機嫌を良くしたルーナとコルダに対して不満を言い合っていると、これまた急にコンパートメントの扉が開かれる。やって来たのはロンとハーマイオニーだ。いつも彼等にくっついているシェリーはいないようだが……。

「ネビル!!!シェリーは、シェリーはどこ!?!?」

「!?」

「ベガあああああああああ!!シェリーを出してくれえええ!!!」

「!?」

何なんだこいつ達は。怖い。

「シェリー、シェリー来てない!?さっきから姿が見えないの!もしかしたら迷子になったのかもしれないわ!」

「お、落ち着きなよ」

「は?シェリー、来てねえのか」

「うわあああ、シェリーシェリーシェリーシェリー!!」

「だから落ち着けよ怖えよ」

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

シェリーは目の前の壁を呆然と見つめた。

駅の柱の、なんてことはない普通の壁。

しかし魔法使いにとってはホグワーツ行きの特急列車へと続く通り道なのだ。

それがどうしたことか、今は魔法的要素など皆無、ただの石壁になってしまっている。どれだけ触っても反応がない。

たった数秒前、ウィーズリー一家とハーマイオニーはトランクを押してこの石壁に突撃し、そして吸い込まれるようにして九と四分の三番線へと行けた筈だ。

しかし、最後にシェリーがトランクを押して壁を抜けようとした時、壁は彼女を通さなかった。阻まれたのだ。転移魔法に不調?大勢の人が通る通り道で?しかも自分が通るタイミングで、突然?

考えれば考えるほど、不安は増していく。

 

「君、君、大丈夫かね?」

年配の太った駅員さんに声をかけられる。

自分は今、駅の真ん中でトランクの中身をぶちまけた、梟を飼っている変わった少女と思われているのだろう。

「あー、はい。えっと、トランクが言うことを聞かなくって。ごめんなさい」

「そうかい?次からはもっと時間に余裕を持って行動しなさい。はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

親切な人で助かった。

乗る電車がどれか分かるかい?と道を教えてくれようとしたが、「大丈夫です」と断る。

9と4分の3番線なんて言えば、今度は頭の心配をされるのが関の山だ。

 

しかし……どうしたものか。

現状、ホグワーツに行く方法は絶たれた。

完全に無いわけではないが……。そのどれもが、二年生のシェリーにとってはとても難しいものだ。

 

(アーサーおじさまの車に乗ってホグワーツへ行く?……車の運転の仕方、分からない。

そもそも、そんな事したらおじさまに迷惑がかかっちゃう。フレッドとジョージが運転していたから上手く行っていたのであって、私が運転したらどこかでドジ踏んじゃうかも)

フォート・アングリアに乗っていく方法はパスだ。リスクが高すぎる。

(何か、ホグワーツに連絡を取る方法は……?電話してみる?でも、ホグワーツの電話番号なんて知らないし……)

「ピピィーッ!」

「どうしたのヘドウィグ……あ」

 

ペットの白ふくろうは、若干拗ねたように鳴いている。

「ごめんごめん。そうだね、こういう時のためのふくろう便だよね」

簡単に羊皮紙に要点をまとめて、ホグワーツまでヘドウィグを飛ばす。彼女は最近の鬱憤を晴らすかのように清々しく飛んで行った。

それにもしかすると、『向こう側』……9と4分の3番線でも、アーサーやモリー達が戻れずに立ち往生しているのかもしれない。

なら、異変に気付いてくれれば、誰か魔法省の人が対処するはずだ。

 

「あの壁の異常が直るとして……、私はどうなるんだろう。誰か迎えに来てくれるとかかな?」

 

その迎えに来る人物は、果たしてどうやってやって来るのだろうか。しかし、姿現しするにしても、箒に乗って飛ぶにしても、はたまた煙突飛行するとしても。

キングズ・クロスに到着するまでには少し時間がかかるだろうと思い、駅前広場から少し離れた、人通りの少ないベンチで読書を始めることにした。人が多いところが苦手だったのだ。それがいけなかった。

