日記2022/07/08:救われた

独り暮らしでは、ミスの責任を自分で負う。洗濯物を放置すれば着るものが無くなる。掃除しなければハウスダストで死ぬ。買い出しに行かないと食べるものがない。

何もしないでいることは許されない。必ずやることがある。

仕事も同じ。できるようにならないといけないことは多い。その訓練のために時間を費やす。

フルタイムで働く社会人は可処分時間が少ない。少ない可処分時間は家事や技術の勉強に使う。

考える時間が減った。

一方で可処分所得は増えた。生や死について考えるより、今日の夕飯をどうするかについて考えるようになった。プライムデーに何を買おう?休暇の旅行予定はどうしよう?

いかにして(How)健常者エミュレータ事例集Wikiの新規投稿を増やすか?考えに基づいてプログラムを書く。

余計なことについて考えなくてもよくなった。脳が救われた。

日記2022/06/13:近況報告

卒業式のこと(3月)

 大学で過ごしていたら卒業式の日が発生した。必要な書類をとりにいくため大学に行き、学位記をもらった。アカデミックガウンをはおり、振袖を着て笑顔で写真を撮っている人たちがいた。大事なのは将来ではなく今ここにある現在だった。ゼミ教員の最終講義の内容に文句をつけに行った。ゼミ同期がパワフルなカメラで写真を撮ってくれたので、健常者のふりをして親に写真を送った(ありがとう)。同クラだった人と『すばらしい新世界』のようなsex(性)とproduction(生)の分離、ファシズム国家主義について話した。高校の同期だった人たちと写真を撮った。その人たちは、高校の頃教員だった人たちと自分たちの現在における関連性について言及し、盛り上がっていた。知らない世界だった。沈黙は金、苦手な話題については黙っていた方がいいこともあると知った。健常者エミュレータの精度を向上させ、退散した。いてはいけない場所だった。

資格を三つとった

 悪夢を見るようになってから3年経った。兄を殺して警察から逃げる夢を繰り返し見ている。薬で抑えている。一度起きると効果が切れるから、二度寝することができない。寝ていられないから起きる。生活は健康的だった。起きてもやることがないから、勉強をした。大学の成績は悪くなかった。社会人になってからは資格を三つとった。次は応用情報技術者を取りに行く。

健常者エミュレータ事例集Wiki

 2月末に「健常者エミュレータ事例集Wiki」を作った。コアな層にウケたらしかった。公式のBot連携機能に不満があったから、Pythonで更新を通知するBotを作った。自分で更新するのが面倒だったから、Node.jsで閲覧者数トップ10の記事を更新するプログラムを書いた。自分で作ったものがカタチになって、ほかの人に伝わっていくのを見るのは面白かった。現実の知り合いからも「見ているぞ」と言われた。自分なりの答えは出した。

健常者エミュレータの精度向上

 社会人になって、平日は毎日他人と話すようになった。健常者エミュレータを実践する機会が増えた。前はできなかったことを今できるように、今できることをもっと綺麗にできるようにしていく。健常者のふりをする練習をした。研修も頑張った。協力的で、人助けをする人間のふりをした。最初は生活の糧を稼ぐためだった。今は精度の向上それ自体が目的になった。

ひっこし

 親は狂っていると思っていた。しかし客観的に考えると親は狂っていない。学費も出してくれたし、塾も予備校も行かせてくれた。人生の重要な決定(志望校の選択や就職先の選択)でも、親はすべて自分にまかせてくれた。しかし、自分が「親が狂っている」と強く結論付けているのは事実だった。狂っているのはおれかもしれないと結論付け、出て行った方がいいと判断した。出ていくことにした。今は独りで暮らしている。

風俗
 健常者のふりはコンテキストを共有しない他者に対しても有効でなくてはいけない。風俗はうってつけだった。健常者のふりをして会話をして、セックスした。

日記2022/5/13:若干高めの風俗体験記

金曜日の午後5時。長期のオナ禁により精力が溜まって暴走し、判断力は5000000000倍になっていた。在宅勤務を切り上げ、以前から目を付けていた風俗店に電話して予約を入れた。以前吉原に行ったときは予約なしで行ったため、どこの店も開いていなかった。反省を踏まえ、今回は電話で予約を入れる。

