シェリー・ポッターと神に愛された少年   作:悠魔

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5.夜の三頭犬

授業を重ねていくうちに、今年のグリフィンドールには二人の首席候補がいるらしいと噂になった。

 

一人はハーマイオニー・グレンジャー。自他共に認める本の虫で、授業でも積極的に発言し、非常に勉強熱心。たとえ休日だろうと予習復習を欠かさず、図書室にうず高く積まれた本があれば、そこにハーマイオニーがいるとみて間違いない。

しかし周囲との折り合いは悪く、彼女と友達と言えるのはシェリー・ポッターだけ。かくいうシェリーとの会話も勉強の話題がほとんどで、女子らしい話はしてないそうだ。(もっともシェリーが女子らしさに疎いのもあるが)

 

そしてもう一人はベガ・レストレンジ。ハーマイオニーを秀才とするならば、彼は天才だ。彼女のように勉強熱心なわけでもなければ、図書室に入り浸る事もない。だが、授業で指名されれば完璧に答えられるし、魔法も完璧にこなす。おそらく、授業で点数を稼いでいるのはハーマイオニーかベガのどちらかだ。

そして、最も減点されているのも彼だ。彼の尊大な態度に不興を買ったスリザリン生を返り討ちにする光景を何度も目撃されている。手加減はしているようだが、おかげですっかり不良生徒という認識だ。ただし、グリフィンドールではちょっと悪い男の方が人気が出るので、むしろモテる。

 

一応、減点された分は授業で稼いでいるので実質差し引きゼロなのだが……。

 

そんな身勝手な天才・ベガは、ドラコからしてみれば目の上のタンコブでしかなかった。彼を見つけるやいなや、クラッブとゴイルを引き連れて煽りにかかる。

「おやおや、誰かと思えば!出来損ないのロングボトムに、純血の恥晒しのレストレンジじゃないか!」

「え?」

「あ?」

「な、なにさ。やめろレストレンジ、そんなに睨むのは。フォイ。まったく、身内にこんな人間がいるなんて信じられないよ」

尊大な態度ではドラコも負けてはいない。無謀にも、嫌味たっぷりにベガを挑発する。

 

「……身内?」

「純血魔法使いには、純血を絶やさないようにって言って、近親同士で結婚する人が多いんだ。馬鹿馬鹿しい考えだけどね。たしか、マルフォイのお父さんは、ブラック家の女性と結婚したから……」

「うわっ、あいつが従兄弟?最悪じゃん」

「こっちの台詞だ!」

 

「君みたいな奴は、さっさと荷物を纏めてマグルの所へ帰ったらどうだい?君にはそれがお似合いさ」

「………」

「まあ、どうしてもと言うのならマルフォイ家に招待してやってもいい。どんな形であれ純血には変わりないのだしね」

「マルフォイ家だぁ?笑わせんな。犬小屋の間違いだろ」

「僕の家を馬鹿にするのか?」

 

一触即発の気配。

ベガとドラコは杖を持ち、いつでも相手を呪える体勢だ。ネビルはオロオロしている。

と、そこにマクゴナガルが現れた。

 

「何をしているのです!」

「…………チッ」

「ふん。命拾いしたな、レストレンジ」

「そりゃこっちの台詞だ」

 

「まったく。レストレンジ、これで何度目です?この間もスリザリンの生徒に魔法を使ったそうですね」

「煽ってきたからやってやったまでだ」

「それをやめろと言うのです!ロングボトムも、友人ならば止めなさい!過ちを正すのも友人の役目ですよ!」

「で、でも先生。僕にベガを止めるなんて無理ですよ」

「だろうな」

「そこで意気投合するんじゃありません!」

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

魔法使いと言われて何を想像するだろうか。

とんがり帽子を頭に被って、杖で何やら呪文を唱えるか。あるいは、真っ黒のローブを身に纏い怪しい薬剤を煮込むか。

もしくはーー箒に乗って、自由に大空を駆け回る姿だろうか。

飛行訓練と聞いて、シェリーの心は僅かに高揚していた。

籠の中の鳥と等しい扱いを受けてきた彼女に飛ぶ事に関しての若干の憧れがあったのかもしれない。

 

