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12年11月7日 東京高裁
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7日、ネパール・カトマンズの自宅で再審無罪判決を喜ぶマイナリさん
/ 母チャンドラカラさん
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7日の再審判決公判で無罪とされたゴビンダ・プラサド・マイナリさんが、支援者を通じ発表した直筆のコメント(原文ママ) 「今日私はさいしんで無罪になりました。私にとってにどめの無罪はんけつです。さいしょの無罪はんけつがただしかったことがやっとあきらかになりました。もちろんうれしいけれどくやしいきもちもあります。どうして私が15年かんもくるしまなければならなかったのか日本のけいさつけんさつさいばんしょはよくかんがえてわるいところをなおして下さい。無実のものがけいむしょにいれられるのは私でさいごにして下さい。今まで私をたすけてくださったべんごだんとしえんしゃのみなさんに心からかんしゃしています。これからもよろしくおねがいします。 2012年11月7日 カトマンズにて ゴビンダ・プラサド・マイナリ。」 |
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弁護団会見=「一番反省すべきは裁判所。第三者機関の検証を受けるべきだ」(12年11月7日 日弁連)
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自宅のベランダから手を振るマイナリさん(12年10月29日)
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最近の動向 /
事件の経緯 /
東電OL事件、再審の可能性…別人DNA検出 / 関連社説 /
暗黒司法
いわゆる東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされた人物の無罪が明らかになった件に関する質問主意書
2012年11月7日再審判決=無罪確定
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東京高裁判決(要旨) 「被害者の爪の付着物は犯人から首を絞められた際に渾身(こんしん)の力で犯人の手をつかんで引き離そうとしてつかんだときに付いた可能性が考えられる。この付着物の鑑定で新たに明らかになった別の男のDNAはほかの場所でも見つかっていることなどからこの男が女性を殺害した犯人である可能性が高い」 |
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犯行現場
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東電OL殺人事件の経緯 |
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1994年 |
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02月28目 |
マイナリ被告が短期滞在ビザで入国 |
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05月29目 |
ビザ失効 |
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1997年 |
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03月19日 |
東電OLの遺体発見 |
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03月23日 |
警視庁、被告を入管難民法違反(不法滞在)容疑で逮捕 |
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03月31日 |
東京地検、同法違反の罪で起訴 |
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05月20日 |
東京地裁で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決(確定)⇒警視庁、マイナリ被告を強盗殺人容疑で再逮捕東京 |
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06月10日 |
東京地検、強盗殺人罪で起訴 |
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10月14日 |
東京地裁、強盗殺人事件初公判(弁論要旨) |
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1999年 |
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12月17日 |
東京地検、無期懲役求刑 |
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2000年 |
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1月24日 |
弁護側が最終弁論、結審 |
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4月14日 |
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4月18日 |
東京地検が控訴、東京地裁に職権発動による拘置を要請 |
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4月19日 |
東京地裁、被告の拘置認めず⇒東京高検、東京高裁に拘置要請 |
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4月20日 |
東京高裁刑事5部、被告の拘置認めず |
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5月01日 |
訴訟資料が東京地裁から東京高裁刑事4部に到達。東京高検が東京高裁刑事4部に拘置要請。 |
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5月08日 |
東京高裁、被告の拘置を認める。マイナリ被告、拘置状を執行され、東京拘置所に移送される⇒弁護側、理由開示請求 |
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5月12日 |
東京高裁、拘置理由を開示 |
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5月15日 |
弁護団が東京高裁に異議を申し立て |
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5月19日 |
東京高裁刑事第5部が異議申し立てを棄却 |
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5月23日 |
弁護団が最高裁に特別抗告を申し立て |
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6月27日 |
最高裁第1小法廷高裁決定を3対2で支持(異議申し立てを棄却) |
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10月26日 |
東京高裁弁護側の拘置取り消し請求を棄却 |
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12月22日 |
わずか4カ月のスピード審理で東京高裁;逆転有罪(無期懲役)判決⇒弁護側即日上告⇒判決文 高木俊夫裁判長は東京高裁で鑑定人尋問はおろか、検察に対して証拠開示勧告すら行わないまま、狭山第2次再審請求を棄却した裁判官 |
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2003年 |
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10月20日 |
最高裁(決定文);上告を棄却「記録を精査しても、重大な事実誤認はない」と結論付け、被告が事件前に殺害現場の部屋の鍵を持っていたことや、現場に被告の体液などが残っていたことなどから「犯行の証明は十分」と認定した東京高裁判決を追認 |
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2005年 |
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3月24日 |
東京高裁に再審請求新証拠として「体液が残されたのは女性が殺害された日より前」と結論付けた法医学者の鑑定書を提出。また、「事件当日にはマイナリ受刑者は女性に会っておらず、無罪」と主張 |
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2006年 |
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10月19日 |
日弁連支援を決定=マイナリ受刑者の喜びの手紙 |
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2011年 |
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1月 |
小川裁判長は、高裁の証拠開示勧告によって開示された被害者の体から採取された精液などのDNA鑑定を高検に強く求め、高検がこれに応じる。 |
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7月25日 |
検察、DNA鑑定結果を開示。東京高検が関西の大学に依頼して、被害者の体から採取された精液などのDNA鑑定を行った結果、精液は同受刑者以外の男性のもので、そのDNA型が殺害現場に残された体毛と一致した。 「(マイナリ受刑者以外の)第三者が被害者と現場の部屋に入ったとは考えがたい」とした確定判決に誤りがあった可能性を示す新たな事実 |
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9月 2日 |
検察、42点の証拠を開示 |
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9月12日 |
証拠開示された42点の中に「女性の胸に同受刑者とは異なるO型の血液型の唾液が付着していた」、「膣内に残された精液の血液型がO型である」ことを示す検察作成血液型鑑定書があった この検察鑑定書の作成年月日は何と1997年4月3日、ゴビンダさんが逮捕される約1ヵ月半前。逮捕も起訴も公判もこの事実を隠したまま行われた。無実の人を犯人に仕立て上げる警察・検察による明らかな犯罪行為 |
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9月30日 |
弁護団は、「被害者の体から採取された精液と現場に残された別人の体毛のDNA型が一致するとした鑑定結果や、被害者の口や胸から検出された唾液とみられる体液の血液型(O型)がマイナリ受刑者(B型)と異なるとした鑑定結果を新証拠として挙げ、現場にいた第三者が犯人の可能性が高いとし」、早期の再審開始決定を求める最終意見書を東京高裁に提出 |
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2012年 |
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6月 7日 |
東京高裁(小川正持裁判長)、再審決定。検察側の異議申し立て |
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7月26日 |
弁護団、東京高裁(小川正持裁判長)に対し、最新の技術を使って東京高検が実施したDNA型鑑定の結果を証拠として提出した。「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠だ」として、速やかに調べて再審を開始する決定を出すよう求め、あわせて、東京高検に対し、横浜刑務所にいるマイナリ受刑者の刑の執行停止と、身柄の釈放を申し入れ |
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7月31日 |
東京高裁(八木正一裁判長)、マイナリ元被告(45)の再審開始決定を支持し、検察側の異議申し立てを棄却 |
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9月12日 |
弁護側は、女性の胸に同受刑者とは異なるO型の血液型の唾液が付着していたことを示す血液型鑑定書を「無罪とすべき新証拠」として東京高裁に提出
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9月14日 |
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9月16日 |
東京高検は、弁護側が「新証拠」として提出した鑑定結果をふまえても「確定判決は揺るがない」とする意見書をまとめ、東京高裁に提出 |
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9月30日 |
弁護団は、「被害者の体から採取された精液と現場に残された別人の体毛のDNA型が一致するとした鑑定結果や、被害者の口や胸から検出された唾液とみられる体液の血液型がマイナリ受刑者と異なるとした鑑定結果を新証拠として挙げ、現場にいた第三者が犯人の可能性が高いとした」、早期の再審開始決定を求める最終意見書を東京高裁に提出 |
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10月10日 |
やり直しの公判を前に東京高検が行った追加のDNA型鑑定で、被害女性の爪の付着物の型が女性の体内に残された「第三者」の精液の型と一致した。弁護団は「絞殺時に第三者に抵抗して付着した可能性が高い」と指摘。高検は鑑定書を10月29日から東京高裁で始まる再審公判に証拠提出しており、これまでの有罪主張を転換して無罪を求める方向で検討に入ったとみられる |
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10月18日 |
東京高検、無罪を主張する意見書を東京高裁に提出。高検は意見書で「控訴当時から証拠が変動した」とし、当時の捜査・公判維持は適切だったとの姿勢を示している |
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10月29日 |
再審初公判で、弁護側は3点の鑑定書について取り調べを請求。3点からは(1)被害者の体内に残された第三者(X)の体液が殺害現場に落ちていた体毛のDNA型と一致(2)被害者の胸に付着した唾液の血液型が元被告と不一致(3)被害者の体やコート、下着などから、XのDNA型を検出-したことが明らかになっている。 東京高検は被害者の右手の爪の付着物からXと一致するDNA型が検出されたとする鑑定書の取り調べを請求した上で、無罪を求める意見を述べた。検察謝罪なし。 即日結審。再審は、1審無罪に対する控訴審をやり直す形で行われ、高裁は判決で検察側の控訴を棄却する。検察側は上告せず、「上訴権放棄」を申し立てる。 閉廷後、検察側は「申し訳なく思っている」とするコメントを出した |
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11月 7日 |
午前10時30分再審無罪判決。東京高検が上訴権を放棄、1審無罪が即日確定。マイナリさんの逮捕から15年余りを経て、真相の解明は振り出しに戻った。警視庁は再捜査を本格化させる |
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11月 9日 |
滝法相「長い拘束期間がたってしまい、私の方からも大変申し訳ないと申し上げたい」とマイナリさんに陳謝 |
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11月12日 |
マイナリさんの支援者ら、「ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの無罪判決にあたって」の声明を発表、最高検察庁と最高裁判所にマイナリさんへの謝罪や当時の捜査や裁判の問題点の検証などを行うよう申し入れ |
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12月13日 |
東京弁護士会、「第27回人権賞」を「無実のゴビンダさんを支える会」に |
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12月28日 |
マイナリさん、刑事補償の請求を東京地方裁判所に行う。補償の額は上限まで認められた場合、6800万円余りになる。 |
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2013年 |
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3月24日 |
「無実のゴビンダさんを支える会」解散。マイナリさんもメッセージを寄せ、「『私で最後にしてください』と何度も言い続けたが、今でも冤罪被害者が出てつらいです。私も(被害者らを)応援します」と訴えた。 |
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4月 8日 |
「無実のゴビンダさんを支える会」(解散)のメンバーらが、新たな市民団体「なくせ冤罪!市民評議会」を設立した。 |
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11月2日 |
マイナリさんの母チャンドラカラさんが、ネパールの首都カトマンズの自宅で死去(80歳)。 |
注;上訴権の放棄=判決後に発生した上訴(控訴や上告)する権利を被告や検察官が消滅させる手続き。判決を出した裁判所に書面で申し立て、全ての上訴権者が放棄することで判決が確定する。判決を早期に確定させるメリットがあり、実刑判決に不服のない被告が一日も早い社会復帰を目指して手続きすることもある。判決が死刑や無期懲役の場合は放棄できず、無罪の場合は被告には権利がない。
刑事訴訟法(上訴の放棄・取下げ)
第359条
検察官、被告人又は第352条に規定する者は、上訴の放棄又は取下をすることができる。
(上訴の放棄の制限)
第360条の2
死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する判決に対する上訴は、前2条の規定にかかわらず、これを放棄することができない。
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事件の概要
1997年3月19日午後5時過ぎ、東京都渋谷区円山町の木造2階建てアパート「喜寿荘」1階西側の101号室で、女性の死体が発見される。第一発見者はこのアパートの管理人。
当時101号室は空室で、管理人はその前日の18日にも、同室で女性が横たわっているのを見ていたが、誰かが勝手に入り込んで寝ていると思いこみ、それ以上確かめずに放置していた(その時、部屋の鍵がかけられていなかったことを確認し、管理人が鍵をかけた)。
翌日、再度101号室をのぞき、同じ位置に女性が横たわったままなのを見て不審に思い、警察に通報した。
被害者は、会社員(当時39歳)と判明。死因は絞殺(こうさつ=ひもなどで首を絞めて殺す)か扼殺(やくさつ=手で首をしめて殺すこと)か判然としなかったが、他殺であることは疑いなかった。
遺体の頭の付近には被害者のものと思われる取っ手の部分がちぎれたショルダーバッグが口を開けたまま放置され、同屋の水洗式トイレの便漕の中には、使用済みのコンドーム1個が浮かんでいた。
被害者は、3月8日から帰宅せず、それ以降行方がわからなくなっており、また目撃証言から犯行は8日の深夜と考えられた。
その後、会社員は慶応大学経済学卒の東京電力本社総合職(企画部経済調査室副室長。総合職のパイオニア的存在)の社員と判明。同時に被害者は、勤務が終わった後、渋谷の道玄坂や円山町付近で数年前から売春をしていたことも明らかになり、有名大学出身の一流企業の管理職(いわばエリート社員)が夜な夜な売春をしていたことでマスコミは、被害者のプライバシーを暴くなどのセンセーショナルな報道を繰り返した。
被害者とその家族、会社等は、一般大衆の覗き趣味に迎合した低俗なメディアの格好の餌食(人権侵害)なったのである。
ゴビンダ容疑者逮捕
事件現場のアパートに隣接するビルに住んでいたネパール人労働者、ゴビンダ・プラサド・マイナリ(当時30歳)が、隣のアパートで殺人事件がおきたことを知り、自分が疑いをかけられていると聞いて、3月22日、自ら警察に出頭する。
同人は、公判廷での弁護人からの質問に答えて「入管難民法違反など、殺人罪で疑われることに較べたらなんでもない。身の潔白を証明するために自分で出頭した」と述べた。
警察が同人に容疑をかけたのは、第一発見者でアパートの管理人、101号室の鍵をゴビンダさんに貸していたことがあると話したことのからであった。
同人は3月23日、入管難民法違反で逮捕されるが、取り調べはもっぱら(現金4万円を奪った)強盗殺人容疑であった(別件逮捕)。同人は、一貫してこの事件への関与を否定した。
同年5月20日、入管難民法違反で、東京地裁が懲役1年執行猶予3年の判決を言い渡す。同時に、警察は同人を強盗殺人容疑で再逮捕。検察は、6月10日同容疑で起訴する。
東京・渋谷区のアパートで97年3月、東京電力の女性社員(当時39歳)を殺害して現金4万円を奪ったとして、強盗殺人罪に問われたネパール国籍の元飲食店従業員、ゴビンダ・プラサド・マイナリ被告(33)の判決公判(2年余で34回の公判を開いた)、00年4月14日東京地裁で開かれ、大渕敏和裁判長は無罪判決(求刑・無期懲役)を言い渡した⇒判決要旨/判決全文。
警視庁は女性社員の遺体発見から4日後の3月23日、事件現場となった東京・渋谷区のアパート隣の雑居ビルに住んでいたマイナリ被告を入管難民法(出入国管理及び難民認定法)違反(不法滞在)で逮捕した。同法違反で有罪判決を受けた直後の同年5月、今度は強盗殺人容疑で逮捕したが、同被告は一貫して容疑を否認し、公判でも無罪を主張していた。
この事件では犯行を裏付ける直接証拠がなく、マイナリ被告も捜査段階から一貫して否認してきたため、複数の状況証拠をどう判断するかが争点だった。
大渕裁判長は、「被害者が被告以外の者と事件現場のアパートを使用した可能性を完全に否定は出来ない」と第3者による犯行の可能性も示唆し、「犯罪の証明がない」事件現場のトイレに残されたマイナリ被告の体液について、「犯行のあった日よりも以前に残された可能性が高い。なぜトイレにあったのか疑問も残る」、「被害者の右肩付近から発見された体毛のうち、1本は被告のものだが、2本がだれのものかは判明していない」「被害者の定期券が発見された豊島区巣鴨の民家の敷地についてマイナリ被告の土地カンがなく、合理的な説明ができない」など、検察側の主張にことごとく異論を唱えた。
そのうえで、「検察官が主張する被告と犯人との結びつきを推認させる事実を総合しても反対解釈の余地がなお残る。被告以外の者が犯行時に空き室内に存在した可能性が払しょくしきれない上、被告が犯人だとすると矛盾し、合理的に説明できない事実が存在する」と結論づけた。
一方、事件をめぐっては、女性が名門の慶応大学卒の東京電力という一流企業のエリート社員だったことから、私生活を暴くような報道が加熱し、弁護士グループが報道機関に対して質問状を送付したほか、日本弁護士連合会や人権団体も「興味本位で憶測を交えたセンセーショナルなもので、被害者のプライバシーを著しく侵害するものである」などとする会長談話や緊急声明を公表した。
被害者の母親も「どのようなお考えで亡き者のプライバシーをここまで伝えるのでしょうか」などとする手紙を一部の報道機関に送り、被害者の人権やプライバシーに関する報道のあり方にも議論が集まった。
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東電女性社員殺害 ネパール人被告が無罪に--東京地裁判決(00年4月14日配信『毎日新聞』) ◇「状況証拠は不十分」 東京電力の女性社員(当時39歳)が1997年3月に東京都渋谷区のアパートで絞殺され現金4万円を奪われた事件で、強盗殺人罪に問われたネパール人の元飲食店店員、ゴビンダ・プラサド・マイナリ被告(33)に対し、東京地裁は14日、無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。大渕敏和裁判長は「犯行との結びつきを推認させる状況証拠は、いずれも反対解釈の余地が残って不十分であり、被告を犯人と認めるには疑問が残る」と判断した。 マイナリ被告は拘置を解かれたが、既に不法滞在で有罪判決を受けているため、入管当局に収容され、国外退去の手続きに入った。検察側は控訴の方向で検討を始めた。この事件では犯行を裏付ける直接証拠がなく、マイナリ被告も捜査段階から一貫して否認してきたため、複数の状況証拠をどう判断するかが争点だった。 大渕裁判長は、事件現場のトイレに残されたマイナリ被告の体液について、「犯行のあった日よりも以前に残された可能性が高い。なぜトイレにあったのか疑問も残る」と指摘した。 また、「被害者の右肩付近から発見された体毛のうち、1本は被告のものだが、2本がだれのものかは判明していない」「被害者の定期券が発見された豊島区巣鴨の民家の敷地についてマイナリ被告の土地勘がなく、合理的な説明ができない」などと述べて、検察側の主張に異論を呈した。 そのうえで、「被害者が被告以外の者と事件現場のアパートを使用した可能性を完全に否定は出来ない」と第三者による犯行の可能性も示唆し、「犯罪の証明がない」と結論づけた。 マイナリ被告は97年3月8日深夜、東京都渋谷区のアパートの空き室で知り合いだった女性社員の首を絞めて殺害し、ショルダーバッグの財布から現金4万円を奪って逃げたとして起訴された。検察側は、ネパールに家の新築資金を送金して金に困っていたことが動機と指摘していた。 現場近くに住んでいたマイナリ被告は事件発覚後の3月23日、入国管理法違反の疑いで逮捕され、同年5月20日、東京地裁で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けた。その判決当日に強盗殺人容疑で逮捕されていた。 ◇公判手続き中断も 国外退去の手続きに入ったマイナリ被告について、東京地検が控訴した場合、控訴審では被告の出頭を必要としないため、国外退去処分となった後でも審理は可能だ。しかし、法曹関係者は「公判期日の通知など、裁判所から書類を送達することが事実上不可能になり、公判手続きがストップしてしまうのではないか」と懸念している。 ◇東電女性社員殺害事件 1997年3月19日、東京都渋谷区のアパートの空き室で東京電力の女性社員が絞殺体で発見された。被害者が女性総合職の草分けという経歴だったことなどから、プライバシーに関する報道が過熱した。母親が人権侵害を訴え、東京法務局が一部の出版社に再発防止を求める勧告を出すなど報道のあり方も問われた。また、捜査の過程で被告との接見を検察官に妨害されたとして弁護人が賠償を求めて提訴し、東京地裁が国に35万円の支払いを命じている |
検察側は2000年4月18日控訴
なお、マイナリ被告は、拘置を解かれた日に、東京入国管理局の施設に収容された。同被告は入管難民法(出入国管理及び難民認定法)違反で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けており、国外退去を命じられることとなり、同被告は帰国費用を調達、旅券や航空券の手配が整えば、国外退去する。また、同被告は約1,600日間拘置されており、無罪が確定すれば、刑事補償法に基づき最高1,000万円以上の補償金を受け取ることができる。
これに対して東京地検は、同被告が国外退去となれば、控訴審での審理に支障が出る可能性があるとして、東京地裁に4月18日に同被告の拘置(「拘置には罪を犯したと思われる相当な理由があればいい。一審判決も彼が『真っ白』とは言っておらず、拘置すべきだ」として)を求めた。
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検察側の主張 |
控訴審での審理に支障が出る。控訴審で逆転有罪判決が出ても、ネパールとの問には身柄引き渡しの相互協定がなく、刑の執行が確保できなく、三審制が根底から覆される」。「日本人は二審有罪なら拘置されるのに、外国人ができないのは不公平だ」 |
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弁護側の主張 |
長い時間をかけて審理した結果の無罪判決を尊重すべき。無罪になった人間の自由を奪うのは許されない。だから、刑事訴訟法で拘置状は、無罪判決や執行猶予判決により失効することになっている逆転の可能性があるから拘置が必要だというのは、戦前の『悪事を働くかもしれないから予防拘禁する』という理屈と同じ。突き詰めれば、刑の確定まで身柄拘束すべきだという論理である。運用が問題なら立法で解決するしかない。 |
しかし、被告が無罪判決や執行猶予付き判決を受け、検察側が不服として控訴しようとした場合、被告を拘置できるかどうかについては、入管法が、刑事手続きで身柄が拘束されていない限り、退去命令が出た時は「すみやかに国外送還しなければならない」と規定しているところから、議論になっている(これまでも、執行猶予付き判決を受けて釈放された外国人被告について、検察側が控訴を検討中に被告が国外退去となり、控訴を断念したケースがあった)。
① 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の1にあたるときは、これを勾留することができる。
1.被告人が定まった住居を有しないとき。
2.被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3.被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
② 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から2箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、1箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第89条第1号、第3号、第4号又は第6号にあたる場合を除いては、更新は、1回に限るものとする。
③ 30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和19年法律第4号)の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まった住居を有しない場合に限り、第1項の規定を適用する。
刑事訴訟法第345条
無罪、免訴、刑の免除、刑の執行猶予、公訴棄却(第338条第4号による場合を除く。)、罰金又は科料の裁判の告知があったときは、勾留状は、その効力を失う。
刑事訴訟法第338条
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
法務省入管局はマイナリ被告について、「入管法と刑事の手続きは別個。外国人には出国の自由があり、我々は粛々と退去強制手続きを進めるしかない」との見解を表明している。
そして00年4月20日東京高裁刑事5部は、18日の(「拘置の職権発動をしない」)東京地裁決定に続き、「拘置のための職権を発動しない」決定を行った。また「この決定書で東京高裁は、「訴訟記録は地裁にあるので、高裁には拘置の権限がない」と門前払いしたうえで、①刑事訴訟法で拘置状は、無罪判決や執行猶予判決により失効することになっている。②被告を再度、身柄拘束するには、それ相当の事情がなくてはならない。③いったん釈放した被告の身柄を拘束できるという考え方は刑事訴訟法を空文化させる」と、無罪被告の身柄拘束を執ように求める検察当局を批判した。同被告が帰国した場合でも、同被告が東京での裁判書類の受取人を指定すれば、同被告抜きで控訴審の審理を行うことは可能。同被告は「逃げも隠れもしない」と話しており(弁護側)、補償金を受け取るためにも、(帰国に際しては)書類の受取人を指定することになるとおもわれる。
検察側は、5月1日に3度目の申し立てを行った。これに対して東京高裁刑事4部(高木俊夫裁判長)は00年5月8日、マイナリ被告の拘置を決定した。1審で無罪となった被告の身柄拘束が認められるのは極めて異例。超過滞在状態のマイナリ被告は東京都北区内の入管施設に収容されて国外退去の手続きに入っていたが、8日に拘置状を執行され、東京拘置所に移送された。弁護側は、裁判長が詳細な拘置理由は弁護側に示さなかったため、決定を不服として拘置理由の開示を同高裁に求めた。
これに対して同月12日、東京高裁飯田喜信裁判官は拘置理由の開示し、「罪を犯したと疑うに足る相当な理由があると判断した」と説明した。弁護側は「①無罪とした一審の記録を読んで、罪を犯した疑いがあると判断した根拠、②証拠隠滅の疑いとは何か、③控訴審は出廷の義務がないのに「出廷の確保」が必要とした理由などについて釈明を求めた。飯田裁判官は「①無罪判決であることを念頭に置いた上で慎重に判断した、②関係者に働き掛けるなどの可能性がある、③強盗殺人罪という重大な事件であることを考慮した」などと回答した。
またマイナリ被告は、意見陳述で、「私は殺していない。目を見て判断してほしい。無罪なのに3年間も警察に留め置かれ、健康も悪化した。不潔な所に押し込められている」と、拘置の不当性を強調し、改めて無実を主張して、「不当な扱いは理解できない。家族が住んでいる国に帰りたい」と訴えた。弁護側は異議申し立てを行った。
00年6月27最高裁第1小法廷は、「1審無罪の場合でも、控訴審の裁判所は審理の段階を問わず被告を拘置できる」との初判断を示し、東京高裁の拘置決定を支持した。ただ、第1小法廷の5判事のうち、藤井正雄裁判長(裁判官出身)と遠藤光男判事(弁護士)が「再拘置は違法」と反対意見を述べた⇒最高裁決定
なお、刑事訴訟法は、被告が「犯罪を疑うに足る相当な理由がある場合」に裁判所は拘置出来ると定め、その条件として(1)住所不定(2)罪証隠滅の恐れ(3)逃亡の恐れ――のうち一つに当たる時を挙げている。
いずれにしても(検察側の「控訴審で逆転有罪になっても、被告が出国すれば刑の執行をできない。日本人の被告と比べあまりにも不公平」との主張は別にして)、外国人が大量に日本に入国しており、不法滞在者も多く、外国人の犯罪が増加している現実を勘案するとき、刑事手続きと入管手続きを調整する法整備の必要性が急務である。
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東京高裁;逆転有罪(無期懲役)判決⇒弁護側即日上告
00年12月22日⇒東京高裁の高木俊夫裁判長は、「一審判決は証拠評価を誤り、事実誤認がある。被告は公判で不合理な弁解をろうしており、刑事責任は相当重い」と一審の無罪判決を破棄、検察側の一審求刑通り、無期懲役を言い渡した⇒⇒弁護側は、判決を不服として即日上告した。なお、控訴した検察側は事実誤認と主張したが、新証拠は出せず、状況証拠を積み重ねた一審の補充立証に終始した。これに対して弁護側は「検察官の主張は理由がない」と反論、控訴棄却を求めた。
有罪の根拠
① 「現場に残された体液が犯行時の被告のものと認めた上で、事件前に犯行現場のかぎを管理人に返却した」という被告の主張は信用できない⇒⇒⇒「本件は被告がかぎを使用して被害者と空き室に入って、行った犯行と推論するのが自然かつ相当」。
② 「被害者と最後に会ったのは事件当日より前」とする被告の弁解は、几帳面な性格の被害者の手帳記載の正確性から信用できない」⇒⇒⇒「被害者から奪った4万円を家賃にあてた」。
③ 「犯行日前7万円弱の所持金しかなかった」被告が、「犯行日後に家賃10万円を知人に渡した」のは被害者から奪ったもの。
④ 一審の無罪判決の決め手となった「被害者の定期券が被告の土地勘のない豊島区の民家で発見された」――などの「合理的疑問点」について⇒⇒⇒「被告が犯人であろうとの認識を左右するに足りない」。
当連合会は、1987年の第30回人権擁護大会で採択した「人権と報道に関する宣言」にのっとり、これまでマスメディアに対し、事件報道の被害者については報道の必要性(公共性・公益性との関連)を慎重に判断し、被害者の名誉・プライバシーをみだりに侵害しないよう、また、家族への影響にも十分留意するように求め、被害者名を匿名にすることや報道内容を必要事項に止めるなど、報道による二重の被害を及ぼさないよう提言してきた。
ところが、本年(1997)3月19日、遺体で発見された電力会社の女性社員についての報道は、一部に冷静な姿勢も見られるものの、特に夕刊紙やスポーツ紙、週刊誌、テレビなどの多くは、女性差別の色濃い、興味本位で憶測を交えたセンセーショナルなもので、被害者のプライバシーを著しく侵害するものである。
報道の自由は、公共性・公益性のある事項について、市民の知る権利に奉仕するためのものである。そうした必要性の認められない事件被害者についての、興味本位で死者を鞭打つような行き過ぎた報道について、当連合会は次の事を促したい。
(1)関係報道機関に対して
速やかに被害回復のための是正措置をとること。
(2)マスメディア全体に対して
報道倫理の確立とこうした報道が繰り返されないための制度的な工夫を講ずること。
そのための方策として、当連合会は、先の宣言に基づき、新聞や週刊誌など活字マスメディアに対して、報道被害救済のための自主的な審査救済機関(報道評議会など)を早急に設置するよう強く要望する。
1997年4月11日
日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫
ネパール人被告 『えん罪』の理由 佐野眞一氏に聞く=(03年10月28日付『東京新聞』)
「司法は自殺した」。東電女性社員殺人事件を追い続けた作家の佐野眞一氏は、ネパール人被告を有罪とした最高裁の判断についてこう吐き捨てた。一審の無罪判決から二審では一転して有罪へ。数奇な展開をたどった事件の結末は、どこか釈然としない。全裁判を傍聴した作家が指摘する「えん罪」の理由とは-。
佐野氏は「解明されていない謎が多すぎる」と切り出した。「捜査は、最初からゴビンダ・マイナリさんを犯人と決めつけた証拠だけを集めるずさんなもの。薄弱な根拠をもとに高裁は有罪というゴールに向かって突っ走った」
最高裁は02年10月20日、被告を有罪とする高裁の2審判決を支持し上告を棄却した。被告弁護団は異議を申し立てたが、決定が覆った例はない。異議が棄却されると有罪判決が確定する。
佐野氏は「ゴビンダさん以外に犯人がいないと証明できていない。『疑わしきは被告の利益に』という刑事裁判の前提がなし崩しにされた」と憤る。
実際、自白などの直接証拠がないこの事件で、明暗を分けたのは状況証拠の評価だった。同じ証拠で一審は無罪、二審は有罪という全く逆の判決が出された。
2審判決が「有罪」を証明するとしたポイントは(1)殺害現場の便器から発見されたコンドームに付着していた精液がマイナリ被告のものであること(2)殺害現場のアパートの空き室のカギを、殺害2日後までマイナリ被告が所持していたこと-などだ。
