1.謙遜
夏休みも後半に差し掛かった頃。
今までまともな家庭環境にいなかったシェリーは、ホグワーツで十分な栄養と睡眠を取った事で見違えるくらい綺麗になった。
ボサボサだった赤い髪はきちんと櫛が通されており、顔についていた汚れは洗い流される。地味で小汚かった少女は、なんという事でしょう、たった一年で清楚な美少女に変貌したではないか。
その美貌を見て、バーノン・ダーズリーは何を思ったか、メイソン夫妻との取引の接待にシェリーの見た目を利用する事を決定した。
赤髪の美少女は、可愛らしい給仕係へとクラスチェンジしたのだ。
シェリーの髪のセットは、額に刻まれた稲妻型の傷を隠す所から始まる。しかしそれでは髪型に制限がかかってしまうので、ペチュニアはファンデーションやチークをフル活用して傷を目立たないものにする。
そして頰にも薄く化粧を施し、髪には白い羽のヘアピンだ。(ペチュニアに髪飾りを探している時に好きなのを選びなさい、と言われて選んだものである)
服にもこだわり、柄物のワンピースの上からカーディガンを羽織っている。ペチュニアは彼女の魅力を余す事なく引き出したと言っていいだろう。彼女をからかおうと思っていたダドリーが赤面しているのを見ても、それは明らかだ。
「これでよし、と。くれぐれもメイソン夫妻様の前で変な真似するんじゃないよ」
「は、はい」
「小娘!早くしろ!あとたった二時間半でお二人が到着なさるのだぞ!」
バーノンはシェリーを見ても眉一つ動かさずにそう言い放った。彼曰く、大手の穴あけドリル株式会社とのパイプを作るための大事な商談なのだという。
今彼は人生の中でもそうはないチャンスにピリピリしており、彼のビジネスマンとしての血が騒ぎに騒ぎまくっているのだ。
「うちの家内が作った食事は如何ですかな、メイソンさん!」
「や、や!実に素晴らしいです!これなんぞ特に!ははは、これが毎日食べられるとはバーノンさんは幸せ者ですな!」
(……あ、それ私が作ったやつだ。喜んでくれて嬉しいなぁ)
シェリー作のポークチョップは好評だったようだ。もしペチュニアに聞かれたら嫌味の一つも言われるのだろうが、彼女は今メイソン婦人とお話中だ。
「おっと、グラスがもう空だ。ワインのおかわりは如何ですかな?とっておきのがありましてね……」
「おお、是非いただきますとも!はは、どうもお嬢さん!いやあ、見目麗しい娘さんですなぁ、しかし子供は息子さんひとりだとお伺いしたような…?」
「あー、遠い親戚の姪を預かっておりましてな。親戚とは、そう、良い関係でして」
「あ、ははー…」
上々の滑り出しだ。バーノンが暖めておいた小粋なジョークが不発だった事を除けば、今のところ商談は上手く行っているのではないだろうか。
冷蔵庫の中の料理をテーブルに粗方置いてしまうと、バーノンは手持ち無沙汰な彼女をもう用済みと判断したらしい。
階段の方を指差して、
「おい小娘、もういい。二階に上がってろ」
「はい、分かりました」
シェリーはその指示に従い、二年生になるにあたって自身に与えられた部屋(ダドリーが物置部屋に使っていた小部屋だ)の中に入ると、スカートなのも気にせずにベッドの中に倒れこんだ。
疲れた。
こういう大事な商談の時は、あまり他人の目を気にし過ぎるとかえって不快な思いをさせる場合がある。堂々と、しかし細やかな気配りが必要なのだ。
いつもおどおどしている彼女にとって、それがどれだけ難しいことか。思っていた以上に精神的疲労は溜まっていたらしい、このまま目を閉じれば、すぐに眠りの世界に旅立てるであろう。
……だが。
「……お仕事したいな。仕事に夢中の間は、嫌なこと忘れられるし」
今日に限っては、目を閉じる気にはなれなかった。
シェリーは机に手を伸ばすと、引き出しの中から手紙を取り出す。夏休みに入ってから届いた、ロンとハーマイオニーの手紙だ。
シェリーは夏休みに入ってすぐに手紙を書いては送りを繰り返した。だが、彼等からの返事は来ず、もしや初めての友達ということで浮かれて距離感を間違えたかとか、不快な内容を書いてしまっただろうか、とか不安に駆られていた。
だが最近、ようやく彼等から手紙がやって来た。嬉しさのあまり小躍りしつつ自室の中でその手紙を開けると、その内容は衝撃的なものだった。
手紙には、乱雑な赤文字で、「くたばれ」「死んでしまえ」「目立ちたがりの色情魔」「不快さをドブで煮詰めたあばずれ女」……そういった思いつく限りの罵詈雑言が書き殴られていたのだ。
裏を見ても、宛先を確認しても、他に紙が入っているのではないかと探しても、結果は同じ。間違いなく、彼等がシェリー・ポッターに送った手紙だった。
「ロン、ハーマイオニー……。嘘、だよね……?」
ぽろぽろと涙が溢れる。