「ロン!魔法使いのお家って、空飛ぶ箒は置いてあるの?自転車みたいなもの?」

「ジテンシャが何か分からないけれど、普通に置いてあるよ。ウチにあるのは、ボロのやつなんだけどね」

「すごい!じゃあ、ロンも乗れるの?箒!」

「や、実は乗ったことないんだ。チャーリーが得意だったんだけど、僕には危ないって言うんで教えてくれなかったんだよ」

「そうね。あなたってそそっかしそうだもの」

「何だよ!盗み聞きするなよな!」

「いやでも聞こえてくるわよ!」

 

ーー何だかこの二人、目を合わせる度に喧嘩している気がする。

シェリーがハーマイオニーともロンとも話すので、自然と二人も顔を合わせる事になるのだが……お互い相性が悪いせいか口論ばかり繰り返す。

二人には、恋人とまではいかないけれど、仲良くしてほしい。そう思う彼女の願いは叶いそうになかった。

 

「朝からうるせえ連中だな。行くぞネビル」

「ベガ!あなたにも言うことがあるわ!ネビルを腰巾着みたいに連れ回すのはやめなさいよ!」

「こっちに飛び火するのかよ」

「ネビル、あなたもよ?あんまりベガと長い事付き合ってたら、悪い影響受けちゃうわ!」

「あー、でも、ハーマイオニー。ベガと一緒にいれば、絡まれる事はあるけど、彼が絶対に勝つから酷い目に遭う事は無いし……」

「そういう考えが駄目なのよ!」

 

ハーマイオニーのお小言に、返す言葉もないネビル。

まるで小さなマクゴナガルだ。寝食も共にする分余計にタチが悪い。

と、もう一人。マクゴナガル系列の女性が現れた。

マダム・フーチである。

 

「あれが、飛行訓練のフーチか」

「あー、何だか、すごく怖そうな人だね。体育会系だよ、ありゃあ」

「何をボサッとしているんです!」

フーチがぴしゃりと言うと、そこにいる全員は背筋をぴんと伸ばした。

 

「さあ皆さん、箒の横に立ちましたね?よろしい!さあ箒の上に手をかざして!上がれ!と言うのです!」

「上がれ!」「上がれ!」「上がれ!」

あちこちで上がる叫び声。

見ると、大口を叩いていたマルフォイもしっかり箒を手に収めていた。実力は確かなようだ。

「……馬、みたいなものかな。上がれ!」

シェリーの手に、懐いた犬が尻尾を振るかのように箒が収まり。

「上がらねえと殺すぞ……」

ベガの手に、服従した豚が恐れをなしたように箒が収まった。

 

「上がれ!上がりなさい!」

上手くいく生徒もいれば、ハーマイオニーやロンなど、一部の生徒は苦戦しているようだった。

「上がれ!いってぇ!なにさ!顔面に向かって来なくてもいいじゃないか!なにさ!そういうのやめろよな!もう!」

「全員箒は持ちましたね?では合図を出しますから、それと同時に飛びなさい!1、2、さ………ロングボトム!?」

 

フーチが合図する前に、ネビルの箒だけが飛んでいってしまった。

「早く戻って来なさい!ロングボトム!」

そう叫ぶも、緊張からか、ネビルは箒のコントロールがまるでできていない。

ふらふらと飛び回ったかと思うと……妙な軌道を描いて、落下した。

 

「っ、ネビル……」

ベガは苦々しげな声を出した。

「ロングボトム、しっかりなさい!あぁ……この子を医務室に連れて行きます!その間箒で飛んでみなさい!クィディッチのクの字も見れないまま出てってもらいますよ!」

 

グリフィンドールは心配そうにフーチとネビルを見送っていたが、スリザリンは彼を嘲笑していた。

マルフォイに至っては、いつの間に拾ったのか、ネビルの思い出し玉を弄ぶ始末だ。

 

