「早く起きなさい!早く!授業が始まっちゃうわよ!」
朝から元気ですごいな、ハーマイオニーは。
勉強が大好きみたいだけど、これほどとは。夜更かししたラベンダーやパーバティを叩き起こしてる。
かくいう私も、こんなに寝れたのは久し振りだけど。すごい、ベッドの寝心地。
「起きた?じゃあ行きましょ、シェリー」
「そうだね、行こっ」
張り切っているのはハーマイオニーだけじゃない。魔法の勉強って、すごく楽しそう!
期待に胸が膨らむ。
眠気も吹っ飛ぶよ!
眠い。
魔法史の授業は、ゴーストが先生というインパクトは凄かったけれど。
ものすごく眠くて、きちんと寝たはずなのに羊皮紙を涎とインクでぐちゃぐちゃにしてしまった。最後まで起きていたのはハーマイオニーとベガだけみたいで、そのベガも最後の記憶が無いって言っていたけど……。
妖精の呪文の授業。どんな生徒も合格できるように授業するという評判通り、フリットウィック先生のお話はためになるし、楽しく勉強する事ができた。
天文学の授業……深夜に望遠鏡を持って一番高い塔のてっぺんまで上るのは大変だった。
闇の魔法に対する防衛術、うん、とてもニンニクの匂いがきつかった。クィレル先生が吸血鬼に襲われた経験があるとかで、その対策なんだとか。食欲をそそる匂いだからその日のお昼ご飯はいつもより多めに食べちゃった……
薬草学は心なしかネビルが生き生きしていた気がする。この授業が好きなのかな?スプラウト先生の手は節くれだっていて、土で汚れていた。ペチュニアおばさんが見たら卒倒してしまうかも。
変身術でマクゴナガル先生が何かしら反応してくれるかと思ったけれど、無視された。どうやらどんな生徒であっても贔屓せず、厳格に接するらしい。授業に不真面目な生徒は今晩の夕食に並ぶとかなんとか……。
じょ、冗談だよね?目が笑ってないけど。
先生が猫に変身するのを見て皆んなが湧き上がった後、よく分からない理論をノートに写し取る。その後は、マッチ棒を針に変える魔法の練習だ。私は先っちょが鋭くなったくらいだったけど……
「レストレンジ、マッチ棒を一回で針に変えたのですか?素晴らしい。グリフィンドールに10点をあげましょう」
「どーも」
……すごいなあ。彼、勉強もできるんだ。
私がそんな事を考えている横で、同じ席に座っていたハーマイオニーが先を越されてとても悔しそうな顔をしていた。でも、授業中に変身させただけ凄いと思うけどなぁ……
▽▽▽▽▽▽
「お前がベガ・レストレンジか?」
「……あぁ?」
緑のローブ。大きい身体。多くの取り巻き。
そしてーー下卑たニヤニヤ笑い。
スリザリンの上級生が、グリフィンドールの一年生、ベガ・レストレンジを見下していた。
この一年生の月光のようなサラサラとした銀髪と、整った顔立ちを見て確信する。聞いていた容姿と同じだ。彼の不遜な態度に眉を顰めたが、あくまで『紳士的に』話を始めた。
「蛙の子は蛙だな。親はレストレンジ家に生まれながらマグルを庇ったと聞いてるぞ。かの闇の帝王が復活した際には対抗勢力に属してたそうじゃないか。……まったく、蛙は大人しく川に帰ればいいんだ」
「親のことは何も知らねー。お前達も蛇なら蛇らしく引っ込んでろ、バカども」
「……どうやら、君には礼儀を教えてやる必要があるようだな」
ベガの安い挑発に、思わず青筋が走る。
ベガにとって、年上の少年と喧嘩するのはこれが初めてではない。
ただ、魔法を使うか使わないかーー違いはそれだけだ。自分はどこまで通用するのか?試してみたくなった。
だがーーそれを止める者がいた。ネビル・ロングボトムだ。
「ま、まずいよ!初日だよ!?喧嘩なんてしようもんなら、退学になっちゃうよ!」
ネビルにとって、ベガはあの忌まわしきレストレンジの親族。だが、トレバーをわざわざ探してくれたり、スリザリンではなくグリフィンドールに入ったりと、もしや根は悪い人間ではないのかも……?と思い始めている。
それ故の、静止だった。
「うるせーな、危ねぇからお前は……」
「喰らえ!」
「ッ!」
そんな介入者の存在など意に介さず、魔法が放たれた。
ーーネビルに向けて。
その卑劣な不意打ちに対して、ベガは驚異的な速さで反応し、盾の呪文を形成。その手腕に、スリザリン生はわずかにたじろいだ。
「……テメェ。今、コイツの方狙ったろ」
「フン、邪魔者に退場してもらおうと思っただけだ。反応出来なかったそいつが悪い」
「……あぁ、そうかよ!」
ベガは奥歯を噛み締めた。
ーーなら、テメェ達も何されたって文句言うんじゃねえぞ!
ベガは魔法界有数の名家の生まれでありながら、マグル界で育った。魔力はあるが、それ以外はマグルと何ら変わらないーーはずだ。
だが、彼は規格外の天才!