そんな彼女を見かねてから、ヘドウィグは優しくホー、と鳴いた。
あれ以来、二人には手紙を送っていない。送る勇気がない。というか、これだけ言われた後に何を書けばいいのだろう。
シェリーは最近、ペチュニアから貰った余り物をほぼ全てヘドウィグにあげていた。
夏休み始めは仲良く分け合っていたのだが、手紙が届いた日から、日に日にシェリーは自分の割合を減らしてヘドウィグの割合を多くしている。
ヘドウィグも最初はそれを拒否し、シェリーに何とかご飯を渡そうと籠の中で暴れたが、彼女が頑なに受け取らないので最近は諦め気味だ。
つまるところ、シェリーは食欲が無いのである。彼女はベッドの上でごろごろしながら考える。
このままご飯を食べずに、魔法界の物を全て捨てて、部屋を床下にしてもらえば、去年に逆戻りだ。そうしたらまたホグワーツからの手紙がやって来て、ハグリッド達が迎えに来てくれて、あの楽しい一年をやり直せる。そしてまた今年になったら同じ事を繰り返せば良いんじゃないかーー
ーーそこまで考えて、突如としてシェリーはクローゼットの方へ杖を向けた。彼女は護身用に杖をいつでも携帯しているのだ。
感じる気配。この部屋にはヘドウィグと自分しかいない筈なのに、今一瞬、何もないところの空気が揺らいだような気がした。ヘドウィグの目は既に鋭い。
シェリーは戸惑いつつも、いつでも呪文を唱えられるよう魔力を練りつつ、問う。
「誰か、いるの?」
「うわひゃあ!お、お待ちをッ、シェリー・ポッター!」
「きゃあ!?」
慌てたようにクローゼットから飛び出したのは、明らかに魔法界の生物だ。
背は低く、蝙蝠のように尖った耳、大きな目に大きく避けた口。そして身に纏っているのは服ではなく、みずぼらしい枕カバー。それは以前教科書で読んだものと一致する。
『屋敷しもべ妖精』。
魔法族の由緒ある名家や城に憑いて、特定の魔法使いに仕え、身の回りの世話や家事や雑用をこなす。
主人である魔法使いに生涯無償無給で隷従する事こそ彼等にとっての最大の名誉。それ故に彼等はどんな過酷な環境下にあっても絶対的な忠誠を誓うのだ。
直に見るのは初めてだが、なかなか愛嬌があって、目もくりくりしていて、けっこう可愛い!とシェリーは思った。彼女の可愛いの基準はどこかおかしい。
しかし……あくまで彼等は魔法使いに使える妖精だ。いくらダーズリー家がお金持ちとはいえ、彼等がマグルである以上、この家に憑くなどあり得ない。まさかバーノン氏が屋敷しもべ妖精向けの求人広告を出しているわけでもあるまいに。
「わッ、私は、あなた様に警告をしに参ったのでございます!」
「け、警告……???」
「シェリー・ポッター、あなたはホグワーツに戻ってはなりません!あそこは、ホグワーツは危険なのです!」
「危険……??確かにホグワーツには危険なものは沢山あるけど、いざとなれば先生方が守ってくれるし。それ以上に、あそこは楽しいところだよ」
「いいえ、それは去年までの話です!今年のホグワーツは危ないのです!」
要領を得ない。
目的は分かったが理由が分からない。どこの馬の骨かも分からぬ人物(妖精物?)に、いきなり危険だのなんだの言われても実感が湧かぬというものだ。
「と、とりあえず、お水飲んで?落ち着いてお話してくれたらいいから」
「おお……!私のような者にも分け隔てなく接する優しさ……!あなたはまさに……」
「わ、私はそんなんじゃないよ。えーっと、それで。あなたのお名前は?」
「ドビー、と申します」
「それじゃあドビー、危険って何のこと?ヴォル……例のあの人がまた復活するとか?」
「いいえ、今回は名前を言ってはいけないあの人の事ではなく、秘密の部屋の……」
「………秘密の部屋?」
ドビーはハッとしたような顔をした。言ってはいけない事だったらしい。
近くの電気スタンドを掴むと、容赦なく頭にガンガンと殴りつけた。シェリーはぽかんとしていたが、すぐに「何やってるの!?」と彼を引き剥がしにかかる。
「ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!」
「駄目!ドビー、落ち着いて!たんこぶができちゃうよ!?」
「ドビーがお仕えになさっている家ではいつも叩かれました故、たんこぶを作るなど慣れっこでございます!」
「そ、そうなの?」
「屋敷しもべは、そういう扱いをされるのが当たり前なんでございます。ですがどんなご主人様でも、殺しまではしません。
……かの、例のあの人を除いては」
例のあの人。
ヴォルデモート卿。
数ヶ月前に、クィレルと、クィレルに取り憑いていたヴォルデモート卿と戦ったのは記憶に新しい。
