都内某所にある貸し会議室にて、何十ものカメラが向けられフラッシュがたかれる中で雄英高校で校長を務める根津、一年A組担任教師イレイザーヘッド、一年B組担任教師ブラドキング、三人がスーツ姿で並んで深く頭を下げている。イレイザーヘッドにいたっては普段無造作に下ろしている髪を撫で付けている上に無精髭も綺麗に手入れされていた。清潔感ある整えた見た目は誠意を示すためであろう。
「この度――我々の不備からヒーロー科一年生二十七名に被害が及んでしまった事。ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事。謹んでお詫び申し上げます。
まことに申し訳ございませんでした」
雄英高校一年ヒーロー科林間合宿で起きた敵の襲撃に対する謝罪記者会見だ。
「NHAです。雄英高校は今年に入って四回、生徒が敵と接触していますが、今回生徒に被害が出るまで、各ご家庭にはどのような説明をされていたのか。又、具体的にどのような対策を行ってきたのか、お聞かせ下さい」
体育祭開催にてメディア等には雄英の基本姿勢は示していたが、それが世間にどの程度伝わっているかはまた別の話。故に、改めてこの場で聞くのだろう。
「周辺地域の警備強化。校内の防犯システム再検討。
"強い姿勢"で生徒の安全を保証する……と、説明しておりました」
根津の回答に、NHAとは別の男性記者が質問のために立ち上がる。
「生徒の安全……と仰りましたが、イレイザーヘッドさん。事件の最中、生徒に戦うよう促したそうですね。
意図をお聞かせください」
「私共が状況を把握出来なかった為、最悪の事態を避けるべくそう判断しました」
「最悪の事態とは?二十六名の被害者と一名の拉致は最悪と言えませんか?」
「…………私があの場で想定した"最悪"とは、生徒が成す術なく殺害されることでした」
イレイザーヘッドの回答は一理ある。質問をした記者は望んだ反応ではなかったため、わずかに口角を下げた。
「被害の大半を占めたガス攻撃。敵の"個性"と解析から催眠ガスの一種である亜酸化窒素と麻酔として使用されることのある笑気ガスを主とするものでありました。
拳藤さん、鉄哲くんの、迅速な対応のおかげで全員命に別状はなく、生徒らのメンタルケアも行っておりますが、深刻な心的外傷などは今のところ見受けられません」
「不幸中の幸いとでも?」
「未来を侵されることが"最悪"だと考えております」
「攫われた爆豪くんについても同じ事が言えますか?」
根津の言葉に、その記者は鋭い眼差しと敵意のこもった声で言葉を続けた。
「体育祭優勝、ヘドロ事件では強力な敵に単身抵抗を続け……経歴こそタフなヒーロー性を感じさせますが、反面、決勝で見せた粗暴さや、表彰式に至るまでの態度。精神面の不安定さも散見されます。
もしそこに目をつけた上での拉致だとしたら?
言葉巧みに彼を勾引かし、悪の道に染まってしまったら?
――未来があると言い切れる根拠を、お聞かせ下さい」
ブラドキングは攻撃的な態度の記者があえて挑発して雄英から粗野な発言を引き出そうとしているのを察すると、同時に静かに立ち上がったイレイザーヘッドを横目で見る。目立ちたがりが多いヒーロー業界においてイレイザーヘッドのメディア嫌いは一部では有名な話である上に、人に好かれようと思わない性格だ。
イレイザーヘッドが記者に対して失言するのではと心配したブラドキングだったが、そんな心配を裏切り深々と彼は頭を下げた。
「行動については、私の不徳の致すところです。
ただ……体育祭での
誰よりも"トップヒーロー"を追い求め……もがいている。
あれを見て"隙"と捉えたのなら、敵は浅はかであると私は考えております」
イレイザーヘッドの対応と返答に記者たちが少しざわめく。その中で質問した記者は苛立ち気味に詰問する。
「根拠になっておりませんが?
