マスタースカイ伝説のマスタースカイの小説です。

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マスタースカイさんの一人称は“私”にしましたが、性別は特に決めていないので読む方の想像にお任せします。


マスタースカイ:ライジング

 自分が死ぬ最後に思い出すのは今日のこの瞬間だろう。そう確信ができるほどにテレビのこの映像は自分に衝撃を与えてきた。

 

 ドクンと鼓動が大きく震えた音が聞こえる。痺れて冷たかった手足が熱くなり、内臓は燃え始めて、空っぽだった脳に新しく燃料が詰まっていく感覚がする。身体を巡る血潮がマグマのように熱くなり、身体を支える骨が鉄のように硬くなっていく。炭に火が付き燃えるように、新しく身体が生まれ落ちたような気がした。

 

「……知っているさ。この空は──」

 

 目の前の光景が、風景が、何より空の色が、初めて極彩色に輝いた。

 

 

 

 生まれた時から病を患っていた。医者曰く心臓の病気だそうで、長く生きることは困難だとかなんだとか。物心ついた時にはそんな話を聞かされていたので悲嘆に暮れたり絶望したりすることはなく、そういうものなんだなとただただ受け入れていた。

 

 心臓に負担をかけてはいけないと、生まれた時から言い聞かされてきた。運動はしたことが無く、興奮をしたこともない。籠の中の鳥だってもう少し起伏のある生活をしているのではと思うような平坦な人生を送っている。

 

 だから、というべきか。私には自分の価値というものが分からなかった。両親はどうにか私に生きてほしいと願っているようだが、自分が生き延びるために支払っているコストが見合っているようには思えない。さっさと私なんか見捨てて弟にコストをかけたほうが良いだろうに。とは思っているが、両親の顔を見るとそんな考えを口にはなかなか出せずにいた。

 

 そうしてずるずると生き延びて、義務教育が終わるような年齢になったころに余命宣告というものを受けた。ようやく私の終わりが決まったらしい。胸の中に広がったのは安堵だった。両親に迷惑をこれ以上かけることが無くなるという、重しが取れたような軽やかな気分だった。今なら空でも飛べそうだ。

 

「……コレ、やってみて」

 

 両親と一緒に病室にきた弟が持ってきたのはゲームだった。今まで話には聞いていたけどやったことはまるでない。しかもこの対戦ゲームというものは心臓に負担をかけてしまうものだと聞いていたがいいのだろうか。

 

「これは美しさを競い合うゲームだからいいんだよ」

 

 弟からレクチャーを受けながら、Justice Versus(ジャスティス・バーサス)というゲームをやってみるとかなり面白かった。なるほど、これはゲームを好きだという人が多いわけだと納得した。何より、このゲームは自由だった。

 

 やりたいと思ったことを想像のままに表現できる。現実世界の私では絶対にできない動きをゲームの中のキャラクターは可能にする。さも現実かのような物理法則(エンジン)が、私の夢をかなえてくれる。

 

「これは、とても面白いね」

 

「だろ、そうだろ!? もっとこのゲームやってたいだろ!?」

 

 目を輝かせて喜ぶ弟は、だから、と言葉を続けようとしていたがそれ以上何も続かなかった。

 

 だから、私はにこりと口角を上げた。

 

「次に来るまでに、たくさん練習しておくよ」

 

 だから、その先の言葉は言わなくてもいいんだ。

 

 

 

 ジャスバを練習し始めてから幾日かが過ぎた。どうやら私はこのゲームに適性があったようで、割と上手になっているという自負があった。対戦というよりはお披露目会的な部分で適性があっただけなので、つまりは精密動作がうまいという事が分かっただけなのだが。

 

 ただ、それだけでも驚きの事実だった。自分には何の価値があるのだろうと思い悩んでいたものだが、今ではこのゲームが上手いですと胸を張って言えるようになったのだから。ジャスバは私の価値を保証してくれる。

 

 そして私は今ぜいたくな悩みを抱えていた。

 

「……ハンドルネームに悩んでいる?」

 

「そうなんだ。どんな名前がいいと思う?」

 

 父に相談すると嬉しそうな顔をして何故だと聞いてきた。

 

 弟からゲームを受け取って、そのゲームで使うネット上の名前に悩んでいるという話をするとそうかそうかとうなずいてから質問をしてくる。

 

「お父さんがゲームで名前を付ける時は、好きなものとかに絡めた名前が多かったな。オルカーとかレプカーとか」

 