授業の予習でもしようと教科書を広げ、ついつい熱中してしまい、気付けばもう日が暮れる頃。

浮ついた男が数人、シェリーに話しかけて来た。

 

「ねえねえ君、どこから来たの?」

「えっ?」

「めっちゃ可愛いじゃん、ね、今暇?俺らと遊ぼーよ」

「あ、あの……ごめんなさい、私人を待っているので……」

「大丈夫だって、すぐ終わるからさ」

 

こういう手合いは苦手だ。下卑た笑いを浮かべてはいるが、その動向は明らかに打算的なものだ。

キャリーバッグが手慣れた様子で男の一人に回収される。あの中にはマグルに見られないように杖も入っているのでシェリーは魔法を使うことができなくなる。まずい、杖が無くなるのはまずい。

それにここで連れていかれては、おそらくダーズリー家より、賢者の石の騒動の時より、もっと酷い目に遭ってしまうだろう事は、浮世離れしたシェリーにも推測がついた。

 

「かっ、返してください!その中には大切なものがたくさん……!」

「おっほー!マジで可愛いじゃん、あーでも額の傷がちょっとあれだなー」

「ほ、本当にダメなんです!困ります!」

「いーからいーから、騒ぐなって」

「や、やめてください!お願い、離してっ!」

「ったくしょうがねえな、早いとこ車連れ込め」

「いやっ!やめてっ!」

 

男の手を振り払おうとするが、12歳の華奢な少女にそんな力があるはずもなかった。

頭の中がパニックになる。これが気が強くしっかりしているハーマイオニーやパーバティならともかく、長いいじめを受けて来たシェリーだ。ここで周りに助けを求めるという選択肢は、彼女には無かった。

しかもこの男達は明らかに常習犯だ。裏路地においてはちょっと魔法を使えるだけのシェリーよりも、この男達の方が優位に立っていると言っていい。

(どうしよう、どうしよう、嫌だ、嫌だーー)

ずるずると強引に引っ張られても、彼女は何もしなかった。何もできなかったのだ。

しかし。救世主は現れるものだ。

 

「何をしているのだポッター」

 

脂ぎった髪の男が杖を一振り。すると、浮ついた男達は数メートルほど吹っ飛び、きりもみ回転しながらごみ山の中に頭から突っ込んだ。どう見てもやり過ぎである。

男達は困惑した声を出してもがいていたが、スネイプがもう一度杖を振ると途端に大人しくなった。

「スネイプ先生………」

「もう一度聞こうポッター。何をしていた?ホグワーツからわざわざ、我輩をマグルの駅のど真ん中まで出動させるような、やむを得ない事情をお聞かせ願いたいものですな?」

「………うぅ、」

「挙げ句の果てには?あわや誘拐されかけるなど、ホグワーツのお姫様は危機管理一つもできない…………!?」

「ご、ごめんなさい………ごめんなさい……」

「まままま待つのだポッター落ち着くのだポッターやめろその涙はやめろリリーと同じ顔でそれは罪悪感がががが」

 

涙を流すなど、シェリーにとってここ数年ほどあり得なかった出来事だ。

だが。一年生で初めて友達を知り、心がほだされたシェリーは、心細いやら情けないやらで涙が流れ出てしまったのであった。

彼女のストレス耐性は弱まりつつある。しかしそれは、彼女が『普通』に近付きつつある証拠でもあった。

さて。

幼い少女を泣かせている全身黒ずくめの中年男性というのは、魔法界においてもマグル界においても、あまりにも絵面が悪すぎる。スネイプは人が来ない内に、彼女を連れて姿くらましを発動。その場から逃げおおせたのだった。

ホグワーツの正面玄関で待ち構えていたのはマクゴナガルだった。

 

「………セブルス?私の生徒が泣いているようですが、しっかりと事情を説明してくれるのでしょうね?しっかりと」

「ぐすっ、マクゴナガル先生、ごめんなさい。わ、私。ひっく」

「勘弁してくれ……」

 

誤解が解けたマクゴナガルの説明によれば、組み分けはつつがなく行われて、ロンの妹のジニーはグリフィンドールに、ドラコの妹のコルダはスリザリンに入ったとのこと。

何というか、まあ、大方予想通りである。

レイブンクローにはカブのイヤリングをつけた不思議な少女が入ったらしい。

 

