史上最悪を継承する者   作:YJSN

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For the Greater Good

私は長い銀髪を靡かせながら、姿現しをしてとある喧騒な街へと現れる。

 

今は深夜3時。マグルでさえ寝込んでいるこの闇夜をトボトボと歩きながら、とある壁の前で停止する。

 

壁の両隣には洋服店と、人形屋さんがあり、何とも肩身の狭い想いが募る場所だった。

 

「確かここだったっけかな?」

 

私は壁に向けて、歩き出す。

 

すると、スルスル・・・と、壁の中に身体がめり込んでいく。

 

「・・・やっぱり気持ち悪いな、この感覚。」

 

ロンドンにあるキングスクロス駅にも同じ様な仕掛けがあったが、こちらのは幾分と厳重だ。

 

認識阻害の呪文と不可視化の呪文、それからマグル除けの呪文に魔力感知妨害呪文を数十回も交差させてかけてあるため、入り込む時の認識の歪みが正される感覚が気持ち悪いのだった。

 

そうして、私が壁に呑み込まれて見た先の景色は、先ほどいたマグルの寂れた街並みとは一風変わった場所だった。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

 

と、少し老いた声で出迎えてくれたのは、今しがた姿現しをしてきた屋敷しもべ妖精のベルムだった。

 

この拡大魔法がかけられた、どこまでも続いてそうな空を表す天井から日の光が差し込む空間は私の自宅だ。

 

周囲は草原であり、幻想的な風景を醸し出している。

 

そんな中、この場所の中央に聳え立つ城のような城塞があった。

 

ミニ・ヌルメンガード城と本人は名付けているが、部下達からはパリ本部或いは司令部としか呼ばれていない。

 

私は久々の帰宅に際して少し気分が良くなったのか、ベルムに対してこう言う。

 

「ただいま、ベルム。早速で悪いんだけど、紅茶と洋菓子をお願いできるかな?」

 

「かしこまりました、お嬢様。執務室でお待ちください。」

 

そうとだけ言って、彼は再び姿眩ましをして厨房へと向かった。

 

それを見た私も、元気一杯に背伸びをしながら姿現しをして、自室兼執務室に移動する。

 

すると、ちょうどベルムが支度ができたのか、トレーに紅茶とフランス菓子を洒落たお皿に乗せて運んできた。

 

「どうぞ、お嬢様。」

 

「ん、いつもありがとね。」

 

コトン、と私の執務机の上に置いた彼は、腰を深く曲げて

 

「いえいえ、この程度の事、お嬢様にお使えするベルムめにとっては当たり前のことでございます。」

 

と、私に揺るぎない忠誠心を持ってくれている事を示してくれる。

 

それを見た私は笑顔で微笑みかけ、彼を退室させる。

 

そして紅茶をズズズ、と啜りながら目の前にある膨大な書類を見て頭を痛める。

 

「あー、帰ったと思ったらこれだよ・・・。私はいつになったら魔法大臣ごっこから解放されるんだか。」

 

新しく入った組織の魔法使い達の経歴書を見ながら、魔法で動かした羽ペンでサインをつけるこの作業は少し苦であった。

 

「・・・でも、一年後には部下に丸投げできるしいっか。」

 

そう思いながら、私は焦茶色に焼けた美味しそうなフランス菓子を口へ放り込み、思案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1991年 4月。

 

着々とイギリス渡航のために準備を進めた私は、自室に部下を数名呼び出していた。

 

私からのフクロウ便を受け取った彼らはすぐに各自違法ポートキーやら姿現しやらで、この城の前に現れてくれた。

 

ちなみにこの場所はパリ街の一角にある、商店街の壁中に存在する。

 

忠誠の術をかけ、私と、私がこの場所を知らせた幹部達以外は入ることは愚か、見ることも近づく事もできない。

 