「見たか!?あのロングボトムまの愉快な顔を!この糞玉で箒の飛び方すら忘れちまったか!?ハハハ!」

「待ちなさい!マルフォイ、それを返しなさい!」

「おっと!下賎なマグル生まれめ!近寄るなよ!」

 

「返してほしかったら力づくで取り返してみろ!」

ーーそれがいけなかった。

 

「ッハァ!上等だゴラァ!」

「フォッ!?ちょ、待て、フォオオオイ!?」

ベガの飛び蹴りが炸裂した。いくらまだ体が出来上がっていない11歳の少年とて、普段から荒事慣れしていればその蹴りは強烈。

そのあまりの苦痛に悶絶しそうになるが、マルフォイの無駄に高いプライドがそれを許さず、逃げるように箒に乗って空へ浮かんだ。

 

「ごほっ、は、はははっ!空までは追ってこれないだろう!どうだ!これを返して欲しかったら飛んでみろ!できるものならな!できないだろ!できないよな!?」

悲痛に叫ぶマルフォイ。

彼のヘタレっぷりが存分に発揮されている。これが彼の本領発揮なのだから、悲しいものである。

 

「俺にできないことなんざねえよ。上等だコラ、ぶちのめしてやるよ」

「やめなさい、ベガ!マダム・フーチの話を聞いていなかったの!?退学になるわよ!」

と言いつつ、この不良に説得は無意味だと悟っているのか、ハーマイオニーは箒をがっしりと掴んで離さない。

 

「お前にとってはそっちの方が良いんじゃねえの?手を離せ、ハーマイオニー」

「ああ、もう!やめなさいったら!」

「ハーマイオニー、ベガの言う通りだよ。ここで飛び出さなかったらグリフィンドールの名折れだよ!」

「別にそんなつもりは無えんだが……」

「貴方は黙ってなさい!もう……えっ?」

 

皆、こういう時に真っ先に勝負を挑むのはベガだと思っていた。

事実ハーマイオニーも、それを分かっていたからこそ彼の箒をあらかじめ掴んで止めていたのだ。

だから、気がつかなかった。『こういう時』、自分が動くべきだと理解している人間はもう一人いたのだ。

 

シェリー・ポッターが空に浮かんでいた。

 

「ほう?てっきり、ベガ・レストレンジが来るものだと思っていたが……まさか、シェリー・ポッターが来るとはね。さすがは魔法界の英雄サマだ」

ほんの少ししかホグワーツにいなかったが、彼女はもう十分すぎるほど楽しい思いをしたと感じているし、自分なら退学になっても仕方ないとも思っていた。

なればこそ、の行動だった。

「ドラコ、それはネビルの玉なの。返して」

「フン。取れるものなら……取ってみろ!」

 

マルフォイは思い出し玉を目一杯遠くに向かって投げた。

普通なら追いつく事などできない。それこそ実力のあるクィディッチ選手でもないと、安全にキャッチする事などできないだろう。

だが、彼女に安全にキャッチしようなどという考えはハナから無かった。

 

なぜなら、自分なら怪我をしても良いから。どんな辛い目に遭っても仕方ないから。

彼女の孤独な境遇が、常人では成し得ない行動力を生み出したのだ。

 

「ーーーっ、間に合え!」

シェリーは無意識のうちにその箒の持つ最高速度を引き出していた。

そして……すんでのところで、キャッチ。

勢いがつき過ぎていたためにやや荒っぽい着地になったが、それを差し引いても見事なキャッチだったと言えるだろう。

 

「ほっ、よかった……」

「シェリー!!」

「え?きゃっ!」

シェリーの活躍に獅子寮は湧いた。

「シェリーがやってくれたぜ!」

「すげえよ、シェリー!」

グリフィンドールの面々に囃し立てられ、シェリーは先程までとはまるで別人のようにどもる。

 

そんな彼女を、ベガは複雑な面持ちで見つめていた。

……過去を思い出していた。

(シェリー、あの野郎……シドと同じ眼をしてやがる……)

あの日のことは忘れろ、と自分に言い聞かせた。ベガの舌打ちは喧騒の中に消えた。

 