「それで、あなたのふくろうですが。手紙も何も持っていませんでしたよ」

「………えっ?」

「あなたの説明では、現在の状況を説明した紙を書いて持たせたらしいですね?しかし、私達の所に来たのは手持ち無沙汰のふくろうだけ。しかしそれで私達は貴女の異常を察知し、セブルスが迎えに行ったというわけです」

「……手紙が、なかった?」

心当たりは、ある。

夏休みの間中、シェリー宛の手紙をずっとちょろまかしていたドビー。おそらく彼が何か細工をしたのだろう。

そう考えるなら、あの壁に細工したのも、おそらくはドビーという事になる。(屋敷しもべ妖精一人の力でそんな事が出来るのかは分からないが……)

しかし。

そこまでして妨害したい理由とは、何だ?

ホグワーツに来させたくない理由とは、一体何なのだろう?

 

「何にせよ、今は魔法省が調べています。彼等の報告を待ちましょう……この手の厄介ごとに滅法強いチャリタリという闇払いが向かって……おっと、そうですね。シェリー、あなたはご飯もまだでしょう。談話室に行って夕飯を食べなさい。運ばせておきます」

「は、はい」

「さあ、この話は終わりです。というかあなたの親友二人が夕飯どころではなかったので早く行ってあげなさい」

 

数ヶ月ぶりの談話室へ行くと、ウィーズリー兄弟の熱い歓迎を受けた。ロンとハーマイオニーには大いに心配され、パーティのごちそうにありつきつつ、質問攻めに応対する。寝たのは真夜中になってからだ。

恐ろしく疲れた。

しかしまさか、翌日はもっと疲れる事になるとは思ってもみなかった。

薬草学でマンドレイクという、魔法的要因によって姿形が変わってしまった人を治す事の出来る、強力な回復薬の素となる植物の世話をして、さてその次の授業は闇の魔術に対する防衛術だ。

泥を念入りに落とすハーマイオニーと、それを怪訝な目で見るロンとやって来てみれば、始まったのは小テストという名のなにかだった。なんだこりゃ、ジョークか?

 

『ロックハートの好きな色はなに? 』

『ロックハートのひそかな大望はなに?』

『現時点までのロックハートの偉業の中で、あなたが一番偉大だと思うものはなにか?』

(……なんだい、こりゃ。こんなのやって意味があるのか?)

(……う、うーん…。授業を楽しいものにするための、面白いテスト……とか…?)

(ちょっと!テストなんだからふざけてないで真面目にやりなさいってば!)

(たぶんこの中で一番ふざけてるのは君だと思うね。あぁロックハートもか)

 

ふざけたテストが終わった後はロックハートのふざけた授業が始まる。教科書の内容を演劇調に表現し、その度に女子生徒は黄色い声援を上げる。

酷い。酷すぎる。

クィレルは単純につまらなかったが、今考えてみれば授業自体はまともだった。

しかしロックハートの授業は、なんというか頭がおかしい。彼がコメディアンならともかく、ここは教室で彼は教師なのだ。男子生徒や一部の女子生徒は辟易とした顔を隠そうともしない。

 

「さぁ、シェリー来なさい!壇上に上がって!ほら!君にはこの『雪男とのナウな休日』のヒロインの役を演じてほしいのです!」

「………えっ?わ、私が…?」

「んー、そうですね。ようし、ベガ!敵として出てくる、オツムの弱い毛むくじゃらの雪男役をお願いします!」

「ぶっ殺すぞ」

「おやおやおやァ〜?照れる必要などありませんよミスター・レストレンジッ!大丈夫、心配しなくてもハンサムな私が華麗にぶっ倒してあげますからねッ!」

「黙れ」

 

殺意全開のベガに若干びびったのか、ロックハートは結局、ベガの隣のネビルを指名した。

かくして、顔を真っ赤にして教科書を棒読みするシェリーと、心を虚無にして努めるネビルと、一人だけ異常にテンションの高いロックハートが演劇をしている図が出来上がった。