執務机に置いてある水晶玉を通してみれば、壁前の道路を歩くマグルの通行人はこの壁の事なども欠片も見ずにスタスタと歩き去っている。

 

わざわざこんな場所を選んだのは、廃れた街や廃工場に拠を構えるよりかは、こういった敢えて人通りの多い場所の方が魔法省の連中も勘づかないだろうとの考えからだ。

 

事実、この場所は露見したことが一度もない。

 

その事実を前に、私は少し口を不気味に歪めながら目の前の数人の部下達を見やる。

 

「お呼びでしょうか、グリンデルバルド嬢。」

 

その中の一人、中ぐらいの背丈の顔に傷を負った男の魔法使いが話しかけてくる。

 

「えぇ、そうね・・・。まず、これまでの活動報告を聞きたいわ。まずは貴方から、マドリード支部さん?」

 

私は彼の隣にいた黒髪のシルクハットを被った魔法使いに尋ねる。

 

「はっ、スペイン魔法省は我々の動きを少なからず感知している様ですが、依然こちら側の人員や詳細な情報は漏れておらず、目立った動きはありません。

 

連中による我々の活動の取り締まりに関しても、他の支部よりも寛容な所があり、このままいけばドイツ魔法省と同じ様になるかと。」

 

ふむ・・・スペイン魔法省ももう少しで抱き抱えられそうということか。

 

その報告に満足した私は笑顔で彼を称賛したのち、その他の支部の話も順に聞いていく。

 

 

 

 

そうして、一通り各国に潜伏している支部から報告を受けた後、私は口を開く。

 

「各自、よくやってくれているわ。・・・だけど、まだ表舞台に立つ時ではない事くらいわかるわよね?」

 

そう私がだだっ広い執務室で忠告を漏らすと、彼らもそこは承知している様で、

 

「もちろんです、グリンデルバルド嬢・・・まだ事を起こすには早すぎると誰もが承知しております。」

 

と、顔に傷を負ったベルリン支部幹部が答えてくれる。

 

私達は半世紀もの間我が叔父の組織を再建するため、再び『より大いなる善』を掲げて秘密結社を立ち上げた。

 

国際魔法機密保持法の撤廃、並びに愚かなマグルの統制・支配を目論む私達は叔父が投獄された後も、ヨーロッパを中心に活動を続けてきた。

 

だが、それでもアルバス率いる各国魔法省によって撲滅された組織の立て直しは困難を極めた。

 

故に、ドイツ支部ベルリンにスペイン支部マドリード、ここフランス本部パリなど主要な魔法省の懐に拠点を構えるのも苦労したのだ。

 

それもようやく形となってきて、私達は今着々と再び起きるであろう大戦の準備を進めてきたのだ。

 

「よろしい・・・では、皆に伝えておくべきことがあるわ・・・。唐突で悪いのだけれど、今年の九月から私は英国に渡る。」

 

だが、そんな私達の理想を叶える準備段階において英国への渡航を伝えると、案の定幹部達の顔に動揺が走る。

 

慌てた様子でイタリア支部の眼鏡をかけた若い男の魔法使いが苦言を呈してくる。

 

「な、なぜ・・・!

今グリンデルバルド嬢に本部を離れられれば、勢力の拡大に衰えが出るやもしれません!それに、各国の魔法省が騒ぎ出すことも・・・。」

 

私はそんな彼をじっと見つめながらも、冷静に答える。

 

「・・・私達にとって天敵となりうる存在が英国にいるのよ。そいつを肥え太る前に片付けておくのは至極真っ当な事じゃない?」

 

私がそこまで言うと、イタリア支部の男は理解したのか、「なるほど・・・。」と口を噤む。

 

「・・・闇の帝王、ですかな?」

 

ベルリン支部の男が再び口を開き、その予想を的中させてくる。

 