「あの人は屋敷しもべを道具とすら思っていない。好きな時に自由に殺せる肉袋としか認識していないのでございます。あの時代はとても恐ろしい……しかし闇は払われました。シェリー・ポッター、あなた様のおかげで!」
「ど、どういたしまして?でもあれは私のお母さんが……」
「しかし今、あなた様に再び危機が迫っているのです。魔法界の英雄を死なせるわけにはいかない、故にドビーは参上したのです」
「……そっか。ありがとう、ドビー」
「そのためにホグワーツに行きたくなくなるよう、手紙を細工しましたし……」
「…………えっ」
手紙に細工、とは、まさか。
愕然としつつ、恐る恐るドビーに問う。
「ま、まさか。夏休みの初め、手紙が来なかったのって…」
「………あっ」
「肯定と受け取るよ。……じゃああの、いっぱい酷い事が書かれた手紙も……」
「す、すみませんシェリー・ポッター!あれはドビーめが書いたものでして!」
わなわなと口が震える。ヘドウィグとドビーがその様子をはらはらとした様子で見守る。
やがて。
シェリーは口の中の空気を吐き出した。
「……そっか。よかったぁ、ロンとハーマイオニーじゃなくってぇ……」
怒りはなく、そこにあるのはただただ安堵のみ。しかし自分を許せないのか、ドビーは自分を叩けるものを探した。
「ドビーは、ドビーは自分を罰さないと!」
「だ、駄目だよ?……それにしても、すごい手の込みようだったけど」
「ドビーは旦那様から普段から嫌がらせを受けているので、こういうの考えるの得意中の得意なんでございます」
「そ、そっか。すごいね。だけどあんまりやりすぎちゃ駄目だよ」
項垂れるドビーに釘を刺しておく。
さて。ドビーの献身は分かったが、ホグワーツに帰れないのは嫌だ。親友二人に会えないのはとても辛い。
その旨を伝えると、屋敷しもべ妖精は「ドビーは諦めません!」と言い残すと指を鳴らして去って行った。
嵐が過ぎ去った、かと思いきやノックもなしにバーノンが部屋へと乗り込んできて、
「さっきから何騒いどる!まーた蛇と話してたのか!?来い!お喋りするくらい暇なら仕事をくれてやる!」とシェリーを連行した。
与えられた任務は、「ペチュニアおばさん特製の特大ホイップクリームと砂糖のスミレ漬け」をテーブルまで運べ、というもの。
普段からダーズリー家の手伝いをしている事もあり、彼女の配膳スキルはかなり高い。万が一にも途中で溢す事はないだろう。
しかし。
シェリーが料理を手に持って、リビングへと向かう途中。ふと視線を感じて後ろを振り返ってみれば、そこには先程帰った筈のドビーの姿が。
「ど、どうしたの、ドビー?忘れ物?」
「忘れ物……ええ、そうです。ドビーはシェリー・ポッターに約束されなければなりません。シェリー・ポッターは、ドビーに約束しなくてはなりません!ホグワーツに行かない、と!」
「でも、それは……っ」
やりたくない。
一年前のシェリーであれば、ドビーの話を受け入れていたかもしれない。しかし友情を知り、愛情を知った彼女は、ドビーの願いを聞き入れられずにいた。
「……聞き入れてくださらないのならば、仕方ありません。ドビーは悪い子。事が済んだら、後でドビーはタンスの角に足の指をぶつけなければなりません」
「な、え、ドビー、何するの!?」
「シェリー・ポッターがお約束いただけないのであれば…ドビーは、こうするしかないのでございます!」
「きゃっ……!?」
ドビーが指を鳴らす。その瞬間、手に持っているはずの皿が勝手に動き、リビングの方へと向かっていく。
まずい。このままでは、料理がメイソンさんの頭部に後ろから直撃してしまう。シェリーはどうにかこうにか踏ん張ろうと、脚に力を入れる。
しかし。彼女自身がツヤッツヤに磨いたフローリングが仇となり、彼女はずっこけた。
メイソンさんはホイップさんになった。
顔を上げれば、ダーズリー夫妻は顔を赤くさせたり青くさせたりを繰り返している。メイソン夫妻は何が起きたのか分からない様子だ。ダドリーはお菓子食べてる。
キッチンの方を振り返ると、ドビーはもういなかった。
真犯人がいない今、彼等から見たらこの構図は、料理を運んでいたシェリーがこけてメイソンさんの頭にケーキをぶっつけた、という風に見えているのだろう。
メイソンさんは頭にこびりついたクリームを手に取った。
「これ、は……」
「あ、あ、小娘、なにをーーあぁ、あ、その子は、そう!情緒不安定でしてな、えぇ」
「…………」
「す、すぐに拭きましょうとも!えーと、ハハハ、ハ!ス、スミレが似合いますな?」
「お嬢さん」
メイソンさんはくるりと振り返った。
クリームやスミレまみれでその表情は伺い知る事ができない。
シェリーはその身体をびくりと震わせる。だが、彼女は泣きそうになりながらも言葉を探して、自分を律した。
