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二周目のサイコパス 作者:ニキ

VRMMOでも二周目なら初見でクソイベ対応出来るよね?

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XK-?:拝啓、ある姉妹の狂人より

 私には妹がいた。

 利口で、賢くて、優秀を具現化した妹がいた。

 姉妹仲は良くもなく悪くもなく。

 後悔してからでは遅いというのに、対話をしてこなかったのは私のツケ。

 彼女が何を好み、何を芯とし、私に対しどう思っていたのか。

 何をしたかったのか、どんな人間だったのか。

 私は知らないし、知らなかった。

 ことここに至ってから、漸く私はそれを認識した。


「……ああ、うん。久しぶり」


「ア……アァ……お姉、ちゃ、ん?」


「……うん……久しぶり、だね」


 よくある話だ。

 友達が殺されてゾンビになった、助けてくれ。

 仲間が死んでゾンビになった、殺してくれ。

 夫が死んでゾンビになった、殺せないから代わりに殺してくれ。

 嫌になるほど嵩んでいく依頼の山を、危険度順に処理していき。

 吐きそうになる仲間の代わりに、幾千もの死体を殺して。

 躊躇い嫌悪し膝を着く、意気地無し共を見下して失望して。


 ただ単純に私の番が来ただけだ。

 何を躊躇う必要がある。

 処理した屍山血河の上に立つ、筆頭。


 私だけは逃げるわけにも、躊躇するわけにも、代わってもらうわけにも行かないのだ。


 そんな資格は私に無い。


 幾多の仇を代行した、幾千の怨嗟を踏み躙った、私には。


「……は、はは、あっははははははははは!!!」


 ハルバードを振るった。

 笑いながら泣きながら。

 肉親へと、私が何も知らない妹へと。

 対して関心が無かったクセして一丁前に哀しみながら。

 トップレベルの危険度として私に回ってきた依頼のターゲット。

 武器を砕き、体を裂き。

 絶叫を無視して、心を潰して。

 バラバラに、粉々に。

 飛び散る血肉を浴びながら彼女の肉体を解体した。

 動けないように。


 エゴだった。

 どうしようもないエゴだった。

 いざ自分の番になって、他人に強要していた無慈悲が出来なかった。


 ステータスは上がらない。

 やがて動きを止める元少女。


 その脳髄を下らない感傷で拾った。


 それが一度目の殺害だ。



 ──────────



「……じゃあ、人として暮らしてみたい」


 休養を言い渡された。

 することが無くて、縋るものも無くて。

 辿り着いたのはスローライフ。

 人間らしい生活をこの狂った世界で求めてみた。


 能天気で馬鹿馬鹿しい願いは許諾される。

 現実を見ていない現実逃避は実行される。


 私の穴は埋めようが無いというのに。

 健気な仲間達はこれまでの実績か、それとも哀れんでいるのか、或いは滑稽な見世物として馬鹿にしているのか。

 反対も否定も何も無く。

 私の世迷いごとは肯定された。


「……はは、ふざけてんの?」


 僻地にて。

 何の脅威も無い秘匿された環境にて。

 家を、ただ娯楽のためだけに建て終わる。

 無意味な時間を過ごした。

 無意義な時間を過ごした。

 外界から隔離された、嘘のような逃避と平穏。

 差が。

 温度差が。

 地獄と災禍と平穏の、私が過ごした環境の噛み合わなさが気を狂わせる。

 ただ息をしているだけで、どんどん私は狂っていく。


「……お姉ちゃん、久しぶり」


 機構RANK Ⅴ、永遠の人形。

 入力したデータを外見から内面まで忠実に再現する、かつてのオーバーテクノロジーが詰め込まれた機械人形。

 脳髄をぶち込み、起動させた。


 私が手に入れていた冒涜的な報酬に。

 果たして応えた遺装は妹を再現する。

 外見も、声も、仕草も。

 きっと知識も、感情も。

 私だけがこの地獄の中、私個人の感傷のためだけに遺装というリソースを悪用する。

 職権乱用甚だしい。

 望んでも叶わない再会を求める依頼者を差し置いて、処刑人がその強さで得た代替品を略奪する。

 醜く狂って歪んで拗らせた、どうしようもなくエゴで出来た慰めだった。


「起・き・ろっ!」


 機械は妹として振る舞った。

 私の記憶にある妹通りの、そして私が見ていなかった妹通りに。

 彼女への解像度が上がっていく。

 知らなかった彼女の思考が、仕草が、哲学が、感想が。

 世界にただ二人、平穏な一般家庭に置いて履修していく。


「ご飯作ったから、食べよ?」


 対話をした。

 会話をした。

 それは私からしたことがない、気付いてしまえば常日頃から彼女にされていたアプローチだった。

 態々寝てる私を起こす必要は無くて。

 態々伝えるでもないことを一々伝えて。

 面倒臭がって対応していた私へと、それは気付く筈もない歩み寄りの努力だった。

 こんな狂った自慰のために、暇潰しのために対話を始めて、漸く機械によって気付いた事実だった。


「ねぇ、私って何時からどうしてお姉ちゃんのこと、お姉ちゃんって呼んでると思う?」


 知らないことを学んだ。

 それは機械の作った私への都合のいい幻想なんかじゃなくて。

 実際にそこにいた。

 極普通の姉妹のようなやりとりを経験した。

 私をイラつかせて、私と笑いあって、私を叱って教えて痛みを突いて非難して。

 私の知らないことばかりの、でも理解するにつれて。

 "ああ、こいつならするだろうなぁ"ということばかりをした。


 希望的観測も

 都合のいい解釈も

 全てを抜きにフラットに思考して。