「好きなものか……」

 

 少し悩んで、病室の窓を見た。そこから見える景色が好きだった。何もすることが無いので、そこの景色の中で自由気ままに動く人型を妄想しては縦横無尽に動き回っていた。そんな人型を頭の中で動かす経験が、ジャスバに活きているのだと思うと、人生何が役に立つかなんてわからないものなんだとしみじみ思う。

 

「空が好きかな」

 

「空ねえ……スカイって文字だと拡張性があるな」

 

 じゃあ、窓の中の景色は私の物だったから。

 

統天(マスタースカイ)にしておこうかな」

 

 この景色の中でなら、私は無敵で自由だったから。

 

 名前が決まってからの私のジャスバ生活は豊かなものになった。考案し、積み上げた技術が賞賛されるようになった。いつかは風化するかもしれないけれど、私の名前が誰かの記憶の中にあるという充足感は良いものだった。

 

 楽しい時間を過ごすことができた。でも、限界があった。私の自由には限度があった。

 

 心臓の調子が徐々に悪くなってきていた。いよいよタイムリミットが近くなってきている予感がする。

 

 ジャスバにも、限界があった。何もかも想像の通りにできると思っていたが、できないことがあった。だから、妥協をしたコンボを世に送り出すことになった。それでも誰かの中に自分を刻むためにはしょうがないことだった。ネット上で、『統天は妥協案』だなんて愚痴をつぶやいてしまったのも自由の限界を知ってしまったからだ。

 

「……話があるの」

 

 母が悲愴な面持ちで口を開いた。父と弟は後ろで無言で立っている。

 

「あなたの、手術を受けようと思うわ」

 

 説明されたのは実験的な手術で病の治療が可能かもしれないという話だった。ただ、割と低い確率で成功するという話だったので自分の意思を確認にきたみたいだった。

 

「……。」

 

 手術費用がもったいないから、やらなくていいよ。と言うつもりで開いた口からは喉が張り付いたように何の言葉も出なかった。

 

 未練を感じていた。ジャスバで妥協してしまったコンボを完成させたい。しかし、どうあっても理想のコンボは完成しないという現実も見えてしまっている。だから、どうせかなうはずのない夢を見続けるくらいなら終わってしまえばいいと思う気持ちもあった。

 

 初めて、自分の意思が分からなくなった。今までは二律背反に悩むなんてしたことが無かった。私は今、生きたいのか死にたいのか。分からなかった。

 

「……手術、受けるよ」

 

 結局、分からなかったので乱数に賭けることにした。生きるようなら生きるし、死ぬなら死ぬのだろう。思考を放棄したといってもいい。自分に決定権の無い決着のつけ方に甘えた。

 

 だから、うれしそうな家族の顔をまっすぐに見ることができなかった。

 

 

 

 どうやら乱数の女神が微笑んだみたいだった。手術は成功したが、完璧に成功したわけでは無くてちょっとした後遺症が残った。手足のしびれだ。どうにも、以前のようにジャスバをプレイできるような状態ではなかった。

 

 心臓の方も延命には成功したが今後も予断を許さないとか何とかで、気の抜けない生活が続くらしい。

 

 家族は喜んでいたが、私は生きてしまったかという落胆が大きかった。終わった方が楽だったかもしれない。そう思った。しかし生きてしまった以上はまただらだらと生きながらえるしかないのだろう。

 

 ジャスバが出来ないまま数か月が過ぎた。リハビリは遅々として進まず、骨に鉛が入っているように身体が重い。近頃はまた自分の価値について悩み始める始末だった。

 

 いわゆる燃え尽き症候群とでもいうのだろうか。あれだけ熱を傾けていたジャスバができなくなり、さらには不完全燃焼のまま終わってしまったことが心に重くのしかかって何を始める気にもなりはしない。

 

 リハビリ兼リフレッシュという事で最近はVRゲームというのもやってはいるがあまりのめり込めてはいないし、そもそもやる気がそんなにない。

 

 最近の流行でも見ようとジャスバに入ったら過疎っているし、もう本当に生き延びた意味は何だったのだろうと自問自答する日々だ。

 

 そんなリハビリの日々を数か月過ごしていると、身体の方もだいぶ快方に向かいつつあるらしく退院をすることになった。通院は続ける必要があるようだが、日常生活を送る分には大きな問題はないと判断されたようだ。

 