感情の問題ではなく、具体策があるのかと伺っております」
「――我々も、手をこまねいてるワケではありません。現在、警察と共に調査を進めております。
我が校の生徒は、必ず取り戻します」
この根津の力強い回答は、会見中継をテレビで流している連合のアジトにて死柄木からされた敵連合への勧誘を"個性"も使って荒々しく断った爆豪も聞いていた。
「ハッ、言ってくれるな雄英も先生も……。
そういうこった、クソカス連合!」
パワーポジションと呼ばれる腰を落として前傾姿勢気味になることで何があっても素早く回避や迎撃の出来る体勢のまま、爆豪はここからどうするべきかを考える。
十数分前までは圧縮されていたが、あれだけ大掛かりな襲撃をカチ込んで成果は爆豪一人。さらに『利用価値のある重要人物』と言ったのだ、勧誘するつもりであるならば殺すつもりでの攻撃はするまい。
「言っとくが、俺ァまだ戦闘許可解けてねぇぞ!」
爆豪はこの場で二、三人ぶっ殺してから離脱する気満々であった。それをしても罪に問われないことを理解していたからだ。計算高くて暴力的な爆豪らしい思考である。
「自分の立場……よくわかってるわね……!小賢しい子!」
「刺しましょう!」
「いや……馬鹿だろ。その気がねぇなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを……やっちまったな」
敵連合の面々は爆豪の態度にそれぞれ苛立ちや呆れなどを感じている。
「したくねーモンは嘘でもしねんだよ俺ァ。
こんな辛気くせーとこ、長居する気もねぇ」
改めてハッキリと拒絶の意思を示す爆豪。
一方で、勧誘のためにトゥワイスに爆豪の拘束を外させて近寄り、直撃こそ免れたものの爆破で顔に身に付けていた"手"の装飾を落とされた死柄木は静かに俯いている。
「いけません、死柄木弔!落ち着いて……」
死柄木が顔に身に付けていた"手"の装飾を落とされたことに激昂すると思った黒霧が声をかけるも、死柄木は血走った目で爆豪を睨み付けながら、自身の後方にいる仲間たちが勝手な行動をしないように左腕を真横に伸ばして制止する。
「手を出すなよ……お前ら。こいつは……」
床に落ちた"手"の装飾を崩壊させないように気を付けながら拾い上げ、再び顔につけながら死柄木は全員に聞こえるように告げる。
「大切なコマだ」
爆豪の拘束を外すことは死柄木自身が命じたことだ。しかし装飾を落とされても勧誘を断られても、子ども大人と評されていた死柄木は感情的にならず冷静を保っている。その様子に落ち着かせようとしていた黒霧は黙って死柄木の様子を見る。
「勧誘はまだ終わっちゃいない。
爆豪勝己。その様子じゃあ、何も聞いてないし何も知らないんだろう?
――――長谷川千雨の隠し事を」
「何、言って」
死柄木の言葉と同時に、未だに映っている雄英の謝罪会見で、先ほどとは別の記者が質問した。
「日本ヒーロージャーナル社です。
敵の拉致目標であり、拉致を免れたという長谷川千雨さんについて。……彼女の経歴は中学三年生九月以前のものがありませんが、それについてはご存知でしょうか?」
その記者の言葉は静まり返った会見現場にも、死柄木たちのいるバーにも、よく響いた。
「本人から家族の話は聞いたか?会話の中で、何かがおかしいと感じたことはなかったか?」
授業参観の日に、千雨の家族が誰も居なかったことについて母の光己が爆豪の暴言を謝罪したかったと言っていたことを思い出す。
同学年である筈なのにどこか噛み合わない日常での会話。異なる価値観や一風変わった感性。
これまで多様性のひとつとして見逃してきた違和感が、爆豪の心の中で膨らんでいく。
「あいつは表を歩いてるが、過去がない。名前すら本当かも分からない。
『長谷川千雨』は、最初から
にぃ、と死柄木は"手"の下で嗤った。
「君とはすぐにわかり合えると思っていたけど、ヒーロー達も捜査を進めてると言っていた……。
先生、力を貸せ」
それまで雄英の謝罪会見を映していたディスプレイは突然砂嵐のようなノイズとなり、そのノイズの向こう側にうっすらと人影を映す。
爆豪は死柄木の『先生』という言葉に千雨への不信感から思考を変える。
「先生ぇ……?
てめェがボスじゃねぇのかよ……!白けんな」
「黒霧、コンプレス、また眠らせてしまっておけ」
「ここまで人の話聞かねーとは……逆に感心するぜ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」
この場から爆豪を連れてどこかへ移動し、そこで勧誘を続けるつもりなのだろう。爆豪が敵に有効打を与えて後ろにあるドアから逃げるにはどうするべきか考えながら近付いてこようとする彼らの一挙手一投足を警戒していると、ノックの音と共に扉の向こう側から男の声がした。
「どーもォ、ピザーラ神野店ですー」
緊張の走るバーに響いた気の抜けるような声に気を取られた死柄木たちの不意を突くようにして、バーカウンターの正面側の壁に拳一つで大穴を開けて誰もが知るプロヒーローが飛び込んできた。
「何だぁ!?」
破壊された壁を背にしていたスピナーが突然の出来事に驚いている間に、死柄木はすぐさま指示を出す。
「黒霧!」
「ゲート……」
「先制必縛、ウルシ鎖牢!!」
しかし、黒霧の"個性"が発動するよりも早く、破壊された壁からバーに飛び込んできたシンリンカムイが"個性"で左腕を樹木のようにいくつも枝分かれさせながら伸ばして敵連合の面々を捕縛した。
流石の黒霧も本体である肉体を締め上げられては"個性"が使えないのかうめき声をあげる。
「木ィ!?んなもん……」
すぐさまシンリンカムイの"個性"に対して有利な荼毘が蒼炎で焼ききろうとするものの、グラントリノの蹴りが荼毘の意識を奪う。
「逸んなよ。大人しくしといた方が……身のためだぜ」
「さすが若手実力派だシンリンカムイ!!
