シェリー・ポッターと神に愛された少年   作:悠魔

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6.トリック・オア・トロール

マルフォイが決闘と称してシェリー達を嵌めた夜。マルフォイにとっては残念な結果に終わってしまったが、彼女達にとっては三頭犬と出会った事もあり……結果、三人は微妙な関係になってしまった。

 

シェリーとハーマイオニーは、ハーマイオニーの方が避けるようになり。

ハーマイオニーとロンは、顔も見たくないといったようにお互いを嫌悪しており。

シェリーとロンは仲良く話すかといえば、お互いに少し遠慮がある。

 

間にネビルや双子などのグリフィンドールの友人達が入って仲裁しているが、結果は芳しくなく……効果は薄いようだ。そもそも内気なシェリーと頭でっかちなハーマイオニーには友人が少ないので、間に入る人間自体が少ない事も起因していた。

 

ニンバス2000をマクゴナガルから贈られた時は酷かった。赤髪の美少女は一瞬、その端正な顔を存分に緩ませた後、嬉しいやら自分には勿体ないやらで混乱し始める。そんな彼女をよそに、グリフィンドールは大興奮。

ハーマイオニーはいつもなら「一年生は箒を持ってはいけないという規則があるのに!」とぷんすかしていただろうに、その日は何も言わず。

ロンも一緒に喜び騒ぎたい気持ちがあったのだろうが、喧嘩している手前、物凄く複雑な面持ちを浮かべる他なかった。

 

「パーシーから聞いていますよ。ロナルドとグレンジャーがまた喧嘩したとか。それであなたが仲裁しようとして、話がこじれたそうですね?」

「はい……、私が余計なお節介を焼いたんです。二人は口論する事はあっても、まったく口を利かなくなるなんて事はなかったですし……」

「貴方のその行動を咎める者は誰もいません。ですが、あまりよろしくない傾向にあるのも事実ですね」

「………、どうすれば解決できますか?」

「どちらかが非を認めて早めに謝るか、もしくは時間が解決するか。そのどちらかです」

マクゴナガルはため息をついた。

 

だからこそ、と言うべきか。

呪文学の授業で、ロンとハーマイオニーがペアになった時は、誰もが悪夢と思ったものだ。

「……………」

「……………」

「だ、大丈夫かな、あの二人」

「ま、まあ、この授業の間くらいなら大丈夫じゃないかな」

「本日の授業は浮遊呪文のウィンガーディアム・レヴィオーサ!手はビューン、フォイ!の動きですぞ!」

「……………」

「……………」

「おい、見ろよネビル。あの二人、さっきから少しも隣を見やがらねえぜ。ロンなんか久しぶりにまともに授業受けてんじゃねーのか」

「うるさいな!ベガ!」

「うるさいわ!ベガ!」

「そこ!お静かに!」

 

浮遊呪文の実習が始まると、そこかしこで詠唱が始まり、教室内は騒然となる。呪文を成功させているペアはまだいないようだが、一番最初に成功させるのはベガとハーマイオニーのどちらかだろうと言われていた。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!うーん、分かっちゃいたけど上手くいかないや。ベガ、何かコツとかないのかなぁ」

「杖の振りを意識するように、だ。羽根を糸で巻き取るような感覚でやってみろ」

「羽根を……糸で……」

「あん?」

「ベガ、頭の中で想像したら糸が絡まっちゃったよ!」

「この野郎……、見てろ、こうやんだよ」

 

「もう!そんなに杖を振り回したら危ないじゃない!」

「なんだよ!」

「それに、貴方のはレビオサーよ!いい?正しい呪文はレヴィオーサ、よ!」

「なにさ!そこまで言うならまず自分がやってみろよな!」

「………、分かったわ。見てなさい」

 

「「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」」

「おおーっ!ミス・グレンジャー!素晴らしい浮遊呪文ですな!おお、ミスター・レストレンジも成功させましたか!グリフィンドールに15点ずつあげましょう!」

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

ロンの自尊心は深く傷ついていた。

それもこれも、ハーマイオニーのせいだ。彼女が自分の中の何かを狂わせたのだ。

彼は半ばヤケになって、ぶちまけるようにしてシェーマス達に存分に愚痴っていた。

「あなたのはレビオサー、だってさ。まったく。悪夢みたいな奴さ」

ぶちまけた結果、どうなったか?