ロンは思った。

なんだこれ。

授業が終わると、ホグワーツきっての駄目教師だと悪態をつく者と、ロックハートを信奉する者とに分かれた。

 

「なんだあの不快な存在の集合体みてえな野郎は!人間の駄目な所を全て片っ端から集めたような野郎だッ、クソが!」

「ああ、今日ばかりは同感だね、ベガ」

「ちょっと!先生になんて言い草なの!」

「目を覚ませよハーマイオニー。僕ら一体何を学んだってんだ?あいつの趣味に付き合わされただけだろう?」

「そんなことないわ!身体を張って分かりやすく教えてくれたじゃないの!」

「……おいロン、こいつまさか」

「そのまさかだよ、ハーマイオニーったらロックハートにお熱なんだ」

「……人間誰しも欠点があるもんだな」

 

「大丈夫かい、シェリー?注目されるの苦手だろう?」

「うん、ありがとうネビル。ネビルこそ平気?」

「僕はほら、スネイプの授業でよく失敗して目立っちゃうからさ。あ、そういえば次魔法薬学だ。お腹痛いなぁ」

授業がまったく生産性がない事に加え、ロックハートは気安くシェリーの前髪やら肩やらをベタベタ触っていて、男子生徒からの評価は厳しいものになっていた。

 

色々な事が起こった怒涛の一週間だった。

今日は二年生で初めての週末。シェリーは、今夜は久しぶりにゆっくり寝れる……と思っていたのだが、今年こそ優勝するぞ!と息巻いているウッドに連れられて、寝ぼけ眼でクィディッチのユニフォームをトランクの中から探していた。

そう、今年もクィディッチの季節がやってきたのだ。

「にゃにごとなの?」

「クィディッチだ!クィディッチの時間だぞーッ、全員集合!」

 

仕方がないので、シェリーはようやく見つけたユニフォームを引っ張り出して談話室へと向かう。そこには小柄なカメラを持った少年の姿が。彼はコリン・クリービー、事あるごとに写真やサインをねだる困った一年生だ。

 

「シェリー・ポッター!おはようございます!わあ、もしかして今から噂のクィディッチの練習をするの!?ユニフォームかっこいい!ね、ね、写真撮らせて!」

「あ、うん、いいよ。私なんかの写真でよければ」

「おいおい、コリン!シェリーをあんま困らせるなよ」

ウッドの騒ぎで起きてしまったらしい、ロンとハーマイオニーが呆れ顔で降りてきた。

シェリーは気付いていないようだが、どうやらコリンは二年生の時間割を把握しているらしく、休憩時間になると毎回と言っていいほど擦り寄ってくる。毎日何度もそんな事があるようでは、流石に親友としては看過できないのだ。

 

「シェリー・ポッター!他にも写真欲しいって人がいるんだ!あげてもいいかな!?たとえばこの、談話室のソファでうたた寝してるシェリーとか、階段で魅惑のふとももを晒してるシェリーとか……」

「はーい取材と写真撮影は私かロン通してくださーい」

「ちょっと君、空き教室に来てもらおうかー。ダイジョブダイジョブ、すぐ終わるから。すぐ」

「?」

ロンが凶悪な笑みを浮かべてコリンを連れて行った。その後、ストーカーまがいの行動を起こしてしまったコリンがどうなるのかは、誰も知らない。

 

「シェリー、貴女プライベートな写真も撮られたのよ!?もっと怒っていいわ!」

「え?いや、でも、怒る事のほどじゃ」

「ダメよ!あなた、危険意識が無さすぎるんだわ!ほら、私をコリンだと思って怒ってみなさい!」

「えーと……こ、こらぁー」

「……怒ったって可愛いだけよ!!!」

 

困惑しつつもピッチへと向かうと、既に他のメンバーは勢揃いしていた。皆同様にウッドに叩き起こされたらしい、ウッド以外の全員が寝ぼけている。

「こんな朝っぱらからやるのかよ」

「冗談じゃないぜウッド」

「俺はいつでも大真面目だ!」

「ええ、もう、ふざけてるわ。だって見てよ、夜が明けたばかりじゃない…」

「その通り!つまりどのチームも練習していない今がチャンスだという事だ!」

「わーいやったねー、ってなるかバカ!」

 

