シェリー・ポッターと神に愛された少年   作:悠魔

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Philosopher's Stone

「おはよう、シェリー」

「………お、おはようございます、ダンブルドア先生」

起きて最初に見たものがダンブルドア、というのには面食らった。それでなくとも、起きて直ぐに人の顔を見るのは驚くというのに、それが校長とあってはいささかインパクトが強すぎる。その様子を見て、彼は悪戯っ子のように笑った。

ここは……どうやら医務室のようだ。心地よい日差しが暖かい。春が終わり、そろそろ夏がやってくる時期だ。

 

「さて、さて、シェリーや。何か聞きたいことがあるのではないかね?」

「………!そうだ、今日は何日ですか!?賢者の石は、今どこなんですか!?クィレル先生は?ベガは、ロンは、ハーマイオニーは無事なんですか!?」

「シェリーや、そんなに興奮しては、儂がポピーに怒られてしまう。もちっと落ち着きなさい。のう?」

「あ……ご、ごめんなさい」

「順番に言うと、今日はあの賢者の石の騒動から、三日間眠りっぱなしじゃった。結果として石は守られ、ヴォルデモート卿も逃げていった。クィレル先生は流石に無罪とまではいかぬが、ちゃんと生きておる。お主の友人は皆無事じゃよ」

「………、良かった………」

シェリーは、これでひとまずは安心だ、と安堵の声を漏らした。

 

「優しい子じゃの、君は。さて、シェリーや、君が質問したい事はもっとあるじゃろうて。この老いぼれが何でも答えようぞ。君はそれだけの働きをしたのじゃ」

「いいえ、私は皆んなに助けられてばかりで何も……あー、私のことよりも、他にも質問したい事が沢山あるんです。賢者の石がどうなったのか、とか、クィレル先生の今後のこととか……」

「まずは賢者の石について話そう。ほれ、これ見てみい。綺麗じゃろ?」

 

ダンブルドアがポケットの中から取り出した赤い石は……間違いない、賢者の石だ。みぞの鏡から、シェリーが手に入れた物。今回の騒動の中心。

「さて。何故君が石を手に入れられたか、分かるかね?シェリー」

「………、クィレル先生やヴォルデモートと私で、何か違うものがあった、とか?私が手に入れる条件を満たしていたとか……」

「その通りじゃ。賢者の石を使いたい者でなく、手に入れたい者だけがあの鏡から石を取り出せるっちゅう訳じゃ。儂の頭もまだまだ捨てたもんじゃないのう」

「そっか、なるほど……」

「まあ、鏡の中に入ってたのは偽物なんじゃがの。本物は儂がずっと持ち歩いてたこれだけなんじゃが」

「えっ」

「ナイスアイデアじゃろ?試練を突破して石を入手したところを横取りされた時の事を想定しておいたんじゃよ」

「そ、それって、最初から行く意味、無かったんじゃ……」

「………あー」

 

愕然とするシェリーを見て、ダンブルドアは慌ててフォローを入れた。

「い、行く意味はあったと確信しておるよ。君はこの試練で沢山の成長をしたじゃろ?それに君はクィレルを救った。儂は彼を倒す事はできても、救う事は出来なんだ。君は偉大な事をしたのじゃよ」

「……そのクィレル先生は?」

「一部とはいえヴォルデモートに身体を貸しておったのじゃ、その代償は大きくてのう。しばらくは治療が必要じゃが、然る後に魔法使いの牢屋に入れられるじゃろう」

「…………そうですか」

 

魔法界の法律はよく分からないが、ヴォルデモートに与し、賢者の石を狙っていたのだ。死刑までは無いにしても、牢屋から出る事は叶わないだろう。吸血鬼化し、長い時を生きなければならない彼にとって、それがどれだけの苦痛か。

 

「そうじゃのう。じゃが、儂は彼が善き道を歩き始めたと思うておる」

「え?」

「ヴォルデモートが君の身体に触るのを避けようとしておらんかったかの?何となく嫌な予感がしたんじゃろうのう。君にはの、母上が残した古代からの守護魔法があっての。まぁ簡単に言えば、ヴォルデモートのような、愛を理解しようとしない輩から守る呪文なのじゃが」