謝らなければ、と。
「ありがとう」
「ごめんなさい!………えっ?」
「んっ?」
「は?」
「私は若い頃、苦学生でしてな。勉強の合間を縫ってアルバイトをいくつも掛け持っていた。……だが、疲れが溜まっていたある日、お客に届ける筈の料理を目の前で零してしまったんだ。……流石にその時は、頭が真っ白になったよ」
「メ、メイソンさん?」
「だがそのお客さんは、にこりと笑うと、割れた皿を拾い始めた。そしてこう言ったんだ。『失敗は誰にでもある。それがたまたま今日だっただけだ』……とね。私はその言葉に救われた。それにその言葉が無ければ、失敗を恐れずに会社を立ち上げようと挑戦する事はなかっただろう」
「……あー、えっと?」
「お嬢さん、貴方のお陰でかつて忘れていた言葉を思い出したよ。ありがとう。……最近は利益ばかりで、あの頃の気持ちをどこかにやってしまっていたようだ。……だが、ダーズリーさん。商談の話、受けさせてほしい。利益だけではなく、胸を張って取り組める仕事を、人の役に立つ仕事をするために!」
「あなた、一生ついていくわ!」
かくして商談は纏まった。
自分の原点を思い出したメイソンは、これからも人のための仕事を続けていく事だろう。
彼の内に秘めた情熱は、決して消える事はない。何故なら、そこには未来への希望が、いつまでも輝いているのだからーーー
ーーーという感じでメイソン夫妻は爽やかに去って行ったのだが、バーノンは怒った。一歩間違えれば商談は御破算だったのだから、無理もないだろう。
シェリーは閉じ込められた。窓には鉄格子、扉には何重もの鉄製の鍵。脱出は困難だ。しかし、姪が部屋から出られないように工事を行っている時、近所の人からどう思われるか考えなかったのだろうか。何が彼をここまで駆り立てるのだろう。
バーノンが杖を持って魔法を勉強したシェリーに対し、大胆な行動を取ったのには理由がある。
『貴殿の住居において浮遊呪文の使用を確認。卒業前の魔法使いは学外において魔法の行使は禁止されているーー今回は軽度のため警告に留めることにーー』
といった内容の手紙が、魔法省の魔法不正使用取締り局、マフォルダ・ホップカークから届いたのだ。魔法を使えるというアドバンテージはもうない。それを知ったバーノンは大掛かりな工事を敢行したという訳だ。
扉の下の差入口からご飯が来るのだが、それもかなり少ない。ヘドウィグと分け合っているので当然だ。ここに入れられておよそ三日経つが、既に限界は近づいていた。
それに何より。
ホグワーツに行けないかもしれないーーそういう考えが、彼女を徐々に追い詰めていた。
シェリーはぽつりと呟いた。
「ヘドウィグ………私達、ホグワーツに行けない、のかな」
「いいやそんな事ない行けるさシェリぐぅあっはあああああああああ!!!!!」
「!!!???」
鉄格子ごと窓を突き破って飛来したのは、男の子の中では一番の親友、ロナルド・ウィーズリーだ。
………何故!?
「ごふっ、やあシェリー、かはっ。聞いてくれよ、フレッドとジョージが、鉄格子を破らなきゃって言うから何をするのかなって思ったら、僕をぶん投げたんだよ、まったくもってマーリンの髭だろ?けほっ」
「血、血が!」
「おっとごめんよシェリー、弟の手当をさせてもらうぜ。よっと」
「ついでにこの部屋の鍵をちょいと針金でアロホモラ、と。マグルも案外馬鹿にできないよなぁ。さて、トランクはどこかな?」
「し、下にあるけれど……」
ロナルドの奇行にパニックになっているのは自分だけなのだろうか。いや、少なくともダーズリー家はパニックになったらしい。どたどたと物音が聞こえる。ジョージがトランクを持って来ると空中に浮いていたフォート・アングリアに放り込まれる。
バーノンがドアを開けたのはその後すぐだ。憤慨する叔父の姿を尻目に、彼女は空の世界に旅立ったのだった。
余韻も何もあったもんじゃない。こんなに急に飛び出して良かったのだろうか、という罪悪感があったが……闇に輝くリトル・ウィンジングの光の数を見ると、それも吹き飛ぶ。
綺麗だ。
光輝く家々を空飛ぶ車から眺めるなんて、まるで映画のワンシーンの中にいるみたいだ。
空を飛ぶ車とは、魔法界もなかなか粋な物を作ったものである。箒とはまた違った面白さがある。
「いやぁ、そう言ってくれるとうちの親父も喜ぶぜ。なんせこれを発明したのは誰あろうウィーズリー家の大黒柱、アーサー・ウィーズリーその人だからな」
「そうなんだ……、すごい、魔法って!あの家が、もうあんなに遠くに……!」
「喜んでくれて嬉しいぜ、シェリー」
そうこうしてウィーズリー家に着くまでの間に、色々と質問攻めにあった。手紙の返しが無いから、もしやと思いシェリーの誕生日に迎えにやって来たらしい。彼女は手紙の事やドビーの事をかいつまんで話した。