「すごいよ!シェリーの奴、空中で一回転決めてキャッチするなんてさ!まるでクィディッチのシーカーみたいだ!あぁ、君はグリフィンドールの姫だ!」

「何をしているのです!」

そのどよめきは一瞬のうちに収まった。

我等が寮監、マクゴナガルの登場である。

 

「今日の飛行訓練は初めての筈です!そうですね?シェリー・ポッター!」

「あ、あの、あ、はい」

「前代未聞ですよ!初の飛行訓練で!勝手に飛び出して!」

「せ、先生……あの、私」

「上空から!あんな、あんな小さな玉を!片手でダイビングキャッチするなんて!?なんて事です!ありえますか!こちらへ来なさい!あぁ、ウッドはどこでしたかね……」

スリザリンの落胆の表情に余裕が戻った。

 

「おいおい嘘だろ、マクゴナガルの奴、シェリーを退学にするつもりかい?こんな、こんな、さぁ!ありえないよ!」

「シェリー……!あぁ、そんな……」

(……………その割には口元がニヤついてた気がするがな)

 

 

 

 

 

グリフィンドールに100年ぶりの一年生シーカーが誕生したと知らされた日、談話室ではちょっとした大騒ぎが起こった。(グリフィンドールはいつも騒いでいる)

マクゴナガルは緘口令を敷いたはずだが……いつの間にか、その知らせは、なぜかどこの寮にも広まっているようだった。

 

「ね、ねえ皆んな。私、ほんとはいけない事をしたんだよ?だからそんなにはしゃがなくっても……」

「やったな!シェリー、すげえや!100年ぶりの一年生シーカー!最年少だ、君って最高さ!」

「ほらほらどけい!シェリー・ポッターのお通りなるぞ!」

「我らが姫!シェリーの睡眠を邪魔する気か!」

「〜〜〜っ。み、みんな……」

 

シェリーは顔を真っ赤にして、おずおずと歩いている。あれだけの事をやったってのに、当の本人は大して浮かれてるわけでもない。むしろ恥ずかしがっている。

それは、彼女の元来の性格もあるだろう。だが、あの授業以降、ハーマイオニーがぷりぷり怒っているのも理由の一つだった。いや、それはいいのだが、ロンとハーマイオニーの喧嘩が悪化したのだ。

 

「もう!一歩間違えれば死んでいるところだったのよ!?最悪、退学になるところだわ!」

「死ぬより退学になる方がマシだってのか?そんなに怒らなくってもいいだろ、君。シェリーはすごい事をしたんだ!」

「ね、ねえ二人とも?喧嘩は……」

「「シェリーは黙ってて!」」

「…………はぃ」

 

ロンは家族全員が獅子寮出身ということもあってか、良くも悪くも典型的なグリフィンドール生だ。ルールよりも好奇心や本能に従って行動し、後先など考えないタイプ。反骨精神丸出しのベガや双子にも憧れを抱いているようだ。

反対にハーマイオニーは、とてもお堅い委員長気質で、そういった馬鹿騒ぎを良しとするグリフィンドールでは浮いた存在だ。特に男の子連中からしてみれば、勉強ばかりしている彼女は近寄り難いのだろう。

 

つまりどういうことか。

水と油なのだ。この二人は。

 

「ふん!ところでシェリー、あの糞野郎のマルフォイから決闘を申し込まれたんだろう?当然、受けて立つんだろ?」

「………えっと……」

「シェリー?そんな事に付き合う必要ないわ!断るべきよ!」

「………その……」

「なあどうするんだよシェリー?」

「シェリー!聞いてるの!?」

「わ、私は………」

 

 

 

 

 

(……き、来ちゃった……)

「君なら来てくれると思ってたよ、シェリー!さあ、行こうぜ!」

「あー、うん……」

 

結局、シェリーはロンの誘いを断りきれなかった。ハーマイオニーには悪いが、マルフォイとの決闘を夜の間に終わらせて、何事も無かったかのように寝室に戻れば万事解決。

それに、ロンを説得すればまだ引き下がってくれるかもしれない。そう踏んでの決断だった。彼女としては、ものすごく胃がキリキリするのだが……。

 