「………」

「クィレルも愛を知らず、理解しようとしない男の筈じゃった。じゃが、君はクィレルの手を普通に握っていたね?つまり君の母上が残した護りはてんで効かなかったと言うことになる。それは、彼が愛を知ろうとした事の、何よりの証拠なのじゃ」

 

彼が、愛を知ろうとした。

あの時は、受け入れてくれるか不安だったのだが。クィレルが、まさかそんな事を思ってくれていたとは。

ちなみにもしクィレルが愛を理解しようとしないままシェリーに触っていれば、触ったところから彼の身体は崩れていくのだという。愛と言う割には意外と物騒であるが、母は強しといったところだろうか?

 

「憎しみの塊であるヴォルデモートは、そんな身体に取り憑く事も触る事も出来ぬ。クィレルの身体から直ぐに出て行かなかったところを見るに、クィレルもいきなり愛を全て受け入れた訳では無かったようじゃが………先程彼の容態を見た時に、『私はシェリーに救われた』、そう言っておったよ」

「……そう、ですか。彼がそんな事を…」

「あ、でもベガには『悪霊の火で焼かれたところの治りが遅い!』と恨み節を言っておったがのう」

「そ、そうですか……」

 

それに関しては弁解のしようがない。何というか、彼は敵を作る天才じゃなかろうか。

「ああ、それでのう。この石じゃが、壊す事にしたんじゃよ」

「………えっ?」

「この石を守る事になって、肌身離さず持ち歩いていたんじゃが。いかんせん、最近物忘れが酷くてのー。落としてないかいつも不安なんじゃよ。それに何より、これがある限りヴォルデモートはこれを狙うじゃろう」

それは、そうだ。石が原因で騒動が起こるのなら、その元凶を壊すのは自明の理だ。

然し。この老人の友人たるニコラス・フラメルは、その石が無ければ……。

「ああ、死んでしまうじゃろう。じゃが彼と彼の妻ペレネレにとって、死とは長い一日の終わりに眠りにつくようなものなのじゃよ」

「……ごめんなさい。……私には、その、よく、分からないです」

「ほっほ、あと百年もしたら君にも分かるじゃろう。あ、魔法使いってマグルより長生きなんじゃよ。これ豆知識じゃよ」

冗談めかして彼は笑う。

友人が一人いなくなる寂しさはあれど、優しく送り出そうとしているように見えた。

 

「ああ、しかし今すぐ死ぬ訳ではない。ニコラスは自分の身体を弄って、あと数年は生きられるようにしたそうじゃ。何でも、『嫌な気配がする』『数年後、魔法界に何か危険な事が起こる予感がする』と言っての」

「……?」

「さて、さて。老いぼれの話はこれでお終いじゃ。君の友達が、君の無事を待っとる。早く呼んであげねば。もうええよー」

その瞬間、ドタン!と扉が勢いよく開き、ロンとハーマイオニーが現れる。ハーマイオニーはシェリーにキスの嵐を見舞い、ロンは自分が包帯でぐるぐる巻きにされているのにも関わらずハグをして、自分で痛がっていた。

自分の、親友達だ。

「ああ、シェリー!無事で、無事でよかったわ!本当に……!」

「すごいよ、君って奴は!最高だ、ほんっとマーリンの髭だよ、良い意味でね!」

「あ、はは……、ロン、ハーマイオニー!皆んなのお陰で、賢者の石も、クィレル先生も守れたの!私……私達、やったんだ!」

 

一年前は想像もしていなかった。こんな親友に出会えるなんて、ホグワーツでこれだけの事をやり遂げられるなんて。

「は、は。すごいや、僕達……すげぇや。あ、あ、あ………」

 

「うわぁぁぁあああーーーーーーっ!」

ロンは叫んだ!

勝利の雄叫びを上げた!

「きゃあああああああーーーーーーっ!」

ハーマイオニーも叫んだ!

歓喜の声を上げた!

「うおおおおおおおおおおおおっっ!」

ダンブルドアも叫んだ!

