ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武

99 / 99
この世は、正義と悪の二つではなく、無数の正義が存在している。どちらも間違っていて、どちらも正しい。
ただ、誰が幸福になるかが違う。



One Disaster After Another

オールマイトが勝利のスタンディングを決める姿の中継映像に人々は涙を流すほどに歓喜の声を上げる。脅威は去ったのだと。

しかし、オール・フォー・ワンがオールマイトに倒されてもヒーローの仕事は終わらない。これから気絶しているオール・フォー・ワンを警察に引き渡し移動牢(メイデン)へと収監して護送車で収容所へと送るほか、負傷しているMt.レディとベストジーニストの治療と搬送、破壊された建物の瓦礫の下に生き埋めになっている市民たちの救助活動が行われる。

夜とはいえ多くのビルが立ち並ぶ繁華街近くでの戦闘であったため、被害者の数はわからない。救助活動はスピード勝負である。破壊された範囲が広いため広域を調べなければならない。

現場上空に集まっていた報道ヘリも、いつまでも空から中継している必要はないと言わんばかりに一機二機と去っていく。救助活動の画は必要ではあるが、上空からではあまり映えないのだ。

 

「護送車及び救急車用の道を用意するぞ」

「それなら移動牢(メイデン)を絨毯に乗せて持ってきましょう、拘束前に目覚めたら厄介ですし。

ベストジーニストとMt.レディを救急車に引き渡し、そのまま乗せて戻ってきてもらい、収容後に護送車まで運ぶのが一番早いです」

 

Mt.レディとベストジーニストの応急処置を行いながら千雨は移動牢(メイデン)を持ってくる方法を提案する。

そんな話をしていると、オールマイトが身体に纏っていた淡い光は消えて煙が立ちのぼり、あのガリガリに瘦せこけた姿へと変わった。

 

「オールマイトの姿が……」

「そりゃ当然、強化が解けりゃ元に戻るだろ」

「すまないがもう一度」

「ダメだ」

 

オールマイトの言葉を千雨は一刀両断した。

 

「さっきはアレしか方法がなかったからしただけだ」

「だが、救助を」

「それは()()()()()()()()()()()()()だろ。エンデヴァーさんと共にそこのクソハゲ黒スーツの見張りでもしてろ」

 

確かに、ここでオールマイトが全盛期あるいはデビュー当時さながらの救助活動を行えば迅速な救助活動によって生存者は増えるだろう。だが、千雨はそれをする訳にはいかなかった。

アーティファクトによる強化は一時的なもの。活動中に強化切れが起きる可能性も考えられる。しかも何かしらの反動や後遺症が起きないとも限らない。

 

なにより、ボロボロの身体の男に全てを背負わせ続けるという事を、千雨が許せる筈もなかった。

 

「シンリンカムイさん、応急処置は行いましたので二人を医療機関に引き渡してきてください。絨毯の操作は問題ないようですからお願いします。

私は救助された方々の一次対応にあたるので」

「承知した」

 

実はシンリンカムイ、千雨が飛び出しオールマイトを庇った後に、エンデヴァーとエッジショットも千雨を追って絨毯から飛び降りて各自"個性"で先に向かったため、そこから現場に到着し、オールマイトがオール・フォー・ワンを倒すまで絨毯の操作を行っていたのだ。

シンリンカムイは腕を樹木に変えて枝を絡めてビルの屋上など高所へ移動するといったことは出来るのだが、数百メートルを一気に移動出来るような技は持っていないからである。縦横無尽に素早い移動が出来る絨毯は腕を樹木に変えて戦う彼にとって、常日頃の活動でも使用したいと思うほど便利なものであった。

 

「救助活動の加勢に来ました!」

「ウワバミか」

 

現場の動けるプロヒーローたちが瓦礫撤去や人命救助を行い、千雨が虎に救助された女性の怪我を治癒していると、八百万のインターン先であったスネークヒーロー・ウワバミが現場にやってきた。

"蛇髪"という髪の先がヘビになっている"個性"を持つウワバミはヘビの持つ熱探知など索敵能力で瓦礫の下にいる被災者の居場所を捕捉出来る。他にもニュースの速報等で事件を知ったであろうプロヒーローたちが現場へ加勢に来てくれた。

 

ウワバミが熱を感知した場所を伝えて、エッジショットが身体を糸のように細くして瓦礫の下の状況を確認し、慎重にそしてスピーディーに瓦礫を撤去していく。そして救助された市民の状態を千雨を含めたプロヒーローたちが確認して治癒やメンタルケアを行っていく。