去年は賢者の石騒動でシェリーが欠場し、グリフィンドールは対抗杯を逃している。だからこそウッドは去年以上のやる気を出しているのだ。彼のクィディッチへの熱意に負けたのか、マダム・フーチは彼にピッチの使用許可を出したらしい。

ウッドの新戦略を舟を漕ぎながら聞き、さあ今から練習だ!というところで邪魔が入る。ピッチに現れる翠のローブ。スリザリンの連中がやって来たのだ。

見れば、うたた寝をしているドラコ・マルフォイを引っ張っているのは、妹のコルダだ。早朝からの練習をする兄を案じて、彼女も早起きしてやって来ていたのだ。

 

「なんだ!ここは俺達が先に予約したんだぞ!」

「残念だったなあウッド、そうは問屋が卸さないんだぜ!ここは俺達が使わせてもらうぜ!」

「ほら、お兄様、起きてください。涎も拭いて。憎っくきグリフィンドールの前ですよ!」

「………ハッ。す、すまないコルダ。寝ぼけていたみたいだ……、ごフォン、いや、ごフォイ。ハーハハー!残念だったなポッター、ここは僕達が使わせてもらうぞ!」

「ドラコそれさっき俺が言った」

「ああ、寝起きでもカッコよく決めるお兄様素敵……!」

「聞いてる?」

 

 

もはや完全に恋する乙女のコルダに、他のスリザリン生は半ば呆れたような視線を向ける。その端正な容姿から最初は狙おうと思っていた男子もいたのだが、取りつく島もない。コルダはいかんせんブラコンが過ぎるのだ。

しかし、先に予約したのはこちらのはず。そう言いたげなウッドの眼前に、フリントは自慢げに羊皮紙を取り出した。

 

「ほーれ見てみろ。『スリザリンは練習の必要があると判断し、ひいてはクィディッチ・ピッチの使用を許可する』」

「はぁん!?誰だそんなの書いたやつ!スネイプか!どーせスネイプだろあのベタベタ髪の陰険根暗のヘニャチン野郎!」

「へ、ヘニャチン関係ないだろ!」

「お前の事じゃねえよ!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を見かねて、仲裁に入ったのはハーマイオニーだ。

 

「フリント!その許可証はいつ取ったものなの?ウッドは今学期始まって早々にフーチに許可を取りにいったそうよ。ピッチの予約は早い者勝ちだって事、貴方もキャプテンなら知っているでしょう!」

「うっ、う、うるさいな!お前の意見なんざ聞いちゃいないんだ!すっこんでろ、この……『穢れた血』め!!」

「………?なに?穢れた……?」

「きさま、よくもそんな事を!!」

「フリント、テメエこの野郎!!!」

「言っていい事と悪い事の区別もつかねえのか、あぁ!?」

「キャプテン失格だ、お前なんか!」

「クィディッチ、いや、スポーツ選手の風上にも置けないよ!!」

「み、皆んな!?」

 

意味が分からずにきょとんとしているシェリーとハーマイオニーを除いたグリフィンドールの面々は、途端に怒り出す。ウッドが止めなければ、今にもフリントに掴みかかって殴り倒さんとする勢いだ。

しかしそれ以上に激怒しているのは、誰あろう、ロンだ。髪と同じくらい顔を赤くさせて、怒気で杖を持つ手を震わせている。

「お、落ち着け!お前達!気持ちは分かるが、揉め事を起こしちゃ駄目だ!それこそクィディッチ・プレイヤーにあるまじきーーー」

「クィディッチ選手じゃなきゃいいんだろ、ウッド。おい、フリント!よくも言ってくれたな!」

「な、なんだよ、やるってのか!?一年坊主が!そもそもあいつの血が穢れているのは事実でーー」

「きさま!!ナメクジ喰らえっ!!!!」

「うおおおおおおっ!!!???」

 

