微量でも死亡…工場から東京湾へ猛毒流出「戦慄の真っ赤な川」写真
「家の前を流れる川を見ると、あたり一面が真っ赤に染まり、死んだ魚が浮いていました。原因が、工場から漏れた猛毒のシアンだと聞いたときには恐ろしくて震えました。またいつ同じことが起こるかと考えると、気が気でありません」(周辺住民)
日本製鉄東日本製鉄所君津地区(千葉県君津市)で、6月から毒性の強いシアンが東京湾や周辺の川に相次いで流出している。
「最初に発覚したのは6月18日です。敷地東側の排水口から生産工程で使用する脱硫液が漏れ出し、東京湾に流出。翌19日には敷地南側の排水口からも漏洩し、水路とそこに繋がる小糸川の河口付近が赤く染まり水面には魚が浮きました。
川の水を検査すると猛毒シアンを検出。続く20日には、敷地東側の別の排水口からも排水基準を大きく上回る1リットル当たり0.6ミリグラムのシアンが見つかっています。7月に入っても、シアンが東京湾に流れ出ているのがわかっているんです」(全国紙社会部記者)
シアンは人間の体内に入ると呼吸困難に陥り、 数秒で死亡する強い毒性を持つ。致死量は0.06 グラム。千葉県は排水基準を、1リットル当たり0.1ミリグラム未満と厳しく規制している。
「ハッキリした原因はわかっていません。日本製鉄によると、6月18日から20日にかけての漏洩は、工場内にある約3000立方メートルに上る脱硫液を溜めたタンクから。6月30日と7月1日の漏洩は、高炉の集塵関連施設の排水ルートからの流出とされます。
しかし、脱硫液には本来、シアンは含まれていません。混入ルートなど、詳しい原因を調査中です。同工場には全部で17個の排水口がありますが、シアンなど有害物質が検出された場所は閉鎖し水質調査を継続しているそうです」(同前)
夏場の漁への深刻な影響
7月6日に記者が現地を訪れると、シアンが流れ出た水路や約1.7㎞離れた小糸川の合流地点の水の色は元に戻っていたものの、所々に魚の死骸が浮いていた。
工場周辺の漁港からは心配の声が上がる。
「現在、海の状態を厳重に警戒しています。魚への影響は確認していませんが、再びシアンが流出するようなことがあれば夏場のマコガレイやスズキ漁に影響がでるかもしれません」(富津漁港で働く関係者)
「流出が止まったと思ったら、6月30日と7月1日に木更津側からも漏洩が起きた。魚の汚染や風評被害が出るようだと、補償問題にもなり兼ねない。木更津海岸は7月末まで潮干狩りシーズンですが、不安に感じた人からの問い合わせがきています」(木更津市の漁港関係者)
千葉県などによると、シアンは海水で分解されるため今回の流出による人体への影響は考えにくいとされる。だが県や近隣の市は、同製鉄所近くを流れる水路や小糸川河口付近に近寄らず、同地区の水を飲むことや魚に触れたり食べたりしないよう呼びかけている。
日本製鉄の見解だ。
「近隣の住民と関係者にご心配とご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません。今回の事態を非常に重く受け止め、現在、千葉県や近隣の市、海上保安庁の指導に真摯に対応すると同時に再発防止策を検討しています」(君津地区総務部)
流出したシアンが人体に入れば、取り返しがつかないことになる。原因究明と対策徹底が求められる。
取材・文・撮影:桐島 瞬
ジャーナリスト。’65年、栃木県生まれ。原発問題からプロ野球まで幅広く取材。『FRIDAY』や『週刊プレイボーイ』、『週刊朝日』など雑誌を中心に活躍している。
一部画像:君津市提供