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無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 作者:理不尽な孫の手

第11章 青少年期 妹編

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第百五話「番長とその仲間達」

 そんなこんなで、一ヶ月が経過した。


 本日はラノア魔法大学・番長グループ会合がある。

 違った。

 特別生のホームルームだ。


 参加者はいつもどおりだ。

 ナナホシとバーディガーディを抜いた、六人。 

 俺、ザノバ、ジュリ、クリフ、リニア、プルセナ。

 相談役のナナホシと特別顧問のバーディガーディはいない。



---



 現在、俺はある事で悩んでいる。

 妹のノルンの事だ。


 寮ぐらしをしてからというもの、彼女とは一切の進展がない。

 それどころか、廊下ですれ違っても無視される。

 あるいは露骨に軽蔑した目線をくれる時もある。

 いや、軽蔑の目線は恐らく俺の被害妄想だが……。

 ともあれ、仲良くなれない。


 まあ、それはいい。

 いいんだ。

 ちょっと寂しいけどいいんだ。


 別に兄妹でどうしても仲良くしなきゃいけないってわけでもないし。

 普段仲良くしてなくても、何かあったらノルンの味方をしてやるし。

 何かあったらモンスターペアレントになってやれるし。


 うん。

 番長という立場はこういう時にもかなり便利だな。

 担任がイジメを放置しても、何か出来る。

 ジーナスと知り合いだから、教頭に相談できる。

 担任の上に相談できるというのは大きい。

 ジーナスには今度、お中元でも送っておくとしよう。


 しかし、この一ヶ月、ノルンは友達の一人も出来ないようである。

 廊下とかで見かけても、一人でいる事が多い。

 寂しそうではないが、見ててモヤモヤする。


 いや、友達なんてものは無くてもなんとかなる。

 けど、クラスではうまくやっているのか。

 寮ではうまくやっているのか。

 実に心配だ。


 かといって、俺が手出しするのも何かちがう気がする。

 一年生の知り合いと言えば、一号生筆頭の不良が一人いるが。

 そういうのを使って無理に何かしようとしたら、きっとバレて嫌われる気がする。

 ていうか、あの一号生筆頭、名前なんだっけか。

 シベリアンハスキーっぽい子犬だったのは覚えてるんだが。


「最近、ボスが元気ないニャ」

「そうなの」


 そうして悩んでいると、リニアとプルセナが顔を覗きこんできた。

 ニャのニャのと姦しい二人。


 彼女らは獣族の男連中のアイドルだ。

 俺を通じてアリエル王女と和解してからというもの、

 廊下で見かけても舎弟に囲まれている事が多い。

 きっと友達が少ないとかそういう悩みは無いのだろう。


「そんなボスに、あちしらがプレゼントを用意したニャ」

「用意するのに一ヶ月も掛かったの」


 そう言って、リニアが脇においた鞄を机の上に乗せた。

 結構大きい。

 中はなんだろう。


「おっと、中を見るのは家に帰ってからニャ」

「誰にも見つからない所でこっそりあけるの」


 おう、怪しいな。

 なんだ。

 もしかしてあれか、粉か?

 ハッ○ーターンの粉か?