ロンは怒りにまかせて呪いを放った。

しかしロンが放った呪文は、二年生で使うにしては非常に高度なものだ。フリントに向けて撃ったそれは、明後日の方へと飛んでいく。呪文が向かっていった先はーーードラコ・マルフォイだ。

 

「えっ?フォーーイッッ!!!??」

「お、お兄様あああああああ!?!?」

彼の腹部に魔力が当たると同時、彼はもともと青白い顔をさらに青くさせる。

そして気持ち悪そうにお腹を抑えると、ドラコは地面に向かってナメクジを吐いた。

哀れなるかな、ドラコ・マルフォイ。

今回ばかりは、完全にとばっちりである。

スリザリンは怒り狂い、一斉に杖を抜く。しかしすぐにその気配を感じ取ると、おそるおそるその気配を放つ人物を見る。

誰よりも怒り狂っているコルダの放つ、殺気を感じたのだ。

 

「ロナルド・ウィーズリィイイ………!きさま、よくも、よくもお兄様をナメクジ塗れにしてくれましたねぇ……!」

「な、なんだよ。いやまあ、狙いが外れてそっちに行ったのは悪かったけどさ……」

「言い訳無用!『グレイシアス』!」

コルダが放った魔力は、超低温の氷となって地面を伝う。クィディッチ・ピッチの青々とした芝生が、コルダの魔力が通ったところから、見る見るうちに凍っていく。

ロンは焦ってその場から飛び退くが、しかしコルダの攻撃の手は緩まない。

 

「『グレイシアス・フリペンド』!氷撃せよ!」

「うおおっ!?な、なんだそりゃ!?」

コルダが使用したのは、宙空に氷を出現させて、弾丸のように敵を撃ち抜く呪文。つらら落としをそのまま呪文に転化した、恐ろしく攻撃的な魔法。

ロンめがけて飛来してくる氷は、言うなれば無数のブラッジャーが飛んでくる事と同義である。追尾性能はないが、それでも脅威には変わりない。

ロンは氷から離れようと逃げ回るが、彼がやたらめったらに走り回る事により、もはやグリフィンドールもスリザリンも関係なく氷の弾丸から逃げなくてはならなくなってしまった。

 

「うわああああ!?コルダ!こっち来てるこっち来てる!俺達は味方だって!」

「待ちなさいウィーズリー!」

「駄目だこのブラコン聞いてねえ!」

「ああ、ピッチが氷で滅茶苦茶に……」

「『インセンディオ』!何事だ!」

無数の氷の弾丸を一瞬のうちに炎で焼き払ったのは、セブルス・スネイプだ。未だにナメクジをゲーゲー吐いているドラコと、怒り冷めやらぬ様子のコルダを見て、大体の事情を察したらしい。彼は浅くため息をついた。

 

「コルダ・マルフォイ。兄想いなのは結構だが、見境なく周囲に当たり散らすのは感心しませんな?」

そう言われてようやくコルダは自分の行為に気がついたらしい。周囲のぐちゃぐちゃの芝生を見て、はっと息を呑んだ。

「あっ……そ、その。ごめんなさい。クィディッチ・チームの皆さんも……」

「あ、ああ。大丈夫だぜ」

「心配すんなって。俺たちゃヤワな鍛え方はしてねえよ」

「むしろご褒美です」

「フリント、お前はそれでいいのか」

「あー、そ、その……。ウィーズリーも、えーっと……あー」

「ともかく!状況から見るに、先に手を出したのはグリフィンドール寮の方だな?誰がやった?」

「……僕です、僕がやりました『先生』」

「罰則を課す。日時は……そうだな、十月三十一日だ。おや?その日は偶然にもハロウィーンですな?つまり君は一年に一度の楽しみをこれで失ったわけだ」

「そんな!」

「黙れポッターこっちを見るな!我輩はドラコを医務室に連れていく!」

シェリーを泣かした罪悪感は未だ消えていないスネイプは、そそくさと退散した。

 

「……でも、ロンはどうしてなんでそんなに怒ったの?」

「穢れた血ってのは、両親がどっちともマグルの魔法使いの人のことを言う、魔法界での最低最悪で低俗な貶し方なんだ。…ああ、言った方が低俗って事だからね?先祖代々魔法使いの純血の家系が偉い、そう思ってる連中がいるのさ」