だが、マイナリ被告は、殺害時期の10日ほど前に、被害女性と性行為に及んだとし、被告側はコンドームはその際に捨てたものだとしている。遺体発見時から逆算して約20日前の精液であるとの主張だ。検察側は、殺害時期に合致する10日前のものだとした。
検察側は「10日間」を裏付ける証拠として、精液の劣化についての鑑定結果を提出した。だが1審判決はこの鑑定から「20日以上放置されていた可能性の方が、10日間放置されていた可能性より高いことを否定できない」と判断した。
対して2審判決は、犯行の10日ほど前に性行為を行ったとする被告の供述が信用できないとしている。
カギも同様だ。マイナリ被告が、犯行の2日前に管理人に返却したとする主張を、2審ではやはり「信用できない」と退けた。
佐野氏は「検察がことさら強調する『カギの所持』は、彼の犯行かどうかの判断に全く関係ない」と断じる。遺体発見当時、空き室のカギはかけられておらず、窓も施錠されていなかったためだ。弁護団は、マイナリ被告と以前に部屋を使ったことがある被害者が、独自に入室した可能性を主張してきた。
このほかにも佐野氏は、「有罪」を導いた高裁での審理について「例えば、女性の定期入れが巣鴨の民家敷地内で見つかった理由をどう説明するのか。巣鴨は被害女性にも、ゴビンダさんにも全くの生活圏外だ。これを2審判決は、たいした問題ではないと一蹴(いっしゅう)した」と指摘。
佐野氏が「冤罪(えんざい)」を確信する最大の理由は、殺害から遺体発見時までの10日間、1メートルほどしか離れていない隣のアパートで、マイナリ被告が生活を続けていたことだ。「自分が殺した女性の遺体の隣で、何日も暮らし続けることができるだろうか」
さらに1997年10月、佐野氏自身がネパールを訪れ、マイナリ被告と同居していたネパール人男性らに対して行った取材も「無実」の心証につながる。
「ゴビンダさんには、アリバイがあるんです」
■「同居の男性に警察就職斡旋」
目撃証言などから、検察側は、犯行時間を97年3月8日午後11時半以降としているが、当時、同居していたネパール人男性が「9日午前零時ごろに電話し、ゴビンダさんと話をした。午前1時ごろに帰宅するとゴビンダさんが自室にいて、3時ごろに2人で寝た」と証言したという。
佐野氏によると、この元同居人は「警察に口止めされた」とも話した。警察は、取り調べの際に男性に暴行を加え、その後は一転して厚遇したという。不法就労を承知の上で、金融会社に就職の斡旋(あっせん)まで行ったというのだ。
佐野氏は「もちろんアリバイなどについて、同国人同士で、口裏合わせをした可能性もある。だが、帰国後の調査で、警察による暴行と就職斡旋は、ほぼ事実と確認できた。特に、斡旋されたという金融会社の対応は不自然だった。客を装って最初に接触したときには『(会社の存在を)どこで知ったのか』と執拗(しつよう)に問いただし、二度目に連絡した際にはもぬけの殻になっていた。警察は、そこまでするのかと背筋が寒くなった」と振り返る。
事件の特異さを象徴するのは、1審で無罪判決後に釈放されたマイナリ被告が再拘置されたことだ。
不法滞在で有罪とされていたマイナリ被告は、釈放後にネパールへ強制退去されるはずだった。
佐野氏は「再拘置は、日本人だったら絶対にありえない。さらに言えば、朝鮮半島出身者や中国人など、本国がプレッシャーをかけてくるような国でもありえない。立場の弱いネパール人だからだ」と断じる。
有罪判決もその延長線上にあると強調する。
「高裁で『罪を疑う理由がある』とする再拘置の決定にかかわった判事が、そのまま二審の裁判長を務めた。審理の前から『有罪』が決まっていた」と断じながら、さらに続ける。
「最高裁の判断を聞いたとき、びっくりした。決定が早すぎる。早くても来春になると思っていた。上告してから3年近くなるが、弁護団が今月1日に補充の証拠を提出したばかりだ。最高裁には精査して読む時間がなかったはず。審理らしい審理が行われなかったということだ」
佐野氏は「人間は無びゅうではありえない。だが、司法は依然として、起訴した以上は有罪にしなければならないという自らの無びゅう性に固執している」と強調し、こう訴える。
「ゴビンダさんを疑わしいと思う人があってもいい。ただ、問題なのは、この国では、どうとでも取れる証拠だけで『有罪』が下されることの空恐ろしさだ。ゴビンダさんの問題ではない。いつ自分に降りかかるかもしれない問題だ」
ゴビンダ・マイナリ被告の弁護団は、異議申し立てが棄却され有罪が確定した場合、再審請求の準備に着手する方針だという。
■東電女性社員殺害事件
1997年3月8日深夜、東京都渋谷区円山町のアパート1階空き室で、東京電力の女性社員=当時(39)=が絞殺された。同月19日に発見された。バッグから現金4万円が奪われていた。現場の隣のアパートに住んでいたネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリ被告(37)は不法滞在の発覚を恐れ逃走したが、殺人犯と疑われていると知り出頭。入管難民法違反で逮捕された後に強盗殺人容疑で再逮捕された。1審での無罪判決後、検察側は裁判所の職権による再拘置を要請。判断は最高裁にまで持ち込まれ「一審で無罪でも、裁判所は必要性があれば拘置できる」との初めての判断を示した。
■佐野眞一
ノンフィクション作家。56歳。3年前、独自取材で事件の核心に迫った「東電OL殺人事件」を出版。全裁判を傍聴し、事件を追い続けている。
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☆ 冤罪根絶へ市民団体発足 ゴビンダさん支援団体が母体、宇都宮弁護士、周防監督、やくさんら賛同人=冤罪の根絶を目指し、再審無罪事件の関係者らが8日、市民団体「なくせ冤罪!市民評議会」を発足させた。取り調べ全過程の録音・録画(可視化)や証拠開示の対象拡大など、誤判防止策の実現を求め活動する。 評議会は、東京電力女性社員殺害事件で再審無罪となったネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)を支援し、今年3月に解散した市民団体「無実のゴビンダさんを支える会」を母体に設立された。宇都宮健児前日弁連会長、映画監督の周防正行さん、漫画家のやくみつるさんや元裁判官など、20人が賛同人に名を連ねた。 支える会の事務局長を務め、評議会の代表理事に就任した客野美喜子さん(61)は同日都内で行われた設立総会のあいさつで、「検察の改革が遅れているのは、(現在の捜査が)『世論に支持されている』という意識もある」と指摘。「市民が求めることで、司法改革を実現する必要がある。広く関心を持ってもらえるような活動を進めていきたい」と話した(13年6月8日配信『産経新聞』)。 ☆ 冤罪根絶へ新団体設立 マイナリさん支援者ら=東京電力女性社員殺害事件で再審無罪となったネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)を支援してきた「無実のゴビンダさんを支える会」(解散)のメンバーらが8日、新たな市民団体「なくせ冤罪!市民評議会」を設立した。 冤罪の原因を究明する第三者機関の設置のほか、取り調べの全面可視化や証拠の全面開示に向けた法整備を目指す。 東京都内であった設立総会には約100人が参加。支える会の元事務局長で評議会の代表に就任した客野美喜子さん(61)は「市民が司法を変えるとき。市民ならではの工夫で、何ができるかを考えたい」と述べた(13年6月8日配信『共同通信』)。 ☆ 冤罪根絶、新団体設立へ マイナリさん支援者ら=東京電力女性社員殺害事件で12年、再審無罪となったネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)を支援してきた「無実のゴビンダさんを支える会」(解散)のメンバーらが新たな市民団体「なくせ冤罪!市民評議会」の設立準備を進めている。 賛同人には、前日弁連会長の宇都宮健児さんや映画監督の周防正行さんらも名を連ねており、8日に東京都内で設立総会を開く予定だ。 マイナリさんは足利事件の菅家利和さん(66)=2010年に再審無罪、布川事件の桜井昌司さん(66)、杉山卓男さん(66)=11年に再審無罪=と同じように、無期懲役が確定後、長期間の服役を強いられた(13年6月2日配信『東京新聞』)。 ☆ マイナリさんに刑事補償 上限の6840万円=マイナリさん(46)に、東京地裁が刑事補償法に基づく補償金約6840万円の支払いを認める決定をしていたことが23日、関係者への取材で分かった。決定は2月6日付。 マイナリさんは12年6月の再審開始決定で釈放されるまで、約15年間にわたって身柄を拘束された。1日当たり1万2500円の上限額の請求が認められた。 東京高裁は12年11月の再審判決で「第三者の男が犯人の疑いが強い」としてマイナリさんを無罪とし、即日確定した(13年5月23日配信『産経新聞』)。 ☆ マイナリさん手記出版 取り調べ中の暴行など記す=ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)が13年5月22日、取り調べ中に受けたとする暴行や獄中での思いなどを記したネパール語の手記を同国で出版した。手記の題名は「わなにかけられた15年」。にじんだ日本国旗とマイナリさんの顔写真のコラージュが表紙に描かれ、刑務所の鉄格子の中で拘束されたマイナリさんを想起させるものとなっている。手記には、事件の取り調べで被害者殺害を否認した際に、警察官から殴打されたり、革靴で足を踏みつけられたりしたほか、検事が吸っていたたばこを手に押し付けられたなどと書かれている。首都カトマンズで記者会見したマイナリさんは「私の人生のサイクルは97年に止まってしまったが、真実は必ず勝つと獄中で思い続けていた」と述べた(13年5月22日配信『共同通信』)。 ☆ マイナリさん、国家賠償求め提訴も=マイナリさん(46)が13年4月29日、ネパールの首都カトマンズの自宅で共同通信と会見し、日本で約15年にわたり不当に身柄を拘束されたとして、国家賠償を求めて日本政府を提訴する可能性を明らかにした。 また日本政府に対し「関係者がネパールに来て、私や家族、全てのネパール人に謝らない限り、絶対に許せない」と公式な謝罪を要求した。 マイナリさんは、再審無罪が確定した同様の事件「布川事件」の成り行きを見た上で「勝訴の見込みがあるならば、起こすかもしれない」と語った(13年4月29日配信『共同通信』)。 ☆ マイナリさん獄中記出版へ 東電事件で再審無罪確定=マイナリさん(46)が、日本での約15年にわたる獄中生活の体験や心境などをつづった手記を月内にもネパールで出版する。 関係者によると、ネパール語で書かれた手記の題名は「不運の15年」。不眠に悩まされ睡眠薬を服用していた刑務所での日々や、事件の取り調べ担当者や刑務官などから受けたとする暴力や暴言などについて記している。 手記は、マイナリさんが収監されていた横浜刑務所で書いた10冊以上の日記のほか、家族や支援者らに宛てた千通以上の手紙などが基になっているという(13年4月6日配信『共同通信』)。 ☆ マイナリさん「支える会」解散=再審無罪、東電女性社員殺害=東京電力女性社員殺害事件で、再審無罪判決が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)の支援組織「無実のゴビンダさんを支える会」が24日、東京都内で解散総会を開いた。事務局長の客野美喜子さん(60)は「満開の桜とともに解散の日を迎えられた。マイナリさんに心を寄せた全ての人に感謝したい」とあいさつした。 総会には約60人が参加。マイナリさんもメッセージを寄せ、「『私で最後にしてください』と何度も言い続けたが、今でも冤罪(えんざい)被害者が出てつらいです。私も(被害者らを)応援します」と訴えた。客野さんも「冤罪防止の対策が取られていない。私たちが立ち上がるしかない」と述べ、新たな組織を設立することを明らかにした(13年3月24日配信『時事通信』)。 ☆ 無罪のマイナリさんが刑事補償請求=再審の裁判で、無罪が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)が、15年間にわたって不当に身柄を拘束されたとして、刑事補償の請求を28日に東京地方裁判所に行った。補償の額は上限まで認められた場合、6800万円余りになる見通し。 刑事補償は、無罪が確定した人に、拘束された期間に応じて、国が1日当たり1000円から1万2500円の範囲で補償する制度で、マイナリさんに対する補償の額は上限まで認められた場合、6800万円余りになる。 足利事件で無罪が確定した菅家利和さんは上限の額が認められていて、今後は、裁判所がマイナリさんの補償額について決めることになる(12年12月28日配信『NHKニュース』)。 ☆ 再審無罪のマイナリさん「支える会」、人権賞に=マイナリさん(46)を支援した「無実のゴビンダさんを支える会」が、人権擁護に尽力した団体などに贈られる東京弁護士会の「第27回人権賞」に選ばれた。 支える会事務局長の客野美喜子さん(60)は「受賞を機に他の再審請求事件にも光が当たれば」と話している。 同会は、1審無罪のマイナリさんが2審で逆転有罪とされた後の2001年3月に発足。刑務所を訪れてマイナリさんを励ましたり、勾留中の様子を伝える「ゴビンダ通信」を配ったりして冤罪を訴え続けた。 活動費は支援者からのカンパで、メンバーが自腹を切ることもあった。事件現場のアパート一室を1年間借り上げ、独自に事件を検証した。客野さんは「『不正な捜査や裁判は許せない』との思いで闘い続けてきた」と振り返る(12年12月14日配信『読売新聞』)。
☆ マイナリさん支援団体が検証要請 最高裁と最高検に=マイナリさん(46)を支援する「無実のゴビンダさんを支える会」など2団体が12日、「ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの無罪判決にあたって」の声明を発表、最高検察庁と最高裁判所にマイナリさんへの謝罪や当時の捜査や裁判の問題点の検証などを行うよう申し入れ。最高裁と最高検に謝罪や検証を求める要請書を提出した。 最高裁への要請書は「再審判決は逆転有罪の二審判決の検証に一切踏み込まず、謝罪すらなかった」とし、先頭に立って誤判原因を究明すべきだと指摘。最高検には「証拠隠しと理由なき控訴でマイナリさんと家族を15年間も苦しめた」として、第三者機関による検証を求めた(12年11月12日配信『共同通信』)。 ☆ 東電事件再審無罪 謝罪と検証申し入れ=再審無罪が確定したゴビンダ・プラサド・マイナリさんの支援者らが、12日、最高検察庁と最高裁判所を訪れて、マイナリさんへの謝罪や当時の捜査や裁判の問題点の検証などを行うよう申し入れました。 申し入れを行ったのは、今月7日に無罪が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)を支援するグループの代表、客野美喜子さんら9人です。9人は、12日、最高検察庁と最高裁判所を訪れてマイナリさんへの謝罪や第三者による、当時の捜査と裁判の問題点の検証などを行うよう求める要望書を提出しました。 客野さんによりますと、このうち最高検察庁では事務職員が要望書を受け取り、担当の検事に渡すと応えたということです。 申し入れのあと、グループのメンバーの1人は「検察は今回の捜査に誤りはなかったと主張している。しかし、誤りのない捜査でえん罪が生まれたとすれば非常におそろしいことで、しっかり検証して二度と同じことが起きないよう徹底すべきだ」と話していました(12年11月12日配信『NHKニュース』)。 ☆ 東電事件裁判 証拠開示の在り方課題に=東京電力の女性社員が殺害された事件の再審=やり直しの裁判で、7日、ネパール人男性の無罪が確定しました。 今回の再審をきっかけに、弁護士や専門家からは、より早い段階で証拠を明らかにするよう求める意見が相次いでいて、証拠開示の在り方が課題となっています。 この事件では、弁護団が再審請求を行ったあとに、被害者の体からマイナリさんとは別の人物の血液型の唾液が検出されたことが明らかにされました。 この鑑定は事件当時行われていたもので、弁護団などから「もっと早い段階でこうした証拠を明らかにすべきだ」と求める意見が相次いでいます。 刑事裁判では、初公判の前に争点を絞り込んで証拠を明らかにする手続きがありますが、専門家は、証拠の一覧をリストで開示するなど、さらに積極的な取り組みが必要だと指摘しています。 東京高等裁判所の元裁判長で弁護士の木谷明さんは、「今回の事件を教訓に、再審請求に限らず、裁判所は積極的に証拠やリストを明らかにするよう命じるべきだ」と話しています。 “捜査や裁判 第三者の検証が必要” 一方、無罪判決のあと、検察が改めて捜査や裁判の検証は行わないとしたことについて、専門家は「内部調査には限界があり、同じ過ちをしないために、第三者による検証が必要だ」と指摘しています。 7日の無罪判決を受けて、東京高等検察庁の青沼隆之次席検事は、マイナリさんへの謝罪と再発防止に努めるというコメントを出したうえで、当時の捜査や裁判の検証を行うかどうかについて、「検察は、すでに当時の鑑定や捜査に関わった人たちに聞き取りを行っており、改めては検証をしない。内部の聞き取りの結果については公表しない」と述べました。 こうした対応について、弁護士の木谷明さんは「内部調査には限界がある。同じ過ちをしないために、第三者による検証が必要だ」と指摘しています(12年11月8日配信『NHKニュース』)。 ☆ 東電社員殺害:法相「広く言えば冤罪」 政府答弁書とずれ=マイナリさん(46)の再審無罪が確定したことに関する浅野貴博衆院議員(新党大地・真民主)の質問主意書に対し、政府は9日、「特定の事件が『えん罪』であるか否かについて特定の見解を有していない」とする答弁書を決定した。一方、滝実法相は同日の閣議後記者会見で「(法務省)刑事局としては、冤罪(えんざい)は厳密な定義がないという伝統的な考え方に従っているが、世間一般的な感覚で広くとって言えば、冤罪と言えなくもないと思う」との見解を示した。 滝法相は「長い拘束期間がたってしまい、私の方からも大変申し訳ないと申し上げたい」とマイナリさんに陳謝。「警察や検察も改めて大きな教訓として戒めとしないといけない」と述べたが、「今回新しい技術でDNA鑑定された被害者の爪については当時も顕微鏡で調べたが、証拠になるものが認められなかった」と、当時の捜査に技術的な限界があったとの見解も示した(12年11月9日配信『毎日新聞』)。 ☆ 滝法相が謝罪「捜査機関は戒めに」=滝実法相は9日の記者会見で、マイナリさん(46)の無罪が確定したことについて「15年という長い拘束期間になったことは大変申し訳ない」と謝罪した。 法相は「十分な解明がなされないままの判決だった」と指摘。捜査機関に「今回の事件を大きな教訓として、戒めにしなければならない」と求めた(12年11月15日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電社員殺害:「マイナリさんに負担かけた」警察庁長官=マイナリさん(46)が「再審無罪」を言い渡されたことを受けて、警察庁の片桐裕長官は8日の記者会見で、「マイナリさんには結果として大きなご負担をおかけしたということを、警察として重く受け止めなければならない」と述べた。 さらに謝罪などの対応については「警視庁が事件の全容を解明していく中で、検討されるものと考えている」とした。 警視庁は7日、真犯人の特定に向けた再捜査を開始。戦後起きた事件で、死刑・無期懲役が確定し再審で無罪となったのは7件あるが、いずれも公訴時効が成立し、再捜査は初のケースとされる(12年11月8日配信『毎日新聞』)。 ☆15年前から存在した“新証拠” 長期拘束、責任はどこに…=東京電力女性社員殺害事件の再審では、数々の遺留物の鑑定結果が第三者の犯行可能性を示唆し、無罪を導いた。存在自体は1997年の事件当時から確認されていた“新証拠”。日の目を見るまで、15年の歳月は必要だったのか。当事者の見解は大きく分かれる。 「怒りが収まらない」。当時、鑑定に携わった帝京大の石山いくお名誉教授(81)は厳しい視線を検察に向ける。被害者のバッグなどを鑑定したが、ゴビンダ・プラサド・マイナリさんと血液型の異なる体液が遺体内に残されていたことについては一切知らされていなかったという。 検察側は「体液が微量で当時は鑑定不能だった」との見解だが、石山教授は「『マイナリさんとは関係ない』と証拠を軽視しただけではないか」と指摘する。 再審開始決定後に、検察側が追加鑑定を行ったことにも不信感は募った。第三者のDNA型が検出され、有罪主張を断念するきっかけとなった被害者の爪の付着物について、検察側は再審初公判で、石山教授から「今年7月に促されたため追加鑑定した」と説明。だが、石山教授は「爪の鑑定をした方がいいことは、15年前にも検事に話しているのに」と首をかしげる。 当時、主任検事としてマイナリさんの取り調べを担当した検察OBは「限られた時間で捜査を尽くした」と反論する。マイナリさんは当初、入管難民法違反罪で起訴された。同罪の有罪判決を受けた時点で強制送還されるため、強盗殺人容疑での捜査には異例の「期限」があった。 被害者との面識を否定する虚偽の供述、現場トイレに残された体液、目撃証言…。「ほぼすべてのベクトルが(マイナリさんに)向いている」と、有罪判決当日の再逮捕にゴーサインを出した。遺体内の体液のDNA型は鑑定されないまま捜査は終結したが、OBは断言する。「あれは事件前に被害者が性交渉した別の知人男性の体液と判断した。当時は弁護団だってそう思っていたと思うよ」 ◇ 「知人以外の第三者が体液を残した可能性がある」。最高裁でマイナリさんの逆転有罪が確定し、17年に始まった再審請求で、弁護団はこの体液を含めた証拠の保管状況や、実施済みの鑑定結果の開示を求めた。しかし、検察側は存否を明らかにしないまま、さらに4年余りが経過した。 潮目が変わったのは21年。刑事裁判は同年の裁判員制度導入を契機に、審理の迅速化を目指して証拠開示の範囲が大幅に拡大され、再審での適用も議論された。足利事件の「冤罪」が明らかになったことも追い風になった。 また、当時の裁判長を務めた門野博法政大学法科大学院教授(67)はこの前年、後に元被告2人の再審無罪が確定する布川事件の再審請求即時抗告審を担当。証拠開示の必要性を実感していた。11月、初の三者協議を開き、検察に証拠開示の検討を要請した。 退官後の11年7月。遺体内の体液から第三者のDNA型が検出されると、検察側は一転、次々に手持ち証拠を開示した。「ここまで抱え込んでいたとは…」。門野教授は絶句した。 ◇ 逮捕から15年を経て認定された「冤罪」。捜査にあたった別の検察OBは「面子や責任問題にこだわり、真相を隠すような検事は今も昔もいない。過失は一切なかった」と言い切り、続けた。「当時のルールにのっとり適切に対応をした。変わるべきは制度だ」 一方、門野教授は訴える。「検察には、無罪の人間が15年拘束された重みを感じてほしい。鑑定技術や手続きの問題に転嫁する姿勢を改めなければ、再び同じような事件を生んでしまう」(12年11月8日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電社員殺害事件:警視庁が20人態勢で再捜査=東京電力女性社員殺害事件の無罪確定を受け、警視庁捜査1課は7日、長期の未解決事件(コールドケース)の捜査員を中心とした20人態勢で「真犯人」の特定に向けた再捜査を15年ぶりに始めた。龍一文(りゅう・かずふみ)捜査1課長は「判決を真摯(しんし)に受け止め、今後の捜査に生かしたい。必要があればマイナリさんから話を聴くことも検討する」と話した。 真犯人については事件直前、「東南アジア風の男と被害者らしき女性が殺害現場の部屋に通じる階段を上がるのを見た」との目撃証言がある。警視庁は関係者への聴取を再び進めるが、時間の経過と共に記憶は薄れ、新たな証言を得ることには悲観的な見方が強い。 再捜査の柱として期待されるのは被害女性の爪や体内などから検出された「第三者」のDNA型との照合だ。警察庁のデータベースには約26万人分のDNA型が登録され、これまで第三者との一致は確認されていないが、データベースは随時更新されている。仮にDNA型が一致しても、ただちに真犯人と特定する直接証拠にはならないが、事件当日のことを知る人物が急浮上する可能性はある(12年11月7日配信『毎日新聞』)。 ☆ 「冤罪」と認めず=直接謝罪も否定-再審無罪に東京高検=ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審無罪判決を受け、東京高検の青沼隆之次席検事は7日、取材に対し、「真相解明がなされていない。冤罪(えんざい)と言うのは時期尚早だ」と述べ、マイナリさんへの直接の謝罪は「現段階では考えていない」とした。 判決直後の上訴権放棄については、「結果的に15年間の長きにわたって拘束した重みがある。不安定な地位はあまりにも酷だ」と説明。一審無罪への控訴は不当だったとする弁護側の訴えには、「当時の証拠関係では間違いではなかった」と反論した。 別の検察幹部は「真犯人を逮捕して起訴し、マイナリさんは冤罪だと言えればいいのだが」と語り、今後の再捜査は困難との見通しを示した(12年11月7日配信『時事通信』)。 ☆ 検察「起訴は適正」 検証しない方針=7日の東京高裁判決は、現場や遺体からDNA型が検出された第三者が「真犯人」である可能性を指摘した。昨夏以降の鑑定で証拠関係が塗り替えられた形だが、検察側は「科学技術の進歩で詳細な鑑定が可能になったため」との立場で、弁護側の求める捜査・公判過程の検証などは行わない方針だ。 「当時の証拠関係に基づいて起訴しており、間違ったとは考えていない」。判決後、東京高検の青沼隆之次席検事は起訴は適正だったとの考えを示しつつも「今回のような鑑定結果が出ていれば起訴はしなかっただろう」と続けた。 事件をめぐっては、再審請求審などの鑑定で複数の遺留物から第三者のDNA型を検出し、高検が有罪主張を撤回した経緯がある。 ただ、検察幹部が「新たな証拠で『(ゴビンダ・プラサド・マイナリさんが)犯人である疑い』が一定水準を下回っただけで、有罪判決が根拠とした証拠が否定されたわけではない」と話すように、DNA型鑑定の誤りが判明した足利事件とは違う、との意見が検察内部では支配的だ。 一方、弁護側は「今回の鑑定方法は03年には導入されており、早期に証拠開示がなされていれば、もっと早く無実が分かったはず」と開示の遅れを批判。元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「検察が鑑定精度の向上を理由にするのであれば、どの時点で今回の鑑定が可能だったのか、第三者を含めて検証すべきだ」としている(12年11月7日配信『産経新聞』)。 ☆ 再審事件の開始決定相次ぐ、申し立て件数も増加=東京電力女性社員殺害事件で、無期懲役とされたネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリさんは、再審判決で無罪となった。 再審はかつて「開かずの扉」とも呼ばれたが、近年は布川事件など、無罪が言い渡されるケースが相次いでいる。 再審開始の判断基準とされるのが、1975(昭和50)年に出された最高裁の白鳥決定だ。同決定は、新旧証拠を総合的に判断した結果、「判決に合理的な疑問が生じれば足りる」と、従前よりも緩やかな基準を示した。この結果、死刑が確定していた免田事件などで相次いで再審無罪が言い渡された。 2011(平成21)年には足利、布川事件の再審開始が決定し、無罪が確定。11年にも福井の女子中学生殺害事件、12年3月には大阪市東住吉区の女児放火殺人事件で再審開始決定が出された。 最高裁によると、平成に入ってから年間64~136件の間で推移していた刑事事件の再審請求件数は、16年に194件、17年には392件まで増加。その後も200件台が続いている(12年11月7日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電社員殺害事件:無罪確定、弁護団「裁判所も反省を」=97年の東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされたネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)に東京高裁で「再審無罪」が言い渡された7日、検察側は上訴権を放棄して即日無罪を確定させた。記者会見した弁護団は検察や裁判所に対し、第三者を交えて経緯を検証するよう求めたが、検察側は冤罪(えんざい)か否かについても明言を避け、裁判所側は「コメントは控える」とだけ述べた。 ●弁護団 閉廷後、弁護団は東京都内で記者会見し、主任弁護人の神山啓史(ひろし)弁護士は「一番反省すべきは裁判所。第三者機関の検証を受けるべきだ」と厳しく指摘した。控訴審での逆転有罪(00年)の末、マイナリさんの無期懲役を確定(03年)させた裁判所にも強く反省を求めた。「どうして私がこんな目にあったのか、よく調べ、よく考えてください」。会見の冒頭、弁護団の一人がマイナリさんのコメントを読み上げた。 神山弁護士は「(無罪の)1審が示した疑問を解消せず、高裁と最高裁は間違っていると決めつけた。『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則があるのに、なぜこういう間違いが起きたのか」と声を荒らげた。この日の法廷では高裁判決からの12年間が走馬灯のようによみがえったといい、「苦しかったが、(今日)肩の荷が下りた」と心境を吐露した。 ●検察側 上訴権を放棄し即日無罪判決を確定させた東京高検では青沼隆之次席検事が「結果を厳粛に受け止め、改めてマイナリ氏におわびするとともに、得られた教訓を踏まえ、適切な検察権行使に努めてまいりたい」とする談話を発表した。 青沼次席検事は上訴権放棄の理由について「15年間拘束したマイナリさんを不安定な地位に置いておくのはあまりにも酷」と説明。しかし、判決が「『第三者』が犯人である疑い」に言及したことには「真相が完全に解明されておらず、冤罪(えんざい)かどうかを言及するのは時期尚早だ」と述べるにとどまった。 検察は事件の捜査や公判について内部調査して「特段の問題はなかった」と結論付けており、外部による検証は実施しない意向。それでも、ある幹部は「見立てと違う証拠についても慎重に検討すべきだという教訓は残った」と話した。一方、東京高裁の岡健太郎事務局長は「コメントは差し控える」とした(12年11月7日配信『毎日新聞』)。 ☆ マイナリさんが検察に謝罪を要求 記者会見で強く批判=東電女性社員殺害事件で、再審無罪判決を受けたネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)は7日、自宅があるネパールの首都カトマンズで記者会見し、日本の検察に対して「ぼくとネパール人に謝ってほしい」と強く批判した。 マイナリさんは「これからの人生を家族と幸せに暮らしたい」とも語った。 マイナリさんが記者会見するのは、釈放されネパールに帰国した6月以来。冒頭、ネパール語で声明を読み上げた。 マイナリさんは無罪判決が言い渡された直後に、自宅で報道陣に対して「喜びの涙が頬に流れた」などと語っていた(12年11月7日配信『共同通信』)。 ☆ マイナリさんが会見“許せない”=無罪が確定したマイナリさんは、日本時間の7日午後5時すぎ、ネパールの首都カトマンズで記者会見し、日本語で「真実が最後には勝つという気持ちで頑張りました。きょうの結果が出ると知っていましたが、でも、うれしいです。これからの人生、家族と一緒に幸せに暮らしたい」と述べました。 そのうえで逮捕以来15年間身柄を拘束されたことについて「ぼくとすべてのネパール人に謝って欲しい。許せません」と訴えました。またネパール語での声明で再審の決め手になったDNA鑑定について触れ、「なぜ最初からDNA鑑定をしなかったのか。無実なのに長い間、刑務所にいて苦しい思いをした。証拠を隠して鑑定もせずに一方的に容疑をかけられた。日本の警察や検察は私や家族に謝罪すべきだ」と述べ、警察や検察の捜査を批判するとともに、悔しさをにじませました(12年11月7日配信『NHKニュース』)。 ☆ 東電社員殺害事件:無罪確定、国賠訴訟のハードル高く=97年の東京電力女性社員殺害事件は無罪が確定。ネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)は約15年間、勾留と服役を強いられた。憲法の規定に従い無罪が確定すれば、逮捕から釈放までの間について1日最大1万2500円の刑事補償が得られる。仮に満額ならマイナリさんには6800万円余りが国から支払われる。 足利事件(90年)で無期懲役確定後に再審無罪となった菅家(すがや)利和さん(66)には17年半の拘束に対し約8000万円が支払われた。 その一方、逮捕や起訴の不当性を訴える国家賠償請求訴訟はハードルが高い。郵便不正事件で無罪が確定した村木厚子・厚生労働省局長の国賠訴訟では、国が大阪地検による違法捜査の責任を認めて判決前に賠償に応じたが、こうしたケースは極めてまれだ。 国鉄線路が爆破された芦別事件(1952年)で無罪が確定した男性の国賠訴訟で最高裁は78年、「無罪確定で、直ちに逮捕、起訴は違法とならない」とした。弘前大教授夫人殺害事件(49年)の国賠訴訟最高裁判決(90年)は再審による無罪確定でも「合理的判断で容疑があった時は起訴や公判維持は違法に当たらない」とした。死刑判決の再審無罪が確定した松山事件(55年)でも国賠は認められなかった。今回の事件で検察は「捜査、公判に特段の問題はなかった」と逮捕や起訴の合理性を示唆しており、仮にマイナリさんが国賠を求めて提訴すれば、国側の抗戦も予想される。なお、被告による再審請求とは異なり、48年に茨城県で発生した強盗殺人事件で男性2人の無期懲役が確定後に真犯人が現れ、検察が再審請求して強盗殺人罪が無罪(窃盗は有罪)となった事例が官報に掲載されている(12年11月7日配信『毎日新聞』)。 ☆ マイナリさん、補償は最高で6800万円=東京電力女性社員殺害事件で無罪が確定したゴビンダ・プラサド・マイナリさんは、国に補償を請求できる。マイナリさんは約15年間拘束され、補償は上限額が適用されれば6800万円余りになるとみられる。 刑事補償法は、刑事裁判や再審で無罪になった場合に服役日数などに応じ、1日当たり1千~1万2500円を支払うと定めている。同様の再審無罪事件の補償額は、約17年半拘束された足利事件の菅家利和さん(66)が約8千万円、布川事件の桜井昌司さん(65)、杉山卓男さん(66)が約29年間分の各約1億3千万円だった。 捜査機関に対する責任追及などを目的に、補償とは別に国家賠償を求める訴えを起こすケースもある。郵便不正事件で無罪となった厚生労働省局長、村木厚子さん(56)の訴訟では、国側が逮捕、勾留の慰謝料など約3770万円分について請求に応じた(12年11月7日配信『産経新聞』)。 ☆ 祝福も、司法に憤り=東京電力女性社員殺害事件でゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)の再審無罪が確定したことを受け、冤罪(えんざい)被害者らは7日、祝福の一方で、裁判所や検察への憤りも口にした。 再審判決後に東京高裁近くで開かれた支援者集会には、いずれも無期懲役確定後、2010年~11年に再審無罪とされた足利事件の菅家利和さん(66)と、布川事件の杉山卓男さん(66)、桜井昌司さん(65)が駆け付けた。 法廷を傍聴した菅家さんは「自分の事件では、裁判官3人が謝罪した。どうしてきょうは謝罪しなかったのか。腹が立った」と不満をあらわにした。 杉山さんは「無罪判決、おめでとう」とあいさつした上で、「検察の証拠隠しが一番の問題。自分たちも長年開示されなかった証拠から、無罪につながった」と強調。桜井さんは「無罪の仲間が助かることはうれしい」と語った。 支援団体「無実のゴビンダさんを支える会」の客野美喜子事務局長(60)は、「会は解散するが、今後も第二のマイナリさんを生まないために、捜査、公判の在り方を検証する活動をしたい」と抱負を語った(12年11月7日配信『共同通信』)。 ☆ マイナリさん支援団体が報告集会 裁判所の謝罪なく、不満の声=東京電力女性社員殺害事件の再審判決で無罪が確定したゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)の支援団体が7日午後、東京都内で報告集会を開いた。集まった約50人の支援者は安堵の表情を浮かべる一方、逆転有罪とした2審判決への言及や謝罪がなかった点に不満の声も上がった。 集会には足利事件で再審無罪となった菅家利和さん(66)も参加し「どうして裁判官は謝罪しなかったのか」と憤った。布川事件の再審で無罪の杉山卓男さん(66)も「証拠を全て開示することが冤罪をつくらない一番の道だ」と(12年11月7日配信『共同通信』)。 ☆ 東電女性社員殺害:遠く長かった「真実」…再審無罪=逆転有罪判決から12年間訴え続けた「無実」が認められた。東京高裁で7日、ネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)に無罪が言い渡された東京電力女性社員殺害事件の再審控訴審判決。検察側の有罪主張放棄を経て出された判断に、支援者らは「ようやく真実が明らかになった」と歓喜の声を上げた。一方で、当時の捜査関係者らは複雑な心境を漏らした。 ◇冤罪防止に重い教訓 「本件控訴を棄却する」。東京・霞が関の東京高裁で午前10時半に開廷した判決公判の冒頭、小川正持(しょうじ)裁判長は厳しい表情のまま、1審無罪判決に対する検察側控訴を退けた。 続けて無罪の理由を説明。「再審公判では弁護人だけでなく、検察官も控訴棄却を求めている」と述べると、傍聴席に座ったマイナリさんの支援者、客野(きゃくの)美喜子さん(60)は表情を崩さず、無言のまま小川裁判長を見つめた。 支援者の多くは裁判を傍聴したが、裁判所正門前にも十数人が待機。判決を聞いた支援者の一人が正門から「再審無罪」と書かれた垂れ幕を掲げて飛び出してくると、拍手とともに「真実が明らかにされた」との声が上がる一方、「どうしてこんなに長くかかったのか悔しい」などと裁判所に対する批判も相次いだ。 「神様、やっていない」。00年12月、同じ東京高裁で逆転有罪判決を受けたマイナリさんは法廷で怒りの声を上げた。その際、石のように体を固めたという。マイナリさんはネパールに帰国しており、この日の法廷には本人や家族の姿はなかったが、一貫して訴え続けてきた「無実」の叫びは、ようやく裁判所に受け入れられた。 ◇「捜査、間違いなかった」…元警察幹部 「刑事司法の課題が浮かんだ」。マイナリさんの無罪判決について、事件当時の捜査関係者や元裁判官は後悔や教訓の言葉を口にした。一方で「捜査に間違いはなかった」と言い切る元幹部もいた。 警視庁の捜査をチェックする側の元検察幹部は後悔の念を募らせている。「(取り調べた)事件関係者がうそをついているかもしれないという視点が欠けていた」 再審無罪を生んだ最新のDNA型鑑定について、この元幹部は「試料が残っていなければ無罪はなかった」と指摘、試料を適正に保存する重要性を訴えた。 再審請求審で検察側に証拠開示を提案した元東京高裁部総括判事の門野博・法政大法科大学院教授は「もっと早い段階で鑑定すべき証拠があった」と言う。ルールがない再審請求審での証拠開示のあり方について、「関係機関で開示の運用ルールを協議すべきだ」と提案した。 捜査を指揮した警視庁の元捜査1課長、平田冨峰さん(70)は鑑定技術の進歩について「素晴らしいこと。今後の事件で捜査に生かせばいい」と評価。一方で「他の証拠も積み重ねて判断しており、当時の捜査に問題はなかった」と言い切った。 ◇今後に生かす…警視庁捜査1課長 無罪判決を受け、警視庁の龍一文(りゅう・かずふみ)捜査1課長は「司法判断についてコメントする立場にはないが、判決を真摯(しんし)に受け止め捜査に生かしたい」と話した。 ◇解説 鑑定精度向上…「評価」に難しさ残る 1審無罪、2審有罪と判断が割れ、裁判のやり直し直前になって検察がマイナリさんの有罪主張を放棄するという異例の展開を見せた東電女性社員殺害事件。再審無罪に帰着した背景には、DNA型鑑定技術の進歩と05年以降の証拠開示制度の整備という事情があるが、教訓は残る。 高精度のDNA型鑑定が再審無罪に導いたケースとしては「足利事件」が記憶に新しい。