「一番おっぱいが大きい子でお願いします。」

店のHPで確認したが、受付の提示した嬢は確かにおっぱいが大きかった。おっぱいがデカければなんでもいい、予約を入れてもらった。日曜日に統計検定2級の試験がある。合格したら祝いとして風俗に行く。不合格でも、予約を無断でキャンセルしてしまうのは申し訳ないため、風俗に行く。

 

今回行くのは高めの店だった。前回と前々回は激安店。値段の違いは何をもたらすんだろう。予約を入れたのは、性イベントの確定演出が入っている状態で、性欲を抑えて「試験直前の勉強」というハイプレッシャーな状況をこなせるのか確かめたかったのもある。

 

土曜日と日曜日の朝は普通に勉強できた。

 

日曜日の午後。CBT試験会場のパソコン画面に表示された「合格」を見て安堵し、風俗に行く予定をキャンセルしないことに決めた。テストセンターのある町家から都電荒川線に乗って三ノ輪橋に行く。

 

長期にわたるオナ禁で精神は完全に暴走していた。そんな精神にも、三ノ輪橋駅に咲いていたバラの美しさを感じられることに驚いた。俺をあざ笑うかのようにきれいなバラだった。俺は醜かった。

 

吉原の路上で電話し、事前確認の連絡を入れた。この段階で予約が確定する。時間があったので、公園で背中の攻め方とクンニの仕方についてネットで情報収集する。背中は予約した嬢の性感帯らしい。店のブログに書いてあった。

 

スマホを眺めながら、新人研修中に習ったことを思い出した。細かく目標を立てて振り返る習慣をつけると良いらしい。目標を立てた。前回、前々回にできなかったことは「嬢をイかせること」だった。だから今回は「嬢をイかせること」を目標にしようと思う。背中の攻め方とクンニのやり方、Gスポットの位置、セックスの際に大事なことなどをネットで調べた。KPIはイった数にする。

 

路地裏で待つ。白のアルファードに乗って、10分ほどで店についた。店の内装は高級なホテルみたいだった。待合室で他の客とともに待ち、会計を済ませ、ポイントカードを作った。10分ほど待って、俺の番号(事前に番号札が配られている)が呼ばれた。待合室を出ると、「行ってらっしゃいませ」と空港みたいなことを言われた。激安店にそんな演出は無かった。そういうものなのか?と戸惑いながら階段を上がり、嬢に会った。

 

ソープは距離感が近い。毎回距離感を詰められて驚いているが、3秒で慣れている。部屋に入って即服を脱ぐ。相手を褒めると良いらしいので、とりあえず外見と性的魅力を褒めた。

 

事前にネットで「相手の性感帯を刺激すると良い」という情報を得ていた。フェラをしてもらいながら、相手の性感帯(背中)を撫でまくった。背中を撫でられるのが好きと言っていた。

 

クンニをした。年下になめられるのは恥ずかしいらしい。一定の速度を基本としつつ、変化をつけて舐めるとよいとネットに書いてあったので、そのとおりにした。反応を伺いながら舐める位置を微調整したら、上手にイかせることができた。今までは嬢をイかせることができなかったから、人間の体がビクンビクン跳ねているのは海から陸に落ちた魚みたいで面白かった。KPIが0から1になった。ブラジャーのホックを外す動作とクンニが上手にできると「性に慣れている感」が出るらしい。

 

こっちもあっちも準備できたところで挿入した。喘ぎ声など、相手の反応を見ながら、角度や強さを微調整してピストン運動を繰り返した。体位もいろいろ変えて反応をサンプリングした。喘ぎ声の大きさと調子から判断した結果、バックの奥を突かれるのが好きらしいのが分かった。突きまくった。KPIが1から3になった。射精した。