熱に浮かされ、悪ノリした!

「わあああああああああーーーーーっ!」

シェリーも叫んだ!

よく分からないが叫んだ!

『あああああああああああああああ!!!』

皆が叫んだ!

狂喜乱舞!感謝の舞!明日へと向かって彼等は愛を叫んだっっ!!

 

「 お し ず か に ! ! !」

『すみませんでした』

ロンとハーマイオニーとダンブルドアはマダム・ポンフリーにつまみ出されたのだった。

 

それからは様々な人がやって来た。

ウィーズリーを始めとした、グリフィンドールの面々。来年のクィディッチに支障は無いか?今度はクィディッチに支障のないようにしてくれよ、といつも通りのウッド。そしてそんな彼の頭をひっぱたくケイティ、アリシア、アンジェリーナ。

マクゴナガルからはお見舞いの花とハグ、少しばかりのお小言をもらった。

「あなたはもっと自分を大事になさい。あなた達が賢者の石の騒動に首を突っ込んだ挙句、医務室送りになったと聞いて、心臓が止まるかと思いましたよ。私をぽっくり死なせる気ですか」

 

笑うところだろうか。

しかし直後に、

「とまあ、それはともかく。それはそれとして、良くやりましたね、シェリー」

と言われた時、シェリーはなんだか誇り高い気持ちになった。

 

聞けば、どうやらあの日以来、シェリー達は石を守った英雄扱いされているそうな。ダンブルドア曰く、あの地下でクィレル先生との間に起きたことは秘密で、つまりこの城中みんなの知るところ、ということらしい。

廊下のヒソヒソ話は鳴り止み、シェリー達を労う声が増えた。

夏休みは宿題をしっかりこなすように、と言って優雅に出て行ったマクゴナガルと入れ違うようにして、医務室にどたどたと殴り込みをかけてきた丸顔の男の子。ネビルだった。

 

「ごめんよ、シェリー!まさか君がそんな大事な物を守るために立ち向かってたなんて!僕、てっきりまた夜中に出歩いて遊ぶんだって勘違いしちゃって……」

「こっちこそごめんなさい、ネビル!石のためとはいえ友達に酷いことを……」

「いや僕の方こそ……」

「いや私の方が……」

ネビルもシェリーも基本ネガティブな性格ゆえに、自分が悪いと思ったらとことん謝る。

収拾がつかなくなったところにロンとハーマイオニーがやってきて、

「呪文をかけたのは私よ。私の方こそ、ごめんなさい、ネビル」

「君の立場ならそう思っても仕方ないさ。君さえ良かったら、また前みたいに接してくれないかい」

と言って場は収まった。二人にはその自覚はないが、シェリーの存在が彼等の精神年齢を上げつつある。

 

 

 

 

 

数時間後。

 

たくさんの来訪者がやってきて、喋り疲れたのか、シェリーがぐっすりと寝ていた頃。

ベガの意識が戻ったと聞き、ダンブルドアは彼の病室へと脚を運んでいた。

シェリーと同じように賢者の石について粗方の説明を終え、彼の信奉者からのプレゼントの山から一つお菓子を取ろうとしたのだが、その殆どが彼を憎むスリザリン生から送られた危険物入りの物か、女性ファンからの愛の妙薬入りの物だったのでやめておいた。かつてのジェームズもぶいぶい言わせていたが、ここまで酷くはなかった気がする。

そのベガだが、彼は礼儀作法とはかけ離れた場所にいるらしく、先程から不遜な態度を崩さない。これはミネルバが手を焼くのう、とダンブルドアはにこにこと笑っていた。

 

「ッチ。ここで三日も寝てたんなら、じゃあホグワーツにいるのも後少しなのか」

「寂しいのかね?」

「荷物纏めんのが面倒だって思っただけだ。クィディッチ対抗戦は見逃したし、他にやる事も無いんだがな」

 

