史上最悪を継承する者   作:YJSN

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蒸し暑いので初投稿です。







賢者の石
叔父上と面談


かつて、魔法界には著名な闇の魔法使いが存在した。

 

その者はかの闇の帝王の登場により、影は薄くなったが、未だに魔法界に大きな影響を与えた人物として世界で恐れられている。

 

 

 

 

その名は、ゲラート・グリンデルバルド

 

 

 

 

そして、そんな彼には唯一無二の最後の肉親が居た。

 

彼が家族と呼べる唯一の人物...そして彼自身が生み出した化け物でもある。

 

 

 

 

彼女の名は、フォートシュリット・グリンデルバルド。

 

かつて史上最悪の魔法使いとして名を馳せ、欧州を大戦に巻き込んだゲラート・グリンデルバルドの自慢の娘である......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女は、今現在オーストリアの山奥まで来ていた。

 

「・・・ったく、こんな蒸し暑い夏に来る事になるとはねぇ・・・。」

 

心の中では酷く悪態をつきながらも、私はこの堅牢に建てられたデカイ負の遺産を見上げる。

 

ここ、アルプス山脈の一角に立ちそびえる要塞はかつての我が主が建てたヌルメンガード城と呼ばれた監獄だった。

 

元は自分に敵対した者達を収監しておくための監獄だったのだが、皮肉にもそこに私の生みの親とも言える人は収監されている。

 

「・・・それじゃ、入れるか試してみますか。」

 

・・・グッ、と身体に力を入れてみるが、やはり何も起きない。

 

「・・・やはりダメか。」

 

予想通り、この城には未だオーストリア魔法省にすら解呪できなかったほどの強力な魔法がかけられている。

 

恐らく、姿現し妨害魔法が城中、壁一面に張り巡らされているのだろう。だからこそ、私の姿現しでは何も起こらなかった。

 

「・・・叔父上もよくやりますね、こんな大規模な魔法をかけたなんて・・・。」

 

彼自身の負債でもあるそれを、私は今度は少し違った手で掻い潜ってみる。

 

「・・・なら、これならば・・・。」

 

私は素手でパチン、と指を鳴らす。

 

すると、周囲の壁沿いに聳り立つ深い森や木々の視界から一転、暗い直線の通路へと移った。

 

「・・・成功して良かった。」

 

これは最近の私の研究成果の結晶ともいえよう。

 

姿現し妨害魔法を構築する魔法線・・・私に見えている呪文を構成する細い糸のような線なのだが、それを一部結び直すように新たに呪文を上書き、改変するという事をして姿現しの妨害対象を私以外、とした少々な荒技を使ったのだ。

 

そうして私は現在この要塞の中に入れた。これがなければ屋敷しもべ妖精にでも頼むしかなかったが、彼らの純情さからこの悪の体現とも言える我が叔父に会う事は願い下げだと言われるだろう。

 

だから、私は家にいる屋敷しもべを置いて単独でここまで来ていた。

 

そうしてこの薄暗く不気味な通路を抜け、道中の看守を目くらまし呪文で透明になりながらやり過ごし、その先の階段を上がっていくと、とある監獄があった。

 

他の通路沿いにあったものとは違い、独房で、何重にも魔法が重ねがけされた部屋で、重厚感も半端がない。

 

しかも扉の両隣には看守が二人常に張り付いている。

 

(・・・ふむふむ、少し眠ってもらいましょうか。)

 

私は看守の前で人差し指を交差させ、無詠唱で魔法をかけてやれば、ドサッと倒れて二人とも夢の世界へと旅立ってくれた。

 

(ヨシっ・・・あとは・・・。)

 

私は鉄の扉の前に近づき、トントン、とノックをする。

 

すると、扉にかけられた魔法の線や、細い糸のようなモノは解かれ、次々に緩められていき、最終的には何の変哲もないただの扉になった。

 

後方に人避けの魔法を三層も重ねがけしてから、わざとらしくギィィー...と、音を立てながら扉を開けてやる。

 

すると、中の方からしわがれた声が出てきた。

 

「・・・何の用だ、我が愛しの娘よ。」

 

