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グルタチオンに新型コロナ重症化抑止の可能性 スポーツ整形外科領域の研究グループが報告

強力な抗酸化作用、抗炎症作用をもつグルタチオンと、その前駆体であるN-アセチルシステインが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を抑制できるのではないかとする、ブラジルのスポーツ整形外科領域の研究者を主体とする研究グループによる論文が発表された。グルタチオンとN-アセチルシステインは経口投与した場合、短時間で分解されてしまうため、この研究グループでは、鼻腔への噴霧という投与方法を提案している。

グルタチオンに新型コロナ重症化抑止の可能性 スポーツ整形外科領域の研究グループが報告

COVID-19を重症化させるサイトカインストーム抑制のための戦略

COVID-19重症化のプロセスには、サイトカインストームによる過剰炎症の関与が大きいことが明らかになっており、ステロイド等の抗炎症薬による治療によって、生存退院率が上昇する。一方、グルタミン酸、システイン、グリシンがペプチド結合したトリペプチドであるグルタチオンは、強力な抗酸化作用と抗炎症作用を有しており、その前駆体であるN-アセチルシステイン、グルタミン、シスチン、テアニンなどは、スポーツの負荷による酸化や炎症の抑制目的でのサプリメントとして用いられており、さらに医療においても補助療法として臨床応用されている。

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これらの知見を基に本研究の研究者らは、文献的考察により、COVID-19重症化抑止のためにグルタチオンとN-アセチルシステインが有用ではないかとの論説を展開している。要旨を抜粋して紹介する。

グルタチオンとN-アセチルシステインの生物学的作用

グルタチオンは、グリシン、システイン、グルタミン酸という3つのアミノ酸で構成されており、フリーラジカルを除去し、脂溶性成分を無害化するほかに、アミノ酸の輸送、DNA合成、免疫系の改善などの役割を果たす。またグルタチオンの前駆体であるN-アセチルシステインは、酸化ストレスの負荷のある状態で酸化還元状態を改善する。またN-アセチルシステインは、強力な抗酸化剤および抗炎症剤であることに加えて、粘液溶解剤として機能する可能性を示しており、肺疾患においてその機能性がより強化されることが報告されている。

8件の研究のメタ解析から、慢性気管支炎の治療において、1日あたりN-アセチルシステイン400~1,200mg、1週間に3回の600mgの経口投与の有用性が示されており、急性増悪が23%減少したという。慢性閉塞性肺疾患患者に対するN-アセチルシステインの投与が、症状の改善、ウイルス感染の減少と関連しているとする報告もある。

グルタチオンとN-アセチルシステインは、その多様な作用機序から、さまざまな病態への治療効果が検討されている。N-アセチルシステインはアセトアミノフェン中毒の解毒剤としても知られており、精神医学的、神経学的、感染性、肺疾患の潜在的な治療薬として検討されてきた。

気道感染症に対する作用機序としては、酸化的ダメージからの保護作用が考えられる。ただし、これまでの研究から、グルタチオンは抗酸化作用のみではなく、細胞傷害性リンパ球の増加や酸素化の改善などの関与も示唆されてきている。

投与経路の検討

グルタチオンの経口投与は、呼吸器疾患の治療域レベルまで血漿濃度の上昇をもたらさない可能性があるが、静脈内投与の場合は短期間ながら、肺上皮内層液中のレベルを上昇させることが報告されている。グルタチオン2,000mgの経口および経静脈による頻回投与によって、COVID-19罹患に伴う重度の呼吸器症状を緩和したとの報告がある。経口投与の忍容性は高いとは言え、嘔気/嘔吐、下痢などの軽度の消化管症状が用量依存的に発生し得る。また、経口投与は消化管での分解のため、生物学的利用能が低い可能性がある。

グルタチオンやN-アセチルシステインを呼吸器疾患に用いる場合、生理食塩水等の噴霧を利用したほうが、より有用性が高いのではないか。COVID-19に伴うサイトカインストームから生じる酸化ストレスと炎症の悪化を抑制するには、グルタチオンとN-アセチルシステインの3,000mg/日の鼻腔への噴霧を提案したい。

この代替手段は、患者自身による自宅療養でも行え、パンデミック下のCOVID-19治療環境にも適している。また、携帯型ネブライザーの利用によって、より確実に投与可能となる。少なくとも経口投与に比べて噴霧は、より高い生物学的利用能を達成し得る。加えてこの代替経路は不快感を惹起しないとされている。

放射線肺炎患者に対しN-アセチルシステインの鼻腔噴霧によって、去痰薬の使用頻度が減少すること、COPD患者対象の研究では静菌効果を発揮することなどが報告されている。なお、COVID-19患者対象の研究からは、グルタチオンに対する活性酸素種(ROS)の比率が高いほど、疾患重症度が高く、回復に要する時間が延長するという知見もある。

結論

COVID-19は、2019年末の出現以来、世界に大きな影響を与えてきた。この疾患の最も重要な症状は、サイトカインストームに起因する重度の酸化ストレス、炎症の悪化、および肺胞損傷と考えられる。

グルタチオンとその前駆体であるN-アセチルシステインは、酸化還元平衡へ影響を与えることが確認されている天然抗酸化化合物であり、COVID-19の重症化が内因性グルタチオンの欠乏と強く関連していることが示唆されている。補助療法としてのグルタチオンとN-アセチルシステインの噴霧は、COVID-19の初期段階の管理に有用であると考えられ、より多くの研究が求められる。

文献情報

原題のタイトルは、「Nebulization of glutathione and N-Acetylcysteine as an adjuvant therapy for COVID-19 onset」。〔Adv Redox Res. 2021 Dec;3:100015〕
原文はこちら(Elsevier)

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