ダンブルドアは、ベガを見て考える。

この少年の才能は凄まじいものがあった。一人で石の守りの試練を突破し、短時間ではあるが吸血鬼とも渡り合った。

しかし自分やヴォルデモートが良い例だが、そういう才能に恵まれた人間ほど道を踏み外しやすいものだ。

(この手の天才はおる。かつての儂や、あいつや、トム……ヴォルデモート卿や、ジェームズのように。神からの才能を一身に受け、ほとんど努力を必要とせずに力を手にできるタイプの人間。

じゃがベガは、優しいのじゃ。闇に傾倒する事もなく、闇を憎みすぎる事もない。そして力に溺れて過ちを犯す事もないじゃろう)

 

ベガが力に溺れない理由。それは、彼が既に『後悔』しているからなのだ。

例えばダンブルドアも、誰よりも高い能力と優秀な才能を持つ人間だと自負していたが、とある魔法使い(グリンデルバルド)との決別や(アリアナ)の死への後悔。それが皮肉にも自分の愚かさを見直す切欠となり、今でも後悔し続けている事件となっているのだ。

(ベガはこの年で既に『取り返しのつかない後悔』をしておるのじゃ。儂にとってのアリアナを、彼はもう経験してしまっておる。じゃから彼はもう、真の意味で傲慢になるという事はない。悲しい事じゃが)

ーー願わくば、この学校が、彼の支えになれれば良いのだが。ダンブルドアはそう思わずにはいられなかった。

 

「……ホグワーツは、楽しいかね?」

「………悪くはねえよ」

「そうか。それは何よりじゃ」

「それで、今年の対抗杯は……あーあ、結局スリザリンが優勝かよ。まーたマルフォイ辺りが威張り散らして………」

そこで、何かに気付いたように、ベガはダンブルドアの方を振り向いた。

「校長先生よ。もしかして、特別点で俺達に加点する気じゃねえだろうな」

特別点。

ホグワーツ恒例の、駆け込み加点だ。何か特別な功績を残した者に与えられる点で、例えば五十年前に現れた怪物の正体を突き止めたトム・リドルという少年がその特別点を貰っている。

他にも、クィディッチで活躍した者や、優秀な論文を発表した者など、その内容は千差万別。ダンブルドアは、それをベガ達に与えるつもりなのでは?と。

全くその通りだった。

 

「……特別点の内容については、言えぬ決まりになっておるのじゃ」

「そうか。なら言っとくぞ、もし特別点を貰う事になっても、俺はいらねえからな!」

「………、ほう?」

「シェリーもロンもハーマイオニーも、一度夜に抜け出して罰則を受けて、それでも立ち向かう選択をした。ネビルはあいつ達を身体張って止めるっつう選択をした。シェリー達は成長したんだ。俺は美味しい所を掻っ払っただけだ、だからそんなもんいらねえ!スリザリンが可哀想だから点を自粛するわけじゃねえからな」

 

どうやら、彼には彼なりのプライドがあるようだ。正直、ダンブルドアはひとり五十点くらいあげよっかなーとか、スリザリンがトップだけどグリフィンドールを一位にして大逆転させようかなーとか考えていた。

が。

考え直す必要があるようだ。

ホグワーツは教育機関なのだ、子供の成長を何よりも求める所。成長を讃えられる権利はどの寮にもあるのだ。

(そうじゃの、成長と言うならば……彼も)

 

その一週間後、学年末パーティ。

クィレルは、表向きはホグワーツで窃盗を働こうとしたところをシェリー達に食い止められてクビになったという扱いになった。

そして特別点を貰った一年生は五人だと、ダンブルドアの口から告げられた。

ロナルド・ウィーズリー。最高のチェス・ゲームを見せた勇敢なる騎士に、五十点。

ハーマイオニー・グレンジャー。冷静沈着な論理感と判断力に、五十点。

シェリー・ポッター。勇気ある行動と、勇敢さと、優しい精神に、六十点。

ネビル・ロングボトム。敵に立ち向かうのには勇気がいるが、時として友人に立ち向かうのは同じくらい勇気がいる。その勇気を讃えて、十点。

 