彼等が話を聞いて、まず最初に出たのは怒り。そして、何故そんな事を?という疑問だった。
フレッドは運転しつつ、シェリーの話を咀嚼して推論を出す。
「屋敷しもべってのは、お金持ちの家に憑く妖精だ。ってことは、シェリーを憎んでいる魔法使いの名家の人間がけしかけたんじゃないか?」
「僕ちょっとマルフォイ家にピンポンダッシュしてくる」
「そ、それはやめておいた方がいいかな。でもねフレッド、ロン。ドビーは真剣だったよ。騙そうなんて気は無かったように見えたんだ」
「そうかい?因みに僕はジョージさ」
「え!?ご、ごめんなさい!」
「嘘でーす!僕はフレッドさ!」
(……人一倍騙されやすいシェリーが、騙されてないって言ってもなぁ)
さて。
ウィーズリー兄弟曰く、屋敷しもべを必要としないような家に到着した。
通称、『隠れ穴』。
絵本の世界から飛び出してきたような、家や小屋が段違いに重なった住居。煙突もそこかしこから生えており、どういう理屈で立っているか分からないような家だった。
すごい。魔法使いの家とは、こんなにもユニークで面白いものなのか。綺麗で外面が良いのはダーズリー家だが、毎日が楽しそうな家は断然ウィーズリー家だ。
「あらあらまあまああらまあまあ!いらっしゃいシェリー!噂通りリリーそっくりだわ、でも眼はジェームズね!」
「あー、えっと、こんにちは、モリーおばさん。一年ぶりです。クリスマスはセーターありがとうございました」
「まあまあまあまあ!いいのよそんな、もうこの子ったら、うふふふふふ、まさかロンが女の子の友達連れて来るなんてねぇ!それもこんな美人の!ところでシェリー、ウチの娘になる気はないかしら?」
「?」
「ちょ、ママ、やめてくれよ、マーリンの髭だよまったく。シェリーはこう、妹みたいなもんでさぁ」
「あらあらじゃあハーマイオニーとかいう女の子の方かしら?うふふ、もうウチの子ったら!それはともかくとして、無断で車を使った罰として庭小人の駆除お願いね」
「や、やめてくれよ……」
中庭で作業に勤しむロン達を見て、シェリーは思うところがあったのか、モリーに申し出た。
「私が皆んなに心配かけたんです。私にもお手伝いさせてください」
「あらあらあらなんて良い子なの!」
実のところ、庭小人がどんなものか?という好奇心も少なからずあった。
背丈は三〇センチほど、しかしその身体に不釣り合いなほど頭は大きく、女性ウケは良いとはいえない。しかしシェリーは嬉々としてそれらの相手をしたのだった。
すると、ウィーズリー家の時計の針が動いた。針は時間を指し示す訳ではなく、その時の行動を指す。『ジニー』と書かれた針が『就寝中』から『移動中』に移れば、それは『起きてこちらに移動している最中』という事だ。なんとも面白いものである。
「おはよう皆んな……シェ、シェシェシェシェリー・ポッタァ!?」
「え、えっ?」
「あー…私…その…髪が!髪が決まってないから整えてくるわーッ!」
「ああジニー、おはよう。朝からあんまりどたばた騒ぐのは感心しない……」
「どいてパーシー!」
「おぐッ!?」
すれ違いざまにパーシーをどつき倒しつつ、どたばたと来た道を逆走するジニー。
シェリーの顔を見た途端、髪と同じくらい顔が真っ赤になっていたようだが…。
「……私、嫌われちゃったかな。バーノンおじさんもよく顔を赤くしてるし……」
「いやいやシェリー、ありゃ逆さ。ウチの末妹は君にお熱なのさ」
「グリフィンドールの赤毛のお姫様にして、賢者の石を護ったヒロインだ。その上性格は謙虚ときてる。まさに憧れのお姉様、ってわけさ」
なるほど。
あの子が、まさかそんな風に思ってくれていたとは。嬉しいような、恥ずかしいような、むず痒いような。
(………でもそれじゃあ、尚の事ジニーをがっかりさせちゃったよね。そうだよね。生き残った女の子とか言われてるけど、実際はこんなだし。ああ、こんなちんちくりんでごめんなさい)
「……とか考えてんだろうなあ」
「うーん、このネガティブスパイラル」
「やあみんなおはよう、今日はまた一段と賑やかだね……あれっ!リリーだ!リリーがいる!」
さて、ようやく起きて来たのは生粋のマグル好きだというアーサー・ウィーズリーだ。
彼は魔法省に勤めているエリートなのだが、馬鹿にしてんじゃないのかってくらいマグル好きで、自分で作った法律に抜け穴を作り、マグル製品を大量に自宅に持ち込んでいるのだという。フレッド&ジョージ&ロンが車を勝手に使用したと聞き、
「本当か!どうだった?あれはちゃんと飛んだか!?」
と、嬉々として乗り心地等のアンケート用紙と感想を求めた。この親にしてこの子あり、とはまさしくこの事を言うのだろう。案の定モリーにガミガミ怒られていた。