だが、逮捕の決め手だった草創期のDNA型鑑定に明確な誤りが見つかった同事件と異なり、東電事件の捜査段階の鑑定結果に問題はなかった。マイナリさんは取り調べに否認を貫き、「虚偽自白」も存在しない。それでも刑事司法は約15年間の拘束を許し、被害者遺族の無念を残したという経緯にこそ、今回の無罪が投げかける重さ、難しさがある。 捜査公判当時、証拠開示制度は未整備で、裁判官が限られた証拠の中で難しい状況証拠判断を迫られたのは間違いない。一方、DNA型鑑定は発展途上で、最近のように微量な試料を解析できなかった事情も大きい。 現在、捜査当局は「自白頼み」ではなく、科学捜査を柱とする客観的証拠の収集に力を注ぐ方向に向かいつつある。今回の再審無罪がその流れに拍車をかけるのは確実だ。だが、「白黒」を簡単に判定できるかに見える科学鑑定は正確な結果であっても、評価を誤れば別の冤罪(えんざい)を生みかねない。事後チェックを可能とするため試料の長期保存も不可欠だ。 冤罪を生まず、真犯人を正しく裁くことのできる刑事司法をどう実現するか。法曹三者は改めてこの重い課題に取り組む必要がある(12年11月7日配信『日本経済新聞』)。 ☆ 15年…遅すぎた名誉回復 問われる捜査・公判=東京電力女性社員殺害事件の再審で、東京高裁は7日、ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)を無罪とする判決を言い渡した。逮捕から15年余りを経た末の遅すぎた「名誉回復」。冤罪(えんざい)を訴えてきた支援者らは喜びの表情を浮かべる一方、証拠開示に消極的だった検察など刑事司法の現場に怒りの目を向ける。 「本件控訴を棄却する」。午前10時34分、マイナリさん不在の法廷に、小川正持裁判長の抑揚を抑えた声が響いた。弁護団席に座った神山啓史弁護士は大きくうなずき、法廷の天井を見上げる。支援者らで埋まった傍聴席からは「よし」と小さな声が漏れた。 一審・無罪、二審・逆転有罪、最高裁の上告棄却で有罪判決が確定――という経過をたどった事件の公判。一貫して無罪を訴え続けるマイナリさんが東京高裁に再審を申し立てたのは2005年3月だった。 「遺留物の鑑定書を出してくれ」。新たな証拠開示を度々求める弁護側に対し、検察側は「証拠あさりだ」などと拒否。犯行現場であるアパート室内にあった体液のDNA型や、部屋の鍵を持っていたとする証言などの状況証拠を根拠に有罪主張を崩さなかった。 再審請求審が続いた11年7月、事態は一変する。検察側が突然、被害女性(当時39)の体内に残っていた未開示の体液についてDNA鑑定を実施したところ、現場にあった「第三者」の体毛と型が一致した。 その後も検察側は「第三者が現場以外で女性と接触し、体や衣服に付いた体毛が現場に落ちた可能性もある」と主張。しかし、今年6月、同高裁は「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠が発見された」と判断し、再審の重い扉を開いた。 窮地に立った検察側は逆転を狙い、それまで開示してこなかった遺留物を追加鑑定。ところが、女性の爪の付着物から同じ第三者のDNA型が検出される結果となり、10月29日の再審公判で無罪主張に転じ「白旗」を上げるに至った。 弁護団の一人は「不利な証拠の存在が明らかになっていれば、無実は早くに分かっていた。検察は間違いの原因を厳しく検証し、再発防止に努めるべきだ」と批判する(12年11月7日配信『日本経済新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害で再審無罪判決 東京高裁=1997年の東京電力女性社員殺害事件で、無期懲役が確定したネパール国籍、ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)の再審公判が7日、東京高裁であり、小川正持裁判長は無罪とする判決を言い渡した。 検察側は同日、最高裁に上告できる権利(上訴権)の放棄を高裁に申し立てる方針。逮捕から15年7カ月を経てマイナリさんの無罪が確定する。 死刑か無期懲役が確定した事件で再審無罪となったのは「布川事件」(2011年無罪確定)に続き、戦後8件目。警察や検察、裁判所は当時の捜査や証拠評価のあり方に問題がなかったか検証を迫られそうだ。 マイナリさんは6月の再審開始決定と同時に刑の執行停止(釈放)が認められてネパールに帰国しており、この日の公判には出廷しなかった。 再審公判で検察側と弁護側はそれぞれ、被害女性(当時39)の体内に残っていた体液や爪の付着物、現場に落ちていた体毛などから、同じ「第三者」のDNA型が検出されたとする鑑定結果などを証拠として提出。検察側は、第三者が現場で最後に女性と接触して殺害に至った可能性を否定できないとし、無罪を主張した。 同事件では決定的な直接証拠がなく、97年の初公判以降、マイナリさんは一貫して犯行を否認。一審は無罪としたが、状況証拠を積極評価した二審・東京高裁は逆転有罪の無期懲役を言い渡し、最高裁で確定していた。 再審開始決定後も検察側は有罪立証を続けていたが、第三者による犯行を疑わせる鑑定結果が相次いで出たことなどから、10月の再審公判前に無罪主張に転じた(12年11月7日配信『日本経済新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害:マイナリさん無罪…再審控訴審判決=97年の東京電力女性社員殺害事件で無期懲役が確定し、6月に再審開始決定を受けたネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)の再審控訴審で、東京高裁(小川正持<しょうじ>裁判長)は7日、1審の無罪判決(00年4月)に対する検察側控訴を棄却し、マイナリさんを無罪とする判決を言い渡した。 検察側は10月29日の再審控訴審第1回公判でマイナリさんの無罪を主張しており、近く上訴権を放棄して無罪を確定させる方針。戦後発生し死刑か無期懲役が確定した事件で、最高裁が再審開始基準を示した「白鳥決定」(75年)以降、再審無罪が確定するのは8件目。 マイナリさんは00年12月、2審・東京高裁で逆転有罪とされた。被害女性の手帳の記載や現場の状況などから「事件当日に現場で被害女性と性的関係を持った後、殺害した」と認定されたためだった。だが、再審請求審で検察側が実施したDNA型鑑定の結果、女性の体内にあった精液の型と現場に落ちていたマイナリさんとは別の男性(第三者)の体毛の型が一致したことが判明。女性の体表や下着からもこの第三者の型が検出された。 再審請求審も担当した小川裁判長は、6月の再審開始決定の中で「『第三者』が女性と性的関係を持った後に殺害した疑いを生じさせている」と指摘、控訴審のやり直しを決めた。検察側はその後も有罪主張を維持していたが、9月に被害者の爪の付着物から第三者のDNA型が検出されたことを受け、有罪主張を放棄した。マイナリさんは6月に釈放され帰国している(12年11月7日配信『毎日新聞』)。 ☆ 「東電OL殺害」検証 マイナリ元被告「再審無罪」確定確実=なぜ有罪判決を受けたのか/捜査は尽くされたのか=事件は、発生から15年7カ月を経て、無期懲役が確定していたネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告(46)の「再審無罪」確定が確実となった。なぜ、マイナリさんは有罪判決を受けたのか。捜査は尽くされたのか。当時の捜査経過を振り返り、検証してみる。 ◇ 遺体は3月19日に発見。捜査線上には、現場の隣のビルに住むマイナリさんがすぐに浮上した。前年11月まで現場の空き室に居住し、事件当時もアパート管理人から鍵を預かって同室に出入りしていたからだ。 マイナリさんのパスポートが切れていたため、警視庁は遺体発見4日後の同月23日、入管難民法違反(不法滞在)容疑でマイナリさんを逮捕。その後、事件があったとされる3月8日の夜、マイナリさんとよく似た人物が、被害者と同室に入るところを通行人が目撃していたほか、家賃を滞納していたマイナリさんが、事件2日後に数万円を弁済していた事実が分かった。 その後、現場のごみ箱に残されていた体液が、DNA型鑑定でマイナリさんのものと一致。警視庁は遺体発見から2カ月後の5月20日、当初から重要参考人とみていたマイナリさんの容疑が科学的に裏付けられたと判断し、「金目当ての犯行」として強盗殺人容疑での再逮捕に踏み切った。 ◆DNA型鑑定で別人 再審開始の決め手は、東京高検が行ったDNA型鑑定で、被害者の体内に残っていた体液が、マイナリさん(血液型B型)とは別人(同O型)のものと一致したことだった。 だが、当時の取材メモによると、被害者の体内に別の男性の体液が残されていた事実は、捜査の過程で既に分かっていた。ただ、警視庁側は当時、「殺害の数日前から体内にあった古いもののようだ」などと説明。DNA型鑑定で、この人物を特定する捜査は行われていなかった。 また、被害者の定期券が、JR巣鴨駅(東京都豊島区)から北西に約1キロ離れた住宅地の民家の庭で3月12日に発見されていたという「謎」も、捜査では解明されないままだった。 警視庁と東京地検は、殺害後にバッグから現金4万円と定期券を奪い、定期券は民家の庭に投げ捨てたと結論づけたが、マイナリさんの巣鴨周辺での足取りはまったく分かっていない。 実際、12年4月の1審東京地裁判決は、定期券がマイナリさんや被害者に土地勘がない場所で見つかったことなどを指摘し、無罪を言い渡していた。捜査は尽くされていなかったのだ。 ◆15年超「真犯人は?」 マイナリさんは1審無罪判決後、同年12月に東京高裁で逆転有罪となり、15年11月に最高裁で無期懲役がいったん確定していた。 高検が再審で一転、無罪主張に変更したのは、被害者の手の爪からもマイナリさんとは別のO型の人物のDNA型が検出されたためだった。当時の技術では、微量過ぎてDNA型鑑定ができなかったが、現在は可能となったため、被害者が殺害される際に激しく抵抗した疑いが出てきたのだ。 マイナリさんの再審無罪が確実となったことを受け、警視庁では、マイナリさんとは別人のDNA型を照会する一方、捜査1課から既に1個班を投入して、「真犯人」の疑いがある“別人”の再捜査に乗り出している。 だが、捜査は難航が予想される。事件は発生から15年以上が経過。関係者の記憶も薄れ、新たな目撃証言が得られる見込みは、限りなくゼロに近いからだ。 捜査に携わった警視庁OBは「“別人”をつぶす捜査ができていなかったのは事実だ」と振り返る。 22年4月施行の改正刑事訴訟法によって強盗殺人罪などの時効が廃止されたことから、東電OL事件は再審無罪事件で初めて時効撤廃が適用される。だが、そもそも長年、死刑に問われる可能性のある重大犯罪の時効が15年だったのは、聞き込みなどのアナログな捜査の限界が15年とされてきたからだ。事件の真相解明は、飛躍的に技術発展し、時効撤廃を後押ししたDNA型鑑定に頼るしかないというのが、実情のようだ(12年11月4日配信『産経新聞』)。 ☆ <東電社員殺害>再捜査に時間の壁 DNAも決め手とならず=マイナリさん(46)の再審無罪が近く確定するのを受け、警視庁捜査1課は15年ぶりに渋谷署に捜査本部を設置する方針を固めた。だが歳月の経過で関係者の記憶は薄れ、切り札とも言えるDNA型鑑定も殺害関与の決め手とはならない。前例のない再捜査の道のりは険しい。 ◇渋谷署に捜査本部設置へ 戦後、起きた事件で、死刑・無期懲役が確定し再審で無罪となったのは7件。いずれも公訴時効が成立しており、再捜査は初のケースとなる。 捜査関係者によると、捜査本部には殺人事件を担当する係を専従で投入。未解決事件(コールドケース)の捜査員も加える予定だ。再捜査の軸は、被害女性の体内や爪から検出された第三者(マイナリさんとは別の人)のDNA型との照合作業。警察庁のデータベースには9月末現在、容疑者26万3737人分、遺留物3万5837件が登録され、随時更新されているが、今のところ一致するデータは確認されていない。 ただし、今回の事件では、DNA型が一致しても、殺害の直接証拠にならないとの見方が強い。被害者は事件当日、複数の人物と会っており、一緒にいたことの証明にはなっても殺害に関与したことの裏付けにはならないからだ。捜査幹部は「第三者が事件の事情を知っている可能性はあるが、殺人容疑での立件には別の証拠や証言が必要」と話す。第三者が見つかっても否認されれば、捜査が行き詰まる恐れもある。 さらに大きな壁は15年という歳月だ。今夏、同課は第三者の関与を否定するために極秘の補充捜査を実施。被害女性の手帳に名前が書かれていた十数人から改めてDNA型の検体の提出を求めるなどしたが、既に死亡した人物もいて所在確認は難航。最後まで連絡が取れない人物もいた。 捜査関係者は「今後はもっと広い範囲で関係者に当たる必要があるが、時間の壁を乗り越えるのは容易ではない」という。捜査の難航は必至だが、幹部の1人は「このままでは遺族に顔向けできない。何としても捜査を進めたい」と話す(12年11月4日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電女性再審 “暗黒司法”そのものだ=東京電力の女性社員殺害事件で、無罪となるネパール人男性の再審公判は、司法界の“暗黒”を物語る。検察も裁判所も過ちを検証せねばならない。真犯人の追及にも本腰で取り組むべきだ。 再審の公判で「無罪」と主張したのは、検察側だ。弁護側はずっと無実を訴えてきた。これで結審し、ネパール人男性の無罪は確実だが、もっと早く冤罪(えんざい)から救済できなかったか悔やまれる。 11年夏に被害者の体内から採取された精液のDNA型鑑定の結果が出た。男性とは別人の「X」のもので、しかも殺害現場にあった体毛の型と一致していた。この時点でも、検察は“撤退”が可能だったはずだ。ところが、12年6月に再審開始決定が出ても、検察側は異議を申し立てていた。 検察が白旗を揚げる決め手になったのは、女性の爪に残っていた付着物をDNA型鑑定したところ、やはり「X」のものだったことだ。被害者と最後に接触したのは「X」である可能性が濃厚になった。爪の付着物は、被害者の激しい抵抗の痕跡かもしれない。 だが、弁護側が爪に着目して、鑑定書を求めたのは07年である。検察は裁判所に促されても、「鑑定書はない」「爪からは何も検出されていない」などと、虚偽に近い不誠実な姿勢だった。最後まで有罪にこだわり続けた検察の態度は非難に値する。 有罪を確定させた裁判所も問題だ。一審は「無罪」だった。「別人が犯行現場の部屋を使った可能性がある」「精液の入った避妊具は、事件当日に使用したと断定できない」などと、新しい鑑定技術がなくとも、男性を犯人とすることに疑いを持ったのだ。 ところが、2審はわずか4カ月のスピード審理で「逆転有罪」となった。なぜ一審が下した“赤信号”を素通りし、最高裁まで追認したのか。さまざまな証拠が「X」が真犯人だと指し示しているような現在、裁判所はどのような弁解をするのだろうか。 当初からネパール人男性を犯人だと決めつけた捜査に問題があるのは間違いない。重要物証をDNA型鑑定しなかったのも致命的だ。被告人に有利な証拠も得られるよう、全面証拠開示の必要性も、この事件は訴えている。 司法が「暗黒」と呼ばれないためには、他にも冤罪が潜んでいないか、早急にチェックすることだ。もはや正義に奉仕すべき司法の倫理さえ問われている(12年10月30日配信『東京新聞』)。 ☆ 検察、有罪維持に固執…方針転換は再審10日前=東京電力女性社員殺害事件で高検が無罪主張に転じたことについて、ある検察幹部は再審公判を前に「有罪主張の意見が強硬すぎて、主張の変更が遅れた」と戸惑いを隠さなかった。 この幹部は、昨年夏に被害女性の体内の精液などから第三者(X)のDNA型が検出されたことに触れ、「あの時点で(マイナリさんが)犯人ではない可能性が生じ、無罪はほぼ決定的になった」と振り返る。だが当時、検察内部では「Xが女性と接触したのは事件より前の可能性がある。確定判決は揺るがない」との見解が支配的だった。 今年6月の再審開始決定は、真犯人はXとの見方を強く打ち出した。「再審でも勝機はない」と検察内部に危機感が広がったが、「(マイナリさんが犯人との)ストーリーを描ける余地があれば、有罪主張は変えるべきではない」と、一貫性を重視する意見が勝った。結局、方針転換は再審公判の約10日前だった(12年10月29日配信『読売新聞』)。 ☆ 本当に冤罪か、謙虚に反省を…検察幹部ら複雑=東京電力女性社員殺害事件で、検察による異例の無罪主張に、検察幹部らは複雑な表情を見せた。 ある幹部は「無罪主張は仕方ないとしても、本当に冤罪と言えるのか。検証が必要とは考えていない」と強気に述べたが、足利事件の検証にも関与した別の幹部は「最新の鑑定で無罪が明らかになった点は足利事件と同じ。当時の起訴や控訴に問題はなくても、無罪の人を長期間にわたり服役させた事実を謙虚に反省すべきだろう」と話した。 警視庁捜査1課の龍一文(りゅうかずふみ)課長は「確定判決が出るまで、コメントは差し控えたい」としている(12年10月29日配信『読売新聞』)。 ☆ 帰国のマイナリ元被告「よく眠れる」 弁護団「遅きに失したがほっとした」=今年6月に釈放されたゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告。支援者らによると、ネパールへの帰国直後は生活環境の激変に戸惑いを見せていたが、釈放から4カ月余りが経過し、落ち着きを取り戻しつつあるという。 マイナリ元被告は現在、首都カトマンズの自宅で母、妻、娘2人とともに5人で暮らす。帰国後にスタジオで妻のラダさん(43)と撮影した記念写真を拡大印刷し、寝室や居間に飾っているという。 元被告は日本で刑務所生活を送っていたころから不眠を訴え、睡眠導入剤も服用。帰国後も精神状態は安定せず、時折「嫌なことを思い出してしまう」と家族などに苛立ちを見せていた。しかし、8月末に再審初公判の期日が決まって以降は、「よく眠れる」と笑顔を見せることが増えたという。 ダイエットのため朝のジョギングに取り組むほか、ラダさんとスーパーで買い物をしたり、テレビ番組を楽しんだり、「ごく普通の毎日を送っている」(支援者)という。 自宅を来訪する親族らの対応などで忙しいといい、職探しは無罪確定後になる見通しという。 事件に関してはインターネットなどを通じて日本国内の報道を細かく把握し、気にかける様子を見せている。日本の支援者とはインターネット電話「スカイプ」などを利用して連絡を取り合っており、報道内容について感想を話すなどしているという。 再審開始確定後に行われた追加鑑定の結果を受け、検察側が有罪主張を断念したことが報じられた際には、憤りをあらわにした。 「最初からすべての証拠を出してくれれば、こんなに苦しむことはなかった。無実の証拠を隠したまま有罪にするのは、私が最後であってほしい」。こう、語気を強めたという。 ◇ 一方、元被告の弁護団は29日の再審初公判終了後に会見し、主任弁護人の神山啓史弁護士は「正直言ってほっとした。(無罪主張は)当然で遅きに失したと思うが、犯人でないということが一層明らかになった。1審の無罪判決が正しいということがはっきりした」と安堵の表情を浮かべた。 会見で弁護団は「12年前、無期懲役の判決を受け、『神様やっていない』と思わず叫んだことを忘れない」などとする元被告のメッセージを朗読。元被告には公判終了後、電話で検察側が無罪を主張をしたことや判決の期日などを伝えたという。 公判では検察側から謝罪はなかったが、石田省三郎弁護士は「法律家は感情的に動いていないので、控訴取り下げが法的な意味での謝罪に当たる」と話した。 石田弁護士は警察や検察の捜査について「弁護士や裁判官出身者、学識経験者らで構成する外部の第三者による検証が必要。内部での検証では同じことが繰り返される」と指摘した。 ☆ マイナリさん笑顔、手を振り「うれしい」=マイナリさんは29日午前、判決期日が指定されたとの連絡を受けた後、カトマンズの自宅のベランダから妻のラダさんと顔を出し、日本語で「うれしい」と言って笑顔をふりまいた。 閉廷後、弁護団を通じて「無実なのに人生の大切な時間を失いました。判決の中で、私を有罪にした裁判が誤っていたことをきちんと認めてほしいと思います」とのコメントを出した(12年10月29日配信『読売新聞』)。 ☆ マイナリさん弁護団「間違いの検証すべき」=ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの弁護団は29日の再審公判閉廷後、東京都内で記者会見した。検察改革を議論する「検察のあり方検討会議」の委員も務めた石田省三郎弁護士は検察側の無罪主張について「なぜこのような間違いをしたのか、検察は厳しく検証すべきだ」と訴えた。 石田弁護士は「重大な間違いがあれば第三者の目線を入れて検証するのが筋」と指摘。「全ての資料を明らかにして検証しなければ、再び同じような間違いが起きる」と話した(12年10月29日配信『日経新聞』)。 ☆ 証拠の抱え込み 改めよ=検察当局が初めて公の場でマイナリさんが無罪と認めた。再審開始決定後に新たに実施した被害女性の爪のDNA型鑑定で第三者のDNA型が検出されたためだ。この鑑定は弁護側が再審請求審で再三、必要性を訴えてきた経緯がある。開示義務がないのを盾に、無罪につながる可能性のある証拠まで抱え込む姿勢は改めるべきだ。 マイナリさんが再審請求した2年後の2007年には、弁護側は手の爪の鑑定書があれば開示するよう、検察側に求めていた。爪には、女性と最後に接触した第三者の痕跡が残っている可能性があるからだ。だが「関連性がない」と取り合わず、裁判所に促されても「鑑定書はない。爪には何も付着してない」の一点張りだった。 再審開始が決まり無罪が濃厚になると、検察側は逆転を図るため、一転して鑑定に踏み切った。「何も付着していない」と強弁したのは、第三者の痕跡が見つかるのを恐れていたからではないか。そんな疑念さえ残る。 公権力の行使で集めた証拠を自らの都合だけで利用したり、しなかったりすることは許されまい。裁判員制度を見据え〇四年に新設された公判前整理手続きでは、殺人事件などの一審では一定の条件付きで、開示義務が生じている。 潮流に逆行するような小出しの証拠開示が、いまだにマイナリさんの無罪が確定しない事態につながった。検察当局は検証に後ろ向きだが、問題点の洗い出しは急務だ(12年10月29日配信『東京新聞』)。 ☆ 元被告に「誠に申し訳ない」 東京高検次席検事が謝罪コメント=東京電力女性社員殺害事件の再審初公判後、青沼隆之東京高検次席検事が発表したコメント全文は次の通り。 「本日の公判で、検察官は『被告人は無罪』との意見を述べた。検察官が従来の主張を変更したのは、確定審の段階では技術的に困難だった鑑定が、その後の科学技術の進歩によって可能となったことなどによるものであり、また、検察官がことさらに証拠を隠したなどの事実も認められず、その捜査・公判活動に特段の問題はなかったと考えているが、結果として、無罪と認められるゴビンダ・プラサド・マイナリ氏を、犯人として長期間身柄拘束したことについては、誠に申し訳なく思っている」(12年10月29日配信『産経新聞』)。 ☆ 「無罪意見」5分足らず 検察側異例の言及、謝罪なし=逮捕から15年半、潔白を訴え続けたゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告(46)の「無罪」を認めた検察側の意見陳述は、わずか5分足らずで終わった。東京高裁で29日に開かれた、東京電力女性社員殺害事件の再審初公判。直前になって有罪立証を撤回した検察側は「被告人は無罪との意見を述べる次第であります」と、異例の意見書を読み上げた。 「それでは開廷します」。午前10時半。小川正持裁判長が審理開始を告げた。マイナリ元被告は今年6月、ネパールへ帰国している。被告人不在の法廷で、検察官2人と弁護人8人が向き合った。 元被告を無罪とした1審東京地裁判決に検察側が控訴した段階から「やり直し」の形をとる再審初公判。小川裁判長が、当時、弁護側が控訴棄却を求めて提出した答弁書について「陳述でよろしいでしょうか」と確認すると、主任弁護人の神山啓史弁護士が立ち上がり「答弁書の通り、控訴棄却を求めます」と述べた。 「検察官、意見書を陳述してください」。小川裁判長に促された検察官が立ち上がり、手にした書面を読み上げた。 「検察官は、被告人が本件犯人であるとの主張をしてきました…」 こう前置きした上で、「検察官の控訴申し立て時点から証拠関係が変動した」と無罪主張に転じた理由を説明した。 事件をめぐっては、昨年7月以降、現場の部屋や被害者の遺体、着衣などから、元被告以外の第三者のDNA型が次々と検出され、弁護側がこれらを「元被告を無罪とすべき新証拠」として提出している。 こうした事実関係をふまえるように、検察官は、こう認めていく。 「被告人以外の者が犯人である可能性を否定し得ず、現段階の証拠関係からは被告人を有罪と認めることができないとの判断に至った」「被告人は無罪との意見を述べる」 公の場で初めて検察側が言及する「無罪」という言葉に法廷が静まりかえる。 ここで神山弁護士が再び立ち上がり「検察官は控訴したことの誤りを認め、控訴を取り下げるべきだ」と迫ったが、検察官は「法律上、再審において控訴取り下げはできないと考えている」と応じるのみだった。 続く弁護側の意見陳述では、神山弁護士は「証拠から、ゴビンダさんが無罪であることは一層明らか」「1審無罪の判断が正しかったことが改めて確認された」と主張。初公判は25分で幕を閉じた(12年10月29日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害:検察側、マイナリさんの無罪求める=再審控訴審第1回公判が29日、東京高裁(小川正持裁判長)であった。検察側は「1審の無罪判決を不服として控訴した時点から証拠内容が変動しており、別人が犯人の可能性を否定できない。被告人(マイナリさん)は無罪」との意見を述べ、公判は即日結審した。判決は11月7日。閉廷後、検察側は「申し訳なく思っている」とするコメントを出した。 マイナリさんは東京高裁で逆転有罪とされたため、再審公判は検察側が控訴した段階からやり直された。次回の判決では「無罪とした1審判決は正しい」として検察側控訴が棄却され、マイナリさんの無罪が確定する見通し。一方、弁護側は「事件当時、被告以外の人物が現場の部屋にいた可能性を払拭(ふっしょく)できない」と指摘した1審の判断の正当性を訴えた。再審開始の決め手になった、被害女性の体内に残された精液の型が現場の部屋にあったマイナリさんとは別人(第三者)の体毛の型と一致したとのDNA型鑑定結果に言及。「被害女性と最後に性的関係を持ったのは第三者。ゴビンダさんの無罪は明らかだ」と強調した。 検察は再審開始決定後も有罪主張を維持しようとしたが、決定後に行ったDNA型鑑定で被害女性の爪の付着物から第三者の型が検出されたとの鑑定結果を受け、無罪主張への転換を迫られた。 控訴審は被告に出廷義務がないため、既に帰国しているマイナリさんは法廷に姿を見せなかった。戦後発生し、死刑か無期懲役が確定した後に裁判がやり直された事件は8件目(12年10月29日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害:最新DNA鑑定 「第三者」痕跡次々と=05年から始まった東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、検察はマイナリさんが有罪との姿勢を維持した。殺害現場の部屋のトイレにあった避妊具にマイナリさんの精液が残っていた▽部屋のカギを持っていたのはマイナリさんだけ−−などと認定して有罪とした確定判決に揺らぎはないと考えたためだ。だが、再審請求審以降、次々と示された最新のDNA型鑑定は「第三者」の存在を示唆。最後は自ら拳を下ろす選択しか残っていなかった。 検察を動揺させた最初の鑑定結果は昨年7月。被害者の体内に残された精液と現場に落ちていた体毛の型が「第三者」と一致した。マイナリさんが現場で性的関係を持った後に殺害したとする確定判決に深いひびが入った。 それでも検察は「現場の外で付着した(第三者の)体毛が室内に持ち込まれた可能性がある」などと主張。同9月以降、追加鑑定を順次実施した。 しかし、被害者の体表に付着した微物を中心に行われた追加鑑定は複数のDNA型が混在して特定できないか、第三者という結果ばかり。高裁は今年6月、再審開始を宣言。マイナリさんは即日釈放され、この時点で再審公判の無罪はほぼ確実視された。 検察は証拠の再検討を迫られた。捜査段階で試料となる付着物が見つからず鑑定されていなかった被害者の爪について複数の専門家に相談したところ「現在の技術ならやる価値はある」と助言された。その結果、明らかになったのは、やはり第三者の痕跡だった。 爪の鑑定結果を受けた10月の幹部会議。誰からも有罪維持の意見は出なかった。検察首脳は「もう、じたばたするな」と無罪主張への転換を指示した。 ◇警視庁は再捜査へ マイナリさんの再審無罪が確定すれば、警視庁捜査1課は「第三者」のDNA型などを基に真犯人の特定に向けて再捜査に乗り出す方針だ。死刑か無期懲役が確定した後に再審無罪となった戦後発生の事件は計7件あるが、いずれも確定時に公訴時効が成立しており、再捜査は初のケースとなる。 捜査1課は再捜査で、被害女性の関係者らから改めて聴取するとともに、被害女性の体内に残された精液や爪に付着した微物から検出された第三者のDNA型の照合を進めるなどして、真犯人の特定を目指すとみられる(12年10月29日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電OL殺害事件再捜査へ 警視庁「時効撤廃」初適用=マイナリ元被告(46)の再審無罪が確実となったことを受け、警視庁捜査1課が真犯人の特定?逮捕に向けた異例の再捜査に乗り出したことが26日、警視庁関係者への取材で分かった。死刑か無期懲役が確定した事件の再審で無罪が確定したケースは、これまですべてが時効成立後に確定していたが、東電OL事件は時効撤廃が再審無罪事件で初適用されることから、真犯人の罪を問うことが可能となった。 警視庁関係者によると、東電OL事件は被害者の手の爪や体内などに残されていたDNA型が、元被告と異なることが判明。警視庁は真犯人のものである疑いが強いとみており、時効が成立しない以上、真犯人の解明は不可欠と判断した。既にDNA型を照会するなど再捜査を行っている。 事件は発生から15年7カ月がたっており、当時の刑事訴訟法ならば12年3月に時効が成立しているが、00年4月に強盗殺人罪などの時効が撤廃されたことから、真犯人の刑事訴追が可能となっていた。 死刑か無期懲役が一度確定した事件で再審が行われたケースは、布川事件など過去計9件があるが、すべて無罪が確定している。 9件の事件は発生から再審無罪判決まで、最長が約62年で、最短でも足利事件の約20年。足利事件も、22年3月に再審無罪判決が出た段階で、既に時効が成立していた(12年10月27日配信『産経新聞』)。 ☆ OL殺害無罪へ 捜査と公判の徹底検証を=東京都渋谷区のアパートで平成9年、東京電力の女性社員が殺害された事件で無期懲役とされたネパール人の元被告の再審公判に向け、東京高検は無罪を求める意見書を東京高裁に提出した。 検察側が誤りを認めたことで、29日に予定される再審初公判は即日結審し、元被告の無罪が確定する見通しだ。 元被告は再審開始の決定とともに刑の執行が停止され、すでにネパールに帰国しているが、逮捕から15年に及ぶ捜査と公判については、徹底的な検証が必要だ。 元被告は捜査段階から一貫して犯行を否認していた。アパートの現場には元被告の体液、体毛が残されていたが、1審は第三者による犯行の可能性を指摘し、無罪とした。2審はその可能性を否定して逆転有罪を言い渡し、最高裁で無期懲役が確定した。 元被告は17年3月、東京高裁に再審を請求した。再審請求審で開示された証拠のDNA型鑑定で、被害者の体内から検出された体液のDNA型が、現場に残された元被告以外の男性の体毛と一致したことなどから今年6月、再審開始が決定した。 その後の東京高検の鑑定で、被害者の爪の付着物からこの男性と同じDNA型が検出された。新事実を明らかにしたのは、科学の進歩によるところが大きい。事件当時は困難だった微量の資料鑑定も可能で、DNA型鑑定は現在、約4兆7千億人に1人の確率で個人識別ができるようになった。 そうした点を差し引いても、有罪主張に固執するあまり、不都合な事実に目をつぶることはなかったか、検証を尽くすべきだ。 決め手となった爪の付着物の鑑定は、再審開始決定後に行われた。もっと早く鑑定を行っていれば、結論を出す時期も大きく異なっていたはずだ。 大阪地検特捜部による郵便不正事件と押収資料改竄(かいざん)・犯人隠避事件を検証した最高検は、「検察再生」のキーワードに「引き返す勇気」をあげた。 最近も、遠隔操作ウイルスに感染したパソコンから脅迫の書き込みなどが繰り返されていた事件で、警察が誤認逮捕を認める事例が相次いでいる。捜査当局は改めて、このキーワードに思いを致すときだ。いまだ信頼回復の途上にある検察は、いっそう厳しく自らを律しなくてはならない(12年10月21日配信『産経新聞』-「主張」)。 ☆ 検察は控訴取り下げを…東電OL殺害で弁護団=東京高検が元被告の無罪を主張する意見書を東京高裁に提出したことについて、元被告の弁護団は19日、「検察は自ら控訴を取り下げるべきだ」と批判する意見書を高裁に提出した。 意見書では、「控訴の判断自体が誤り。元被告の無実は(0012年4月の)1審無罪判決の段階で明らかだった」としたうえで、検察側が再審開始の確定後に被害女性の爪の付着物のDNA鑑定を実施した点を、「再審請求審の時点で、弁護団の求めに応じて爪の鑑定をしていれば、もっと早く無実が明らかになっていたはずだ」と非難。「控訴を取り下げてこそ公益の代表者としての責務を果たすことになる」と訴えている。 意見書提出後、記者会見した主任弁護人の神山啓史弁護士は「誤りを素直に認めない検察の姿勢に疑問を感じる」と話した。 29日の再審初公判は即日結審する見通し。判決で「控訴棄却」が言い渡されれば、1審無罪が確定する(12年10月19日配信『読売新聞』)。 ☆ 検察に検証求める=無罪意見書「内容に異議」-弁護団=マイナリさんの弁護団は19日、東京高検が無罪主張に転じたことを受け、「捜査、公判での検察官の対応など、原因を徹底分析して責任を明確にすべきだ」と、検察による検証を求める意見書を東京高裁に提出した。 弁護団によると、高検は18日に提出した意見書で、「(一審無罪判決に対する)検察官の控訴時点から証拠が変動し、別人が犯人の可能性を否定できず、現在の証拠からは被告を有罪と認めることはできない」として無罪を求めた。 これに対し弁護団は「内容に異議がある。控訴は正しかったと言いたいようだが、検察が控訴しなければ被告が十数年にわたり苦しむことはなかった。誤りを認めるべきだ」とした。 高検が無罪主張に転じる契機となった被害女性の爪の付着物の追加鑑定については、「現在の最先端の鑑定方法が導入された2003年に実施していれば、もっと早く無実が明らかになっていた」と批判した(12年10月19日配信『時事通信』)。 ☆ 誤り認めた検察「検証が必要」 マイナリ元被告無罪確定へ=東京高検が無罪を求める意見書を提出したことで、ゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告の有罪立証にこだわった検察は初めて公に誤りを認めた。爪から検出された付着物の鑑定が決め手となり、7年以上に及んだ再審請求審での主張を撤回した検察。「立証に問題はなかったか検証が必要だ」。幹部はそう話した。 再審請求審で検察は、現場アパートのトイレに元被告の体液の付いたコンドームがあったことや、室内に元被告の体毛が落ちていたことなど状況証拠を重視して、有罪主張を続けた。 主張撤回の大きな要因となったのは、再審開始決定後の鑑定で被害者の爪の付着物から第三者のDNA型が検出されたことだ。「爪からの検出は、第三者の犯人から襲われた際に抵抗した痕跡ともいえる。この結果が持つ意味は大きい」(法務省関係者)。 爪の付着物のDNA型鑑定については1審以来、検察側が開示した鑑定結果の中には含まれていなかった。再審請求審でも検察は「爪に付着物はない」と主張しており、6月の再審開始決定後になってようやく鑑定に踏み切った。検察幹部は「事件当時の技術では付着物が微量で鑑定が困難だったという事情もある。ただ、再審請求審の早い段階で鑑定すべきだったという批判は甘んじて受けなくてはならない」と話す。 別の幹部は、DNA型鑑定の誤りが判明した結果、無罪となった足利事件を引き合いに出して、こう語った。「本当の反省が求められる。過ちを改めるにはばかることなかれ、だ」(12年10月18日配信『産経新聞』)。 ☆ マイナリ被告の無罪確定へ 高検が意見書提出 東電OL殺害事件=東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされたネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告(45)の再審をめぐり、東京高検は18日、元被告を犯人とするには合理的な疑いが生じたとして、無罪を求める意見書を東京高裁(小川正持裁判長)に提出した。29日に始まる再審公判は争点がなくなり、元被告の無罪が確実となった。 元被告は1審東京地裁で無罪判決を受けた後、高裁で逆転有罪となり、最高裁で確定した。再審は検察側が高裁に控訴した時点からやり直しになるため、判決で「控訴棄却」が言い渡されれば1審無罪が確定する。 高検は意見書で、被害者の手の爪から第三者のDNA型が検出された点などに触れ、元被告の無罪が相当であるとの趣旨の記載をしたとみられる。 再審請求審では、被害者の体内に残っていた体液から第三者のDNA型が検出され、犯行現場に落ちていた体毛と一致したことが判明。さらに鑑定で、このDNA型が遺体の付着物や下着からも検出された。高裁は6月、これらの鑑定結果を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と認定し、再審開始を決定した。 高検は再審開始確定後、被害者の遺留物などについて追加鑑定を実施。爪から第三者のDNA型が検出された一方、全鑑定で元被告のDNA型は検出されなかったため、有罪主張の断念を検討していた(12年10月18日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電OL事件、高検も「元被告は無罪」の意見書=東京電力女性社員殺害事件で無期懲役となったネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告(45)の再審公判に向け、東京高検は18日、「元被告を犯人とするには合理的な疑いがあり、無罪である」とする意見書を東京高裁に提出した。 検察側が無罪主張に転じたことで、公判は1回で結審し、早期に元被告の無罪が確定する見通しとなった。 意見書は、検察側が2000年の東京地裁の無罪判決を不服として行った控訴の棄却を求める内容で、29日の第1回公判で陳述される予定。再審公判で検察が無罪主張するのは極めて異例で、死刑や無期懲役が確定した戦後発生の事件では、10年に再審無罪となった足利事件以来となる。 検察側は再審請求審で、被害女性の体内に残された精液などから第三者(X)のDNA型が検出された後も有罪を主張。今年6月、東京高裁が「Xが殺害した疑いが生じた」として再審開始を決定しても、有罪主張を維持する姿勢だった(12年10月18日配信『読売新聞』)。 ☆ 東電社員殺害:マイナリさん無罪確定へ 検察が意見書提出=東京高検は12年10月18日、再審開始が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(45)について無罪を主張する意見書を東京高裁に提出した。いったん無期懲役とされたマイナリさんの無罪は、これで確実となった。 29日に始まるマイナリさんの再審は、検察側が1審無罪判決に対して控訴した時点からやり直されるため東京高裁で行われるが、検察側の「無罪主張」で争点はなくなり、即日結審するとみられる。確実視される無罪判決に対し、検察側は上訴権を放棄する方向で検討しているとみられ、上告期限(14日間)を待つことなく無罪が確定する可能性が高い。 高検は6月の再審開始決定後、被害女性の爪に付着した微物を対象に最新のDNA型鑑定を実施。女性の体内に残された「第三者」の精液の型と一致する一方、マイナリさんの型は検出されなかった。このため従来の有罪維持から一転し、無罪主張する方向で検討していた。 