癒しの決意

* * *

(かえで視点、第一話開始時点)


今日もあたしは、あたし自身の学校が終わったあと、京ちゃんの後をずっとつけていた。

半年前のあの日から、ずっと京ちゃんに謝りたくて、でも合わせる顔がなくて、謝る機会を探そうと京ちゃんを遠くから観察して・・、そんな中途半端な状態が続き、気づけばあたしは京ちゃんのストーカーをするのが日課になっていた。


(今日もまた、謝れずに終わるのかな・・・。)


そんなふうに考えながら、京ちゃんが人気ひとけのない公園に入っていくのが見えたので、あたしは公園の塀にぴったりとくっついて京ちゃんからは姿が見えないようにし、塀のすき間から京ちゃんの様子をうかがった。京ちゃんはブランコに腰掛けている。



「はぁ・・・。俺、なんで生きてんだろう」


京ちゃんのその呟きが聞こえたとき、あたしの体は無意識にビクッとはねた。


(京ちゃんは、あたしのせいで思い詰めてるんだ・・・)



「いま俺が死んでもきっと、もう誰も泣いてはくれる人はいないんだろうな・・・」



(京ちゃん?!まさか、自殺するつもり・・・?!そんなに思い詰めてたんだ・・・)



「俺が死んだら、かえでだけは泣いてくれるかな、あいつ、優しいから・・・」



(違う!あたしは優しくなんてない!中学まで京ちゃんの手伝いとかをやってたのは、京ちゃんが好きだからやってただけ!京ちゃんの両親が亡くなったのはあたしのせいなのに、京ちゃんはそれを知らないから、あたしのことをそんなふうに、優しいだなんて・・・)


(・・・ううん。知らないんじゃない。知らせてないんだ、あたしが。京ちゃんに嫌われるのが、恨まれるのが怖くて、ずっと逃げてたから・・・)


「はぁ・・・」


腰を上げた京ちゃんの、思い詰めたような溜め息が聞こえる。


(でもっ、このまま京ちゃんを行かせたら、二度と会えないかもしれない・・。)


────それでもいいの?


(いいわけがない・・・!)


「京ちゃんっ!どこ行くの?!」


(これから、真実を知った京ちゃんに恨まれることになったとしても構わない。あたしを恨むことが、京ちゃんの生きる理由になるかもしれない。そうなったらあたしは死ぬほどつらいけど、京ちゃんが死んじゃうよりよっぽどいい!)


気がつけばあたしは、意識するより先に体を動かして、公園の塀のかげから飛び出していた。



(絶対に、京ちゃんを死なせたりなんてしない・・・!)












・・・・・・と、思っていたのだけれど。

優しすぎる京ちゃんは、あたしを恨んだりしなかった。

それどころか、あたしのほうが励まされてしまった。


さっきまであたしの頭を撫でてくれていた京ちゃんの表情は思っていたよりもずっと穏やかだった。


(もしかして、あたしの早とちりだった・・・?)


だけど、さっきはあんなことを呟いていたんだ。京ちゃんが思い詰めているというのは間違いないはず。そしてそれはあたしのせいでもあるんだ。

京ちゃんがどう言ったって、あたし自身がそう思ってしまっている。


(京ちゃんがほんとうに自殺なんてしないよう、あたしが京ちゃんを癒してあげなきゃ・・・!)













* * *

(京介視点、第一話終わりの続きから)





(いきなり「お嫁さんにしてください」なんて言うはずがないよな。聞き間違いだろう)


「じゃあ、かえで、もう暗いから、送っていくよ」


「うん、ありがとっ」


(・・・あれ?)


なんだろう、さっきまでかえでは泣いていたはずなのに、今のかえでは、何かを決意したような雰囲気が出てる気が・・・。例えて言うなら、「ふんすっ」って音が聞こえてきそうな感じ。



公園を出て歩き始めたタイミングで。


「京ちゃん、1個いっこだけお願いがあるんだけど、聞いてもらってもいい?」


「うん?なに?」


「京ちゃんのおうちの合鍵が欲しい」


「え?・・それは、ちょっと早いんじゃないか?段階、的なものが」


「でもでも、あたしは今までの人生で、京ちゃんのおうちには数えきれないくらいお邪魔してるし、そんなあたしたちが男女の仲になるんだったら、合鍵くらい持ってるべきじゃない?」


『男女の仲』って・・。普通に『彼氏彼女の関係』って言えばいいと思うんだけど。


「え、そういうものなのか?」


「そういうものだよ」


ここまでキッパリと言い切られると、そうなのかな?という気がしてくるな。


「わかった。じゃあ、明日あたりにでもかえでの家に届けに行くよ、家どうしはそんなに遠くないわけだし」


「・・今日がいい」


「え?」


「今日、欲しい・・。ダメ?」


さっき泣いた後の潤んだ瞳×上目遣い×(囁き声での「欲しい」+「ダメ?(懇願)」)×かえで

=ビッグバン。

俺のライフは一瞬でゼロになった。


「わかった、いいよ。それじゃ、途中で俺の家に合鍵取りに寄ってからかえでを家に送る。ところで、かえで、抱きしめてもいいか?」


「ふぇっ?!・・・あっ、と、・・・きょ、京ちゃんなら、いつでもいいよ・・・?」


また上目遣い。この子、わかっててやってるんじゃないだろうな?



ぎゅ~~~・・。



 ・・・・・・・。



 ・・・・・・・・・・。




「・・・えっと、かえで?」


「・・・もうちょっと、あと1分だけだから」


「・・・おう」




・・・・・・俺から抱き着いておいてなんだが、抱きしめ返してきたかえでのほうが離れたがらなくて困ったのだが。








それからしばらくして、お互い腕がしびれたのでハグは終わりにして、俺の家に寄ってかえでに合鍵を渡してからきっちりかえでを家まで送った。途中で「京ちゃんの家ひさしぶりに入ってもいい?」と聞かれたが、「もう遅い時間だからダメ」と断っておいた。

告白とハグの余韻で気分が高揚している今、かえでを家に入れたら、かえでがこれ以上可愛い行動を取った場合に襲ってしまう可能性があると思い至ったのが断った本当の理由なのだけれど、それは言えないよね、さすがに。

俺の家の玄関前で合鍵を受け取ったかえでがめっちゃ嬉しそうに合鍵を抱きしめてニヤニヤしているのを見て、自分の理性は正しかったと確信した俺だった。

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