 

性欲の回復を待ちつつ会話をした。話題となったのは主に女性関係の話で、俺の場合特に話せるような経験は存在しなかった。だから、社会人に必要な「嘘をつく能力」が自分にどの程度あるのか測る目的もかねて、人格を捏造して演じることに決めた。

 

話の流れから「今までワンナイトセックスを繰り返してきたが、3か月前にできた彼女に惚れ込んでおり、長期的な人間関係を苦労しながら築こうとしている」人間を演じることになった。本当の自分の経験とは一ミリしか被っていないし、長期的な関係を築こうとしている人間が風俗に来るとは考え難い。構成の段階で破綻していたが、セックスで脳内麻薬が異常分泌されている人間に正常な判断力は存在しない。会話は完全に破綻していた。勢いで何とかした。嘘をつくのは難しい。

 

充電が完了したため、2回戦した。60分で2回戦をやる人は珍しいらしい。KPIが3から4になった。発射した。

 

後は適当に会話して松屋食べて帰った。余韻に浸るため、駅まで歩いて帰った。少し寒かった。何かの花がきれいだった気がする。覚えてない。帰りの電車の中で今日のことをメモする。よくできたこと、反省点、その他記録するべきところなどをNotionに日記として記録する。

 

今日は母の日だった。家に帰ったら母に電話とかしようかな。

 

良かった点

  • 相手の性感帯に対して、探索をかけながらアプローチできた
  • 地雷(触れてはいけない話題)を避けることができた

反省点

  • 捏造人格の構成に失敗して人格破綻者になった。太宰治をオマージュして性遍歴を捏造するな
  • 相手を褒めて適度に気分を上げてもらう戦略をとったが、褒めるポイントが会見しかなかった。内面にもアプローチできるともっと良かった
  • 太ももの筋肉がつった

 

健常者エミュレータ事例集Wiki:FAQ

はじめに

 スペースなどで、健常者エミュレータ事例集Wikiの管理人として○○についてどう思うか、と聞かれる機会が増えたのでまとめようと思う。

Q:ウケ狙いで健エミュWikiに投稿する痛いオタクについてどう思いますか?

ウケ狙い上等であると考えます。

理由1:ウケ狙いかウケ狙いではないのか、書く目的の違いは中身の質に関係がない。ウケ狙いで書かれた名文もあれば、正義のために書かれた駄文も存在する。大事なのは中身であり、書かれた目的ではない。

理由2:健常者エミュレータ事例集Wikiで必要なのは「裾野を広げる」ことであり、とにかく投稿してもらうことが重要であるため。裾野を広げ、投稿数を増やすためには、細かい動機の違いにこだわるべきではない。

理由3:そもそもウケ狙いかウケ狙いではないのかを外部から判断するのは容易ではない。自分の過去の行動を振り返る時でさえも、当時の行動の動機を正確に把握することは容易ではない。ましてや他人の動機など判断不可能である。神にでもなったつもりか?人間の理性の限界をわきまえてほしい。

Q:健常者エミュレータ事例集Wikiを作った個人的なモチベーションは何ですか?

理由は三つあります。①論理的な必然だったから②自分が欲しかったから③過去の行いを償いたかったから です。

理由1:論理的な必然だったから。健常者エミュレータは膨大な計算量を必要とするため、経験則に基づく最適解の探索を行う必要が出てきます。経験則に基づく最適解の探索を行うためには、分散された暗黙知のドキュメント化が必要です。健常者エミュレータ事例集Wiki暗黙知をドキュメント化し、経験則に基づく最適解の探索の精度向上に寄与します。

理由2:自分が欲しかったから。管理人自身も昔から人間関係にはかなり苦労してきました。今でも苦労しています。自分にとって必要なものを誰も提供してくれなかったから、自分で作ろうと思いました。

理由3:過去の行いを償うため。今はまだ詳細を書けない....

Q:Wiki本体以外に技術的に導入しているものはありますか?