教科書に書かれる事は、例え実践してなかろうと、何でもできる!それは魔法の教科書についても同じ!
それは盾の呪文を成功させた時点で、証明された。ーーされてしまった。
「エクスペリアームス!ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
「「うわああああああああっ!?」」
彼等は知った。
ベガはーーグリフィンドールの、悪魔だ。
放つ魔法は全て躱されるか逸らされ、魔法を放った際の隙を見てカウンターを放たれる。
距離を詰められようものなら、情け容赦ない蹴りや拳の応酬だ。
極めつけはーーその戦闘センス。彼はある程度敵の動きを予測し、ほぼノールックで魔法を放つ事ができる。そして、ドンピシャのタイミングでそれは当たる。
「スコージファイ!」
「がぼぼぼ、ごぼぼぁっ!?」
「お、おい!大丈夫か!?」
「オラァ!」
ベガは知っている。
仲間が異常事態に陥れば、少なからず隙が生まれるという事を。何かしらのモーションがある、という事を。
そのタイミングを見逃すほど、甘くはない。
「エクスペリアームス!」
「あっ……」
気付けば、杖を持っているのはベガだけだ。
ほぼ全員が倒れ伏し、戦意喪失していた。
心の中で燻っていた炎を吐き出すように、ベガは言った。
「スリザリンの連中に伝えろ。俺と喧嘩してえならいつでも受けてたってやる。だが、今みてぇな真似すんなら、こっちも手段は選ばねえ。ってな。ーーおい、行くぞネビル」
「ーーえっ?」
「授業に遅れんだろうが!早く行くぞ!」
その二人の様子を、スリザリン生達は、ただポカンと見ているしかできなかった。
動く階段。昼間でもうろつくゴースト。果ては悪戯好きのポルターガイスト。なるほど、たしかに魔法使いの城だとベガは一人ごちる。
まるで遊園地のようだ、と。彼は年上の女に車を運転させて行った以来の感覚を思い出していた。
「おいネビル!早くしろ、このウスノロ!」
「ご、ごめんねベガ!」
「……おい!止まれ、ネビル!」
「え?ーーうわぁ!」
「このアホ……」
ベガの後ろをついてくるネビル・ロングボトムは致命的にドジだった。要領の悪い落ちこぼれ。階段が沼へと変化して、彼の脚を捕らえた光景も今日だけで何度見たことか。
だが……決してベガはネビルを邪険にしなかった。
(まさか、彼が、ロングボトムと友人になるとは……)
マクゴナガルは、柱の影から感慨深そうにその様子を見守っていた。
ネビルの両親の仇は、レストレンジ家の『ある女』だ。
だから、二人とも獅子寮に配属された時、何かしらの諍いが起こるかもしれない、と心配していた。
だがーーいらぬお節介だったようだ。
ベガは粗暴な少年だが、本質はとても優しい。
(おそらくは、あの事件がーー)
三年前、ベガの身に何が起きたか彼女は知っている。
過去の事件に心を痛ませながら、二人の教え子を見送った。
(さて、次の教室は地下牢で魔法薬学か)
マグルでいう「サイエンス」といったところだろうか?地下牢教室に入った瞬間、大釜やフラスコに入った薬品のキツい臭いが充満する。
(地下牢教室で合ってるよな?なんでそんな所で授業するんだよ……)
「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。」
(………これは、また。いかにもな教師が来やがったな……)
セブルス・スネイプと名乗ったその教授は、大きくなりすぎた蝙蝠みたいな姿をしていた。地下牢の薬品だらけの教室となんともマッチしている。
「フツフツと沸く大釜、ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力………」
(………?)
ベガは、スネイプがご高説垂れている間にも、チラチラと忙しなく視線が動いている事に気がついた。他の生徒達は彼のこのプレッシャーに気圧されて気づいてないようだが……。
(視線の先は……シェリー・ポッター?)
「心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん」
(生き残った女の子に興味があるのか?それにしては熱っぽい視線だが……)
「我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である――ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」
(シェリーの態度は至って普通だ。あいつが何かやらかした訳でもねえ……)
(…………幼女趣味?)