自分の声が聞こえていたのか、ハーマイオニーは泣いて、逃げるようにして歩いていった。

 

「ロン………」

その様子を見ていたシェリーは一瞬ロンの方を振り返った後、彼女を追って走っていった。

責めるわけでもなく、非難するわけでもなかったが、悲しそうな目をしていた。

 

「あ…………」

そこで漸く、自分が実に幼稚な事をしているかに気がついた。兄達に口を酸っぱくして言われた、「女には優しくしろ」という言葉を思い返していた。

ーー馬鹿か、僕は。

真っ赤だった顔は青白くなっていた。

 

「そりゃあ、お前が悪いな、ロン」

「謝るなら早いうちがいいぜ?」

「お前もジニーの兄貴なら、女の子の扱い方ってもんを学ばないとな」

パーシーやフレッドやジョージは、そう諭した。

その通りだ。その通りなのだが……。

 

ハロウィーンのパーティが始まっても、二人はどこかに行ったままだった。

彼女達ともう一度話せるのならば、ロンとしては大衆の前で謝る事も吝かではなかった。そりゃあ恥ずかしいが、そもそも彼女達に恥をかかせたのは自分である。それで仲直りできるのなら安いものだ。

だが、いくら待っても、シェリーもハーマイオニーも来なかった。パンプキンパイは美味しく感じられなかった。

 

そんなロンの下に、女の子を何人も侍らせてベガがやって来た。

ロンからしたら相変わらずのクソ野郎っぷりである。落ち込んでる時に来ないでほしい。そのモテっぷりを見るともっと落ち込む。

 

「あー、ほら。悪ぃな。後でな?夜はまだまだ長いんだからよ……っと」

ベガは隣に座った。

「……ベガ。君、いつの間にあんなに沢山の女の子を口説き落としたんだい?いつもネビルの世話を焼いていたように思うけど」

「お前が見てねえ所でやる事やってんだよ」

やる事とはなんだろう。双子に聞けば教えてくれるだろうか。

 

「女の口説き方聞いてどうすんだ?シェリーかハーマイオニーでも落とすつもりかよ」

「………」

本題はそれか。

ベガがモテるのは、非常に整った容姿や、不良っぽい性格、それでいて学年トップの天才という要素があるからだろう。

だがそもそも、彼も悪い奴じゃないのだ。いつもネビルと一緒に過ごしているのは、決して自分の引き立て役として置いているからではない。彼にとって大切な友人だからだ。

 

だから、これも、からかいに来たのではなく。心配して来ている事がロンにも分かる。

 

「……シェリーの眼、さ。ママが怒る時みたいじゃなくって。本当に、悲しそうな眼をしてた。責めるとかじゃなくって。泣きそうな眼をしてたんだ」

「…………」

「僕、ハーマイオニーに悪いことしちゃったなあ……僕って最低だ、ホントに」

 

ベガは言い聞かせるように言った。

「今回の件は遅かれ早かれ起きてた事だ。ハーマイオニーが高慢ちきな野郎で、クラスから浮いてたのは事実だしよ。同学年の奴等も同部屋の奴等もそう思ってた筈だ。なのに俺達はあいつの事を今まで放置してきた。だからお前一人が責任感じて気に病む必要は無えんだぞ」

「…………」

確かにそうかもしれない。

でも。

「………切っ掛けは、僕なんだ。僕があんな事言わなけりゃ、彼女があんなに落ち込むことも無かったんだ」

 

「……今さっきラベンダーから聞いたが。ハーマイオニーは今トイレで泣いてる。シェリーはそれを追いかけたみてえだな」

「!」

「後の事は知らねえよ」

「ありがとう、ベガ!僕、すぐ行くよ!」

「ハッ、女子トイレに入るってのか?」

「ハハッ、それは流石に無理だ」

 

気が楽になった。

仲直りしたら、彼女達ともこんな風に喋れるだろうか。くだらない話をしたい。シェリーとクィディッチの話題で盛り上がるのもいい。一回くらいならハーマイオニーと勉強を一緒にやってもいい。ロンはそう想っていた。

 

 

「トロールがああああああああ!!!!」

 

 

ーーーその声を、聞くまでは。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

女子トイレの中から啜り泣く声が聞こえた。

普段は気丈に振る舞っているけれど、ハーマイオニーも、泣く時があるんだ。

私も、こんな風に泣いていた頃があったっけな。

 

「ハーマイオニー?」

「グスッ、その声、シェリー?」

「うん。……中、入ってもいい?」

「………いいわよ」

 