 過去私にちょっかいをかけた妹は、実際に今ここにある彼女と全く同じだった。

 延長線上に二人が重なって、同一人物でしかなかった。

 解釈が、哲学が、一致していた。


 ──そしてそれは、私には不幸にも解釈違いを起こさせない。


「行ってらっしゃーい」


 頭がおかしくなりそうだった。

 罪悪感か、乖離感か。

 私の求めていた自罰的破滅願望は実を結まず、現実はただ私に優しかった。


 どこか破滅を望んでいた。

 物理的な話をするなら、彼女は鋼の棺桶にゾンビ化した妹の脳髄をぶち込んで記憶を再現している機械でしかない。

 破綻するべき現実だった。

 おぞましく、利己的で、エゴが作り出した再現体、そんなものに救われて幸せになるなど反吐が出る。

 他人の大切な人を殺して、その上で私だけが助かろうなどと。

 名前通りの人形遊びであるべきだった。


 だというのに私は彼女が妹にしか見えなかった。

 機械らしい仕草も、ただ私だけを肯定するような違和感も、何も無い。


 完璧だ。

 ああ、完璧だ。


 地獄のような世界で私だけが享受している、誰もが求める死んだ筈の肉親との生活。


 これが彼女が機械であるように不具合が出たのなら、理想と乖離し、くだらないと思って、絶望し自虐し早く捨てて、立ち直ることが出来たのに。


 ずぶずぶと沼に嵌って、抜け出せないまま、壊れないまま。


 心が疲弊し続け、狂い続けながら、深淵へ沈んでいく。


 日常的に吐き気がする。


「ア、アア、アアアウウルウウガアアアァルラ!!!」


 仕事に復帰した。

 ゾンビを殺して、殺して。

 追い込むように介錯を続ける。

 怨嗟と、怒りと、憎しみと、そして感謝が聞こえた。


 仕事が終われば家に帰る。

 地べたで野宿すればいいものを。

 妹が家で待っているから、私は帰る。

 そうして打って変わって平穏な日常を送って。

 癒されぬまま吐き気を増して、また誰かにとっての何かだった人を介錯に行く。


 そんな日常が続く。


 日常が、続く。


「私はね、お姉ちゃん。あなたと仲良くなって、普通の姉妹になりたかったの。……それを私が憧れていたkaらっ……!?」


 首を絞める。

 両手で掴んで、持ち上げて、押し付けて。

 必死に力を込める。

 力を込められないから、なかったから。

 必死に、必死に。

 涙が流れる程、必死に殺しにかかる。


「ごめんね……ごめんねっ……あんたは、何も悪くないからっ……」


 泣いていた。

 それは私か、妹か。

 許しを乞うた。

 意味がわからないだろうに。

 泣きたいのは彼女だろうに。

 全ては自責だというのに、限界を迎えて殺しに走る。

 きっと愛なんてあげなかったのに。

 自分のことだけ考えて向き合ってこなかったのに。

 無償で干渉しようとしてきていたのに。

 取り合わず、挙句の果てに機械に脳髄を埋め込み再現した贖罪を、殺しにかかる。


 結局、自分のことだけしか考えていない私が。

 私の慰めのために作った機械を私のために壊しにかかる。

 私の思うがままに、私のしたいことをして。

 彼女の尊厳と存在を。

 自分のために犯して壊して踏み躙る。


「……しねよ」


 絞め殺した。

 彼女は抵抗しなかった。

 結局最後の最期まで私は向き合わなくて。

 涙で滲んだ視界に彼女の表情は見えなかった。


 機械的に操作した。


 脳髄を取り出した。


 相棒で彼女を殺した。


 漸くステータスが上がった。


 それが二度目の殺害だ。



 ──────────



 感傷。

 それは私を何時までも苦しめる。

 贖罪か或いは自慰か。

 壊せなかったそれを。

 私は人形を売りに出した。


 燃料が消えただけで、人形は生きている。

 破壊出来なくて、まだきっと誰かになれる。

 それが不幸しか生まなくとも。

 ただ一時の幸せと嘘みたいな逃避は。

 求める人はきっといると。


 きっと不幸しか生まなくても、刹那でも誰かの救いになれと。


 組織のルール上壊すべき代物を、壊せずに譲り渡した。


「……感傷なんてクソだな」


 幾多の持ち主を転々としたそれは、最期に私の元へと帰ってきた。


 仲間が殺した肉親になった。

 勇者共の家族になった。

 非難民共の共有財産になった。

 顔を変え、感情を変え、立場を変え、持ち主を変え。


 終点は"怪物"の傀儡へと。


 終着駅として私へと辿り着く。


「オ̶̨͈͈̖҇̑̌̈́̚、̸̢̙̭̞̄͗̀̿̒͂͡姉̷̪͕̞̓͆́̉̈́͐͜͡t҉̨̱͍͙͉̰̖͕͋̄̂͑̌̎͡ͅy҉̧̽̑͐̓͡ͅͅa҉̡̙̟͎̣҇͆̓͊̑̇͑̉ん̸̨̥̟͎͔̞̃̎̒̿̍͞……」


「………………粛清、開始」


 感情を捨てようと宣う程、私の人生は悪くない。

 悪いのはつい最近で、これまでは楽しくもあり、苦しくもあった。


 ただ、こんな思いをしなければならないのなら。


 私の人生には快しか不要だ。


 ただ私の快楽のためだけに、私の感情はあるべきだ。


 他人への感情移入も、思い出も、自罰も、感傷も、必要無い。



 私が楽しむために世界を生きる。



 そのためだけに、それを最大の理由と目的として生きようと。



 大量殺戮を働いた兵器を前にそう誓った。



 それが三度目の殺害だ。






 きっと四度目はもう来ない。












 ──それが何れ思い出す、私の穴の空いた記憶の一つ。

彼女が憧れたのは、果たして天才だったのか

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