 北方大地の東の方や、魔大陸の一部では、多幸感を得られる粉が出回っている。

 この国には粉、ダメゼッタイという法律は無い。

 一応、ミリスやアスラにはそういった法律もあるようだが、このへんには無い。


 いや、もちろん粉なんぞに手を出すつもりはない。

 もし中毒性や禁断症状があった場合、

 俺の使える中級の解毒では治らない。

 そういった粉の禁断症状を抑えられるのは聖級からだと聞く。


 大体、俺は粉に頼るほど困っていない。


 けれど、何かに使えるかもしれないな。

 一応、とっておこう。

 どうしても金に困ったときに売るとかでもいいし。


「ありがとうございます」

「いいってことニャ」

「ボスの下にいるのも大変なの」


 あ。

 そうだ。

 そういえば、彼女らも寮生だった。

 六年も寮にいれば、色々と顔も効くだろう。

 少し相談してみるか。


「実は悩んでいるのは、妹についてなんですよ」

「妹? ああ、この間会ったニャ。侍女みたいな服きた子」

「市場にいたの。匂いでわかったの。ボスの匂いをぷんぷんさせてたの」


 アイシャと二人は町中で出会っているらしい。

 侍女妹の方は、よく俺に添い寝しているから、俺の匂いがするのだろう。


「そっちではなくて、一ヶ月前から寮の方に厄介になっている上の妹の方です」

「えっ? 二人、ニャのか?」

「寮ぐらしなの?」


 二人は、顔を見合わせた。

 ノルンの方は会ってないか、会っても気付かなかったのだろう。

 俺に接触してないから匂いもしないだろうしな。


「はい、しかし彼女は僕の事が嫌いらしく、ここ最近は会話もなくて。

 どうすれば仲良くなれるでしょうね?」

「え、ええっと……そうニャ。む、難しい問題だニャ」

「私達がボスのいい所を宣伝しておいてあげてもいいの」


 情報操作か。

 ルーデウスさんが学校でスーパーなヒーローで人気者だとわかれば、

 ノルンも少しはお話してくれたりするだろうか。

 リニアとプルセナがやっても、ルーデウス番長のマジパネェ逸話集にしかならない気もするが。

 もっとこう、子犬を助けた系のエピソードで攻めたい。

 ジュリと出会った時の話とかいいかもしれない。


「ああ、そうだ。彼女、まだ友達もいないみたいなんですよ。

 まだ一ヶ月だし、早計かなとは思うんですが。

 やっぱり転入生だと、クラスにも馴染めないでしょうし、不安で」

「そ、そうだニャ。まだわからないニャ」

「話すキッカケが無いだけかもしれないの」


 先ほどから、リニアとプルセナの様子がおかしい。

 何か、少し焦っているようだ。

 こいつらがこういう風にドモる時は、なにかを隠している時だ。


「……もしかしてお前ら、知らないうちに妹にちょっかい掛けてないだろうな」

「そ、そんなことしてニャい!」

「そうなの! 心外なの! ボスの『弱いものイジメはするな』って言葉はちゃんと守ってるの!」


 そうか。

 じゃあ、この慌てようはなんなのだろうか。

 何か怪しい。

 でもまぁ、今このタイミングで言っておけば、もしノルンがイジメられていても、二人で助けてくれるだろう。


「ぼ、ボスの妹って、何歳ぐらいニャんだ?」

「侍女みたいな方より上なの? 下なの?」


 変なことを聞いてくる。

 一応上だが、数時間の差でしかない。


「同い年ですよ、十歳です」

「そ、そうか!」

「なら安心なの、私達は何もしていないの」


 やましい事はあるらしい。

 新入生相手に威張ったりとか、しているんだろう。

 まぁ、睨みをきかせるぐらいなら、問題ないが。


「ニャあ、ボス。そのカバンだけど」

「お気に召さなくても怒らないでほしいの。ボスの為に用意したものなの」


 二人がビクビクとしている。

 他人にプレゼントをする時ってのはドキドキするものだ。

 ちょっと不穏な感じもするが。

 今から開けるのが楽しみだな。


「僕の為に用意してくれたものを、怒るわけがないじゃないですか」


 鼠の死骸とか入っていても、まあ、せいぜい呆れるぐらいだろう。

 と、そこで隣に座るクリフの視線に気づいた。


「クリフ先輩はどう思います?」


 一応、聞いてみる。


「……ふん、友達なんかいなくても生きていけるさ!」


 クリフがいうと、なにやら重い。

 安心してほしい、お前は一人じゃない。

 エリナリーゼがついている。

 ……あ、もちろん俺も。


 でも、クリフぐらい空気読めなくても、

 一人ぐらい知り合いを作って欲しいと思う兄心。



---



 昼休み。

 ナナホシが食堂に顔を見せるようになった。

 奴も食事の重要性に気づいたのだろう。

 もっとも、食事中は静かなものだ。


「なによ……」

「いえ、別に」


 見ていると睨まれる。

 彼女は自分で料理を広めたくせに、今までほとんど自分では食っていなかったらしい。

 味の方は良くないらしく、基本的にウマそうな顔はしていない。


「まずそうですね」

「ええ、自分でレシピを作っといてなんだけど、最低ね」

「この世界は、日本ほど食材がよくないですからね」

「そうね」