高検の意見書は「被告(マイナリさん)以外の人物が女性を殺害した可能性が残る」とし、「有罪主張を維持するのは困難」などとしているとみられる(12年10月18日配信『毎日新聞』)。 ☆ 検察、マイナリさんの無罪主張へ 東電社員殺害再審公判=1997年に東京都渋谷区で起きた東京電力女性社員殺害事件で、検察当局は、ゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告(45)=ネパール国籍=以外の第三者が犯人である可能性が生じたとして、東京高裁で29日に始まる再審公判で「マイナリさんは無罪」と主張する方針を固めた。再審の争点がなくなったことで、マイナリさんが無罪となることが確実となった。 検察は8月に再審開始が確定してからも「マイナリさんは有罪」との姿勢を崩していなかった。しかし、その後に実施した鑑定で、被害女性(当時39)の右手の爪の付着物からマイナリさんとは別の男性のDNA型が検出された。女性の体内に残っていた精液や、殺害現場の部屋に落ちていた体毛と同じ型だった。 東京高検はこの鑑定書を再審で証拠として調べるよう高裁に請求。まだ残っている一部の鑑定結果を踏まえても、「マイナリさんを犯人と断定するには合理的な疑いが生じた」と結論づけた(12年10月16日配信『朝日新聞』)。 ☆ [東電事件再審] 高検が異例の無罪検討=1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で無期懲役となったネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審公判を前に、東京高検がこれまでの有罪主張を撤回し、無罪を求める方向で検討を始めた。 高検が独自に行ったDNA鑑定で、被害女性の爪の付着物の型が女性の体内に残された第三者の精液の型と一致することが分かったためだ。鑑定結果を受け、高検の青沼隆之次席検事は「従前の主張の変更を含めて適切な対応を検討する」と述べた。 高検が有罪から無罪へ主張を転換する見通しとなったのは、被害女性と最後に接触した人物のものである可能性が高い爪の付着物でも第三者の存在が裏付けられ、有罪立証のよりどころを失ったためである。検察は重要な物証を軽視して鑑定を見送ってきており、失態と言わざるを得ない。 弁護団によると、女性の右手の親指と中指の爪に第三者と一致するDNA型の遺留物が付着していた。ほかの指の爪からも、第三者と考えて矛盾しないDNA型が検出されたという。 東京高裁は今年6月の再審開始決定で、女性の体内にあった精液と殺害現場に落ちていた体毛が第三者のDNA型と一致した鑑定結果から「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たり、別の男が犯人である疑いを否定できない」と判断した。これでマイナリさんが冤罪(えんざい)である公算が大きくなった。 それでも、検察側はマイナリさんの有罪維持に固執してきた。抵抗の際に皮膚などが付着したとみられる爪からマイナリさんのDNA型が検出されれば、精液や体毛の痕跡よりも殺害行為に結びつく可能性のある証拠となるからだ。 だが、有罪の主張を補強する有効打になると期待したが、結果は不発に終わった。検察側方針の全面的な見直しは当然である。 検察はマイナリさんの一審無罪に対して控訴したが、刑事訴訟法の解釈では再審での控訴取り下げはできないとされる。高裁での再審公判は今月29日から予定通り始まる見通しだ。 高検は鑑定書を弁護団に開示するとともに、高裁に証拠請求した。検察は少しでも早くマイナリさんの無罪を確定させるよう、迅速な対応が必要だ。 マイナリさんは再審開始決定と同時に刑の執行停止も認められ、既に帰国している。再審公判を開く意味は薄れつつあるとの見方もあるが、約15年間も身柄を拘束していた事実は重い。捜査の在り方など冤罪を生んだ背景の徹底究明が求められる(12年10月12日配信『南日本新聞』―「社説」)。 ☆ 検察、再審で無罪主張検討 東電女性社員殺害=東京電力女性社員殺害事件で無期懲役となったネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(45)の再審を前に、東京高検が追加鑑定した被害女性の爪の付着物から、第三者の男のDNA型が検出されたことが10日、分かった。弁護側が明らかにした。この男のDNA型は、女性の体内に残っていた体液などからも検出されており、無罪の公算が大きくなった。弁護側は「マイナリさんの無罪がさらに明白になった」としている。 検察側は鑑定結果を同日、東京高裁に証拠申請した。これまで検察側は再審でもマイナリさんの有罪を主張する方針だったが、無罪を求めることも含めて検討を始めた。 弁護側によると、検察側は再審開始決定の確定後、これまで鑑定していなかった女性の遺留物のDNA鑑定を実施。その結果、女性の右の中指と親指の爪の付着物から、女性の体内に残っていた体液と一致する男のDNA型が検出され、他の指の爪からも「男のものとみて矛盾がない」との結果が出たという。 再審請求審では、女性の体内に残っていた体液から検出されたこの男のDNA型が、現場に落ちていた体毛と一致。弁護側が新証拠として提出し、「女性と最後に接触したのは第三者で、確定判決は誤り」と主張した。 検察側は「犯行時に女性の右手などに痕跡が残るはずだが、目視可能な付着物は認められない」として、この男が関与した可能性は極めて低いとしていたが、今回の鑑定で主張のよりどころが崩れることになった。 再審を巡っては、東京高裁が12年6月、新証拠を踏まえ「第三者が被害者を殺害したのではないかとの疑いを否定できない」と判断。「鑑定結果は、確定判決に合理的な疑いを抱かせ、認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠といえる」として再審開始決定を出した。 検察側は異議を申し立てたが、東京高裁の別の部が7月、「第三者が犯人との合理的疑いを払拭できない」として、異議申し立てを棄却。検察側が特別抗告を断念し、再審開始が確定した。 青沼隆之・東京高検次席検事の話 鑑定結果についてはコメントを差し控えるが、仮にその結果が事実であれば、従来の主張の変更も含め、適切な対応を検討する(12年10月11日配信『日本経済新聞』)。 ☆ 東電社員殺害:検察「無罪主張」検討 爪の付着物は第三者=97年の東京電力女性社員殺害事件で再審開始が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ被告(45)のやり直しの公判を前に東京高検が行った追加のDNA型鑑定で、被害女性の爪の付着物の型が女性の体内に残された「第三者」の精液の型と一致した。弁護団は「絞殺時に第三者に抵抗して付着した可能性が高い」と指摘。高検は鑑定書を10月29日から東京高裁で始まる再審公判に証拠提出しており、これまでの有罪主張を転換して無罪を求める方向で検討に入ったとみられる。 鑑定結果は10月10日、弁護団が明らかにした。弁護団によると、追加の鑑定対象は保管されていた10指の爪の付着物。右手の親指と中指の付着物が第三者と一致し、他の爪の付着物も「第三者と矛盾がない」との結果だった。 東京高検の青沼隆之・次席検事は「鑑定の結果を踏まえて検察官のこれまでの主張の変更を含め、適切な対応を検討する」とコメントした。 再審請求審では、殺害現場に残された第三者の体毛のDNA型が、被害女性の体内から採取された精液の型と一致。12年6月の東京高裁の再審開始決定は「第三者が被害女性と性的関係を持った後に殺害した疑いを生じさせている」と指摘した。検察側は異議申し立てしたが、高裁の別の裁判長もこの判断を支持し、8月に再審開始が確定した。 マイナリさんは強盗殺人罪で起訴され、00年4月に東京地裁で無罪を言い渡されたが検察側が控訴。同12月に東京高裁が無期懲役を言い渡し、最高裁で確定した。このため再審公判は控訴審で行われ、1審の無罪判決の当否が審理されるが、今回の追加鑑定結果に伴い、「再審無罪」の流れは決定的となった(12年10月10日配信『毎日新聞』)。 ☆ 再審開始決定を支持 東京高裁、検察側の異議申し立て棄却=東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、東京高裁(八木正一裁判長)は12年7月31日、強盗殺人罪で無期懲役が確定したネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告(45)の再審開始決定を支持し、検察側の異議申し立てを棄却する決定をした。検察側が最高裁に特別抗告しなければ、再審開始が確定する。 東京高裁の別の裁判部が6月、「マイナリ元被告以外の第三者が被害者を殺害した疑いがある」として再審開始と、刑の執行停止を決定。これに対し、東京高検が異議を申し立て、高裁が審理していた。異議審は申し立てから決定まで1年以上かかるケースも多く、約2カ月での決定は異例。特別抗告が認められるのは決定に憲法違反などがある場合に限られ、検察側は期限の8月6日までに判断する。マイナリ元被告は釈放されて既に帰国している。(12年7月31日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電OL殺害事件で再審決定=1997年の東京電力女性社員殺害事件で、東京高裁(小川正持裁判長)は12年6月7日、強盗殺人罪で無期懲役の二審判決が確定した元飲食店従業員のネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(45)に対し、新証拠のDNA鑑定結果を基に「別の男が犯人である疑いを否定できない」として、再審開始と刑の執行停止を認める決定をした。 東京高検は、不服として異議を申し立て、刑の執行停止取り消しも求めたが退けられた。マイナリさんは逮捕から釈放され、横浜刑務所から東京入国管理局横浜支局へ移された。 釈放されたマイナリさんを乗せたとみられるワゴン車は午後5時すぎに横浜刑務所を出発し、間もなく約7キロ離れた東京入国管理局横浜支局に到着。刑務所前には大勢の報道陣が詰め掛け、一斉にカメラのフラッシュがたかれたが、車内の様子はうかがえなかった。 マイナリさんは97年に入管難民法違反(不法残留)罪で有罪が確定しており、国外への強制退去の手続きが取られ、近くネパールに帰国するとみられる。本人が不在でも、再審請求の異議審は続く。面会した弁護士によると、マイナリさんは落ち着いた様子で「言い表せないほどうれしい。弁護士、支援者の精いっぱいの努力、支援の結果です。一日も早くネパールに帰国して病気のお母さんに会いたい」と日本語で話したという。 決定は、女性の遺体内の精液からマイナリさんと違う「第三者」のDNA型を検出し、殺害現場のアパート室内にあった体毛と一致するなどした鑑定結果について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たる」と判断。「確定判決に合理的な疑いを抱かせ、有罪認定を覆すに足りる」とした。 「第三者が室内で女性と性交し、殴打して出血させ、女性のコートに血液を付着させたとみるのが自然で、その後殺害し、現金を奪ったとの疑いが生じた」と指摘。旧証拠も合わせて検討し「マイナリさん以外の男が被害者を部屋に連れ込むことは考え難い」などとした確定判決には疑問が生じた、と結論付けた。 高検は、女性が別の場所で第三者と性交し、付着した体毛が室内に持ち込まれた可能性があると主張。(1)室内にあったコンドーム内の精液のDNA型がマイナリさんと一致(2)部屋の鍵を所持‐などの点を総合的に考慮して有罪とした判決は揺るがないと反論していた。 マイナリさんは97年5月に逮捕されたが、一貫して無実を訴えていた。一審東京地裁は無罪としたが、二審東京高裁が逆転有罪を言い渡した。2003年に最高裁が上告を棄却し、二審判決が確定。マイナリさんは05年3月に再審請求した(12年6月7日配信『デイリースポーツ』)。 ☆ 東電OL事件、再審の可能性…別人DNA検出=東京都渋谷区で1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で、強盗殺人罪により無期懲役が確定したネパール国籍の元飲食店員ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44。横浜刑務所)が裁判のやり直しを求めた再審請求審で、東京高検が、被害者の体から採取された精液などのDNA鑑定を行った結果、精液は同受刑者以外の男性のもので、そのDNA型が殺害現場に残された体毛と一致したことがわかった。 「(マイナリ受刑者以外の)第三者が被害者と現場の部屋に入ったとは考えがたい」とした確定判決に誤りがあった可能性を示す新たな事実で、再審開始の公算が出てきた。
この事件でマイナリ受刑者は捜査段階から一貫して犯行を否認。同受刑者が犯人であることを直接示す証拠はなく、検察側は状況証拠を積み上げて起訴した。
2000年4月の1審・東京地裁判決(判決要旨/判決全文)は「被害者が第三者と現場にいた可能性も否定できない」として無罪としたが、同年12月の2審・東京高裁判決は逆転有罪とし、最高裁の決定(決定全文)で03年11月に確定した。 マイナリ受刑者は05年3月、東京高裁に再審を請求した。 同高裁は11年1月、弁護側からの要請を受け、現場から採取された物証についてDNA鑑定の実施を検討するよう検察側に求めた。これを受け、東京高検が精液などのDNA鑑定を専門家に依頼していた(11年7月21日配信『読売新聞』)。 ☆ 東電OL事件、受刑者に有利か…DNA一致なし=東京都渋谷区で1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)以外の第三者が殺害現場にいた可能性を示すDNA鑑定結果が出た問題で、東京高検が警察庁のDNAデータベースに照会した結果、この第三者のDNA型と一致する人物はいなかったことが分かった。 事件当日に被害者の女性とホテルで会ったとされる知人男性らとも一致しなかった。第三者が特定されなければ、第三者が犯行と無関係であることを証明するのは困難となり、マイナリ受刑者に有利に働くとみられる。 今回の鑑定では、被害者の女性の体から検出された精液がマイナリ受刑者以外の男性のもので、そのDNA型が現場に残された体毛のうちの1本と一致したことが判明。これを受け、東京高検が警察庁にDNA型の照会を依頼していた。 データベースは警察庁が04年12月に運用を開始した。警察庁によると6月末現在、過去の事件の容疑者約15万人分と、現場に残された血液や毛髪などの遺留品約3万件のDNA情報が登録されている。新たな鑑定結果は、第三者が被害者と現場に入った可能性を示すもので、「第三者が被害者と現場にいたとは考えがたい」とした2審・東京高裁の確定判決の認定に疑問が生じることになる(11年7月21日配信『読売新聞』)。 ☆ 東電女性殺害 再審も 受刑者と別のDNA=東京都渋谷区のアパートで1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で、強盗殺人罪により無期懲役が確定し、横浜刑務所に服役中のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)=ネパール国籍=の東京高裁の再審請求審で、東京高検が被害者の体内から採取された精液のDNA型鑑定を行ったところ、マイナリ受刑者のものではなく、殺害現場の部屋に残されていた体毛の一本とDNA型が一致したことが分かった。 確定判決は「第三者が被害者と現場の部屋に入ったとは考えがたい」としていた。今回、第三者が被害者と現場に入った可能性を示す新事実が判明したことで再審開始の可能性が出てきた。弁護団が東京高裁に鑑定を要請し、東京高検が専門家に依頼していた。検察側は「有罪主張は変わらない」としている。 事件では、マイナリ受刑者は捜査段階から公判まで一貫して犯行を否認。しかし、検察側は状況証拠を積み上げて起訴した。 1審地裁は、現場から受刑者以外の体毛が複数見つかっていることなどから、ほかに犯人がいる可能性を指摘し無罪とした。しかし2審東京高裁は同じ証拠に基づき無期懲役を言い渡し、最高裁も2審判決を支持した。 マイナリ受刑者は2005年3月、東京高裁に再審請求。弁護側の要請を受けた高裁が11年1月、現場から採取された精液などのDNA型鑑定をするよう高検に求め、鑑定を進めていた。当時、現場には(1)コンドームに入った精液(2)遺体の下にあった体毛4本(3)被害者の体内の精液-などが残されていた。 2審判決はマイナリ受刑者が部屋のカギを当時保管していたことや、(1)を自分のものだと認めていること、(2)のうち一本が同受刑者のDNA型と一致したことなどから、同受刑者の犯行と断定した。 (2)のうち1本は被害者のDNA型と一致し、残る2本は第三者のものだったが、判決は「第三者による犯行の可能性があるとは言えない」とした。今回の鑑定では第三者の体毛の1本と(3)のDNA型が一致した。 確定判決によると、被害者殺害の約2時間前、被害者は現場近くのホテルでアリバイのある別の男性と性交しており、この精液は証拠として重視されず、DNA型鑑定をしていなかった(11年7月21日配信『東京新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害:遺留物に別人のDNA 再審の可能性=東京都渋谷区のアパートで97年、東京電力の女性社員(当時39歳)を殺害し現金を奪ったとして、強盗殺人罪に問われ無期懲役が確定したネパール人の元飲食店従業員、ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、東京高検が実施したDNA型鑑定の結果、被害者の女性の体から採取された体液の型が、殺害現場に残された別の男性の体毛の型と一致したことが分かった。マイナリ受刑者を巡っては、最高裁が03年10月、被害者が第三者と現場の部屋に行った可能性を否定した東京高裁判決を支持する決定を出して確定したが、今回の鑑定で再審開始の可能性が出てきた。 検察側は、別の男性が犯人であることを直接示す鑑定ではないとして、有罪主張を維持するとみられる。捜査段階では女性の体から採取された体液のDNA型鑑定は行われていなかった。 事件は直接的な証拠はなく、マイナリ受刑者は捜査段階から否認。1審東京地裁は無罪を言い渡したが、2審東京高裁で逆転有罪となった。高裁は、マイナリ受刑者が現場の部屋の鍵を持っていたことや、部屋のトイレに残っていた体液と落ちていた体毛のうち1本のDNA型がマイナリ受刑者と一致したことなどを重視。被害者が第三者と部屋に入った可能性は考えにくいとして無期懲役を言い渡し、最高裁も支持した。 これに対し、弁護団は05年3月、現場にあったマイナリ受刑者の体液が事件当日より10日以上前のものであることを示す鑑定書が上告審で採用されなかったとして、これを「新証拠」として東京高裁に再審を請求した。高裁は11年1月、被害者に付着した体液などのDNA型鑑定実施を求め、東京高検が専門家に依頼していた。 再審は、有罪確定者に無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見した場合などに再度、審理を開始する。1975年の最高裁決定(白鳥決定)は明らかな証拠について「新証拠と他の全証拠を総合的に評価し、事実認定に合理的な疑いを生じさせれば足りる」との判断基準を示している。 DNA型鑑定を新証拠とした再審では、栃木県足利市で保育園女児(当時4歳)が遺体で見つかった足利事件で、無期懲役判決が確定していた菅家利和さん(64)が宇都宮地裁の再審で10年3月に無罪になっている。 ◇東電女性社員殺害事件 97年3月19日、東京都渋谷区のアパートの空き室で東京電力の女性社員(当時39歳)が絞殺体で発見された事件。隣のビルに住んでいたネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)が強盗殺人容疑で逮捕、起訴された。弁護側は無罪を主張したが、女性の首を絞めて殺害、現金約4万円を奪ったとして無期懲役が確定した。被害者が大手企業の女性総合職の草分けだったことからプライバシーに関する報道が過熱。東京法務局が一部出版社に再発防止を求める勧告を出すなど報道のあり方も問われた(11年7月21日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害:支援者ら「再審へ一歩」 検察も強気=発生から14年余りを経て、東京電力の女性社員殺害事件が新たな展開を見せた。事件当日に第三者が現場にいた可能性を示す新たなDNA型鑑定結果は、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の有罪を覆す証拠となるのか。冤罪(えんざい)だと主張する支援者たちが「再審開始に向けた大きな一歩」と期待する一方、検察幹部は「直接無罪につながるものでない」と強気の姿勢を崩さなかった。 事件発覚は97年3月19日。東京都渋谷区円山町の木造アパートの空き室で女性の絞殺体が見つかった。この部屋を借りる手続きを進め、所有者から鍵を預かっていたマイナリ受刑者が、直後から捜査線に浮上。マイナリ受刑者は同22日、無実を訴えるため警視庁渋谷署に出頭したが、翌日に不法滞在容疑で逮捕された。5月20日には不法滞在で有罪判決を受け、同日中に強盗殺人容疑で再逮捕された。 97年10月14日の東京地裁の初公判で、マイナリ受刑者は「私はいかなる女性を殺したこともなければ、お金を取ったこともない」と起訴内容を全面否認した。 東京地裁も現場のトイレから発見され、検察側が有力な物証としたマイナリ受刑者の精液が入ったコンドームについても「犯行のあった日よりも以前に残された可能性が高い」などと指摘。00年4月、「状況証拠はいずれも反対解釈の余地が残っている」と犯人性に疑問符をつけ、無罪を言い渡した。検察側は控訴した。 しかし、東京高裁は検察側が控訴審で新たに提出した女性の古い手帳の記載などを根拠に「被告の弁解は信用できず、1審判決は証拠の評価を誤った」と結論づけ、00年12月、逆転有罪の判決を言い渡した。 「神様、やってない」「神様、助けてください」。マイナリ受刑者は日本語で無実を訴えたが、最高裁も03年10月、高裁の判断を支持し、被告の上告を退けた。 「再審が開始されることに希望を持っている」。マイナリ受刑者を支援する「無実のゴビンダさんを支える会」の客野(きゃくの)美喜子事務局長は鑑定結果を聞き、興奮気味に話した。 11年3月ごろ、弁護団などから鑑定が進められていることを知らされ、横浜刑務所に収監されているマイナリ受刑者にも直接伝えた。マイナリ受刑者は「良い結果が出るように期待する」と明るい表情を浮かべ、7月15日に面会した際にも「再審が始まれば(無実を証明できる)自信がある」と繰り返していたという。客野事務局長は「この事件はマイナリ受刑者が犯人だという決定的証拠がない。新たな証拠が出た以上、裁判所は一日も早く再審開始決定を出してほしい」と訴えた。 一方、検察側は「ただちに再審事由になるかと言えば、そんなことはない」と強調した。ある検察幹部は現場に第三者がいた可能性を示唆する証拠であることを認めつつ「それで何が言えるかが問題だ」と指摘。有罪判決は崩れないとの見方を示した。別の検察幹部も「そんな大騒ぎすることじゃない」と強気の姿勢を見せた。 ◇「改めて怒りわく」…「東電OL殺人事件」の著者でノンフィクション作家の佐野眞一さんの話 初めからずっと冤罪だと思っていたし(有罪の根拠となった)DNA型鑑定もいいかげんだと著書に書いてきた。やっと再審の道が開けてよかったと思うが、有罪判決を出した東京高裁の裁判官は、どう申し開きができるのか。DNA型鑑定を証拠として犯罪者に仕立て上げるという手法は完璧に崩れた。マイナリ受刑者はいま横浜刑務所にいる。奥さんも娘さんも何度も何度もネパールから泣きの涙で日本へ通った。事件から14年の歳月を司法はどう補償するのか。改めて怒りがわく(11年7月21日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電OL殺害、遺留物から別人のDNA 再審の可能性も=東京都渋谷区で1997年に東京電力の女性社員(当時39)が殺害された事件で、強盗殺人罪による無期懲役が確定したネパール国籍の元飲食店店員、ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、東京高検が被害者の体から採取された体液をDNA鑑定した結果、殺害現場に残されたマイナリ受刑者とは別人の体毛と一致したことが21日、関係者の話で分かった。 事件当日にマイナリ受刑者以外の第三者が現場にいた可能性を示唆しており、再審開始に向けた有利な材料になる。ただ、別人が犯人であったことを直ちに示す証拠ではなく、再審開始が決定しても検察側は有罪主張を続けるとみられる。 事件でマイナリ受刑者は犯行を一貫して否認。同受刑者による犯行を直接裏付ける証拠がなかったことから、検察当局は状況証拠を積み重ねて起訴した。 2000年4月の1審・東京地裁判決は、DNA鑑定で同受刑者のものと一致した現場の室内に残留した体液について「犯行以前から放置されていた可能性が高い」と指摘。「犯人と認めるには合理的な疑問を差し挟む余地が残る」として無罪を言い渡したが、2審・東京高裁は同年12月、状況証拠を積極的に評価し逆転有罪とし、03年11月に最高裁で2審判決が確定した。同受刑者は05年3月、東京高裁に再審を請求した。 確定判決は、同受刑者が犯行現場であるアパートの空き部屋の鍵を所持しており、被害者が第三者と部屋に入ったと考えにくいことや、室内に残留した体液や体毛1本のDNA型が受刑者のものと一致したことなどから、受刑者の犯行を認定していた。 しかし、今回、弁護側の要請を受け東京高検が専門家に依頼していた新たなDNA鑑定の結果では、被害者の体から採取された体液のDNA型が室内にあった体毛のうち同受刑者とは別人の1本と一致。受刑者や既に判明している知人男性とは別の人物が、室内で被害者と接触していた可能性が浮上した。この体液のDNA鑑定は捜査段階では行われていなかった。 再審開始を認める基準について、最高裁は1975年の決定(白鳥決定)で、新証拠と確定判決が依拠した旧証拠を総合評価し、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば足りるとしている。ただ、検察関係者は「今回の鑑定結果が直ちに再審開始につながるとは受け止めていない」としている(11年7月21日配信『日本経済新聞』)。 ☆ 東電女性殺害 再審も 受刑者と別のDNA=東京都渋谷区のアパートで1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で、強盗殺人罪により無期懲役が確定し、横浜刑務所に服役中のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)=ネパール国籍=の東京高裁の再審請求審で、東京高検が被害者の体内から採取された精液のDNA型鑑定を行ったところ、マイナリ受刑者のものではなく、殺害現場の部屋に残されていた体毛の一本とDNA型が一致したことが分かった。 確定判決は「第三者が被害者と現場の部屋に入ったとは考えがたい」としていた。今回、第三者が被害者と現場に入った可能性を示す新事実が判明したことで再審開始の可能性が出てきた。弁護団が東京高裁に鑑定を要請し、東京高検が専門家に依頼していた。検察側は「有罪主張は変わらない」としている。 事件では、マイナリ受刑者は捜査段階から公判まで一貫して犯行を否認。しかし、検察側は状況証拠を積み上げて起訴した。 1審地裁は、現場から受刑者以外の体毛が複数見つかっていることなどから、ほかに犯人がいる可能性を指摘し無罪とした。しかし2審東京高裁は同じ証拠に基づき無期懲役を言い渡し、最高裁も2審判決を支持した。 マイナリ受刑者は2005年3月、東京高裁に再審請求。弁護側の要請を受けた高裁が11年1月、現場から採取された精液などのDNA型鑑定をするよう高検に求め、鑑定を進めていた。当時、現場には(1)コンドームに入った精液(2)遺体の下にあった体毛四本(3)被害者の体内の精液-などが残されていた。 2審判決はマイナリ受刑者が部屋のカギを当時保管していたことや、(1)を自分のものだと認めていること、(2)のうち一本が同受刑者のDNA型と一致したことなどから、同受刑者の犯行と断定した。 (2)のうち一本は被害者のDNA型と一致し、残る二本は第三者のものだったが判決は「第三者による犯行の可能性があるとは言えない」とした。今回の鑑定では第三者の体毛の一本と(3)のDNA型が一致した。 確定判決によると、被害者殺害の約二時間前、被害者は現場近くのホテルでアリバイのある別の男性と性交しており、この精液は証拠として重視されず、DNA型鑑定をしていなかった。 <東京電力女性社員殺害事件> 1997年3月19日、東京都渋谷区円山町のアパート室内で、東京電力の女性社員=当時(39)=の遺体が見つかり、隣のビルに住んでいた元飲食店店員ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者が強盗殺人容疑で逮捕、起訴された。確定判決によると、マイナリ受刑者は3月9日午前0時ごろ、女性の首を絞めて殺害し、現金約4万円を奪った。「東電OL殺人事件」として話題を呼び、大企業の管理職だった女性の私生活を暴く報道が過熱した。 <再審請求審> 確定した有罪判決に重大な誤りがある場合、裁判をやり直す再審を請求することができる。罪を重くすることを求める再審請求は認められない。再審請求審は、確定判決を言い渡した裁判所が行う。証拠が虚偽だった▽無罪や被告の刑を軽くする新証拠が発見された▽裁判に関わった裁判官や検察官などに職務犯罪があった-ことなどが認められれば、再審の開始が決定される。即時抗告などで決定が覆らなければ再審が始まる(11年7月21日配信『東京新聞』-「夕刊」)。 ☆ 新たな証拠急浮上 第三者がいた可能性 東電女性殺害=東京高裁がDNA型鑑定した被害者の体内に残っていた精液は、被害者が殺害される二時間ほど前にアリバイのある男性と性交していたことから、検察側からも弁護側からも、まったく注目されてこなかった。 一審判決では「被害者体内から微量の精液とO型の血液型物質が検出されていた」などと言及されている程度で、二審判決ではまったく触れられず。それが高検の鑑定結果で再審のカギを握りかねない重要証拠となった。 新たにDNA型が判明した精液は、いつの時点のものかは分かっていない。公判では同様に、犯行現場の部屋のトイレから見つかったマイナリ受刑者の精液が入ったコンドームがいつ捨てられたのかが争点となった。 検察側は、マイナリ受刑者が犯行直前に被害者とコンドームを使用して性交し、犯行に及んだとして、有力な証拠と主張。一方、弁護側は「犯行日の十日ほど前に、被害者とアパート室内で性交した時に捨てたもの」と反論した。 結局、捨てられた時期について1、2審の判断は分かれ、無罪か有罪かを決める材料のひとつとなった。 被害者の遺体の下から見つかった4本の体毛は、一本は被害者、もう一本はマイナリ受刑者のもので、残り2本は2人以外のものだった。一審は誰のものか分からない体毛があることから、真犯人がほかにいる可能性を示していると認定。2審判決では「以前にネパール人が居住し掃除が不十分であったと考えられ、第三者が犯行に及んだ可能性があることにはならない」と逆の判断をした。 体毛の一本と被害者の体内に残っていた精液のDNA型が一致するという鑑定結果は第三者が犯行現場にいた可能性を示すが、いつ被害者と性交をしたのかという、犯行日時の特定につながる決め手になるのかは不明だ。 また被害者のショルダーバッグの取っ手からは、受刑者と同じB型の血液反応も出ており、今回の鑑定で明らかになったO型の第三者のものとは異なり、裁判所がこれらの要素をどう判断するのかが注目される(11年7月21日配信『東京新聞』-「夕刊」)。 ☆ クローズアップ2011:東電社員殺害、別人DNA 14年後の鑑定、なぜ=東京電力の女性社員殺害事件で無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審は、被害女性の体内に残された精液のDNA型が別人のものと判明したことで、大きく動き出した。事件から14年が経過してから得られた鑑定結果。なぜ捜査段階ではDNA型鑑定は実施されなかったのか。鑑定結果は再審の「扉」を開く鍵となるのか。 ◇「試料微量、当時は困難」 「残っていた精液が非常に微量で、当時の科学技術では鑑定ができなかったと聞いている。できたのなら当然やっている」。マイナリ受刑者とは別人のものとされた精液のDNA型鑑定を捜査段階でしていなかったことについて、ある検察幹部は21日、こう説明した。 一方の弁護側も1、2審を通じ、DNA型鑑定を強く求めることはなかった。関係者は「マイナリさんは鑑定をするまでもなく、冤罪(えんざい)の確信があったし、実際に1審は無罪だった。2審でまさかの有罪になり、最高裁も証拠調べを受け付けなかった」と唇をかむ。 05年3月の再審請求以降、弁護団、検察、東京高裁は繰り返し協議を行い、審理の在り方を探った。攻防の焦点は被害女性の体内にあった精液などを使った新たなDNA型鑑定の実施。弁護側はそれだけでなく、女性のショルダーバッグや現場から離れた場所で見つかった定期券入れなど「思いつく、ありとあらゆる対象」(弁護団関係者)を鑑定するよう強く求めた。 11年に入り、裁判長は検察側に切り出したという。「試料(精液)が残っているのでしたら、鑑定をやってはいかがでしょうか」。これを受け入れた検察側は関西の大学関係者に最新の鑑定を依頼、7月下旬になって「別人のもの」という結果が届いたという。 捜査段階でDNA型鑑定が行われなかったことについて、弁護側の依頼を受けてマイナリ受刑者の精液に関する鑑定を上告審に提出した押田茂実・日大医学部教授は「血液型鑑定は行われたのに不自然だ。隠していると思われても仕方ない」と批判する。 これに対し、ある警察幹部は「事件当時、DNA型鑑定の条件は現在に比べて悪かった」と強調する。 警察庁が犯罪捜査に関するDNA型鑑定を始めたのは89年。だが、鑑定の精度が飛躍的に向上したのは、染色体の九つの部位を同時に検査する判定法が導入された03年からだ。先端の自動分析装置や検査試薬も取り入れ、鑑定の確度が高くなっただけでなく、微量の試料の鑑定も可能になった。今回、東京高裁がDNA型鑑定を促した背景には、鑑定技術の向上がある。 赤根敦・関西医科大教授(法医学)は「当時、試料の少なさから正確な鑑定結果を出すのは難しいと判断した可能性はある」との見方を示しつつ、「技術的に無理だったとは言い切れない。体内から採取される精液のDNA型鑑定も珍しくはなかった。結果が出なかったというならともかく、検査自体をしなかったことには疑問を感じる」と指摘している。
◇「第三者」特定厳しく 再審開始の可能性はどの程度あるのか。今回のDNA型鑑定の結果に、弁護側は「本来なら、これまでの証拠だけでも十分無罪になるべき事件。再審開始の道が大きく開けた」と喜びの声を上げる。弁護側の鑑定に協力した押田教授も「現場に残された受刑者の精液の状態のみでも、有罪判決には大いに疑いがあった。今回の鑑定結果が無罪への決定打になる」と評価した。 検察内部にも有罪が揺らぐとみる人はいる。ある中堅検事は「被害女性と現場で性交渉していた可能性が高い『第三者』は、受刑者と同じ立場。第三者のアリバイが立証できないと、確定判決を維持するのは難しいのでは」と漏らす。 逆の見方もある。検察幹部の一人は「鑑定結果が再審開始に直接結びつくとは到底考えられない」と強気の姿勢を崩さない。警察が管理するデータベースには該当するDNA型はなく、第三者の特定はかなり厳しい状況にある。被害女性は多くの男性と接点があり、第三者の素性や事件当日の具体的な行動が分からない以上、今回の鑑定結果だけをもって受刑者の無罪が明らかになったとまでは言えないという理屈だ。 また、あるベテラン刑事裁判官は「足利事件のように、今回の鑑定結果だけで即座に再審開始の可能性が高まったとは言えない。白鳥決定に基づけば、新証拠と旧証拠を総合してどう判断できるかだ」と慎重だ。 確定した高裁判決は、間接証拠を積み上げて有罪認定している。精液や毛髪だけでなく、受刑者の供述の不自然さや目撃証言、受刑者が現場の部屋の鍵を持っていたとの状況などだ。今回の鑑定結果も直接証拠とはなりえず、新たな間接証拠の一つに過ぎない。 ベテラン裁判官は「再審開始とするなら、高裁が有罪判決の根拠とした証拠の評価を一つ一つ変えないといけない。結論が出るまでに、まだまだ時間がかかるのではないか」と観測した(11年7月22日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電OL殺害事件、高検がDNA鑑定書を開示=東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、ネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)以外の第三者が殺害現場にいた可能性を示すDNA鑑定結果が出た問題で、東京高検は25日、鑑定結果をまとめた鑑定書を弁護側に開示した。 開示を受けたマイナリ受刑者の主任弁護人の神山啓史弁護士は、「1審の無罪判決を補強する鑑定結果で、直ちに再審が開始されるべきだ」と話した。 弁護側は鑑定書を精査した上で、近く東京高裁に証拠採用を求める方針。9月上旬にも、同高裁、同高検と今後の進行について協議する。神山弁護士は「検察側は証拠採用に反対するべきではない」と述べた。検察側に、マイナリ受刑者の釈放を求めることも検討するという(11年7月26日配信『読売新聞』)。 ☆ 現場の体毛3本、精液とDNA型一致 東電女性殺害=東京電力の女性社員殺害事件の再審請求審で、女性(当時39)の遺体が見つかったアパートの部屋で採取された3本の体毛の試料から、女性の体内で採取された精液と同一のDNA型が確認されたことがわかった。
無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の弁護団は25日、東京高検からこうした鑑定結果の開示を受けた。マイナリ受刑者とは違うDNA型だったことから、弁護団は別の男性がこの室内で女性とともにいたことを推測させるもので、再審開始に向けた有利な材料とみている。
確定した2審・東京高裁判決は、女性のそばに落ちていた体毛4本についてしか、血液型とDNA型鑑定の結果に触れていなかった。今回の鑑定では、これら4本を含め、室内から採取された体毛十数本について、最新の技術でDNA型鑑定を実施。その結果、1本の体毛は女性の体内に残っていた精液とDNA型が一致した。他の2本からは、精液と同じDNA型のほか、女性のDNA型も確認された。精液が毛に付着するなど混じり合った可能性もあるという。
確定判決は、マイナリ受刑者がこの部屋の鍵を持っていたことなどから、女性がマイナリ受刑者以外の男性と一緒に部屋に入った可能性を「およそ考えがたい」と指摘していた(11年7月26日配信『朝日新聞』)。 ☆ 試料不足 バッグのDNA鑑定できず 東電女性殺害=最新の技術に基づく証拠の検証が進められている東京電力社員殺害事件の再審請求審で、被害女性(当時39)のショルダーバッグの取っ手部分に付着した物質については、試料が足りずにDNA型鑑定が実施できなかったことがわかった。バッグは犯人が女性から奪おうとしたとされるもので、犯人特定の決め手になる可能性があった。
バッグの鑑定は、無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の弁護団が求めていた。 確定した2審・東京高裁判決は、東京都渋谷区のアパートの部屋で、マイナリ受刑者が女性と性交した後、女性の首を絞めて殺害し、バッグ内の財布から現金約4万円を奪ったと認定。殺害直前にバッグを奪おうとした際、女性が抵抗したため、取っ手がちぎれたとしていた。