巨大化出来るMt.レディや繊維を操れるベストジーニストが動けたならば瓦礫撤去や救助活動もより迅速に行えたのだが、Mt.レディは巨大化した状態で顔面を強打したことで鼻骨に罅、ベストジーニストはオール・フォー・ワンに胸部を刺されて出血で、両者ともに意識不明で戦線離脱である。千雨に出来る範囲で治癒をかけ応急処置をしたとはいえ、完全回復(コチノヒオウギ)の時間制限を超えている以上、医者に任せる他ないのだ。

 

 

警察が立入禁止の規制線を引き、力のあるヒーローたちが瓦礫の撤去作業をしていると、絨毯で移動牢(メイデン)が運ばれてきた。

 

「元凶となった敵は今、ヒーローたちの厳重な警備の中で移動牢(メイデン)に入れられようとしています!

オールマイトらによる厳戒体制の中、今……!」

 

規制線の側に現場リポーターとカメラマンが実況をしている。神野で戦闘発生の一報を得て飛び出してきたか、報道ヘリから近くのビルの屋上なりに着陸してから現場に再度駆けつけたか。ラフな半袖姿に加えて身なりも最低限にしか整えられていない様子からして前者だろう。

そんな中継カメラに向かって、オールマイトは左腕を伸ばしてカメラを指差す。

 

「次は、君だ」

 

外見がどれ程痩せ衰えていようとも、変わらぬヒーロー精神と言わんばかりの力強い一言。

それはまだ見ぬ敵への警鐘であり、同時に己を敬愛する緑谷(弟子)へのメッセージ。その言葉の意味を受け取った緑谷の視界は潤む。

 

私はもう出しきってしまった(ワン・フォー・オールの残り火が尽きた)』という意味を。

 

歓喜に沸く民衆の中で涙を流す緑谷。爆豪は何も言わずにそれを見ていた。

 

「さて、この人混み具合だ。全員はぐれないように俺についてきな」

 

キドウの顔や手足に巻かれている包帯のような幅の短い帯が爆豪をはじめとする四人の右手首に巻き付く。流石の爆豪も大人しくしている。

 

「あの……ありがとうございます」

大人(ヒーロー)として当然のことだよ。

本来なら子供が彷徨いて良い時間でもないからね。さ、行こう」

 

轟と八百万を保護しているバーニンと落ち合うつもりなのだろう。キドウを先頭にして緑谷たちは人混みの中を進んでいく。

僅かな不安や悲しみを抱えつつも、これでもう非日常は終わったのだと。

 

 

 

「治癒とトリアージを受けた人は警察とヒーローの誘導に従ってここから避難してください。立ち止まらずに進んでください」

 

瓦礫の撤去がされた区画で千雨は救助された一般人たちに治癒魔法と解析魔法をかけていき、塚内警部や警察が治癒を終えた人の誘導を行う。トリアージや治癒については千雨やプロヒーローのみならず近隣の救急病院などからも応援が駆けつけてくれていた。

重傷者や動けない一般人は千雨の絨毯同様に空を自在に移動できる虹色の足場を作れる魔法ヒーロー・マジェスティックを中心に移動系"個性"のプロヒーローが動いている。

 

「この調子なら朝には救助活動は終わっているだろうね」

「…………」

「ジョーカー?どうかしたかい?」

 

塚内警部の言葉に千雨は返事をしない。

これで終わった。もう何も起こらない。そう思いたいのに千雨の心はいまだにざわついている。嫌な予感が鳴りやまない。

ゴポリと瓦礫の下から水のような音が聞こえ、千雨は総毛立つ。

 

「――ウワバミッ!!」

「え?」

 

千雨が叫ぶと同時に、ウワバミを黒い泥が呑み込む。瞬間、警察とヒーローは警戒を強める。

 

「奴らのワープか!?」

「違う」

 

瓦礫の下からゴポリゴポリと溢れてくる泥に千雨は叫んだ。

 

「『総員退避』!!!」

 

その言葉と同時に一気に黒い泥が噴き出して広がり、千雨は絨毯のプログラムを複数実体化させて一人でも多くの人間を空へと逃がす。

 

「は、ジョーカー!」

「まだ奴の手先が居たのか!?」

移動牢(メイデン)を狙いもしなかった!仲間じゃねぇよ!」

 

オールマイトと塚内が叫ぶように千雨へ問いかけ、千雨もまた叫ぶように返事をする。

黒泥はじわじわと瓦礫の山を覆っていき、ドンッという大きな音とともに瓦礫の中から太くて黒い木の根のようなものが飛び出した。

それは木の根ではなく、巨大な触手である。飛び出した瓦礫の部分からはさらに黒い泥のようなものが溢れだしていく。

 