「こっちの世界で、何か好きな食べ物はないんですか?」

「あなたの家で食べたポテトチップスあるでしょう。あれが美味しかったわね」


 シルフィのやつか。

 確かに、シンプルなものの方が、味の差異も少ないだろう。


「また今度作りましょうか?」

「……結構よ」


 よしよし、今度風呂に入りにきた時に、用意しておいてやろう。


 しかし、この一ヶ月、バーディガーディを見かけない。

 食堂でも一度も見かけない。

 ルイジェルドの一件で色々話したかったのだが。


 もっとも、そのおかげで、ジュリのテーブルマナーが上達している。

 ジンジャーがジュリにテーブルマナーを教えているのだ。

 バーディガーディがいると、こうはなるまい。


 でも、バーディガーディがいないと何か物足りないな。

 やはりあの笑い声が重要なんだろうか。

 笑いは幸福物質を生み出す、とか何かに書いてあったからな。


「フハハハハハ!」

「な、なによいきなり笑い出して、私、何かした?」

「師匠?」

「グランドマスタ……?」


 ふと笑ってみたが、

 視線を集めて恥ずかしくなるだけだった。

 バーディガーディのようにはいかんな。


「何を笑っているんだ?」


 と、そこにルークが現れた。

 相変わらずイケメンだが、今日は取り巻きがいない。

 シルフィもいない。


「魔王陛下の姿を見ないので、笑って呼びだそうかと」

「そうか……ルーデウス。ちょっと生徒会室まで来てくれないか?」


 ルークは少々難しい顔をしていた。

 何か問題でも起きたのだろうか。


「わかりました」


 俺はサッと飯をかっこむと、ルークにつき従った。


 ルークは、やや怒っているようだ。

 足取りがやや乱暴だ。

 

 生徒会室に入ると、そこには例の二人がお出迎え。

 アリエルの表情はいつも通りだが、少々顔色が悪いか。

 シルフィも不安げな表情である。

 彼女らの前にある机には、小さなポーチのようなものが置いてある。

 新学期早々、何か問題が起こったらしい。


「お疲れ様です。何か問題が起こりましたか?」

「はい……」


 アリエルは頷いた。

 ため息混じりだ。

 厄介な案件か。


「いえ、実はここ最近、女子寮の新入生の顔色が優れないのです」

「ほう」


 女子寮の新入生か。

 ノルンとも関係のありそうな話だな。


「調査してみた所、胸が小さく、顔の造形のいい子ばかりが悩んでいるようでした」


 もしかすると、ノルンも巻き込まれているのだろうか。

 だとすると、俺も協力しなければなるまい。

 ここらで一つ、大きな問題を華麗に解決すれば、

 兄として、少しは尊敬される立ち位置になれるかもしれん。


「本日、そのうちの一人に詳しく聞いてみた所、リニアとプルセナに、その……」


 リニアとプルセナが関係しているらしい。

 弱いものイジメはしていないと聞いたが。

 もしかするとカツアゲとかやっているのかもしれない。

 鰹節や干し肉を持っている女生徒をコーナーに追い詰めて。


「その場で下着を脱ぐように強要されたという事です」


 下着……?


「……」


 俺の目線が、脇においたカバンへと飛んだ。

 まさか。

 いや、まさか。


「さらに情報を収集してみると、あの二人は食事中に「これでボスが喜ぶ」などと話していたそうです」

「……」


 てことは、このカバンの中はパンツか。

 しかも、洗濯済では無いものか。

 なんてことだ。

 一体誰が頼んだというのだ。

 ああ、ちょっと嬉しい自分が嫌だ。


「その際に、手に入れた下着を一つの鞄にいれていたという事ですが……」


 アリエルはそう言って、静かに俺の持つカバンへと目線を送った。

 鞄へと、その場にいる全員の視線が集まる。

 きっと、鞄の形状の情報も仕入れてあるのだろう。

 そして恐らくこの鞄には、十中八九、パンツが入っている。

 カバン一杯に詰まった夢というわけだ。


「ルーデウス様、失礼ですが……」

「この鞄は、リニアとプルセナより今朝方頂いたものです。

 中は家で一人になるまで見るなと言われているので確かめてはいませんが、

 そういう事なら中身は恐らく、例の物でしょう」


 先制した。こういうのは後手に回るのは良くない。


「そうですか、一応確認ですが……あなたが命じてやらせていた事ですか?」

「いいえ、違います」


 きっぱりと答える。

 ここで返答ミスは許されない。

 毅然とした態度で答えなければ。

 誤解だからな。


「ルーデウス様は無関係であると」

「無論です」


 大体、どうしてそんなクレイジーな謀をしなければいけないんだ。

 妹が寮に入ったこの時期に。


 くそっ、どうやって弁明すればいい。

 誤解を解く方法は……。


「わかりました、信じましょう」


 アリエルは、小さく息をついてそういった。


 信じてもらえた。

 証拠は何も無いのだが。


「ありがとうございます」

「いえ、私もおかしいとは思っていました。

 シルフィとあれだけ激しい夜を過ごしているというのに他の女になど……」


 激しい夜が筒抜けだと?