「で、シェリーはどこで寝る?」
「私は床でいいけど……」
「お客様にそんな所で寝かせる訳にはいかないわ!アーサーと私のベッドに……いえ、ビルかチャーリーの部屋に……いえ、ジニーの部屋にしましょう」
「!?」
「よろしくね、ジニー」
「よっ、よよよよよよろしく!」
彼女は流行に敏感なのか、年頃の女の子らしいものは沢山取り揃えられてあった。整然とした部屋には雑誌やヌイグルミ、ベッドシーツはどこか可愛らしい。
自分の殺風景な部屋とは大違いだ、とシェリーは感心した。これが女の子の部屋なのか。何か良い匂いもする。
「じ、じろじろ見ないで!」
「あっ、ご、ごめんね」
「いや………、ね、寝ましょ?シェリー」
「う、うん。そうだね」
「…………」
「…………」
気まずい。
お互い、ベッドの上で膠着状態に陥っている。かたや心臓バックバクで眠れない少女、かたや人間関係とは無縁にあった少女だ。会話など生まれるべくもない。が、シェリーはそれでも何とか話題を捻り出した。
「ジニーは、今いくつなの?」
「え!?えっと……11歳」
「そっかあ、今年からホグワーツなんだね」
「……ねえ、シェリー。ホグワーツって、楽しい?」
「うん!友達もできたし、美味しいご飯も食べられるし、すっごく素敵なところだよ」
「……それに、あなたは賢者の石を守ったわ」
「あれは私一人の力じゃないよ。あなたのお兄さんと私の親友の女の子、それに頼りになる男の子がいたから守れたんだ」
「………、そうなの?へえ、あのロンが…」
ジニーは意外そうな声を上げた。
彼女からしてみれば、ロンはうだつの上がらない兄といった雰囲気だったからだ。
「お兄さんのこと、嫌いなの?」
「いいえ、家族だもの。嫌いだなんて……お姉ちゃんがいて欲しいと思った事は、あるけれど」
「そっかぁ。私もきょうだいが欲しいなって思った事はあるよ。ウチは一人っ子だし」
「あ……そういえば、貴女の家族は……、ご、ごめんなさい」
「ううん、いいの。……私に妹がいたら、ジニーくらいかなぁ?」
「!?」
「うふふっ、ジニーが妹だったら、きっと楽しいだろうなぁ……」
「え、え?」
「あは、ジニーの身体、あったかい……」
「え、ちょ、シェリー?そんな事言われたら、わ、私……こ、心の準備が、まだ」
「……すーっ、すーっ」
「…………あ、あら?」
▽▽▽▽▽▽
ダイアゴン横丁は、去年と変わらず大勢の人でごった返していた。いや、心なしかそれ以上に多いような気がする。
ロン経由で事情を知ったハーマイオニーと合流し、「何ともなかった!?いとこの家で何かされなかった!?」と心配され、何故だか彼女はジニーに睨まれていたのだった。
教科書や羽ペンやインクを買い、最後に向かうのは本屋だ。というのも、今年の『闇の魔術に対する防衛術』の教科書はギルデロイ・ロックハートの本を七冊。重いし、何より持ち運びも不便だ。おまけにウィーズリー家にとっては痛い出費。モリーとハーマイオニーはロックハートに骨抜きのようだったが。
「ほら、ね、ね!?見て!彼のインタビュー記事よ!たくさん本も書いてあって、すごく素晴らしい人なの!」
「そ、そうなんだ」
「ほら、この写真なんかとても素敵で…」
「あー、その写真を見る必要は無さそうだぜハーマイオニー。本屋ののぼりを見てみろよ、『ギルデロイ・ロックハート サイン会開催! 自伝『私はマジック☆』だってよ」
「!?!?本当、それ!?わ、私、髪とか変じゃないかしら!」
本屋の奥、黄色い歓声の真っ只中に、きらきらと光る白い歯の優男がチャーミング・スマイルを振りまいていた。
ギルデロイ・ロックハート。
とてもおばさま受けの良さそうな男だ。
シェリーは彼の書いた本をハーマイオニーの勧めで読んでみた事がある。その時は良く出来た小説だと楽しんでいたのだが……ノンフィクションと聞いた時は驚いた。彼は自身の冒険を、自伝としていくつも出版している凄腕の魔法戦士なのだ。
しかし、ハーマイオニーにしては珍しく、学術的で理知的な本ではなく、どうも愉快で楽しい本だったのだが……。
「HAHAHA!ありがとうお嬢ちゃん達、バンビーナちゃん達、生きとし生けるもの達!ハッ!まさかそこにいるのは、シェリー・ポッターでは!?」
「えっ?わっ」
赤毛の集団なのが目立ったのだろうか。
ロックハートはずんずんと進んでシェリーの肩を掴み壇上に上げると、「ギルデロイ・ロックハートとシェリー・ポッターの夢の共演!なんと彼女が私の本をお求めにやってきましたッ!ハイ拍手!」
大きな拍手とともに黄色い歓声が上がった。なんとハーマイオニーもその声を出している一人である。もしやとは思うが……ミーハーなのだろうか?