その声を発したのは、白髪を生やし、髭の伸びた老ぼれ...私の叔父であった。

 

 

 

 

「やっほー、元気してた?」

 

中の様子を見ながら、この鎖に繋がれ、ありとあらゆる魔法によって拘束された老齢の男を見下ろす。

 

「・・・ふん、これで元気と言えるか?」

 

「・・・それもそうだね、スコージファイ。」

 

私が指先でチョコチョコと叔父上の方をいじってやれば、荒れ放題のヒゲは整えられ、体は清潔感を取り戻していた。

 

それを見た叔父は、驚愕の顔で見返してくる。

 

「・・・この幾多にもかけられた拘束魔法を掻い潜って俺に清めの呪文を使うとは・・・本当にこんな娘を生み出したのは間違いだったのかもな。」

 

「え〜、ひどぉーい。僕、これでも叔父上の事慕ってるんだよ?」

 

私はわざとらしく頬を膨らませながら文句をつける。

 

が、彼はそんな仕草をどうとも思っていないのか、真剣な顔で睨み返してくる。

 

「・・・それで?我が娘、フォートシュリットよ。何の用件だ?つまらない事なら看守を呼ぶぞ。」

 

「やだなー、おじさまったら容赦ないんだから。・・・端的に言えば、報告会のようなものだよ。」

 

「・・・報告会、か。」

 

彼、すなわち私の叔父 ゲラート・グリンデルバルドは少し落ち込みながら話の続きを促してくる。

 

「・・・最近情報が入ってこないと思って、英国魔法省を盗み見てきたら、どうやらトムが死んだみたいなんだよね。

 

いや、肉体の方がって言うのが正しいんだけど。

 

それで英国魔法省が一応、機能不全から脱して私達の活動にも抵抗し始めたって感じかな。」

 

「・・・奴をやったのはアルバスか?」

 

グリンデルバルドは旧友の名を出すが、私は首を振る。

 

「違うわ。・・・とある男の子よ。」

 

「男の子・・・?いくつだ。」

 

彼が訝しみながら問うてくるので、髪をいじりながら素直に答えてあげる。

 

「・・・んーとね、当時はまだ一歳だったって話だよ?」

 

「・・・バカな。まだ赤ん坊じゃないか。そんな奴が傲慢であさましくも、アルバスとマトモにやり合えるあの若造を葬れるとでも?」

 

目の前の叔父は同じ闇の魔法使いとしてあろうことかヴォルデモート卿を若造と言い放った。

 

その言葉には、実にかつて十年以上魔法大戦に身を置いた歴戦のゲラートの姿が垣間見える。

 

「そこが不思議なんだよね〜。僕もちょっと興味が出てきてさ。」

 

私は髪をいじるのをやめて、彼に真向かいに向き合う。

 

すると、彼も話の意図が読めたのか、私の目を見て問うてくる。

 

「・・・なんだ、今の活動を放り出してでもアルバスの厄介ごとに首を突っ込むのか?」

 

「んー・・・まあそんなとこかなー。

 

どうやらその子も来年の九月にはホグワーツに入学するみたいだし。

 

・・・それに、叔父上だってダンブルドアには貸しがあるんでしょ?」

 

私が素っ気なくいうと、はぁ、と大きなため息をついた叔父上がこう言った。

 

「・・・確かに、アイツには返すべき恩がある。

 

お前が俺の代わりに果たしてくれるなら、ありがたい事この上ないが。

 

・・・それに欧州を放り出す、と言ってもホグワーツには休暇が年に幾度かあったはずだ。それを利用して活動を継続させる事も可能、か。」

 

「ご名答〜。さすがは叔父上だねー、開心術でも使ったのかなー?」

 

ジッ・・・と、私が叔父上の目を見る。

 

その瞬間、叔父上はサッと目を逸らした。

 

「・・・何でもかんでも他人の心を覗くものじゃないぞ。クイニーでさえもう少し弁えていただろうに・・・。」

 

「えへへー、でも全然本気じゃなかったよー?」

 

と、不必要に開心術をかけながら言うセリフではないが、どこかあざけながら言う私を嫌な目で見る叔父。

 

「・・・それで、トムの所在はわかるのか?」

 

「いやそれが全然わからんのよねぇ・・・。

 

ホークラックスを用いてる事から死んではいないと思うんだけど・・・

 

いかんせん衰弱した肉体も持たない魂を探せという方がどうかしてるよ。」

 

クスッと笑った僕にただ「そうか・・・。」とだけ返す叔父。

 

「・・・あ、そうだ。その他に伝えるべき事としては、ヨーロッパの勢力は現在拡大中だよ〜?

