森に沿って佇むこの家では、緑に包まれているのに、どこか船に乗っているような感覚にさせてくれます。
それはとても安心できる感覚と、パワフルな緑がくれるエネルギーに満ちています。まるで母なる抱擁感のある海と、力強い父のように勇ましい波を感じさせるとでも言いましょうか。
「海と山どちらが好きですが?」って鎌倉・湘南界隈で家探しをする時によく聞くのですが、答えはひとつじゃないんだなと、あらためて思い知らされます。つまり山でも海を感じることはできるのです。と言うか、実際に海見えてるんです。
この家は葉山の山側なのに綺麗に海が見えるポジションにあります。そんな恵まれた地に建つこの家のコンセプトはとっても端的なもので、施主と作り手にとって「お互いに、作品になる家にしましょう!」でした。なんて清々しい。
その声に共鳴した協力者がどんどんと増えていき、この家は作られていったそうなのですが、その関係者がまた豪華。なんだか聞いているうちに、某海賊マンガの英雄たちが集まって、本気で家を作ってみたらこんな家になりました。みたいな感じがしちゃったんですよね、楽しそぅ!
お庭の植栽は、最近話題の場所でよくその名を耳にする植栽のプロ集団によるもので、オーストラリアからやってきた緑たちが「この庭でなら、育つのではないか」と、実験的に植樹されたものから、結果的にここ以外の場所ではなかなか育たないめずらしい品種まであるらしいです。
植栽に詳しくない私でも、この庭は独特であることは分かります。たくさん教えてもらったのですが、個人的にはモクマオウという赤い花がきれいな松の木みたいなものと、バンクシアというパワフルな木、スノーインサマーあたりが好きになりました。
建具は製作家具などを得意としている家具屋さんによるオーダーメイド。この建具が船っぽさを生み出している要因のひとつです。ただこの船室(ワークスペース)から見えるのが海原ではなく、圧倒的な緑というのがしびれます。これによって森を泳いでいる楽しさがあるのです。
建具だけではなく、家の内と外があまりパッキリと分かれないような工夫は、外部用の素材を室内の仕上げにも連続させて使っていること。壁材や床のテラコッタタイルも室内や外部テラスで同じものを使うことで連続性を生み出しています。この床は上階でも使われていることで、さらなる一体感があるのです。
そんな強烈な個性が集まって、この家づくりという作品が出来上がっていったのです。
建物の構成を説明すると、1階は親世帯+子供の部屋として計画されています。つまり上下階で世帯を分けることも可能で、二世帯住宅として暮らすことができます。下の階は緑に包まれる感じでまた良いです。そして収納がたっぷりであることもポイントです。
2階へは無骨な木の塊でできた階段を上がるのですが、この階段室および中廊下は前述した室内なのに外部と同じ床壁で作られています。これにより、家に入ってしまったら箱の中。という感覚から解き放たれるのです。階段を上がるたびにFIX窓から見えるド迫力の緑は、まるで緑のシャワーです(写真17枚目右)。
そうして階段を上り切り、視線を曲げると、そこにはとっても開放的なリビングが姿を現します。このリビングは船で例えるなら甲板ですね。とっても豪華な甲板です。写真8枚目がその風景なのですが、縦横方向の広がりや奥行きのデッキなど、少し床のレベルを変えた構成は、写真ではどうしても伝えられない空間ですので、一度体験していただきたい。
リビング隣接のデッキはまさに緑の海を航海する甲板の先端のよう。そしてそこから視線をずらすと本当の海が遠望できるのです(写真4枚目)。こんな家があるんですね。森を泳いでいたら海に出会える船のような家、いいですね。実にいい。
この海が見える外部は間取図ではアウトドアリビングと名付けられていて、ベンチでダイニングテーブルをぐるりと囲んでいて、真ん中にパラソルを立てられる仕組みになっているようです。ちょっと補修がてらペンキで塗装してみたくなりますね。そこに植栽も置いてみたい。夕暮れのマジックアワーを過ぎた頃には、キャンドルを並べて、チルアウトタイムを楽しんでもらえるのではないでしょうか。
室内に戻ると、勾配をつけた木製の天井と上げ下げ窓によりダイニングも客船のレストランのようです。連続するキッチンもまたおしゃれで料理作りのモチベーションがあがりますね。パントリーの作り方も玄人好みなのでは!?
リビング・ダイニング・キッチンの中央には薪ストーブが置かれ、このストーブもまた立派で、下の扉ではピザを焼くこともできるそうです。
そんな訳で、この家には多くの人が集まりそうです。庭でもデッキでも、リビング、ダイニングとそれぞれの空間で景色を楽しみながらごはん食べたり、語り合ったり、黙って夕暮れの風を浴びたりすることでしょう。 |