その光景を見て、ハーマイオニーは「なんて羨ましいの!」と完全に恋する乙女モードに突入し、ロンは「シェリーに何やってんだよ!」と苛々している。ロックハートは気付いていないようだが、シェリーの顔は真っ赤でどう見ても困っているではないか。彼女は目立つという事にどうも慣れていない、というか苦手なのだ。見れば、記者までやって来ているではないか。
「さて、さて、さて!無論、このまま帰すなどとケチなことはしませんよ!彼女には私の本を全冊プレゼント!おまけにサインとブロマイドまでついてくる!なんという粋な計らいか、だって?HAHAHA、ハンサムはいつだってハンサムなものさ!」
「え、えーと、お気持ちは嬉しいんですけど、その、タダで貰う訳には……」
「ハッハー!遠慮なさるなお嬢さん!何せ君はいずれ、この本そのものを手に入れるのだからねッ!」
「え?」
「さあさあ皆さんご注目!この場に来ているホグワーツの学生さん達に関わる、ビッグニュースがあるのですよ!こほん。私、ギルデロイ・ロックハートは、ホグワーツ魔法魔術学校、闇の魔術に対する防衛術にて!教鞭を取る事になったのです!」
「マジかよ。こんなのがホグワーツにやって来るのかい。なんてこった」
「嘘、そんな、彼がホグワーツにやって来るだなんて!なんて素晴らしいの!」
「マジなのか?マジで言ってるのか?勘弁してくれよハーマイオニー、ぼかぁ君を尊敬していたいんだよ」
シェリーはやっと解放された。
「シェ、シェリー!おかえりなさい!突然だけど握手しない?別に、そう、別に深い意味は特に無いのだけれどね!」
「あー、うん」
「勘弁してやれよ。さっさとレジ行こうぜ」
「ジニー、これあげるね」
「えっ!そんな、私なんかに!」
「あぁ、そんな!だって、まだ彼が!サインとか……!」
「そんなの後でいくらでもできるって、ホグワーツの教師になっちまうんだから。むしろあっちから渡してくるかもな」
「ハッハー!数ヶ月ぶりだなポッター!と、その一味!」
「………うげぇ」
けらけらとからかうようにシェリーを笑う声。
ドラコ・マルフォイだ。傍に立つのは、彼の家族だろうか。父親らしき優雅な黒服の男と、母親らしき美しいマダム。そして、何故かシェリーを睨みつけている少女は、もしや妹だろうか。
「グリフィンドールのお姫様は、少しのお出かけで大ニュースって訳か?ハン!」
「ああドラコ、久しぶり。家族でお買い物?」
「ははは、家族水入らずでね。って違う!僕がしたいのはそういうんじゃない、違う話だ!」
「違う話?えっと…夏休みはどうだった?」
「ははは!夏は父上が旅行に連れて行ってくださってな、実に有意義なバカンスを……って違う!そういう話がしたいんじゃない!」
「よせ、ドラコ。……私からも挨拶させてもらおう」
ドラコを静止したのは、ドラコをそのまま大きくしたような四十〜五十代の男だ。
黒系統のローブに、銀細工の蛇が施されたステッキ。そしてドラコそっくりの長髪のオールバック。どことなく上品さを感じさせるその男は、優雅に自己紹介を始めた。
「お初にお目にかかる。私はルシウス・マルフォイ、倅のドラコが世話になっているようだな」
「あー、はい。シェリー・ポッターです」
「シェリーと呼んでも良いだろう?今後とも息子とよろしくしてくれると嬉しい。こっちは今年からホグワーツに入学するコルダだ」
「………はじめまして、コルダと申します」
「ご、ご丁寧にどうも」
コルダと呼ばれた少女は、ぺこりと頭を下げる。その動作一つとっても、気品の備わった美しい所作であり、ルシウスの教育が十分に行き通っている事が伺える。
美しいプラチナブロントの髪を一房だけ三つ編みにしており、ともすれば可愛らしさすら感じさせる整った顔立ちには、ドラコやルシウスの面影が確かにあった。
しかしその猫のように鋭い眼つきを、更に険しいものにしてシェリーを睨んでいる。ドラコ・マルフォイから彼女の評判を聞いているのだろうか、敵でも見るかのような目だ。
コルダは手を出して、握手を求めた。
シェリーは困惑しながらもそれを握り返すと、彼女ら手を引っ張って距離を詰めた。コルダの顔が直ぐそばにある。非の打ち所がない美少女……だが、それを歪めに歪めてガンを飛ばしている。正直、怖い。