「その通りよ、奴は私と恐らく対等にやり合える唯一無二の存在・・・その上、魔法界の支配を目論んでいる。

正直に言えば、同じ闇の魔法使いだとしても、あの若造の目的と私達の理想とは相反するわ。いずれ敵対する身ならば、弱小の頃を狙うのが一番よね?」

 

「・・・。」「・・・。」

 

その言葉を皮切りに、沈黙が訪れる。

 

それもそうだ。今世紀最強の闇の魔法使いであるヴォルデモート卿を恐れていない、と言えば嘘になるだろう。

 

奴は肉体を失って彷徨い続けているとは言え、きっかけさえ与えられればすぐにでも肉体を取り戻し、その膨大な力を使い英国魔法界を制圧するだろう。

 

さらには、英国にはダンブルドアがいる。かつて我が叔父ゲラートを討ち取った宿敵だ。

 

そんな争いの絶えない悪夢の様な場所に私を送り込むなど、正気の沙汰ではないだろう。

 

ゆえに、

 

「・・・ならば、前回同様にあの今世紀最も偉大なる魔法使いに任せておけばよいのでは?

わざわざこちらが連中の手助けをしてやる必要があるのでしょうか・・・。」

 

と、至極真っ当な意見をマドリード支部が端的に述べてくる。

 

私はそれに対して、机の上の紅茶をじっと見つめながら、こう言う。

 

「・・・確かにその通りだ。

 

この私が居る限り、ヨーロッパ魔法界は絶対的に安全を補償されるだろう・・・高みの見物を決め込んでも構わない。

 

・・・だが、その過程で私達は何を得る?」

 

「・・・と、言いますと?」

 

私の言いたい事を計りかねて、彼は顔に疑問符を浮かべている。

 

私はそんな彼に、悲しげな瞳を光らせながら至って丁寧に説明する。

 

「・・・帝王とあのダンブルドアとの戦いの中で、今度は一体何人の若き優秀な魔法使い達が犠牲となると、私は言いたいのだ。」

 

その言葉に、彼らは瞳を揺らす。

 

英国の連中とて、魔法を使える時点で同じ魔法族だ。

 

我々は闇の魔術に傾倒し、堕ちてしまったとは言え、崇高なる目的を持っている。

 

無作為に、無意味に殺されていく同胞の犠牲を何とも思っていないわけではない。

 

 

 

当時、闇の帝王との第一次魔法戦争で英国魔法界は大打撃を被った。

 

それを私はこの目で見てきたのだ・・・傍観者として。

 

幾多もの優良なる魔法使い達の犠牲が絶えず、良き者は死に、悪しき者だけが残っていった。

 

 

 

私は見てしまったのだ。

 

 

 

救えたはずの、貴重な魔法族の血が無惨にも散り果てていくのを・・・

 

 

 

これが、我々が望む理想なのか?

 

それは今世紀、私が最も思い悩んだ疑問であった。

 

 

 

『・・・誰を守るための法だ?』

 

不意に、叔父の言葉が脳裏に光る。

 

 

『我々か?   ・・・彼らか?』

 

 

 

その言葉を思い出した私は、迷いを一切振り切って彼らに向かって言う。

 

「・・・諸君らの気持ちもよくわかる。いずれ我々とは道を分つかもしれない者達を助けるなど、戦略上狂気の沙汰だ。

 

・・・だが、これが我々の望んだ世界なのか?

 

我々は偉大なる目的の為ならば如何なる犠牲をも、如何なる手段をも厭わない。

 

だが・・・我々が打ち倒すべき、そして救うべきでもある魔法族が無惨に、無意味に、無作為に殺されるのを、我々は黙って見ていられるか・・・?

 

我々の神聖なる決闘に、水を刺そうとする愚かな愚物に、好きにさせておくと言うのか?

 

・・・かつて我が叔父と共に始めた、偉大なる理想を追求するこの我々が!!」

 

 

ゴォォォッ!!