「何だねレストレンジ、その不快な表情は。魔法薬の実験台にしてやろうか」
(うるせえよ。お前こそその長ったるいの考えてきたのかこの陰気男が)
心の中で勝手にキレていると、スネイプは挙動不審気味にシェリーの下へと近付いた。
「さて、あー、ポッター?あー、君は?あー、その、なんだ。聞いた話によると?ホグワーツの、新しい英雄だのなんだの言われて、あー、図に乗っているらしいな?」
「先生!シェリーをそんな風に言うのはやめてください!」
「私語は慎めウィーズリー。グリフィンドールから一点減点。我輩はポッターに聞いておるのだ邪魔をするな……さて」
「ポッター?あー、君に対して、魔法薬学の知識について?我輩から質問だが。あー……あ、あす、あす、あふぉで、こほん。アスフォデルの球根の粉末に、あー、ニガヨモギの煎じたものを加えると…………」
「……えーと、先生?」
そこで、妙に落ち着きの無かったスネイプの動きが突然固まった。
「………貴様の眼は何故ハシバミ色なのだ」
「えっ?あ、赤ずきん?」
「ゴホン!何でもない!」
それ以来スネイプは不機嫌になり、シェリーに対しても冷たくあたるようになった。
しかし、事あるごとにいやにシェリーに絡む。
視線をこっちに向けるな、などといった難癖をつけるのだ。ああ、有名人だから気に入らなかったのか、と一人納得した。
……ま、俺には関係ねえか。
「おい、ネビル!やめろ!山嵐の針を入れるのは火から下ろした後だ!」
「えっ?あっ!」
ネビルと魔法薬を調合するのは中々にスリリングな体験になりそうだ。
▽▽▽▽▽▽
日曜日。お休みの日だ。
ハーマイオニーと授業の復習でもしようかと思っていると、ヘドウィグが手紙を咥えてやって来た。
ミミズがのたくったような字で少し読みにくかったけれど、内容はどうやらお茶のお誘いらしい。
「ハグリッドから手紙が来たのかい?僕も行っていいかな。兄さん達が色々と世話になったって聞くしさ」
「ああ、特にチャーリーってお兄さんとドラゴン談義してたんだっけ。ええと、じゃあ、ハーマイオニーも誘っていい?ロン」
「……君の意見に口出しするわけじゃないけど、あいつを誘うのかい?きっと今日も図書室だぜ。勉強なんてしてないで一緒にお茶を飲もうぜ、なんて行って付いて来るタイプじゃないと思うけどなぁ」
「そ、そうかなぁ……じゃあ、ロン。二人で行こう」
ハーマイオニーとは、私も同じ部屋だから話すけれど。たいていがお勉強のお話で、ラベンダーやパーバティが辟易としている。興味のある科目なら積極的に話せるのだけど、魔法史だったり、魔法薬学だったりになるとハーマイオニーの独壇場だ。
遊びたい盛りの男の子からしてみれば彼女はもっと苦手意識が強いかもしれない。お勉強はできるけれど素行不良、でも女子にモテるベガとは真逆だ。
……丁度、ベガが三年生の女子とキスしていた。
「ベガ!わ、私、空き教室でずっと待ってるからね……」
「今夜、な?あぁ、ほら。俺も楽しみにしてるからよ……」
「……ワーオ。ベガの奴、いつの間に彼女作ったんだよ。まだ入学してほんのちょっぴりだぜ?」
「わぁ、ペチュニアおばさんが観てたドラマそっくりだわ……」
「ドラマが何なのかは分からないけど。まったくベガの奴はさ!女の子を誑かすのが自分の使命だとでも思ってるのかな!シェリー!早く行こうぜ!」
「う、うん」
なんだかロンが不機嫌だった。
ベガ、男の子受け悪そうだもんね……。
いざハグリッドの小屋に入ると、ボア・ハウンドに顔をペロペロと舐められた。
動物はとっても好き。彼等は敬意を持って接したり、縄張りを荒らしたりしなければ、虐めてくる事はないもの。時に良き相談相手にもなってくれるし。蛇とか。
「あっはは、くすぐったい!」
「これ!ファング、やめんか!悪かったな?シェリー?こいつは人懐っこくてな。おっ、その赤毛はウィーズリー家の子だな?」
「ロンって言うんだ。よろしくハグリッド」
「おう!よー来た、よー来た……さぁ中に入れ!お前さんら!ほれ!」
彼の作った固いロックケーキをどうにかこうにか口の中でモゴモゴしながら、お勉強のこと、友達のこと、先生のことを飽きるまで話した。
特にスネイプ先生は苦手かな。
なんだかよく分からない質問するし……。
すると、預言者新聞が目に入った。見出しはグリンゴッツに侵入者が入った、というもの。
「グリンゴッツに侵入者?ハグリッド、これ私達が銀行に行った時と同じ日……私達ほんとはあぶなかったのかな」
「あ、ああ!そうだな!俺は何も知らんぞ!」
「?そりゃ事件に関わってなきゃ何も知らないのは当然じゃないか」
「あー、うん、まあ。そぅだな。ところでお前さんら、勉強の方はどんななんだ」
この反応。
何か知ってるのかな?
新聞記事を注意深く読んで行くと、その日、荒らされた金庫は既に空だったらしい。
では空にしたのは誰か?
あの日、ハグリッドは七一三番金庫から小さな小包をひとつ取り出したけれど。あれを取り出して、空になった……ということ?
グリップフックは厳重なセキュリティをかけたと言っていたし……
それに、ダンブルドアからの依頼とかなんとか言っていた気がする。
これはどういう事なんだろう?
たぶん、なにかある。この学園には。
私は夕焼けの中、城へと向かって歩いた。
スネイプが残念になってます。スニベルス出てます。
おまけの話とか今回の話を書いていて思いましたが、この人を書くのが一番面白い気がしてなりません。
反対にベガは異性に凄くモテるプレイボーイという設定で、色んな女の子を誑かしてます。ですがモテた事ないのでモテ描写が難しいっていうね。