二つあります。両方ともプログラムは管理人が書いています。道具立てはこんな感じ:

更新通知BotAWS Lambda, DynamoDB, Python, Twitter API など

十選更新プログラム:AWS Lambda, Node.js, Puppeter など

Q:健常者エミュレータ事例集WIkiでも救えない存在についてはどう思う?

できることからやっていきたいと考えています。

Q:アクセス数はどんな感じになってますか?

4月の日別アクセス数です。2月28日のリリースから4月23日現在までのトータルのPV数は55万くらいになりました。

Q:投稿された記事は全部読んでいますか?

はい、全部読んでいます。

 
  • いなご

    「健常者」という存在への価値判断を軸にした言葉だと、あんまりよくない気がします。

    いろんな事情でコミュニケーションが不器用な人間(状態)であること、それ自体は多分悪いことではないので…(事故りやすいので注意したいというのはあるけど)。

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健常者エミュレータの高度化とその手段について

はじめに

 健常者エミュレータは経験を通じてレベルを上げることができる。より効率的にレベル上げを行うためには、具体的にどのような能力を高めるのか、明確にする方がよいだろう。したがって、この文章では、まず健常者エミュレータの「高度化」を行う際のポイントについて説明し、Range(範囲), Accuracy(正確性), Integrity(完全性), Durability(耐久性)の四つのポイントをまとめて「RAID」を提唱する。次に、RAIDの各点をどのように高度化していくのか、具体的な手段について記述する。

 

健常者エミュレータ高度化のポイント:「RAID

アクロニムが作りたかったんだよ!!!

"R"ange(範囲):対応できる状況の幅

Range=健常者エミュレータを作動させることができる状況の種類の数

 まず一つ目のポイントが、健常者エミュレータを作動できる状況の種類の数を表す「Range(範囲)」である。例えば「職場での懇親会」や「学校の同窓会」、「初デート」や「風俗で相手と話す時」など、健常者エミュレータが作動する場面は複数考えられる。対応できる状況の幅を増やすのは「健常者エミュレータの高度化」に当たるだろう。

"A"ccuracy:対応の適切さ

Accuracy=対応がどれほど状況に適しているかの度合い

 次のポイントが、状況を所与とした対応の適切さを表す「Accuracy(正確さ)」である。例えば、以下のような状況を考えてみよう。

あなた(男性)は母親の葬式に出ることになり、スーツを着ることになりました。どのようなネクタイを着用しますか?

  1. 赤いネクタイ
  2. 黒いネクタイ
  3. 金色に光り輝く星柄のネクタイ

 この場合最も正確な対応は2の「黒いネクタイ」である。時・場所・場合に応じて(つまり状況を所与として)最も適切な対応を選ぶ能力がAccuracy、正確さだ。

"I"ntegrity:行動の一貫性

Integrity=行動の一貫性、ぼろを出さない能力

 3点目が、行動の一貫性を表すIntegrity(完全性)だ。例えば、もしあなたが親の葬式で悲しそうにスピーチをした後、突然ニンテンドースイッチを取り出し楽しそうにゲームを始めたら、周囲の人間は健常者エミュレータ違反事例と判定するだろう。スピーチで演じた「親が死んで悲しむ息子」と「楽しんでゲームをする人」が同居する場合、一貫性の欠如とみなされる。健常者エミュレータによって導き出される行動はロジックが一貫していなくてはならない。

"D"urability:耐久力

Durability=健常者エミュレータを動作させ続けることができる時間の長さ

 最後が、健常者エミュレータを動作させ続けることができる時間の長さを表すDurability(耐久性)だ。健常者エミュレータを動作させるためには多くの体力が必要になる。また、異常事態が発生した場合は一時的に消耗が大きくなってしまうこともある。消耗を防ぎつつ健常者エミュレータを動作させ続けなくてはいけない。

健常者エミュレータを高度化する手段

 Range(対応できる範囲), Accuracy(対応の正確さ), Integrity(行動の完全性), Durability(健常者エミュレータの動作時間)の各ポイントを上昇させる手段について記述する。