 

中々に熱き若い魔法使い達は大勢いるみたいで、協力者が結構増えてきたんだよね〜。」

 

私が呑気に近年進めている活動の内容を報告すると、案の定いつもの叔父の渋い顔が浮かび上がり、

 

「・・・用心しろ、娘よ。同志が増えるのは良い事でもあり、反面魔法省のネズミが入り込んでるやもしれん。」

 

「もちろんだよ、叔父上。魔法省の息のかかった連中は今頃開心術士達が尋問してからオブリビエイトでもして、街中に放り出してる頃だと思うよ?」

 

私はそういった方面も抜かりはないのだ。組織に加盟した人物の来歴や経歴、思想的背景などは把握済みだ。

 

少しでも偽造っぽい身分の奴がいたら面接という名の尋問でレジリメンス連発からのオブリビエイトでマグル世界に放り出してしまう。

 

「でも、叔父上の言う事も案外参考になるね〜。組織がデカくなる程、内側からの崩壊に気づきにくいってのは本当なんだねぇ。」

 

叔父はその言葉を聞いてふんっ、と自慢する様に語った。

 

「当たり前だ。見かけだけ忠誠心を持っている輩や、目的もなく流れに身を任せて辿り着いた者達がどれほど多い事か...。全く気が抜けん。」

 

説教を垂れる様にプンスカプンスカと言い始める叔父は少し可愛かったため、クスリとまた笑ってしまう。

 

「・・・何を笑っている。」

 

「ふふふ、いや何でもないよ。・・・それじゃぁ、そろそろ時間も迫ってきた事だしお暇させてもらうよ?」

 

「あぁ、そうした方がいいだろうな。」

 

叔父は扉の方を見ながら、後方の扉奥廊下から何人もの看守が慌てて走ってくる音を指して忠告してくる。

 

「・・・それと、そろそろ杖を買っておけ。杖なしだと、その、なんだ・・・不便な時もあるだろう。」

 

「それもそうだね。来年までには揃えておくよ。確かオリバンダーの店がいいんだったっけかな?」

 

私はそう呟きながら、左手でパチン、と指を鳴らす。

 

「じゃぁ叔父上、また来年会おうね・・・。」

 

 

 

『より大いなる善のために。』

 

 

 

私達が掲げる共通の標語を言ったのち、まるで屋敷しもべ妖精のようにその場から跡形もなく姿くらましをした。

 

「はぁ・・・アルバスよ、私の娘をどうか頼むぞ。」

 

あの娘も、そろそろ魔法以外の面に関して知見を広めておくべきだろう。

 

特に、あの子には得るべき友が必要だ。ホグワーツは娘にその機会を与えてくれるだろう。

 

 

かつての私とアルバスのように、共に・・・この魔法界を真の意味で変える者達を。

 

 

あの子の力は絶対的だ。魔法に関して言えば、彼女の右に出るものはいない。

 

恐らく、あのヴォルデモート卿ですら純粋な戦闘では歯が立たないかもしれない・・・。

 

だが、彼女はいずれ自らの行いを確かめる時が来る。

 

自分に与えられた務めは、正しかったのか?

 

それに答えられるのは、友だけだ・・・それを私は知っている。

 

 

 

前方の扉から大量の看守達が騒ぎ立てて雪崩れ込んでくるのを尻目に、ゲラート・グリンデルバルドはゆっくりと瞼を閉じた・・・。











1990年スタートチャートです。
帝王と不死鳥の騎士団とグリンデルバルドで仲良く3P(殴)したいと思います。

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