「………生き残った女の子。去年はスリザリンの単独トップを邪魔して、その上今も!お兄様と、その、仲良くお話して。羨まし、何様なの…!」
「やめんか、コルダ」
「……失礼しました、ミス・ポッター」
絶対思ってない。
初対面だというのにハーマイオニーは嫌そうな顔をしているし、ロンもあからさまに不快さを態度に出している。
しかしそんな子供に似ず、親のルシウスはあくまで紳士的だ。コルダを咎めると、「娘が失礼した」とぺこりと頭を下げる。
どうやら彼自身はとても紳士的な性格のようだ。しかし、ある男を見つけると、その瞳も苦々しい物へと変わった。
「……これはこれは。アーサー・ウィーズリー氏ではないですか、相も変わらず清貧貫く生活を続けているようで。いやはやまったく恐れ入るよ」
「……やあルシウス。君こそ、いつも皆んなから噂されているよ。どうやら闇の魔術に関する品をこそこそ隠し持っているようじゃないか」
「何のことやら。こんな時まで仕事ですかな?仕事熱心で何より、しかしいくら頑張っても残業代は出ないのですよ」
「それはどうもお世話様。他所様の家に口出しするとは、マルフォイ家はお優しい事で」
「………」
「………」
ピキピキとお互いのこめかみに青筋が浮かぶ。視線が交差し、火花が飛ぶ。ロンとドラコは犬猿の仲だが、この様子を見るに親同士もそうらしい。
ちらりとルシウスが目を向けた先には、ジニーが教科書の束を運んでいる姿が。なじる相手が出たと言わんばかりに、ジニーの教科書を取り上げた。
「おやおやおやおや、清貧貫くのはご自身だけではないようで!この子の持つローブも教科書も中古のもののように見えますが?」
「妻は節約上手なんでね。さ、行こう。これ以上構うこたぁない」
「……、金よりも大切な物があるという事かい?娘に満足に教科書も買ってやれないのが大切な生活なのか?フン、これだからウィーズリーのコソコソイタチは。息子達もお前そっくりの間抜け顔ーー」
アーサーはルシウスの顔面をぶん殴った。
普段は穏やかな彼だが、彼は最も愛する家族を馬鹿にする奴を絶対に許さない。
「私の前でーー家族を!侮辱するな!!!」
そこからは取っ組み合いの大喧嘩だ。相手の髪を引っ張り、蹴り、ぶん殴る。いい歳した大人がマグルの決闘ショーである。
「親父ーッ!そこだっ!陰険クソ野郎の髪を根こそぎ奪っちまえ!」
「フレッド!賭ける金をくれ!俺達の最高の親父に全額だッ!」
「ち、父上!?なにを……」
「やっちゃえお父様!ウィーズリーのハゲ野郎なんてやっつけちゃえ!」
「コルダァ!?」
観衆が煽りに煽った対決は、偶然近くで買い物をしていたハグリッドの仲裁によって終結した。双方とも青痣を顔中に作ってしまい、奥方に怒られている。だが、ロックハートはこの騒ぎに乗じて『ファン同士の小競り合いが起きた!』と宣伝している。そういうところは機転の利く男だ。
モリーはガミガミと、ドラコの母親というナルシッサは激昂する事こそなかったもののぐちぐちと旦那を叱り飛ばす。煽った子供達も同様だ。フレッドとジョージはのらりくらりと躱していたが、意外とコルダは打たれ弱いのか物凄く凹んでいた。母は強し、である。
だがまあ、しかし。
家族を想っての行動なのだ。
ロンやハーマイオニーが同じように侮辱されたとしたら、自分はああいった風に立ち向かえるだろうか。シェリーはそう思わずにはいられなかった。
(……そういえば、ドビーの偽の手紙、私はすっかり信じ込んで。……友達、なのに。本当は私の事なんて友達って思ってないんじゃないか、とか、そんな事ばっかり……)
「シェリー何してるの?」
「帰ろうぜ、シェリー!」
「あっ、うん!今行く!」
一抹の不安を抱えながら、シェリーは二人を追って駆けていく。
その時はまだ気付いていなかった。
事件はもう始まっているという事に。
彼等との友情を試される年だという事に。
この時はまだ、気付いていなかった。
ドビーは手紙を盗むだけでなく、悪質な手紙まで送っちゃってます。ドビーの境遇ならこの発想も思いつくはず。
ドラコ・マルフォイの妹、コルダ・マルフォイ登場。
綴りはCorda・Malfoyです。皆んな大好きドラコの名前のアナグラムです。
家族大好きお兄ちゃん大好きの残念な女の子。特に兄に対してはかなりのブラコン。ドラコを美少女にしたらこんな感じ、という見た目です。