そして最後の特別点獲得者は、なんとスリザリン寮のドラコ・マルフォイだ。

禁じられた森において、紳士としてレディを守る気高い行動をとった。守ろうと弱い自分に立ち向かっていった。その勇気を讃えて、彼に十点が贈られた。

ドラコ自身もこれにはびっくりしたらしく、青白い顔を赤らめてぽかんとしていたら、スリザリンのテーブルで「よくやった!」と揉みくちゃにされた。

たった十点。しかし、これはスネイプによる贔屓の加点ではなく、間違いなくドラコ・マルフォイが初めて自分の力で掴み取った十点であった。

結果としてその年の学年末パーティでは、グリフィンドールとスリザリンのダブル優勝を祝うパーティとなった。

しかし皆、誰が優勝かはもはや気にしていなかった。ハッフルパフもレイブンクローも含めて、思い思いに騒ぎ、楽しんでいた。

その夜、寮の垣根は消えていたのだ。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

シェリーは廊下を駆けていた。

クィレルがもうすぐ魔法省に引き渡されるという話をダンブルドアから聞いて、居ても立っても居られずに追いかけてきたのだ。

廊下を曲がったところで、スネイプがクィレルを縄で縛って歩かせている姿が見えた。吸血鬼用の封印が幾十にも施されており、もはや抵抗は不可能だろう。

……散々出し抜かれたクィレルをこうして連れ回すのが面白いのか、若干スネイプが上機嫌そうなのは、見ないでおくことにした。

 

「クィレル先生!」

「………、シェリー・ポッターか」

 

二重の意味で憑き物が取れたような顔をしたクィリナス・クィレルは、これから監獄生活をするとは到底思えないくらい晴れやかな顔をしていた。

「ポッター、この男は今からアズガバンに行く身であるからして……」

案の定スネイプが噛み付いた。

しかし、さっきダンブルドアに教えてもらった、『スネイプが何でも言う事を聞く仕草』でクィレルと話す時間を貰う事にする。

 

「お願い、先生!」

シェリーはウインクした。

なにせ馴れない事だったので、いささかぎこちなく不恰好だと自分でも感じた。

果たしてこんな物で許しを貰えるのだろうか?スネイプの性格では、いきなり生徒にウインクされたら何の冗談だと青筋を浮かべた後に罰則の一つでも課しそうなものだが。

 

「………許可する」

意外や意外、すんなり許可が通った。

疑問符を浮かべつつ、目以外はリリーそっくりの少女はクィレルへと話し始めた。

 

「……クィレル、先生。まずは、一年間『闇の魔術の防衛術』を教えてくださってありがとうございました」

「……はは。まさか、生徒にお礼を言われる日が来るとはね」

ふ、と笑うと、クィレルはぽつりぽつりと言葉を零し始めた。

「今までロクな人生じゃなかったが……生きてみるもんだな、今、とても幸せな気分だ。おかしいだろう?これからアズカバンに入るというのに」

「………」

「ありがとう、シェリー。本当に。自分を殺そうとしていた相手を許すなんてのは、そうそう出来ることじゃない。君は偉大だな」

「ありがとうございます。けれど、私はマクゴナガル先生の教えを守っただけです。本当に偉大なのはマクゴナガル先生の方です」

「はは、ミネルバは先生思いの生徒に恵まれたな」

 

クィレルと笑い合った。

倒すだけでは辿り着かなかった結末に、今自分は辿り着いている。それが何より嬉しい。

クィレルは少しばかり言い淀んでいたが、やがて真剣な表情になった。

 

「一年の間身体を共有していたから分かる。闇の帝王は死んだわけじゃない。あいつは再び現れて、事をなすだろう。シェリー、君はその時に立ち向かわなくっちゃならない。………がんばれよ、シェリー」

その言葉に大きく頷く。シェリーの素直な反応がむず痒かったのか、「私が言うのも何だがな」とクィレルは続けた。

 

「さあ、早く行きなさい。ホグワーツ特急がもうそろそろ来ている頃だろう」

「…………、はい!」

 

シェリーは元来た道を引き返す……だが、すぐに止まるとスネイプの方へと向き直った。

 