「……そういえば、私、去年もそんな風に言われたような。出来損ないだって」

「バカバカしい考えさ。でも、そういう思想を持つ人間は少なからずいるんだ。純血の中でも聖28族って言って、『純血であることは間違いない』って保証されてる奴等は特にね。フリントやマルフォイもその家系さ」

 

ちなみにウィーズリー家やベガのような、純血でありながらマグル生まれや混血の魔法使いと仲良くする人間を『血を裏切る者』と言うらしい。

シェリーやハーマイオニーは少なからずショックを受けた。魔法界の差別思想は根強く、闇が深い。

 

「……生まれや育ちで、人を馬鹿にするなんて、なんか……嫌だな。ハーマイオニーにできなかった魔法なんて、一つもなかったのに」

「シェリー……」

「それにハーマイオニーは次席だもん!私達よりずーっとお勉強もできるし……」

「あー、次席って言うのはやめてくれるかしら?ちょっと屈辱っていうか……」

「それにすっごく可愛いし!」

「ああ、そうだよな、ハーマイオニーはすっごく可愛い!……………!?!?」

「えっ………?」

 

ーー自分はなにを言っているんだ!?

シェリーに乗せられてつい口走ってしまったロンは、慌てて振り返る。そこにはきょとんとしたシェリーと、顔を赤らめたハーマイオニーの姿が。

「え、その、わ、私」

「い、いや、僕はその……」

「?どうしたの、二人とも?」

「………は、はは……」

「「HAHAHAHAHA!!!」」

「?」

 

来たるハロウィーン当日。

シェリーとハーマイオニーは、ほとんど首無しニックこと、ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿の誘いで『絶命日パーティー』なるものに参加していた。

死んだ日を祝うのが彼らにとっての名誉だそうで、特に今年は五百年記念なのだという。断るのも失礼だと思った二人は参加したのだが……思った以上に、きつい。

ゴースト用の料理は腐っているのだ。なんだか異臭が漂っているし、おおよそ食べ物にあるまじき色をしている。

シェリーは腐りかけの食べ物も食べられない訳ではないのだが、ハーマイオニーに怒られたのでやめておいた。

 

「お腹空いたわね……早く大広間に行ってご飯を食べましょう。……そういえば、ハロウィーンの飾り付けは、いつもと違って豪華なんですってね?」

「そっか、ハーマイオニーは去年は来てなかったね。そうだよ、ハグリッドがくり抜いたカボチャがそこら中に浮かんでて、すっごく幻想的で綺麗だったなぁ」

「素敵ね!早く見てみたいわ」

「………あ、そういえば、今年はロックハート先生も飾り付けに参加するって聞いたような?ハロウィーン特別コンサートを開くとかなんとか……」

「!!!ど、どうしましょうシェリー!私、コンサート用のうちわとTシャツを持ってこなきゃ!」

「あー、うん、皆んな制服だろうし、大丈夫だと思うよ」

ぱたぱたと廊下を走るハーマイオニーを追いかける。そこでふと、壁から何か物音が聞こえた気がして、振り返る。

いや、聞こえた気がした、ではない。

何かが……近くで、何かを言っている。

ブツブツと何かを口走っている!

 

『ーー殺すーーーー殺してやるーーーー私が引き裂いてやるーーー!』

「えっ……!?」

「ああ、サイリウムも欲しいわね、いや杖を光らせれば十分……シェリー?」

『ーーー然るべき復讐のためにーーー魂の尊厳のためにーーーー必ず八つ裂きにしてやるーーー』

「……この、声!殺すとか、八つ裂きにするって、誰かが言ってる……!誰?誰がいるの!?」

「?シェリー、何を言っているの?」

「え?ほら、さっきから誰かが、殺す、殺してやる、って………」

しかし、依然としてハーマイオニーは困惑した姿勢を崩さない。

 

