「愛の不時着」や「梨泰院クラス」、『パラサイト 半地下の家族』などを入口に韓国エンタメにいっそう親しむようになった方は多いだろう。最新作『ベイビー・ブローカー』でソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナといった韓国のトップ俳優たちとタッグを組んだ是枝裕和監督も、「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」からIUことイ・ジウン、「梨泰院クラス」からイ・ジュヨンを起用したと明言している。実は今作には彼らだけでなく、わずかなシーンであっても韓国ドラマや映画でお馴染みの豪華な顔ぶれが多数カメオ出演しており、韓国俳優ファンの間で反響を呼んでいる。
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ブローカーの傍ら、釜山でクリーニング屋を営んでいるソン・ガンホ演じるハ・サンヒョン。その昔馴染みのミル麺店(釜山名物)の息子であり、いまでは危ない連中の下働きをしているテホ役を演じるのは、「梨泰院クラス」で居酒屋「タンバム」の従業員としてパク・セロイ(パク・ソジュン)の右腕となったスングォン役のリュ・ギョンスだ。直接関わるシーンはないが、アン刑事とともにブローカーを追うイ刑事役のイ・ジュヨンが演じた「タンバム」の調理担当マ・ヒョニとのコンビが思い起こされる。
「地獄が呼んでいる」の新真理会ユジ執事役でも強い印象を残したリュ・ギョンスは今作に続き、ファン・ジョンミン主演『人質 韓国トップスター誘拐事件』で誘拐犯グループの1人を演じており、こちらも注目だ。
また、是枝監督が“俳優イ・ジウン”を知るきっかけになり、各所で「ハマった」と語っている「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」。同作でイ・ジウンが演じた自分の命を肯定できない女性ジアンが派遣先で知り合うドンフン(イ・ソンギュン)の弟で、3兄弟の末っ子ギフン役のソン・セビョクが、カン・ドンウォン演じるユン・ドンスが育った児童養護施設の3代目園長として登場している。
演劇界で活躍し、ポン・ジュノ監督『母なる証明』ほか、『花、香る歌』『真犯人』など映画出演を重ねてきたが、ドラマ出演は2018年のこの「マイ・ディア・ミスター」が初めて。ブローカーを追う刑事アン・スジン役のペ・ドゥナ主演『私の少女』で少女を虐待していた義父役といえば、ピンと来る人もいるだろうか。本作では施設で育つ子どもたちのために、うるさく笛を鳴らしてはサッカーでルールを教えようとしている。
「マイ・ディア・ミスター」のギフンといえば、短編映画の監督として以前カンヌ映画祭で受賞したきり鳴かず飛ばずという設定だったが、最終話ではギフンが、是枝監督作品で柳楽優弥がカンヌ主演男優賞を史上最年少で受賞した『誰も知らない』に言及するシーンがある。母親に育児放棄された子どもたちが彼らだけで暮らしていく物語は、もし赤ちゃんポストやベイビー・ボックスが存在していたなら、第三者や公的な介入があったのなら事態はまったく違っていただろう。そんな繋がりを思わせる、ギフンことソン・セビョクの登場。「マイ・ディア・ミスター」は是枝監督にとって特別な作品になったことが、ここからもうかがえる。
児童養護施設の寮母を演じるのは、「愛の不時着」「椿の花咲く頃」をはじめ数多くの作品で知られ、現在公開中の映画『三姉妹』ではそのイメージを覆すような長女役で各映画賞を受賞したキム・ソニョン。Netflixオリジナルシリーズ「静かなる海」ではペ・ドゥナや、ペ・ドゥナ演じるアン刑事の世話焼きな夫役イ・ムセンと共演している。
カン・ドンウォン演じるドンスに対してはいつもの鋭い皮肉屋ではなく、一番の理解者といったところ。だが、イ・ジウンが演じるあまり“母親らしくない”ムン・ソヨンには少々手厳しい。なお、ドンスと共に施設で育ち「希望の星」だとドンスに託す弟分を演じていたのが、イ・ヨンエ主演「調査官ク・ギョンイ」で連続殺人犯Kの協力者ゴヌク(イ・ホンネ)の同性の恋人デホを演じていたパク・ガンソプだったのは個人的には嬉しい。
やがて、ソヨンの罪を知ったアン刑事は早急にブローカーたちを現行犯逮捕するべく、小芝居を打つことになる。不妊治療に詳しいアン刑事の指示どおりに(?)養子を求める“夫婦役”として登場するのが、『エクストリーム・ジョブ』のイ・ドンフィと『はちどり』のキム・セビョクだ。『幼い依頼人』のようなシリアスな作品から『ニューイヤー・ブルース』のような軽妙なロマコメまでこなすイ・ドンフィが、今回はちょっととぼけた役柄で束の間の笑いを誘う。ちなみに彼は、プライベートでは「イカゲーム」で世界的にブレイクしたチョン・ホヨンとの交際でも知られている。
『はちどり』で14歳の主人公が初めて憧れた大人、ヨンジ先生を好演したキム・セビョクも、イ・ドンフィとともにちぐはぐな素人演技を見せているのはかなり貴重。現在、ホン・サンス監督の『それから』『逃げた女』に続いて出演した『あなたの顔の前に』が公開中となっている。
さらに、イ・ジウン演じるソヨンの赤ちゃん、ウソンを養子にしたい人物として、もう1人の女性が登場する。ウソンの父親である男性の妻で、どんな手を使ってでも“夫の子”を手に入れようとする女性を演じているのは、チョ・ヒジン。今年の第75回カンヌ映画祭批評家週間のクロージング作品となった、ペ・ドゥナと『私の少女』チョン・ジュリ監督の新作『Next Sohee』(英題/原題『次のソヒ』)にも出演している。
「静かなる海」ではハン隊長(コン・ユ)の娘の主治医役として登場、「サイコだけど大丈夫」でガンテとサンテの母親、「私の解放日誌」でローン返済窓口担当の銀行員などを演じ、映画『サイボーグでも大丈夫』や『親切なクムジャさん』などに出演してきた名バイプレイヤーだ。
そしてブローカーたちが行き着くソウルで、我が子が死産したばかりであり、違法ながらも「この子を守ります」と最も善意を持ってウソンを引き取ろうとする夫婦の夫を演じたのが、パク・ヘジュン。「マイ・ディア・ミスター」にもドンフン(イ・ソンギュン)の親友で、競争社会の俗世に見切りをつけ突然出家した僧侶役で出演していた。「夫婦の世界」で若いインストラクター(ハン・ソヒ)と不倫し、妊娠させるという役柄で本国で大いに嫌われたという彼が、ソヨンとウソン、さらにアン刑事らにとっても最後の砦のようになるのは心憎いキャスティング。
まだこのほかにも「あれ、この人は!?」という俳優が出演している本作。それを見つけてみるのも韓国を縦断していくロードムービーの楽しみとなるだろう。
『ベイビー・ブローカー』は全国にて公開中。