 

 

私が椅子から立ち上がり、勢いよく言い放った途端に、この部屋全体に突風が吹き荒れ、青い炎が私達を円状に囲み込む。

 

それを見た幹部達は目を見開き、私達の掲げた共通の理想を脳裏に焼き付ける。

 

 

 

 

この理不尽な世界に憤り、そしてたどり着いた場所が、かのゲラートを完全に継承した唯一の希望

フォートシュリット・グリンデルバルドなのだ。

 

 

 

 

彼らが胸に秘める彼女への期待・希望・熱意・・・その想いは尋常ではなかった。

 

それゆえに

 

 

「・・・我等は常に貴方と共にある。

 

     グリンデルバルド     」

 

 

その言葉と共に、幹部達は彼女を信じる。例えいかに矛盾して見えようと、例えいかに困難であろうと、彼らはなすべき事を成すために、彼女についていく・・・それしか道は、残されていないのだから。

 

そして一斉に杖を顔の前に突き立て、忠誠を唱えた彼らの答えに満足したのか、フォートシュリットは青い炎を身振りを1つ整えただけで消し去り、何事もなかったかの様に佇まいを戻した。

 

「・・・その言葉が聞きたかった。」

 

そうとだけいい、再び執務机の椅子に腰を下ろした。

 

「・・・今年の九月より、私は英国に行く。

 

その間、私が休暇まで帰って来れない間は諸君ら各支部の幹部にこの組織を一任させることになる・・・。

 

各自、何かあれば、即座にしもべ妖精のベルムを通じて私に連絡を。

 

私がいない間はこのパリ司令部の指揮は・・・ベルリン支部担当のフォックスに任せる。」

 

「了解致しました、では早速ベルリン支部の部下と連絡を取り、パリ支部に人員を割きましょう。」

 

そう答えてくれた彼、コードネームをフォックスというが、彼には軽く会釈し、感謝する。

 

彼は各支部の中でもその指導力に優れており、私の右腕といっても差し支えない。

 

「他の支部も各国の魔法使い達への協力関係の構築、魔法省への侵入に集中してほしい。

 

くれぐれも私の渡航に関する情報の漏洩は徹底的に規制するように・・・。

 

 

 

 

・・・我々の今後の方針はこれまでと何も変わりはしない。

闇の帝王を容易く屠った後は、魔法界を二分する大戦を再び巻き起こさねばならない・・・。

 

全ては我らの

 

 

 

   『より大いなる善のために。』  」

 

 

 

その標語と共に、各員は再び姿くらましをして各国に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー・・・。」

 

「お疲れ様でございます、お嬢様。」

 

今日もガチャガチャと、飲み干した紅茶と食べきった洋菓子皿の後片付けをしてくれるベルムに労われながら、私は机に突っ伏した。

 

「叔父上の真似事をするのは疲れますよ・・・本当に。」

 

「あのお方は厳格な気質でございます故、妥当な判断だと申し上げます。」

 

そうとだけ言って彼は「では。」と厨房にトレーごと姿くらましして行った。

 

「・・・アルバス、か。」

 

叔父上のかつて最も信頼厚き友であり、最も対立した宿敵・・・。

 

そんな存在に、これから連絡を取ろうと言うのだ。

 

もちろん、闇の帝王と敵対関係であるダンブルドアと協力関係を結ぶためだ。

 

流石に英国魔法界に頼れるツテがあるわけではないし、そもそもロンドン支部は形成さえされていない。

 

それにダンブルドア自身の目もある事だ。英国に居を構えれば全力で破壊しにくるに違いない。

 

だがいくらあの闇の帝王を葬り去るためとはいえ、ヨーロッパでの悪評によって私達は当然警戒されているだろう。

 

だからこそ、どんな風に手紙を書けばいいのか少し迷っていたのだった。

 

執務机の前で「吠えメールにでもしようかな・・・。」などと呟く私は、どこか抜けた事をいいながら、思案したのだった。










次回は髭もじゃ爺に会いに行くゾイ!

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