「その、ね?ロン。やっぱり夜の間に抜け出すのは良くないと思うんだ。あの時は私一人が退学になればそれで済んだけど、今回はあなたも退学になっちゃうかもしれないんだよ?」

「シェリー、ここまで来てそれはないだろう!それにグリフィンドール生には、やらなきゃいけない時ってのがあるんだよ」

「そ、そうなんだ。初耳……」

説得は不可能なようだった。

 

「ーーえ、ハーマイオニー?」

「やっぱり。シェリー!貴方じゃロンを止められないだろうとは思っていたけれど……」

「なんだよ、また君か!?また邪魔するつもりかよ!」

「ええ邪魔させていただきますとも!ロンに付き合う必要なんてないのよ、シェリー!」

(また始まった……)

これでは昼と同じだ。

二人を落ち着かせるために、何か他の、気をそらせるような物を探してーー

 

見つけた。

太った婦人のいなくなった肖像画。ホグワーツでは絵の中の人物は勝手に動き回り、近くの絵から絵と渡り歩く性質がある。だが、まさか談話室に入るための肖像画がそんな事をしようとは。

 

「………」

「これじゃあ行くしかないね。そうだろ?」

ごもっとも。

 

ロンとハーマイオニーは動く階段を降りている時も、廊下を歩いている時も口喧嘩していた。

管理人のフィルチか、その飼い猫のミセス・ノリスか、はたまた騒ぎたがり屋のピーブスあたりに見つからないよう、慌てず騒がずゆっくり行きたい……というシェリーの打算はあえなく砕け散った。

彼等に捕まれば、ひたすら粘着質に責め立てられた上に減点を食らうのは目に見えているというのに。普段理知的なハーマイオニーに対して、少し感情的になりすぎているのでは?と思わざるを得なかった。

 

決闘を申し込まれた教室に着いた。

ロンの「マルフォイめ、ぎったんぎったんにしてやる!」と息巻いている姿を尻目に扉を開けて、

 

「ほぅれ、来た来た……悪い生徒達め!退学にしてやるぞ!」

 

勢いよく閉めた。

悲鳴をあげそうになる二人の口を塞いで、元来た道を全速力で走って行く。

途中でハーマイオニーがパニック状態から抜け出して、邪魔よけのスペルを使っていなければ二、三回は捕まっていたかもしれない。

 

「な、なんでフィルチが!」

「私達、ドラコに嵌められたんだ!私達とフィルチを呼んで鉢合わせにするつもりだったんだよ!」

「もう!だから言ったのよ!」

「おい、見ろよ!この扉の中に隠れればいいんじゃないか!?……ああっ、ダメだ、鍵がかかってる!もう終わりだ!」

「どきなさい!……『アロホモラ』!」

ハーマイオニーが呪文を唱えると、無機質な鍵の音がして扉が開いた。三人は慌てて中に駆け込むと、中で身を寄せ合うようにして隠れた。

 

「助かったぁ〜〜……」

「はぁ、はぁ……私が解錠呪文を覚えてなかったらどうしていたというの!」

「それは言わないでくれよ……ところでこの扉の中、フィルチは追いかけてこないよな?鍵がかかってる所に逃げ込まないと思うだろうし、さ」

「フィルチは生徒がアロホモラを教えられる事を知っているのよ?いずれバレるわ!」

「………いや………ここは、ここには。フィルチは来ない、と、思う………」

「?どうして、シェリー………あ」

 

六つの目。その全てが、ギラギラとシェリー達を睨みつけていた。

象のように大きく、ゴツゴツと歪な筋肉のついた肉体。黒々とした毛並みーーそれはまさしく、三つ首の悪魔。地獄からの使者。

 

その頭の一つは、涎をぼとぼとと垂らし……久々の『肉』に興奮しているようだった。

その頭の一つは、低く唸って、眠りを妨げた突然の来客に怒っているようだった。

その頭の一つは、カチカチと歯を鳴らし、侵入者を排除せんとしているようだった。

とどのつまり。三頭犬は、襲いかかる気満々だという事だ。

 