Range:対応できる状況を一つずつ増やす

 Rangeにおいては、対応できる状況を一つずつ堅実に増やしていくことが手段となる。対応できる状況を少しずつ増やしていくと、「ある状況で行った対応」を基にして、「別の状況での適切な対応」を推論できるようになる。例えば、面接でやったコミュニケーションのやり方を基に、大家に対して設備のトラブルを伝えられるようになったりする。

AccuracyとIntegrity:PDCAサイクルを回しながら自分の経験値を増やす

 Plan(計画)→Do(実行)→Check(反省する)→Action(改善)→Plan...のPDCAサイクルは健常者エミュレータの高度化においても有効である。自分の行動に健常行動ブレイクポイントが含まれていなかったのか「振り返り」を行い、反省点を導く。反省点を踏まえ、次の行動を修正する。こうしてAccuracyとIntegrityは上昇する。

Durability:少ない耐久値でやりくりする

 ここで新規概念を導入し、「健常者エミュレータを動作させるために必要な体力」を「CP(コミュニケーションポイント)」としよう。生まれついてのものなので、CPの最大値を増加させることは難しいだろう。しかし対策はある。少ない耐久値でやりくりできるようにすればよい。

具体的な手段としては

  • 適度に休憩をはさみ、CPを回復させる
    • 良く寝る
    • 飯を食べる
    • 気分転換をはさむ
  • 一度のコミュニケーションで減少するCPを減らす
    • パターンを内面化する(後述)
  • 自分がCPを消耗する状況はどのような状況なのか特定する
    • CPを消耗しやすい状況では回避行動をとる
      • 苦手な話題が来た場合はしゃべらないようにする、など

などがある。

「型」を通じた内面化

「型」とは、

  • 状況
  • 状況に対する行動
  • その行動をした理由

の組み合わせの中でも、状況に応じていて適切なものである。型を体得することで、RAIDをすべて上昇させることができる。型になりうるのは、健常者エミュレータ事例集Wikiにある項目や、過去の自分や他人の経験から導き出される反省点である。

おわりに

 以上、健常者エミュレータを高度化させる際に重要になるポイントと、具体的な高度化の方法について述べた。健常者エミュレータを高度化させる際には、「Range(範囲)」「Accuracy(正確性)」「Integrity(完全性)」「Durability(耐久性)」の四点に気を付ける必要がある。この四点は、対応できる状況を一つずつ増やすこと、PDCAサイクルを回しながら自分の経験値を増やすこと、もしくは「型」を「状況」・「状況に対する行動」・「その行動をした理由」の組としてとらえ、脳内に組み込むことで高めていくことができる。

 健常者エミュレータを高度化する際のポイントや、高度化の具体的方法に関しては議論が抜け落ちている可能性がある。指摘等あればTwitterのDMまでお願いします。

 

全裸大学生男性と全裸中年男性

夜中の12時。ストロングゼロを片手に全裸の大学生男性が公園を散歩している。暗闇の奥から近づく白い塊。目を凝らしてみると、全裸の中年男性であった。

「おじさんは未来から来たんだよ」

毎日鏡で見る目元と同じだった。大学生男性は中年男性が誰なのか理解した。形のない絶望は今や現に存在する苦痛となり、脳に直撃する。苦痛は悲しみへと変わり、大学生男性は膝から崩れ落ち、涙を流した。

「嘘だ!あそこには夢があって、希望があって、未来があって...」

「おじさんはそこから来たんだよ。未来には枯れ野しかないんだよ」

 