捜査時にこの取っ手部分に付着した物質を分析したところ、血液型はマイナリ受刑者と同じB型が確認された。最新の技術でこの付着物のDNA型が判明すれば決め手になる可能性があると検察側、弁護側ともにみていたが、2審までの鑑定で試料は使い切っており、新たな鑑定は実現しなかった(11年7月26日配信『朝日新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害:バッグ付着物DNA鑑定できず=東京電力の女性社員殺害事件(97年)の再審請求審で、東京高検が実施し、ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)=無期懲役が確定=の弁護側に開示されたDNA型鑑定結果のうち、被害女性(当時39歳)が所持していたショルダーバッグの取っ手の付着物を鑑定できなかったことが分かった。関係者によると、今回の鑑定対象は女性の財布の付着物など20種類以上に及んだが、女性の体内から採取した精液の型が受刑者と異なったとするものを除き、確定判決に影響を与える可能性がある結果は得られなかったとみられる。 このうち、現場に残されていた取っ手の付着物は、犯人が女性からバッグを奪おうとした際、付いたとみられ、捜査段階の鑑定では血液型はB型とされた。マイナリ受刑者もB型だったことから犯人に結びつく状況証拠ともされた。しかし、今回、残った試料が不十分で特定には至らなかったとみられる。 高検は25日、100ページ以上の鑑定結果を弁護側に開示。弁護側は精液のDNA型がマイナリ受刑者と一致しなかった結果から「殺害現場に『第三者』がいた可能性を示しており、再審を開始する十分な新証拠」として、鑑定結果の証拠採用を求める方針(11年7月26日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電女性殺害 室内の体毛とも一致=1997年3月に起きた東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、被害者の女性の遺体の下にあった体毛とは別に、現場のアパート室内に残されていた2本の体毛から、女性の体内に残された精液と同じDNA型が検出されていたことが分かった。計3本の体毛のDNA型は、いずれもネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者とは別のもの。 現場の室内から体内の精液とDNA型が一致する体毛が新たに2本見つかったことで、第三者が現場にいた可能性が高まった。 関係者によると、遺体発見時に室内には少なくとも16本の体毛が残されていた。このうち4本が遺体の下にあり、東京高検の鑑定で1本が体内の精液とDNA型が一致した。新たに一致していたことが判明したのは、遺体の下の体毛とは別の2本。いずれも女性のDNA型も検出されており、女性の体液が体毛に付着した可能性があるという。 弁護側は「鑑定結果は第三者が室内に入った可能性を示しており、マイナリ受刑者の無罪を裏付けている」とみている。 一方、検察側は、マイナリ受刑者が部屋の鍵を持っていたことや目撃情報などから有罪主張を変えない方針だ(11年7月26日配信『東京新聞』)。 ☆ 体毛3本から「第三者」のDNA 東電OL殺害、弁護団「別人が犯人の可能性」=東京電力の女性社員殺害事件の再審請求審で、ネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者=強盗殺人罪で無期懲役が確定=の弁護団が26日、東京・霞が関で記者会見し、殺害現場に残された体毛3本から、女性の体内で検出された体液と同一のDNA型が確認されたと明らかにした。 このDNA型はマイナリ受刑者以外の第三者の男性のもので、弁護団は「マイナリ受刑者に無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と指摘。再審開始決定を求め、同日、再審請求補充書を東京高裁に提出した。 鑑定では、体毛1本がマイナリ受刑者以外の第三者のDNA型と完全に一致したことが判明していたが、弁護団によると、ほかの2本からはこの第三者と女性のDNA型が両方検出された。弁護団は「いずれにしても女性が殺害現場でこの第三者と性交した可能性が高い」と評価している。 一方、検察幹部は「女性が殺害現場以外で男性と関係を持ち、体毛が衣服に付着した可能性もあり、受刑者の犯人性を否定するものではない」とみている。 弁護団によると、再審請求審では体毛18本のほか、トイレに捨てられた体液や女性の定期入れの付着物など計42の試料のDNA鑑定が行われた(11年7月26日配信『産経新聞』)。 ☆ 新鑑定結果を高裁に提出 東電社員殺害事件で弁護団=東京電力の女性社員殺害事件の再審請求審で、無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者の弁護団は26日、東京高裁(小川正持裁判長)に対し、最新の技術を使って東京高検が実施したDNA型鑑定の結果を証拠として提出した。「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠だ」として、速やかに調べて再審を開始する決定を出すよう求めた。
弁護団はあわせて、東京高検に対し、横浜刑務所にいるマイナリ受刑者の刑の執行停止と、身柄の釈放を申し入れた(11年7月26日配信『朝日新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害:体毛2本、別人DNA 受刑者釈放請求=東京電力の女性社員殺害事件の再審請求審で、東京高検が実施したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者のDNA型鑑定について、弁護団は26日、現場の部屋に残された14本の体毛のうち新たに2本から被害女性の体内に残っていた精液と同じ型のDNAが検出されたことを明らかにした。受刑者とは別の型で、弁護側は「第三者が犯人である可能性が極めて高い」として同日、鑑定書を新証拠として東京高裁に提出するとともに、東京高検に受刑者の釈放を請求した。 弁護団によると、鑑定書は23日付で200ページ余り。鑑定対象は精液、現場のアパート室内にあった体毛、女性のショルダーバッグの付着物など42点。 鑑定については、これまでに室内で発見された体毛1本が、精液と同じDNA型であることが明らかになっていたが、さらに2本から同じ型が検出されたことから、弁護団は「第三者が現場に入り込んで犯行に及んだ可能性があることにはならないとした確定判決を覆す新証拠」と評価した。 また、ショルダーバッグの取っ手から検出され、捜査段階では血液型がB型と判断された付着物は検察側が「試料を保管していない」とした。裁判では付着物がB型の受刑者とつながる証拠とされていた。このため弁護団は検察側に釈明を求めたが、同様の回答しか得られなかったという。 確定判決などによると、被害女性は事件当日の97年3月8日午後7時ごろ、JR渋谷駅で知人の男性と行動を共にした後、午後10時16分ごろ東京都渋谷区円山町で別れた。午後10時半過ぎに近くを別の男性と歩いているところを目撃されたが、この男性は特定されていない。そして午後11時半ごろに「東南アジア系の男性」と一緒に現場アパートの通路に入ったとの目撃情報があり、確定判決はこれを受刑者と認定した。 東京高裁と弁護団、東京高検の次回三者協議は8月10日の予定だが、検察側は受刑者が部屋の鍵を持っていたなどの状況証拠から、有罪主張を変えない方針だ。 「無実のゴビンダさんを支える会」によると、マイナリ受刑者には26日、面会した同会メンバーから検察側が鑑定書を開示したことが伝えられた。受刑者は両手でガッツポーズをし、「14年も人生を無駄にされた。すぐに釈放してほしい。自分は絶対勝利する」と話したという(11年7月27日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東京電力OL殺害、DNA鑑定書を弁護側が提出=東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、ネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者の弁護団は26日、マイナリ受刑者以外の第三者が殺害現場にいた可能性を示すDNA鑑定結果が「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠にあたる」として、鑑定書を東京高裁に証拠として提出した。 また、検察側に対し、マイナリ受刑者の刑の執行を停止し、釈放するよう求めた。8月10日に行われる裁判所、検察、弁護側の3者協議で、鑑定書の評価を巡る主張や今後の進行についての協議が行われる見通し。 弁護団によると、鑑定書は約200ページ。計42点の物証のDNA鑑定の結果がまとめられている。 このうち、弁護団が無罪の根拠としたのは、被害者の体から採取された精液のDNA型がマイナリ受刑者以外の男性のもので、殺害現場に残された体毛の1本と一致したとする鑑定結果。主任弁護人の神山啓史弁護士は記者会見で、この鑑定結果が「被害者が第三者と現場にいたとは考えがたい」とした確定判決(2審)の認定を覆すもので、「第三者が犯人である強い可能性を示す証拠だ」と述べた(11年7月27日配信『読売新聞』)。 ☆ 東電OL殺害 見送られた「決定的証拠」の再鑑定=捜査ミス隠し!? ●“真犯人”の皮膚片をなぜ重要視しないのか 「決定的証拠」は鑑定対象から外れていた。事件発生から14年もたった東電OL殺害事件の再審請求で、新たなDNA鑑定の結果が開示された。被害女性の膣内に残っていた精液のDNA型が殺害現場に落ちていたゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者とは別の男性の体毛と一致。「第三者」の存在が浮上する結果となったが、“真犯人”に結びつく重要な証拠の鑑定が抜け落ちているのだ。 被害女性のショルダーバッグの取っ手に付着した皮膚片のDNA鑑定の結果である。 皮膚片は真犯人が女性からバッグを奪おうとした際についたとみられ、犯人特定の決め手となる重大な証拠だ。しかし、鑑定を実施した東京高検は「2審までの鑑定で試料を使い切っており、新たな鑑定は実現できなかった」(高検関係者)と説明するのである。 「捜査段階で帝京大の石山昱夫名誉教授が当局の依頼で皮膚片を鑑定したところ、血液型はマイナリと同じB型が確認されました。しかし、ミトコンドリアDNA型まで細かく解析すると、マイナリ受刑者とは別の型が検出された。しかも、現場に残っていたマイナリ以外のB型の陰毛とは型が一致したのです。ところが、この鑑定の詳細は公判段階では証拠開示されず、検察は論告でもバッグの取っ手の分析について一切触れませんでした」(東電OL殺害事件の取材を続けるジャーナリスト・永島雪夫氏) 捜査当局は皮膚片の存在について、あえて避けているように見える。今回も鑑定が見送られれば、なおさらだ。 「当局は“マイナリありき”の見込み捜査に陥っていた可能性が高い。事件発生後に被害女性の定期券が東京・巣鴨で発見されました。マイナリの土地勘のない場所にもかかわらず、第三者の可能性を潰す捜査を十分に行っていない。明らかな初動捜査のミスです。今回の鑑定結果だけでは『マイナリ以外の第三者が現場にいた』という可能性は浮上しても、真犯人を特定する決定的な結果とは言えません。被害女性が浮かばれませんよ」(永島氏) 検察側はこの期に及んで「有罪判決は崩れない」と強がっている。だったら、すべての証拠の再鑑定をやったらどうだ(11年7月27日配信『日刊ゲンダイ』)。 ☆ 新鑑定でどうなる? 東電OL殺害事件=被害者が殺害されたアパートを調べる鑑識課員 東京電力の女性社員殺害事件で、無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者が裁判のやり直しを求めた再審請求審の行方が注目されている。弁護団は、被害者がマイナリ受刑者以外の男性と殺害現場にいた可能性を示す鑑定結果を東京高裁に提出した。真犯人は別に存在するのか-。新たな鑑定結果を受けても、事件はなお不透明な部分が多い。 男性Xの物証 確定判決によると、事件当夜の被害者の行動はこうだ。 被害者は97年3月8日午後7時ごろから知人男性とホテルで性交した後、同10時16分ごろに東京都渋谷区内で別れた。この知人男性にはアリバイがある。その後、同11時半ごろ、男性と一緒にアパートに入るところを目撃された。 確定判決は「東南アジア系」という目撃証言などから、この男性をマイナリ受刑者と認定。マイナリ受刑者がアパート内で被害者と性交した後、翌9日午前零時ごろ、首を絞めて殺害し、ショルダーバッグの財布から4万円を奪ったとした。 だが、今回行われた再審請求審のDNA鑑定で、被害者の体内に残された体液が、マイナリ受刑者(血液型B型)以外の男性X(同O型)のものであることが新たに判明。 また、遺体近くにあった体毛4本と、殺害された部屋に残された体毛10本の鑑定の結果、1本が完全に男性Xと一致。2本が被害者と男性Xの型が混合することが分かった。被害者の体毛に男性Xの体液が付着したか、男性Xの体毛に被害者の体液がついた可能性があるという。 主張は対立 鑑定結果を受け、弁護団は、男性Xが「犯人である可能性が極めて高い」と主張している。 弁護団が最重視するのは、被害者の体内の体液や殺害現場の体毛が、男性Xのものである点だ。 またマイナリ受刑者が犯人だとすると、被害者は知人男性と別れた10時16分ごろから11時半ごろの間に、男性Xとアパート以外の場所で性交したことになるが、「時間的余裕はない」と主張。男性Xとアパートで性交したと考えるのが自然だとしている。 これに対し、検察側は、被害者が日常的に複数の男性と関係を持っていたことから、男性Xと被害者がアパート以外で性交したとの見方は可能と判断。男性Xの体毛は外で性交した際に女性の衣服に付着し、アパートで発見されたとみている。 バッグ、カギ… 一方、マイナリ受刑者に不利な証拠も少なくない。 被害者のショルダーバッグの破損した取っ手部分からは、マイナリ受刑者と同じB型の血液型物質が検出された。殺害前の目撃証言から、取っ手部分はバッグを奪おうとして殺害直前にちぎれた可能性が高く、O型の男性Xが犯人とすると不自然だ。 また現場からは、マイナリ受刑者の体毛も2本見つかり、トイレに捨てられていたコンドームの中の体液もマイナリ受刑者と一致。マイナリ受刑者は事件以前のものだと主張したが、交友記録を詳細に記した被害者の手帳には、マイナリ受刑者の供述内容と一致する記載がなかった。 こうした点に加え、検察幹部は「空室だったアパートの鍵をマイナリ受刑者が持っていた状況や、アパートに入る際の目撃証言などもあり、事実認定が揺らぐことはない」と強気の姿勢を崩していない。 被害者の定期券入れがマイナリ受刑者には土地勘のない民家敷地内で発見されるなど、解明されてない部分も多い事件。再審開始はどう判断されるのか。 元東京地検公安部長の若狭勝弁護士は「DNA鑑定結果からは被害者が最後に会った人物は特定できないが、マイナリ受刑者の後に第三者が被害者と性交した可能性は残る」と指摘。その上で「再審開始決定の可能性は高く、再審では『疑わしきは被告人の利益に』という刑事司法の原則に基づいた判断がなされるのではないか」と話した(11年7月31日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電OL殺害のDNA鑑定、検察側は意見保留=東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、ネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者を無期懲役とした確定判決を揺るがす新たなDNA鑑定結果が判明して以降、初となる3者協議が10日、東京高裁(小川正持裁判長)で開かれた。 高裁は東京高検に対し、DNA鑑定の信用性を争うかどうか意見を明らかにするよう求めたが、高検は「検討中」として保留した。 このため高裁は意見を早急に示すよう要求、高検が1週間以内に、意見を表明する時期を伝えることになった。高検幹部は取材に、「専門的な鑑定書を短期間で評価するのは難しいが、9月中には意見を出せるようにしたい」と話した。 一方、弁護側は協議で、9月末までに改めて再審開始決定を求める意見書を提出する意向を示した。協議後、主任弁護人の神山啓史弁護士は「検察側は主張を早急に明らかにすべきだ」と述べた。次回協議は10月5日に行われる(11年8月10日配信『読売新聞』)。 ☆ 「別人の血液型」検出、開示せず…東電OL事件=東京電力女性社員殺害事件で無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、捜査当局が事件当時、女性の胸からマイナリ受刑者とは異なる血液型がO型の唾液を検出しながら、弁護側に証拠開示していなかったことがわかった。 捜査当局は、マイナリ受刑者とは別の人物が犯行時間帯近くに女性と会っていた可能性を示す証拠を把握しながら、その存在を伏せていたことになり、当時の対応が問題となりそうだ。
東京高検は2日までに、公判段階で弁護側に開示されていなかった、この唾液を含む物証約40点のDNA鑑定を実施する方針を東京高裁と弁護側に伝えた。
関係者によると、唾液は事件発生直後に採取され、血液型が判明していたが、検察側は弁護側に開示せず、証拠申請しなかった。微量だったため、DNA鑑定は行われなかったという(11年9月4日配信『読売新聞』)。 ☆ 東電女性殺害 首に皮膚片?付着=1997年3月に起きた東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、絞殺された女性の首に付着していた微物が検察庁に保管されていたことが分かった。東京高検は、犯人が首を絞めたときに、手のひらの皮膚片が付着した可能性があるとみて、東京高裁にDNA型鑑定をしたい意向を伝え、協議している。鑑定結果が得られれば、再審が必要かどうか審理している高裁の判断に、大きな影響を与えるとみられる。 再審請求しているのは、強盗殺人罪で無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)。女性の首の微物は事件当時の技術ではDNA型鑑定できなかったという。検察幹部は「結果が冤罪(えんざい)を主張する弁護側に有利になる可能性があるとしても、鑑定すべきだと判断した」と話している。 高検は11年1月に高裁の要請を受け、犯行現場の遺留物など42点を鑑定した。対象は捜査段階で鑑定したり、弁護側から要請のあったりしたもので、首の微物はいずれにも該当せず、鑑定が行われていなかった。 42点の鑑定の結果、犯行現場のアパート室内に残された体毛3本から、女性の体内から採取した精液と同じDNA型が検出され、マイナリ受刑者のものとは異なっていたことが判明した。 弁護側は「このDNA型の男が事件当夜、犯行現場で被害女性と性交したと考えるのが自然で、犯人である可能性が高い」と主張している(11年9月4日配信『東京新聞』)。 ☆ 東電女性社員殺害:新試料をDNA鑑定 東京高検が検討=東京電力の女性社員殺害事件(97年)で無期懲役が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、東京高検が被害者の所持品などから新たなDNA型鑑定の実施を検討していることが、関係者の話で分かった。実施されれば、請求審の判断のスケジュールに大きく影響を与えるとみられる。 関係者によると、高検が検討しているのは被害者の所持品の付着物など十数点。高検は既に11年3月、被害者の体内にあった精液、現場のアパート室内にあった体毛、女性のショルダーバッグの付着物など42点のDNA型鑑定を依頼。精液からマイナリ受刑者とは別人のDNA型が検出されたなどとする鑑定結果を得て、7月に弁護団に結果を開示している。
弁護団はこれを受け、「第三者が犯人である可能性が極めて高い」として、東京高裁に鑑定書を新証拠として提出。高検はこの鑑定結果に対する意見書を9月16日までに、東京高裁と弁護団に提出すると伝えていた。 今回、高検が新たに検討している鑑定対象は前回の42点とは別のものとみられる(11年9月4日配信『毎日新聞』)。 ☆ 非開示物証を追加鑑定へ 女性社員殺害で東京高検=東京電力の女性社員殺害事件の再審請求審で、東京高検は、被害者の女性(当時39)の遺体や衣服への付着物など約40点の物証について、追加のDNA型鑑定を実施する意向を固めた。2日までに、東京高裁(小川正持裁判長)と、無期懲役が確定しているネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の弁護団に伝えた。 関係者によると、追加鑑定の対象は、1997年3月に東京都渋谷区のアパートで女性の遺体が発見された直後に、女性の首や胸、衣服から採取された付着物など。「最新の技術でできる限りの鑑定をしてみるべきだ」として、有罪の立証に不要だと考えて弁護側に開示してこなかった物証を対象にしているという。
対象には、女性の胸に付着していた唾液(だえき)も含まれている。唾液の血液型はO型で、B型のマイナリ受刑者と異なっていた。 確定している有罪判決は、女性が同年3月8日の事件当夜、血液型O型の知人男性と性行為をし、別れた後にマイナリ受刑者に殺害されたと認定していた。知人男性は「性行為後に女性はシャワーを浴びた」と捜査段階で供述。追加の鑑定の結果によっては、別の血液型O型の男性と接触していた可能性も出てくる(11年9月5日配信『朝日新聞』)。 ☆ 弁護側、唾液鑑定結果を証拠申請へ 「別人の血液型」検出 東電社員殺害事件=東京電力の女性社員殺害事件で、強盗殺人罪に問われ、無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、東京高検、弁護団を交えた三者協議が9日、東京高裁で開かれた。弁護団は、遺体から唾液反応が検出され、その血液型がO型の可能性が高いとする鑑定書を新たに証拠として申請する意向を示した。 東京高検は、唾液の鑑定書などこれまで開示していなかった証拠計42点について、新たに鑑定を行う方針を固め、8日までに弁護団に開示していた。 弁護団によると、鑑定は平成9年に実施され、遺体の口と左右の胸の計3カ所で唾液反応があった。鑑定書は、唾液が微量で被害者(血液型O型)の体液と混在している可能性もあると指摘。その上で「唾液反応が出た3カ所ともO型と思料されるが、断定はできない」と結論づけている。 弁護団は「マイナリ受刑者の血液型であるB型が検出されていない以上、犯人性を否定するものだ」と主張している。 また、開示された42点のうち、東京高検と弁護団で合意が得られた証拠から、順次鑑定を行う方向で調整を進める(11年9月9日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電OL事件、「O型唾液」提出へ 弁護団、受刑者と異なる型=東京都渋谷区で1997年、東京電力の女性社員(当時39)が殺害された事件で強盗殺人罪で無期懲役が確定したネパール国籍、ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、弁護団は9日、受刑者と異なる血液型O型の唾液が被害者から検出されたとの検察側鑑定書を、新証拠として東京高裁に提出する考えを示した。 唾液は事件当時の捜査で被害者の口と左右の胸から検出されたが、これまで弁護側に開示されておらず、その他の新たな物証とともに9月になって初めて東京高検が開示した。弁護団は「マイナリ受刑者のB型が検出されていないことが重要だ」としている。 開示された新物証は計42点。唾液のほか、被害者の首回りの微物を採取するために警察が巻いたテープなどが含まれるという。検察側はこれらについて新たにDNA鑑定を求めており、裁判所を交えたこの日の3者協議で、弁護側と検察側が合意したものから順次鑑定する方向になった。唾液とテープは実施される公算が大きい。 協議後に記者会見した弁護団は「(O型唾液が検出されたとの)鑑定結果があったのに、検察側が隠していたのは問題だ」などと批判した(11年9月9日配信『日本経済新聞』)。 ☆ 無実の夫連れて帰りたい」 東電OL殺害事件 受刑者家族が来日=東京電力の女性社員殺害事件で、再審請求審が行われているネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)=強盗殺人罪で無期懲役確定=の妻、ラダさん(41)と兄、インドラさん(54)が11日、成田空港に到着した。受刑者以外の第三者が殺害現場にいた可能性を示すDNA鑑定結果が明らかになって以降、家族が来日するのは初めて。 97年の事件後、ラダさんは9回目、インドラさんは3回目の来日。ラダさんは半年前の3月11日にも来日したが、東日本大震災の影響で予定を繰り上げ帰国していた。 ラダさんは報道陣の取材に対し、「これまでは不安ばかりが先行したが、この半年で大きく状況が変わり、希望を持って日本に来た」と笑顔を見せ、「無実の夫を一日も早くネパールに連れて帰りたい」と訴えていた。 2人は21日まで滞在し、マイナリ受刑者との面会や東京高検への釈放要請などを予定している(11年9月11日配信『産経新聞』)。 ☆ 東京電力女性社員殺害:液体鑑定書、新証拠に 弁護団が提出意向--再審請求審=東京電力の女性社員殺害事件(97年)で無期懲役が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、弁護団は9日、事件当時に被害者の胸部から検出された唾液のような液体の血液型鑑定書を新証拠として東京高裁に提出する意向を示した。弁護団は「受刑者の血液型(B)が検出されていないことは明らかで、再審を開始すべき証拠」としている。 東京高検は8日、これまで開示していなかった唾液のような液体や首の付着物など計42点の試料と、その血液型の鑑定書を弁護団に開示。9日にあった高裁、高検、弁護側の3者協議で、高検はこれらのDNA型鑑定を追加実施する方針を示した。弁護団は一部の実施に同意したが、どの試料を鑑定するかの結論は先送りになった。 協議後に会見した弁護団によると、開示された鑑定書は、事件当時に警視庁科学捜査研究所が実施した、被害者の口や左右の乳房に付着していた唾液のような液体の血液型鑑定書。いずれもO型の反応があったが、被害者本人(O)の体液も混じっていると考えられるため「血液型は必ずしもO型と断定できない」と結論付けている。ただしO型だった場合、唾液のような液体は被害者か第三者のものの可能性がある。 高検はDNA型鑑定を実施し弁護側に開示。事件当日に殺害現場で受刑者とは違うO型の第三者が被害者と接触した可能性が浮上している(11年9月10日配信『毎日新聞』)。 ☆ 「もう泣くのはやめよう」 東電OL殺害事件、受刑者が来日家族と面会 横浜刑務所=東京電力の女性社員殺害事件で、再審請求審が行われているネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)=強盗殺人罪で無期懲役確定=の妻、ラダさん(41)と兄、インドラさん(54)が来日し、12日午前、横浜市港南区の横浜刑務所でマイナリ受刑者と面会した。 受刑者以外の第三者が殺害現場にいた可能性を示すDNA鑑定結果が明らかになって以降、家族が来日するのは初めて。 約15分間の面会の冒頭、マイナリ受刑者は2人に「近いうちに釈放されるから、もう泣いたり悲しんだりするのはやめよう」と声をかけたという。面会後、ラダさんは「(マイナリ受刑者の)表情は深刻だったが、時折笑みも浮かんでいた」とほっとした様子で、「一日も早く家族の元に戻ってきてほしい」と訴えていた。 97年の事件後、ラダさんは9回目、インドラさんは3回目の来日。ラダさんは半年前の3月11日にも来日したが、東日本大震災の影響で予定を繰り上げ帰国していた。2人は21日まで滞在し、マイナリ受刑者との面会や東京高検への釈放要請などを予定している(11年1月12日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電OL殺害、「別人の唾液」新証拠として提出=弁護側は12日、女性の胸に同受刑者とは異なるO型の血液型の唾液が付着していたことを示す血液型鑑定書を「無罪とすべき新証拠」として東京高裁に提出した。 弁護側は「唾液からマイナリ受刑者のB型が検出されなかったことは、犯人性に疑いを生じさせる重要な状況証拠だ」としている。 この唾液は捜査段階で検出されていたが、検察側は「誰の唾液か特定できず、証拠としての価値は乏しい」などとして、公判で証拠開示していなかった。東京高検は唾液を含む不開示証拠42点についてDNA鑑定を追加で行う方針だが、弁護側は鑑定の対象を絞り込むよう求めている(11年9月12日配信『読売新聞』)。 ☆ 東電OL殺害で「新証拠」提出 「別人の唾液」鑑定書=東京電力の女性社員殺害事件で、強盗殺人罪に問われ、無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、弁護団は12日、遺体の胸に付着した唾液(だえき)のような液体の血液型がO型である可能性が高いとする鑑定書を、新証拠として東京高裁に提出した。 東京高検は、唾液の鑑定書や被害者の首回りの微物を採取するために警察が巻いたテープなど、これまで開示していなかった証拠計42点を弁護団に開示。高検と弁護団で合意が得られた証拠から、順次鑑定を行う方向で調整が進められている。 鑑定では、遺体の口と左右の胸の計3カ所から唾液反応が検出された。鑑定書は、唾液が微量で被害者(血液型O型)の体液と混在している可能性もあると指摘。その上で「いずれもO型と思料されるが、断定はできない」と結論づけている。 弁護団は「マイナリ受刑者の血液型であるB型が検出されていない以上、犯人性を否定するものだ」と主張している(11年9月12日配信『産経新聞』)。 ☆ 「ゴビンダを取り戻そう」東電OL殺害事件、支援者集会に「足利」「布川」の3氏ら集結=東京電力の女性社員殺害事件で、再審請求審が行われているネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)=強盗殺人罪で無期懲役確定=の支援者集会が9月14日、東京都文京区の区民センターで開かれた。集会には、いずれも再審で無罪が確定した「足利事件」の菅家利和さん(64)、「布川事件」の桜井昌司さん(64)、杉山卓男さん(65)らが参加。出席者に活動支援を訴えた。 受刑者以外の第三者が殺害現場にいた可能性を示すDNA鑑定結果が明らかになって以降、初めて開かれた支援者集会で、例年の倍にあたる約150人が参加した。桜井さんは3年前にマイナリ受刑者と面会した経験を振り返り、「『いつか必ず勝てる日が来る』と励ましたが、ついに状況が変わった」と強調。「一日も早くゴビンダを取り戻しましょう」と訴えた。 また、来日中のマイナリ受刑者の妻、ラダさん(41)と兄、インドラさん(54)もあいさつし、「ゴビンダの人生はあるグループの人々にめちゃくちゃにされたが、同じ国の別のグループの人々によって救われた」と支援活動への感謝の言葉を述べた(11年9月14日配信『産経新聞』)。 ☆ 高検が鑑定結果への意見書提出「有罪揺るがず」 東電社員殺害事件=東京電力の女性社員殺害事件で強盗殺人罪に問われ、無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の再審請求審で、東京高検は16日、マイナリ受刑者と異なる男性のDNA型が殺害現場から検出された鑑定結果について「別人が犯人であることを直接示す物証ではない」とする意見書を東京高裁と弁護側に提出した。 検察側によると、鑑定結果の信用性については争わないが、意見書では「有罪の確定判決は揺るがない」として、有罪主張を続けている。 鑑定は検察側が実施し、弁護団に開示。被害女性=当時(39)=の体内から採取した体液と、犯行現場に残されたマイナリ受刑者以外の体毛とのDNA型が一致した。弁護側は「別の男性が真犯人である可能性が高いことを示し、再審を開始するべき新証拠」などと主張している。 一方、東京高検が新たに弁護団に開示し、鑑定する意向を示していた別の42点の鑑定については、弁護団の意向を受け、女性の胸に付着していた唾液のような液体や、被害者の首回りの微物採取に使用されたテープなどから優先的に実施することが決まった。検察側は「数日のうちには開始される」としている(11年9月16日配信『産経新聞』)。 ☆ 東京高検は、弁護側が「新証拠」として提出した鑑定結果をふまえても「確定判決は揺るがない」とする意見書をまとめた。9月16日に東京高裁に提出し、無期懲役が確定したゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)=ネパール国籍=は有罪との主張を続ける方針だ。 鑑定では、被害女性(当時39)の体内から採取した精液と、犯行現場のアパート室内で見つかった体毛のDNA型が一致。受刑者の型とは異なっており、「第三者が犯行現場にいた可能性がある」と弁護団は主張している。
高検は、体毛は女性の衣服などに付着していて落ちた可能性があるとみている。「室内に入れたのはカギを持っていた受刑者だけで、他の男性と被害女性が室内に入ったとは考えにくい」とした確定判決の認定は、鑑定によっても変わらないと主張する(11年9月17日配信『朝日新聞』)。 ☆ 弁護側が最終意見書提出=「早期の再審開始を」-東電OL殺害=東京電力女性社員殺害事件の再審請求審で、ネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(44)の弁護団は30日、早期の再審開始決定を求める最終意見書を東京高裁に提出した。 関係者によると、意見書で弁護側は、被害者の体から採取された精液と現場に残された別人の体毛のDNA型が一致するとした鑑定結果や、被害者の口や胸から検出された唾液とみられる体液の血液型がマイナリ受刑者と異なるとした鑑定結果を新証拠として挙げ、現場にいた第三者が犯人の可能性が高いとした(11年9月30日配信『時事通信』)。 ☆ 東電OL殺害、体表にも「別人DNA」3点=東京電力女性社員殺害事件で無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(45)の再審請求審で、東京高検が追加で行った5点の物証のDNA鑑定の結果、いずれもマイナリ受刑者とは一致せず、被害女性の右胸から検出された唾液など3点は、女性の体内から採取された同受刑者以外の第三者(X)の精液と一致したことが21日、わかった。 殺害現場に残された体毛のDNA型とも一致しており、女性が事件当日、この第三者と現場で接触した可能性がさらに高まったことになる。再審開始の判断に大きな影響を与えそうだ。
高検から同日、追加鑑定の結果を伝えられた弁護団は記者会見で、「マイナリ受刑者以外の人物の犯行という弁護側の主張を裏付ける結果で、速やかに再審が行われるべきだ」と述べた。
高検が3月~7月に実施した鑑定では、被害者の体内から採取された精液のDNA型がマイナリ受刑者以外のもので、現場のアパート室内に残された体毛と一致した。また、被害者の胸から、マイナリ受刑者(血液型B型)とは異なるO型の唾液が捜査段階で検出されていたことも判明。弁護側は、これらの鑑定結果を「無罪とすべき新証拠」として高裁に提出している。 今回の追加鑑定は、公判段階で開示されなかった42点の物証のうち、15点について優先して実施されており、この日は、女性の体の表面からガーゼで採取した5点の付着物のDNA鑑定結果が弁護側に開示された。 弁護側によると、女性の右胸に付着していた唾液と、下半身の2か所から採取された付着物のDNA型が、第三者の精液や体毛のDNA型と一致。女性が事件当日に接触した血液型O型の知人男性のDNA型とも異なっていた(11年10月22日配信『読売新聞』)。 ☆ 東京電力女性社員殺害:右胸など付着物DNA型、第三者と一致 高検、鑑定一部開示=東京電力の女性社員殺害事件(97年)で無期懲役が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(45)の再審請求審で、東京高検が実施したDNA型鑑定の結果が一部開示され、被害者の右胸部や陰部、肛門周辺から採取された付着物のDNA型が、被害者の体内に残っていた第三者の精液の型とほぼ一致したことが21日、分かった。これらの付着物からマイナリ受刑者の型は検出されなかった。高検から結果を開示された弁護団が同日明らかにした。
弁護団によると、今回結果が出たのは、(1)口や唇の周辺(2)左胸部周辺(3)右胸部周辺(4)陰部(5)肛門周辺--の付着物5点。弁護団は(4)(5)については「第三者の型とおおむね一致した」とし、(3)については「別の鑑定方法で一致した」という。(1)と(2)については「型がはっきりしない部分もあり評価は控えたい」とした。
再審請求審では、東京高検が9月、被害者の胸部に付着した唾液とみられる液体や陰部、肛門の周辺の付着物、首の微物などの試料計42点を新たに弁護団に開示。右胸部の付着物は、捜査段階の鑑定でもマイナリ受刑者の血液型(B)の反応は出ておらず、弁護団は開示を受け「受刑者の犯人性に疑いを生じさせる新しい重要証拠」とする意見を東京高裁に提出した。42点のうち弁護団が同意した15点について、東京高検が先行して鑑定を実施。今回の結果は弁護団の主張を補強するものとみられる。
今回の鑑定とは別に、高検が7月に開示した鑑定結果でも精液の型はマイナリ受刑者のDNA型と異なり、現場のアパート室内に落ちていた3本の体毛と同一とみられるか完全に一致していた。 弁護団は今回の結果について「これまでの主張を裏付ける内容で、速やかに再審開始が決定されるべきだ」と評価している。 ◇検察幹部「新証拠でない」 検察幹部は「被害者と第三者は他の場所で接触したと考えられ、DNA型の一致は第三者が現場の部屋にいたことの証明にはならない。検察のこれまでの主張を覆すような新証拠ではない」と指摘した(11年10月22日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電OL殺害事件 弁護団、第三者のDNA検出鑑定書を提出=東京電力の女性社員殺害事件で、強盗殺人罪に問われ、無期懲役が確定したネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(45)の再審請求審で、弁護団は遺体の胸や下腹部周辺など計3カ所の付着物から第三者のDNA型が検出されたとする鑑定書を、新証拠として東京高裁に提出したことを2日、明らかにした。提出は1日付。 東京高検は優先的に追加鑑定を進めている物証15点のうち、5点の結果を弁護団に開示していた。検出された第三者のDNA型は、遺体の体内から検出された体液や現場に残されていた体毛のものと一致。いずれの場所からも、マイナリ受刑者のDNA型は検出されなかった。 弁護団は、被害者が第三者と現場に行った可能性を否定した確定判決に「合理的疑いがあることは明らか」と主張。再審開始とマイナリ受刑者の釈放を求める申入書も2日付で東京高検に提出した(11年11月2日配信『産経新聞』)。 ☆ 東電社員殺害:首付近のDNA、受刑者・第三者とも不一致=東京電力の女性社員殺害事件(97年)で無期懲役が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(45)の再審請求審で、東京高検が実施している追加のDNA型鑑定のうち、女性の首回りの付着物を対象にした鑑定結果が21日、分かった。マイナリ受刑者、女性の体内に精液を残した「第三者」のいずれのDNA型も検出されなかった。女性の死因が頸部(けいぶ)圧迫による窒息死だったことなどから、首回りの付着物の鑑定結果が「決め手」になる可能性が高いとして注目されていた。
高検は9月、被害者の体表の付着物など計42点の試料を弁護団に開示。うち15点を優先して三つのグループに分け、追加鑑定を行うことになった。弁護側によると、先月結果が判明した最初の5点は口の周辺や左右の胸部、下半身などの付着物などで、「『第三者』と一致すると考えて矛盾しない」との結論になった。この5点からはマイナリ受刑者の型は検出されず、弁護側は「再審事由の存在を更に明確にする証拠」とする意見書を東京高裁に出した。
今回の第2グループの鑑定結果で判明したのは、被害女性の首付近の数カ所に警察がテープを貼り付けて採取した付着物。微量だったため型が検出されなかった可能性もある。