 というと、俺が昨晩言ったあの恥ずかしいセリフもか?


「……シルフィ。王女様に話しているんですか? 我々の夜の睦言を」

「ち、違う。そんな事話してないよ! アリエル様、どういう事ですか!?」


 シルフィは慌てて首を振っている。

 そりゃ、いくら仲が良くても、夫との夜の生活の詳細なんて話さないよな。

 話された所で、特に困るもんでもないが。

 シルフィが「アタシのカレマジ短小デー」とか裏で愚痴ったりしてなければ。


「いえ、カマを掛けてみただけです。結婚生活が順調なようで何より」


 アリエルはしれっとそんな事を言った。

 まあいい。


 しかし、どうしてあの二人はあんな事を……。

 パンツ集めとか、常人が思いつくような事ではない。


 いや、そういえば、昔そんな事を言っていたような気がする。

 女生徒のパンツを集めるとかなんとか……。

 てっきり冗談だと思っていたが、そんな事はなかったのだ。

 うん、俺のせいじゃない。

 俺は関係ない。

 そういう事にしておこう。


「まあ、善意からの暴挙だと思いますので、僕の方から注意しておきましょう。

 あ、これはアリエル王女の手で被害者の元に返しておいてください。

 ああ、もちろん中は見ておりませんし、触れてもいませんよ」


 俺はそう言うと、アリエルに鞄を手渡した。

 リニアとプルセナも悪気はなかったはずだ。

 きちんと言っておかないとな。

 脱ぎたて以外は別に必要ないと……。

 俺を喜ばせたければ目の前で脱げと。

 いや、そうじゃない。

 違う違う。


「はい、確かに」


 アリエルはカバンの中身を改めると頷いた。

 これにて一件落着か。


「しかし、これだけの量の下着、少し残念なのでは?」


 アリエルは、そんな事を言った。

 チラリとシルフィを見ながら、だ。


「心外です。私は下着になど興味はありません」

「……そうですね、失礼しました」

「いえ、誤解がなかったようで、何よりです」


 ふぅ、危ない危ない。

 もし家に持って帰ったら処理に困る所だった。

 きっとテンパった挙句、酒に漬け込んでパンツ酒とか作り始めてしまったかもしれない。

 その結果、きっとシルフィかアイシャに見つかって軽蔑されてしまった事だろう。


「でも、よかったよ。ボクが満足させてあげれてないのかと思った」


 シルフィの赤裸々な一言に、場の空気が少しだけ和んだ。

 シルフィは自分の言葉の意味をすぐに察知し、真っ赤になった。


 と、そこで昼休みの終了を告げる鐘がなった。


「っと、いけませんね。授業に遅れてしまいます」

「申し訳ありません。リニアとプルセナのせいで」

「いいえ、こういう事もあるでしょう」


 ルークが扉を開け、出るように促してきた。

 俺はそれに従い、部屋の外に出る。

 すると、アリエルやシルフィも続く。

 ルークが最後に出てきて、扉に錠を掛けた。


「行きましょう」


 俺が歩き出すと、アリエルがその隣に並んできた。

 シルフィとルークが後ろだ。

 ああ、こういう場合は俺も後ろを歩いた方がよかったのかもしれない。


「あ」


 などと考えていた所で、曲がり角からノルンが姿を表した。

 きょろきょろと不安そうに周囲を見回し、俺の姿を見つけると、キュッと口端を結んだ。


「ノルン、どうしたんだ? もうすぐ授業が始まるぞ」

「……」


 ノルンはぷいっとそっぽを向いた。

 その向いた先には、アリエルがいた。


「初めまして。この学校の生徒会長を務めております。アリエルと申します」


 アリエルがにこやかに笑いかけると、ノルンの顔が真っ赤になった。

 さすがカリスマだ。


「の、ノルン・グレイラットです……」

「はい。ノルンさん、どうしました?