「スネイプ先生、私、先生に狙われてるって勘違いしちゃってました。ごめんなさい。でも、色々と守ってくださって、本当にありがとうございます!」

 

シェリーはそう言ってにこりと笑った。

そしてすぐに列車へと急ぐ。そのため、スネイプが後ろで何やら悶絶していたり奇声を発していたのには気付かなかった。ちなみにクィレルはドン引きしていた。

「俺って、こんな奴を出し抜こうとしていたのか……」

 

ホグワーツ特急へ向かうと、既に人がごった返していた。人の波を掻き分けて進むと、聞き覚えのある声が聞こえた。ーーハーマイオニーの声だ!

「ベガ!今年は負けたけれど、首席の座は来年は私の物よ!」

「そうかい。俺と総合で三十点も離されといて、よくそんな口が効けたもんだな、ハーマイオニー・次席・グレンジャーさんよ」

「じせき……お、覚えてなさいよ!」

思えば、ハーマイオニーはずっと

 

「そもそも二人とも百点オーバーってなんだよ。実技じゃ、魔法の出来次第で加点するのもあり得るって聞いてたけどさあ」

「まさか全教科百点越えなんてね。ハーマイオニーの答案用紙見てビックリしちゃった」

 

お互いに筆記は満点。実技では、例えば『パイナップルを机の端から橋までタップダンスさせる』というお題であれば、ハーマイオニーはそれはそれは見事なキレのあるダンスを、ベガは部屋全体をライブ会場に変えて、フリットウィックが密かにファンだというグレゴリー・ハインズを思わせる超絶テクニックのショーを行っていたり……など、とにかく超ハイレベルな激戦を繰り広げていた。

そしてその再戦の約束を二人は誓っていたのだった。

シェリーとロンは、まあ普通より若干良いくらいである。進級できたねー良かったねーと平和にテスト用紙を見せ合っていると、こちらに突進しながらやって来る大男がいた。

我らが森の番人、ハグリッドだ。

 

「おおおおーーッ、シェリー!俺がもうちーっとお前さん達に色々教えてやれれば、怪我もせずに済んだのによお!」

「がふっ」

「ハグリィィィィィッド!絞め殺しちゃってる!シェリー死んじゃうから!」

「おお、すまんすまん。力加減が分かんなくてよう。怪我ねえか?」

「げほ、ごほっ。うん、大丈夫だよ。それにロンやハーマイオニーがいたし、それにベガにも色々助けてもらったし」

「おおおおーーーッ、ベガ!シェリー達を助けてくれたんだってなあ!お前良いやつなんだなああああ!!」

「こっち来るんじゃねえええええ!!!」

「………最後に面白い物を見られたわね。見て、ベガの慌てふためく顔」

 

閑話休題。

ハグリッドから、知人から掻き集めたという写真を集めて作ったというアルバムをプレゼントされた。

ハグリッドは今回の騒動に責任を感じ、ダンブルドアに森番をやめると言いにいったら軽くあしらわれて、罰としてこれを作れと言われたらしい。

黒髪の眼鏡の男性と赤い髪の女性が赤ん坊を抱いている姿に始まり、二人の学生時代の写真が大量に入っていた。

黒髪の男性の眼鏡の下には、シェリーそっくりのハシバミ色が覗いている。男性は友人と騒いでいる様子が多く、社交的で楽しい性格であろう事が伺えた。

その赤い髪と顔立ちは瓜二つだ。シェリーの姉と言われても納得できるくらい、いや、シェリーの未来の姿と言われても信じてしまいそうなくらいそっくりだ。

 

「ありがとう、ハグリッド!私、これ大切にするね!」

 

ホグワーツでの生活は、シェリーにとって初めてのことばかりだ。

初めての友達。

初めての知識。

初めての冒険。

ーー初めて知った、親の愛情。

初めてだらけで目が回ってしまいそうだが…それでも、この経験は、自分にとって大切な思い出になると思うのだ。

来年は何があるだろう?

どんな出会いがあるだろう?