「……えーと、シェリー。あなたが嘘をつくような人間じゃないと知ってるけれど、ごめんなさい、私には特に、何も……」

「え?……ハーマイオニーには、聞こえてない……?」

『ーー殺してやるーーー私がーーー私の主君のためにーー』

「!し、下に!声が大広間の方に向かっていってる!」

「それって……、行きましょう!」

 

切羽詰まったシェリーの言い分を信じたのか、それとも嫌な予感がしたのか。ハーマイオニーは大広間に向かって走り出す。

廊下を走って、階段を降りた先には、円を描くようにして大勢の人だかりが出来ていた。パーティーが終わり、生徒達が大広間から出たのだろう。

しかし、談話室に帰るわけでもなく、全員がその円の中心を見てヒソヒソ話している。何だ?何が起こったというのだ?シェリーは人垣をすり抜けて、その中心を見ようとして……

 

「あっ!そ、そんな!?ミセス・ノリスが……!う、嘘だよね!?」

 

シェリーは悲痛な声を上げた。広場の中心には、黄色く鋭い眼をこれでもかとひん剥き、四肢をぴんと伸ばした、剥製のように固まって倒れ込んでいる猫の姿があった。

ミセス・ノリス。

フィルチの飼い猫で、学園きっての嫌われ者だ。生徒達の不正や規則破りを常に監視し、管理人のフィルチに伝える。去年もこの猫の眼から逃れつつ夜のホグワーツを出歩くことに、どれだけ苦労した事だろう。

 

だが、シェリーとミセス・ノリスはそれほど険悪な仲ではなかった。シェリーは以前、友達と過ごしたり、大勢でいる環境に慣れず、一人で行動していた時期がある。その時に偶然にも、生徒の悪戯で尻尾が絡まっていたミセス・ノリスを助けた事があり、それ以来シェリーは彼女と奇妙な友人関係を築くに至ったのだ。

去年、賢者の石を守るために四階の廊下へと行った際も、ミセス・ノリスはシェリー達を確認していながらも見逃した。この関係が無ければ、シェリー達は透明マントも無しに廊下へと辿り着く事も出来なかっただろう。

 

ともあれ、ミセス・ノリスの死を悲しんでくれる生徒がいた事にフィルチは感動し、シェリーと泣きながら抱き合った。ロックハートに至っては「いやァ、実に感動的ですねえ!さーて、ミセス・何ちゃらに捧げるレクイエムでも歌いますかねッ!」とマイクを取り出す始末だ。

 

「死んでおらん」

「「「え?」」」

「この猫は死んでおらんよ、アーガス。まだ魔力がある。石になっているだけじゃ。………問題は、誰が、どうやって、何のために石にしたか、じゃが」

いつの間にかやって来ていたダンブルドアが、きらきらとしたブルーの瞳に真剣なものを浮かべた。

その視線の先には、べっとりとした赤黒いインクで壁に書かれた文字。

血文字だ。

「……何のためにこれをやったかは、否応無しに分かりますよ。……五十年前の悲劇が、また繰り返されるというのですか」

 

『秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ』

 

「……先生方を集めるのじゃ。長年溜め込んでいたツケを、払わなければならぬ時が来たのじゃ」

「秘密の部屋……って、確か、ドビーが言っていた……?」

この日。

過去からの脅威は、狼煙を上げて。静かに闇の中から現れ出たのだ。

未知なる化け物は牙を剥く。

継承者とは、誰か。

秘密の部屋とは、何か。

ーーー次の犠牲者は、誰なのか。




おまけ1
コルダ「お兄様のナメクジ……すごく……大きい……」
ドラコ「おろろろろろろろ!!」
スリザリン「やめてやれコルダ」

おまけ2
ホグワーツ強さランク
S、ベガ(めっちゃ強い)
A、コルダ(かなり強い)、シェリー(割と強い)
B、ハーマイオニー(まあ強い)
C、ロン、ドラコ(普通)
D、ネビル(普通よりちょっと下)

普通の生徒はC〜Dくらいの強さが普通です。
コルダは実は氷魔法に大きなデメリットがあるのですが、その詳細は後ほど。
因みにAとSの間には巨大な壁が存在します。

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