 もうすぐ授業が始まる時間ですよ」

「あ、あの。第三実習室が、どこかわからなくて……」

「そうですか……」


 ノルン、移動教室で置いていかれたのか。

 かわいそうに。

 あれは地味にきついんだ。

 やっぱりクラスで浮いているのだろうか。


「ルーク、案内してあげなさい」

「はい。こっちだ、おいで」


 ルークがノルンの背中をやさしく押しつつ、エスコートしていった。

 ノルンの顔は真っ赤で、恥ずかしそうだった。

 ルークはイケメンだからな。

 でもルークはダメだ。あいつは女たらしだ。


「……」


 ふと、ノルンがちらりとこちらを振り向いた。


 俺と、アリエルと、シルフィ。

 三人の間を視線が行き来する。

 そして、またぷいっと視線が逸らされた。


 何かしただろうか……。



---



 放課後。

 俺はリニアとプルセナを校舎裏に呼び出した。

 今日の一件の事で、色々といっておく必要があるからだ。


 校舎裏。

 学生の青春のワンシーンによく使われる場所。

 リニアとプルセナは、意気揚々とやってきた。


「ニャんだボス。こんな所に呼び出して」

「愛の告白でもするの? 妾にするならフィッツとちゃんと相談しないと怒られるの」


 二人は自慢げだったが、


「例の鞄ですが、今日の昼にアリエル王女に渡しておきました。

 元の持ち主の所にかえしておくようにと」


 そう言うと、きょとんとした顔になり、

 すぐに隣にいるやつの脇を小突き出した。


「ほら、やっぱりダメだったニャ」

「リニアのせいなの。ボスは絶対に喜ぶからって」

「プルセナだって乗り気だったニャ」

「私は、まずリニアのパンツで様子を見ようって言ったの」

「あちしのだけじゃ不公平だニャ」

「だから、寮生のを集めたの」

「プルセナのを出せって意味ニャ」

「私は胸が大きいからダメなの」


 醜いなすりつけ漫才が始まる。

 誰が貧乳フェチだ。

 巨乳も好きだぞ俺は。


「シャラップ」


 とりあえず黙らせる。


「俺は前になんと言いましたか?

 弱いものいじめはするなと言いませんでしたか?」


 二人はぶるぶると震えた。


「よ、弱いものイジメなんてしてないニャ」

「そ、そうなの、ちゃんとお願いしてもらってきただけなの……」


 お願いか。

 こいつらに言われて、断れる一年生なんていないだろうに。


「衣類を剥ぎ取られる事の屈辱を、獣族のお前らならわかるでしょうに……」

「ちゃ、ちゃんと替えの下着は渡したニャ」

「その割には、うかない顔をした一年生が多かったそうですよ?」

「きっとサイズが合わなかったの。どうしても嫌って言う子からはとらなかったの」


 うむ?