再審請求審では7月、高検の鑑定で「第三者」の精液の型と、殺害現場の室内に落ちていた体毛の型が一致。その後、追加鑑定が進められている(11年11月22日配信『毎日新聞』)。 ☆ 東電社員殺害事件 検察が意見書=東京電力の女性社員を殺害したとしてネパール人の無期懲役が確定した事件で、検察は、ネパール人以外の第三者のDNAが検出された鑑定結果について、有罪を覆す決定的な証拠ではないと主張する意見書を裁判所に提出しました。 この事件では、強盗殺人の罪で無期懲役が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者(45)が無実を訴えて裁判のやり直しを求めていて、検察の鑑定の結果、被害者の体の付着物が、現場に残されていた別の男性の体毛のDNAの型と一致したことが分かっています。この鑑定結果について、東京高等検察庁は、体毛は現場以外の場所で付着した可能性もあり、有罪を覆す決定的な証拠ではないなどとする意見書を11月25日、東京高等裁判所とネパール人の弁護団に提出し、裁判をやり直す必要はないと改めて主張しました。この事件の鑑定では、絞殺された被害者の首の周辺の付着物の鑑定も行われましたが、関係者によりますと、人物は特定できなかったということで、検察はさらに被害者の服の鑑定を行う方針を示しています。弁護団は、これまでの鑑定の結果で、マイナリ受刑者が犯人ではない証拠は十分そろっているとしていますが、裁判所が11月29日に行う検察と弁護団との協議で今後の進め方についてどのような判断を示すか注目されます(11年11月26日配信『NHKニュース』)。 |
☆ 12年11月13日配信『東京新聞』―「中日春秋」
いくら意見を戦わせても、議論がかみ合わない。そういう時は、議論の鍵となる言葉の定義が、相手と違っている場合が多い
▼例えば、ラケットの使い方を論じるのに、こちらはテニスのラケットについて話しているのに、相手が卓球のラケットを論じていては、何ともならない。まず「ラケットとは何か」の定義から始めないと、議論は空回りするだけだ
▼冤罪(えんざい)をどう防ぐか。法務省と議論をしようとしても話にならない。なぜなら法務省は「冤罪の定義」を持ち合わせないからだ。厚労省の文書偽造事件で元局長の無罪が確定した時も、東電女性社員殺害事件でネパール人の無罪が確定した時も、政府の立場は「冤罪を厳密に定義していないので、事件が冤罪かどうか言えない」だった
▼広辞苑に冤罪は「無実の罪。ぬれぎぬ」とあるが、政府も同様の認識かと国会で質(ただ)されて、<株式会社岩波書店発行の「広辞苑第五版」において御指摘のような記載があることは承知している>と、人を食った答弁書を出したこともある
▼きのう陸山会事件控訴審で小沢一郎氏が無罪を言い渡された。検察が検察審査会に、強制起訴を誘導するような虚偽の捜査報告書を出した揚げ句の無罪だ。法務省の辞書には「冤罪」だけでなく「反省」も載っていないようだ
▼市民と同じ言葉で語ろうとしないなら、司法改革などできはしない。
☆ 12年11月9日配信『東京新聞』-「社説」=再審無罪 絶望的な司法みつめよ
冤罪(えんざい)が相次ぐことこそ、犯罪的だ。東京電力の女性社員殺害事件で、ネパール人男性が再審で無罪となった。裁判員時代には市民が誤判しないよう、捜査や裁判の在り方を根本から見直すべきだ。
「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」-。1985年に刑事法の大家だった平野龍一・元東大学長は論文にそう記した。80年代には免田事件や財田川事件、松山事件、島田事件と、死刑囚が相次いで再審無罪となった。
この論文の言葉が再び、現代の刑事司法に投げかけられているようである。2010年の足利事件、一一年の布川事件、今回の東電女性社員殺害事件と3年連続で、いずれも無期懲役が確定した人に「再審無罪」の判決が出た。状況はやはり、かなり絶望的である。
重要なのは、なぜ誤判したのか、その原因を徹底究明することだ。しかし、今回の事件について、検察はなお「捜査・公判に特段の問題はなかった」とし、検証結果も公表しないという。不可解というしかない。
捜査にも、裁判にも欠陥があったのは間違いない。むしろ警察や検察、裁判所は自らの過ちに客観的な分析ができないだろう。第三者機関を設け、法的な調査権限を付与して、冤罪を生んだ原因を明らかにすべきである。日弁連によれば、欧米諸国では誤判事件が発生すると、独立した委員会を設けることが広く見られるという。
今回の事件では、とくに証拠開示に問題があった。再審無罪の決め手となったのは、女性の体内の精液や爪の付着物のDNA型鑑定だ。逮捕から十五年半。この事実に到達したのはあまりに遅い。
裁判員時代になり、市民も「有罪・無罪」の局面に立つ。正しい判断をするためにも、被告人に有利な証拠もすべて明らかにすべきである。検察の証拠隠しを許してはならない。全面的な証拠開示は急務といえよう。
冤罪事件では自白を強要する捜査手法にも原因がある。取り調べの全過程の録音・録画も不可欠だ。否認すると長期間、身柄を拘束する「人質司法」の問題も改善せねばならない。
ネパール人男性は、手書きで綴(つづ)った。「日本のけいさつ けんさつ さいばんしょは よくかんがえて わるいところを なおして下さい」-。無実の人を罰しないことは、刑事裁判の最大の鉄則である。男性の訴えを真正面から受け止めるときだ。
☆ 12年11月9日配信『毎日新聞』-「社説」=再審無罪確定 誤判防ぐ法とルールを
東京電力女性社員殺害事件で、ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審無罪が確定した。
事件発生から15年だ。判決は、捜査や公判の問題点に言及することはなく、謝罪もなかった。
なぜ誤判を生んだのか。その解消になぜ時間がかかったのか。検証を通じて明らかにしなければ、刑事司法への信頼は大きく揺らぐ。
近年、再審無罪事件が相次ぐ現状もある。裁判所も検察も重く受け止めるべきだ。
今回の捜査、公判を通じて浮き彫りになった二つの重要な点について指摘しておきたい。
一つは、最新の科学技術の進展に伴うDNA型鑑定だ。鑑定の精度が上がった影響もあり、第三者が女性の殺害に及んだ疑いが強いことが明らかになった。
有罪、無罪いずれにしても証拠として極めて重大な役割を果たす。
その鑑定は警察が指針を作って運用している。どのようなケースで試料を採取し、どう保存するかは警察任せで、被告や弁護人からのアクセス権についての取り決めもない。
また、再鑑定の機会も保障されていない。鑑定試料の「使い切り」が真相解明の壁になるケースも出ている。死刑が執行された元死刑囚の再審請求が行われている「飯塚事件」でも、試料が残っていなかった。
菅家利和さんの再審無罪が確定した足利事件の後、再鑑定に配慮し、鑑定はなるべく試料の一部で実施するよう警察は指針を改めた。
だが、適正な保存を義務づけることも含め、DNA型データベースの運用は法律で厳格に規定すべきだ。管理には当事者である警察以外の第三者のチェックが入る仕組みも検討すべきだろう。DNA型鑑定が無罪の決め手となった裁判からくみ取るべき教訓である。
そして検察の証拠開示の見直しが二つ目の課題だ。
今回、第三者による殺害の疑いが強いことを決定づけた血液型に関する鑑定書などが長い間、開示されなかった。また、被害女性の爪の付着物のDNA型鑑定も長く実施されなかった。こうした証拠が速やかに開示されていれば、早く無実が明らかになったとの弁護団の指摘はもっともだ。
裁判員制度導入を機に、裁判員裁判など公判前整理手続きが実施される事件での証拠開示は大きく前進した。だが、それ以外の事件は再審事件も含め、証拠開示の規定はなく、検察の裁量に任されている。
少なくとも、「新証拠」が必要な再審請求審では、全面的な証拠開示か全証拠リスト公表が必要だ。それが公正な裁判を担保する道だ。早急な法整備やルール作りを求めたい。
☆ 12年11月9日配信『日経新聞』-「社説」=司法全体で再審無罪の検証を
東京電力女性社員殺害事件で、無期懲役が確定したネパール人男性の裁判をやり直す再審が、逮捕から15年の歳月を経て決着した。東京高裁は判決で「第三者が犯人である疑いが強い」と結論付け、男性の無罪が確定した。
事件では、捜査、裁判での立証・審理、再審と続く刑事司法それぞれの段階に大きな問題があることが改めて明らかになった。制度全体の検証を徹底して、再発防止につなげなければならない。
犯行現場にあった残留物のDNA型が男性と一致したため、捜査はこれと矛盾する他の証拠を軽視し、鑑定を疑ってかかる裏付けを怠る結果となった。パソコンの遠隔操作事件で、インターネット上の住所にあたるIPアドレスを絶対視して4人を誤認逮捕した最近の例と、同根の誤りといえる。
再審の申し立て以降、弁護側は新たな証拠を開示するよう再三求めたが、検察は拒否した。その後に実施した新たな鑑定の結果が再審開始の決め手となった事実をみれば「不利な証拠を隠していた」と疑われても仕方がない。
ところが驚くことに、検察は捜査や立証を検証する必要性を認めていない。裁判員制度が始まり、証拠の積極開示が進む中で、社会的な要請を無視した姿勢と言わざるを得ない。検察は公益の代表者であることを自覚し、再審段階での証拠開示のあり方について、自ら見直しを進めていくべきだ。
事件には決定的な直接証拠がなく、一審は「合理的な疑問を差し挟む余地がある」との判断から無罪判決を出した。だが二審はこれを覆して無期懲役とし、最高裁も支持した。ほぼ同じ証拠で正反対の結論を導いたわけである。
どのような状況証拠がどの程度あれば有罪とみていいのかは、難しい問題だろう。しかし裁判員裁判の場では市民が、被告が否認し証拠も乏しい事件で「死刑か無罪か」といった問題と向き合っている。裁判所は冤罪(えんざい)を招いた事実を重く受け止め、再発防止策を打ち出していくべきだ。
☆ 12年11月9日配信『河北新報』-「社説」=相次ぐ冤罪/刑事司法の欠陥が要因だ
「無実であるのに犯人とされている人が、今もたくさんいるはずです」
東京電力女性社員殺害事件で再審無罪になったゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)が、故国ネパールから日本に向けて寄せた言葉だ。
いったん無期懲役が確定したマイナリさんの道のりをたどると、日本の捜査と裁判の問題点が幾つも浮かぶ。事件から教訓をくみ取って刑事司法制度を改めない限り、冤罪(えんざい)の被害者をなくすことは不可能ではないか。マイナリさんの訴えは、決して空言ではない。
事件が起きたのは1997年3月。マイナリさんは間もなく、別件の入管難民法違反容疑(不法残留)で逮捕された。女性を殺害した強盗殺人の疑いで再び逮捕されたのは、2カ月後の5月だった。
それからマイナリさんの無実が決まるまで15年を要し、身体の拘束が続いた。償いようがないほどの苦しみを与えてしまったことになる。
釈放する機会はあった。2000年4月、1審の東京地裁が無罪を言い渡した時で、本来なら釈放すべきだったのにそうならなかった。最高裁ではこの時、裁判官の意見が割れたが、結局「再勾留」を認めている。
それから12年間も自由の身になれなかったのは、マイナリさんにとって理不尽極まりないことだろう。
やたらと長期間、身体を拘束するのは、刑事司法の大きな問題点としてずっと批判されてきた。自白強要の温床にもなりやすい。否認しようがしまいが、勾留などを最小限にとどめるよう方針を転換すべきだ。
今回の冤罪は裁判の構造的な欠陥がもたらしたとも言える。弁護側も知らないでいた証拠の中に、マイナリさん以外の人物の関与を示す物があった。
捜査で収集した証拠を全て弁護側に示さなければ、フェアな裁判とは到底言えない。
冤罪の要因を探ることも再審公判の大切な役割のはずなのに、東京高裁の判決には謝罪も反省もなかった。裁判の場で、自らも含めて反省点を明らかにしないことには、何も変わらないではないか。
無実の罪を生み出す構図は今も厳然と存在している。パソコン遠隔操作事件で誤認逮捕され、家裁で保護観察処分を受けた少年の父親は、処分取り消し後にその思いを明らかにした。
警察と検察からの不当な圧力によって虚偽の自供に追い込まれたことを説明した後、「息子本人と家族の苦悩と心の痛みは、決して癒えることはありません」と述べている。
「最も悲しいのは、親が息子の無実を疑ってしまったことです」という痛切な言葉もつづられていた。
一つの家族に計り知れないほどの苦しみを与えてしまった以上、通り一遍の謝罪だけでは済まないだろう。こうした人たちの声を真剣に聞き取って、意識と制度の両面から刑事司法の全体像を見直すべきだ。
☆ 12年11月9日配信『北国新聞』-「社説」=東電社員殺害事件 冤罪検証にもなる再捜査
東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされたネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナ リさんの再審無罪が確定した。滝実法相はこれまでの捜査について「大きなミスはなかった」と述べたが、そうした弁明で済ませてよいはずはなく、捜査・裁判を検証し、猛省する必要がある。
警視庁は事件の再捜査に着手した。被害者の爪などから別の男のDNA型や血液型が検 出されており、これを手がかりに真犯人の割り出しを急ぐことにしている。しかし、事件から15年も経過しており、捜査は難航するとみられる。このため、いわば建前の捜査に終わるのではないかとの見方が一部にあるが、再捜査の過程自体が冤罪(えんざい)を生んだ原因、背景の検証にもなることを認識したい。過ちを繰り返さないためにも、形だけの再捜査にとどめてはならない。
再審無罪に至った検察の対応で特に問題なのは、証拠開示の姿勢である。証拠は有罪の 立証に役立つ「積極証拠」と、その反証となる「消極証拠」に分けられるが、検察側は容疑者や被告人に有利に働く消極証拠は伏せてしまう傾向にある。今回の事件でも、マイナリさんの再審無罪の決め手となった被害者の爪の付着物などが開示され、DNA鑑定が行われたのは再審請求以降である。
事件発生当時のDNA鑑定技術は精度に難があったが、技術はその後急速に進歩しており、消極証拠の開示、鑑定が積極的に行われていれば、もっと早く冤罪が晴らされていたはずである。
最高検は昨年9月、検事の不祥事が相次いだため、基本的な心構えである「検察の理念」を策定した。その中で「有罪そのものを目的とするがごとき姿勢」になってはならず、「被疑者・被告人の主張に耳を傾け、積極・消極を問わず十分な証拠の収集に努め、冷静かつ多角的に評価する」と説いている。この理念をあらためて徹底してもらいたい。
☆ 12年11月9日配信『山陽新聞』-「社説」=東電再審無罪 冤罪生んだ経緯の検証を
1997年の東京電力女性社員殺害事件で強盗殺人罪に問われ、無期懲役となったネパール人男性の再審判決で無罪が決まった。約15年間にわたり男性の自由を奪うという冤罪(えんざい)を招いた捜査当局の責任はあまりにも重い。経緯の検証や原因究明に徹底して取り組む必要がある。
再審請求審では、鑑定で被害女性の体内に残っていた精液や殺害現場に落ちていた体毛、女性の爪の付着物などから、ネパール人男性とは異なる第三者のDNA型が検出された。再審判決は、こうした新証拠を基に「第三者の男が犯人である疑いが強い」としたものだ。
問題点は挙げれば切りがない。まず浮き彫りとなったのは、見込み捜査の危うさである。被害女性の定期入れがネパール人男性の土地勘がない地域で見つかるなど未解明の点も多かったのに、筋書きを決めつけた強引な捜査が進められた。
検察の姿勢も批判されるべきだ。爪の付着物のDNA鑑定を放置するなど、再審弁護団に「証拠隠し」ともとれる対応をし続けた。
確かに事件当時は極めて微量の付着物は鑑定不能だったが、技術の向上で近年は可能になった。このため弁護団は再三鑑定を求めたが、検察は一貫して拒否してきた。ところが再審開始決定後に、有罪の立証を狙うかのように実施したところ、第三者のDNA型が判明した。
被害者が抵抗し犯人の痕跡が残りやすい爪の鑑定は捜査の基本であろう。「付着物があるように見えなかったので後回しにした。意図的ではない」との検察の釈明は到底信用し難い。
さらに、女性の胸に付いた唾液からネパール人男性とは別の血液型が検出されていながら、弁護団に知らされたのは2005年の再審請求から6年もたってからである。検察に不利となる証拠の開示を渋ったととられて当然だろう。早期に鑑定や証拠開示をしていれば、男性の無罪はもっと早く明らかになり、真犯人の捜査もできたはずだ。
事件は科学捜査の在り方にも禍根を残したといえる。最初のDNA鑑定を過信するあまり、裏付け捜査が不十分だったことを、捜査当局は猛省してもらいたい。
検察はまたもや信頼を失墜させたが、捜査や公判の検証はしない方針という。そんなことで、国民の信頼を取り戻すことができるのか。自浄能力がないのなら第三者機関による検証を求めたい。
裁判所にも教訓とすべき課題がある。一審が「女性が他の者と現場にいた可能性も否定できない」として無罪と判断したのに対し、二審はほぼ同様の証拠で逆転有罪とし、最高裁も支持した。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則がないがしろにされてはならない。裁判員裁判の時代に、いま一度基本に立ち返ることが重要だ。
☆ 12年11月9日配信『熊本日日新聞』-「社説」=東電事件再審無罪 第三者機関での検証必要
東京電力女性社員殺害事件の再審判決で、東京高裁は「第三者の男が犯人である疑いが強い」として、一度は無期懲役が確定したネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)に無罪を言い渡した。一審無罪だった経緯を見れば、遅すぎる名誉回復である。
再審初公判で検察側は、新たな証拠を踏まえマイナリさんを無罪とする異例の意見陳述をした。しかし、なお「捜査や公判に問題はなかった」として冤罪(えんざい)を生んだ原因を検証せず、本人への直接の謝罪もしない意向だ。今後の真犯人捜査への影響を考慮するとしても、事件をきちんと検証し同じ過ちを防ぐ糧としないままでは、損なわれた検察への信頼を取り戻すことはできないだろう。
検察側は、有罪主張の撤回につながったDNA鑑定について「科学技術の進歩で可能になった」と説明した。裏返せば「冤罪が起きたのは不可抗力だった」と主張しているようにも受け取れる。しかし、このような姿勢は許されない。
今回の冤罪は、DNA鑑定への過信と強引な見込み捜査によって生まれたといえる。事件後、被害者の定期入れがマイナリさんの土地勘のない場所で見つかった。関与を疑問視する声が捜査本部内にあったものの、取り上げられなかったという。マイナリさんに有利な証拠についても、検察側は正確な鑑定が可能になってからも積極的に開示しようとせず、弁護団の強い要請でようやく応じてきた。こうした姿勢は「証拠隠し」と批判されても仕方がない。
大阪地検特捜部の証拠改ざん隠滅事件や、このところのパソコン遠隔操作による誤認逮捕事件などで検察・捜査当局に対する国民の視線は冷ややかだ。このままでは情報提供などの協力も得にくく、捜査能力のさらなる低下も招きかねない。
誤った捜査を追認した裁判所の責任も重い。1審では定期入れの発見場所などの疑問から無罪だったが、ほぼ同じ証拠内容で2審は逆転有罪を下し、最高裁も支持した。
信頼回復には弁護団が提言するように、裁判所も含めて第三者機関による検証を実施し、再発防止策を公に示すことから始めるしかないのでないか。冤罪防止は裁判員となる国民にとっても大きな課題である。
☆ 12年11月8日配信『読売新聞』-「社説」=東電OL事件 再審無罪で冤罪の検証が要る
事件から15年を経ての無罪確定である。
冤罪を引き起こした捜査当局と裁判所の責任は重い。
東京電力の女性社員が1997年に殺害された事件の再審で、東京高裁は無期懲役となったネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)を無罪とする判決を言い渡した。
高裁が「第三者が犯人である疑いが強い」と判断した以上、当然の結論と言える。検察は上告する権利の放棄を申し立てた。
無罪を決定付けたのは、被害者の手の爪に残っていた付着物だ。マイナリさんとは異なる人物のDNA型が検出されていた。
判決はこの鑑定結果を重視した上で、「女性が首を絞められて殺害される際、渾身(こんしん)の力で犯人の手をつかんで引き離そうとしたと想定される」と認定した。
弁護側が爪の付着物について、検察側に鑑定を求めたのは、マイナリさんが服役していた2007年1月のことだ。しかし、検察は「爪からは何も検出されていない」と付着物の存在さえ否定する回答をしていた。
その後、女性の胸などに残された体液から第三者のDNA型が見つかった。これにより、再審開始が決定し、追いつめられた検察は「存在しない」としていた爪の付着物を鑑定した結果、同じ第三者のDNA型が検出された。
ところが、あきれたことに、検察は「証拠隠しはない」と居直っている。過ちを認めず、冤罪に至った経緯の検証を一切行わない姿勢も示している。
極めて問題である。
自分が不利になりそうな証拠は開示しないという姿勢をたださなければ、国民の検察不信は一段と深まるだろう。
日本弁護士連合会は昨年1月、捜査機関や裁判所から独立した冤罪検証組織を国会に設けるべきだとする提言を発表した。検察が自浄能力を発揮しないのなら、こうした声も無視できなくなろう。
裁判所も猛省が必要だ。1審の無罪判決を破棄し、逆転有罪とした高裁、その判断を支持した最高裁の誤判により、マイナリさんは長期間、自由を奪われた。
マイナリさんは検察や裁判所に対し、「どうして私がこんな目にあったのか、よく調べ、よく考えてください」とのコメントを出した。これに応えねばならない。
警視庁は再捜査に乗り出す方針だ。再審無罪が確定するまでに、新たに見つかったDNA型は、真犯人に結びつく重要な証拠となろう。徹底捜査を望みたい。
☆ 12年11月7日配信『岩手日報』―「論説」=東電事件再審無罪へ 「科学の進歩」は筋違い
1997年3月に起きた東京電力女性社員殺害事件の再審公判は7日、東京高裁で判決が言い渡され、無期懲役となっていたネパール人男性の無罪が確定する。
先の再審初公判は、検察自らが男性を無罪とする意見陳述を行い即日結審。裁判員裁判が定着する中で、一連の経過は検察のみならず、結果的に「疑わしき」を罰した裁判所も、さらには捜査当局の見立てを追認する形となったメディアも、重い反省の機会としなければならない。
2010年の法改正で、凶悪事件の時効は撤廃されており、警視庁は既に再捜査に乗り出している。真犯人を突き止めることが捜査への信頼を取り戻す唯一の道だろう。
検察は、不正な捜査で厚生労働省の女性局長(当時)に無実の罪を着せた一昨年の文書偽造事件をはじめ、小沢一郎氏の資金管理団体による土地購入をめぐる事件では虚偽の捜査報告書を作成。最近では脅迫メール事件で、真犯人にパソコンを遠隔操作された被害者を犯人扱いするなど、信頼回復には程遠い不祥事が相次いでいる。
今回の事件では、現場に残されていた避妊具内の精液からネパール人男性のDNA型が検出され、有罪の状況証拠となった。だが検察は、この時点で被害女性の遺体などから、男性とは別の血液型の男の遺留物を確認していた。
当時は技術的に不可能だったDNA鑑定が再審請求審段階で可能となり、それらが第三者の男のものと判明。なおも検察はネパール人男性の有罪を主張したが、その証拠と頼んだ被害女性の爪の付着物からも同じ男のDNA型が検出され、万事休す。再審で無罪陳述するに至った。
その理由は「技術的に困難だった鑑定が、科学技術の進歩で可能となったことなどによる」と、自らの責任は棚に上げるような内容。しかし当時の「科学技術」でも、ネパール人男性の精液は犯行日の10日ほど前のものとの鑑定結果が示されていた。
「科学技術の進歩」を無罪の主な理由としながら、一方では科学鑑定を無視した捜査と、それを支持した裁判所の「罪」は重い。別人による犯行の可能性を指摘して無罪とした一審とほぼ同じ証拠関係で、上級審が逆転有罪とした結果が示すのは、科学ならぬ「人」に起因する「見込み」という名の落とし穴だ。
いくら「科学技術」が進歩しても、最後は人が判断するのが裁判。無実の人を罪に陥れるのは、真犯人を取り逃がすよりよほどたちが悪い。
事件の流れは、同じくDNA鑑定で冤罪が証明された足利事件と重なる。人為的な過ちを猛省しない限り、検察の威信回復はおぼつくまい。
☆ 12年11月6日配信『徳島新聞』―「社説」=東電事件無罪へ 冤罪の原因徹底究明を
東京電力女性社員殺害事件の再審判決があす、東京高裁で言い渡される。検察は先月末の再審初公判で、無期懲役となったネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさんは無罪だとする異例の意見書を陳述しており、無罪判決は確実だ。
これでマイナリさんにかけられた疑いは完全に晴れることになるが、奪われた15年に上る時間は戻ってこない。身に覚えのない罪に問われ、拘束された苦痛を癒やすのも容易ではないだろう。
再審無罪で問題が全て解決するわけではない。捜査や裁判の在り方も厳しく問われている。
なぜ冤罪(えんざい)が起きたのか。どうしてもっと早く無罪の結論を出せなかったのか。警察、検察、裁判所はこれらに真剣に向き合い、冤罪に至った原因を徹底的に究明しなければならない。
事件は1997年、東京都内のアパート空き部屋で起きた。強盗殺人容疑で逮捕されたマイナリさんは一貫して無罪を主張。一審東京地裁で無罪となったが、東京高裁で逆転有罪の無期懲役となり、2003年11月、最高裁で無期が確定した。
直接証拠がない中で、高裁は複数の状況証拠をマイナリさんの不利になるように解釈し、有罪とした。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に反する判断だったと言わざるを得ない。
真犯人が別にいる可能性が高まったのは、逮捕から14年以上がたった昨年7月だった。遺体に残された精液から第三者のDNA型が検出され、現場にあった体毛と一致。これが決め手となって今年6月、東京高裁で再審開始の決定が出された。
この精液は、05年からの再審請求審で検察が高裁に促されて初めて開示したものだ。検察は、微量のため事件当時は鑑定できなかったとしているが、近年は技術の向上で鑑定が可能になっていた。
さらに検察は再審決定後もマイナリさんの有罪立証に固執し、被害者の爪にあった付着物のDNA鑑定を実施。これも同じ第三者のものと一致し、立証断念に追い込まれた。
爪の付着物も弁護側が再審請求審で再三鑑定を求めてきたものである。だが検察は一貫して拒否した。検察は「付着物があるように見えなかったので後回しにした。意図的ではない」としているが、精液の件と合わせて考えると、不利な証拠を隠し、鑑定を拒んできたのではないかと疑われても仕方あるまい。
それらが早く開示されていれば、もっと早く無罪になっていたはずだ。昨年無罪が確定した布川事件でも、検察は数多くの証拠を出していなかった。証拠開示のルールを見直さなければならない。
検察幹部は「捜査や公判に問題があったとは考えていない」と述べているが、説得力はない。第三者機関で問題点をあらためて検証すべきである。
再審初公判の法廷で、検察はマイナリさんへの謝罪をしなかった。閉廷後に幹部が「結果として、長期間身柄拘束したことは申し訳なく思っている」とコメントしただけだ。
相次ぐ冤罪で司法に対する信頼は揺らいでいる。回復するには誤りを率直に認め、危機感を持って再発防止に取り組むしかない。
☆ 12年11月4日配信『高知新聞』―「社説」=【東電事件再審】捜査の徹底検証を求める
検察捜査の在り方をはじめ、刑事司法全体に深い反省を促す事件だ。
1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件の再審公判で東京高検は、強盗殺人罪で無期懲役が確定したネパール人男性の「無罪」を求める陳述を行い即日結審した。
7日に東京高裁で判決公判が開かれるが、検察側の異例の陳述などから無罪が言い渡されるのは確実だ。
初公判から10年以上が経過した。この間の刑事手続きや裁判で、検察側が「疑わしきは被告人の利益に」という大原則を真摯(しんし)に守ってきたのか、大きな疑問が残る。
再審請求審で、被害女性から検出された体液などがネパール人男性とは別人の物とDNA鑑定され、殺害現場にあった体毛とも一致した。これは、被害女性が第三者と接触した可能性を示す決定的な新証拠だった。
ところが検察側は、裁判所に提出を促されるまで、体液などの証拠の保存を明らかにしていない。もっと早く公判で提示されていれば、判決内容は違っていたかもしれない。
そうした新証拠がありながら、検察側は再審公判でも当初は男性の有罪主張を行う予定だったという。しかし、公判前に独自に行ったDNA鑑定で、被害女性の爪の付着物から第三者の存在を示す証拠が見つかった。
これが決め手となり、異例の「無罪陳述」に至るわけだが、そうした決定的証拠を持ちながら、なぜこれまでの公判で示さなかったのか。検察側の姿勢への疑問は拭えない。
裁判員裁判の導入で、開示される証拠の範囲は従来よりは広げられたものの、開示の裁量は依然として検察側が握っている。しかも再審請求審での証拠開示は、今回の事件でも分かるように裁判所の訴訟指揮に大きく委ねられている。
検察側が自らの立証に不利とみられる証拠を仮に隠すことができれば、冤罪(えんざい)を生む可能性がある。どのような裁判でも公平に証拠開示する仕組みを早急に設けるべきだ。
再審公判で弁護側は、第三者機関による徹底的な検証を求めた。冤罪を防ぐためにも究明作業は当然必要だが、検察側は検証に取り組む姿勢を示していない。検察捜査の在り方に問題があったと反省しなければ、冤罪の芽は摘めない。自ら徹底検証する決意を早く国民に示すべきだ。
☆ 12年11月3日配信『宮崎日日新聞』―「社説」==東電事件再審無罪へ
検証し結果を公表すべきだ
東京電力女性社員殺害事件の再審初公判(東京高裁)で、いったん無期懲役が確定したネパール人男性について検察は無罪とする意見陳述をし、即日結審した。7日には無罪が言い渡される。
起訴から15年。検察はようやく誤りを認めたが、あまりに遅すぎた。有罪にこだわり続けてきた検察は猛省すべきだ。
■進歩したDNA鑑定■
意見陳述では、反省の言葉もネパール人男性への謝罪もなし。閉廷後に東京高検次席がコメントを出し一応の謝罪はしたが、「結果として」長期間拘束し申し訳ない│という言い方だ。
無罪陳述の理由も「技術的に困難だった鑑定が、科学技術の進歩で可能になったことなどによる」と不可抗力を主張しているように聞こえる。
刑事裁判の大原則は「疑わしきは罰せず」である。科学技術の進歩によって嫌疑が一層固まることはあっても、未熟な技術で「疑わしい」と即断して罪に問い、技術進歩で無実が明白になることなどあってはならない。
次席のコメントの「科学技術」はDNA鑑定技術を指す。現場のトイレに残されていた避妊具内の精液からネパール人男性のDNA型が検出され、逮捕・起訴の決め手とされた。
ところが検察はこの時点で、被害女性の胸に付着した唾液や体内に残された精液の血液型が、ネパール人男性とは違うことを知っていた。唾液や精液は微量で当時は技術的に鑑定できなかったが、再審請求段階では可能になり、第三者の男のものと判明。現場に落ちていた陰毛とも一致した。
それでも検察は往生際悪く有罪を主張。起死回生を狙って女性の爪の付着物を鑑定した結果、同じ男のDNA型が検出されるに至って、やっと白旗をあげた。
■裁判所も整理が必要■
ではなぜ検察は捜査段階で唾液や体内の精液の存在を過小評価したのか。突き詰めていればネパール人男性への嫌疑が揺らぎ、起訴には至らなかったのではないか。
さらに唾液付着の事実を開示せず、再審請求でも体内の精液や爪の付着物の鑑定を渋ったのは、不利な証拠の隠匿ではないのか。検察は「捜査・公判に問題はなかった」と検証はしない方針だが、これでは話にならない。
滝実法相は「大きなミスはなかった」としながらも「検察は教訓としてほしい」と述べた。ならば法相が強制的にでも第三者機関による調査・検証を実施し、結果を公表するべきだ。警察も同様だ。
裁判所も一審は第三者による犯行の可能性を指摘して無罪としたのに、ほぼ同じ証拠関係で控訴審が逆転有罪とし、最高裁も支持したのはなぜか。経緯を整理し、教訓を残すことは必要だ。
これ以上危うい裁判を繰り返してはならない。裁判員裁判の時代に、国民が今回の捜査や公判の教訓を共有する意味は大きい。
☆ 12年11月2日配信『岐阜新聞』―「社説」=東電事件再審無罪へ
経緯を検証し、教訓残せ
起訴から15年を経て、検察がようやく誤りを認めた。東京電力女性社員殺害事件の再審初公判(東京高裁)で、いったん無期懲役が確定したネパール人男性について検察自らが無罪とする意見陳述をし、即日結審した。
7日には無罪が言い渡され確定するが、遅すぎる雪冤(せつえん)である。有罪にこだわり続けてきた検察は猛省すべきだ。
ところが、その気配がない。意見陳述には反省の弁もネパール人男性への謝罪もなかった。閉廷後に東京高検次席がコメントを出し一応の謝罪はしたが、「結果として」長期間拘束し申し訳ない―という言い方だ。
無罪陳述の理由も「技術的に困難だった鑑定が、科学技術の進歩で可能となったことなどによる」と不可抗力を主張しているように聞こえる。この姿勢が間違いの元だ。
刑事裁判の大原則は「疑わしきは罰せず」である。これは1人の無辜(むこ)を誤って処罰するぐらいなら、真犯人を逃す方がましだとする考えだ。科学技術の進歩によって嫌疑が一層固まることはあっても、未熟な技術で「疑わしい」と即断して罪に問い、技術進歩で無実が明白になることなどあってはならない。
ところで、次席コメントが言う科学技術はDNA鑑定技術を指す。現場のトイレに残されていた避妊具内の精液からネパール人男性のDNA型が検出され、逮捕・起訴の決め手とされた。
ところが検察はこの時点で、被害女性の胸に付着した唾液や体内に残された精液の血液型が、ネパール人男性とは違うことを知っていた。唾液や精液は微量で当時は技術的にDNA鑑定できなかったが、再審請求審段階では可能になり、いずれも第三者の男のものと判明。現場に落ちていた陰毛とも一致した。
こうなると、真犯人が別にいる蓋然(がいぜん)性が極めて高かったが、検察は往生際が悪く有罪主張を維持し、起死回生を狙って女性の爪の付着物を鑑定。結果、同じ男のDNA型が検出されるに至って、やっと白旗をあげた。
ではなぜ、検察は捜査段階で唾液や体内の精液の存在を過小評価したのか。突き詰めていればネパール人男性の嫌疑が揺らぎ、起訴には至らなかったのではないか。
さらに、唾液付着の事実を開示せず、再審請求審でも体内の精液や爪の付着物の鑑定を渋ったのは、不利な証拠の隠匿ではないのか。疑問点は多いが、検察は「捜査・公判に問題はなかった」と検証はしない方針だ。これでは話にならない。
滝実法相は「大きなミスはなかった」としながらも「検察は教訓としてほしい」と述べた。教訓は徹底的な検証なくして得られない。法相が強制的にでも第三者機関による調査・検証を実施し、結果を公表するべきだ。警察も同様だ。
裁判所も人ごとではない。一審は第三者による犯行の可能性を指摘して無罪としたのに、ほぼ同じ証拠関係で控訴審が逆転有罪とし、最高裁も支持したのはなぜなのか。裁判官の独立を侵すわけにはいかないが、経緯を整理し、教訓を残すことは必要だろう。
戦後、死刑や無期懲役が確定した重大事件の再審無罪は8件目になる。危うい裁判を繰り返すわけにはいかない。いまや裁判員裁判の時代。国民が今回の捜査や公判の教訓を共有する意味は、かつてないほど大きい。
☆ 12年11月1日配信『京都新聞』―「社説」=東電事件再審 検証が信頼回復への道
1997年の東京電力女性社員殺害事件で無期懲役が確定したネパール人男性、ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審裁判の初公判で、検察側がマイナリさんを無罪とする意見を述べ、即日結審した。7日の判決公判で、無罪が言い渡されるのは確実だ。
15年もの間、犯人として自由を奪った結果はあまりに重大だ。検察や裁判所は捜査、裁判の過程を徹底的に検証し、冤罪(えんざい)の再発防止に取り組まなければならない。
再審までの経過を振り返ると、検察による証拠開示の在り方に大きな疑問が浮かんでくる。
再審の決め手は、被害者の女性の遺体と殺害現場のアパート室内にあった体の一部のDNA型だ。いずれもマイナリさんのものとは異なり、東京高裁は決定理由で「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と踏み込んだ。
ところが、検察側は有罪主張を変えず異議を申し立てた。無罪主張に転じたのは、被害者の爪の付着物を再鑑定し、体の一部と同じDNA型が検出されたからだ。
検察は再審請求による証拠開示を長く拒み続けてきた。弁護団が再三求めた爪の付着物の再鑑定も一貫して拒否し、東京高裁が「取り返しのつかないことになってはいけない」と東京地検に働きかけてようやく実施した形だ。
鑑定技術の問題はあるが、もっと早期に実施することは可能だった。自らに不利な証拠を隠していたと非難されても仕方あるまい。検察が恣意(しい)的に科学的物証を選択して事件の真相をゆがめ、冤罪を生みだしたといってもよい。
ところが、検察側からは真摯(しんし)に反省する姿勢が見えない。マイナリさんの無罪を主張した意見陳述で謝罪の言葉は一切なく、東京高検次席検事は「捜査・公判活動に特段の問題はなかった」として、捜査の検証は行わない姿勢だ。
信じがたい対応である。郵便不正冤罪事件で地に落ちた検察への信頼をさらに損ねるつもりだろうか。検察の体質は一向に変わっていない。取り調べの全面可視化や証拠の全面開示の義務付けなど検察改革はますます急務だ。
裁判所の姿勢も問われる。
一審判決は、第三者の関与の可能性を捨てきれない以上、立証は不十分として無罪を言い渡した。それが控訴審で逆転有罪となり、最高裁への上告も棄却された。
なぜ一審判決の指摘が生かされなかったのか。その経過を検証し教訓としなければならない。
裁判員裁判の導入で市民が刑事裁判に関わるようになった。司法関係者は「推定無罪」の原則をより重く受け止める必要がある。
☆ 12年11月1日配信『愛媛新聞』―「社説」=東電事件再審無罪へ 償いに謝罪と検証欠かせない
東京電力女性社員殺害事件で無期懲役が確定したネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審初公判が結審し、7日の判決で無罪を言い渡されることが確実となった。
これまでかたくなに有罪維持を貫いてきた検察側が一転、異例の無罪主張に転じたためだが、それにしてもこれまでの経過からして、遅きに失したと言わざるを得ない。
そもそも再審開始の決め手になったのは昨年7月のDNA鑑定だ。被害女性の体内に残された精液の型が現場にあったマイナリさんとは別人の体毛の型と一致。他の付着物の追加鑑定でも、別人が犯行現場に存在したとの疑問が強くなっていた。
再審開始を前に東京高検が逆転を狙った被害女性の爪の付着物のDNA鑑定でも、別人のDNA型が検出され、有罪主張を覆さざるを得なくなったのだ。
検察側は捜査の基本のこれらDNA鑑定もしていなかった。マイナリさんが犯人であることに合理的な疑いをさしはさむ余地がないほどの立証を尽くしてきたとは到底言い難い。しかも再審開始決定後まで決定的な物証の開示を渋り続けてきた。
DNA鑑定技術は日々進歩している。弁護側が求め続けた証拠開示や鑑定をしていれば、もっと早く無罪の結論を導き出せたはずである。
それなのに検察側は公判後、長期間拘束したことについての謝罪コメントを出しただけだ。さらに「証拠を隠した事実もなく、捜査・公判に問題はなかった」としたが、どう強弁しようと有罪保持のための証拠隠しにしか見えない。これでは、社会正義を実現する捜査機関としての名に恥じよう。真犯人が見つけられない弊害への懸念よりも、一人の冤罪(えんざい)も生まないという矜持(きょうじ)を持つべきだ。
検察側は弁護側が指摘するように捜査・公判の資料を明らかにし、その経緯を検証すべきだろう。そして、証拠の全面開示や取り調べ全過程の可視化など一層の検察改革に生かさねばならない。
警察や検察といった捜査機関だけでなく裁判所も、別人の存在への疑問から「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を守った一審無罪判決を逆転、確定させた判断への批判は免れない。
時効撤廃により警視庁は再審無罪が確定次第、再捜査する構えだ。自白偏重の捜査が許されないのは言うまでもないが、物証絶対視の危うさも教訓としたい。
15年間もぬれぎぬを着せられたマイナリさんにどう償うのか、司法全体に突きつけられた課題だ。捜査機関は率直に非を認めて謝罪し、再発を防ぐ体制づくりに向けた努力を続けなければなるまい。
☆ 12年10月31日配信『北海道新聞』―「社説」=東電OL再審 誤判の検証も欠かせぬ