 

ーー未来が輝いて見えた。

 

ー『Philosopher's Stone』、the endー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【登場人物紹介】

 

◯シェリー・ポッター (Sherry Lily Potter)

学業:原作より少し上。勉強は好きな方だが、得意と苦手の差が大きい。

戦闘:気弱な女の子という事で、原作より苦手だが、経験を積んで強化されつつある。

 

通称、生き残った女の子。見た目はリリーの生き写しと言われるほどそっくりで、赤い髪の美少女だが、瞳はジェームズ譲りのハシバミ色。

長年のいじめが原因で、気弱で自虐的な性格になっている。ホグワーツ入学以降は彼女本来の穏やかで優しい性格が目立つようになり、いざという時にはやや自己犠牲気味ながらも高い行動力を見せる。

人間不信気味で、初めての友達を失う事を極度に恐れており、明日に希望を持てず、何が起きるか分からない未来に恐怖する。

子供の頃から何も与えられる事のなかったシェリーが一番求めるものは安心と信頼、そして未来を生きる勇気。

 

 

【挿絵表示】

 

 

◯ベガ・レストレンジ (Vega Lestrange)

学業:超優秀。さすが天才。

戦闘:喧嘩慣れしている上に戦闘センスもある。高い反射神経で絶対に躱し、後出しで相手に確実に勝つカウンター戦法。

 

通称、グリフィンドールの悪魔。月光のような長い銀髪と整った顔立ちが特徴。シェリー同様マグルの家に預けられ、魔法界の事は知らずに育った。彼を引き取ったガンメタル家は好人物であり、彼を歓迎した。

運動も知能も洞察力も魔力もカリスマも、あらゆる才能を持って生まれた天才。その反面素行が悪く、かの悪戯仕掛け人やウィーズリー兄弟に匹敵する程の問題児。「彼達は悪戯を働き、ベガは暴力を働く」とはマクゴナガルの談。女遊びにもいとまが無く、相当のプレイボーイ。

しかし心の奥底には不器用ながらも優しさがあり、ネビルやシェリーの勇気を尊敬しつつも羨んでいる。かつて兄弟のように育ったシドを死なせてしまっており、未だ消えぬ過去に執着し、恐れている。

魔法界に入る前からあらゆる物を手に入れてきたベガだが、彼が一番求めるものは安寧と愛情、そして過去を越える勇気。

 

 

【挿絵表示】

 

 

◯シグルド・ガンメタル (Sigld “Sid” Gunmetal)

通称、シド。短い金髪の少年。

活発で人懐っこいが、要領が悪い、所謂落ちこぼれ。兄貴分のベガを尊敬しているマグルの少年。

物語開始時点で既に死亡している。

 

当時赤ん坊だったベガを魔法界の抗争から遠ざけたかったデネブ卿は、ベガをマグルの友人であるシルヴェスター・ガンメタルに預けた。

ベガは魔法界の事を知らされず、ガンメタル家の一人息子、シグルドとともにのびのびと育っていったが、9歳のある日、シグルドとベガは死喰い人の残党に誘拐されてしまい、その際にベガを助けるために暴れ、死亡してしまう。

その日以降、ベガはその日の事を深く後悔し、たとえ弱くても勇気を持つ人間を尊敬するようになる。彼の死はベガの人格形成に強く影響を及ぼし、ガンメタル家に多大な悲しみをもたらした。

彼の父、シルヴェスターは彼の死を悼み、ベガとはぎこちない関係となった。

 

◯ ロナルド・ウィーズリー (Ronald Bilius "Ron" Weasley)

赤毛でそばかすの少年。ウィーズリー家の六男で、優秀な兄に加えて親友二人も優秀な部類に入り、その上、同学年のベガが数十年に一人の天才なのでコンプレックスは原作よりも強め。

ただし危なっかしいシェリーを支えるお兄ちゃん的ポジションに収まり、精神的に成長した。頭脳も少し上がった。

 

◯ ハーマイオニー・グレンジャー (Hermione Jean Granger)

マグル出身の栗毛の少女。シェリーとは勉強仲間、ベガは首席と次席争いをする仲。ロンをどうやら意識しているようだが…?正直彼女はもっとラブコメするべきだったと反省している。原作よりもお姉ちゃん力が増した。