健常者エミュレータ事例集Wikiが作られるまでの話

はじめに

健常者エミュレータ事例集Wikiが作られてから一週間がたった。最初は経験談を共有してくれる人が誰一人いないのではないかと不安に思ったが、ユーザーのみなさまのおかげで今までに120近い経験談が共有され、管理人は驚きと歓喜と感謝の感情のカクテルに飲み込まれている。三つの感情それぞれを個別に感じることはあったものの、同時に感じたことはなく、未曽有の不思議な感覚を体験しているが、経験談を投稿してくれたり、掲示板でより良い運営方法を提案してくれたユーザーのみなさんに感謝したい。

healthy-person-emulator.memo.wiki

さて、公開から一週間経ったので、このWikiが設立された背景を今一度まとめてみたいと思う。現段階で記録と記憶を整理して今後の基盤とするのが当記事の目的だ。最終的にこのWikiが公開停止になれば、「かつてネット上で少々変わった取り組みがあったんだよ」という思い出になる。続いていくとすれば、礎となるだろう。停止になるか続くかは現段階ではわからないし、乱数で決まる未来のことは考えてもしょうがないのだから、せめて記録を付けるだけでもしようというわけだ。

「健常者エミュレータ」の概念

まずは「健常者エミュレータ」という概念がどうやって生まれてきたかについて書こうと思う。Google検索してみると「健常者エミュレータ」という概念自体は以前から存在していたことがわかる。例えば、こちらのブログは2018年3月に書かれたものだが、「健常者エミュレータ」という言葉が登場している。このブログの中では「健常者エミュレータ」は発達障害者が健常者を模倣する際に使う思考装置として定義されているようだ。

simasimakyoh.blogspot.com

Twitterで「健常者エミュレータ until:2022-2-28」と調べてみても同じことがいえる。数多くあるためすべてを引用することはできないが、例えば2018年3月のツイートにはこのようなものがある。

 

カンがいい人は気づいただろうが、「健常者エミュレータ」はコンピュータ技術の「エミュレータ」や「仮想化」のアナロジーだ。筆者は「エミュレータ」と聞くとゲーム機をPC上で動かすエミュレータが思い浮かぶ。例えば、PCでプレイステーション2が遊べる「PCSX2」や、名前は忘れてしまったがゲームボーイアドバンスエミュレータなどだ。また、コンピュータでよく遊んでいる人やエンジニアの人、コンピュータサイエンスを学んでいる人は「仮想化」を思い出すだろう。自分の人格をホストOSに、エミュレータをゲストOSに見立て、ホストOS上(自分の本体の人格)上でゲストOS(作られた健常者の人格)を実行するというわけだ。肉体をハードウェア、人格をオペレーティングシステムに見立てている。

つまり、「健常者エミュレータ」という概念は以前から存在していた。しかし、まだ知る人ぞ知るネットミームに過ぎなかった。理論的な精緻さに欠け、実装が容易ではないと筆者は思ったため、このブログを書いた。2021年6月のことである。

contradiction29.hatenablog.com

健常者エミュレータの弱点

健常者エミュレータの致命的な弱点は計算量が大きいことだ。健常者っぽいものの考え方を模倣することはできないことではないが、意識的に行い続けることは脳内の思考資源を大量に使ってメチャクチャ疲れるし、反応が遅すぎて実用に耐えない場合もある。筆者が健常者エミュレータを本格実装したのは就職活動がきっかけだったが、健常者エミュレータをフル稼働させて面接をした日は疲れすぎてベッドから全く動けなくなる日も多かった。

しかし、弱点を克服する方法は存在している。一つは技術を用いること、もう一つは経験則に基づく解法を構築することだ。

「技術を用いる」とは、例えばSiriを活用してリマインダーを設定したり、Google カレンダーで予定を管理したり、Pythonで書いたコードをAWS Lambdaで定期的に実行して定型タスクを自動化したりすることを通じて、「予定を忘れない」や「遅刻をしない」などといった行動をできるようにすることだ。すべてを自分の脳内で実行する必要はない。今はITが普及してスマホ普及率が9割を超えた時代だ、使わない手はない。テクノロジーは使い方さえ身に着けてしまえば強力な味方になってくれる。人間ではないのだから私情を挟むことはないし、コンパイルエラーを起こすことはあってもコミュニケーションに失敗することもない。以下の記事とコメント欄は示唆に富んでいる。

healthy-person-emulator.memo.wiki

事例集をつくろう

健常者エミュレータ実装の弱点を克服する二つ目の方法は「経験則に基づく解法を構築すること」なわけだが、言うは易し、行うは難しである。人間は基本的に分身できないのだから自分は独りしかおらず、経験の幅は限られてくる。SFでおなじみの集合的自我を構築できるエスパー種族でもないし、攻殻機動隊みたいな電脳化技術はまだ実現されていないのだから、相手の脳にダイレクトアタックして経験を伝えることもできない。なんと不便な種族だろう。