そして、目にも止まらぬ古豪グラントリノ!!
もう逃げられんぞ敵連合……何故って!?
我々が、来た!」
オールマイトの力強い声がその場に響いた。
時はオールマイトたちが突入する前にまでさかのぼる。
雄英の謝罪会見の場では日本ヒーロージャーナル社の記者による質問に対して記者たちのざわめきが広がっていた。
「体育祭三位入賞、丑三ツ時水族館でのショーなど、彼女からヒーローとして広い将来性を感じられますが……彼女にはそれ以前の過去が一切ない。病院にも、学校にも……日本全国のどこにも
この事と体育祭で見せた戦闘力も踏まえれば……彼女は敵と繋がりがあり、彼女が襲撃の手引きをしたのでは?
雄英高校は生徒の情報をどこまで把握していたのか、お聞かせ下さい」
その記者の質問に会見の中継を見ている人々は食い入るようにして画面に映る雄英の三人を見る。
襲撃事件の真実が、そこにあるのではないかと。雄英ヒーロー科の生徒であり既に知名度ある少女が……裏切り者なのかと。
「個人のプライバシーに深く関わるものです。お答え出来ません」
「それは彼女に敵との繋がりがあるかは知らない、ということでよろしいのでしょうか?」
「……少なくとも、我々は彼女が今回の事件の手引きをしたとは考えておりません」
「その根拠はなんでしょうか?」
「襲撃時に彼女は生徒たちへの被害を軽減しようと行動してくれました。また、敵は彼女の拉致を目的としていました。味方であるならば拉致を目的にすることはあり得ないと考えております」
「それは周囲の目を欺くためのものだとは考えられませんか?」
食い下がる記者に対して、根津が答える。
「彼女は敵に手を貸すことは一切していない。我々はそう考えております」
根津はマズいなと思っていた。たった一つ、されどその疑念はメディアを通して世界に広がる。
千雨の過去が見当たらないことの説明をするには千雨が意図せぬ個性事故の被害者であり、天涯孤独の身であることなどを説明する必要がある。それは千雨にとって仕方がないことではあるものの、個人情報である以上は本人以外がメディアの前で話して良いものではない。
「回答になっていませんが?」
「一個人のプライバシーに深く関わる質問にお答えしません。ただ、彼女は我々が導くべき未成年であり、ヒーロー志望者です」
根津の言葉に記者はこれ以上は無理だとして座ったが、その顔は満足げだった。それもそのはず、この話はセンセーショナルかつ、世論を大きく揺さぶる。記者仲間から酒の席で
プライバシーだろうがなんだろうが、相手は後ろ暗い部分のある一個人。メディアに勝てる訳がない。そんなことを考えていた。
翌日に日本ヒーロージャーナル社の週刊誌が巻き起こすであろう旋風を夢想する彼は気付いていない。そんな経歴の未成年者がどうやって住居や戸籍を手に入れたのか。誰が支援しているのか。全ては雄英がしたと思っているのだろう。公安委員会が保護したというのも、雄英がプロヒーローを教員にしていたとしても一教育機関であるため、公安委員会が引き受けたのだろうと。
もともと雄英はオールマイトの学生時代についての情報含めてマスコミには極一部しか公開しない。それに不満を持つマスコミは少なくない。彼もまたその一人だった。
彼は真実を知らなかった。知らずとも記事にするのに問題なかったからだ。そして同時に、彼は長谷川千雨がどういう人間なのかも知らなかった。
雄英はちう様が特一級個性事故被害者など事情を知っているが、個人情報であり、ちう様の将来にも関わる上に今回の事件に関係ないので全て黙秘。
校長たち雄英側はちう様には公安委員会が背後にいることと、ちう様本人の性格を踏まえても、敵連合の手引きをしたとは考えてません。そもそも手引きしてて裏切るくらいなら、ちう様が動いた方が早いという。
なお、名もなきモブ記者と
今回の話に主人公のちう様が姿をみせてないのでオマケ。
~if話 もしも、ちう様が爆豪と共に連合に捕まっていたらどうしてたのか~
死柄木「長谷川千雨、お前は元々こちら側だろ?世のためだのキレイ事言ってくる奴らから自由にしてやるよ」
ちう様「ただの考えたらずに襲撃してくるガキのお遊びと思っていたが……なるほどそういう事か(誤解がひでぇな……とりあえず爆豪逃がすのを優先で動くか)」
爆豪「おい!どーいう事だクソアホ毛!」
みたいな感じで、優先順位的には連合勧誘が第一、断るなら"個性"強奪でした。爆豪だけかやの外感。
もちろん強奪を実行しようとしたらちう様は完璧に逃げます。孤独な黒子と天狗之隠簑を使うチート魔法少女。
話は変わりますが本誌が本誌でマジヤバい(※ネタバレ配慮)ので更新がまた遅れるかもしれませんが御了承ください。最終章ヤバい。
俺は(更新)止まんねぇからよ……!(本誌の展開がどうなっても他の作者様方も)止まるんじゃねぇぞ……!
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