 

◯ネビル・ロングボトム (Neville Longbottom)

黒髪のぽっちゃり少年。ベガとは正反対の性格で、その上、彼がレストレンジ姓ということで苦手意識があったが、彼がスリザリンからネビルを庇った事が切っ掛けで打ち解け、晴れて親友になった。ベガから何か悪い影響を受けないか危惧されている。

 

◯ ドラコ・マルフォイ (Draco Lucius Malfoy)

金髪オールバックの少年。純血主義かつ見栄っ張りで、生き残った女の子のシェリーや、レストレンジの血を引くベガを友人に誘うが一蹴され、それ以来意識している。

禁じられた森でうっかり父親の元上司と戦っちゃう。しかしそれが切っ掛けで、良い意味で自分に自信を持つように。成長の兆しを見せている。

マールかいてフォイッ!

 

◯アルバス・ダンブルドア (Albus Percival Wulfric Brian Dumbledore)

きらきらしたブルーの瞳をした、腹黒い長身の好々爺。一年生の間に透明マントくれなかった人。クソジジイめ!

来年ではちゃんと渡す予定。

 

◯ミネルバ・マクゴナガル (Minerva McGonagall)

ひっつめ髪の理知的な女性。副校長にして変身学教授にして獅子寮寮監。

生徒に厳しくも優しく接し、特に複雑な家庭環境のシェリーやベガ、ネビルを目にかけている様子。シェリーからは女性として尊敬されており、母親のように思われている。ベガも彼女の事は内心尊敬している。

 

◯ セブルス・スネイプ (Severus Snape)

ベタベタした黒髪の男。魔法薬学の教授にして蛇寮寮監。

シェリーの見た目がリリーそっくりなため、心労が増えた。ただし眼だけはジェームズそっくりなため、理不尽にキレるのも増えた。

 

◯ クィリナス・クィレル (Quirinus Quirrell)

闇の魔術に対する防衛術教授の、ターバンを巻いた男性。普段はおどおどしているがそれは演技で、本来は嫉妬深く邪悪な男性。吸血鬼に噛まれたところをヴォルデモートに拾われてしもべとなり、賢者の石を狙っていた。

シェリーに『誰かに認めてもらいたい』という欲がある事を看破され、生存。

現在はアズカバンでシリウスとシェリー談義に花を咲かせてる。

 

◯ヴォルデモート卿 (Lord Voldemort)

魔法界史上最悪の闇の魔法使い。

シェリーによって滅ぼされたが、クィレルの後頭部に寄生していた。魔力さえあれば杖無しでもかなりの戦闘力を発揮する事ができ、口からビーム出せたりする。シェリーとの間に絆のような物がある事に気付いており、それを逆に利用して、彼女が近くにさえいれば擬似『磔の呪い』『服従の呪文』をいつでもかけられる。

 

◯その他

『ニコラス・フラメル』

本来なら身辺整理を終えた後に妻ペレネレと慎ましく余生を終えるつもりだったが、某占い学の教授のとある予言を聞いてから、あと数年は生きれるようにしたらしい。

 

『特別点』

年度末のパーティで一七◯点も加点するのはさすがに酷いと思ったので、救済措置として設けられた制度。その一年で優秀な成績を修めた者や、クィディッチで活躍した者に与えられる。

今年はウッドはスーパーセーブを讃えられて十五点貰い、マーカス・フリントは歴代最高ファール数を記録した事で十点貰った。




これで賢者の石は終了です。
本当はもっと早くに終わる予定だったんですが、書いていく内にどんどん長くなっていきました。次からはもっと一話の内容を濃くするべきだなぁと反省しております。
当初予定していたのは『ホグワーツで活躍する男子不良生徒を描こう』という物だったのですが、ハリー、ロン、ネビル、ベガとメインキャラの男性の比率が増えていって頓挫しました。

ですがハリーを女の子にしたら話が進む進む。シェリーの性格や設定は、ベガの対になっています。
因みに秘密の部屋は近いうちに書く予定です。

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