便座の上で、ハーマイオニーは泣き腫らしていた。

私にそんなところを見せたくなかったのか、涙こそ拭っているけれど、今にも瞳から溢れて零れ落ちそうだ。

……私なんかに、気なんて使う必要ないのに。

彼女の髪は僅かにシャンプーの香りがした。

 

「シェリー……?」

「小さい頃ね。男の子に意地悪されてた時、いつもこうやって、誰かに抱きしめてほしかったの。そんな人、いなかったから。毛布の中にくるまってたんだけど……」

「……………」

「私は問題を解決する力も、意地悪した子に怒る度胸もないけれど。こういう時に何をしてほしいかくらいは、わかってる、つもりなんだ。私が、そうだったから。ね?ハーマイオニー」

「…………」

「私は、今、ただの毛布かなんかだから。いつもの頑張り屋さんなハーマイオニーじゃなくって、弱音ばっかりの女の子でも、いいんだよ?」

「…………、シェリー……」

 

私はハーマイオニーが強い人だっていう事をよく知ってる。お勉強ができて、皆んなに注意できる、先生から人気の優等生。

だけど、この子の弱いところを私は知らない。実は寂しがりやで、男の子に意地悪されたらトイレに篭っちゃうような、泣き虫のハーマイオニーを知らない。

だから、私にも教えて欲しい。

 

「……私、勉強する事が好きで。他の人もこの楽しさを知るべきだ、って思って。それが空回りしちゃって………」

「うん」

「先生、だけじゃなくって。他の子とも一緒に遊びたいの。優等生だなんて言われているけれど、私、皆んなに憧れてるの」

「うん」

「だ、だからっ、ロンにきつく当たったのも悪気は、っ!なくってぇ……!」

「そうだよね。認めてもらいたかったんだよね。友達が欲しかったんだよね……」

 

上手く、できてるかな。

私がされたかった事を、果たして人にできてるのかな。そうだと良いんだけれど。

 

「………ふーっ。ありがとう、シェリー。こんなに泣いたのなんて、久しぶりだわ」

「もう大丈夫なの?」

「ええ。……ロンにああ言われたのはショックだったけれど。今にして思えばバカバカしいわ!後でガツンと言ってやるんだから!」

「あはは、その意気だよ。ハロウィーンのごちそうがまだ残ってるかもしれないから、早く行こう?」

「ええ、そうね……あら?」

「?どうかしたの、ハーマイオニー」

 

「いえ、なんだかとても臭くって。何日も洗ってない、雑巾のような……、ここって、こんなに臭かった、かし、ら……」

「………ぼあああああああっ」

「あ、あーーー」

 

目の前の醜悪な巨人を見て、悲鳴を上げた。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「僕、行かなきゃ!」

シェリーとハーマイオニーは、トロールが出た事を知らない。その事実を知った時、ベガが止める暇もなく、ロンは女子トイレに駆け出していた。

別に放っておいても誰も責めない。だがそれでも、彼は二人を助ける方を選んだ。

 

(くそっ、こいつもか。俺より弱いくせに、何でそんな『勇気』が湧いてくるんだ!)

 

飛行訓練の時と同じだ。

シェリーもロンも、大して抜きん出た能力も才能もあるわけでもない。なのに、土壇場になると勇敢になれる力がある。

そんなもの、才能に恵まれたベガが黙って見過ごす訳にはいかないのだ。

 

(ネビルは監督生について行っているようだな。ああ、それでいい。それが正常なんだ。どうかしてるのはこっちだ……)

ロンに追いつくのは簡単だった。

「べ、ベガ!?何でここに……」

「てめえ一人でトロールをどうにかできる訳ねえだろうが!俺も行く!」

「………、ありがとう、ベガ」

 

銀髪美少年はフンと鼻を鳴らした。

走った。走って、走って、ーー見つけた。

女子トイレの中で暴れる巨漢。そして、必死に抵抗するシェリー達。

トロールを見てロンは悲鳴をあげそうになったが、直後に怯える二人を見て闘志が戻る。

 

「向こうに、お願い、向こうに行って!『コンフリンゴ』、『インセンディオ』!」

「シェリー!!ハーマイオニーッ!!」

「ロ……ロン!ベガ!」

シェリーはなんとかトロールにも対抗しているようだったが、トロールの分厚い皮膚は彼女の魔法を通さない。

 

「俺がトロールを相手する!ロン、テメエはシェリーとハーマイオニーを連れて逃げろ!」

「君一人でやるつもりか!?そんなの……」

「俺にできねえ事なんざねえんだよ!」

ベガは杖を構えた。

「テメエがあの二人を守るんだよ!行け!ロン!」

「ーーっ、分かった!」

 