無罪は当然だ。事件の真相に迫る判決を望みたい。
1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件の再審初公判が東京高裁であり、即日結審した。強盗殺人罪で無期懲役が確定したネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)の控訴審のやり直しだ。
検察側は当初方針から一転し、マイナリさんの無罪を主張した。有罪主張を補強するため被害者の爪の付着物を鑑定したところ、第三者のDNA型が検出されたためだ。
検察の敗北宣言である。
来月7日の判決は一審東京地裁の無罪判決を維持する「控訴棄却」が確実だ。焦点は、第三者の犯行の可能性にどう言及するかだろう。
検察側は証拠上、有罪主張をやめたが、マイナリさんの疑いが完全に消えたとは考えていないからだ。
再審請求審で東京高裁が6月出した再審開始決定は、第三者の犯行の疑いを示す新証拠をよりどころにした。被害者体内から採取された微量の精液などから同一の第三者のDNA型が検出されたとの鑑定結果だ。
さらに検察側が再審に提出した爪の付着物の鑑定結果も精液などのDNA型と一致した。今や第三者以外の犯行を疑う余地があるのか。
再審判決では、新旧証拠を適正評価し、事件の「闇」を照らし出してほしい。それがマイナリさんの最大の名誉回復につながる。
理解しがたいのは、捜査などの検証はあらためて行わないとの検察の姿勢だ。事件当時、今のような高精度の鑑定技術はなく、捜査などにも問題はなかったとの理屈である。
だが、罪のない人を15年間拘束したのだ。しかも、犯行に結びつく直接証拠がない中、見立てに沿う状況証拠を積み上げる捜査手法が冤罪(えんざい)を招いたのは明らかだ。
裁判では被告に有利に働く証拠をなかなか開示しなかった。爪の付着物の鑑定は再審請求審で弁護側が求めたのに応じなかったものだ。証拠開示や鑑定を適切に行っていれば検察も早期に過ちに気づけたはずだ。
徹底検証なしには再発防止も信頼回復もあり得ない。事件を再捜査する警視庁も同じだ。
裁判所にも大きな責任がある。
2000年4月の一審判決は複数の状況証拠を詳細に検討し、第三者が殺害現場にいた可能性を拭えないと判断した。
だが、控訴審判決は、証拠の評価を誤ったと一審判決を批判し正反対の結論を導いた。上告審で最高裁は追認した。これこそ誤判である。
「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則は守られたのか。最高裁は誤判を検証し、裁判所全体で教訓を共有する仕組みをつくる必要がある。
☆ 12年10月31日配信『毎日新聞』―「社説」=東電事件再審 検察の謝罪姿勢に疑問
こんな謝罪では「公益の代表者」の看板が泣くというものだ。
97年に起きた東京電力女性社員殺害事件で再審開始決定を受けたゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審公判。検察は「別人が犯人の可能性を否定できない」と、有罪主張を引っ込めて無罪を求めた。来月7日の判決で無罪が言い渡され、確定するのは確実だ。
マイナリさんは異国の地で15年も身柄を拘束され、自由を奪われた。それにもかかわらず検察は法廷で謝罪せず、閉廷後に東京高検次席検事がコメントを出した。
科学捜査の進展が主張を変えた理由だとしたうえで、「検察官が殊更に証拠を隠したなどの事実も認められず、その捜査・公判活動に特段の問題はなかった」「結果としてマイナリ氏を犯人として長期間身柄拘束したことについては、誠に申し訳なく思っている」としている。
釈明と併せて読むと、謝罪も大いに色あせる。そもそも捜査や公判に問題がないとする検察の主張は到底納得できない。
1審で無罪判決が出たように証拠は万全でなかった。2審の無期懲役判決が最高裁で確定した後、マイナリさんは05年、再審請求をした。弁護側が証拠開示を求めたのに対し、検察は被害女性の体内にあった精液を長く出し渋っていた。
そして、鑑定の結果、別人のDNA型が昨年検出された。東京高裁が6月、「殺害は別人の疑いがある」として再審開始決定を出した後も、検察は異議申し立てをして有罪にこだわった。
結局、追加鑑定した被害女性の爪の付着物からも別人のDNA型が検出された。この鑑定も長く弁護団が求めていたものだった。「有罪」の見立てにこだわり、ご都合主義的に証拠を出したり鑑定を繰り返したりした揚げ句、白旗をあげた格好だ。
DNA型鑑定の精度は日々向上している。速やかな証拠開示と鑑定があれば、マイナリさんはもっと早く塀の外に出られたはずだ。
検察不祥事を受けて定めた「検察の理念」では、自己の名誉や評価を目的として行動しないことや、謙虚な姿勢を保つべきことをうたっている。その意識が徹底されているのか疑問だ。このままでは、過ちを認めたがらない検察の体質は改まっていないと非難されても仕方ない。
もちろん、再審無罪に至るまでの司法の責任は検察だけでない。当初の警察の捜査や、無罪判決を覆した確定審の裁判所の判断など、教訓を酌みとるべきことは少なくない。弁護団は第三者による徹底的な検証を求めている。その要請に応える道を探らねばならない。
☆ 12年10月31日配信『南日本新聞』―「社説」=[東電再審無罪へ] 捜査検証し再発防止を
東京電力の女性社員が1997年に殺された事件で、無期懲役が確定したネパール人男性の控訴審をやり直す再審の初公判が開かれ、検察側は「被告を無罪」とする異例の意見を述べ即日結審した。
11月7日に言い渡される判決では控訴が棄却され、無罪となることが確実となった。
無罪主張の決め手となったのは、検察が新たに行った鑑定で、被害女性の爪の付着物から第三者のDNAが見つかり、現場に残されていた体毛や唾液などと一致したことだ。第三者による犯行が濃厚になった以上、男性を犯人とする主張の見直しは当然である。
それにしても不可解なのは、やり直し裁判の決定まで爪の付着物の鑑定が行われなかったことだ。犯人の痕跡が残りやすい爪の鑑定は捜査の基本である。もっと早く鑑定していれば、再審開始決定前に男性が釈放された可能性は高い。検察の対応に問題があったと言わざるを得ない。
検察側は長期間の拘束について「申し訳ない」とコメントしたが、「犯人の可能性が完全に消えたわけではない」(幹部)として、捜査や公判の検証はしない方針という。無罪主張と矛盾するような対応では、冤罪(えんざい)を再発させかねない。今後の教訓となるよう、真摯(しんし)な反省を求めたい。
弁護団によると、今回鑑定された程度の極めて微量の付着物については、事件発生当時は鑑定不能だった。しかし、近年は技術が向上し、鑑定が可能になった。
このため、弁護団は再審請求審で再三鑑定を求めたが、検察はこの要求を一貫して拒否してきた。ところが、再審開始が決まり、被告の無罪への流れが高まると、一転して実施した。検察には、有罪立証の切り札にしたい思惑があったのだろう。だが、鑑定結果が逆に被告の無罪を裏付けるような結果になったのは皮肉である。
検察は、再審請求審まで被害者の胸から検出された唾液を開示せず、裁判所に促されるまで、被害者の体内に残された精液を付着させたガーゼ片を冷凍保存していることも明らかにしなかった。これでは、有罪立証を優先させるあまり、不利な証拠を隠していたと思われても仕方ない。
弁護側は再審公判の最終意見で、こうした検察の姿勢を批判し「第三者による検証など、冤罪防止のための徹底的な原因究明こそが検察官の責務だ」と指摘した。検察は無実の人を15年間も勾留、服役させるという大失態を演じた。その責任の所在を明らかにしなければ、失われた国民の信頼を取り戻すことは不可能だろう。
☆ 12年10月31日配信『沖縄タイムス』―「社説」=[東電事件無罪へ]誤りの検証が不可欠だ
東京都渋谷区で1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされたネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの無罪が確実になった。
控訴審をやり直す再審の初公判が東京高裁で開かれ、検察側が異例の無罪主張に転じた。公判は即日結審し、11月7日に無罪が言い渡される見通しだ。
逮捕から15年。無期懲役が言い渡された高裁判決から12年の月日がたつ。なぜ無罪の人間が逮捕・拘束され、長期間にわたり自由と尊厳を奪われなければならなかったか。もっと早い時期に救済することはできなかったのか。警察の捜査段階までさかのぼって徹底的に検証し、明らかにしてもらいたい。
無罪へ導く決め手となったのは、被害女性の爪の付着物のDNA鑑定だった。
女性は殺害される際に抵抗し、犯人の皮膚に触れたかもしれない-。弁護団は再審請求審で、犯人の痕跡が残りやすい爪の鑑定を要求した。
鑑定の結果、マイナリさんとは別人のDNA型が検出された。既に明らかになっている、被害者の体内に残された体液、現場に落ちていた体毛の型とも一致し、第三者の存在が裏付けられた。
弁護団によると、事件発生当時、今回の事件のような、ごく微量の付着物の鑑定は不可能だったという。技術の進歩で可能になった。
一方で、検察は弁護団が爪の付着物の鑑定を繰り返し求めてきたにもかかわらず、拒否し続けた。ようやく応じたのは、再審開始が決まってからだ。一貫して証拠開示に消極的な検察の姿勢には疑問符がつく。
一度有罪だと決め付けた以上、その筋書きに不都合な結果が出るのを恐れていたとしたなら「証拠隠し」の批判は免れない。
「第三者の可能性が浮上しただけ」(最高検幹部)と、捜査や公判の経緯を検証しない方針というのも理解できない。同じ過ちを繰り返さない、という決意が感じられないのだ。
元局長の無罪が確定した厚生労働省文書偽造事件では、不正な捜査や行き過ぎた取り調べが明らかになり、検察への国民の信頼を大きく失墜させた。
事件後に最高検が公表した検証報告書では、再発防止策として「当初の見立てに固執せず、証拠に基づき変更し、引き返す勇気を持つ」ことを検察官に求めている。
誤りは認めて謝罪し、経緯や背景を検証する。その上で「引き返す勇気」を再認識しなければ失われた信頼の回復は遠い。
今回、弁護団は捜査・公判維持過程の全ての関係資料を明らかにするとともに、第三者機関の検証など具体的かつ徹底した原因究明を求めた。実現に向けて検討すべきだ。
加えて、一審の無罪判決を覆し、逆転有罪を言い渡した東京高裁、それを支持した最高裁も問われている。
警察の捜査もあらためて検証が必要だ。同時に、時間の経過で困難を極めるが、真犯人の解明に向けて再捜査にも力を入れてもらいたい。
☆ 12年10月30日配信『東京新聞』-「筆洗」=爪
爪は健康のバロメーターといわれる。薄いピンク色なら安心だ。若い女性の間ではネイルアートが人気だが、爪には本来指先を保護する重要な役目がある。抜いてしまうと、痛みが消えても指先に力が入らず、物をうまくつかめないという
▼命の炎が消える間際の最後の抵抗だったのだろうか。想像すると胸が痛む。手の爪先に残されたわずかな残留物が、異国で捕らわれの身になった男性の無罪を決定付ける証拠になった
▼1997年の東京電力女性社員殺害事件で、無期懲役が確定していたネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリさんの再審は、検察側が無罪主張をする異例の展開となり、即日結審した
▼これまで弁護側は再三、女性の爪のDNA型鑑定を求めていた。「何も付着していない」などと無視を決め込んだ検察は、再審無罪が濃厚になってから逆転を狙って鑑定に踏み切った。結果は、自らの首を絞めただけだった
▼この期に及んでも、当時の捜査に反省するところはない、と言い切る元警察幹部がいることに驚く。真摯(しんし)な反省と検証がなければ、同じ間違いを繰り返すだけだ
▼《爪で拾って箕(み)で零(こぼ)す》。苦労して蓄えた物を一度に浪費する例えだ。再審無罪が相次ぎ、不利な証拠を隠す検察の姿勢に裁判所も不信を強めている。先人が築いた信用は、砂上の楼閣になっていることを自覚すべきだろう。
☆ 12年10月30日配信『東京新聞』-「社説」=東電女性再審 “暗黒司法”そのものだ
東京電力の女性社員殺害事件で、無罪となるネパール人男性の再審公判は、司法界の“暗黒”を物語る。検察も裁判所も過ちを検証せねばならない。真犯人の追及にも本腰で取り組むべきだ。
再審の公判で「無罪」と主張したのは、検察側だ。弁護側はずっと無実を訴えてきた。これで結審し、ネパール人男性の無罪は確実だが、もっと早く冤罪(えんざい)から救済できなかったか悔やまれる。
昨年夏に被害者の体内から採取された精液のDNA型鑑定の結果が出た。男性とは別人の「X」のもので、しかも殺害現場にあった体毛の型と一致していた。この時点でも、検察は“撤退”が可能だったはずだ。ところが、今年六月に再審開始決定が出ても、検察側は異議を申し立てていた。
検察が白旗を揚げる決め手になったのは、女性の爪に残っていた付着物をDNA型鑑定したところ、やはり「X」のものだったことだ。被害者と最後に接触したのは「X」である可能性が濃厚になった。爪の付着物は、被害者の激しい抵抗の痕跡かもしれない。
だが、弁護側が爪に着目して、鑑定書を求めたのは2007年である。検察は裁判所に促されても、「鑑定書はない」「爪からは何も検出されていない」などと、虚偽に近い不誠実な姿勢だった。最後まで有罪にこだわり続けた検察の態度は非難に値する。
有罪を確定させた裁判所も問題だ。1審は「無罪」だった。「別人が犯行現場の部屋を使った可能性がある」「精液の入った避妊具は、事件当日に使用したと断定できない」などと、新しい鑑定技術がなくとも、男性を犯人とすることに疑いを持ったのだ。
ところが、2審はわずか4カ月のスピード審理で「逆転有罪」となった。なぜ1審が下した“赤信号”を素通りし、最高裁まで追認したのか。さまざまな証拠が「X」が真犯人だと指し示しているような現在、裁判所はどのような弁解をするのだろうか。
当初からネパール人男性を犯人だと決めつけた捜査に問題があるのは間違いない。重要物証をDNA型鑑定しなかったのも致命的だ。被告人に有利な証拠も得られるよう、全面証拠開示の必要性も、この事件は訴えている。
司法が「暗黒」と呼ばれないためには、他にも冤罪が潜んでいないか、早急にチェックすることだ。もはや正義に奉仕すべき司法の倫理さえ問われている。
☆ 12年10月30日配信『信濃毎日新聞』―「社説」=東電女性殺害 冤罪の防止へ検証を
東京電力女性社員殺害事件で、無期懲役となったネパール人の男性の再審無罪が確実になった。検察側が無罪とする異例の展開で即日結審している。
無罪の男性の自由を長年にわたり奪った末、事件は振り出しに戻る。司法の責任は重い。真犯人を突き止めるとともに、冤罪(えんざい)防止に向けて捜査や公判の問題点を掘り下げなくてはならない。
事件が起きたのは1997年3月だ。都内のアパートの空き部屋で女性の遺体が見つかり、顔見知りで近くに住んでいた男性が逮捕された。2003年に無期懲役の判決が確定していた。
再審無罪は既定路線だった。遺体内の精液から第三者のDNA型が検出され、現場にあった体毛と一致したことが分かっていた。さらに、遺体の爪の付着物についてもDNA型が一致することが分かり、決め手となった。
検察側は身柄拘束について「誠に申し訳なく思っている」とのコメントを出した。半面、「犯人の可能性が完全に消えたわけではない」として捜査などの検証はしない考えだ。有罪から無罪へ主張を転じながら、問題がなかったとする姿勢は説得力を欠く。
爪の付着物については、弁護団が再審請求審で鑑定を繰り返し求めたのに拒んできた。実施したのは再審開始が決まってからだ。すぐに鑑定していれば、釈放が早まるなど別の展開があり得た。
都合の悪い結果が出ては困るとの判断があったのではないかと疑わせる。弁護側が指摘するように第三者機関による検証などで一連の過程を見直すべきだ。
裁判所も重い課題を抱えた。直接の証拠はなく、複数の状況証拠をどう解釈するかが争われた裁判だった。一審は無罪、二審で逆転有罪となった経緯がある。結果的に誤った司法判断を下した。
技術が進み、当時難しかった鑑定ができるようになった事情はある。とはいえ、それを免罪符にはできない。同じことを繰り返さないためにどうしたらいいか、公判の進め方を問い直して教訓を引き出す必要がある。
事件から15年余、いまだ真犯人は分からないことになる。時間がたった分、真相の解明はなお難しい。冤罪で長く拘束された男性に対してはもちろん、被害者側にも罪深い結果だ。
法改正で強盗殺人罪など凶悪事件の時効が撤廃された。今回の事件も容疑者を捜し出せれば、起訴できる。警視庁は再捜査に力を尽くさなくてはならない。
☆ 12年10月30日配信『神戸新聞』―「社説」=東電事件無罪へ/捜査の検証が欠かせない
1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で、強盗殺人の罪に問われて無期懲役となったネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの無罪が確定する見通しになった。
控訴審をやり直す再審の初公判が東京高裁であり、マイナリさんの有罪判決を求めてきた検察が無罪主張に転じたからだ。再審は1日だけで結審し、近く無罪が言い渡されるのが確実だ。
すでに母国に戻っているマイナリさんは、支援者を通じて「今更遅すぎる。謝ってほしい」と訴えている。
直接証拠はなく、一貫して無罪を訴えていたが、マイナリさんは15年間に及ぶ身柄拘束と服役で家族との暮らしを奪われた。なぜ「有罪」になったのか、徹底した洗い直しが必要だ。
再審請求審で被害者の付着物のDNA鑑定から真犯人の存在に直結する結果が出ていた。さらに、再審前に高検が被害者の爪の付着物を鑑定したところ、同じDNA型が検出された。
マイナリさんの「有罪」維持は行き詰まり、検察側は「無罪が相当」とする意見書を東京高裁に提出していた。
検察は、「犯人として長期間身柄を拘束したことは誠に申し訳なく思う」とのコメントを出したが、捜査や公判の検証はしない方針という。それでは、冤罪(えんざい)事件を繰り返す懸念がぬぐえず、信頼回復は遠のくばかりだ。
最大の問題点は、早い段階から警察や検察が真犯人につながる証拠をつかんでいたのに、開示しなかったことだ。
事件直後の鑑定でも、遺体の付着物からマイナリさんと異なる血液型反応が出ていたが、再審請求審まで伏せられていたことが分かっている。
被害者の体内には第三者の精液が残されていたほか、被害者の爪にも同じ第三者の付着物があった。検察がその存在を認めて最新技術による鑑定を行ったのは再審請求審以降のことだ。
警察と検察が状況証拠からマイナリさんを犯人と決めつけ、その立件や立証に好都合な証拠だけを開示してきた疑いがある。DNA鑑定など科学捜査の進歩によって、そうした捜査の在り方があらためて否定されたといえる。
警察と検察は、捜査の誤りを謙虚に認め、証拠開示と科学捜査による証拠の再点検に取り組むべきだ。
法改正で時効撤廃の対象となったことで、警視庁はこの事件の再捜査を始める構えだ。真犯人の逮捕は、マイナリさんにとって何よりの名誉回復になる。
☆ 12年10月30日配信『熊本日日新聞』-「社説」=東電社員殺害再審 検察は自ら捜査の検証を2012年10月30日
1997年の東京電力女性社員殺害事件で強盗殺人罪に問われ、2003年に無期懲役の二審判決が確定したネパール人男性ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)の控訴審をやり直す再審の初公判が29日、東京高裁で開かれ即日結審した。
公判で、検察側は「マイナリさんは無罪」とする異例の意見書を陳述した。来月7日の判決で無罪の結論が出されるのは確実だ。マイナリさんに対しては、速やかに名誉回復を図る必要がある。同時に、検察は率直に誤りを認め、真摯[しんし]に再発防止に取り組むべきだ。
同事件をめぐっては昨年7月、再審請求に伴う鑑定で、被害女性の遺体内の精液からマイナリさんとは違う「第三者」のDNA型が検出され、殺害現場にあった体毛とも一致する結果が出たことが判明。東京高裁はこの結果を「新証拠」と認定。今年6月、再審開始とマイナリさんの刑の執行停止を決定した。
検察側は当初、再審開始への異議申し立てを行うなど争う姿勢を示していたが、再審開始決定後に行った独自鑑定で、被害者の爪の付着物からも遺体内の精液と同じDNA型を検出。有罪主張を撤回した。
再審の意見陳述で、検察側は「鑑定結果を総合すると、ほかの者が犯人である可能性を否定できず、マイナリさんを有罪と認めることができない」と述べて無罪を求めたが、その中にマイナリさんに対する謝罪の言葉はなかった。検察は「犯人の可能性が完全に消えたわけではない」(幹部)として捜査や公判の検証もしない方針だというが、無罪主張と矛盾する対応は納得できない。
検察側は2005年の再審請求後も長く、遺体内の精液などの物証の全面開示を拒んできた。事件当時は微量のDNA鑑定はできなかったというが、03年の新技術導入で可能になった。早期に鑑定が行われていれば、ここまで再審開始が遅れることはなかったはずだ。
証拠開示の在り方も含め、検察はこれまでの捜査、司法手続きを自ら検証することで、失われた信頼の回復を図るべきではないか。
一方で、遺体発見のわずか4日後にマイナリさんを別件で逮捕した警察捜査も慎重さを欠いてはいなかったか。証拠不十分とした一審の東京地裁の無罪判決を、ほぼ同じ証拠で覆した東京高裁の有罪判決と、それを支持した最高裁の証拠評価にも疑問が残る。多くの刑事司法関係者の責任が問われる今回の結果だ。
☆ 12年10月30日配信『日本経済新聞』-「社説」=科学捜査の基本を怠るな
1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件の裁判をやり直す再審の初公判で、検察側が被告のネパール人男性に無罪を求める陳述をした。裁判は1日で結審し、近く無罪が言い渡されることが確定的になった。
刑事責任を追及するはずの検察が、法廷で「被告は無罪」と主張する異例の展開である。男性と家族の貴重な15年の月日を奪った過ちの大きさに慄然とする。
男性の無期懲役が確定した後、被害女性の体や爪から男性以外のDNA型が検出されている。追い詰められた結果とはいえ、無罪主張は当然だ。むしろ鑑定はもっと早く実施できたのではないか。検察は経緯を検証し、再発防止に役立てなければならない。
この事件では、検察の証拠開示のあり方など様々な問題点が明らかになった。「科学的証拠」を過信すると捜査や裁判で間違いを犯す恐れが常にある、というのも大きな教訓の一つである。
捜査段階で、犯行現場の部屋のトイレから男性のDNA型が検出された。これが男性を犯人と決めつける捜査につながり、有罪判決を導いた。再審決定の決め手となった第三者のDNA型は、当時は鑑定されていなかった。
2010年に再審無罪となった足利事件でも、当時の不正確だったDNA型鑑定が捜査の方向を決め、誤審を生む結果となった。客観的と思われる科学鑑定も証拠の一つであり、遺留物の劣化などで不完全なデータしか得られなかったり、人的ミスで検体を取り違えたりする可能性はつきまとう。
科学的なデータを得たうえで、裏付け作業まで徹底してはじめて「科学捜査」といえる。警察、検察はこうした基本を怠ることのないよう、常に気を引き締めて捜査にあたるべきである。
将来に備え、鑑定に使った遺留物を劣化しないように保管しておくなど体制の整備も欠かせない。科学鑑定に対する正しい認識を、裁判官、弁護士を含め司法界全体で共有することも必要であろう。
☆ 12年10月30日配信『朝日新聞』―「社説」=再審無罪へ―15年の検証が必要だ
事件が突きつけた課題にどう向きあい、信頼回復につなげるか。刑事司法にかかわるすべての人の姿勢が問われている。
東京電力の女性社員が15年前に殺された事件のやり直し裁判は、検察側が「被告を有罪とは認められない」との意見を述べて、ただちに結審した。
現場に落ちていた体毛、被害者の体内に残された体液、そして爪の付着物。この三つから、被告ではない人物のDNA型が検出された。いったん無期懲役が確定した被告に、来月7日、無罪が言い渡される。
6月の再審開始の判断は、最初の二つの鑑定結果が大きな根拠になった。逆転をねらった検察は8月に爪の鑑定を嘱託。これが、当の検察に誤りを認めさせる決定打となった。
だれもがおかしいと思うだろう。弁護側は5年以上前から、「爪に犯人の皮膚片などがついている可能性がある」として、鑑定を求めていたのだ。
このほかにも検察には、証拠隠しと批判されて当然の振る舞いがあった。こうした背信行為をゆるさない仕組みを、急ぎ整えなくてはならない。
ところが検察は、捜査や公判を検証する考えはないという。とんでもない話だ。少なくともこの間の証拠開示に関する姿勢は、国民の理解を得られるものではない。「公益の代表者」として恥じる点はないと、本気で思っているのか。
郵便不正事件など一連の不祥事で検察の信頼は地に落ちた。組織をあげての改革を口にするが、実態はこのありさまだ。体面を重んじ、批判をきらう独善的な体質は改まっていない。
裁判所も問われる。東京高裁は、一審の無罪判決が指摘した重大な疑問点の解明をおきざりにしたまま、逆転有罪を言い渡した。この高裁判決は、多くの刑事裁判官に「緻密(ちみつ)に事実を認定している」と受けとめられ、最高裁も支持した。
なぜ誤判に至ったのかを解明し、教訓を共有しなければならない。もちろん、その方法は慎重な検討が必要だ。政治的な思惑が紛れこんだりすると、「裁判官の独立」が脅かされ、将来に禍根を残しかねない。
だがそうした懸念を口実に、この問題から逃げてしまっては不信は深まるばかりだ。
いまは、ふつうの人が裁判員として有罪無罪の判断にかかわる。つまり、間違えれば市民が冤罪(えんざい)の加害者になる時代だ。
無実の人を罪に落とさない。それは、これまでにも増して、重大で切実な社会の課題であることを忘れてはならない。
☆ 11年7月22日配信『毎日新聞』-「社説」=東電女性社員殺害 再審で審理やり直せ
驚くべき事実だ。97年に起きた東京電力の女性社員殺害事件で、被害者の体から採取された精液のDNA鑑定をした結果、無期懲役が確定したネパール人受刑者とは別人で、現場に残された身元不明の体毛と型が一致したことが分かったのだ。
元飲食店従業員のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者の再審請求審で、東京高裁の求めに応じ、東京高検が専門家に鑑定を依頼していた。
直接的な証拠がない事件だと言われた。だが、現場である東京都渋谷区のアパートの部屋のトイレに残されていた精液と、落ちていた体毛1本のDNA型がマイナリ受刑者と一致したことなどから、マイナリ受刑者は逮捕・起訴された。
しかし、マイナリ受刑者は捜査段階から一貫して否認した。1審・東京地裁は2000年4月、トイレにあったマイナリ受刑者の精液を「犯行のあった日より以前に残された可能性が高い」と認定。さらに、遺体近くに別の第三者の体毛が残っていたことを指摘し「状況証拠はいずれも反対解釈の余地があり不十分」などとして、無罪を言い渡した。
しかし、東京高裁は同12月、マイナリ受刑者以外が現場の部屋にいた可能性を否定し、無期懲役を言い渡し、03年11月に最高裁で確定した。
再審は、無罪を言い渡すべき明らかな新証拠が見つかった場合に始まる。最高裁は75年の「白鳥決定」で「新証拠と他の全証拠を総合的に評価し、事実認定に合理的な疑いを生じさせれば足りる」と、比較的緩やかな判断基準を示した。
新たな鑑定結果は、現場にマイナリ受刑者以外の第三者がいた可能性を示すもので、確定判決の事実認定に大きな疑問を投げかけたのは間違いない。裁判所は再審開始を決定し、改めて審理をやり直すべきだ。
それにしても、被害者の体から精液が採取されていたならば、容疑者の特定に直結する直接的な証拠ではないか。トイレに残っていたコンドームの精液をDNA鑑定する一方で、体に残った精液のDNA鑑定をしなかったとすればなぜか。整合性が取れないとの疑問が残る。
警察・検察当局は、鑑定技術の問題なのかを含め、再審請求審までDNA鑑定がずれ込んだ経緯を十分に説明してもらいたい。また、なぜ公判段階で証拠調べができなかったのか弁護団も検証すべきだ。検察側の証拠開示に問題があったのか、弁護側に落ち度があったのか責任の所在を明らかにすることが、今後の刑事弁護に生かす道につながる。
DNA鑑定は、容疑者の特定に直結する。再鑑定ができるよう複数の試料を残すことなど保管についてのルール作りも改めて求めたい。
☆ 11年7月22日配信『東京新聞』-「社説」=東電女性殺害 新事実に目を凝らせ
無期懲役が確定した東京電力女性殺害事件で、新鑑定結果が出た。被害者の体にあった体液などが受刑者とは別人のDNAだったのだ。新事実に目を凝らし、再審の可否の結論を早く出すべきだ。
大企業の管理職だった女性が被害者だったことで話題を呼んだ事件だった。ネパール人の受刑者が、逮捕当初から「やっていない」と無実を訴えていたことでも注目された。
確かに受刑者と事件を結び付ける直接的な証拠はなく、状況証拠を積み上げて、検察側は「犯人だ」とした。
一審は「第三者が現場にいた可能性が否定できない」と無罪判決を出した。同じ証拠でありながら、二審は「第三者が被害者と現場の部屋に入ったとは考えがたい」と逆転有罪を言い渡し、最高裁も追認した。
服役中の現在も「無実」を訴え続け、裁判のやり直しを東京高裁に求めていた。その過程で弁護団が、被害者の体内から採取された体液のDNA型鑑定を要求し、専門家が実施したところ、受刑者のものではないうえ、殺害現場の部屋に残されていた体毛の一本と型が一致した。
常識的に考えて、この事実が指し示すのは、受刑者とは別人の「第三者」が殺害現場にいた可能性が出てきたことだろう。
そもそも問題となった体液は、捜査段階で重視されず、DNA型鑑定をしていなかった。被害者が殺害の約2時間前に別の男性と現場近くのホテルにいたことが分かっており、その男性にはアリバイがあったからだ。捜査側は体液はその男性のものだと思い込んで、軽視していたのではないか。
今回の鑑定で分かったことは、DNA型がこの男性のものとも異なり、受刑者のものとも異なる点だ。捜査段階でDNA型鑑定を行わなかったのは、警察・検察当局の重大な失点といえよう。
検察側は「有罪主張は変わらない」としているが、新旧の証拠を総合し、受刑者が犯人であることへの合理的な疑いが生じれば、再審開始ができる。
確定判決と矛盾しかねない新事実が浮上した以上、再審開始の可能性も出てきた。問題の体液はいつ被害者に付着したのか。体液と同じDNA型を持つ人物の体毛は、どうして殺害現場にあったのか。新たな疑問が湧いたことで、「有罪」に導いた状況証拠そのものを真っさらな目で一から再点検すべきである。
☆ 11年7月24日配信『読売新聞』-「編集手帳」
英国の著名な犯罪科学者エルジンチリオールが、『犯罪科学捜査』(高林茂訳・三修社)に書いている。「話の筋書きがあらゆる証拠の糸によって支えられるならば、それを真理と信じる十分な根拠があると言える」
◆指紋鑑定も、最新のDNA鑑定ですら絶対的なものではない。あらゆる角度から難問に挑むことが、科学捜査で真理に到達する方法だと。してみると今回の事件では、警察の証拠の糸の張り方が不十分だったと言える
◆1997年、東京・渋谷で起きたOL殺害事件で犯人とされたネパール人受刑者とは別の男Xが、犯行現場にOLといた可能性を示す鑑定結果が出たという。OLの体から採取した精液のDNA型が、現場に落ちていた受刑者以外の体毛の型とぴたり一致した
◆当時、この鑑定結果があれば、否認している受刑者の起訴に踏み切れただろうか。なぜ警察は証拠の糸を紡ぎ切れなかったのか、明らかにすべきだろう
◆足利事件、布川事件に続いて重い再審の門が開くかどうかは、まだわからない。一方で強盗殺人罪の公訴時効は廃止になった。警察の仕事は増える。Xを捜すことだ。
☆ 11年7月27日配信『読売新聞』-「社説」=東電OL殺害 真相解明を迫る新たな事実
1997年に東京電力の女性幹部社員が殺害された事件で、新たな事実が明らかになった。
被害者の体から採取された精液のDNA型が、無期懲役が確定し、再審請求中のネパール人受刑者のものと違うという鑑定結果だ。
そのDNA型は、現場のアパートに落ちていた受刑者以外の人物の体毛の型と一致した。
受刑者ではない何者かが、被害者と殺害現場にいた可能性を示す新事実である。
「被害者が受刑者以外の第三者と部屋に入ることは考えがたい」。そう認定し、逆転有罪とした2審の東京高裁判決に重大な疑問が生じたと言える。
弁護側は、「受刑者に無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と主張している。再審開始のための証拠とするよう求め、鑑定書を高裁に提出した。
高裁が証拠採用すれば、再審開始の可能性が高まるだろう。高裁は、従前の証拠と今回の鑑定結果を精査し、真相解明のために審理を尽くさねばならない。
この事件は、東京都渋谷区のアパートで、当時39歳だった東電のOLが絞殺され、現金約4万円が奪われたというものだ。隣のビルに住んでいたネパール人受刑者が逮捕されたが、一貫して犯行を否認してきた。
検察側は、アパートのトイレに残っていた避妊具内の精液のDNA型が受刑者の型と一致したこと、現場に落ちていた複数の体毛の中に受刑者のものがあったことなど、状況証拠を積み重ねて起訴に持ち込んだ。
1審の無罪判決は、受刑者を犯人とすることについて、「合理的な疑問を差し挟む余地がある」と指摘した。
2審は、この1審判決を「証拠の評価を誤り、事実を誤認した」と批判し、最高裁も2審の判断を支持した。
同じ証拠を検討しながら、裁判官が正反対の結論を出す。状況証拠が争点となった裁判の難しさを象徴する事件と言えるだろう。
当時、警察は十分な捜査をしたのか。いくつかの疑問がわく。
なぜ、今回のDNA鑑定を捜査時に実施しなかったのか。採取できた精液の量が少なく、技術的に難しかったという見方もあるが、果たしてそうなのか。
現場に残っていた十数本の体毛のうち、鑑定を行ったのは4本だけだったという問題もある。
検察は高裁に対し、こうした点を明確にする必要がある。
☆ 11年7月25日配信『産経新聞』-「主張」=東電OL殺害 新証拠で引き返す勇気を
東京都渋谷区で平成9年、東京電力の女性社員が殺害され現金を奪われた事件で、強盗殺人罪に問われたネパール国籍の受刑者に対する無期懲役の確定判決の根拠が揺らいでいる。
受刑者の再審請求審で東京高検が行ったDNA鑑定の結果、被害者の体内から検出された体液のDNA型が、現場に残された受刑者以外の男性の体毛と一致した。被害者が第三者と現場の部屋に行ったことは「考えがたい」とした2審有罪の論拠に疑問が生じたことになる。
大阪地検特捜部による郵便不正事件と押収資料改竄(かいざん)・犯人隠避事件を検証した最高検は、「検察再生」のキーワードに「引き返す勇気」をあげた。判決に影響を与え得る鑑定結果が出た以上、改めて審理を尽くすべきではないか。
受刑者は、捜査段階から一貫して犯行を否認していた。現場には受刑者の体液、体毛が残されており、DNA型も一致していた。
1審は第三者が犯人である可能性を指摘し、無罪とした。2審は「第三者による犯行の可能性があるとはいえない」として、逆転有罪判決を言い渡し、最高裁で15年11月に無期懲役が確定した。受刑者側は17年3月、東京高裁に再審を請求していた。
受刑者以外のDNA型が一致する体液と体毛の存在が明らかになった以上、第三者が存在する可能性を否定しきれなくなったと解釈するのが妥当だろう。
捜査段階では、被害者の体内から採取された体液は微量だったためDNA鑑定は行われなかったとされる。その後、鑑定技術の進歩で可能となった。それにしても、17年の再審請求以降、新たな鑑定まで長い期間を要した説明は求められるべきだろう。
新証拠は、直ちに真犯人の存在を示し、受刑者の無罪を証明するものではない。ただ、最高裁は、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に立って再審への門戸を広げた昭和50年の「白鳥決定」で、再審開始要件について「新証拠を加えて総合的に評価した結果、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば足りる」としている。
郵便不正事件では、検事が捜査に不利な証拠を改竄したことが発覚し、検察の信用は地に落ちた。今は信頼回復への途上にある。不利な新証拠に目をつぶらずに、再審の場で真実を追求すべきだ。
☆ 11年7月23日配信『北海道新聞』-「社説」=東電OL殺害 審理をやり直すべきだ
14年前に起きた東京電力女性社員殺人事件で、無期懲役が確定したネパール人男性受刑者(44)の有罪を覆す可能性がある新たな証拠が出てきた。
東京高裁での再審請求審で東京高検が行ったDNA鑑定の結果だ。
被害者の体内から採取された体液がこの受刑者ではなく、第三者のDNAと判明。それが殺害現場にあった体毛の1本とも一致した。
受刑者以外の第三者が殺害現場に入った可能性を否定した確定判決を根底から揺るがしかねないものだ。
最高裁は1975年の白鳥決定で新旧証拠を総合的に判断し、確定判決にある程度の合理的疑いが生じれば再審開始は認められるとした。
今回のDNA鑑定結果は、証拠の評価に重大な疑義が生じたことを意味する。再審の扉を開け、あらためて審理をやり直すべきだ。
東京都内のアパートの空き室で女性が殺害され、現金約4万円が奪われた事件だった。
近くに住むネパール人男性が逮捕されたが、一貫して無実を主張。犯行に結びつく直接証拠はなく、検察は状況証拠を積み上げて起訴した。
一審は《1》殺害現場のトイレで見つかった受刑者の体液は犯行時のものと特定できない《2》被害者の定期券が受刑者の土地勘がない場所で見つかった《3》受刑者以外の第三者が犯行時に現場にいた可能性も否定できない-などとして無罪を言い渡した。
二審では新たな証拠は出されなかったが、判決は一審の認定をいずれも覆し、犯行時に第三者が現場にいたことは考え難いとして逆転有罪判決を下し、最高裁も支持した。
状況証拠をどう見るかは難しい。今回は同じ証拠でありながら一、二審の判断は正反対だった。裁判官の判断次第で被告に有利にも不利にもなる現実をあらためて見せつけた。
裁判官が被告へ予断を持つとは考えたくないが、公正な判断を下すためにも捜査当局はより質の高い状況証拠を出すことが求められる。
当時DNA鑑定をしなかったことへの疑問もある。検察側は技術的に難しかったとするが、といって初めから鑑定しなくていいものか。
受刑者が無実を主張し、直接証拠もないことなどから逮捕当時から法曹関係者の間では冤罪(えんざい)を疑う声が少なくなかった。なおさら捜査の不十分さを指摘されても仕方あるまい。
再審が始まるかどうかは、東京高裁が今回の鑑定結果を証拠として採用するか否かにかかっている。
「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の鉄則は再審請求にも適用される。高裁の賢明な判断を期待する。受刑者に有利な目撃証言もある。そうした証拠の開示も必要だ。
☆ 11年7月24日配信『新潟日報』-「社説」=東電OL殺害 再審で審理し直すべきだ
1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で、被害者の体から採取された精液を鑑定した結果、強盗殺人罪で無期懲役が確定したネパール人受刑者と異なるDNA型が検出された。
逮捕後、一貫して無罪を主張しているゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者の再審請求審で、弁護団が東京高裁に鑑定を要請し、東京高検が専門家に依頼していた。
DNA型は殺害現場に落ちていた体毛の1本とも一致した。
鑑定結果は事件当日、現場にマイナリ受刑者以外の第三者がいた可能性を示すものだ。
一審の東京地裁の無罪判決を覆して無期懲役とした東京高裁の確定判決は、被害者が受刑者以外の男性と現場の部屋に入ったことは「考えがたい」と決めつけた。これが大きく揺らいだのは間違いない。
再審開始には、無罪や減刑にすべき明らかな証拠の新たな発見が必要とされる。今回判明した鑑定結果は状況証拠にとどまり、マイナリ受刑者の無罪を直接に裏付けるものではない。
だが再審開始の要件について「確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば足りる」とした75年の最高裁決定に照らせば、再審を開き、あらためて審理をし直すべきケースといえよう。