 とりあえず自分にかかるコストは低くなるとほっと一息をつきつつも、長いこと過ごした病室から去ることにちょっとした寂しさを覚えた。特に窓から見える風景を今後見ることも無くなるのだろうと思うと、そこを由来としていた統天も自分から零れ落ちて行ってしまいそうな気がして、良くなったはずの心臓がどこかに行ってしまったような感覚がある。

 

「この空が誰のものか知っているか……」

 

 意気揚々と、まだジャスバが無限に自由だと信じ切っていた時の私の言葉だ。

 

 結局、誰のものだったのだろう? 答えは今でもわからない。

 

「まあ、今までもこれからもそう変わるものでもないのだろうし、いつまでも今まで見たいに生きていけば」

 

 本当にそれでいいのだろうか。今の私は、手術前の私のように葛藤することができるだろうか。

 

 燃え残った残骸のような自分では、やっぱり何の回答も出すことはできなかった。

 

 燻ったまま数日が過ぎ去り、いよいよ明日には退院をする。心の整理はいまいちできてはいないけれど時間と共に解決するだろう。ポチっとテレビをつけた。目的があってつけたわけでは無くて、暇つぶしの為につけただけだった。

 

 TVユーガッタというチャンネルでアイドルが司会を務める番組の様だ。ゲームを題材とした番組で格闘ゲームなども扱うらしい。儚い望みだがジャスバが扱われる可能性もあるなと考えてチャンネルはそのままで流し見していく。

 

 番組が進行していくにつれてどうにも雲行きが怪しくなってきた。日本のプロゲーマーが出るのは特に問題はなさそうだが、謎の仮面三人組が出たあたりからなんだかきな臭い。これがワクワクするという感覚かと思いながら番組を見ていると、新しく発売された格闘ゲームで仮面二人が対戦するようだ。

 

 最新作だけあってグラフィックや操作の自由度がジャスバより高い。このゲームなら妥協なくコンボが完走できるかも、と思ったがジャスバ以降に出たゲームでも統天ですら再現ができていないらしいので高望みしすぎだろうと自己肯定に走る。

 

 番組を見ていて思う。顔隠し(ノーフェイス)とかいうプレイヤーは見ていてまぶしい。自信たっぷりに俺が俺がと相手に主義主張をぶつけられる、なんて強いやつなんだと尊敬する。私の想像する自由を上回った動きをするときがある。常に全力でやりたいことをやっている。この姿がつまり、自由という事なのだろうか。

 

「ギャラクシア・ヒーローズ:カオスとか言ったかなこのゲーム。ちょっとやってみたいなあ」

 

 状況はいよいよ大詰めになっている。三体のキャラクターがビルの上に集合し、ラストバトルが始まる予感がある。赤色に発光する半裸の男がゴリラのエイリアンをビルの屋上から押し出した。そのまま二人で落下していき──

 

“この空が誰のものか知っているか!?”

 

「……え?」

 

 テレビから聞こえた音声が目の裏側で爆発した。

 

 そのまま流れるように動き回る赤色発光半裸の動きに目が離せない。見覚えのある動きが画面の中で繰り広げられる。

 

「まさか、いや、まさか」

 

 最後の一撃、足りないはず。

 

「いや、そうか。そのために壁がある場所に連れてきたんだ……!」

 

 心臓が震える。心が燃え上がる。

 

 画面の中で自分が完成まで持っていけなかった技が完成する。

 

「クッ、くぅぅぅ……」

 

 視界がにじむ。鼻の奥がツンとして声が震える。初めての経験だった。恥も外聞も無く奥歯をかみしめて呟いた。

 

「く、悔しいぃぃぃ!」

 

 なんで完成させてんだ! 私のだぞ!

 

「クソックソックソっ……! 知ってるさ、この空は──私のものだ!

 

 だから、絶対に自分の物にしてやると強く胸に誓ったのだ。

 

 

 

 心臓が鼓動を続ける限り、細かい面倒なあれやこれやなんて欠片も考えずに、私は私の空を取り戻さなければならないと胸に秘めて、日々を進んでいくのだ。

 

 まずは手始めにGH:Cとかいうゲームで再現検証をするべきだろう。彼を知り己を知るべきなのだ。

 

「だってこの空は私の物なのだから」

 

 凶星の光が私の空を輝かせた。




当時このストーリーを読んだときに突如として脳裏を走った光景です。久々に原作を読み返したらもう一回よぎったので文章化しました。

多分この後、めちゃくちゃ元気になっていろんなゲームで活躍したりしなかったりするんだと思います。


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