「な――――何だ、アレは……!?」

 

その泥を凝視したプロヒーローたちは身体を強張らせた。

 

「こ、こちら現場!突如巨大な触手のようなものが泥とともに瓦礫の中から現れました!一体何が起こって……」

 

突然上へと足場が動いたことで中継が乱れた現場リポーターとカメラマンは触手と泥を凝視する。その瞬間二人は凍りついたかのように身動きができなくなった。

荒野と化した市街地に広がる黒泥からうごめく幾つものおどろおどろしい巨大な触手に、数多の死者の姿。一目見ただけで身体が硬直して正気を喪失させる光景。途方もない恐怖で全身が震える。

文字通り、地獄がそこにあらわれた。カメラマンがカメラを落とさなかったのは幸運であったと同時に、最悪の光景を映していた。

 

その地獄の光景を前にして、警察もヒーローたちも恐怖に青褪める。そんな中で一人の女性が動いた。

 

()()()!全員をこのまま避難させろ!」

「イエッサー!」

 

静まり返った現場でそのやり取りは高らかに響き、恐怖に硬直していたヒーローや警察は絨毯が動いたことで硬直が解ける。そんな中でリポーターとカメラマンは何も言えずに目を見開いた。

 

背丈が違う。髪色が違う。だが()()()()()()()()()()()()を知っている。体育祭で。職場体験で。それらは()()のそばにいつも居た。

"個性"溢れるこの社会、似た"個性"の持ち主は存在している。事実、類似"個性"を持ったヒーローが指導をすることを推奨している。

だが、彼女は過去が無い。彼女の血縁者も見つからない。そして、あのヒーローが『誰』なのかも、分からない。たとえアンダーグラウンドだとしても、話題にならない筈がない。特徴的な能力であればあるほど即座に親子だと分かるのだ。"個性"は親から子へと"遺伝"するものだから。

現場から遠ざかるように動き始めた絨毯の上、二人の額からつたう汗は恐怖による冷や汗なのかそれとも生温い夏の夜風によるものなのか、分からなかった。

 

空飛ぶ絨毯から飛び降りて、どこからともなく取り出した箒に乗って触手のもとへ向かって飛行していく千雨。それを追いかけねばとオールマイトが絨毯の端を掴むと同時に、"個性"ジェットで足裏から空気を放出して移動してきたグラントリノが止めた。

 

「ダメだオールマイト!」

「ですが、グラントリノ!」

「救助活動していたウワバミとエッジショットと虎が泥に呑まれたっきりだ!絨毯(足場)があるとしても、ちったぁ冷静になれ!」

「くっ……!」

 

千雨の施してくれた強化は既に解けており、ワン・フォー・オールの残り火が尽きている今、オールマイトとして活動しようにも何も出来ない。己の無力さを悔いるように絨毯の端を握る手に力がこもる。

一方で、千雨の声と動き出した絨毯で我に返ったエンデヴァーがすぐさま目当てのヒーローを探して絨毯から絨毯へと炎の推進力も活用して移動する。

 

「マジェスティック!彼女を追う!足場を任せるぞ!」

「エンデヴァーあんた()()()()な!?」

「その話は後でだ!」

「……わかったよ!

オールマイト!俺は戦闘の出来るヒーローを連れて彼女を追う!こっちの安全と緊急時の対応は頼むぜ!」

「マジェスティック……エンデヴァー……」

 

魔法使いのような円錐形の先が折れたとんがり帽子を被り、装飾品を身に着けた呪術師然としたコスチュームのマジェスティックが虹色の輪を二つ重ねたような足場で宙に浮き、エンデヴァーをはじめ動けるヒーローたちと共に飛んでいく。

 

オールマイトはただ遠ざかっていく光を見送ることしか出来なかった。

 

 

 

「電子の王、再現!ハマノツルギ!」

 

千雨が月光を一切反射しない黒泥の上を飛び回りながら身の丈ほどの大剣を手にして迫り来る自身の何倍もの大きさの触手を一太刀で切り落とせば、触手は白く輝きながら消える。

地上に広がる黒泥は電子精霊の解析によれば闇属性のうち死霊系に分類される高濃度瘴気の一種だ。もともと闇属性は恐怖を始めとする精神へのマイナス作用の特性がある。魔法の射手・闇の矢は当たった相手に恐怖を与えて昏倒させたり正気喪失を引き起こすほか、幻覚を見せて混乱させる事もある、精神的『破壊』の特性を持つ。

空とび猫(アル・イスカンダリア)で一掃するのも考えたが、強力な衛星砲を使うのならば本体を見つけてからまとめて吹き飛ばす算段を組んでいた。

 