 アリエルに聞いた話とは少し齟齬があるな。


 正直、無理やり剥がしたとなれば胸糞が悪い。

 こいつらを公衆の面前でマッパにしてやりたいぐらいだ。

 やられないと気持ちはわからないからな。


「お、お気に召さなくても怒らないって言ったニャ」

「不幸な行き違いなの。勘弁してほしいの……」


 怯える二人。

 しかし、思い出してみるに、

 こいつらは俺のためにやってくれたのだ。

 俺がうかない顔をしているから、

 俺が喜びそうな事は何かを考えて、集めてくれたのだ。

 俺が気に入らなかっただけで、行為自体は悪くない。


 いや、もちろん、やられた方の身になると胸糞わるいものがあるが。

 しかし、リニアとプルセナも良かれと思ってやったことだ。

 生前の俺の時と違い、相手を辱めようとしてやった事ではない。

 言ってみればそう、子供がセミの抜け殻を集めて持ってくるようなもんだ。

 それに過剰反応して、大きな罰を与えるのはどうだろうか。


「もし、すごく傷ついた子がいたりしたら、目の前で全裸土下座させるからな」

「わ、わかったニャ」

「ごめんなさいなの……」


 まあ、あとはアリエルのフォローに任せるか。

 俺の方からは、どうにも怒りが湧いてこない。

 こいつらが身内だからだろうか。

 俺も身贔屓というものをしてしまうようになったか。


「で、どうして俺に下着をプレゼントしようとしたんですか?」


 そう聞くと、二人はきょとんとした顔で見返してきた。

 何いってんだこいつ、って顔だ。


「ボスの宗派はパンツが神様ニャんだろ?」

「大事そうに祀られていたの」


 ああ。

 なるほど、俺のせいか。

 いつぞやに御神体をこいつらに見せてしまったのが原因か。


「あれは違います。僕は別にパンツを神に見立てているわけではありません。

 あれは、尊い方が実際に身に着けていたものです。いわば、聖衣ですね」

「そ、そうだったのかニャ」

「てっきりパンツ教かと思ったの」


 パンツは好きだ。

 けど、それとこれとは違うのだ。


「なので、今日のような事は無いようにお願いします」

「わかったニャ」

「気をつけるの」


 そして、つい一言付け加えてしまった。


「もしくれるというのなら、あなた方が目の前で脱いでくれたものがいいですね」

「えっ?」

「えっ?」


 失言してしまった。

 リニアとプルセナは何やらニヤニヤしている。


「やっぱりあちしらの魅力にメロメロだったニャ」

「しょうがないの。ボスも一匹の雄だから、私達を前に冷静ではいられないの」


 チッ、うぜぇ。

 パンツが欲しいと言って、この反応。

 こいつら、もしかして俺の事好きなんじゃ……。

 いや、それは違う。

 何かちょっと違う。

 好意には違いないが。

 シルフィが俺に寄せるものとは違う。


 その違いはわからない。

 わからないがまあ、友情だと思っておこう。



 何はともあれ、話は終わった。

 校舎裏から移動する。

 少々俺の風評に傷がついたようだが。

 まあ、そう大きな問題はないだろう。

 俺は噂なんて気にしないタイプさ。


 三人で移動していると、校舎から出てくる一団と鉢合わせた。

 一年生だ。

 鞄を手にしている所を見ると、寮に戻るのだろう。


 彼らは俺たちと顔をあわせないように、脇を抜けていく。

 その最後尾に、ノルンがいた。


「……っ!」


 ノルンは俺と、そして両脇のリニア・プルセナを見る。

 そして、信じられないという顔をした後、思い切り睨みつけて、過ぎ去った。

 リニアとプルセナが不機嫌そうに振り返る。


「ニャんだ一年。生意気ニャ」

「ファックなの。どっちが上か、わからせてやるの」

「言っておきますが、あの子が僕の妹です」


 そう言った途端。

 二人の耳がへにょんと垂れ下がった。


「ま、まぁあれぐらい元気ある方がいいニャ」

「すごく可愛らしい子なの」


 わかりやすいね。

 俺は二人の肩をポンと叩いた。


「まあ、仲良くしてあげてくださいね」

「もちろんニャ」

「悪いようにはしないの」


 しかし、もっとノルンと会話をしたいが、さてどうしたものか。

 まあ、会話できなくても問題なくやってくれればいいんだがね。



---



 こうして、何事もなく日々は過ぎていった。

 ノルンとは仲良くなれない。

 だが、十日に一度、家に顔を出せという言葉は守っている。


 俺を嫌っているという割に、言うことも素直に聞く。

 もっと反発されるかと思ったが、少なくとも面と向かって反抗された事はない。

 嫌そうな顔はするけどな。


 うーむ……。

 考えてみれば、妹達とは物心つかない頃を除けば、過去に一度会っただけだ。

 いきなり普通の兄妹のように仲良くできると思う方が間違っているのだろう。

 アイシャとの関係の方が異常なのだ。


 家族だからといって、無条件で仲良く出来るわけではない。

 それは、俺だって重々承知だ。

 むしろ家族だからこそ、許せない事だってあるだろう。

 パウロをノルンの前で殴った事だってそうだ。

 俺とパウロの間では和解し、終わったことだ。

 けれども、ノルンの中では、今もなお許せない事として燻っているのかもしれない。


 ……もし。

 もしあの時の事を持ちだされたら、俺は謝るとしよう。

 正直、そんな昔の事を持ち出すな、なんて思うが、そういう事だけは言わないようにしよう。


 まあ、焦ることはない。

 どうせこれから何十年も一緒にいるんだ。

 一年でも二年でも掛けて、ゆっくり仲良くなればいい。

 兄弟ってのは、別にベタベタする必要もないしな。

 適度に仲良く、適度に距離を置いて、だ。

 その距離を見極めるのには、時間をかけないとな。



 そう思っていた矢先。

 ノルンが引きこもった。

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