二人をロンに守らせて、ベガはトロールと対峙する。

さて、こいつをどう処理するか。

 

(近くで見ると本当にデケエな。小山くらいの大きさはありそうだ。それにシェリーの攻撃が通じないくらいには頑丈みてえだな)

「だが、それなら、シェリー以上の威力で攻めるだけだ」

獰猛な目だった。

マルフォイやスリザリン連中を返り討ちにする時とはまるで違う、本気で勝ちを狙う目。

ベガがいくら才能があるとはいえ、まだまだ子供。だがそれを踏まえた上で、彼は勝つつもりなのだ。

彼達は目の当たりにする。これが天才、ベガ・レストレンジの力なのだと。

「ーーー『コンフリンゴ』」

 

その爆発自体は小規模なものだったが、込められた魔力の濃度は段違いだった。

トロールの肩が、文字通り丸く『抉り取られる』。コンフリンゴはシェリーも使った。しかしーーこれほどの差が出るものなのか。

「ぐぎゃああああ!!」

右肩がやられれば、当然次には左から攻撃が飛んでくる。その行動を読んでいれば、容易に攻撃は躱せる。

 

その上ーー彼の反応速度は、人間のソレを超えている。『究極の後出しジャンケン』を持つ彼に、並みの神経速度で戦おうとする事自体が間違っている。

 

「エクスペリアームス!」

「ぎぃああっ!!」

(ッチ。『武器解除』の効果は薄いか)

そもそもが魔法使い同士の決闘の際に用いられる、居合のような魔法だ。デカブツ相手では火力不足もいいところ。

ーー思考を立て直せ。

ーー自分が使える魔法はまだ少ない。配られたカードでビックリ芸を見せてやれ!

 

ここで重要なのは、全員無事で逃げる事。トロールを倒すのは二の次だ。狭いトイレ内で時間稼ぎをするのにも限界がある。

 

(なら、トイレから出れなくしてやる……!)

「!」

手順その一。

「インセンディオ!」

火で相手を追い込んでやる。野生の獣は火を恐れる傾向にあるが、この醜い巨人も例外ではないようだ。予定通りの場所に、まんまと誘い込まれる。

 

手順その二。

「ディフィンド!」

相手の眼の神経をズタズタにしてやる。身体の内部からの攻撃ならば、魔力も格段に抑えられる上に効果も見込める。

「ぐぎあああああ!!!」

その際、必ず相手は目を抑える。知能が低い生物ならば尚更そうする。

(視神経をズタズタに切り裂いた。目はもう見えねえ筈だ)

 

そして、最後の手順ーー。

(これだけの巨体だ、身体を支える自重は相当のもんだろう。それだけに……一度倒れてしまえば起き上がるのは難しいはずだ)

「ブチ潰してやるぜ。『コンフリンゴ』!そして……『フリペンド』!」

 

爆発で手洗い場を破壊し、ありったけの衝撃でトロールを『仰け反らせる』。

水場で濡れている事もあって、体勢を崩してしまえばすぐに倒れてしまう。そしてーー爆発でできた穴に、沈む。そこはベガが作った棺桶だ。

 

「ごぎゃああああ!!」

「そこで大人しく寝てやがれ、ボケッ!」

完封。

誰一人欠ける事無く、ベガはトロールを無力化してみせた。

とはいえ少し魔力を使い過ぎた。彼にとっては、初めての魔法を使った戦闘だ。その上、喧嘩慣れしているとはいえ、命のやり取りは経験がない。

だから、もうここあたりが限界だった。

だが勝った。ベガは勝ったのだ。

 

「おい、お前達、今のうちだ。今なら安全に逃げられる、行くぞ!」

「う、うん!」

シェリーもロンもハーマイオニーも、ベガの勝利に安堵していた。

ベガも気を抜いていた。

誰もが思ったのだ。

よかった、皆んな無事でーーと。

 

「ごががががああああああ!!!」

「ーーーえ?」

「ーー!!シェリー、避けろっ!!」

 

出口を塞ぐようにして、トロールが『もう一体』現れた。

目の前に現れた獲物を前に、手に持った棍棒を振りかぶって。

 

ーーそのまま、振り下ろされた。




主人公二人いるんで、せっかくなんでトロール増やしてみました。欲張りハッピーセットお買い得やね!

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