一審が無罪と認定したように、この事件については疑問が多い。それなのに、DNA鑑定がなぜ当初からできなかったのか。
検察などは、採取された精液がわずかだったため、当時は技術的に無理だったという。
本当にそれだけか、疑念が湧く。被害者の体に残る精液は、容疑者につながる重要な物証のはずだ。捜査段階から一度も検査されなかったのは不自然ではないか。
先月再審無罪が確定した布川事件では、不利な証拠を隠し、有罪に導こうとする検察の姿勢が問題視された。
検察側は今回の結果にも「無罪という内容ではない」「他にも物証があり、有罪立証は維持する」とかたくなな態度を崩していない。
事件の犯人について、正義の裁きを求めるのが検察の仕事である。しかし、これにこだわり過ぎて、真実の発見がおろそかになっていないか。一連の冤罪(えんざい)事件で指摘された点である。
過去の捜査や公判での事実認定に疑問が生じたのだ。吟味のやり直しは当たり前である。
鑑定結果は、技術の進歩によって、物証の重要度が変わってくることも示した。昨年4月には、殺人罪などの公訴時効が廃止されている。証拠品の管理態勢を見直し、事件の真の解決につなげたい。
☆ 11年7月23日配信『中国新聞』-「社説」=東電女性社員殺害 再審で真実突き止めよ
8年前に確定した有罪判決の足元を揺るがしかねない新事実である。1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で再審の可能性が出てきた。
被害者である女性社員の遺体から採取された体液の鑑定が行われた。その結果、無期懲役が確定したネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者とは別の男性のDNA型が検出された。殺害現場に落ちていた体毛のうちの1本とも型が一致したという。
事件当日、女性社員がマイナリ受刑者ではない別の男性と現場にいた可能性を示唆する結果だ。他に真犯人がいるとの推定も成り立つと言えるだろう。
東京都渋谷区のアパート空き部屋で東電女性社員の遺体が見つかったのは97年3月。4日後、入管難民法違反(不法残留)容疑でマイナリ受刑者が逮捕された。女性社員の首を絞めて窒息死させ、約4万円を奪ったとして強盗殺人容疑で再逮捕されたのは約2カ月後。別件逮捕との批判もあった。
結局、犯行に結びつく直接の証拠はなく、マイナリ受刑者は一貫して無実を主張。検察側が積み重ねた状況証拠をどう評価するかが裁判の争点となった。
根拠とされたのは「被害者と面識がある」「現場の室内に残された体毛やトイレで見つかった避妊具の体液のDNA型が一致」「現場の部屋の鍵を持っていた」「金に困っていた」などである。
2000年4月の東京地裁判決は無罪を言い渡した。複数の体毛が見つかっていたことなどを「解明できない疑問点」と指摘。「第三者が犯行時、現場にいた可能性も否定できない」とした。
正反対の結論を導いたのが同じ年の暮れに出された東京高裁判決だった。「未解明な点はあるが、だからといって被告の犯人性が疑われるということにはならない」と断じ、無期懲役とした。
03年10月に最高裁が上告を棄却して刑が確定した。マイナリ受刑者は05年3月、東京高裁に再審請求したが現在も服役中だ。
同じ状況証拠で裁判官の解釈が分かれたこと自体、事件の難しさを物語っているともいえる。
今回の鑑定は再審請求審の中で弁護団が高裁に要請し、東京高検が専門家に依頼したという。
物証が乏しければ、遺体から採取された体液は有力な証拠のはずである。なぜ捜査段階でDNA鑑定が行われなかったのか。首をかしげざるを得ない。
警察のDNA鑑定の精度が飛躍的に高まったのは03年。体液が微量で当時は技術的に限界があったとしても、あらためて捜査の在り方が問われよう。
再審開始については「確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば足りる」とする75年の最高裁決定がある。これに照らせば今回のケースは十分値するはずだ。
新たなDNA鑑定により09年に再審が開始され、無罪が確定した足利事件のケースもある。過ちを繰り返さないためにも再審の場で真実を突き止めてもらいたい。
☆ 11年7月23日配信『信濃毎日新聞』-「社説」=東電社員殺害 再審開始をためらうな
1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で、新たな事実が明らかになった。
被害者の体内に残っていた精液を鑑定したところ、無期懲役で服役しているネパール人受刑者とは別の男性のDNA型が検出された。殺害現場に落ちていた体毛の1本と一致する。
この事件の裁判では、二審の東京高裁判決が確定している。
判決は、受刑者以外の人間は現場に入った可能性がないとの考え方に立つ。だが今回の鑑定結果は事件のあった日に、被害者が現場で別の人物と接触したことをうかがわせるものだ。判決の組み立てにほころびが生じている。
受刑者は一貫して無実を訴えてきた。6年前から東京高裁に再審を請求している。
新たな証拠を踏まえて、審理をやりなおす必要がある。高裁は再審開始に向けた手続きを、速やかに進めるべきだ。
事件は、都内のアパートの空き部屋で遺体が見つかり、数日後、被害者と顔見知りの受刑者が逮捕された。
現場に残された別の体毛のDNA型などが受刑者と一致したものの犯行を示す直接の証拠はない。裁判は、状況証拠をどうとらえるかで結論が180度変わった。一審が無罪、二審は逆転有罪となったゆえんである。
足利事件、布川事件と、再審で無罪が確定する冤罪(えんざい)事件が続いている。元厚生労働省局長が無罪となった事件では、地検特捜部が証拠を改ざんしていた。
むりやりうその自白に追い込む密室での取り調べ、自分たちに不利な証拠を隠す検察、長期の勾留を安易に認める裁判官…。刑事司法の問題点が、うきぼりになりつつある。
東電社員殺害事件をめぐっては当時からさまざまな批判が出ていた。捜査の手法や公判の進め方を省みる必要がある。
物証が乏しいなか、検察は長期間にわたり被告の身柄を拘束して取り調べを続けた。一審の無罪判決後、本来自由の身となるべき被告を、高裁は職権で拘置。これを最高裁も追認した。
そもそも、なぜ事件当時、鑑定が行われなかったのか。証拠の扱いはどうなっていたのか。検察側は説明する責任がある。
これまで再審の扉は重かった。決定までに時間がかかり、冤罪の被害者の苦しみを長引かせたことを、裁判所は重く受けとめてほしい。「疑わしきは被告人の利益に」が、原則である。
☆ 11年7月23日配信『神戸新聞』-「社説」=東電女性殺害/再審開始を促す新事実だ
東京電力の女性社員殺害事件で、強盗殺人罪が確定した受刑者以外に真犯人がいる可能性を示す新事実が分かった。
被害者の体に残されていた精液のDNA鑑定の結果、精液は受刑者のものではなく、DNA型が殺害現場に残されていた体毛のうちの1本とも一致した。
つまり、殺害現場に受刑者以外の男性がいたということだ。
「被害者が第三者と現場の部屋にいたことは考えがたい」と認定した確定判決と矛盾する鑑定結果といえる。
鑑定は、受刑者が求めた再審請求審で東京高検が実施した。真犯人が別にいる可能性が示された以上、「再審」開始へ速やかに踏み切るべきである。
一流企業に勤める女性が夜の顔を持っていたことが知れ、事件はセンセーショナルな話題になった。
女性は1997年3月、東京都内のアパートの空き室で首を絞められた状態で発見された。隣のビルに住み、空き室の鍵を持っていたネパール国籍の男性が逮捕され、強盗殺人罪で起訴された。
東京地裁は、部屋は無施錠だった可能性が否定できず、室内から別人の体毛も見つかっていることから、第三者の犯行が否定できないとし、無罪とした。
東京高裁は、受刑者が女性と性的関係を持った後に殺害し、現金を奪ったと認め、無期懲役を言い渡した。部屋のトイレにあったコンドーム内の精液と室内で採取された体毛のDNA型が、被告の型と一致したことを根拠にした。
2003年10月、最高裁が受刑者の上告を棄却し、刑が確定した。
今回のDNA鑑定と判決の経緯を振り返って、捜査と審理は尽くされたのかという疑問が湧いてくる。
都合のいい証拠だけをつなぎ合わせ犯人像をつくりあげていなかったか。
物的証拠が乏しいとされた中で、受刑者との結びつきを疑わせる要素は確かに少なくない。だが、被害者に残されていた精液の血液型が受刑者のものと異なることを、検察側は把握していた。
微量で当時の技術ではDNA鑑定が困難だったとしても、犯行に結びつく最有力の証拠である。もっと慎重に吟味する姿勢が、法廷にも必要だった。
鑑定で真犯人を疑わせる人物が1人増えたことは、誤判の可能性を示唆したものともいえる。
再審で冤罪(えんざい)が確定した足利事件以降、捜査と裁判に批判が高まっている。警察・刑事司法全体が、鑑定結果を重く受け止めねばならない。
☆ 11年7月27日配信『山陽新聞』-「社説」=東電OL殺害 再審開始につながるか
1997年に起きた東京電力女性社員殺害事件で、被害者の体から採取された体液から、無期懲役が確定したネパール人受刑者とは違う男性のDNA型が検出された。事件当日、第三者が被害者と接触した可能性を示唆する新事実である。
受刑者は、東京都内のアパートの空き部屋で女性社員を殺害したなどとして強盗殺人容疑で逮捕、起訴されたが、捜査段階から一貫して否認していた。犯行に結びつく直接証拠はなく、状況証拠の評価が裁判の焦点となっていた。
一審の東京地裁は部屋で複数の体毛が見つかっていることから受刑者以外の男性がいた可能生を指摘し、無罪としたが、東京高裁は逆に第三者が部屋に入ったとは考えにくいとして無期懲役を言い渡した。2003年に最高裁で刑が確定した。
今回のDNAの鑑定結果は、二審の事実認定に大きく疑問を投げかけるものだ。最高裁は75年、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば再審を開始すべきとの指針を示している。受刑者が05年から求めている再審開始が認められる公算が出てきたといえる。
DNA鑑定は弁護側が「最新の技術で鑑定を」とあらためて要請し、実現した。容疑者につながる重要な証拠だけに、なぜもっと早く行われなかったのか疑問が残る。検察は体液が微量で、事件当時は技術的に鑑定できなかったとしているが、捜査や公判での証拠調べに問題がなかったか検証してもらいたい。
検察は今、大阪地検特捜部による証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件などで失墜した信頼を取り戻す途上でもある。今回の鑑定結果は無罪を完全に証明するものではないが、少しでも疑いが生じた以上、再審の場で真相を究明するべきであろう。
☆ 11年7月29日配信『愛媛新聞』-「社説」=東電OL殺害事件 再審開始をちゅうちょするな
14年前の東京電力OL殺害事件で無期懲役が確定しているネパール人の元飲食店従業員ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者の再審請求審で、新たな証拠が出た。
被害女性から採取された精液の鑑定で、マイナリ受刑者とは別の男性のDNA型が検出され、殺害現場に残された体毛3本もこの男性のものと判明。現場に第三者がいた可能性が極めて濃厚となった。
弁護団が求めているように、東京高裁は速やかに再審開始を決定すべきだ。
この裁判では、直接証拠がなく被告が一貫して無罪を主張する中、「状況証拠の評価」をめぐって一審と二審で正反対の判決が出ていた。
「立証不十分」として無罪を言い渡した一審に対し、東京高裁は第三者の存在を否定した上で有罪とした。
新証拠は、この確定判決の認定を覆す内容だ。
再審開始基準としては1975年、最高裁が「確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば足りる」とした決定(白鳥決定)がある。別人のDNA検出は、まぎれもなく「合理的な疑い」だ。
弁護側はまた、マイナリ受刑者の体液が「古く、犯行時に残したと認められない」とする専門家の鑑定書も提出した。司法は、これらの新証拠に真摯(しんし)に向き合うべきだ。
一方、新しい鑑定のいずれもが状況証拠の域を出てはいない。誰のものか分からない体毛や被害者の財布など多数の遺留品も、犯人を特定する直接証拠とはなり得ない。
だ当時に比べて鑑定の技術は進み、証拠能力は格段に上がっている。再審無罪となった足利事件や布川事件も新たなDNA鑑定がきっかけとなった。古い証拠に基づいた裁判自体のやり直しを、ちゅうちょしてはなるまい。
事件はまた、特異性から日本中の注目を集め、法廷の外でも大きな波紋を広げた。
被害女性の私生活についての過熱報道は、プライバシーをめぐるメディアのあり方が問われた。被告が不法残留のネパール人であったことが、事件の本質から離れた憶測と偏見を生んだ。
マイナリ被告は一審の無罪判決後も釈放されず、入管施設に収容。検察側が再三拘置を要請するなど、外国人被告の扱いにも課題を残した。
事件に関する著書があるノンフィクション作家の佐野真一さんは、「不法就労のネパール人に対する抜きがたい差別意識」を指摘。事件は、在日外国人が置かれた実情までもあぶり出したのだ。
むろん、司法は刑罰を恣意(しい)的に適用してはならない。刑事訴訟の原則「疑わしきは被告の利益に」は、外国人を含め過去の「疑わしい」受刑者にも適用すべきだ。再審は、その重要な場となる。
☆ 11年7月24日配信『琉球新報』-「社説」=東電OL殺害 再審開始の決断求める
東京電力の女性社員殺害事件で、新たな事実が判明した。
無期懲役が確定したネパール人受刑者の再審請求審で行ったDNA鑑定の結果、受刑者と別人のDNA型が遺留物から検出された。
この事件は1997年3月19日、東京都渋谷区のアパートで東電の女性社員の遺体が見つかり、4日後、顔見知りのネパール人が逮捕された。
一審は無罪判決だったが、二審の東京高裁は現場に残された体毛のDNA型や血液型が受刑者と一致した点などの状況証拠を重視して、逆転有罪とした。
今回の鑑定で、被害者の体内から採取した体液から別の男性のDNA型が検出され、現場に残された別の体毛と一致した。この結果は第三者の存在を示唆している。受刑者以外の人間が現場にいた可能性を排除した高裁判決と矛盾している。
一度確定した裁判をやり直す再審には「無罪にすべき明らかな証拠」の存在が要件となる。
最高裁は75年の「白鳥決定」で「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の原則を再審請求審にも適用すべきだという判断を示し、柔軟に運用することで再審のハードルを下げた。
新たなDNA鑑定による再審決定の事例として、2009年に開始が決まり昨年再審無罪が確定した足利事件がある。捜査段階の鑑定の精度の低さと、取り調べ段階の自白の誘導が問題になった。
今回の東電OL殺人事件の場合、女性の体に残っていたDNAを鑑定していなかった。大いに疑問だ。
受刑者を犯人とする直接的な証拠はなく、状況証拠を積み重ねて立証する手法は、果たして妥当だったのか。逮捕当時から冤罪(えんざい)を疑う声が上がっていた。
確定判決と矛盾する新たな事実が明らかになった以上、検察は保存している証拠を弁護側に開示するとともに、国民の疑念を払拭(ふっしょく)すべく捜査をやり直すのが筋だ。
その際、客観的証拠の収集と科学的捜査を一層重視しなければならない。証拠の再検証と、被害者のショルダーバッグや現場から離れた場所で見つかった定期入れについても鑑定すべきではないか。
事件から14年。受刑者は一貫して無罪を主張してきた。真相解明のため、東京高裁に今回の鑑定結果を証拠として採用し、再審の道を開く決断を求めたい。
☆ 11年8月21日配信『毎日新聞』-「反射鏡」=東電社員殺害事件とDNA鑑定の「光と影」=論説委員・伊藤正志
またもDNA鑑定が人生を大きく変えようとしている。
97年に起きた東京電力女性社員殺害事件のことだ。被害女性(当時39歳)の体内から採取された精液のDNA型が、無期懲役が確定したネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者とは別人のものと判明した。
さらに、遺体近くなどにあった体毛のDNA型も、この別人と一致した。
被害女性は日常的に複数の男性と性関係を持っていたとされる。ポイントは、精液だけでなく体毛が現場に残されていた点だろう。殺害される前に現場で性交した可能性を示すからだ。
現場の部屋の鍵を持っていたマイナリ受刑者は、被害者と性関係を持った後に殺害し現金を奪ったとして有罪になった。だが、新事実によって「被害者が他の第三者と現場にいたとは考えがたい」とした確定判決の認定は、大きく揺らいだ。
マイナリ受刑者は再審請求中だ。「新証拠によって事実認定に合理的な疑いを生じさせれば足りる」というのが、再審開始の基準だ。もちろん、最終的な有罪・無罪は証拠の総合評価で決まるが、まずは再審の一歩を踏み出すべきだろう。
仮に再審が開始され無罪になれば、DNA鑑定はマイナリ受刑者を救う「決め手」となったと評価できよう。
だが、マイナリ受刑者を塀の中に突き落としたのもまたDNA鑑定だった。殺害現場の部屋のトイレで見つかったコンドーム内の精液のDNA型などが、マイナリ受刑者と一致したことが有罪の根拠となったからだ。
冒頭で「またも」と書いたのは、足利事件の菅家利和さんを思い出したからである。
90年に栃木県足利市で4歳女児が殺害された事件で、菅家さんは冤罪(えんざい)に追い込まれた。誘導による「自白」もあったが、女児の下着から検出されたDNA型が、菅家さんと一致したとされたことも大きな理由だった。
だが、当時の鑑定技術ではその型の出現頻度は1000人に1・2人で、足利市内の成人男性だけで100人が該当した。
結局、DNA鑑定技術の進歩を踏まえた再鑑定の結果、菅家さんの冤罪は証明された。菅家さんを絶望のふちに立たせたDNA鑑定は、雪冤の「決め手」にもなったのだ。
米国でも近年、DNA鑑定の進歩により刑事事件で潔白が証明される人が相次いでいる。成城大の指宿信教授は、「無実を探せ!イノセンス・プロジェクト」(現代人文社刊)の中で、09年6月末時点で240人という数字を挙げている。うち17人が死刑囚というのも驚きだ。
警察庁によると、最新の検査法によるDNA鑑定では、約4兆7000億人に1人の確率で個人識別が可能だという。まさに犯罪捜査の切り札、時に冤罪を晴らす手段として最新のDNA鑑定は「光」を放つ。
だが、目をこらせば、その裏に暗い「影」がある。それは最先端の科学を扱う側の問題だ。
東電女性社員殺害事件に話を戻す。警察はトイレのコンドームのDNA鑑定をする一方で、なぜ被害者体内に残った精液のDNA鑑定を当初しなかったのか。「微量で当時の技術ではできなかった」と説明される。だが、鑑定しようとしたのかさえ判然とせず、恣意(しい)的な判断があったのではとの疑問が残る。
また、被害者のショルダーバッグの取っ手からマイナリ受刑者と同じ血液型B型の付着物が検出され、検察は有罪の根拠の一つとしている。ならばDNA鑑定で白黒をつけるべきだが、過去の鑑定で付着物を使い切ったためできないという。
事実ならば、ご都合主義的な鑑定の運用に危うさを感じる。
裁判官出身の森炎弁護士が「なぜ日本人は世界の中で死刑を是とするのか」(幻冬舎新書)で、さらに端的に指摘する。
森弁護士は、DNA鑑定の画期的な発展を前提に、捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)も新たな局面に入ったとして、こう書く。
「全く無関係な者を犯人に仕立て上げることなど、いとも簡単にできるようになってしまいました。提出を受けた検体をほんの少し、被害者の持ち物に付着しさえすれば、それだけで鉄壁の証拠が作り出されてしまいます。(略)完全犯罪ならぬ完全冤罪がインスタントで作り出せるということです」
ミステリー小説のようだが、背筋が凍る仮説である。
現在、DNA鑑定は指針策定を含め警察に運用が任されている。試料の管理に警察以外の第三者を介在させ、方法についても明確なルール作りが必要だ。
☆ 11年9月27日配信『宮崎日日新聞』-「社説」=東電女性社員殺害
証拠隠しの疑念を拭えない
1997年の東京電力女性社員殺害事件で無期懲役となったネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者の再審請求審が大詰めを迎えている。
被害女性の遺体から採取された精液の鑑定で受刑者とは別人のDNA型が検出され、殺害現場のアパートの空き部屋に落ちていた体毛と一致したことが明らかになったのは2カ月前のことだ。
その後、遺体の胸に付着していた唾液はマイナリ受刑者とは異なる血液型という鑑定結果も出てきた。いずれも、11年前の確定判決で東京高裁が「被害女性がマイナリ受刑者以外の第三者と部屋に入ったとは考えがたい」と結論づけた際には、なかった証拠だ。
■新たな証拠が次々と■
検察側は「犯人性は揺るがない」と反論。問題の唾液も含め、これまで開示していなかった40点以上の物証のDNA鑑定を求めた。これから弁護側も同意したその一部の鑑定が行われ、東京高裁がそれぞれについて、無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」に当たるか検討した上で、裁判をやり直すべきか判断する。
その行方は予断を許さない。だが、なぜ事件から14年、再審請求から6年が過ぎて新たな証拠が次々出てくるのか。
精液は微量で、事件当時の技術では鑑定できなかった。これは仕方ないとしても、唾液の鑑定結果は当初からあった。証拠隠しはなかったか。疑念を拭えない。
この事件では、犯行とを直接結びつける証拠はない。殺害現場の空き部屋のトイレに捨てられたコンドームの中にあった精液のDNA型が受刑者と一致、有力な証拠とされた。しかし捨てられた時期をめぐって争いがあり、一審無罪判決は「事件当日のものと断定できない」と判断した。
■空き部屋の鍵を所持■
これについて逆転有罪とした確定判決は「事件当日のものとしても矛盾しない」としたほか(1)事件前に捨てたとの被告(受刑者)の供述は信用できない(2)事件前後に空き部屋の鍵は被告が所持していた―などと理由を挙げた。
そして、被害女性が第三者と部屋に入ったとは考えがたい―と続く。ところが遺体から採取された精液のDNA鑑定で、被害女性がその部屋で第三者と関係を持った可能性が出てきた。唾液の血液型の鑑定結果も、同じ可能性を示している。
問題は、被害女性が第三者といつ接触したか。犯行時間帯か、それ以前か分からなければ、この第三者が犯人かどうかを見極めることはできない。
ほかに被害女性の首からの微物採取に使われ、犯人の皮膚片などが付着している可能性があるテープも新たに開示され、鑑定が行われる。
それらを基に裁判所が旧証拠と照らし合わせるなどして、どのような判断を下すか、見守るしかない。
「東電OL殺人事件」再審判決に関する会長声明
本日、東京高等裁判所第4刑事部は、「東電OL殺人事件」について、ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏に対し、確定第一審の無罪判決に対する検察官の控訴を棄却する判決を言い渡した。
ゴビンダ氏は、1997年(平成9年)3月23日に全く別件である出入国管理及び難民認定法違反の容疑で逮捕されて以降、一貫して無実を主張してきたが、誤った有罪判決の確定によって強盗殺人犯の汚名を着せられた上、2012年(平成24年)6月に刑の執行停止決定を受けて帰国するまでの15年以上の長きにわたり、祖国ネパールにいる家族と引き離され、自由を奪われてきた。
当連合会は、ゴビンダ氏やその御家族のこれまでの労苦を心からねぎらうとともに、ゴビンダ氏を支えてこられた支援者の方々や弁護団の活動に対して深甚なる敬意を表するものである。
本日の判決は、確定第一審の無罪判決が多岐にわたってゴビンダ氏の犯人性に疑問を提示した点を正当として是認した。さらに、再審開始決定後に新たに実施されたDNA型鑑定の結果をも踏まえて、ゴビンダ氏以外の第三者が犯行に及んだ疑いが濃厚であることを指摘し、ゴビンダ氏が無実であることを明らかにした。
他方、検察官は、再審公判の段階になって無罪の意見を述べるに至った。しかし、それは新たなDNA型鑑定によって、もはや有罪主張を維持できないことが誰の目にも明らかになったからに過ぎず、それまで不合理な有罪主張に固執し続けてきた検察官の対応を考えると、余りにも遅きに失するものと言わざるを得ない。
そもそも、本来であれば、2000年(平成12年)4月14日に第一審の東京地方裁判所が無罪判決を言い渡した時点で、ゴビンダ氏は刑事手続から解放されるべきであったのであり、無罪判決に対する検察官上訴や無罪判決後の再勾留など、我が国の刑事司法制度が抱える問題点も浮き彫りとなった。
本件においては、再審請求後に新たに実施されたDNA型鑑定が、ゴビンダ氏の無実を明らかにするための有力な手段となった。従って、えん罪防止及び無辜の救済を図るためには、弁護側が捜査機関の保管する鑑定資料についてDNA型鑑定を実施できるようにするための制度的な保障が不可欠である。そして、その前提として、捜査機関が収集した鑑定資料を後日、鑑定が実施できるような状態で適正に保管する制度の法制化が必要であるし、これらの鑑定資料の開示を含めた全面的証拠開示制度の実現は喫緊の課題と言える。
そして、当連合会がかねてから提唱している、えん罪原因を究明し、えん罪根絶のための刑事司法の改革を目指す、警察、検察及び裁判所から独立した第三者機関を設置する必要性が一層高まっているといえる。
当連合会は、本判決を契機として、今後とも再審支援活動を一層強化するとともに、えん罪防止のための制度改革の実現に向けて全力を尽くす所存である。
2012年(平成24年)11月7日
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司
「東電OL殺人事件」再審開始に関する会長談話
本日、東京高等裁判所第5刑事部は、「東電OL殺人事件」に関する再審請求事件(請求人:ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏)について、本年6月7日に東京高等裁判所第4刑事部が行った再審開始決定を維持し、検察官の異議申立てを棄却した。
本件は、1997年(平成9年)3月8日の深夜、東京都渋谷区にあるアパートの一室において女性が殺害され、現金が強取されたという事件である。
原審は、再審請求後に新たに実施されたDNA型鑑定の結果を踏まえて、ゴビンダ氏以外の第三者が現場に入って被害者と性交し、その後、犯行に及んだ可能性があることを指摘した上で、新旧全証拠を総合評価した結果、ゴビンダ氏を犯人と断定するには合理的な疑いが残ると判断していた。
本日の決定は、上記のDNA型鑑定の結果に対する評価や新旧全証拠の総合評価に関する原審の判断を踏襲し、再審開始決定を支持した。これは健全な社会常識に合致した当然の判断といえるが、原審の決定からわずか2か月弱で下されたものであり、ゴビンダ氏の速やかな名誉回復及び被害救済を図ろうとしている点で評価できる。
他方、検察官は、原審において第三者による犯行の可能性を示すDNA型鑑定の結果が明らかになった後も、新たなDNA型鑑定の実施に固執するなど、根拠のない探索的な立証を行おうとしていた。このような検察官の態度は、「あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢となってはならない。」と定める「検察の理念」にも反するものであって、極めて遺憾である。
当連合会は、既に本年6月7日付けの会長声明において、検察官に対し、再審開始決定に対し異議申立てを行わないよう求めるとともに、証拠リストの交付など全面的証拠開示制度の実現を喫緊の課題として全力で取り組む旨を表明したところである。本日の決定についても、これを尊重して特別抗告を断念するとともに、本件を速やかに再審公判に移行させるよう求める。
また、当連合会は、今後もゴビンダ氏が再審無罪判決を勝ち取るまで支援を続ける所存である。
2012年(平成24年)7月31日
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司
「東電OL殺人事件」再審開始決定に関する会長声明
本日、東京高等裁判所第4刑事部は、「東電OL殺人事件」に関する再審請求事件(請求人:ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏)について、再審を開始するとともに、刑の執行を停止する旨の決定をした。
本件は、1997年(平成9年)3月8日の深夜、東京都渋谷区にあるアパートの一室において女性が殺害され、現金が強取されたという事件である。ゴビンダ氏は、同年3月23日に全く別件である出入国管理及び難民認定法違反の容疑で逮捕されて以降、現在に至るまで本件への関与を一貫して否認し続けている。
第一審判決は、ゴビンダ氏が現場に入ったのは別の機会であるとのゴビンダ氏の弁解を排斥できないとした上で、現場に残されていた陰毛にはゴビンダ氏や被害者以外の第三者のものも含まれており、犯行時に当該第三者が現場に存在した可能性も払拭できないとして、ゴビンダ氏に対して無罪判決を言い渡した。しかし、控訴審判決は、ゴビンダ氏以外の第三者が現場に入ることはおよそ考え難く、ゴビンダ氏の弁解も信用できないなどとして、ゴビンダ氏に対して無期懲役の有罪判決を言い渡した。そして、最高裁判所も上告を棄却し、控訴審判決が確定した。
その後、ゴビンダ氏は、2005年(平成17年)3月24日、東京高等裁判所に再審請求の申立てを行い、当連合会もこれを支援してきた。
本日の再審開始決定は、被害者の体内に残されていた精液や現場に遺留されていた陰毛等について実施されたDNA型鑑定の結果に基づき、ゴビンダ氏以外の第三者が現場に入って被害者と性交し、その後、犯行に及んだ可能性があり、ゴビンダ氏を犯人と断定するには合理的な疑いが残ると判断したものである。これは、再審請求の申立てがなされた後に、検察官から上記の精液や陰毛等の証拠物の存在が明らかにされ、裁判所の要求を受けて検察官がDNA型鑑定を実施したことによって新たに判明したものである。
このように、裁判所は、検察官に対して証拠開示を求めるとともに、科学技術を利用して真相究明に努め、その結果を踏まえて確定判決の誤りを是正し、再審開始を決定したものであって、このような裁判所の姿勢は評価できる。他方、検察官は、裁判所からの要求がなされるまでは、弁護団の証拠開示請求に対して拒絶する対応に終始していたが、ようやく検察官から開示された証拠の中にはゴビンダ氏以外の第三者の関与を強く推認させる証拠が存在するなど、検察官による証拠の不開示が冤罪を生み出した原因であることが明らかになった。このような検察官の対応は誠に遺憾である。
当連合会は、検察官に対し、執行停止決定に従って直ちにゴビンダ氏を釈放し、かつ今回の再審開始決定に対し異議申立てを行わないよう求めるものである。
また、当連合会は、かねてより、全面的証拠開示制度の実現を求め、冤罪を防止するためには必須のものであるとの意見を述べてきたが、本日の再審開始決定を契機として、証拠リストの交付など全面的証拠開示制度の実現を喫緊の課題として全力で取り組む所存である。
2012年(平成24年)6月7日
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司
東京高裁;東電OL殺人事件再審判決要旨(2012年11月7日)
【主文】
控訴を棄却する。
【理由】
〈1審判決の要旨〉
起訴事実は、「被告は1997年3月8日深夜頃、東京都渋谷区円山町のアパートの部屋で、女性(当時39歳)の首を圧迫して殺害し、現金約4万円を奪った」というものである。
検察官は、部屋のトイレから見つかったコンドーム内の精液のDNA型が被告と一致すること、被害者の右肩付近に遺留された体毛が被告のDNA型と一致すること、部屋の鍵は被告が保管し、出入りできたのは被告だけだったこと――などの事実を総合すると、被告が犯人だと主張する。
被告は「最後に被害者に会ったのは2月25日から3月1日か2日の間だった」と弁解した。検察官は、被害者の手帳に、被告が売春の相手になった旨の記載がなく、弁解は信用できないと主張するが、手帳に記載されていないからといって、弁解を虚偽とまでは断定できない。現場からは、被告や被害者以外の体毛も採取されており、被告の体毛が発見されたからといって、直ちに被告が犯人であることを示すものではない。
被告を犯人と認めるには合理的な疑問を差し挟む余地が残されている。
〈当裁判所の判断〉
再審公判で、被告や被害者以外の第三者(X)の体毛のDNAが判明するとともに、これと同じDNAが被害者の体内から検出された精液等に含まれていることが分かった。このことを出発点として、新たな事実関係が明らかになった。
被害者の体内や体表から検出されたDNAは、Xの精液に由来するものと考えられる。被害者の下着から検出されたDNAもXの精液由来とみて矛盾はない。被害者の乳房の周囲からXに由来すると考えられるDNAが検出されているが、これはXの唾液に由来するとみて矛盾はない。
そうすると、Xは被害者の乳房をなめるなどし、被害者と性交したと合理的に推認できる。部屋に遺留された体毛からもXのDNAが検出され、被害者と性交した際に落下した可能性を示すものというべきだ。
被害者のコート左肩の血痕は、被害者のDNA含有物が主成分で、XのDNAも含まれている。被害者は身づくろいを整えコートを着用した状態で、犯人から頭部や顔を殴打されており、血痕は、犯人から暴行を受けた際に付着したものと合理的に推認できる。
被害者の両手の指の爪には、被害者以外のDNA含有物が付着しており、XのDNAと考えて矛盾はなく、右手親指と中指からは明確な形でXのDNAが出た。
被害者が抵抗する過程で、XのDNAが被害者の爪に付着した可能性がある。例えば、Xが被害者の首を手で絞め、被害者が渾身(こんしん)の力でXの手をつかんで引き離そうとした際、爪がXの手に食い込み、Xの体液が爪に付着した可能性などが想定される。
以上を総合すると、再審公判で新たに調べた証拠は〈1〉Xが犯行現場で被害者と性交した〈2〉Xが被害者を殴って出血させ、その手で被害者のコートに触り血液を付着させた〈3〉Xが首を絞めた――可能性を示すものである。これらは、相互に補強し合うことにより、その可能性を高め合っており、Xが犯人である疑いが強いということができる。
再審公判での取り調べの結果、Xが犯人であると強く疑われ、検察官が主張する状況証拠や間接事実の推認力は著しく減殺されたことは明らかだ。
1審の記録と再審公判で取り調べた証拠によれば、被告を犯人とすることには合理的な疑いがあるというべきだ。1審判決に事実の誤認はない。
いわゆる東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされた人物の無罪が明らかになった件に関する質問主意書
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いわゆる東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされた人物の無罪が明らかになった件に関する質問主意書 平成二十四年十月三十一日提出 質問第一五号 提出者 新党大地・真民主 浅野貴博 |
平成二十四年十一月九日受領 答弁第一五号 内閣衆質一八一第一五号 平成二十四年十一月九日 内閣総理大臣 野田佳彦 衆議院議長 横路孝弘 殿 衆議院議員浅野貴博君提出いわゆる東京電力女性社員殺害事件で無期懲役とされた人物の無罪が明らかになった件に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 |
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一九九七年三月、東京都渋谷区で当時東京電力に勤めていた女性社員の遺体が見つかった、いわゆる東京電力女性社員殺害事件(以下、「事件」とする。)で犯人とされ、二〇〇三年に無期懲役が確定していたネパール国籍のゴビンダ・プラサド・マイナリ氏の再審第一回公判が、本年十月二十九日、東京高裁で行われた。検察側は、「被告人以外が犯人である可能性を否定できず、被告人は無罪」との意見を述べている。逮捕から十五年、マイナリ氏が無罪となることはほぼ確定的であると考える。右を踏まえ、質問する。 |
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一 前文で触れたように、逮捕されてから十五年以上もの長きに渡り、マイナリ氏が拘束されたことにつき、政府としてどのような見解を有しているか。 二 再審第一回公判で、久木元伸検事はマイナリ氏が無罪との意見を述べているが、検察庁として、いつ、どのようにして、マイナリ氏が犯人ではなく、無罪であるとの見解を有するに至ったのか、明確に説明されたい。 五 新聞報道によると、再審第一回公判が閉廷した後、東京高検の青沼隆之次席検事が「主張変更は科学技術の進歩で鑑定が可能になったことなどによるもので捜査・公判に特段の問題はなかったと考えている。結果としてマイナリ氏を長期間拘束したことは誠に申し訳なく思っている」とのコメントを出したとのことだが、右は検察庁としての公式見解であるのか。 六 政府、特に検察庁として、マイナリ氏に対し正式に謝罪をする考えはあるか。 九 政府、特に検察庁としてマイナリ氏に謝罪をすることは当然である。しかし、八のマイナリ氏のえん罪を直接生み出した者こそ謝罪をすべきであると考えるが、政府の見解如何。 |
一、二、五、六及び九について お尋ねは、個別具体的な事件における捜査機関の活動内容及び裁判所の判断に関わる事柄であるため、答弁を差し控えたい。 また、お尋ねの「検察庁としての公式見解」の意味が必ずしも明らかではないが、検察当局においては、「検察官が従来の主張を変更したのは、確定審の段階では技術的に困難であった鑑定が、その後の科学技術の進歩によって可能となったことなどによるものであり、また、検察官が殊更に証拠を隠したなどの事実も認められず、その捜査・公判活動に特段の問題はなかったと考えているが、結果として、無罪と認められるゴビンダ・プラサド・マイナリ氏を、犯人として長期間身柄拘束したことについては、誠に申し訳なく思っている。」旨発表したものと承知している。 |
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三 えん罪の定義如何。 四 マイナリ氏の件は、えん罪に該当するか。 |
三及び四について お尋ねの「えん罪」については、法令上の用語ではなく、政府として、「えん罪」の定義について特定の見解を有しておらず、特定の事件が「えん罪」であるか否かについても特定の見解を有しているものではない。 |
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七 政府、特に検察庁として、今回のマイナリ氏のような事例が生じてしまった原因の究明をはじめ、えん罪を招いたことをどのようにして検証し、いつまでに結論を出す考えでいるのか説明されたい。 |
七について お尋ねの「検証」の意味が必ずしも明らかでないが、検察当局においては、御指摘の事件の捜査・公判活動について、既に検討を重ねており、結果として、無罪と認められるマイナリ氏を長期間身柄拘束する事態が生じたことを踏まえ、本件で得られた教訓を、部内に周知するなどして今後の捜査・公判にいかしていくものと承知している。 |
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八 政府として、当時マイナリ氏を逮捕し、取調べをした警察官、起訴した検察官並びに検事総長、東京高検検事長、更にはマイナリ氏に無期懲役の判決を下した裁判官の氏名を明らかにされたい。 右質問する。 |
八について お尋ねの「当時マイナリ氏を逮捕し、取調べをした警察官、起訴した検察官」について、その氏名を明らかにすることは、今後の捜査活動一般に支障をもたらすおそれがあり、答弁を差し控えたい。 また、裁判官の氏名を明らかにすることは、裁判所において判断されるべき事柄であるため、政府として答弁する立場にない。 さらに、お尋ねの「検事総長、東京高検検事長」については、いずれの時点でこれらの官職に就いていた者を指すのか必ずしも明らかでないが、マイナリ氏を起訴した当時の検事総長は土肥孝治、東京高等検察庁検事長は濱邦久である。 |