「お前ら、泥の状況の調査と敵を探して――――」

「ジョーカー!」

 

聞こえた声に千雨は振り返る。マジェスティックにエンデヴァー、ギャングオルカ、シンリンカムイなど黒泥に呑まれるのを千雨の絨毯で回避できたヒーローたちがやって来ていた。

 

「無事だな!?」

「何で逃げてないんだよっ!?」

「敵を前にして逃げられるか!」

「いくら協力者だとしても無免許の子が無茶し過ぎだよ」

「いいから全員逃げろ!こいつはおそらく私にしか……」

 

敬語を使う余裕もない千雨とエンデヴァーたちの会話を遮るように再び黒泥から現れた何本もの巨大な触手が千雨に向かって勢いよく伸びてくる。

 

「とにかく!あの泥に触れるな!!」

「待て!ジョーカー!」

 

叫ぶだけ叫んで箒を手繰る。操縦はまだ完璧とは言えないが、それでも必死に回避をしながらハマノツルギと光の矢(サギタ・マギカ)で触手を減らしていく。触手はプロヒーローたちに興味がないと言わんばかりに千雨にだけ向かっていっては切り落とされて消えていく。

 

「ギャングオルカ、どうだ?」

「ダメだ、ウワバミたちをはじめ、泥に呑まれた人間の位置がまるで掴めん」

「それじゃあ下手に泥を攻撃してもマズいか」

 

ギャングオルカがエコーローケーションを行うものの泥に取り込まれた人間の反応が無い。地中深くまで沈められているのかすらも不明だ。何かを知っているであろう千雨は千雨にだけ迫る触手を減らしている。

 

「彼女から話を聞く為にも、中・遠距離攻撃で俺たちも触手を減らそう。エンデヴァー頼むぜ」

「当然だ。マジェスティック、離れていろ。

赫灼熱拳ヘルスパイダー!」

 

エンデヴァーは両手の指先に集中し、線状に圧縮した炎を放つ必殺技・赫灼熱拳ヘルスパイダーを放ち、千雨に向かっていた触手を焼き切った。

 

 

 

「さ、先程、中継の映像が乱れましたことお詫び申し上げましゅっ!げ、現場近くにいる人は、速やかに避難をしてください!」

 

それは、一瞬の出来事だった。

轟と八百万はエンデヴァーのサイドキックであるバーニンに保護されて駅に向かって移動していたところ、三人は一瞬で動きを止めた。

 

「な、んだ……何が、起きて……!?」

 

振り向いたバーニンの震えた声すらよく言えたと言わんばかりの張り詰めた空気。

オール・フォー・ワンの死を錯覚させるほどの気迫を何倍にもしたかのようなそれは現場から離れた場所にいるにも関わらず、身体の震えが止まらない。息の仕方も言葉の発し方も忘れてしまう。次の瞬間には死ぬ。そう本能が恐れているのだ。

食糧や休憩場所などの案内をしていたヒーローの声も、不安と安堵の入り交じった市民の声も、嘘のように静まり返っている。

 

現場中継を映していた八百万のスマホからは現場の地獄のような映像が映ったもののすぐさま静止画に差し替えられて震えた声で避難を呼び掛けるアナウンサーの声がする。

映像越しでも伝わる非現実的で本能が考えることを拒絶する恐怖。

 

「八百万!!走れ!!!」

「……はっ……はい……!」

 

轟が叫ぶように指示をすると、八百万は恐怖でガクガクと力の入らない足をなんとか一歩動かしその場から逃げようと走り出す。周囲にいた人々も轟の声で硬直が解けたのかその場から逃げるように走り出す。少しでも遠くへと。

 

「何が、起きてんだよ……!!」

 

轟の言葉に答えてくれる者はいない。

ただ、苦難はまだ続くと言わんばかりに遠くで光が瞬いた。

 




前回書いた通り神野の夜は『まだ』続く。100話目前、ようやくネギま側のキャラが増えるよ!やったね!!

そして緊急時だったとはいえ千雨を知らない現場の人たちに電子精霊でバレました。とはいえSAN値直葬な恐怖映像がその前に配信されちゃってるので中継は【少々お待ちください】の画面に切り替わって音声も切断してたのでバレたのは現場の一部のみ。今後次第で運命が大きく変わるのでセウトです。

ちなみに闇属性魔法の特性とかは捏造。光属性が物理的な『破壊』なので闇属性は精神的な『破壊』と解釈した。

匿名の感想などはこちらで受け付けてます。
https://marshmallow-qa.com/adam0202chiu

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。