そういうわけで解決策を探していたのだが、「ネット上で事例集を構築すればいいのではないか」という考えに至った。当初は「GitHubで世界のネタバレを集積しよう」と主張していたらしい。

 

実際に構築することなく、年をまたいで2022年の2月になった。ある日、Twiiterのスペース上で健常者エミュレータの弱点の話をしていたら、ある方から「事例集を構築したらいいんじゃないか」と言われた。

問題なのはどのように構築するかだった。当初のアイデアGitHubでのドキュメント化だったわけだが、GitHubの利用にはGitHubアカウントが必要だし、Git用語(プルリクエスト、マージ、レポジトリ....おお、Gitよ!)は使ったことがない人にとってなじみがない。事例集の成否はいかにしてユーザーに投稿してもらうかにかかっているのだから、GitHubは手段として適さないということになった。じゃあWikiでいくかということになった。いろいろ調べてみるとSeesaa Wikiというのが良さそうだ。そしてとりあえず寝て気分を落ち着けた後実際に作り、今に至る。

 

おわりに

最近気づいたが、程度の差はあっても人はみな健常者エミュレータを働かせて生きているらしい。コミュニケーションがすごく得意な(と筆者は思っていた)友人に健常者エミュレータの話をしたら「俺もそういうのは考えてるよ」と言っていた。エミュレータを意識的にフル稼働させなければ会話できない人、無意識で稼働できてしまう人など、いろいろな人がいるようだ。

「健常者」は経済学における「競争均衡」のような概念で、理論上想定されたモデルにすぎない。純粋な健常者などどこにもいないのだということははっきりさせておきたい。総理大臣だろうが大統領だろうが、誰もがどこか異常性を秘めており、完全な異常者もいなければ完全な健常者も存在しない。二つ以上の顔を持つのは自然なことだ。筆者のバイト先の上司は技術者としては素晴らしい人で、あらゆる困難を快刀乱麻の鮮やかさで解決して見せる姿には惚れ惚れしたが、管理職としては最悪の人間でコミュニケーション能力が破綻しており、全職員からプレデターみたいに嫌われていた。ある一面では健常者なのに、別の一面では完全な異常者だった。健常者と異常者は二項対立的な概念ではなく、相互に絡み合った概念であり、時に同じコインの裏表のような関係になることだってある。

だがそれでも、意思疎通を図るために最低限必要な約束事やルール、守ったほうが良いことは存在しており、それらの規則は所属しているコミュニティやTPOに依存している。すべての解は状況や文脈に依存的であり、あらゆる状況において有効な解は存在しないし、求めるべきでもない。だからこそ、集団で知見を蓄積することが必要だ。なるべく多くの、たくさんの状況における知見を蓄積し、ドキュメント化して誰でも見れるようにすれば、救われる人もいるかもしれない。自分の経験なんてと思うかもしれないが、まずは投稿してみてほしい。匿名だから大丈夫(プロバイダ責任制限法に引っかからなければ)。ウケ狙い投稿でも大歓迎だ。動機などどうでもよい。

健常者エミュレータ事例集Wikiに投稿する方法はトップページの「新規ページの作成手順」に載っている。遵守事項や禁則事項はすべてガイドラインに整理してあるから、投稿する際は参照してほしい。トップページ下部のFAQも参考になるかもしれない。

healthy-person-emulator.memo.wiki

healthy-person-emulator.memo.wiki