「きゃああああああああ!?」

「いやああああああああああっ!」

「うわああああああああ!!!」

「「「ギャオオオオオオオオン!!!」」」

三人は死にもの狂いで逃げ出した。

フィルチに見つかるだとか、そんな些細な事は気にしなかった。命には変えられない。あの犬を見た後なら、ミセス・ノリスなどただの可愛らしい子猫だ。

 

どこをどう走って行ったのか。よく覚えていないが、グリフィンドール寮の前に着いたのはそれから数分後の事だった。

その頃には太った婦人も絵の中に戻っており、何故かネビルと話していた。

 

『だからね、坊や。よく思いだしてみなさんな。今日の合言葉は、動物に関わる事だった筈よ』

「えーっと、何だったっけなあ……!」

「はあっ、はあっ、はあっ!」

「あれ、ど、どうしたの皆!?僕みたいに合言葉忘れちゃったの!?」

「『豚の鼻』!」

『あらまあ……』

 

中に入ると、ベガが驚いた顔で立っていた。

この時間に何で談話室にいるんだ、とか、そういった疑問は消えて、三人はソファに雪崩れ込む。

……一方のベガといえば、流石に疑問と驚愕が入り混じった表情で突っ立っていた。

半泣きの、衣服が乱れた少女が二人と、息も絶え絶えな少年である。これには彼も困惑するしかなかった。

 

「……何してたんだ?お前達。夜に抜け出して遊んでたのか?なんだ、意外と隅に置けねえな」

「そんなんじゃないよ……すーっ、はーっ」

「おら、水だ」

「ありがとう……」

そこでシェリーは、ふと気になっていた事を質問した。

「こんな時間まで起きてたの?」

「まあな。女とも遊んだし今日はもう寝ようかと思ったら、寝室にロンもネビルもいねえときた。このバカ二人なら合言葉を忘れてるかもしれねえと思って、ちょっと様子を見ようとしただけだ」

「バカ二人って。君からしたらそうなんだろうけどさ」

「で?夜のホグワーツは楽しかったか?」

「「「楽しくないっ!!」」」

「マジかよ」

 

ベガは心外という顔をした。

好奇心旺盛でルールなど気にしない彼にとっては、夜にホグワーツを散策するというのはある種惹かれるものがあるのだろう。だが、経験者からしてみればとんでもない!と声を大にして言いたいところである。

 

「み、皆んな大丈夫?」

「ありがとうネビル、もう平気……」

「なんだよあれ!?あんなもんを学校に置いておくなんて、ダンブルドアは正気か!?」

「死ぬかと思った……ダドリーやバーノンおじさんよりも、もっと怖かった……」

「……ちらっとしか見えなかったけれど。足の下に仕掛け扉があったわ。きっと、あの中の何かを守っているんだわ」

「へぇーっ!よくそんなのに気付くな!?三つの頭を見るだけで精いっぱいだったよ!」

「なによ!元はと言えば、貴方が『勇敢にも』マルフォイの誘いに乗ったからこうなったんじゃない!」

 

「あの、ね?二人とも、やめて?ハーマイオニー、ロンはロンなりに色々考えて、ドラコの誘いに乗ったんだから……」

「〜〜〜っ!もう、いいです!ロンと仲良くしたければすればいいじゃない!貴方達と付き合っていたら、命がいくつあっても足りないわ!私、もう寝るわ!さようなら!」

「あ、ハ、ハーマイオニー!」

ルームメイトなので、結局この後顔を合わせる事になるのだが……自棄になったからか、彼女は寝室へと飛んで行った。

 

「ま、待って!」

「やめとけよ、シェリー。あいつ意地になってんのさ。今行っても無駄だよ」

「あー……い、いいのかい、ロン?」

「別に。あいつが嫌って言うんだから、放っときゃいいのさ」

「………まっ。お前達の問題に深く首を突っ込むつもりはねえが。今行っても無駄、っつーのは賛成だな」

「そんな……」

 

男子陣は冷めたものである。

ハーマイオニーを気にしていたからか。シェリーはその日、ずっと眠れなかった。




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